陸上自衛隊は、方面隊、師団等の指揮、統制及び情報伝達のための通信を継続的に確保することを目的として、野外通信システム(以下「システム」という。)を調達し、運用している。システムは、ソフトウェア無線技術により従来の各機能別無線機を統合化した広帯域多目的無線機(以下「無線機」という。)等から構成されている。そして、陸上自衛隊は、システムのうち無線機を平成23年度から順次調達しており、30年度末時点での部隊等における無線機の保有数量は19,357台となっている。無線機には、車両等に搭載して使用するものと、隊員が携帯して使用するもの(以下「携帯無線機」という。)がある。
陸上自衛隊は、無線機等について、量産された装備品等の運用段階における不具合の排除及び改善事項の早期把握のための試験等(以下「確認試験等」という。)を行っている。そして、陸上幕僚監部(以下「陸幕」という。)は、確認試験等において判明した改善事項を基に、無線機等の機能充実や向上を図るために、無線機等に適用するプログラムの改修機能を決定している。陸上自衛隊補給統制本部(以下「補給統制本部」という。)は、陸幕の決定に基づき、プログラム改修用ソフトウェア(以下「ソフトウェア」という。)の製造請負契約3件を日本電気株式会社と、28年3月に契約金額2億7010万余円、29年4月に同5億0004万円、同年7月に同8591万余円、同計8億5606万余円で締結し(以下、28年3月に締結した契約による改修を「27プロ改」、29年4月に締結した契約による改修を「28プロ改」、同年7月に締結した契約による改修を「29プロ改」という。)、27プロ改に係るソフトウェアを29年2月に、28プロ改及び29プロ改に係るソフトウェアを30年3月に陸上自衛隊関東補給処に納入させている。納入されたソフトウェアは、陸幕がプログラム改修の実施が必要な部隊等を配布先として決定した上で、補給統制本部が作成した補給計画に基づき補給処を通じて当該部隊等に配布されたが、配布後、瑕疵等が発覚したため、27プロ改に係るソフトウェアについては30年2月に、28プロ改及び29プロ改に係るソフトウェアについては同年10月から11月までの間に、当該部隊等に再配布されている。
27プロ改及び29プロ改については無線機が、28プロ改については無線機を含むシステム全体が対象となっていて、29プロ改には27プロ改及び28プロ改の対象となった無線機に適用される改修機能が包含されている。そして、27プロ改、28プロ改及び29プロ改の改修機能には、速やかに改善を必要とするものなどが含まれている。無線機等は、プログラム改修を実施しないことにより使用できなくなるわけではないが、プログラム改修を実施しないと機能充実や向上を図るための改修機能が活用されないことになる。また、プログラム改修の内容によって、改修を実施している無線機等と改修を実施していない無線機等が混在すると、通信を行うに当たって機能が制限される場合があり、その場合には、運用上、無線機等への適用時期を統制する必要がある。そして、27プロ改、28プロ改及び29プロ改のうち、28プロ改が上記の機能が制限される場合に該当し、27プロ改以前のバージョンの無線機等と28プロ改以降のバージョンの無線機等が混在すると、通信を行うに当たって一部の機能が制限されるとされている。
携帯無線機を使用するためには、その形状等に合わせた専用の電池が必要である。電池には、使い捨て用の電池と、経費削減の観点から導入された充電器で繰り返し充電して使用できる電池(以下「二次電池」という。)がある。
二次電池は、仕様書において、通常300回程度充電器で繰り返し充電して使用できるとされている。陸幕は、「携帯無線機で使用する二次電池の活用促進について(通達)」(平成26年陸幕通電第24号電)において、二次電池の寿命について5年を目安とするとしている。また、「電池の回収及び処分要領について(通達)」(平成27年陸幕通電第26号電)において、処分に当たって、充電回数300回を目安とするとしている。
二次電池について、陸幕が携帯無線機の保有数量等に基づき方面区等ごとに払出数量を決定した上で、方面総監部等が携帯無線機の保有数量等に基づき、払出先の部隊等及びその部隊等に対する払出数量を決定し、補給処から部隊等に払い出させている。そして、陸幕は、携帯無線機の保有数量等に基づき二次電池の調達数量を算定し、防衛装備庁に対して調達要求している。調達要求を受けた防衛装備庁は、29年度に、二次電池33,800個(契約金額2億7813万余円)の製造請負契約1件を東海理研株式会社と締結し、30年度に陸上自衛隊関東補給処に納入させている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性、効率性、有効性等の観点から、プログラム改修は必要な無線機に対して適時適切に実施され、改修機能が活用されているか、携帯無線機に使用する二次電池の調達数量は、保有数量、使用実績等を考慮するなどして適切に算定されているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、プログラム改修の実施については、27、29両年度に製造請負契約を締結した3件(契約金額計8億5606万余円)を、二次電池の調達については、29年度に製造請負契約を締結した1件、33,800個(同2億7813万余円)を対象として、陸幕、補給統制本部、防衛装備庁及び日本電気株式会社において、契約関係書類等を確認したり、方面総監部、補給処や部隊等が所在する36駐屯地等(注1)において、無線機の管理簿、二次電池の受払簿等を確認したりするなどして会計実地検査を行った。また、部隊等が所在する115駐屯地等(注2)における30年度末時点での無線機19,357台のプログラム改修の実施状況、二次電池の保有状況、使用状況等について、陸幕に調書の作成及び提出を求めるなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
陸幕は、27プロ改については、部隊等に対して補給計画をもって実施を指示したとして、補給計画以外に、別途実施を指示していなかった。また、ソフトウェアを配布した後、30年度末時点で、部隊等における改修の実施状況を確認していなかった。一方、陸幕は、前記のとおり、28プロ改については、27プロ改以前のバージョンの無線機等が混在すると通信を行うに当たって一部の機能が制限されることから、適用時期を統制するために、31年2月に、部隊等に対して、無線機を除くシステム全体については28プロ改、無線機については28プロ改の改修機能を包含した29プロ改の実施を指示していた。また、ソフトウェアを配布した後、30年度末時点で、部隊等における改修の実施状況を確認することにしていた。
そこで、115駐屯地等における無線機19,357台の30年度末時点におけるプログラム改修の実施状況をみたところ、次のとおりであった。
上記19,357台のうち、陸幕がプログラム改修の実施が必要であるとしてソフトウェアの配布を決定した部隊等が保有する数量は、107駐屯地等において18,649台となっていた。しかし、上記18,649台のうち、93駐屯地等の11,775台については、上級部隊等から実施の指示がないなどとして、27プロ改に係るソフトウェアが再配布された30年2月以降の約1年以上、27プロ改が実施されておらず、その改修機能が活用されていなかった。なお、これらの無線機は、30年度末時点で、29プロ改が実施された又は実施される予定であり、それに伴い自動的に27プロ改の改修機能が活用されることになった。
また、陸幕は、前記19,357台のうち、41駐屯地等における、10式戦車等の特定の装備品の通信に使用される無線機(以下「構成無線機」という。)708台については、プログラムの改修機能の決定の根拠とした無線機等の確認試験等では構成無線機が対象外であったとして、構成無線機をプログラム改修の実施の対象と考えなかったことなどから、27プロ改、28プロ改及び29プロ改の対象としていなかった。このため、30年度末時点で、35駐屯地等における構成無線機643台(調達価格相当額計47億6672万余円)については、プログラム改修が実施されていなかった。
しかし、前記のとおり、プログラム改修の改修機能には、速やかに改善を必要とするものなどが含まれていること、27プロ改以前のバージョンの無線機等と28プロ改以降のバージョンの無線機等が混在すると一部の機能が制限されることなどから、全ての無線機について、適用時期を統制してプログラム改修を適時適切に実施する必要があると認められた。
陸幕は、携帯無線機に使用する二次電池の29年度の調達数量について、方面区等ごとに、28年度末における部隊等の携帯無線機の保有数量を基に、携帯無線機1台を72時間持続して運用することを想定して算出した数量(以下「基準数量」という。)に、二次電池が5年で消耗すると仮定して基準数量を一律に5で除した数量を消耗分として加え、方面総監部等から聴取した28年度末の部隊等の二次電池の保有数量を差し引くなどして算定していた。そして、陸幕は、5年で消耗するとした理由について、部隊等が訓練等により1年間に60回充電すると仮定して、300回充電するのに要する年数が5年であるためとしていた。
また、陸幕は、上記の算定に当たり、28年度末における二次電池の保有数量が基準数量と消耗分を合計した数量を上回っている方面区等があったのに、方面区等間の管理換を考慮していなかったり、実際の部隊等の二次電池の使用状況や消耗の程度を把握していなかったりしていた。
そこで、前記115駐屯地等のうち30年度末時点で携帯無線機に使用する二次電池を保有する103駐屯地等において、その保有状況、使用状況等をみたところ、次のとおりであった。
前記のとおり、29年度に調達された二次電池33,800個は、30年度に陸上自衛隊関東補給処に納入されているが、補給処を経由することなどから、各部隊等は、30年度末時点でまだ上記の33,800個の払出しを受けておらず、払出しを受ける時期が令和元年度中となっていた。そして、平成30年度末時点での103駐屯地等における保有数量116,550個のうち、30年度末の携帯無線機の保有数量に基づき算出した基準数量を超えて保有していた二次電池が96駐屯地等において39,287個見受けられた。また、上記の保有数量116,550個のうち、30年度末時点で故障等で廃棄される予定のものは590個、30年度末時点で既に300回に到達していたものは83個、令和元年度末までに300回に到達すると予想されるものは722個程度となっていた。
以上のことを踏まえ、部隊等ごとに、平成30年度末において、基準数量を超えた二次電池を他の基準数量を満たしていない部隊等に管理換することとした上で、部隊等が二次電池の払出しを受ける令和元年度末までに必要となる数量を保有することとして、平成30年度末時点で既に300回に到達していた数量、令和元年度末までに300回に到達すると予想される数量、過去の実績から故障等が発生すると仮定して算出した数量を考慮するなどして、平成29年度分の必要な調達数量を算定したところ、10,555個となり、同年度に調達した二次電池33,800個のうち23,245個(調達価格相当額計2億0745万余円)は上記の必要な調達数量を上回っている状況となっていた。
このように、27プロ改が実施されていなかったり、構成無線機がプログラム改修の対象とされていなかったりして、改修機能が活用されていなかった事態、二次電池の調達数量が適切に算定されていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(節減できた調達価格相当額)
携帯無線機に使用する二次電池について、基準数量を基に、実際の部隊等の二次電池の保有状況、使用状況等を勘案するなどして調達数量を算定していたとすると、29年度に調達した二次電池33,800個に係る契約金額2億7813万余円のうち、23,245個に係る調達価格相当額計2億0745万余円を節減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、陸幕において、次のようなことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、陸幕は、令和元年9月にプログラム改修や二次電池の請求等に関する要領を定めるなどして、プログラム改修及び二次電池の調達数量の算定が適切に実施されるよう、次のような処置を講じた。
ア プログラム改修について、構成無線機も対象とし、全ての無線機について、部隊等に対して実施の指示を明確に行ったり、部隊等における実施状況を確認したりすることとするなどして、プログラム改修を適時適切に実施する態勢を整備した。
イ 二次電池の調達数量の算定について、二次電池の基準数量の考え方とその算出方法を明確に示して、これらを基に部隊等ごとの保有定数を算定することとした。そして、算定した部隊等ごとの保有定数に基づき、必要な管理換を実施することとした上で、部隊等において不用決定等により不足した数量を請求させるとともに、方面総監部等がその数量が適切であるか確認することとして、その妥当性を確認するなどの態勢を整備した。