海上自衛隊は、艦船、航空機等の即応体制の維持に寄与するために、装備品等の整備を的確に実施するとともに、部隊が要求する艦船、航空機用の部品等を必要な時に、必要な場所へ補給することを目的として、補給、艦船造修整備及び航空機造修整備に係るデータを一元的に処理して管理するシステムである海自造修整備補給システム(オープン系)(以下「造整補システム」という。)を構築して運用している。
海上自衛隊補給本部(以下「補給本部」という。)は、造整補システムの各種の業務処理機能を適切に維持管理等するため、毎年度、造整補システムの維持管理等役務契約を富士通株式会社(以下「会社」という。)と締結しており、平成30年度は30年6月に同年7月1日から31年2月28日までを履行期間とする維持管理等役務契約(以下「本件契約」という。)を締結している。そして、会社は費用を削減して作業を効率的に行うため、本件契約に係る作業の一部を下請業者に実施させている。
補給本部では、あらかじめ代金を確定することが契約相手方に不当の利益を生ずるおそれがある場合に準確定契約を締結することとしている。準確定契約には、「代金の中途確定に関する特約条項」(以下「中途確定特約」という。)付契約と契約履行後の実績に基づき代金を確定させる「契約履行後における代金の確定特約条項」(以下「履行後確定特約」という。)付契約等がある。このうち、中途確定特約付契約は、契約履行の中途までの実績に係る額とその後の履行期間について見込んだ額を算定して、これらの額を合算した額と契約金額とを比較するなどして代金を確定している。
本件契約に係る補給本部の業務分担についてみると、造整補システムを所掌している装備システム課(以下「要求元課」という。)が作業内容等を記した仕様書及び役務の調達要求書を作成して、それに基づき原価計算課が予定価格を算定し、仕様書の内容から特約条項を付すことについて検討して契約課と調整を行っている。そして、契約課が中途確定特約付契約により会社と本件契約を締結している。また、原価計算課は、会社が31年1月までに履行のために要した費用の実績額及び同年2月に履行のために要すると見込んだ費用の額を確認するなどして算定し、これらを合算した額(以下「合算額」という。)と契約金額とを比較するなどして代金を確定し、契約課は、契約金額より確定した代金が低い場合にはその差額分について会社との間で減額の変更契約を締結して、代金を支払っている。
要求元課が作成した仕様書によれば、本件契約の作業内容は、データ整備等支援等の維持管理に関する技術支援(以下「維持管理」という。)及び調査検討、プログラム設計等のプログラム改修に係る作業(以下「プログラム改修」という。)に区分されている。また、維持管理のうちデータ整備等支援には、31年3月の造整補システム換装に伴うデータ移行の準備作業(以下「準備作業」という。)が含まれている。
本件契約の予定価格については、契約課が契約相手方の選定に係る公募を実施したところ、契約の意思を示した業者が会社のみであったため、原価計算課が会社から提出された見積書を基に維持管理及びプログラム改修について、それぞれ元請業者である会社の作業に係る分(以下「元請作業分」という。)に要する費用の額と下請業者の作業に係る分(以下「下請作業分」という。)に要する費用の額を区分するなどして積算している。
そして、原価計算課と契約課の間で調整を行った結果、本件契約は、契約金額5464万余円を支払額の上限額とする中途確定特約付契約として締結されている。そして、契約課は31年2月に契約金額と確定した代金との差額分について会社と変更契約を締結して、同年3月に5442万余円を支払っている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、契約金額が実績とかい離した額で確定されていないかなどに着眼して、本件契約を対象として、補給本部において、契約書、仕様書、請求書等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
原価計算課は、本件契約の代金の確定に当たり、元請作業分については、契約時点における元請作業分に要する費用の額(以下「元請確定額」という。)としていた。
そこで、元請作業分の作業実績を確認したところ、仕様書でプログラム改修を実施することとされていたが、実際には、プログラム改修のうち、調査検討を1時間実施しただけでプログラム設計等は行われていなかった。そして、プログラム改修に要した作業実績は1時間となっており、予定価格の算定において積算していた作業時間154.6時間を大幅に下回っていた。要求元課は、プログラム設計等は、履行期間中に調査検討を実施した結果として必要な場合に実施されるものであり、契約時点ではプログラム設計等の有無が決まっていないとしていたが、仕様書でその旨を明示していなかった。
原価計算課は、本件契約において、中途確定特約に基づき、下請作業分については、技術者によって単価が異なり、作業時間の割振りが契約時点と代金の確定時点とで大きく異なる可能性があることから下請作業分に係る代金の上限額(以下「下請上限額」という。)を定めていた。そして、31年2月25日までに代金を確定する際に、合算額と下請上限額とを比較して、低い方の額を下請確定額としていた。合算額のうち、31年2月分として履行に要すると見込んだ額については、準備作業により可能な限り造整補システムの換装時に近いデータを抽出する必要があるため、前年度と比較して、維持管理のうちデータ整備等支援に多くの作業時間を要することを想定して算定していた。
造整補システムの換装は今回が初めてであり、また、準備作業は主に履行期間の終盤に行うため、その作業量を的確に把握することは履行期間の終盤に至っても難しいことが契約時点において明らかであった。しかし、要求元課は、仕様書でその旨を明示しておらず、原価計算課及び契約課と適切な情報共有を行っていなかったことから、原価計算課及び契約課は、作業完了後でなければ作業実績に基づく適切な額で代金を確定することが難しい契約であることを認識できなかった。その結果、原価計算課は、作業完了後の作業実績で代金を確定する特約条項を付すことについて検討を行っておらず、契約課と調整を行っていなかった。そして、契約課は中途確定特約を付して本件契約を締結し、原価計算課は合算額を算定した際に見積もった作業時間(以下「見積作業時間」という。)7,252.9時間(うち31年2月分2,390時間)に対して作業実績は6,631.1時間(同1,768.2時間)となっていて、見積作業時間を621.8時間(同621.8時間)下回っていたのに、過大に算定された合算額で代金を確定していた。
このように、元請作業分について、プログラム設計等を行っておらず、プログラム改修に要した作業実績が予定価格で積算した作業時間を大幅に下回っていたのに、契約時点において元請確定額で代金を確定したり、下請作業分について、作業実績が見積作業時間を下回っていたのに、過大に算定された合算額で代金を確定したりして、作業実績に基づき契約金額を精算していなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(節減できた支払額)
本件契約について、作業実績等により修正計算すると、計4816万余円となり、支払額5442万余円との差額625万余円が節減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、補給本部において、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、補給本部は、令和元年6月に、履行後確定特約を付して元年度からの造整補システムの維持管理等役務契約を締結して、元請作業分及び下請作業分について、作業完了後の作業実績で代金を確定して、契約金額を精算できるようにした。
また、補給本部は、同年8月に関係部署に業務連絡を発出して、次の事項等について周知徹底する処置を講じた。