東日本高速道路株式会社(以下「東会社」という。)、中日本高速道路株式会社(以下「中会社」という。)、西日本高速道路株式会社(以下「西会社」という。以下、これらの会社を総称して「3会社」という。)及び本州四国連絡高速道路株式会社(以下「本四会社」といい、3会社と合わせて「4会社」という。)は、災害対策基本法(昭和36年法律第223号)に基づき内閣総理大臣から指定公共機関に指定されており、国や地方公共団体と協力して国民の生命等を災害から保護するために、その業務に係る防災に関する防災業務計画を作成して業務を実施している。
4会社が作成している防災業務計画、その施行に必要な具体的内容を定めた防災業務要領等(以下、これらを合わせて「防災業務計画等」という。)によれば、地震災害、風水害等の災害に強い高速道路を形成するためハザードマップ等により危険箇所を把握して防災のハード対策及びソフト対策を総合的に講ずること、高速道路において非常かつ重大な災害が発生した場合等には4会社の本社、支社、管理センター、管理事務所等(以下、これらを合わせて「管理事務所等」という。)に非常災害対策本部等(以下「災害対策本部」という。)を設置すること、管理事務所等は停電時における災害対策本部の活動に必要となる施設の非常用電源を確保するための自家発電設備(以下「非常用自家発電設備」という。)を整備し最低3日分の燃料を備蓄することなどとされている。
4会社は、非常用自家発電設備を災害対策本部となる執務室が所在する管理事務所等の建物(以下「事務所建物」という。)等に設置しており、非常用自家発電設備の設計については、各社が制定した設計要領(以下「要領」という。)等に基づくこととしている。
そして、前記のとおり、防災業務計画等によれば、管理事務所等に非常用自家発電設備の燃料を最低3日分備蓄することとされていることから、4会社は、要領に基づき連続72時間以上運転可能となるよう非常用自家発電設備の燃料槽(以下「燃料槽」という。)の増設計画を定めて、増設工事を行っている。
本四会社は、グループ会社との間で土地賃貸借契約を締結して、グループ会社に高速道路のサービスエリア及びパーキングエリア(以下、これらを合わせて「休憩施設」という。)における店舗等の管理運営を行わせている。土地賃貸借契約によれば、土地の使用条件として、災害その他の非常事態が発生したときは、高速道路利用者の避難誘導を行うことなどとされている。
また、本四会社は、防災業務計画等に基づきグループ会社と協力して被害の拡大を防止するための措置(以下「災害応急対策活動」という。)等を実施するため、グループ会社との間で防災業務に関する協定及び細目協定(以下、これらを合わせて「防災協定」という。)を締結している。防災協定によれば、グループ会社は、災害発生時において、災害応急対策活動に協力することとされており、グループ会社の社員を派遣させるとともに、所有する資機材の提供、休憩施設における通行規制に関する措置、道路利用者への情報の提供及び誘導等を行うこととされている。
さらに、グループ会社は、グループ会社が管理運営を行っている営業施設内で実際に出店しているテナント会社(以下「テナント会社」という。)との間で、営業委託契約(以下「委託契約」という。)を締結している。委託契約によれば、テナント会社は、飲食の提供、物販事業等を行うほか、休憩施設が道路管理上の重要な機能を有していることに鑑み、交通情報の伝達等の本四会社が行う道路管理業務に協力する義務と責任を負うこと、高速道路利用者の利便の確保に影響を及ぼすような営業施設の損傷その他の事態が発生したときは、直ちに適切な措置を講ずることとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、有効性等の観点から、非常用自家発電設備は津波、洪水時等に浸水しないような対策が講じられているか、非常用自家発電設備は連続72時間以上運転可能となっているか、災害発生時の休憩施設等における高速道路利用者への対応体制が整備されているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、3会社の事務所建物119棟(平成30事業年度末の資産価額計138億5415万余円)、4会社の非常用自家発電設備123式(同計20億2817万余円)、本四会社とグループ会社との土地賃貸借契約(30年度の契約額4億2703万余円)等を対象として、4会社の126管理事務所等において、津波や洪水による浸水が想定される区域や浸水時の水深を確認したり、非常用自家発電設備の連続運転可能時間に係る計算書等を確認したり、グループ会社との協定内容等を確認したりするなどの方法により会計実地検査を行うとともに、調書の作成及び提出を求めて、その内容を確認するなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた((1)及び(2)の事態には重複しているものがある。)。
表1のとおり、3会社の非常用自家発電設備116式のうち24式は、津波や洪水により浸水することが想定される事務所建物等に設置されていた(浸水高さは最大で10.0m)。3会社は、このうち15式については非常用自家発電設備の更新時等に浸水高さより高い位置に設置するなどの浸水対策を実施していたが、残りの9式(30事業年度末の資産価額計8787万余円)については、浸水高さより低い位置にあり浸水するおそれがあるのに、浸水対策を実施していなかった。このため、津波や洪水により浸水した場合に非常用自家発電設備を稼働することができず、当該9式により電力の供給を受けることとなる事務所建物10棟(30事業年度末の資産価額計18億5615万余円)は、災害対策本部としての機能を十分に発揮できなくなるおそれがある状況となっていた。
表1 非常用自家発電設備の浸水対策の状況等(平成30事業年度末現在)
会社名 | 事務所建物等における非常用自家発電設備 | 災害対策本部が設置される事務所建物 | ||||||
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浸水することが想定されているもの | 浸水対策を実施していない非常用自家発電設備から電力の供給を受ける事務所建物 | |||||||
浸水対策を実施しているもの | 浸水対策を実施していないもの | |||||||
(式) | (式) | (式) | (式) | 資産価額(千円) | (棟) | (棟) | 資産価額(千円) | |
東会社 | 46 | 8 | 4 | 4 | 19,303 | 46 | 4 | 1,115,149 |
中会社 | 30 | 6 | 4 | 2 | 16,241 | 32 | 2 | 103,167 |
西会社 | 40 | 10 | 7 | 3 | 52,329 | 41 | 4 | 637,840 |
計 | 116 | 24 | 15 | 9 | 87,874 | 119 | 10 | 1,856,157 |
なお、本四会社においては、上記と同様の状況は見受けられなかった。
4会社は、表2のとおり、防災業務計画等及び要領に基づき、非常用自家発電設備を連続72時間以上運転することが可能となるように、30事業年度末までに、非常用自家発電設備69式の燃料槽の増設工事を行っていた。
一方、要領において、非常用自家発電設備の燃料槽は、連続72時間以上運転可能な容量とすることが明記されているが、機械の摩擦部分の熱や摩耗を防ぐための潤滑油の貯留槽の容量については明記されていなかった。
そこで、前記の非常用自家発電設備69式について、製造会社が公表している潤滑油の貯留槽の容量等に基づき連続運転可能時間の確保状況を確認したところ、21式(30事業年度末の資産価額計2億1843万余円)については22.5時間から70.0時間となっていて、潤滑油の貯留槽の容量が不足しているため、防災業務計画等及び要領において求められている非常用自家発電設備の連続運転可能時間が確保されていない状況となっていた。
表2 非常用自家発電設備の連続運転可能時間の状況等(平成30事業年度末現在)
会社名 | 燃料槽の増設工事を行ったもの | 左のうち、潤滑油の貯留槽の容量の不足により連続運転可能時間が72時間確保されていないもの | 左に係る非常用自家発電設備の資産価額 |
---|---|---|---|
(式) | (式) | (千円) | |
東会社 | 33 | 14 | 145,008 |
中会社 | 25 | 1 | 10,540 |
西会社 | 5 | 2 | 3,247 |
本四会社 | 6 | 4 | 59,640 |
計 | 69 | 21 | 218,436 |
1(3)のとおり、本四会社においては、災害発生時に、グループ会社は防災協定に基づき災害応急対策活動を実施し、テナント会社は高速道路利用者の利便の確保のために適切な措置を講ずることとしている。このため、グループ会社及びテナント会社は、高速道路利用者の避難誘導のほかに、支援物品の提供等を行うこと(以下「利用者支援活動」という。)が求められることになる。しかし、前記の土地賃貸借契約、防災協定及び委託契約には具体的な利用者支援活動について一切定められていなかった。
そこで、本四会社を通じて、グループ会社及びテナント会社における利用者支援活動の対応体制を確認したところ、支援物品の種類や費用負担が上記の委託契約等において明確ではないことなどから、テナント会社において利用者支援活動を十分に行える体制となっておらず、本四会社が行う高速道路利用者の利便に関する道路管理業務に支障が生ずるおそれがあると認められた。
なお、3会社は、グループ会社と利用者支援活動に関する協定を締結するなどして、休憩施設等における高速道路利用者への利用者支援活動の対応体制を整備していた。
このように、非常用自家発電設備の浸水対策が実施されていないことにより災害対策本部としての機能が十分に発揮できないおそれがある状況となっていた事態、防災業務計画等で定められている非常用自家発電設備の連続運転可能時間が確保されていない状況となっていた事態及び災害発生時の休憩施設等における高速道路利用者への利用者支援活動の対応体制が整備されていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、3会社において非常用自家発電設備の浸水対策を実施することの必要性についての検討が十分でなかったこと、4会社において非常用自家発電設備の連続運転可能時間を72時間以上とするために必要な潤滑油の貯留槽の容量に対する検討が十分でなかったこと、本四会社において災害発生時の休憩施設等における高速道路利用者への利用者支援活動の対応体制を整備することの検討が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、4会社は、令和元年8月及び9月に各支社又は各管理センターに事務連絡を発するなどして、次のような処置を講じた。
ア 3会社は、想定される浸水高さより低い位置に設置されている非常用自家発電設備について嵩(かさ)上げ、遮水設備の設置等による浸水対策を実施することや、災害応急対策活動を行うための代替施設等をあらかじめ防災業務計画等に定めることによる浸水対策を実施することとした。
イ 4会社は、燃料槽の増設工事を行う際は潤滑油の貯留槽の容量についても合わせて検討する必要があることを周知するとともに、潤滑油の貯留槽の容量が不足している非常用自家発電設備については連続運転可能時間を72時間以上確保するための対策を実施することとした。
ウ 本四会社は、グループ会社との間に新たに協定を締結して災害発生時の休憩施設等における高速道路利用者への利用者支援活動の対応体制を整備した。