独立行政法人都市再生機構(以下「機構」という。)は、独立行政法人都市再生機構法(平成15年法律第100号)に基づき、良好な居住環境を備えた賃貸住宅の安定的な確保を図ることなどを目的として平成16年7月に設立され、前身である都市基盤整備公団等から承継した賃貸住宅等の管理等に関する業務等を行っている。
機構は、25年度末時点において、12兆3708億余円の有利子負債を抱えており、26年3月に策定した「経営改善に向けた取組みについて」(以下「経営改善計画」という。)では、有利子負債を削減して支払利息を抑制するなど、金利上昇リスクに耐性のある経営基盤を確立することが必要となるなどとして、令和15年度末における有利子負債を平成25年度末比で3兆円以上削減することを中長期にわたる目標としている。また、関係会社について、役割や組織の在り方、機構との契約の在り方について整理し、機構の収益最大化に資するようグループ経営機能を強化することとしている。
そして、機構が有している有利子負債は、30年度末で10兆7260億余円となっており、経営改善計画における令和15年度の目標である平成25年度末比で3兆円以上の削減のためには、今後1.3兆円以上の削減が必要となっている。また、支払利息は、30年度において1076億余円となっている。
株式会社URコミュニティ(以下「URコミュニティ」という。)は、機構が100%出資する子会社であり、25年12月以降、機構が所有する賃貸住宅団地等の管理運営に関する業務(以下「団地管理業務」という。)並びに機構等が譲渡した住宅及び宅地に係る団体信用生命保険に関する業務(以下「団信業務」という。)を行っている。団地管理業務は、機構から委託を受け、機構が所有する賃貸住宅団地等の賃借人等の入退去に関する業務、家賃の収納業務、賃借人等からの問合せへの対応等の管理運営を行う業務である。また、団信業務は、URコミュニティが、機構等から住宅や宅地を購入することで機構に対して債務を有している者のうち団体信用生命保険に加入した者を対象とした団体信用生命保険契約を民間の生命保険会社との間で締結して、当該団体信用生命保険に加入した者が死亡等した場合に、当該団体信用生命保険契約によって受け取った保険金を基に機構に対して代位弁済を行うなどする業務である。
URコミュニティは、30年度末において、現預金60億9170万余円、投資有価証券28億1946万余円及び長期預金12億円(以下、これらの換金性の高い資産を「金融資産」という。)の計101億1117万余円の金融資産を保有している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性、有効性等の観点から、URコミュニティの財務状況はどうなっているか、URコミュニティは経営を継続していくために必要がない金融資産(以下「余裕資金」という。)を保有していないかなどに着眼して、URコミュニティが保有している金融資産を対象として、機構本社及びURコミュニティにおいて、URコミュニティの経営状況等について見解を徴したり、財務諸表等の関係資料の提出を受けたりするなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
URコミュニティの26年度から30年度までの損益の状況は、表1のとおり、毎年度、売上高は120億円程度で、継続的に一定の営業利益及び当期純利益が計上されていた。
表1 URコミュニティの損益の状況(平成25年度~30年度)
区分 |
平成25年度 (注) |
26年度 | 27年度 | 28年度 | 29年度 | 30年度 |
---|---|---|---|---|---|---|
売上高 | 4,748,670 | 11,737,586 | 11,606,924 | 12,039,686 | 11,957,024 | 12,675,976 |
営業利益 | 398,254 | 26,702 | 214,097 | 215,026 | 188,658 | 87,435 |
当期純利益 | 199,001 | 23,411 | 178,277 | 166,681 | 308,128 | 84,975 |
(注) 平成25年12月に業務を開始したため、25年度は、同月から26年3月までの4か月分の損益のみが計上されている。
URコミュニティの30年度末における資産、負債及び純資産の状況は、表2のとおりとなっており、資産については、資産の合計111億7587万余円の9割以上の101億1117万余円が金融資産となっていた。また、団地管理業務及び団信業務における設備投資が少ないことなどから有形固定資産及び無形固定資産は計3億5244万余円となっており、金融資産と比較して少額になっていた。一方、負債については、負債の合計は57億7139万余円となっており、金融資産と比較して少額であり、その主な内訳は、団信業務において今後生じ得る支出を賄うために計上されている団信安定化準備勘定22億9888万余円及び団地管理業務においてURコミュニティが一時的な資金不足とならないよう機構から前受金として受け入れている1か月分の業務委託費12億0776万余円となっていた。そして、純資産については、資本金1億円、資本準備金23億5000万円、その他資本剰余金22億5000万円等となっていた。
表2 URコミュニティの資産、負債及び純資産の状況(平成30年度末)
科目 |
金額 |
科目 |
金額 |
---|---|---|---|
(資産の部) | (負債の部) | ||
流動資産 | 流動負債 | ||
現預金(注) |
6,091,706 | 前受金 |
1,207,764 |
その他 |
130,438 | 賞与引当金 |
504,403 |
固定資産 | その他 |
952,383 | |
有形固定資産 |
248,944 | 固定負債 | |
無形固定資産 |
103,495 | 団信安定化準備勘定 |
2,298,882 |
投資その他の資産 | その他 | 807,964 | |
投資有価証券(注) |
2,819,468 | 負債合計 | 5,771,398 |
長期預金(注) |
1,200,000 | (純資産の部) | |
その他 |
581,817 | 資本金 | 100,000 |
資本剰余金 | |||
資本準備金 |
2,350,000 | ||
その他資本剰余金 |
2,250,000 | ||
利益剰余金 | 704,472 | ||
純資産合計 | 5,404,472 | ||
資産合計 | 11,175,870 | 負債・純資産合計 | 11,175,870 |
(注) 金融資産(現預金、投資有価証券及び長期預金)の額は計10,111,174千余円である。
また、URコミュニティは、機構に対して、団地管理業務から生じた利益等を原資として26年度に1億9900万余円、30年度に5700万余円、令和元年6月に2650万余円の配当を行っていた。
URコミュニティは、前記のとおり、平成30年度末において101億1117万余円の金融資産を保有しており、26年度以降毎年度、継続的に一定の営業利益及び当期純利益を計上していた。そこで、本院において、URコミュニティが経営を継続していくために必要な金融資産(以下「必要資金」という。)の額として、団地管理業務の運転資金として必要な額、団信業務等に必要な額、負債に相当する支出を賄うために必要な額等を積み上げて試算したところ、表3のとおり、81億3445万余円となった。
したがって、URコミュニティは、30年度末の金融資産の額101億1117万余円から、必要資金の額計81億3445万余円及び令和元年6月に機構に対して配当を行った2650万余円を控除した19億5021万余円を余裕資金として保有していると認められた(表3参照)。
表3 余裕資金の額の算出過程(令和元年7月末時点)
平成30年度末の金融資産の額(A) | 10,111,174 | ||
---|---|---|---|
必要資金の額(試算) 注(1) |
項目 | 試算の根拠等 | |
団地管理業務の運転資金として必要な額 | 団地管理業務においてURコミュニティが一時的な資金不足とならないよう機構から受け入れている平成30年度末時点の前受金に相当する額 | 1,207,764 | |
団信業務等に必要な額 | ① 団信業務において今後生じ得る支出を賄うために計上されている30年度末時点の団信安定化準備勘定に相当する額
② 団体信用生命保険に加入している者が減少傾向にあり、将来的に同保険に加入している者が一定数を下回ることで団信業務が終了する見込みであるため、団信業務が終了した後も残った者に対して団信業務と同様のサービスを提供する場合に想定される最大の支出額に相当する額 |
3,098,852
① 2,298,882
② 799,969 |
|
負債に相当する支出を賄うために必要な額 | 30年度末時点の負債の計5,771,398千余円から、「団地管理業務の運転資金として必要な額」とした前受金1,207,764千円及び「団信業務等に必要な額」に含めた団信安定化準備勘定2,298,882千余円を控除した額に相当する額 | 2,264,751 | |
不測の事態に対応するために必要な額 | 機構からの団地管理業務に係る業務委託費の入金遅延等の不測の事態が生じた場合でも資金不足とならないために必要な団地管理業務の1か月分の支出に相当する額 | 1,207,764 | |
設備投資等に必要な額 | 令和元年7月末時点で計画されている設備投資等への支出に相当する額注(2) | 355,322 | |
計(B) | 8,134,454 | ||
令和元年6月に機構に対して配当が行われた額(C) | 26,501 | ||
余裕資金の額(試算) (D)=(A)-(B)-(C) | 1,950,218 |
このように、機構が経営改善計画における目標を達成するためには今後も有利子負債の削減が必要である状況において、継続的に一定の営業利益及び当期純利益が計上されている子会社のURコミュニティに多額の余裕資金を保有させ続けていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、機構において、URコミュニティが多額の金融資産を保有しているにもかかわらず、URコミュニティに対して必要資金の規模を検討させていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、元年8月に、URコミュニティに対して必要資金の規模を検討させ、余裕資金に相当する19億5021万余円を機構に対して納付させることとする処置を講じ、同月にURコミュニティから同額の配当を受けた。