国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(平成27年3月31日以前は独立行政法人日本原子力研究開発機構。以下「機構」という。)は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構法(平成16年法律第155号。27年3月31日以前は独立行政法人日本原子力研究開発機構法)等に基づき、原子力に関する基礎的研究等を総合的、計画的かつ効率的に行うことなどを目的として、大洗研究所、原子力科学研究所等に各種の研究目的に応じた試験研究用等原子炉を設置して、それぞれ運転等を行っている。そして、機構は、原子炉の安全性の研究を目的とした試験研究用等原子炉として、大洗研究所に材料試験炉JMTR(Japan Materials Testing Reactor。以下「JMTR」という。)を設置し、昭和45年9月から運転を開始している。
JMTRの運転に当たり、機構は、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(昭和32年法律第166号。以下「原子炉等規制法」という。)等に基づき、試験研究用等原子炉の運転時間等を示した運転計画を、毎年度(内容を変更した場合はその都度)、原子力規制委員会(平成24年9月18日以前は文部科学大臣)に提出している。
そして、機構は、JMTRの高経年化対策のため、18年8月に運転を停止し、23年度からの運転再開を予定していたものの、23年3月に発生した東北地方太平洋沖地震の影響により運転再開が見送られた。その後、機構は、24年1月に提出した運転計画では24年度下期から運転を再開するとしていたが、上記地震等の際に東京電力株式会社(28年4月1日以降は東京電力ホールディングス株式会社)の福島第一原子力発電所で発生した事故を受けて、原子炉の安全確保の一層の向上を図るために、24年6月に原子炉等規制法が改正され、事故を防止するための基準が強化されることとなり(以下、原子炉等規制法改正後の基準を「新規制基準」という。)、必要な安全対策を講じなければ試験研究用等原子炉を運転できなくなった。このため、機構は、JMTR等の各試験研究用等原子炉の運転再開を目指して新規制基準に適合させるための対応(以下「新規制基準対応」という。)に取り組むなどしてきたが、同年9月に提出したJMTRの運転計画では、上記地震等の影響により施設の健全性を確認する必要が生じたことから運転再開時期を未定としており、その後に提出した運転計画でも、新規制基準対応に取り組む必要が生じたことなどから引き続き運転再開時期を未定としていた。また、新規制基準対応に取り組む過程において、JMTRの耐震力不足が判明するなどしたことから、機構は、28年9月にJMTRの運営方針として廃止の決定をした。
JMTRの運転は、約30日間の連続運転を1サイクルとして最大で年間6サイクルとなっていて、運転に必要な燃料である燃料要素は、6サイクルで約63体が消費される。燃料要素は、原子炉等規制法等に基づく厳格な管理が求められる核燃料物質であるウランを内包する芯材をアルミニウム合金で被覆した燃料板と側板等の構成部品で構成されており、原子炉の構造等に従って定められたJMTR固有の仕様となっていることから、他の試験研究用等原子炉では使用することができないものとなっている。
機構は、燃料要素の製作に当たり、機構において定めた製作数量を単位として、製作する順に、番号を付して呼称しており、23年10月に、JMTRで使用する燃料要素第3次64体、第4次64体、第5次96体の計224体の製作を目的とした請負契約(以下「燃料製作契約」という。)をイーエナジー株式会社と締結して、24年1月から27年7月までの間に計16億1336万余円を支払っている。燃料要素の製作工程には、ウラン等を用いて燃料板及び構成部品を製作する工程と、それらを組み立てる工程とがあり、燃料製作契約の仕様書によれば、燃料板及び構成部品の製作は機構が製作開始指示を発出するまでは開始してはならず、燃料要素の組立ては、機構が燃料要素組立開始指示を発出するまでは開始してはならないなどとされている(図参照)。
図 燃料要素の製作の概念図
また、機構は、燃料製作契約の履行のため、25年3月に、第4次64体及び第5次のうち32体の燃料要素の製作に必要なウランの購入契約(以下「ウラン購入契約」という。)をアメリカ合衆国エネルギー省と締結して、同年5月に2億8814万余円を支払っている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性、有効性等の観点から、JMTRの燃料要素の製作が状況の変化に応じて適時適切に行われているかなどに着眼して、燃料製作契約及びウラン購入契約を対象として、機構本部及び大洗研究所において、契約関係書類やJMTRの新規制基準対応の取組状況を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
機構は、第3次64体の燃料要素について、製作に必要なウランをイーエナジー株式会社に供給した上で、24年3月に製作開始指示を発出して燃料板及び構成部品を製作させた後、25年7月及び同年9月に燃料要素組立開始指示(以下「3次組立指示」という。)を発出して燃料要素を組み立てさせて、26年8月に燃料要素の納入を受けていた。また、第4次64体及び第5次のうち32体の燃料要素について、前記のとおり、燃料製作契約の履行のため25年3月に締結したウラン購入契約によりウランを購入してイーエナジー株式会社に供給した上で、同年5月に製作開始指示(以下「4・5次製作指示」という。)を発出しており、JMTRの運営方針として廃止の決定をした28年9月までに、第4次64体分の燃料板及び構成部品並びに第5次32体分の芯材の仕掛品が製作されていた(表参照)。
表 燃料要素の製作状況
年月 | JMTRの動向等 | 燃料要素の製作 | ||
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第3次64体 | 第4次64体 | 第5次96体 | ||
平成23年3月 | 東北地方太平洋沖地震の発生 | |||
9月 | 文部科学省から施設の健全性に関する総合評価結果等の報告指示
原子炉建家の屋根のはりの一部変形等が判明 |
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10月 | 燃料製作契約の締結 | |||
24年1月 | 運転再開時期を24年度下期とした運転計画の提出 | |||
3月 | 製作開始指示の発出(64体分) | |||
6月 | 原子炉等規制法の改正 (新規制基準の導入決定) |
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9月 | 運転再開時期を未定とした運転計画の提出(以降の運転計画も同様) | |||
25年3月 | ウラン購入契約の締結 | |||
5月 | 4・5次製作指示の発出(64体分) | 4・5次製作指示の発出(32体分) | ||
7月 | 3次組立指示の発出(40体分) | |||
9月 | 3次組立指示の発出(24体分) | |||
26年8月 | 燃料要素の納入(64体分) | |||
28年9月 | 運営方針として廃止を決定 | (業務完了) | (燃料板及び構成部品まで製作) | (燃料の芯材の仕掛品まで製作) |
そして、25年7月及び同年9月に行った3次組立指示並びに同年5月に行った4・5次製作指示の発出については、契約の履行に係る手続として、JMTRの早期の運転再開を目指していた燃料要素の製作を担当する部署のみの判断で行われていた。
しかし、前記のとおり、JMTRについては、24年9月時点で施設の健全性を確認したり新規制基準対応に取り組んだりする必要が生じており、機構は、同月以降、運転再開時期を未定とする運転計画を提出して運転再開時期の見通しが立たない状況と認識していた。
また、機構は、24年9月時点で未使用の燃料要素を150体保管しており、これは年間6サイクルで運転した場合でも2年分以上の在庫量となっていた。一方、機構は、JMTRの施設の健全性の確認及び新規制基準対応に、それぞれ約1年の期間を要すると見込んでいたことから、燃料要素の製作に要する期間を考慮したとしても、同月時点で燃料要素の製作を継続する必要はない状況となっていた。
したがって、3次組立指示及び4・5次製作指示の発出並びにウラン購入契約の締結は上記の状況に適切に対応したものとなっていなかった。そして、機構が運転計画、燃料要素の在庫量等を踏まえずに製作した第3次64体の燃料要素、第4次64体分の燃料板及び構成部品並びに第5次32体分の芯材の仕掛品は、28年9月のJMTRを廃止する運営方針の決定によりJMTRの運転に供することはできず、JMTR固有の仕様となる前の段階にとどまっていて他の試験研究用等原子炉に転用されていた上記第5次32体分の芯材の仕掛品を除いて、適切な処理・処分等の対応が必要な状況となっていた。
このように、機構において、運転再開時期の見通しが立たない状況と認識していた24年9月以降、運転計画、燃料要素の在庫量等を踏まえて燃料要素の製作を留保しておらず、処理・処分等が必要な未使用の燃料要素等が発生していた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(節減できた支払額相当額)
機構において運転再開時期を未定とした運転計画を提出した24年9月以降、運転計画、燃料要素の在庫量等を踏まえて、3次組立指示及び4・5次製作指示の発出並びにウラン購入契約の締結について、運転再開時期の見通しが立つまで留保していれば、燃料製作契約の支払額相当額9億0892万余円、ウラン購入契約の支払額相当額1億8783万余円がそれぞれ節減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、機構において、新規制基準対応の状況、運転計画、燃料要素の在庫量等を踏まえて製作開始指示等を発出することなどに対する認識が欠けていたこと、製作開始指示等の発出が担当部署のみの判断で行われる体制となっていたことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、令和元年9月に新たに規程を整備するなどして、今後、運転再開を目指して新規制基準対応に取り組むなどしている各試験研究用等原子炉で新たに見込まれる燃料要素の製作については、製作開始指示の発出等に当たり、新規制基準対応の状況、運転計画、燃料要素の在庫量等を踏まえた上で必要性を判断するとともに、担当部署に加えて運転計画等を統括している上位部署等の確認を受ける体制とすることにより、処理・処分等が必要な未使用の燃料要素等の発生を防ぐとともに、燃料要素の製作に要する費用を節減するための処置を講じた。