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  • 平成30年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第26 東京電力ホールディングス株式会社|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

福島第一原子力発電所の敷地内で実施されたフェーシングについて、保守管理方針に基づいた予防保全の検討を行うとともに、点検基準ガイドの改定を行い、保守管理方針に基づいた点検項目、点検方法等を定めることなどにより、その維持管理が適切に行われるよう改善させたもの


科目
原子力発電設備、電気事業営業費用
部局等
東京電力ホールディングス株式会社(平成28年3月31日以前は東京電力株式会社)
フェーシングの概要
土壌から放出される放射線量の低減及び雨水の地下への浸透の防止を目的として、敷地内の地表面にモルタルを吹き付けるなどするもの
維持管理が適切に行われていなかったフェーシングの取得価額
203億1399万円(背景金額)(平成25年度~28年度)
保守管理方針に基づいたものとなっていなかったフェーシングの点検に係る委託契約の契約金額相当額
195万円(平成29、30両年度)

1 フェーシング工事等の概要

(1) フェーシング工事の概要

東京電力ホールディングス株式会社(平成28年3月31日以前は東京電力株式会社。以下「東京電力」という。)は、福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)において、23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う津波等による事故により放出された放射性物質について、土壌から放出される放射線量を低減すること及び雨水の地下への浸透を防止して汚染水の発生の原因となる原子炉建屋等への地下水の流入を抑制することを目的として、25年12月以降、敷地内の地表面にモルタルを吹き付けるなどする広域的な敷地舗装(以下「フェーシング」という。)の工事を実施している。

(2) フェーシングの維持管理の概要

福島第一原発における土木設備の点検については、26年4月に、東京電力の福島第一廃炉推進カンパニープロジェクト計画部土木・建築設備グループ(以下「計画グループ」という。)が、各土木設備の点検項目、点検方法等を示した原子力土木設備点検基準ガイド(以下「点検基準ガイド」という。)を制定し、これにより同カンパニー福島第一原子力発電所土木部土木保全・総括グループ(29年10月までは土木第一グループ。以下「点検グループ」という。)が土木設備の点検を行うこととしている。そして、新たに土木設備を取得した場合には、計画グループが点検基準ガイドを改定し、当該土木設備の点検項目、点検方法等を定めている。

フェーシング工事については、短期間のうちに施工する必要があり、フェーシングにひび割れ防止を目的とする目地を設けなかったため、一部の施工箇所で乾燥や温度変化に伴う収縮によるひび割れが生じたことから、福島第一原発においてフェーシングの管理を行う同カンパニー土木部廃棄物基盤グループ(29年10月までは土木第二グループ。以下「施工グループ」という。)は、28年11月に「フェーシングの保守管理方針について」(以下「保守管理方針」という。)を定めて、その内容を計画グループに報告している。保守管理方針によれば、施工グループは、地表面が露出するほどのモルタルの剝離等については補修を計画し、また、ひび割れ部を突き破って雑草が繁茂している場合等には、モルタルの剝離の進行等を抑制し、補修が必要な状況になることを防ぐための予防保全を検討することとされている。

そして、施工グループは、保守管理方針に基づいて補修を計画したり予防保全を検討したりする必要があることから、29年度以降、点検グループにフェーシングを点検の対象とするよう求め、点検グループは、自ら又は東京電力の子会社に委託して、フェーシングの点検を行っている。

(3) 過去の会計検査の状況

本院は、国会からの検査要請に基づき、30年3月に「東京電力株式会社に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況に関する会計検査の結果について」を報告している。この中で、東京電力が請負業者に実施させたフェーシング工事のうち1号機から4号機までの原子炉建屋の山側法面エリア及び北側エリアの一部の施工箇所について、工事完成直後に東京電力が行った調査により法面に吹き付けられたモルタルに多数のひび割れが確認されたこと、当該請負業者にひび割れの深さについて調査を実施させた後、東京電力が行った毎月の目視による保守点検において大きな変化及び機能維持に影響がある動向が見受けられないなどとして、29年12月末時点で補修を行っていないこと、フェーシング工事実施箇所については、引き続き毎月の保守点検を慎重かつ確実に実施して、維持管理を適切に行っていくことが望まれることなどについて記述している。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性、有効性等の観点から、フェーシングの維持管理は適切に行われているかなどに着眼して、東京電力が25年12月から29年3月までに実施した工事の完成に伴い取得したフェーシング(取得価額計203億1399万余円)及び29年4月から31年3月までに実施したフェーシングの点検(東京電力の子会社との土木設備点検委託契約のうちフェーシングに係る契約金額相当額計195万余円)を対象として、東京電力本社及び福島第一原発において、土木設備点検委託契約書、点検記録報告書等を確認したり、フェーシング工事の実施箇所を実地に確認したりするなどして会計実地検査を行った。

(検査の結果)

前記のとおり、フェーシングについては、25年12月以降に順次工事が進められ、27年8月以降に工事の完成に伴い新たな土木設備として取得しており、また、28年11月に施工グループが保守管理方針を定めてその内容を計画グループに報告しているのに、計画グループは、点検基準ガイドを改定しておらず、フェーシングに係る点検項目、点検方法等が定められないままとなっており、保守管理方針の内容が点検グループに周知されていない状況となっていた。

このため、点検グループは、29年度以降、フェーシングを毎月点検しているものの、29年度及び30年度の委託によるものも含めたいずれの点検においても、その点検項目、点検方法等は保守管理方針に基づいたものとはなっておらず、フェーシングを実施した法面の崩壊を招くおそれのある変状等を対象とした点検にとどまっていて、保守管理方針において予防保全を検討することとされているひび割れ部を突き破って雑草が生えているかどうかについては点検の対象となっていなかった。

そこで、本院が、30年4月から同年8月までの間に点検グループが自ら点検を実施した際の点検記録報告書を確認したところ、記載されているのは大きなひび割れや湧水等の変状がある箇所のみとなっていて、同報告書に添付されている写真には現にモルタルのひび割れ部を突き破って雑草が生えている箇所が40か所写り込んでいたにもかかわらず、これらについては、点検の対象として把握されることなく、予防保全の検討が行われないままとなっていた。

このほか、30年10月の会計実地検査の際に、本院が、フェーシング工事実施箇所の一部について確認したところ、上記の点検記録報告書に記載されていない1か所においてひび割れ部を突き破って雑草が生えている状況が見受けられ、この箇所は、幅約5cm、長さ約10cmにわたってモルタルの表面が剝離していることから、保守管理方針に照らして補修を計画する必要があると認められた。

このように、東京電力において、保守管理方針に基づいたフェーシングの点検が行われておらず、ひび割れ部を突き破って雑草が生えている箇所について予防保全の検討が行われていないなどしていて、フェーシングの維持管理が適切に行われていなかった事態は適切でなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、計画グループにおいて保守管理方針について施工グループから報告を受けていたのに、これを踏まえた点検基準ガイドの改定を行っておらず、点検グループに保守管理方針の内容が周知されていないなどしていて、フェーシングの維持管理に関わる社内の組織間の連絡調整が適切に行われていなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、東京電力は、次のような処置を講じた。

ア 施工グループは、31年4月にフェーシングのひび割れ部を突き破って雑草が生えている箇所について予防保全を検討し、令和元年5月に、予防保全の一環としてフェーシングエリアを対象とした除草を実施するとともに、ひび割れ部等の点検を実施して、地表面が露出するほどのモルタルの剝離等について補修を行うなどのフェーシングの機能維持を図ることを目的とした工事に着手した。

イ 計画グループは、平成31年4月に点検基準ガイドの改定を行い、保守管理方針に基づいた点検項目、点検方法等を定めるとともに、その内容を周知するなどして、フェーシングの維持管理を適切に行う体制を整備した。