ポリ塩化ビフェニル(以下「PCB」という。)は、人工的に作られた主に油状の化学物質であり、工場やビル等において変圧器、コンデンサー、安定器等の電気機器の絶縁油等として利用されてきた。しかし、PCBの毒性が明らかになったことから、昭和47年以降、PCBの製造、輸入及び新規使用が禁止された。その後、民間主導で全国39か所に焼却方式の処理施設の立地が試みられたものの地元住民の同意を得られず、①PCBの原液、②PCBを含む油、③変圧器、コンデンサー、安定器等のPCBが封入されるなどしたもの(以下、これらを合わせて「PCB使用製品」という。)が廃棄物となったもの(以下「PCB廃棄物」という。)の処理体制の整備が長期間にわたって著しく停滞し、処分のめどが立たないまま事業者における保管が継続していた。そして、平成13年5月に、PCB等の残留性有機汚染物質による環境汚染を防止するための「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」が採択され、我が国は14年8月に同条約を締結している。そして、同条約により、令和7年までにPCBの使用の全廃、10年までに適正な管理を行うことが定められている。
このような状況の中で、平成13年6月に、PCB廃棄物の確実かつ適正な処理を推進することなどを目的として「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」(平成13年法律第65号。以下「特措法」という。)が制定された。
特措法及び「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法施行令」(平成13年政令第215号。以下「政令」という。)によれば、国は、PCB廃棄物の確実かつ適正な処理を確保するための体制の整備その他必要な措置を講ずるよう努めなければならないとされていて、都道府県は、それぞれの区域内におけるPCB廃棄物等の状況を把握するとともに、PCB廃棄物の確実かつ適正な処理のために必要な措置を講ずることに努めなければならないこととされている。そして、PCB廃棄物を保管する事業者(以下「保管事業者」という。)は、毎年度、保管の場所が所在する区域を管轄する都道府県、政令市等(31年3月末現在で122都道府県市(注1)。以下「都道府県市」という。)に対して、高濃度PCB廃棄物(高濃度PCB使用製品(注2)が廃棄物となったものをいう。)の保管や処分の状況について届出を行い、PCB使用製品を所有する者は、毎年度、PCB使用製品が所在する区域を管轄する都道府県市に対して、高濃度PCB使用製品の廃棄の見込みについて届出を行うこととされている。また、保管事業者は、政令で定める処分期間内に、高濃度PCB廃棄物を自ら処分し、又は処分を他人に委託しなければならないとされている。
PCB廃棄物の処理については、13年6月に改正された環境事業団法(昭和40年法律第95号)に基づき、環境事業団が施設を設置して行うこととなったが、環境事業団の解散に伴い16年4月1日に全額政府出資の特殊会社として設立された日本環境安全事業株式会社(26年12月24日以降は中間貯蔵・環境安全事業株式会社。以下「会社」という。)が、PCB廃棄物の処理を行う事業に係る一切の権利及び義務を環境事業団から承継した。
会社は、中間貯蔵・環境安全事業株式会社法(平成15年法律第44号。以下「JESCO法」という。)及び特措法に基づき制定された「ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基本計画」(平成16年5月環境省制定。以下「旧基本計画」という。)、旧基本計画が廃止されて新たに定められた基本計画(平成28年7月閣議決定。以下「基本計画」という。)に基づき、5PCB処理事業所(注3)の7処理施設(注4)において、高濃度PCB廃棄物の処理を行うこととなっており、高濃度PCB廃棄物の処理が完了した後は、処理施設の解体・撤去等を行うこととなっている(以下、処理施設の設置から解体・撤去等に至るまでの一連の業務を「PCB廃棄物処理事業」という。)。なお、高濃度PCB廃棄物以外のPCB廃棄物については、環境大臣の認定を受けるなどした民間事業者が処理を行っている。
会社は、16年12月以降、整備が完了した処理施設において、順次、高濃度PCB廃棄物の処理を行ってきたが、世界でも類を見ない大規模な化学処理方式による処理は、処理施設の操業開始後に発生した作業員に係る安全対策等の問題により北海道(増設)、北九州(II期)両処理施設を除いた5処理施設の稼働が低下するなどして、当初の想定よりも遅延したことなどから、環境省は、24年12月に政令を改正して、PCB廃棄物に係る処分期間の末日を当初の28年7月15日から39(令和9)年3月末に延長した。また、同省は、高濃度PCB廃棄物の処理を促進するために、26年6月に旧基本計画を変更して、保管事業者が高濃度PCB廃棄物の処分を会社に委託する期限である計画的処理完了期限を、処理施設ごとに、それぞれ31年3月末から36(令和6)年3月末までと定めるとともに、事業終了準備期間(注5)の末日をそれぞれ34(令和4)年3月末から38(令和8)年3月末までと定めた。さらに、同省は、上記の計画的処理完了期限を遵守するために、28年7月に政令を改正して、高濃度PCB廃棄物に係る処分期間の末日をそれぞれ計画的処理完了期限の1年前である30年3月末から35(令和5)年3月末までと定めた(図表1参照)。
図表1 各処理事業所の高濃度PCB廃棄物に係る処分期間等
基本計画によれば、都道府県市は、保管等の届出がされていないPCB廃棄物及び高濃度PCB使用製品の所在等を把握するための調査(以下「掘り起こし調査」という。)を行った上で、保管事業者等に高濃度PCB廃棄物の処分期間内又は計画的処理完了期限までの計画的な処分の取組等を講ずるよう必要な指導等を行い、国は、掘り起こし調査等が円滑に進むよう掘り起こし調査の効率化に必要な情報の提供その他必要な支援を都道府県市に対して行うことなどとされている。
このため、環境省は、掘り起こし調査の効率的な実施、調査対象事業者への確認等の基本的な手法等に関して、「PCB廃棄物等の掘り起こし調査マニュアル」(平成26年8月作成、30年8月改訂。以下「マニュアル」という。)を取りまとめ、26年9月に、都道府県市に対して通知している。
マニュアルにおいては、掘り起こし調査を効率的・効果的に行うための標準的な作業手順が次のように定められている。
① 変圧器、コンデンサー及び安定器について、アンケートの調査対象事業者のリストを整備して、調査対象事業者にそれらの所有の有無等に関するアンケート調査票を発送する。
② ①の未回答事業者に対して、電話による確認及び督促や、簡便なフォローアップ調査票を発送するフォローアップ調査を繰り返し実施するなどする。
③ ②の未回答事業者に対して、PCB廃棄物を定められた期限までに処分しなければならないことなどを明記した最終的な通知文書(以下「最終通知」という。)を送付する。
そして、①及び②の過程で全ての調査対象事業者から回答を得られたとき又は未回答事業者がいる場合で当該未回答事業者に最終通知を送付したときに、掘り起こし調査を終了することにしている。
政府は、JESCO法に基づき、必要があると認めるときは、予算で定める金額の範囲内において、会社に出資することができることとされている。そして、政府は、会社設立の際に103億円を会社に対して出資しているほか、26年度から30年度までの間に計155億円を追加出資しており、30年度末における出資額は計258億円となっている。「中間貯蔵・環境安全事業株式会社の会計に関する省令」(平成26年環境省令第32号)等によれば、PCB廃棄物処理事業については、環境安全事業勘定として区分経理することとされており、会社は、同勘定に整理した追加出資相当額をポリ塩化ビフェニル廃棄物処理施設原状回復引当金として積み立てなければならないこととされていて、処理施設の解体及びこれに伴い発生する廃棄物の処理その他の原状回復のために必要な費用(以下「解体・撤去等費用」という。)に充てる場合に限り、同引当金を取り崩すこととされている。
また、環境省は、会社が行うPCB廃棄物の処理に直接必要な設備の新設、増設、改造、補修等をするなどの事業に対して、廃棄物処理施設整備費(PCB廃棄物処理施設整備事業)国庫補助金(以下「整備費補助金」という。)を交付しており、16年度から30年度までの交付額は計1418億余円となっている。さらに、同省は、独立行政法人環境再生保全機構法(平成15年法律第43号。以下「機構法」という。)等に基づき、独立行政法人環境再生保全機構(16年3月31日以前は環境事業団。以下「機構」という。)に対して、保管事業者のうち中小企業者等の処理料金の負担を軽減するための事業(以下「軽減事業」という。)等に係る支出に充てるために設けられたポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基金を造成するために、ポリ塩化ビフェニル廃棄物対策推進費国庫補助金(以下「推進費補助金」という。)を交付しており、13年度から30年度までの交付額は計282億円となっている(図表2参照)。そして、機構は、機構法等に基づき、同基金を原資として、会社に対して、中小企業者等が保管する高濃度PCB廃棄物の処理に要する費用等として、助成金計209億円を交付している。
図表2 国の財政支援等の概要(平成30年度末現在)
年度
項目 |
平成 13~15 |
16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 計 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
政府出資金 | ― | 103 | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | 50 | 10 | 30 | 30 | 35 | 258 | |
国庫補助金 | 60 | 241 | 202 | 203 | 195 | 78 | 88 | 54 | 149 | 88 | 120 | 46 | 44 | 47 | 40 | 38 | 1700 | |
整備費補助金 | ― | 221 | 182 | 183 | 175 | 58 | 68 | 34 | 134 | 73 | 105 | 39 | 37 | 40 | 32 | 30 | 1418 | |
推進費補助金 | 60 | 20 | 20 | 20 | 20 | 20 | 20 | 20 | 15 | 15 | 15 | 7 | 7 | 7 | 8 | 8 | 282 | |
国の財政負担額計 | 60 | 344 | 202 | 203 | 195 | 78 | 88 | 54 | 149 | 88 | 120 | 96 | 54 | 77 | 70 | 73 | 1958 |
(注) 表示単位未満を切り捨てているため、各項目を集計しても計欄と一致しないものがある。
会社は、PCB廃棄物処理事業を安全かつ着実に実施するためには、中長期にわたって安定した経営基盤を維持することなどが重要であるとして、29年6月に中長期経営計画を策定している。
会社は、中長期経営計画において、処理施設の解体・撤去等に向けた体制を構築し、収支相償の実現を目指すなどとしている。そして、様々な技術的な課題に対してスケジュール感を持って解決を図るとの考え方に基づき、解体・撤去等の方法を確立するとともに、29年度末を目指して適正な解体・撤去等費用の見積り作業を進めるとしている。また、会社は、毎年度の処理量の見直し及びPCB廃棄物処理事業の終了に向けた体制の整備を行って、処理施設の解体・撤去等の進捗とともに長期収支計画を修正し、収支相償の実現に向けた経営判断に資するとしている。
国は、特措法により、PCB廃棄物の確実かつ適正な処理を確保するための体制の整備等を講ずるよう努めなければならないとされていることなどから、PCB廃棄物処理事業について、これまでに会社への政府出資金として258億円のほか、国庫補助金として計1700億余円、合計1958億余円と多額の国費を投入している。そして、PCB廃棄物処理事業については、今後も多額の事業費が発生することが見込まれている。
そこで、本院は、経済性、効率性、有効性等の観点から、PCB廃棄物処理事業等について、高濃度PCB廃棄物の処理及び掘り起こし調査は適切に行われているか、事業費や会社の財務状況等はどのようになっているか、長期収支計画において、収支相償の実現に向けて解体・撤去等費用が適切に見積もられ、国の財政負担が明らかにされているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、13年度から30年度までのPCB廃棄物処理事業等を対象として、会社本社、東京、豊田、大阪、北九州各PCB処理事業所において、7処理施設におけるPCB廃棄物の処理状況等について関係者から説明を聴取したり、財務の状況、長期収支計画等に関する資料を確認したりするとともに、環境本省において掘り起こし調査の実施状況等に関する説明を聴取し、機構においてポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基金の取崩し状況に関する資料を徴するなどして会計実地検査を行った。また、122都道府県市を対象として掘り起こし調査の実施状況等に係る調書の作成を依頼し、その内容を分析するなどして調査した。
高濃度PCB廃棄物の処理状況をみると、図表3のとおり、変圧器及びコンデンサーの処理量は、16年度の北九州(I期)処理施設の整備以降、他の処理施設が順次整備されたことに伴い増加した後、変圧器は23年度の1,874台、コンデンサーは25年度の36,434台をピークにそれぞれ減少してきている。また、安定器等の処理量は、21年度に北九州(II期)処理施設、25年度に北海道(増設)処理施設の整備に伴い、年々増加してきている。
図表3 高濃度PCB廃棄物の処理状況の推移(平成16年度~30年度)
会社は、既に都道府県市に届出が行われ所在が確認されている高濃度PCB廃棄物の総量に基づくなどして、31(令和元)年度から35(令和5)年度までの計画処理量(平成30年度末現在)を変圧器1,304台、コンデンサー35,042台、安定器等5,749tと見込んでいる。そこで、16年度から30年度までの実際の処理量と31(令和元)年度から35(令和5)年度までの計画処理量とを合算した処理量全体に占める実際の処理量の割合を算出して処理の進捗状況をみると、変圧器及びコンデンサーは9割程度、安定器等は6割程度となっていた(図表4参照)。
そして、各年度における各処理施設の変圧器、コンデンサー、安定器等の計画処理量が、各処理施設の処理能力の範囲内とされ、過年度における各処理施設の実際の処理量の最大値よりは低い値で設定されていることからみて、このままの状態で推移すれば、既に所在が確認されている高濃度PCB廃棄物については、計画的処理完了期限である令和5年度末までに処理できることが見込まれる。
図表4 高濃度PCB廃棄物に係る処理の進捗状況等(平成30年度末現在)
高濃度PCB廃棄物の種類 | 平成16年度から30年度までの実際の処理量 (A) |
計画処理量 | 割合(%) (A)/((A)+(B)) |
|||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
平成 31年度 |
32年度 | 33年度 | 34年度 | 35年度 | 計(B) | |||
変圧器(台)
|
15,081 | 454 | 474 | 292 | 84 | 1,304 | 92.0 | |
コンデンサー(台) |
319,664 | 15,043 | 11,012 | 7,877 | 1,110 | 35,042 | 90.1 | |
安定器等(t) |
10,042 | 1,740 | 1,740 | 1,126 | 850 | 293 | 5,749 | 63.5 |
基本計画によれば、都道府県市は、処分期間内に一日でも早く掘り起こし調査を終えることとされている。そこで、本院が、122都道府県市が行う掘り起こし調査の実施状況を調査したところ、回答が得られた118都道府県市のうち、平成30年度末現在、変圧器及びコンデンサーの掘り起こし調査は、図表5のとおり、46府県市が終了しており、残りの72都道府県市は調査中としている。そして、72都道府県市の進捗状況をみると、72都道府県市において調査が可能な対象事業者数に占める回答事業者数と最終通知を送付した事業者数とを合算した事業者数の割合(以下「進捗率」という。)の平均は82.2%となっている。
一方、安定器の掘り起こし調査は、3府県市が終了しているが、51都県市は掘り起こし調査を始めていない。そして、調査中としている残りの64道府県市における進捗率の平均は37.3%となっており、変圧器及びコンデンサーの掘り起こし調査に比べて安定器の掘り起こし調査を終了していない都道府県市が多い状況となっている。これは、多くの都道県市において、安定器等の処分期間の末日が変圧器及びコンデンサーに比べて後に設けられていたり、照明器具に使用される安定器は調査対象事業者が多く、そのリストの整備が困難であったりすることなどによる。なお、環境省は、都道府県市の一部から要望があったことから、31年1月に都道府県市に対して、安定器に係る調査対象事業者のリストを提供するなどしている。
図表5 掘り起こし調査の状況(平成30年度末現在)
区分 | 都道府県市数 | 調査対象事業者数(件) | 都道府県市ごとの調査の進捗率の平均(%) | 区分 | 都道府県市数 | 調査対象事業者数(件) | 都道府県市ごとの調査の進捗率の平均(%) | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
未達事業者数 | 調査が可能な対象事業者数 | 未達事業者数 | 調査が可能な対象事業者数 | ||||||||||||||
回答事業者数 | 未回答事業者等数 | 回答事業者数 | 未回答事業者等数 | ||||||||||||||
最終通知を送付した事業者数 | 最終通知を送付した事業者数 | ||||||||||||||||
(A)=(B)+(C) | (B) | (C) | (D) | ((B)+(D))/(A) | (A)=(B)+(C) | (B) | (C) | (D) | ((B)+(D))/(A) | ||||||||
変圧器、コンデンサー | 調査済み | 46 | 15,357 | 271,943 | 237,265 | 34,678 | 34,678 | 安定器 | 調査済み | 3 | 11,694 | 87,633 | 60,019 | 27,614 | 27,614 | ||
調査中 | 72 | 18,796 | 506,071 | 409,277 | 96,794 | 0 | 82.2 | 調査中 | 64 | 16,317 | 967,999 | 335,882 | 632,117 | 105 | 37.3 | ||
計 | 118 | 34,153 | 778,014 | 646,542 | 131,472 | 34,678 | 未調査 | 51 | |||||||||
計 | 118 | 28,011 | 1,055,632 | 395,901 | 659,731 | 27,719 |
イの46府県市において、掘り起こし調査の調査対象事業者となっていなかった新たな保管事業者からの連絡や掘り起こし調査の際に保管していないと回答していた事業者からの連絡等により、掘り起こし調査の終了後に所在が確認された高濃度PCB廃棄物等は、30年度末現在で変圧器18台及びコンデンサー720台となっており、一定量の高濃度PCB廃棄物等の所在が確認されている。そして、46府県市のうち、調査が可能な対象事業者の全てから回答を得られて掘り起こし調査を終了していた11県市では、掘り起こし調査の終了後にコンデンサー56台の所在が確認されており、対象事業者の一定数から回答を得た後に未回答事業者等に対して最終通知を送付することにより掘り起こし調査を終了していた残りの35府県市では、掘り起こし調査の終了後に変圧器18台及びコンデンサー664台の所在が確認されている。また、マニュアルにおいて、未回答事業者に対してフォローアップ調査を繰り返し実施することとされているものの、35府県市の中には、調査対象事業者の存否の確認に時間を要したことから、フォローアップ調査を行わないまま最終通知を送付して掘り起こし調査を終了していた市も見受けられた。
このように調査が可能な対象事業者の全てから回答を得ていたり、対象事業者の一定数から回答を得た後に未回答事業者等に対して最終通知を送付したりした後にも高濃度PCB廃棄物等の所在が確認されることがあることなどから、都道府県市は、掘り起こし調査において、最終通知を送付する前に十分なフォローアップ調査等を行うことにより、高濃度PCB廃棄物等の所在を確実に把握することが重要である。
会社は、PCB廃棄物処理事業の事業費を試算した上で、処理料金収入等により収支相償となるように高濃度PCB廃棄物の種類ごとに処理料金を設定しており、平均的な高濃度PCB廃棄物1台当たりの処理料金は、変圧器551万円程度、コンデンサー76万円程度及び安定器6万円程度となっている。そして、処分期間の延長や計画的処理完了期限の設定等に伴う処理料金の見直しについては、見直しの前後で保管事業者の料金負担に差が生ずることになり、保管事業者間の公平性を損なうおそれがあるなどとして実施していない。
上記事業費の試算のうち、5処理施設での処理を前提とするなどした16年度の事業費の試算額及び事業費に対する収入の試算額(以下、これらを「16年度計画額」という。)、7処理施設の全てが稼働している30年度末までの事業費及び収入の実績額(以下、これらを「30年度末実績」という。)及び国に報告している長期収支計画(平成30年3月策定。以下「29年度長期計画」という。)において見込んでいるPCB廃棄物処理事業終了時までの全ての事業費及び収入の見込額(以下「事業終了時見込額」という。)については、次のとおりとなっている(図表6参照)。
すなわち、30年度末実績の事業費計6795億円は、16年度計画額の事業費計4155億円と比べて2640億円増加している。これは、30年度末までに解体・撤去等が始まっていないことから、16年度計画額で見込んでいた解体・撤去等費用234億円は実績額として計上されていない一方、処理施設の増加と処分期間の延長等に伴い、施設整備費が810億円、維持管理費等が2064億円増加したことによる。
また、事業終了時見込額の事業費計9303億円は、16年度計画額の事業費計4155億円と比べて5148億円増加すると見込んでいる。これは、処理施設の増加と処分期間の延長等に伴い、施設整備費が1029億円、維持管理費等が3353億円、及び解体・撤去等費用が766億円増加すると見込んでいることによる。
事業費に対する収入の状況についてみると、30年度末実績の事業費に対する収入は計6974億円となっていて、事業費を賄うことができている一方、事業終了時見込額の収入は計8611億円と見込まれており、693億円の支出超過になることが見込まれている。これは、処分期間の延長等に伴う維持管理費等の増加や、解体・撤去等費用の増加等の収入が伴わない費用の増加等によるものである。
そして、特措法により、国は、PCB廃棄物の確実かつ適正な処理を確保するための体制の整備その他必要な措置を講ずるよう努めなければならないとされていることなどから、処理料金収入等により賄うことができないPCB廃棄物処理事業に係る事業費は、追加的な国の財政負担となることが見込まれる。
図表6 事業費及び収入の計画額、実績額等の状況
会社は、29年度長期計画において、PCB廃棄物処理事業の完了時期を41(令和11)年度末と仮定した上で、28年度までの実績額のほか、売上高、売上原価等の計画額を計上している。また、売上原価のうち、解体・撤去等費用については、7処理施設に係る総額を1000億円と見込んでいる(図表7参照)。
29年度長期計画では、今後、売上高は、各処理施設の計画的処理完了期限を迎える30年度末から35(令和5)年度末までの間に、高濃度PCB廃棄物の処理量が大幅に減少していくことに伴い大きく減少し、36(令和6)年度以降は売上げがなくなるとしている。
一方、解体・撤去等費用を除く売上原価については、31(令和元)年度以降は、処理量の減少に伴い次第に減少していくが、処理量が減少して売上高が減少しても、処理施設を稼働し又は維持するための維持管理費等が発生することなどから、34(令和4)年度以降は、毎年度、売上原価が売上高を超過することや、解体・撤去等費用が37(令和7)年度以降の数年間多額となることなどの影響により、環境安全事業勘定の収支は、34(令和4)年度以降、毎年度当期純損失が発生するとしている(図表7参照)。
図表7 29年度長期計画(平成29年度~41年度)
年度
項目 |
~平成 28 |
平成29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40 | 41 | 総計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
売上高 | 4169 | 615 | 569 | 568 | 545 | 430 | 148 | 26 | ― | ― | ― | ― | ― | ― | 7069 |
売上原価(解体・撤去等費用を除く) | 3588 | 404 | 417 | 383 | 344 | 253 | 191 | 146 | 54 | 39 | 16 | 15 | 10 | 8 | 5867 |
解体・撤去等費用 | 289 | 66 | 64 | 20 | 6 | 6 | 3 | 1 | 0 | 49 | 105 | 227 | 165 | 0 | 1000 |
当期純利益又は当期純損失 | △139 | 80 | 42 | 108 | 123 | 91 | △75 | △150 | △70 | △101 | △130 | △251 | △185 | △38 | △693 |
そして、会社は、41(令和11)年度末における累積損失額は693億円になると見込んでいる一方、30年度までの追加出資額155億円に545億円を加えた総額700億円の追加出資を受けると最終的に収支相償になるとしている。上記の追加出資額は、環境省が解体・撤去等費用に係る国の負担割合を処理施設の整備費用に係る国の負担割合と同等と想定していることを前提として会社が見込んでいるものであり、国の予算措置として確定しているものではない。
このように、PCB廃棄物処理事業の収支相償は、29年度長期計画によると、令和元年度以降の国の追加出資額545億円等を前提としたものとなっているが、環境省は、国の財政負担が最終的にどの程度となるかなどについて明らかにしていない。
会社は、7処理施設に係る解体・撤去等費用の総額について、確度の高い見積りができていないため今後更に精査が必要であるとしているものの、1処理施設当たりの解体・撤去等費用を一律に150億円と想定するなどして、29年度長期計画において前記のとおり1000億円を見込んでいる。
しかし、会社が平成29年度に実施した「PCB廃棄物処理施設の解体撤去に関する技術ヒアリング業務」において、処理施設を整備したプラントメーカーに解体・撤去等の仕様を示して徴した見積りに基づき算出される7処理施設に係る解体・撤去等費用は、PCBの付着状況及び除去分別の方法、解体方法等の条件によっては29年度長期計画の解体・撤去等費用1000億円を大きく上回る額になると報告されている。
このように、29年度長期計画で見込まれている7処理施設の解体・撤去等費用1000億円については、会社が今後更に精査が必要であるとしていること、上記の報告によれば、PCBの付着状況及び除去分別の方法、解体方法等の条件によっては費用が高額なものになると想定されていることなどを勘案すると、今後のPCBの付着状況の調査、PCBの除去分別の方法等の検討等の結果次第では、更に高額になるおそれがあり、そのような場合には、令和元年度以降の追加出資額が前記の想定額545億円を上回るおそれもある。
そして、会社は、中長期経営計画において、処理施設の解体・撤去等に向けた体制を構築し、様々な技術的な課題に対してスケジュール感を持って解決を図るとしており、収支相償を実現するための解体・撤去等費用の見積り作業について、平成29年度末を目指して進めるとしていた。
しかし、会社は、事業終了準備期間に入っている北九州(I期)処理施設において、先行的にPCBの付着状況の調査を実施したり、設備の一部について先行的に解体・撤去等を実施するなどして解体・撤去等に係る各種手法・技術の安全性、有効性等を確認したりするなどの取組を進めているが、令和元年7月時点において、収支相償の実現に向けた7処理施設の解体・撤去等に関する技術的な課題の解決や解体・撤去等費用の見積りをするための具体的な計画策定を終えておらず、確度の高い解体・撤去等費用の見積りはできていない。
環境省は、ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基金のうち軽減事業に係る支出に充てる分(以下「軽減事業分」という。)の所要額を560億円と算定し、このうち機構法に基づき同省が軽減事業分の造成のために負担することになっている280億円については、平成13年度から30年度までの間に、機構に対して推進費補助金として交付している。そして、機構は、17年度から30年度までの間に計203億余円を軽減事業分から取り崩して会社に助成金として交付しており、30年度末における軽減事業分の残高は367億余円となっている(図表8参照)。
図表8 軽減事業分の造成額、取崩し額等(平成13年度~30年度)
年度
(平成) 収入内訳 |
13~15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 累計 | |
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造成額 | 120 | 40 | 40 | 40 | 40 | 40 | 40 | 38 | 28 | 28 | 28 | 13 | 13 | 13 | 13 | 13 | 553 | |
うち推進費補助金 | 60 | 20 | 20 | 20 | 20 | 20 | 20 | 20 | 15 | 15 | 15 | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 | 280 | |
取崩し額 | ― | ― | 0 | 0 | 2 | 7 | 11 | 14 | 17 | 24 | 22 | 21 | 21 | 19 | 19 | 20 | 203 | |
各年度末の残高 | 120 | 160 | 200 | 241 | 280 | 315 | 347 | 373 | 387 | 393 | 400 | 393 | 385 | 380 | 374 | 367 |
環境省は、29年度末時点における高濃度PCB廃棄物等の保管量及び所有量を基に、掘り起こし調査により発見が推定される率(以下「掘り起こし率」という。)を乗ずるなどして、軽減事業の対象となる中小企業者等における高濃度PCB廃棄物等の保管量等を推定している。同省は、中小企業者等における高濃度PCB廃棄物等の保管量等の推定に当たり、変圧器及びコンデンサーについては過去の掘り起こし調査の実績値に基づく掘り起こし率を用いているが、安定器については掘り起こし調査の実績が少ないことから変圧器及びコンデンサーに比べて掘り起こし調査により発見される可能性が高いことを想定した掘り起こし率を用いている。
そして、この保管量等に助成単価を乗ずるなどして、30年度以降の取崩し見込額を、安定器については285億余円、安定器以外については92億余円、計377億余円と試算して、29年度末の軽減事業分の残高374億余円は全て使用されるとしている。
しかし、前記のとおり、安定器については、掘り起こし調査を終了していない都道府県市が多い状況となっており、今後の安定器の掘り起こし調査の進捗に伴い、その結果次第では、軽減事業分の取崩し見込額は変動し、軽減事業分の残高に過不足が生ずるおそれがあり、そのような場合には、国の財政負担に対して影響を与えるおそれがある。
PCB廃棄物処理事業については、世界でも類をみない大規模な化学処理方式による処理を実施していることなどから、処理施設の操業開始後に発生した問題により事業が遅延するなどしてきたが、会社は、再発防止対策や一層の安全衛生対策を講ずるなどしてきた。そして、会社は、高濃度PCB廃棄物を処理する唯一の事業者として重要な役割を担っており、今後も、事業の円滑な終了に向けて、環境と安全に留意しつつ、確実かつ適正な処理を進めるとともに、処理施設の解体・撤去等の準備及びその実施を図る必要がある。また、国は、高濃度PCB廃棄物の確実かつ適正な処理を確保するための体制の整備やその他必要な措置を講ずるよう努めるとともに、国の財政負担について明らかにすることが求められる。
このような中で、都道府県市が行う掘り起こし調査について、掘り起こし調査の終了後に高濃度PCB廃棄物等の所在が確認されることがあることなどから、都道府県市は、未回答事業者に最終通知を送付する前に十分なフォローアップ調査等を行うことにより、高濃度PCB廃棄物等の所在を確実に把握することが重要である。
そして、会社は、29年度長期計画において、今後の処理施設の解体・撤去等費用に対する追加出資を見込んで最終的に収支相償になるとしているが、令和元年7月時点で確度の高い解体・撤去等費用の見積りはできていない。
したがって、環境省及び会社は、次のような点に留意して、PCB廃棄物処理事業を実施することなどが重要である。
本院としては、会社が実施するPCB廃棄物処理事業の実施状況、国の財政負担の状況等について、引き続き注視していくこととする。