会計検査院は、特別措置が「公平・中立・簡素」という税制の基本原則の例外措置として設けられていることや、30年以上にわたって法定繰入率の見直しが行われていないことなどを踏まえて、有効性等の観点から、①繰入率特例における繰入限度額は、貸倒実績率等をしんしゃくしつつ、合理的に測定された適正なものとなっているか、②期末一括評価債権額の算出は合理的なものとなっているか、③割増特例は、課税の公平原則に照らして国民の納得できる必要最小限のものとなっているか、④関係省庁及び財務省における貸倒引当金の特例の検証は適切に行われているかなどに着眼して検査したところ、次のような状況が見受けられた。
会社標本調査の対象となった内国普通法人における事業区分ごとの貸倒損失発生率を算出したところ、全事業区分において法定繰入率が貸倒損失発生率を大幅に上回っていた。そして、5省庁において、法定繰入率と貸倒実績率とのかい離の状況等を把握しているか確認したところ、金融庁及び農林水産省は、それぞれの所管している法人からアンケートを徴するなどして、かい離の状況等を把握していた。一方、厚生労働省、経済産業省及び国土交通省は、それぞれの所管している法人におけるかい離の状況等を把握していなかった。かい離の状況等を把握していた農林水産省から会計実地検査等で提出を受けた資料により、農業協同組合等537法人の27終了事業年度における繰入率特例による法人税の減収額を推計したところ、計133億余円となった。さらに、財務省から会計実地検査等で提出を受けた資料等によれば、金融庁は信用金庫及び信用組合に係る法人税等の減収額を約285億円(うち法人税の減収額は約199億円)と推計していた。
このように、法定繰入率と貸倒損失発生率との間に大幅なかい離があることなどから、繰入率特例における繰入限度額は合理的に測定されるなどしたものとなっているとはいえないおそれがあると認められる(1016_3_1_1リンク参照)。
56税務署における消費税等の課税事業者で所得がある1,494法人について、消費税等の課税事業者において損失とはならない仮受消費税相当額に係る貸倒引当金繰入額のうち損金の額に算入されたと見込まれる額は、計10億4100万余円であり、これを基に推計した法人税の減収額は計2億4668万余円となっていた。
このように、消費税等の課税事業者において生ずる仮受消費税相当額を期末一括評価債権額に含めて繰入限度額を算出しているため、損金の算入額が必ずしも合理的なものとはなっていないと思料される(1016_3_1_2リンク参照)。
(ア)及び(イ)のとおり、法定繰入率と貸倒損失発生率との間に大幅なかい離があること、期末一括評価債権額に損失とならない仮受消費税相当額が含まれていることなどから、繰入率特例における繰入限度額は合理的に測定されるなどしたものとなっているとはいえないおそれがあると認められる(a-1リンク参照)。
e-Taxデータを基に分析した割増適用金融機関277法人における割増適用減税額は計18億1472万余円となっていた。一方、割増適用金融機関の多くについて、自己資本比率が銀行平均値である10.7%以上となっていたり、利益剰余金の額が平均利益剰余金である8億8649万円以上となっていたりなどしていて、その財務基盤は充実していると思料された。このように、財務基盤の強化を図るという割増特例の目的に照らして、割増特例の対象が必要最小限のものとなっているとはいえないおそれがあると認められる(1016_3_2リンク参照)。
繰入率特例については、政策評価法等において、政策評価の義務付け対象とはなっていないため、5省庁は事前評価及び事後評価を行っていなかった。また、5省庁は税制改正の要望を行っていないため、要望の際の検証を行っていなかった。
一方、割増特例については、5省庁は政策評価法等に基づく検証を行っており、また、1年から3年ごとに税制改正要望の際の検証を行っていた。しかし、政策評価の内容をみると、効果の測定に用いられた指標は、融資先への貸出残高や中小企業の資金繰りDI等となっており、割増特例が割増特例対象法人の財務基盤の強化に及ぼす効果を直接示すと思料される指標は含まれていなかった。また、5省庁は、税制改正要望の際に、課税の公平原則に照らして、国民の納得できる必要最小限の特別措置となっているか否かについての検証を行っていなかった(1016_3_3リンク参照)。
特別措置は、「公平・中立・簡素」という税制の基本原則の例外措置として設けられているものであり、その効果を不断に検証して真に必要なものに限定すべきであるとされている。
貸倒引当金の特例について、繰入率特例に係る適用実態調査が実施されていないため適用実績の把握が困難な場合もあるものの、繰入率特例においては、繰入限度額が合理的に測定されるなどしたものとなっているとはいえないおそれがあること、割増特例においては、その対象が必要最小限のものとなっているとはいえないおそれがあることを踏まえ、5省庁は、引き続きその検証等の基礎となる適用実績の把握等に努めるなどして、適用実態等からみて国民の納得できる必要最小限のものとなっているかなどの観点により検証を行い、国民に対する説明責任を的確に果たしていくことが望まれる。
また、財務省においても、貸倒引当金の特例について今後とも十分に検証していくことが望まれる。
会計検査院としては、今後とも貸倒引当金の特例の適用状況並びに関係省庁及び財務省による検証状況について、引き続き注視していくこととする。