国は、地方公共団体及び法人等(注1)が、基金を設置又は積増し(以下「設置造成」という。)して、単年度では完結しない特定の目的を持つ事務又は事業(以下「基金事業」という。)を実施する場合に、その基金の設置造成に必要な資金の全部又は一部を対象として、当該地方公共団体及び法人等に国庫補助金又は国庫交付金(以下「国庫補助金等」という。)を直接又は間接に交付している。そして、国庫補助金等の交付を受けて基金を設置造成した地方公共団体及び法人等は、国の交付要綱等に基づき、設置造成した基金を他の事業の財源と区分して経理し、基金事業を実施している。
上記の基金を運営形態別に分類すると、おおむね次のとおりとなる。
政府は、これまで基金に係る制度の見直しなどについて検討を行っており、平成18年以降、政府が実施した主な見直しなどの状況は、次のとおりである。
政府は、18年8月に、「補助金等の交付により造成した基金等に関する基準」(平成18年8月閣議決定。以下「基金基準」という。)を閣議決定し、国庫補助金等の交付を受けて設置造成した基金を保有する法人(独立行政法人、特殊法人、認可法人及び共済組合を除く。以下、この基金基準の対象となる法人を「基金法人」という。)が当該基金により実施している事業に関して、国庫補助金等の交付元府省が国庫補助金等の交付要綱等に基づく指導監督を行う場合の基準を定めている。
基金基準において、各府省は、国庫補助金等を交付する際に、基金事業を終了する時期(以下「終期」という。)を設定し、これを交付要綱等に明記するとともに、基金法人において、①少なくとも5年に1回は定期的に見直しをすること、②あらかじめ事業の効果に着目して定めた目標の達成度を評価し、当該結果を公表すること、③定期的な見直しの際に、基金の規模が過大となっていないかなどの状況を客観的に把握するために、基金事業に要する費用に対する保有金額等の割合(以下「保有割合」という。)を合理的な事業見通しなどを用いて算出すること、④直近3年以上事業実績がない基金、保有割合が1を大幅に上回っている基金等の使用見込みの低い基金については、定期的な見直しの際に国庫補助金等の国庫への返納等その基金の取扱いを検討することなどの基準を明記することとなっている。また、基金法人及び各府省は、基金の名称、基金額、終期、定期的な見直しの時期、基金事業の目標等を公表することとなっている。
政府は、国民本位で時代に即した合理的かつ効率的な行政を実現するために、行政改革を政府一体となって、総合的かつ積極的に推進することを目的として、25年1月に閣議決定により内閣に行政改革推進本部を設置するとともに、行政改革に関する重要事項の調査審議等を実施するために、同本部の下に行政改革推進会議を設置した。
そして、同会議は、「今後の行政事業レビューの実施等について」(平成25年4月行政改革推進会議)及び「行政事業レビュー実施要領」(平成25年4月行政改革推進会議。以下「実施要領」という。)を策定して行政事業レビューの実施とその詳細を決定し、政府は、その取組として「行政事業レビューの実施等について」(平成25年4月閣議決定)を閣議決定した。これにより、各府省は、実施要領等に基づき、国庫補助金等の交付を受けて基金を設置造成した地方公共団体及び国庫補助金等の交付を受けた地方公共団体から間接交付された資金により基金を設置造成した法人等(以下、これらを合わせて「地方公共団体等」という。)に係る基金並びに基金法人及び国庫補助金等の交付を受けて設置造成した基金を保有する独立行政法人等(以下、これらを合わせて「基金法人等」という。)に係る基金について、基金別に執行状況等の点検を行っている。また、基金の名称、基金額、基金事業の概要、成果目標、成果実績、収支の状況、基金方式(国庫補助金等により設置造成された基金により事業を実施する方式をいう。)の必要性等について、地方公共団体等に設置造成された基金については、26年度以降、「地方公共団体等保有基金執行状況表」(以下「執行状況表」という。)により、基金法人等に設置造成された基金(執行状況表により公表している基金を除く。)については、それ以前の25年度以降、「基金シート」により、それぞれ基金の設置造成に充てられた資金を予算計上した各府省が毎年度9月末を目途に前年度の状況を公表することとなっている。さらに、基金法人等に設置造成された基金については、基金シートを通じた各府省の自己点検等の取組状況は、25年から公表されて明らかとなっている。一方、地方公共団体等に設置造成された基金については、各府省において、地方公共団体の事務負担に留意しつつ、基金法人等に設置造成された基金と同様に基金の執行状況等の自己点検等を行い、余剰金があれば、地方公共団体に国庫納付を促すこととなっており、各府省の執行状況表を通じた自己点検等の取組状況は、30年9月から公表されることとなった。
「経済財政運営と改革の基本方針2014」(平成26年6月閣議決定。以下「基本方針」という。)によれば、公的部門の改革の推進における財政の質の向上を図るための政府の方針として、基金は、利点もある一方で、執行管理の困難さも指摘されていることから、基金の設置造成については、財政規律の観点から、厳に抑制するとともに、国から交付された補助金等により独立行政法人、公益法人等や地方公共団体に造成された基金の執行状況を全て公表して、使用実績も踏まえながら使用見込みの低い基金については返納を検討するとされている。
各省各庁の長が基金造成費補助金等(注2)を交付する場合に補助事業者等に対して付すべき条件の明確化を図るために、26年10月に「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令の一部を改正する政令」(平成26年政令第341号。以下「改正政令」という。)が施行され、これにより、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令(昭和30年政令第255号)が改正された(以下、改正後の施行令を「改正適正化令」という。)。そして、改正適正化令第4条第2項の規定において、これまで法令上明確でなかった基金事業の性質について、「複数年度にわたる事務又は事業であって、各年度の所要額をあらかじめ見込み難く、弾力的な支出が必要であることその他の特段の事情があり、あらかじめ当該複数年度にわたる財源を確保しておくことがその安定的かつ効率的な実施に必要であると認められるもの」と規定された。また、国庫補助金等の交付の目的を達成するために必要がある場合には、その交付の条件として、補助事業等の完了後においても従うべき事項等を定めるものとすることとなっていて、同項の規定において、国庫補助金等が基金造成費補助金等に該当する場合には、次の事項を定めることとなっている。
また、26年10月に、改正政令の施行に関し必要な事項を示すために、財務大臣は、各省各庁の長宛てに「基金造成費補助金等の活用に関する指針について」(平成26年10月財計第2534号。以下「指針」という。)を発出した。
指針によれば、具体の事務又は事業が、前記の「複数年度にわたる事務又は事業であって、各年度の所要額をあらかじめ見込み難く、弾力的な支出が必要であることその他の特段の事情があり、あらかじめ当該複数年度にわたる財源を確保しておくことがその安定的かつ効率的な実施に必要であると認められるもの」に該当するか否かについては、個々に判断することとなるが、①不確実な事故等の発生に応じて資金を交付する事業、②資金の回収を見込んで貸付けなどを行う事業、③当該事業の実施が他の事業の進捗に依存するものについては、基金事業の性質に該当し得ると考えられるとされている。他方、これら以外の事務又は事業については、基金造成費補助金等によることなく対応することが可能か不断に検討すべきであるとされている。さらに、指針において、各省各庁の長は、保有割合、保有割合の算定根拠、基金事業の目標に対する達成度等の情報を交付要綱等に基づき毎年度報告させて、これらの情報に基づき毎年度基金の見直しを行うとともに、これらの情報を基金シートや執行状況表により公表することとなっている。そして、基金法人等に設置造成された基金については、基金基準に従うなどして、地方公共団体等に設置造成された基金については、基金基準を参考として、それぞれ、あらかじめ基金の廃止時期を設定するとともに、当該廃止時期が到来する前の時点においても、基金の額が過大であるか否かを不断に確認することなどとなっている。
また、改正適正化令(第4条第2項)は、改正政令の施行後に、基金を設置するために交付する基金造成費補助金等及び既存の基金に積増しを行うために交付する基金造成費補助金等を対象とするものであるが、前記の(ア)から(ウ)までの各事項に関しては、積増しを行わない基金も、補助事業者等と協議して、できる限り、交付要綱等に改正適正化令と同旨の内容を盛り込むよう努めるものとすることとなっている。
このように、基金法人等に設置造成されている基金については、18年度に定められた基金基準に基づくなどして10年以上にわたり見直しが行われてきており、基金シートを通じた各府省の自己点検等の取組状況は、25年から公表されて明らかとなっている。一方、地方公共団体等に設置造成されている基金については、26年10月の改正政令の施行に伴う見直しや前記の行政事業レビューによる見直しなどが行われており、各府省の自己点検等の取組状況は、30年9月から公表されることとなった。
各府省が公表している執行状況表及び基金シートにより、地方公共団体等及び基金法人等に設置造成されている基金について、28年度の状況をみると、図表1のとおり、基金数は計2,566基金あり、基金保有額は計5兆6674億余円(国庫補助金等相当額計4兆9578億余円)と多額となっている。そして、地方公共団体等に設置造成されている基金は、基金法人等に設置造成されている基金の基金数の約3.7倍となっており、基金保有額も依然として多額となっている。
図表1 地方公共団体等及び基金法人等に設置造成されている基金に係る基金数及び基金保有額の状況(平成28年度)
区分 | 基金数 | 基金保有額 | |
---|---|---|---|
うち国庫補助金等相当額 | |||
地方公共団体等 | 2,021 | 2兆9161 | 2兆4938 |
基金法人等 | 545 | 2兆7512 | 2兆4639 |
計 | 2,566 | 5兆6674 | 4兆9578 |
また、28年度における府省別基金保有額等の状況をみると、図表2のとおり、基金保有額が最も多いのは、復興庁で計2兆1820億余円(153基金)、次いで農林水産省で計1兆0694億余円(752基金)となっている。
図表2 府省別基金保有額等の状況(平成28年度)
府省名 | 地方公共団体等 | 基金法人等 | 計 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
基金数 | 基金保有額 | 基金数 | 基金保有額 | 基金数 | 基金保有額 | ||||
うち国庫補助金等相当額 | うち国庫補助金等相当額 | うち国庫補助金等相当額 | |||||||
内閣府 | 81 | 566 | 457 | 0 | - | - | 81 | 566 | 457 |
復興庁 | 128 | 1兆6718 | 1兆6718 | 25 | 5101 | 4963 | 153 | 2兆1820 | 2兆1682 |
総務省 | 0 | - | - | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
外務省 | 0 | - | - | 1 | 123 | 123 | 1 | 123 | 123 |
財務省 | 0 | - | - | 1 | 34 | 21 | 1 | 34 | 21 |
文部科学省 | 61 | 217 | 217 | 2 | 1093 | 1093 | 63 | 1310 | 1310 |
厚生労働省 | 753 | 7635 | 4585 | 9 | 1833 | 1833 | 762 | 9468 | 6418 |
農林水産省 | 378 | 1104 | 712 | 374 | 9589 | 8209 | 752 | 1兆0694 | 8921 |
経済産業省 | 280 | 1522 | 1256 | 90 | 4242 | 3970 | 370 | 5764 | 5227 |
国土交通省 | 67 | 41 | 33 | 26 | 3911 | 3685 | 93 | 3953 | 3718 |
環境省 | 98 | 1148 | 752 | 11 | 1349 | 507 | 109 | 2498 | 1259 |
防衛省 | 175 | 240 | 238 | 1 | 1 | 1 | 176 | 242 | 240 |
総務省、経済産業省及び環境省 | 0 | - | - | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
総務省及び経済産業省 | 0 | - | - | 1 | - | - | 1 | - | - |
国土交通省及び環境省 | 0 | - | - | 1 | 230 | 230 | 1 | 230 | 230 |
経済産業省、国土交通省及び環境省 | 0 | - | - | 1 | - | - | 1 | - | - |
計 | 2,021 | 2兆9161 | 2兆4938 | 545 | 2兆7512 | 2兆4639 | 2,566 | 5兆6674 | 4兆9578 |
会計検査院は、従来、国庫補助金等により設置造成された基金について検査を行っているところであり、地方公共団体等に設置造成された基金については、会計検査院法第30条の2の規定に基づき、23年10月に国会及び内閣に報告した「国庫補助金等により都道府県等に設置造成された基金について」において、地方公共団体等が主体的に基金事業の見直しに努めるとともに、国庫補助金等の交付元府省において交付要綱等に基金事業の見直しの基準等を明記したり、使用見込みのない余剰金がある場合に国庫補助金等相当額を国に返還する旨の規定を定めたりなどして、基金が適切な基金規模となるよう努める必要があるとの所見を記述している。
また、同法第30条の3の規定に基づき、29年4月に参議院に報告した「東日本大震災からの復興等に対する事業の実施状況等に関する会計検査の結果について」において、国庫補助金等を原資として設置造成が行われる基金により復旧・復興事業として実施される事業(以下「復興関連基金事業」という。)について、国は、国からの国庫補助金等の交付を受けて基金を設置造成した地方公共団体、公益法人その他の団体と十分に連携して適切な基金の執行管理を行うとともに、使用見込みのない余剰金等が生じている場合には、これを国庫に返納することを要請するなど、資金が適切かつ有効に活用されるよう努めること、また、東日本大震災復興交付金を原資として基金の設置造成等を行うなどして実施される事業(以下「復興交付金事業」という。)について、基金を設置造成して実施する事業において取崩未済額が多額となっている状況等を踏まえて、国は、適切な同交付金の配分を行うとともに、事業が完了して生じた残余額等について、着実な縮小を図ることなどに留意するなどして、復興施策の推進及び支援に適切に取り組む必要があるとの所見を記述している。
これらのほか、会計検査院は、個別の基金について、同法第34条又は第36条の規定に基づき意見を表示し又は処置を要求するなどしており、平成27年度決算検査報告を例にとると「地域子育て支援拠点事業に係る国庫補助金の交付額の算定に当たり、地域の子育て支援活動の展開を図るための取組に係る加算分の算定が適正に行われるよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの」などを掲記している。