外務省は、我が国へ飛来し得る黄砂等の中華人民共和国(以下「中国」という。)の環境問題への対処、青少年等の交流を通じた環境意識の啓発と対日理解の一層の促進、砂漠化防止等への貢献を図ることで、中国との関係改善の流れを一層力強いものにするとともに、国際社会の課題に対処することを通じて戦略的互恵関係の強化につなげていくため、「日中植林・植樹国際連帯事業の実施について」(平成28年3月1日付け亜中モ2第2592号)において拠出金の使用に関するガイドライン及び事業実施計画(以下「ガイドライン等」という。)を定め、平成28年3月に任意拠出金(注)である日中植林・植樹国際連帯事業拠出金(以下「国際連帯事業拠出金」という。)90億円を公益財団法人日中友好会館(以下「会館」という。)に一括で拠出している。
ガイドライン等によれば、日中植林・植樹国際連帯事業(以下「国際連帯事業」という。)は、国際連帯事業拠出金により実施することとされており、会館は、次の事業を実施することとされている。
そして、外務省は、国際連帯事業を28年度から複数年にわたり実施することとし、我が国拠出分の計画額を植林事業35億1000万円、青少年等交流事業32億4000万円及び第三国事業22億5000万円と設定している。
政府は、18年8月に、「補助金等の交付により造成した基金等に関する基準」(以下「基金基準」という。)を閣議決定し、補助金等の交付により造成された基金等(資金等の名称が使用されている場合も含む。以下「基金」という。)を保有する法人(独立行政法人、特殊法人、認可法人及び共済組合を除く。以下「基金法人」という。)が基金により2か年度以上にわたり実施する事業に関して、補助金等を交付した府省が補助金等の交付要綱等に基づく指導監督を行う場合の基準を定めている。そして、基金基準によれば、各府省は、補助金等を交付し、基金を設置する場合には、使用見込みの低い基金に関する基準等を交付要綱等に明記することなどにより、直近3年以上事業実績がないなどの使用見込みの低い基金については、基金法人に対して使用見込みのない資金として国庫へ返納することなどの取扱いを検討させることなどとされている。
また、各府省は、「行政事業レビュー実施要領」(平成25年4月行政改革推進会議。以下「実施要領」という。)等に基づき、基金法人等に造成した基金について、透明性を確保するとともに、余剰資金の有無等に係る厳格な点検を行うため、毎年度、基金シートを作成し、公表するとともに、基金基準を踏まえた基金の点検を基金シートを通じて行うこととされている。そして、基金シートの作成対象となる基金は、国から交付された資金(補助金、交付金、貸付金、拠出金等)の名称の別を問わず、国から交付された資金を原資として造成されたものとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、効率性、有効性等の観点から、国際連帯事業拠出金が活用されているか、拠出後の状況に応じて事業内容の見直しを行っているかなどに着眼して、外務省が会館に対して拠出した国際連帯事業拠出金90億円を対象として、外務本省において国際連帯事業の実施状況等に関する関係資料の提出を受けるなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
国際連帯事業の実施状況について、青少年等交流事業(計画額32億4000万円)は、28年度から毎年度実施されており、令和元年度末までの4か年度の執行額は26億3795万余円となっていた。一方、植林事業(計画額35億1000万円)及び第三国事業(計画額22億5000万円)は、事業が実施されておらず、元年度末において両事業に係る計画額計57億6000万円(拠出金相当額同額)の資金が活用されていなかった。
これについて、外務省は、植林事業及び第三国事業については、中国及び第三国における環境問題への対処及び砂漠化防止等の国際社会の課題への貢献であり、国民の理解を得て事業を進めるためには日中両国が事業経費を負担すべきとの考え方の下で、日中両国があらかじめ共同で拠出した資金を活用して事業を実施することについての協議を中国側と行っていたとしている。そして、外務省は、上記の協議において、資金拠出についての文書等による明確な合意には至っていなかったものの、協議の過程において中国側から資金拠出の可能性について検討している旨の意思表示があったことなどから、平成28年3月に国際連帯事業拠出金を会館に拠出したとしている。しかし、令和2年7月現在においても協議に明確な進展はなく、植林事業及び第三国事業の実施見通しが立っていない状況となっていた。
また、外務省は、会館において複数年度にわたって事業を実施するために国際連帯事業拠出金を拠出しているのに、交付した資金の名称が「拠出金」であったことなどから基金基準等の対象であると認識していなかった。このため、国際連帯事業拠出金について、基金基準に基づく指導監督として会館に対して使用見込みの低い資金の取扱いを検討させたり、実施要領に基づく基金シートの作成や基金シートを通じた点検等を行ったりしていなかった。そして、2年7月現在において、事業内容の見直しなどに係る具体的な方策は講じられておらず、また、使用見込みの低い資金の取扱いについての検討も行われていなかった。
しかし、基金基準等は、国から交付された資金の名称の別を問わず、国から交付された資金により造成された基金を対象としていることから、外務省は、国際連帯事業拠出金について、基金基準等に基づく指導監督及び点検等を行う必要があった。
このように、国際連帯事業拠出金の拠出後4年以上の間、植林事業及び第三国事業(拠出金相当額57億6000万円)について実施見通しが立っておらず、基金基準等に基づく指導監督及び点検等が行われないまま資金が活用されずに会館に保有されている状況が継続している事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、外務省において、次のことによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、外務省は、植林事業及び第三国事業の実施に係る中国側との協議において、日中両国があらかじめ共同で拠出した資金を活用して事業を実施するのではなく、個別の植林事業又は第三国事業が実施される際に日中両国が費用を負担して事業を実施することなどとなったことを踏まえて、国際連帯事業拠出金の活用方策の検討を行った。そして、外務省は、2年9月に、ガイドライン等を改定して、植林事業及び第三国事業の事業内容を見直した上で事業を実施すること、基金基準等に基づく指導監督及び点検等を行うことにより、事業の実施状況に応じて事業内容を見直すとともに、会館に対して使用見込みの低い資金の取扱いを検討させることなどを定めて、事業の実施見通しが立たないことなどにより使用見込みのない資金が生ずる場合には、その資金を国庫に返納させることとした。
そして、外務省は、同月に、会館に対して通知を発して、上記のガイドライン等に基づいて事業を実施するよう周知するとともに、関係部局に対して通知を発して、今後、基金法人が複数年度にわたり実施する事業に関して任意拠出金を拠出する場合に同様の事態が生じないよう周知徹底する処置を講じた。