1件 不当と認める国庫補助金 5,538,000円
国宝重要文化財等保存整備費補助金(重要伝統的建造物群保存地区保存事業)は、文化財保護法(昭和25年法律第214号)の趣旨にのっとり、文化財の適正な保存管理とその活用を図り、もって文化財保護の充実に資することを目的として、重要伝統的建造物群保存地区が所在する市町村に対して、文化財保存事業費関係補助金交付要綱(昭和54年文化庁長官裁定。以下「交付要綱」という。)等に基づき、事業に要する経費の一部を国が補助するものである。
交付要綱等において、補助事業の補助対象経費は、伝統的建造物(文化財である伝統的建造物群を構成している建築物等をいう。)の修理や伝統的建造物以外の建築物の修景(注1)に係る工事経費等となっている。
本院が、9府県、14府県の44市町村、17法人等において会計実地検査を行ったところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
部局等 |
補助事業者 |
間接補助事業者等
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補助事業 | 年度 |
補助対象経費 | 左に対する国庫補助金交付額 | 不当と認める補助対象経費 | 不当と認める国庫補助金 | 摘要 |
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---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
千円 | 千円 | 千円 | 千円 | |||||||
(36) | 新潟県 |
佐渡市 |
A (事業主体) |
重要伝統的建造物群保存地区保存 |
28 | 8,520 | 5,538 | 8,520 | 5,538 | 木造建築物の設計が適切でなかったもの |
(注) 事業主体名のアルファベットは、個人事業者を示している。
この補助事業は、佐渡市宿根木伝統的建造物群保存地区に建築物を所有するAが、平成28年度に、同地区内において、柱、土台、筋交いなどの部材で骨組みを構成する木造軸組工法により、木造2階建ての納屋1棟(以下「木造建築物」という。)を新築する修景事業を行ったものである。
佐渡市は、Aによる修景事業に先立ち、同市が木造建築物の設計監理業務を設計コンサルタントに委託して当該業務の成果品として受領した設計図書等をAに交付し、これらを用いて修景事業を行うことを求めていた。そして、Aは、当該設計図書等に基づき木造建築物を施工していた。
木造建築物は、建築基準法(昭和25年法律第201号)等に基づき、地震や風により生ずる水平力に抵抗するために、柱と柱との間に筋交いなどを設置した耐力壁を張り間方向(注2)及び桁行方向(注2)に配置し、設計計算上の耐力壁の長さが水平力に対して必要な長さをそれぞれ上回るなど設計計算上安全な構造のものでなければならないこととなっている。そして、耐力壁を構成する柱については、水平力により生ずる引抜力に抵抗するために、同法等に基づく告示「木造の継手及び仕口の構造方法を定める件」(平成12年建設省告示第1460号)等に基づき、同告示に定める表又は設計計算により、耐力壁の種類、柱の位置等に応じて、必要な引抜耐力を有する金物等を選定し、土台等と接合することとなっている(参考図参照)。
しかし、同市は、設計図書等において、耐力壁の種類、位置等についての記載が全くなく、木造建築物の設計計算上の耐力壁の長さが水平力に対して必要な長さを上回っているかを確認するための計算が全く行われていなかったにもかかわらず、これを確認していなかった。そこで、木造建築物に設けられた壁が設計計算上耐力壁と認められるものとなっているか確認したところ、筋交いを設けた壁が張り間方向に3か所、桁行方向に4か所配置されていたものの、壁を構成する柱と土台等が必要な引抜耐力を有する金物で接合されていないなどしていた。そして、土台等との接合方法が適切でない柱で構成された壁は設計計算上耐力壁とは認められないことから、有効な設計計算上の耐力壁の長さを算出したところ、張り間方向で2.22m、桁行方向で4.66mとなり、水平力に対して必要な長さ11.45m及び8.19mを大幅に下回っていた。
したがって、木造建築物は、設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る国庫補助金相当額5,538,000円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、同市において委託した設計監理業務の成果品に誤りがあったのにこれに対する検査が十分でなかったこと、新潟県において実績報告書等の審査が十分でなかったことなどによると認められる。
(参考図)
耐力壁の概念図