キャリア形成促進助成金(平成29年4月以降は人材開発支援助成金(注)。以下「助成金」という。)は、雇用保険で行う事業のうちの能力開発事業の一環として、雇用保険法(昭和49年法律第116号)等に基づき、企業内における労働者のキャリア形成の効果的な促進に資するために、労働者に対して職務に関連した専門的な知識及び技能の習得をさせるための職業訓練又は教育訓練(以下「訓練等」という。)を実施するなど職業能力開発に係る支援を実施した事業主に対して、訓練等に要した経費、訓練期間中の賃金の一部等を国が助成するものである。助成金の対象となる取組には、一般型訓練コース、重点訓練コース、雇用型訓練コース等があり、これらの取組のうち、一般型訓練コースには一般企業型訓練(27年度以前は一般型訓練)等の2種類の訓練等が、重点訓練コースには若年人材育成訓練(27年度以前は政策課題対応型訓練の若年人材育成コース)等の5種類の訓練等が、雇用型訓練コースには認定実習併用職業訓練等の3種類の訓練等がある。
助成金の支給要件は、事業主が、訓練等に要した経費を全て負担していること、訓練等に要した経費の負担の状況を明らかにする書類を整備していることなどとなっている。また、助成対象労働者が通常の業務を離れて行う訓練等(以下「OFF―JT」という。)や労働者に仕事をさせながら行う訓練等(以下「OJT」という。)を受講した時間に係る賃金に対する助成については、所定労働時間内に実施された訓練等の時間のみを助成対象とすることなどとなっている。
助成金の支給を受けようとする事業主は、訓練等を開始する1か月前までに、訓練実施計画届、OFF―JTの実施内容等を確認するための書類等を都道府県労働局(以下「労働局」という。)に提出して、その内容の確認を受けることとなっている。そして、訓練等終了日の翌日から起算して2か月以内に、支給申請書にOFF―JT実施状況報告書、OJT実施状況報告書、所定労働日及び所定労働時間が分かる書類、事業主が訓練等に要した経費を全て負担していることを確認するための領収書等の関係書類を添えて、労働局に提出することとなっている。
支給申請書等の提出を受けた労働局は、訓練受講者に対する訓練等の実施状況や訓練等に要した経費の負担状況等を関係書類等に基づいて、事業主やその申請内容が助成金の支給要件を満たしているかなどについて審査した上で支給決定を行い、これに基づいて厚生労働本省又は労働局は助成金の支給を行うこととなっている。
また、労働局は、偽りその他不正の行為により本来受けることのできない支給を受けようとした事業主に対して不支給とすること、偽りその他不正の行為により本来受けることのできない支給を受けた事業主に対して、支給した助成金の全部又は一部の支給決定を取り消して返還の手続を行うことなどとなっている。
本院は、合規性等の観点から、事業主に対する助成金の支給決定が適正に行われているかに着眼して、27年度から令和元年度までの間に助成金の支給を受けた事業主から46事業主を選定して、助成金の支給の適否について、全国47労働局のうち、9労働局において会計実地検査を行った。
検査に当たっては、事業主から提出された支給申請書等の書類により会計実地検査を行い、適正でないと思われる事態があった場合には、更に当該労働局に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。
検査の結果、2労働局管内において平成27年度から30年度までに助成金の支給を受けた2事業主は、一般企業型訓練及び若年人材育成訓練において、訓練等に要した経費の支払の実績を偽ったり、認定実習併用職業訓練において、所定労働時間内に実施されておらず助成対象とならない訓練等の実施を助成対象に含めたりなどして助成金の支給を申請しており、これら2事業主に対する助成金の支給額計6,387,100円のうち計1,892,200円は支給の要件を満たしていなかったもので支給が適正でなく、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、事業主が誠実でなかったり、制度を十分に理解していなかったりしていたため、支給申請書等の記載内容が事実と相違するなどしていたのに、上記の2労働局において、これに対する審査が十分でないまま支給決定を行っていたことなどによると認められる。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
広島労働局は、事業主Aから、平成27年1月、28年3月及び同年8月に助成金に係る訓練実施計画届等の提出を受けていた。そして、事業主Aから、当該訓練実施計画届に沿って27年3月から28年11月までの間に一般企業型訓練及び若年人材育成訓練を実施して、訓練実施機関に訓練等に要した経費を支払ったとして、27年5月、28年8月及び29年1月に、支給申請書及び訓練等に要した経費の領収書等の添付書類の提出を受けて、これらの書類に基づき、助成金計1,287,400円の支給決定を行っていた。
しかし、実際には、事業主Aは、訓練等に要した経費を訓練実施機関に支払った事実がないにもかかわらず、訓練等に要した経費を負担したこととするために、かねて取引等の関係がある訓練実施機関に虚偽の領収書等を発行させて、これらの書類を支給申請書に添付するなどして同労働局に提出していた。これらのことから、事業主Aに対する助成金1,287,400円の全額が支給の要件を満たしていなかった。
なお、これらの適正でなかった支給額については、本院の指摘により、全て返還の処置が執られた。
これらの適正でなかった支給額を労働局ごとに示すと次のとおりである。
労働局名 |
本院の調査に係る事業主数 | 不適正受給事業主数 | 左の事業主に支給した助成金 | 左のうち不当と認める助成金 |
---|---|---|---|---|
千円 | 千円 | |||
岡山 |
5 | 1 | 5,099 | 604 |
広島 |
8 | 1 | 1,287 | 1,287 |
計 |
13 | 2 | 6,387 | 1,892 |