13件 不当と認める国庫補助金 203,320,000円
介護保険(前掲172ページの「介護給付費負担金が過大に交付されていたもの」参照)については各種の国庫助成が行われており、その一つとして、財政調整交付金が交付されている。財政調整交付金は、市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む。以下同じ。)が行う介護保険財政が安定的に運営され、もって介護保険制度の円滑な施行に資することを目的として、各市町村における介護給付等に要する費用の総額の5%に相当する額を国が負担して、これを各市町村に交付するもので、普通調整交付金と特別調整交付金とがある。
普通調整交付金は、市町村間で、市町村の区域内に住所を有する65歳以上の者(以下「第1号被保険者」という。)の総数に占める75歳以上の者の割合(以下「後期高齢者加入割合」という。また、第1号被保険者の総数に占める85歳以上の者の割合を「85歳以上後期高齢者加入割合」、第1号被保険者の総数に占める75歳以上85歳未満の者の割合を「85歳未満後期高齢者加入割合」という。)及び標準的な所得段階の区分(第1段階から第9段階まで。平成26年度以前は第1段階から第6段階まで)ごとの第1号被保険者の分布状況(以下「所得段階別加入割合」という。)に格差があることによって生ずる介護保険財政の不均衡を是正するために交付するものである。また、特別調整交付金は、災害その他特別の事情がある市町村に交付するものであり、被災するなどした被保険者に係る保険料の減免額等を交付の対象とするものである。
財政調整交付金の交付額は、普通調整交付金の交付額と特別調整交付金の交付額とを合算した額となっており、このうち普通調整交付金の交付額は、「介護保険の調整交付金等の交付額の算定に関する省令」(平成12年厚生省令第26号)等に基づき、次により算定することとなっている。
上記のうち、調整基準標準給付費額及び普通調整交付金交付割合については、次のとおりとなっている。
ア 調整基準標準給付費額は、当該市町村における前年度の1月から当該年度の12月までにおいて、①国民健康保険団体連合会が審査決定した居宅介護サービス費、施設介護サービス費等、②市町村が支払決定した高額介護サービス費等の支給を行う介護給付に要した費用、③国民健康保険団体連合会が審査決定するなどした介護予防サービス費等の支給を行う予防給付に要した費用の合計額から、前年度の12月から当該年度の11月までの間における損害賠償金等の収入額を控除した額とする。
イ 普通調整交付金交付割合は、後期高齢者加入割合補正係数と所得段階別加入割合補正係数を用いるなどして算出した割合であり、このうち、後期高齢者加入割合補正係数は、当該市町村において、介護保険事業状況報告(月報)により報告することとなっている前年度の1月報告分(12月末の人数)から当該年度の12月報告分(11月末の人数)までの後期高齢者数を基に算出される85歳以上後期高齢者加入割合及び85歳未満後期高齢者加入割合を、国から示される全ての市町村における85歳以上後期高齢者加入割合及び85歳未満後期高齢者加入割合とそれぞれ比較するなどして算出した係数(29年度までは、同期間の後期高齢者数を基に算出される後期高齢者加入割合を、国から示される全ての市町村における後期高齢者加入割合と比較するなどして算出した係数)である。また、所得段階別加入割合補正係数は、当該市町村において、毎年4月1日(保険料の賦課期日)における標準的な所得段階の区分ごとの第1号被保険者数を基に算出される所得段階別加入割合を、国から示される全ての市町村における所得段階別加入割合と比較するなどして算出した係数である。
財政調整交付金の交付を受けようとする市町村は、都道府県に交付申請書及び事業実績報告書を提出して、これを受理した都道府県は、その内容を添付書類により、また、必要に応じて現地調査を行うことにより審査し確認した上でこれを厚生労働省に提出して、同省は、これに基づき交付決定及び交付額の確定を行うこととなっている。
本院は、25年度から30年度までの間に交付された財政調整交付金について、17道県の66市町村、2一部事務組合及び3広域連合において会計実地検査を行った。その結果、10道県の12市町及び1広域連合において、後期高齢者加入割合補正係数又は所得段階別加入割合補正係数の算出を誤ったり、調整基準標準給付費額の算出を誤ったりして、普通調整交付金の交付額を過大に算定するなどしていたため、財政調整交付金交付額計8,493,279,000円のうち計203,320,000円が過大に交付されていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、12市町及び1広域連合において財政調整交付金の交付額の算定に当たり、制度の理解が十分でなかったり、確認が十分でなかったりしていたこと、10道県において事業実績報告書の審査が十分でなかったことなどによると認められる。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
岩手県花巻市は、平成30年度の普通調整交付金の交付額の算定に当たり、後期高齢者加入割合補正係数の算出において、29年度の1月報告分(29年12月末の人数)から30年度の4月報告分(30年3月末の人数)までの後期高齢者数について、85歳以上の後期高齢者数と85歳未満の後期高齢者数とを取り違えていたため、85歳以上の後期高齢者数を21,471人多く、85歳未満の後期高齢者数を同数少なく集計して85歳以上後期高齢者加入割合及び85歳未満後期高齢者加入割合をそれぞれ算出するなどしていた。
その結果、適正な後期高齢者加入割合補正係数により算出した普通調整交付金交付割合等に基づき普通調整交付金の交付額を算定すると、96,194,000円が過大に交付されていた。
<事例2>
福岡県飯塚市は、平成26、29両年度の普通調整交付金の交付額の算定に当たり、所得段階別加入割合補正係数の算出において、第1号被保険者数について、同市が独自に定める所得段階(15段階)ごとの人数を基に国が定める標準的な所得段階(9段階)ごとの人数を集計する際に、同市が独自に定める所得段階の第9段階から第15段階までは国が定める所得段階の第9段階に該当するのに、誤って、同市が独自に定める所得段階の第9段階に該当する者のみを算入するなどしていた。このため、国が定める所得段階が最も高い第9段階に該当する者の人数を実人数より少なく算出するなどしていた。
その結果、適正な所得段階別加入割合補正係数により算出した普通調整交付金交付割合等に基づき普通調整交付金の交付額を算定すると、計50,726,000円が過大に交付されていた。
以上を部局等別・事業主体別に示すと、次のとおりである。
部局等 |
補助事業者 (事業主体) |
年度 |
交付金交付額 | 左のうち不当と認める額 | 摘要 |
|
---|---|---|---|---|---|---|
千円 | 千円 | |||||
(107) | 北海道 |
夕張郡由仁町 |
28、29 | 92,499 | 2,264 | 後期高齢者加入割合補正係数の算出を誤っていたものなど |
(108) | 同 | 空知中部広域連合 |
27~29 | 680,889 | 2,052 | 調整基準標準給付費額の算出を誤っていたもの |
(109) | 岩手県 |
花巻市 |
30 | 764,876 | 96,194 | 後期高齢者加入割合補正係数の算出を誤っていたものなど |
(110) | 宮城県 |
塩竈市 |
29 | 276,169 | 1,799 | 所得段階別加入割合補正係数の算出を誤っていたものなど |
(111) | 山形県 |
南陽市 |
27~29 | 614,195 | 4,537 | 同 |
(112) | 同 | 最上郡真室川町 |
30 | 108,199 | 18,481 | 後期高齢者加入割合補正係数の算出を誤っていたものなど |
(113) | 群馬県 |
沼田市 |
29、30 | 664,852 | 6,150 | 所得段階別加入割合補正係数の算出を誤っていたものなど |
(114) | 石川県 |
能美市 |
27~30 | 443,754 | 3,325 | 後期高齢者加入割合補正係数の算出を誤っていたものなど |
(115) | 三重県 |
伊賀市 |
27~30 | 2,395,342 | 7,300 | 所得段階別加入割合補正係数の算出を誤っていたものなど |
(116) | 香川県 |
さぬき市 |
30 | 338,866 | 1,056 | 所得段階別加入割合補正係数の算出を誤っていたもの |
(117) | 福岡県 |
飯塚市 |
26、29 | 1,840,999 | 50,726 | 所得段階別加入割合補正係数の算出を誤っていたものなど |
(118) | 同 |
筑紫郡那珂川町 |
26~29 | 200,403 | 7,479 | 同 |
(119) | 沖縄県 |
八重山郡竹富町 |
26、28 | 72,236 | 1,957 | 調整基準標準給付費額の算出を誤っていたものなど |
(107)―(119)の計 | 8,493,279 | 203,320 |