厚生労働省は、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)に基づき、国民健康保険事業の円滑かつ健全な運営を期すことを目的として、各都道府県知事の認可を受けて設立されている団体である国民健康保険団体連合会(以下「国保連合会」という。)、及び公益社団法人国民健康保険中央会に対して、国民健康保険団体連合会等補助金(以下「補助金」という。)を交付している。
国民健康保険団体連合会等補助金交付要綱(昭和52年厚生省発保第36号。以下「交付要綱」という。)等によれば、国保連合会に対する補助金の交付額は、次により算定された額の合計額とすることとされている。
① 交付要綱に定める各補助対象事業の基準額と、対象経費の実支出額とを比較して、少ない方の額を選定する。
② ①により選定された額と各補助対象事業の総事業費から寄附金その他の収入額を控除した額とを比較して、少ない方の額等を交付額とする。
このうち、対象経費の実支出額は、各補助対象事業を行うために必要な経費の実支出額に厚生労働省が毎年度発出する「国民健康保険団体連合会等補助金に係る補助対象事業及び対象経費等について」(厚生労働省保険局国民健康保険課事務連絡。以下「事務連絡」という。)において示された割合を乗じて算定した額とされている。そして、各補助対象事業を行うために必要な経費については、事務連絡において、上限額が設けられている。
交付要綱によれば、国保連合会は、都道府県を通じて、交付申請書及び事業実績報告書を厚生労働省に提出することとされており、同省は、これらに基づき補助金の交付決定及び額の確定を行っている。そして、交付決定には、事業に係る収入及び支出について証拠書類を整理し、保管しておかなければならないなどとする条件が付されている。
交付要綱によれば、補助金の交付の対象となる事業は、保健事業、保険者共同事業等とされている。
交付要綱等によれば、保健事業は、国保・後期高齢者ヘルスサポート事業(以下「ヘルスサポート事業」という。)、保健師の設置及びその他の事業から構成されている。このうち、ヘルスサポート事業及び保健師の設置については、保健師の人件費が補助対象事業を行うために必要な経費とされている。
ヘルスサポート事業は、国保連合会に有識者等からなる保健事業支援・評価委員会を設けて、保険者が行う保健事業の支援等を行う事業であり、補助の対象には、ヘルスサポート事業を担当する保健師(以下「保健師(サポート)」という。)の設置も含まれている。そして、保健師(サポート)の設置に係る対象経費の実支出額は、事務連絡によれば、保健師(サポート)2名分(平成29年度は1名分)の人件費に10分の10を乗じて算定した額とされている。また、保健師(サポート)に係る人件費の上限額は、1名当たり600万円とされている。
保健師の設置は、国保連合会が保健師(サポート)以外の保健師(以下「保健師(その他)」という。)を設置した場合を補助の対象としている。そして、保健師(その他)の設置に係る対象経費の実支出額は、事務連絡によれば、当該国保連合会が所在する都道府県内の市町村保険者数に応じて定められた人数分(1名から5名まで)の保健師(その他)に係る人件費の合計額に3分の1を乗じて算定した額とされている。また、保健師(その他)に係る人件費の上限額は、1名当たり600万円とされている。
交付要綱等によれば、保険者共同事業は、小規模保険者支援事業及びその他の事業から構成されている。このうち、小規模保険者支援事業は、レセプト点検専門員(以下「専門員」という。)を設置して被保険者数が3,000人未満の保険者(以下「小規模保険者」という。)の支援を行う事業である。そして、小規模保険者支援事業における専門員の設置に係る対象経費の実支出額は、事務連絡によれば、当該国保連合会が所在する都道府県内の小規模保険者の数に応じて定められた人数分(1名から4名まで)の専門員に係る人件費の合計額に2分の1を乗じて算定した額とされている。また、専門員に係る人件費の上限額は、1名当たり336万円とされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性等の観点から、補助金の交付額の算定は適切に行われているか、特に、ヘルスサポート事業等において、補助の対象とされている人件費に基づいて算定される対象経費の実支出額は、事業の実施状況を踏まえた適切なものとなっているかなどに着眼して、29、30両年度に16国保連合会に交付された補助金29年度8億5407万余円、30年度3億7365万余円、計12億2772万余円を対象として検査した。
検査に当たっては、厚生労働本省において事務連絡等の内容について説明を聴取したり、16国保連合会のうち11国保連合会(注1)において補助の対象とされている人件費の内訳、事業の実施状況等について確認したりするなどして会計実地検査を行うとともに、残りの5国保連合会(注2)を含めた16国保連合会から事業実績報告書等の関係書類及び調書の提出を受け、その内容を確認するなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
15国保連合会(注3)から厚生労働省に提出された29、30両年度の事業実績報告書において、対象経費の実支出額の算定対象とされていた保健師(サポート)は、延べ42名(人件費計2億4449万余円、補助金相当額計2億1000万余円)となっていた。
これらの保健師(サポート)について、事務分掌表等により勤務の実態を確認したところ、13国保連合会(注4)の延べ36名については、ヘルスサポート事業に係る業務とその他の業務とを兼務しており(以下、ヘルスサポート事業に係る業務とその他の業務とを兼務している保健師(サポート)を「兼務する保健師」という。)、13国保連合会は、兼務する保健師延べ36名に係る年間の人件費全額を計2億0453万余円とし、これに基づいて対象経費の実支出額を算定するなどして、保健師(サポート)の設置に係る補助金相当額を計1億7595万余円としていた。
厚生労働省は、兼務する保健師について、「平成29年度国民健康保険団体連合会等補助金(一般会計分)の交付額変更申請に係るQ&A」(以下「Q&A」という。)において、ヘルスサポート事業に係る業務を主業務(おおむね6(主務):4(兼務))としていることが申請の条件となるとしている。そして、同省は、ヘルスサポート事業に係る業務を主業務としていれば、保健師(サポート)として、兼務する保健師の人件費からその他の業務に従事した人件費相当額を控除して申請する必要はないとしている。
上記の取扱いとした理由について、同省は、兼務する保健師に係る人件費については、兼務割合に応じて案分する必要があるものの、ヘルスサポート事業に係る業務とその他の業務とは明確な線引きが難しく、業務割合による人件費の案分等になじまないとして、ヘルスサポート事業に係る業務を主業務としている保健師(サポート)については、兼務する保健師に係る人件費全額に基づいて対象経費の実支出額を算定することを認めたとしている。
しかし、前記の兼務する保健師延べ36名について、申請の条件とされているヘルスサポート事業に係る業務を主業務としているかについて確認したところ、各国保連合会において、ヘルスサポート事業に係る業務とその他の業務とに従事した実績等が整理され、保管されておらず、主業務であるとする根拠は確認できない状況となっていた。
そこで、上記の兼務する保健師延べ36名が担当している業務について、どのように区分することが可能であるかを確認したところ、各国保連合会の事務分掌表において、それぞれが担当している業務の内容等が細分化して定められており、これにより、兼務する保健師が担当している業務をヘルスサポート事業に係る業務とその他の業務とに明確に区分することが可能となっていた。そして、兼務する保健師について、この区分に基づいて、ヘルスサポート事業に係る業務に従事した実績と、その他の業務に従事した実績とを区分できるように記録しておく体制を整備すれば、ヘルスサポート事業に係る業務に従事した実績に応じて、人件費をヘルスサポート事業に係る分とその他の業務に係る分とに案分し、ヘルスサポート事業に係る対象経費の実支出額を算定することは可能であると認められた。現に、一部の国保連合会においては、兼務する保健師が所属している部署において業務日誌を作成しており、ヘルスサポート事業に係る業務とその他の業務とを区分し、それぞれの業務に要した時間について、兼務する保健師ごとにではないものの、当該部署全体としての実績を記録していた。
また、前記のとおり、国保連合会に設置される保健師については、その担当する業務の内容等に応じて、保健師(その他)については補助率が3分の1、保健師(サポート)については補助率が10分の10とされており、それぞれの補助率が大きく異なることから、兼務する保健師のヘルスサポート事業に係る業務とその他の業務については線引きが可能であることに鑑みれば、両業務等に従事した実績を明確にし、それぞれの業務に応じてそれぞれの補助率を適用して補助金を算定する必要があると認められた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
山形県国民健康保険団体連合会(以下「山形県国保連合会」という。)は、平成29、30両年度に補助金の交付を受けるに当たり、兼務する保健師29年度1名、30年度2名、延べ3名について、主業務をヘルスサポート事業に係る業務と判断し、厚生労働省がQ&Aにおいて、兼務する保健師がヘルスサポート事業を主業務としていれば、人件費からその他の業務に従事した人件費相当額を控除して申請する必要はないとしていることから、当該兼務する保健師延べ3名に係る年間の人件費全額計2147万余円に基づいて対象経費の実支出額を算定するなどして、保健師(サポート)の設置に係る補助金相当額を計1767万余円としていた。
しかし、山形県国保連合会において、上記の兼務する保健師延べ3名が担当したそれぞれの業務のうち、ヘルスサポート事業に係る業務とその他の業務とに従事した実績等が整理され、保管されておらず、ヘルスサポート事業に係る業務が主業務であるとする根拠は確認できない状況となっていた。
一方、山形県国保連合会は、所属部署単位で業務日誌を作成しており、上記の兼務する保健師延べ3名が配属されていた部署では、ヘルスサポート事業に係る業務とその他の業務とを区分して、それぞれの業務に要した時間について、当該部署全体として記録していて、両業務に従事した実績を区分することは可能となっていた。そして、従事した実績を記録する際に、この区分に基づいて、兼務する保健師ごとにヘルスサポート事業に係る業務に従事した実績と、その他の業務に従事した実績とを区分できるように記録する体制を整備すれば、人件費をそれぞれの業務の実績に応じて案分し、ヘルスサポート事業に係る対象経費の実支出額を算定することは可能な状況となっていた。
8国保連合会(注5)から厚生労働省に提出された29、30両年度の事業実績報告書において、対象経費の実支出額の算定対象とされていた専門員は、延べ22名(人件費計7563万余円、補助金相当額計3209万余円)となっていた。
これらの専門員について、事務分掌表により業務の内容を確認するなどしたところ、全ての専門員が小規模保険者支援事業に係る業務と小規模保険者以外の保険者の支援のためのレセプト点検に係る業務(以下「その他支援業務」という。)とを兼務していた(以下、小規模保険者支援事業に係る業務とその他支援業務を兼務する専門員を「兼務する専門員」という。)。そして、8国保連合会は、これらの兼務する専門員延べ22名に係る年間の人件費全額を計7563万余円とし、これに基づいて対象経費の実支出額を算定するなどして、小規模保険者支援事業に係る補助金相当額を計3209万余円としていた。
前記のとおり、小規模保険者支援事業は、小規模保険者の支援を行う事業であり、兼務する専門員が行っていた業務のうち、その他支援業務は補助の対象にはならない。そして、厚生労働省は、兼務する専門員について、人件費を業務量に応じて案分する必要があるとしている。したがって、国保連合会は、対象経費の実支出額の算定に当たって、兼務する専門員に係る年間の人件費を、小規模保険者支援事業に係る業務に従事した実績とその他支援業務に従事した実績とに応じて案分し、小規模保険者支援事業に要した人件費のみに基づくなどして対象経費の実支出額を算定する必要があった。
しかし、上記の人件費の算定について、国保連合会に対する周知が十分でなかったため、前記の8国保連合会は、人件費を小規模保険者支援事業に係る業務とその他支援業務に従事した実績とに応じて案分することなく対象経費の実支出額を算定していた。
また、前記の8国保連合会において、小規模保険者支援事業に係る業務とその他支援業務とに従事した実績を記録するなどして兼務の割合を把握する体制が整備されているかを確認したところ、そのような体制は整備されておらず、兼務する専門員延べ22名について、兼務の割合は確認できない状況となっていた。
このように、補助金の交付額の算定に当たり、ヘルスサポート事業について、業務に従事した実績を記録しておく体制を整備すれば、兼務する保健師に係る人件費を兼務の割合に応じて案分し、これに基づくなどして対象経費の実支出額を算定することが可能であるのに、兼務する保健師に係る人件費全額に基づくなどして対象経費の実支出額を算定することを認めていた事態、小規模保険者支援事業について、兼務する専門員に係る人件費を小規模保険者支援事業に従事した実績に応じて案分することなく対象経費の実支出額を算定していた事態、ヘルスサポート事業及び小規模保険者支援事業について、補助対象事業に従事した実績等が残されていなかった事態は、いずれも適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、厚生労働省において、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省は、令和2年6月に、都道府県に対して事務連絡を発して、2年度の補助金の交付額の算定から適用することとするよう、次のとおり処置を講じた。
ア ヘルスサポート事業について、兼務する保健師に係る人件費について、保健師の業務状況を踏まえ、その他の業務に従事した人件費相当額を対象経費の実支出額から控除して、適切に交付額の算定が行われるよう取扱いを変更し、これを都道府県を通じて国保連合会に周知した。
イ 小規模保険者支援事業について、兼務する専門員に係る人件費について、その他支援業務に従事した人件費相当額を対象経費の実支出額から控除して、適切に交付額の算定を行うよう、これを都道府県を通じて国保連合会に周知徹底した。
ウ ヘルスサポート事業及び小規模保険者支援事業について、ア及びイの算定が適切に行われるよう、国保連合会において、補助の対象となる業務に従事した実績を把握するための記録等を証拠書類として整理し、保管するよう都道府県を通じて国保連合会に周知徹底した。