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  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第8 厚生労働省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(2) 訓練終了者に対して支給される終了後手当について、訓練終了者が相当程度就職困難者に該当することを確認するための具体的な要件を取扱要領に定めることなどにより、安定所において終了後手当の支給決定の可否を判断するに当たり、訓練終了者間の公平性が確保されるよう改善させたもの


会計名及び科目
労働保険特別会計(雇用勘定) (項)失業等給付費
部局等
厚生労働本省(支給庁)
434公共職業安定所(支給決定庁)
終了後手当の概要
公共職業訓練等を受け終わった者のうち、なお就職が相当程度に困難であると公共職業安定所長により認められた者に対して、訓練終了日の翌日から30日を限度として、所定給付日数を超えて基本手当の支給を行うもの
検査の対象とした終了後手当の支給額
32億8724万余円(平成29、30両年度)
訓練終了者が相当程度就職困難者に該当するかどうかを判断する際の確認の内容が区々となっていた事態に係る終了後手当の支給額
32億8724万円(背景金額)(平成29、30両年度)

1 制度の概要

(1) 雇用保険における基本手当の概要

厚生労働省は、雇用保険法(昭和49年法律第116号。以下「法」という。)に基づき、常時雇用される労働者等を被保険者として、その生活及び雇用の安定を図るなどのために基本手当等の失業等給付金を支給している。基本手当は、公共職業安定所(以下「安定所」という。)において基本手当を受給する資格があると決定された者(以下「受給資格者」という。)が失業している日について所定給付日数を限度とするなどして支給されるもので、所定給付日数は、被保険者として雇用された期間等に応じて、90日から360日までとなっている。

(2) 終了後手当の概要

雇用失業情勢等により、所定給付日数分の基本手当では十分な保護に欠ける場合があるため、訓練延長給付、個別延長給付等の給付日数を延長する制度が設けられている。

このうち訓練延長給付は、公共職業安定所長(以下「安定所長」という。)の指示による公共職業訓練等(国等が設置する公共職業能力開発施設の行う職業訓練等をいう。以下「訓練」という。)の受講を容易にし、その習得した技能によって再就職の促進を図るために、安定所長の指示により訓練を受ける受給資格者に対して、所定給付日数を超えて基本手当を支給するものである。そして、訓練延長給付には、①訓練を受けるために待期している期間に係る給付、②訓練を受けている期間に係る給付及び③訓練を受け終わった後の一定の期間に係る給付(以下、③の給付を「終了後手当」という。)がある。

終了後手当は、訓練を受け終わった受給資格者(以下「訓練終了者」という。)のうち、訓練を受け終わってもなお就職が相当程度に困難であると安定所長により認められた者(以下「相当程度就職困難者」という。)に対して、訓練終了日の翌日から30日を限度として、所定給付日数を超えて基本手当を支給するものである。

終了後手当は、昭和54年6月の制度創設当初は、訓練を受け終わってもなお就職が困難であると安定所長により認められた者に支給されることとなっていた。その後、厳しい雇用失業情勢の長期化に対処して失業等給付金全般について重点化・効率化を図る観点から、支給対象を真に支援が必要な者に絞り込む必要があるとして、平成15年4月に支給要件の見直しのための法の改正(以下「15年法改正」という。)が行われ、同年5月から、上記のとおり、相当程度就職困難者に支給されることとなっている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性、効率性、公平性(注1)等の観点から、安定所において終了後手当の支給決定の可否を判断するに当たり、訓練終了者が相当程度就職困難者に該当するかどうかの確認が適切に行われているか、訓練終了者間の公平性が確保されているかなどに着眼して、29、30両年度における訓練終了者に対する終了後手当の支給額計32億8724万余円を対象として、厚生労働本省において、終了後手当の支給要件についての考え方等を聴取したり、14都道府県労働局(注2)(以下、都道府県労働局を「労働局」という。)管内の140安定所において、終了後手当の支給決定等に係る関係書類を確認したりするなどして会計実地検査を行うとともに、上記の140安定所を含む全国47労働局管内の436安定所のうち終了後手当の支給決定を行う権限を有する安定所長の置かれた434安定所から調書等の提出を受けるなどして検査した。

(注1)
会計検査院法における「その他会計検査上必要な観点」に位置付けられるものであり、本件では、終了後手当に係る訓練終了者間の公平性を指す。
(注2)
14都道府県労働局  北海道、岩手、茨城、埼玉、東京、愛知、三重、大阪、兵庫、島根、岡山、広島、福岡、宮崎各労働局

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 訓練終了者が相当程度就職困難者に該当するかどうかの確認の状況

29、30両年度における終了後手当の支給状況等について、終了後手当の初回受給者数及び支給額並びに訓練延長給付の初回受給者数に対する終了後手当の初回受給者数の割合(以下「終了後手当支給割合」という。)を労働局別にみたところ、のとおり、終了後手当支給割合が0%から45.9%までと大きく異なっており、36労働局(注3)においては、いずれも3.3%以下、11労働局(注4)においては、29.9%から45.9%までとなっていた。

(注3)
36労働局  北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、新潟、富山、石川、福井、長野、静岡、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各労働局
(注4)
11労働局  茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、山梨、岐阜、愛知、三重各労働局

表 労働局別の終了後手当の支給状況等

(単位:人、%、千円、倍)
労働局名 平成29年度 30年度
終了後手当の支給額計
(C)+(F)
訓練延長給付初回受給者数
(A)
終了後手当初回受給者数(B)
終了後手当支給割合(B)/(A)
終了後手当の支給額(C)
(参考)
有効求人倍率
訓練延長給付初回受給者数
(D)
終了後手当初回受給者数(E)
終了後手当支給割合(E)/(D)
終了後手当の支給額(F)
(参考)
有効求人倍率
北海道 2,874 4 0.1 793 1.14 2,614 2 0.0 410 1.20 1,203
青森 1,041 1 0.0 144 1.27 845 1 0.1 59 1.30 203
岩手 821 0 0.0 35 1.42 718 4 0.5 324 1.45 359
宮城 1,131 0 0.0 209 1.62 1,067 2 0.1 699 1.69 909
秋田 550 1 0.1 130 1.41 513 0 0.0 1.53 130
山形 589 0 0.0 1.59 520 8 1.5 423 1.64 423
福島 1,221 0 0.0 1.47 1,140 1 0.0 170 1.52 170
茨城 1,403 620 44.1 78,898 1.50 1,335 588 44.0 73,679 1.62 152,577
栃木 1,267 384 30.3 43,881 1.37 1,550 662 42.7 85,184 1.43 129,066
群馬 891 267 29.9 30,869 1.62 934 342 36.6 42,135 1.74 73,004
埼玉 4,479 2,026 45.2 268,317 1.26 4,425 1,966 44.4 259,372 1.33 527,690
千葉 3,769 1,601 42.4 216,941 1.28 3,524 1,543 43.7 214,573 1.33 431,514
東京 7,109 2,905 40.8 413,570 2.09 7,007 2,947 42.0 428,720 2.13 842,291
神奈川 3,181 1,146 36.0 152,580 1.18 3,144 1,209 38.4 163,086 1.20 315,667
新潟 1,240 0 0.0 1.56 1,133 1 0.0 260 1.70 260
富山 629 0 0.0 1.86 547 1 0.1 147 1.97 147
石川 1,000 2 0.2 286 1.89 923 1 0.1 132 1.99 418
福井 409 0 0.0 2.02 401 0 0.0 36 2.10 36
山梨 828 350 42.2 43,951 1.41 776 322 41.4 39,410 1.46 83,362
長野 816 1 0.1 96 1.63 784 3 0.3 396 1.69 492
岐阜 1,056 468 44.3 59,476 1.85 1,069 435 40.6 52,968 2.03 112,444
静岡 890 3 0.3 543 1.58 847 28 3.3 3,769 1.68 4,312
愛知 4,166 1,904 45.7 255,030 1.86 3,854 1,770 45.9 234,493 1.97 489,523
三重 1,215 430 35.3 54,842 1.65 1,192 432 36.2 54,185 1.71 109,028
滋賀 805 2 0.2 345 1.33 741 0 0.0 1.38 345
京都 1,134 0 0.0 1.53 1,159 1 0.0 508 1.58 508
大阪 2,680 4 0.1 855 1.62 2,355 3 0.1 943 1.78 1,799
兵庫 2,209 1 0.0 560 1.32 2,161 0 0.0 16 1.45 577
奈良 874 1 0.1 164 1.34 806 3 0.3 361 1.49 525
和歌山 389 0 0.0 1.29 348 0 0.0 1.36
鳥取 649 0 0.0 1.63 653 0 0.0 1.66
島根 571 0 0.0 125 1.64 560 0 0.0 1.74 125
岡山 1,019 0 0.0 50 1.81 912 0 0.0 1.99 50
広島 1,162 0 0.0 1.88 1,042 2 0.1 303 2.08 303
山口 860 2 0.2 450 1.51 792 3 0.3 499 1.61 949
徳島 510 0 0.0 1.41 511 1 0.1 161 1.48 161
香川 631 0 0.0 54 1.75 598 0 0.0 1.79 54
愛媛 678 0 0.0 1.55 645 1 0.1 135 1.63 135
高知 532 1 0.1 91 1.20 453 0 0.0 1.27 91
福岡 3,568 11 0.3 1,507 1.54 3,611 5 0.1 728 1.59 2,235
佐賀 613 0 0.0 1.25 623 11 1.7 1,254 1.32 1,254
長崎 1,252 1 0.0 157 1.20 995 1 0.1 224 1.25 382
熊本 1,128 1 0.0 229 1.64 956 0 0.0 1.69 229
大分 941 0 0.0 1.45 928 0 0.0 1.56
宮崎 980 0 0.0 1.44 865 0 0.0 133 1.49 133
鹿児島 1,083 3 0.2 368 1.23 1,103 7 0.6 921 1.32 1,290
沖縄 1,089 2 0.1 355 1.13 888 3 0.3 492 1.18 848
67,932 12,142 17.8 1,625,915 1.54 64,567 12,309 19.0 1,661,327 1.62 3,287,243
  • 注(1) 平成29、30両年度の「終了後手当初回受給者数」欄には、前年度以前の訓練延長給付初回受給者が含まれる場合がある。
  • 注(2) 「終了後手当の支給額」欄には、終了後手当初回受給者以外の受給者に対する終了後手当の支給額が含まれているため、「終了後手当初回受給者数」欄が0の場合においても、支給額が記載されているものがある。

そこで、安定所において終了後手当の支給決定の可否を判断するに当たり、訓練終了者が相当程度就職困難者に該当するかどうかの確認をどのように行っていたかをみたところ、次のとおり区々となっていた。

すなわち、終了後手当支給割合が3.3%以下となっていた前記36労働局管内の311安定所及び前記11労働局管内の1安定所の計312安定所においては、各安定所がそれぞれの考えにより、管内の雇用失業情勢が良好であることなどから、原則として訓練終了者は終了後手当の支給対象となる相当程度就職困難者に該当しないと判断していたり、就職が決まっていない訓練終了者のうち、訓練期間中に求人へ複数回応募するなどの求職活動の状況等を踏まえ、特に職業指導その他の再就職の援助を行う必要があると認められる者に限って、訓練終了者が相当程度就職困難者に該当すると判断していたりなどしていた。

一方、終了後手当支給割合が29.9%から45.9%までとなっていた前記11労働局管内の122安定所においては、管轄の労働局が訓練終了日に就職が決まっていないなどの訓練終了者については相当程度就職困難者に該当するとした事務連絡を発していたことなどから、訓練終了日において就職が決まっていないことなどが確認できれば、それらのことのみをもって、訓練終了者が相当程度就職困難者に該当すると判断していた。そして、上記の122安定所において終了後手当の支給決定を受けた訓練終了者から無作為に抽出した4,978人について、安定所職員との間で面接により行われた求職活動等に関する職業相談の記録等を基に訓練終了日までの4週間における求職活動の状況を確認した結果、同期間中に求人へ複数回応募するなどしていることが確認できた者は789人にとどまっていた。

(2) 厚生労働本省における15年法改正後の対応

前記のとおり、終了後手当は、15年法改正において支給対象を相当程度就職困難者とする見直しが行われているが、終了後手当等に関する細則を定めた「雇用保険に関する業務取扱要領(雇用保険給付関係)」(以下「取扱要領」という。)の改正状況をみたところ、15年法改正時において、厚生労働本省は、15年法改正を踏まえた改正を行っていなかった。このため、取扱要領は、15年法改正前の支給対象に対応した内容のままとなっていて、訓練終了者が相当程度就職困難者に該当することを確認するための具体的な要件については何ら定められていなかった。

このように、訓練終了者が相当程度就職困難者に該当することを確認するための具体的な要件が定められておらず、安定所において終了後手当の支給決定の可否を判断するに当たり、訓練終了者が相当程度就職困難者に該当するかどうかを判断する際の確認内容が区々となっていた事態は、前記312安定所管内の場合と前記122安定所管内の場合とで訓練終了者間の公平性が確保されていないことから適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、厚生労働本省において、安定所において終了後手当の支給決定の可否を判断するに当たり、訓練終了者が相当程度就職困難者に該当することを確認するための具体的な要件について、15年法改正の趣旨を踏まえて取扱要領に定めることの必要性についての理解が十分でなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働本省は、安定所において終了後手当の支給決定の可否を判断するに当たり、訓練終了者間の公平性が確保されるよう、令和2年8月に取扱要領を改正して、訓練終了日までの4週間において受講した訓練に係る職種の求人に対する応募の実績が複数回あることなど、訓練終了者が相当程度就職困難者に該当することを確認するための具体的な要件を定めて、同月以降に訓練の受講終了を迎える者から適用するなどの処置を講じた。