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取水量測定自動化事業として構築したシステムにおいて、電圧データの欠測やシステム測定値と実測値とのかい離が多数生じていたのに、それらの発生原因を究明して改善する取組を行うなどしていなかったため、システムにより農業用水の河川からの取水実態を正確に把握することができない状況となっていて、事業の目的を達していなかったもの[東北農政局西奥羽土地改良調査管理事務所](124)


会計名及び科目
一般会計 (組織)農林水産本省
(項)農業生産基盤保全管理・整備事業費
(項)農業生産基盤保全管理・整備事業調査諸費
(組織)地方農政局
(項)農業生産基盤整備事業工事諸費
部局等
東北農政局西奥羽土地改良調査管理事務所
契約名
(1) 平成25年度西奥羽土地改良調査管理 取水量測定自動化事業 取水量測定の自動化に係る機器の購入等7契約
(2) 取水量測定自動化事業に係る回線使用料等5契約
契約の概要
(1) 既存の水位計等に接続するデータロガー、サーバ等の設置、サーバにインストールするソフトウェアの開発等を行うとともに、システム測定値と現地における実測値との照合によるシステム測定値の正確性等の検証作業を行うなどするもの
(2) データロガーからサーバに電圧データを伝送するための通信回線を調達するもの
契約の相手方
(1) 株式会社ウイジン、株式会社みどり工学研究所、株式会社水建技術
(2) 株式会社NTTドコモ、東日本電信電話株式会社
契約
(1) 平成26年1月ほか 契約7件(一般競争契約3件、指名競争契約1件、随意契約3件)
(2) 平成26年12月ほか 契約5件(随意契約)
支払
(1) 平成26年3月ほか
(2) 平成27年2月ほか
支払額
(1) 25,379,400円(平成25年度~27年度)
(2) 4,354,412円(平成26年度~30年度)
 29,733,812円
不当と認める支払額
(1) 24,533,364円(平成25年度~27年度)
(2) 3,794,770円(平成27年度~30年度)
 28,328,134円

1 契約の概要

東北農政局西奥羽土地改良調査管理事務所(以下「事務所」という。)は、平成25年度から27年度までの間に、秋田県横手市等10地区において実施する取水量測定自動化事業として、「平成25年度西奥羽土地改良調査管理 取水量測定自動化事業 取水量測定の自動化に係る機器の購入」等7契約(以下「機器等契約」という。)を、一般競争契約等により、株式会社ウイジン等3会社と契約額計25,379,400円で締結している。また、事務所は、「取水量測定自動化事業に係る回線使用料」等5契約(以下「回線使用契約」という。)を、随意契約により、株式会社NTTドコモ等2会社と締結し、27年2月から30年10月までの間に、同事業に係る回線使用料計4,354,412円を支払っている。

河川法(昭和39年法律第167号)等においては、流水の占用許可を受けた者は、河川の流水を利用するに当たり、原則として、許可を受けた1秒当たりの最大取水量等の範囲で取水するとともに、毎日の取水量を測定し、その結果を取りまとめて、毎年河川管理者に報告することが求められている。そして、地方農政局等からダム、頭首工等の取水施設の管理を受託した県、土地改良区等(以下「管理受託者」という。)は、取水量の測定を目視によるなどして行っている。

取水量測定自動化事業は、管理受託者が管理する東北農政局管内の取水施設24施設に設置された自記水位計又は流量計(以下「水位計等」という。)で測定したデータの自動転送システム(以下「システム」という。)を構築することにより、流水の占用許可を受けた河川からの取水量の測定を合理化して、農業用水の河川からの取水実態を正確に把握するための体制を整備するものである。

システムは、水位計等とこれにより測定したデータの収集・伝送装置(以下「データロガー」という。)、各データロガーから伝送される電圧形式のデータ(以下「電圧データ」という。)を蓄積して処理する自動記録機器(以下「サーバ」という。)等から構成され、電圧データは、1時間ごとに、接続されたデータロガーに収集された後に通信回線を経由してサーバに伝送され、サーバにインストールされたソフトウェアで1秒当たりの取水量に換算される(以下、この取水量の値を「システム測定値」という。)。

機器等契約は、上記のうち、既存の水位計等に接続するデータロガー、サーバ等の設置、サーバにインストールするソフトウェアの開発等を行うとともに、システム測定値と現地における実測値(以下「実測値」という。)との照合によるシステム測定値の正確性等の検証作業を行うなどするものである。また、回線使用契約は、データロガーからサーバに電圧データを伝送するための通信回線を調達するものである。

事務所は、システムにより、流水の占用許可を受けた河川からの1秒当たりの最大取水量を超える取水の発生を速やかに把握したり、システム測定値等が記載された日報を作成し、管理受託者から毎年報告される取水量を日報に記載されたシステム測定値と突合して、その正確性を確認したりなどすることとしていた。

2 検査の結果

本院は、有効性等の観点から、事務所が、機器等契約で構築したシステムにより、取水量の測定を合理化して、農業用水の河川からの取水実態を正確に把握するという目的を達しているかなどに着眼して、事務所において、仕様書、取水量の報告等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。

検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。

システムの利用開始に当たっては、事務所の担当者が、データロガーから伝送される電圧データをシステム測定値に換算するための計算式(以下「換算式」という。)をサーバに入力することが必要となる。そこで、事務所は、取水施設の運転操作や状態監視を行う既存の設備等において使用している換算式を利用して入力していた。そして、前記の取水施設24施設のうち27年1月又は3月から先行して運用していた16施設について、機器等契約により、事務所が同年12月までの期間においてシステム測定値の正確性等に関する検証作業を行ったところ、全ての施設で、電圧データが伝送されず欠測が生じていたり、システム測定値と実測値とのかい離が生じていたりしていたのに、事務所は、それらの発生原因を究明して改善する取組を行っていなかった。

そこで、本院において、改めてサーバに蓄積されていた運用開始日以降のシステム測定値等の状況等を確認したところ、24施設全てにおいて電圧データが伝送されていないことによる欠測(最も多い施設で1,336日中821日)が見受けられた。また、このうち、20施設においては、本来プラス表示となるべきシステム測定値がマイナス表示となっていたり、流水の占用許可を受けた河川からの1秒当たりの最大取水量の2倍を上回るシステム測定値が表示されたりする異常値(最も多い施設で1,383日中1,218日)が見受けられた。そして、24施設のうち19施設は実測値に基づくなどして換算式を修正する必要があるなど、システムにより農業用水の河川からの取水実態を正確に把握することができない状況となっていた。

しかし、事務所は、上記の事態に係る発生原因を究明して、電圧データの欠測を速やかに解消したり、換算式を修正したりして改善する取組を行うなどしていなかった。そして、事務所は、正確な取水量をシステムにより把握することはできないと考えたことから、システム測定値の正確性等の検証作業が終了した28年1月以降、27年12月に設置した8施設を含めた24施設全てについて、システム測定値等が記載された日報を作成しておらず、管理受託者から報告される取水量の正確性を確認するなどのためにシステムを活用していない状況となっていた。

したがって、事務所は、電圧データの欠測やシステム測定値の異常値を含むシステム測定値と実測値とのかい離が多数生じていたのに、それらの発生原因を究明して改善する取組を行うなどしてシステム測定値の正確性等を確保するなどの必要な処置を講じていなかったため、システムにより、河川からの取水量の測定を合理化して、農業用水の河川からの取水実態を正確に把握するという事業の目的を達しておらず、機器等契約のうちシステムの構築に係る支出額計24,533,364円、及び回線使用契約に係る支出額のうち28年1月以降の回線使用料計3,794,770円の合計28,328,134円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、事務所において、構築したシステムを取水量測定自動化事業の目的に沿って適切に運用することに対する認識が欠けていたことなどによると認められる。