【改善の処置を要求し及び意見を表示したものの全文】
林道施設に係る長寿命化点検を踏まえた個別施設計画の策定について
(令和2年4月14日付け 林野庁長官宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求し及び意見を表示する。
記
貴庁は、森林・林業基本法(昭和39年法律第161号)等に基づき、森林の適正な整備を推進するために、国有林野において国有林林道を整備したり、地方公共団体等が行う民有林林道の開設等の工事に係る経費について国庫補助金を交付したりしている。
林道規程(昭和48年48林野道第107号林野庁長官通知)等によれば、国有林林道の管理者は森林管理局、森林管理署、森林管理署支署又は森林管理事務所(以下、森林管理署、森林管理署支署及び森林管理事務所を合わせて「森林管理署等」という。)、民有林林道の管理者は地方公共団体等の長とされており、それぞれ管理する林道について、林道の種類、構造等を記載した林道台帳を整備しなければならないとされている。
政府は、国や地方公共団体等が管理するあらゆるインフラを対象に、国民の安全及び安心を確保し、中長期的な維持管理・更新等に係るトータルコストの縮減や予算の平準化を図るなどのために、平成25年11月に、「インフラ長寿命化基本計画」(以下「基本計画」という。)を策定している。基本計画によれば、インフラを構成する各施設の点検・診断の結果に基づき、施設特性を考慮した上で、安全性や経済性を踏まえつつ、損傷が軽微である早期段階に予防的な修繕等を実施することによりインフラ機能の保持・回復を図る予防保全型維持管理の導入を推進するなどの取組を進めることが重要であるとされている。そして、貴庁は、貴庁が維持管理・更新等に係る制度や技術を所管する林道等に設置されている施設の維持管理・更新等を着実に推進するために、26年8月に「林野庁インフラ長寿命化計画(行動計画)」(以下「行動計画」という。)を策定している。
行動計画によれば、施設の維持管理・更新等に係るトータルコストの縮減・平準化を図る上では、点検・診断等の結果を踏まえて、施設ごとの長寿命化計画(以下「個別施設計画」という。)を策定し、これに基づく取組を計画的に実施していくことが必要であるとされている。そして、林道において個別施設計画の策定の対象となる施設は、国有林林道及び民有林林道に設置されていて林道台帳に記載されている橋りょう、トンネル及び各管理者が定めるその他の重要な施設(以下、これらを合わせて「林道施設」という。)とされている。なお、第三者への影響が限定的な施設や予防保全型維持管理によるトータルコストの削減効果が限定的であり、事後的な措置を行うことにより対応する方が効率的な施設等については、個別施設計画の策定の対象から除くことができるとされているが、貴庁は、国有林林道に設置されている全ての林道施設について、個別施設計画を策定することとしている。
また、行動計画によれば、貴庁が管理する全ての対象施設については、30年度までを目標に個別施設計画を策定することとされていて、貴庁は、26年11月に、森林管理局又は森林管理署等が個別施設計画を策定するための具体的な対応方針を定めた「治山施設及び林道施設の長寿命化計画(個別施設計画)作成要領」(以下「作成要領」という。)を制定し、計画期間を5年から10年までとすることを目安として個別施設計画を策定するよう、各森林管理局に通知している。そして、作成要領によれば、林道を管理する森林管理署等は、林道の交通安全の確保を目的として実施された調査・点検の業務委託契約により作成される成果品を活用するなどして個別施設計画を策定することとされている。
貴庁は、行動計画に基づき、民有林林道の管理者である地方公共団体等を含めた各管理者による個別施設計画の策定が着実に進むよう、27年3月に個別施設計画に記載すべき事項等について示した「林道施設に係る個別施設計画策定のためのガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)を、28年3月に林道施設の個別施設計画の策定に当たり実施する点検・診断、健全性の評価等(以下「長寿命化点検」という。)の方法等について示した「林道施設長寿命化対策マニュアル」(以下「マニュアル」という。)をそれぞれ作成している。
貴庁では、林道施設について、従前から調査・点検業務を実施しているが、この調査・点検は、交通安全の確保を目的としており、各部材や施設全体の健全性の診断までは行われていない。
一方、ガイドライン及びマニュアル(以下「ガイドライン等」という。)によれば、長寿命化点検は、維持管理・更新等における措置の必要性を判断するために、新たに林道施設の各部材の損傷状況の把握、対策区分の判定等を行い、これらに基づき各部材や施設全体の健全性の診断を一定の頻度を定めて実施するものであり、林道施設の長寿命化を図る上で最も重要な点検であるとされている。
そして、長寿命化点検の頻度は、基本的に5年に1回とし、専ら森林施業に用いることを目的として門扉等により通行制限を設けている林道においては10年に1回とすることができるとされているが、これにかかわらず設置後50年以上の橋りょうについては5年に1回とされている。したがって、各施設の設置年度は、個別施設計画において次の点検時期等を定めるために必要な情報となっている。
貴庁は、専ら国有林野事業のために使用する国有林林道の区間(以下「専用区間」という。)を管理するほか、道路法(昭和27年法律第180号)に基づく市町村道又は地方公共団体等が管理する民有林林道等について、国有林野事業のために使用する機会が相当程度あり、その程度に応じた経費を投入しなければ事業遂行上支障が生ずるものについては、「併用林道の取扱いについて」(昭和38年38林野業第815号林野庁長官通知。以下「併用通知」という。)に基づき、その管理者と協議した上で、協定(以下「併用協定」という。)を締結することにより、当該道路を併用林道として設定し、国有林林道に準じて取り扱うことができるとしている。また、当初、専用区間として開設した国有林林道が、環境の変化その他の社会情勢等から公共性を増したことにより、市町村道として認定等される場合にも、同様に併用協定を締結して、当該道路を併用林道として設定することができるとされている(以下、併用協定を締結して併用林道として設定した区間を「併用区間」という。)。そして、貴庁は、専用区間のみの路線だけでなく、併用区間のみの路線や専用区間と併用区間が接続している路線(参考図参照)についても、それぞれ1路線の国有林林道として林道台帳を整備して管理している。
併用区間は、上記のような経緯を経て設定されることから、森林管理署等が設置した林道施設と協定先の市町村等が設置した林道施設が混在しているものがある。そして、併用通知によれば、併用区間の改良工事等の工事に要する費用は、原則として当該道路からの受益の割合を基に協議して負担区分及び施工方法を併用協定において定めておくものとされているが、長寿命化点検を踏まえた個別施設計画の策定に関しては併用通知に特に規定されていない。
(参考図)
専用区間と併用区間が接続している路線の概念図
(検査の観点及び着眼点)
前記のとおり、行動計画によれば、施設の維持管理・更新等に係るトータルコストの縮減・平準化を図る上では、点検・診断等の結果を踏まえて、個別施設計画を策定し、これに基づく取組を計画的に実施していくことが必要であるとされている。
そして、貴庁は、長寿命化対策における施設の維持管理・更新等を着実に推進するために、行動計画に基づき、貴庁が管理する全ての対象施設について、30年度までを目標に個別施設計画を策定することとしている。
そこで、本院は、効率性等の観点から、個別施設計画が行動計画やガイドライン等に示された長寿命化点検を踏まえて適切に策定されているかなどに着眼して検査した。
(検査の対象及び方法)
検査に当たっては、30年度末時点で貴庁が整備する林道台帳に記載されている国有林林道13,518路線(延長46,080km、国有財産台帳価格(注1)521億9136万余円)のうち、7森林管理局(注2)(以下「7局」という。)管内の119森林管理署等が所有する林道施設(10,851橋、142トンネル、その他の重要な施設3,607施設)が設置されている5,137路線(延長25,491km、国有財産台帳価格166億2050万余円)を対象として、貴庁から調書の提出を受け、その内容を分析するとともに、7局及び40森林管理署等(注3)において、林道施設に係る長寿命化点検の結果及び策定された個別施設計画、林道台帳、併用協定に係る協定書等の書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記の119森林管理署等が所有する林道施設に係る個別施設計画の策定状況についてみたところ、119森林管理署等が管理する5,137路線(国有財産台帳価格166億2050万余円)に設置されている林道施設(10,851橋、142トンネル、その他の重要な施設3,607施設)中4,333路線に設置されている林道施設の一部(8,446橋、112トンネル、その他の重要な施設3,605施設)については、森林管理署等により個別施設計画が策定されていた。また、森林管理署等により個別施設計画が策定されている林道施設のうち、併用区間に設置されているものについては、協定先の市町村等においても市町村道として個別施設計画が策定されているものがあった。
そこで、上記の4,333路線に設置されている林道施設のうち、協定先の市町村等においても市町村道等として個別施設計画が策定されていた林道施設を除いた4,219路線に設置されている林道施設(7,920橋、108トンネル及びその他の重要な施設3,594施設)について、策定された個別施設計画の内容等をみたところ、次のような事態が見受けられた。
ガイドライン等によれば、長寿命化点検は、維持管理・更新等における措置の必要性を判断するために、新たに林道施設の各部材の損傷状況の把握、対策区分の判定等を行い、これらに基づき各部材や施設全体の健全性の診断を一定の頻度を定めて実施するものであり、林道施設の長寿命化を図る上で最も重要な点検であるとされている。
しかし、作成要領によれば、林道を管理する森林管理署等は、林道の交通安全の確保を目的として実施された調査・点検の業務委託契約により作成される成果品を活用するなどして個別施設計画を策定することとされており、貴庁は、27年及び28年にガイドライン等を作成した際に、26年に制定した作成要領をガイドライン等と整合した内容に改定していなかった。このため、7局及び119森林管理署等は、4,219路線(国有財産台帳価格138億4294万余円)に設置されている林道施設について、ガイドライン等で示された長寿命化点検の点検方法による林道施設の各部材や施設全体の健全性の判定を行わずに個別施設計画を策定する結果となっていた。
なお、協定先の市町村等において策定された個別施設計画の中には、森林管理署等が長寿命化対策の必要がないと結論付けた林道施設について、協定先の市町村等において各部材の健全性の判定等を行った結果、長寿命化対策の必要があるとされているものも見受けられた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
近畿中国森林管理局奈良森林管理事務所は、村道鳴川線(延長3,346m)について、奈良県吉野郡川上村との間で協定期間を3年ごととする併用協定を締結して、国有林林道鳴川山林道として林道台帳を整備している。そして、同併用区間内には同事務所が所有している橋りょうが6橋設置されており、当該6橋については個別施設計画が策定されていた。しかし、同事務所は、各部材の健全性を判定するなどのガイドライン等に基づいた長寿命化点検を行わずに、作成要領に基づいて行った調査・点検の成果品を基に当該林道施設は異常がないと結論付けて、当該計画において長寿命化対策を行う必要がないとしていた。
なお、当該6橋のうち3橋については、川上村においても市町村道としての長寿命化対策に係る点検が実施され、各部材の健全性の判定等が行われた結果、道路橋の機能に支障が生ずる可能性があるため、措置を講ずる必要があるとされて断面修復工等の長寿命化対策を行うこととされていた。
前記の4,219路線に設置されている林道施設に係る個別施設計画を策定するために7局が実施している業務委託についてみると、ガイドライン等において、林道台帳等の既存の資料から橋りょう等の設置年度等の諸元を把握することとされているのに、仕様書等において、既存の資料を受注者に提供することとしていなかった。このため、1,061路線(国有財産台帳価格38億6037万余円)に設置されている林道施設のうち、設置年度が現地の橋名板等により確認できない橋りょう2,234橋については、既存の資料に設置年度が記載されているのに設置年度が不明等とされていて、ガイドライン等に基づく長寿命化点検の頻度や次の点検時期等の検討に必要な林道施設の設置年度が個別施設計画に記載されていない状況となっていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
中部森林管理局富山森林管理署は、管内の万波(下)林道(延長5,699m)について、中部森林管理局が平成30年度に締結した業務委託契約により、作成要領に基づく点検を行い、その成果品に基づき個別施設計画を策定していた。そして、同局は、上記の業務委託に当たり、仕様書等において、既存の資料を受注者に提供することとしていなかったため、同林道に設置されている橋りょう5橋については、全て設置年度が不明とされていた。しかし、実際は、既存の資料に記載されているとおり、2橋が昭和37年度に、3橋が38年度にそれぞれ設置されていて、全ての橋りょうが設置後50年を超える老朽化した橋りょうとなっているのに、ガイドライン等に基づく長寿命化点検の頻度や次の点検時期等の検討に必要な設置年度が個別施設計画に記載されていなかった。
(1)のとおり、個別施設計画が策定されていたのは、5,137路線中4,333路線に設置されている林道施設の一部となっていたが、専用区間に設置されている林道施設については、災害により計画策定の前提となる現地調査を行うことができないなどのやむを得ない理由が認められたものを除き、全て個別施設計画が策定されていた。
一方、併用区間がある1,281路線の林道施設についてみると、森林管理署等と協定先の市町村等との間で協議が行われておらず、森林管理署等や協定先の市町村等がそれぞれ個別施設計画の要否を独自に判断していた。その結果、47森林管理署等が管理する96路線(国有財産台帳価格2億6297万余円)の併用区間に設置されている林道施設(166橋及びその他の重要な施設2施設)については、森林管理署等と協定先の市町村等の双方において長寿命化点検を踏まえた個別施設計画の策定が行われていない状況となっていた。
そして、同一の路線で個別施設計画が策定されていた林道施設と策定されていなかった林道施設が混在していて(1)及び(2)の双方の事態に該当する路線があることから、それらの重複を控除すると、4,278路線(国有財産台帳価格140億6148万余円)となっていた。
(改善を必要とする事態)
林道施設の維持管理・更新等のトータルコストの縮減・平準化を図るために個別施設計画に基づいた取組を計画的に実施するには、長寿命化点検が適切に実施され、長寿命化点検を踏まえた個別施設計画が適切に策定されることが必要であるが、林道施設の各部材や施設全体の健全性を判定するなどのガイドライン等に基づいた長寿命化点検を行わずに個別施設計画が策定されている事態及び設置年度等の必要な情報が記載された既存の資料を活用しないまま個別施設計画が策定されている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。また、併用区間に設置されている森林管理署等が所有する林道施設について、個別施設計画が策定されていない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴庁において、次のようなことなどによると認められる。
貴庁は、毎年度、多額の費用を投じて林道の改良工事、修繕工事等を実施している。そして、国民の安全及び安心を確保し、中長期的な維持管理、更新等に係るトータルコストの縮減や予算の平準化を図るなどのために、個別施設計画が策定されていない林道施設や個別施設計画の計画期間が満了して計画を更新する林道施設についてガイドライン等に基づいた長寿命化点検を実施して個別施設計画を策定し、個別施設計画を基に補修等の長寿命化対策を実施していくことが引き続き求められている。
ついては、貴庁において、国有林林道に設置されている林道施設の長寿命化対策の重要性に鑑み、林道施設の長寿命化点検を踏まえた個別施設計画の策定が適切に実施されるよう、次のとおり改善の処置を要求し及び意見を表示する。