農林水産省は、競争力の高い果樹産地を育成するために、果樹経営支援対策事業を実施している。果樹農業好循環形成総合対策等実施要綱(平成13年12生産第2774号農林水産事務次官依命通知。平成31年4月1日以降は持続的生産強化対策事業実施要綱。以下「要綱」という。)等によれば、果樹経営支援対策事業は、果樹産地において策定した計画において担い手と定められた者等(以下「支援対象者」という。)が行う優良な品目又は品種への転換の取組に要する経費を補助する事業(以下「改植事業」という。)等とされている。そして、農林水産省は、改植事業の事業主体である公益財団法人中央果実協会(以下「協会」という。)に対して、改植事業を実施するために必要な経費について国庫補助金を交付しており、協会は、都道府県法人(注1)等を通じて、支援対象者に対して助成金を交付している。
要綱等によれば、改植事業における助成金の交付額は、伐採・抜根費、深耕・整地費、土壌改良用資材費、苗木代、植栽費等の経費の額を助成対象経費とし、これに補助率2分の1以内を乗じた額とされている(以下、助成対象経費に補助率を乗じて得た額を助成する事業を「定率事業」という。)。ただし、農林水産省は、交付申請等に係る事務負担の軽減を図りつつ、支援対象者が助成金の交付額を事前に想定して計画的に改植を行えるようにすることにより、優良な品目又は品種への転換を一層促進するために有効であるとして、うんしゅうみかん等のかんきつ類の果樹からの改植及びりんご等の主要果樹(注2)への改植については定額で助成することとしており(以下、定額で助成する改植事業を「定額事業」という。)、改植事業のほとんどは定額事業によって実施されている。
そして、要綱等によれば、定額事業における支援対象者への助成金の交付額は、原則として、改植が実施された果樹園の面積ごとに、助成単価を乗じて得た額を合計した額とすることとされている。
定額事業の助成単価は、要綱等において、次のとおり定められている。
農林水産省は、①から③までの改植の区分ごとの助成単価について、定率事業の補助率が助成対象経費の2分の1以内となっていることを踏まえて、改植の区分ごとに伐採・抜根費、深耕・整地費、土壌改良用資材費、苗木代、植栽費等の1ha当たりの経費を積算した上で、当該経費に2分の1を乗じた額を10a当たりに換算するなどして設定している。また、上記の積算された経費のうち、土壌改良用資材費、苗木代、植栽費等は、植栽密度(注6)に応じて変動する経費(以下「変動費」という。)として積算されており、変動費は上記の積算された経費の約8割から9割を占めている。
そして、農林水産省は、上記の積算における植栽密度については、改植当初は初期収量を増大させて支援対象者の経営安定が図られるように密植する必要があることなどを考慮して、表1のとおり、①かんきつ類の果樹からの改植については1,000本/ha、②主要果樹への改植のうち、りんごへの改植については360本/ha、③わい化栽培等への改植のうち、りんごのわい化栽培への改植については1,250本/haなど一定の水準の植栽密度で改植する場合を想定して設定している(以下、これらの定額事業の助成単価を設定する際に使用されている植栽密度を「想定上の植栽密度」という。)。
表1 想定上の植栽密度
区分 | 想定上の植栽密度 (本/ha) |
|
---|---|---|
①かんきつ類の果樹からの改植 | 1,000 | |
②主要果樹への改植 | ||
りんごへの改植 | 360 | |
ぶどうへの改植 | 250 | |
なしへの改植 | 800 | |
ももへの改植 | 400 | |
かきへの改植 | 600 | |
③わい化栽培等への改植 | ||
りんごのわい化栽培への改植 | 1,250 | |
なしのジョイント栽培への改植 | 1,700 | |
すもものジョイント栽培への改植 | 1,670 | |
ぶどうの垣根栽培への改植 | 2,500 |
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、効率性等の観点から、定額事業における助成が事業の趣旨に沿った適切なものになっているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、28、29両年度において実施された定額事業のうち、①うんしゅうみかん等のかんきつ類の果樹からの改植については当該改植の大部分を占める改植後の品目がかんきつ類となっている改植(以下「かんきつ類への改植」という。)、②主要果樹への改植については当該改植の多くを占める品目であるりんご、ぶどう、なし、もも及びかきへの改植、並びに③わい化栽培等への改植については当該改植の大部分を占めるりんごのわい化栽培への改植を行った果樹園計11,858園地、助成金計30億4966万余円(28年度計16億1332万余円(国庫補助金同額)、29年度計14億3634万余円(国庫補助金同額))を対象として、40都道府県法人等から定額事業を実施した各果樹園の植栽密度等に関する調書の提出を受けて、その内容を分析するとともに、農林水産本省、協会及び17都道府県法人等において、実績報告書等の関係書類、現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
前記のとおり、農林水産省は、定額事業において、想定上の植栽密度等により改植を行うことを前提として定額事業に係る経費を積算し、助成単価を設定している。一方、実際の改植は、果樹園の土壌の性質、支援対象者の経営判断等により植栽密度等が選定されている。
そこで、前記の果樹園11,858園地について、実際の植栽密度を確認したところ、表2のとおり、全体の6割を超える7,145園地において、実際の植栽密度が想定上の植栽密度を下回っていた。また、このうち2,106園地(全体の17.7%)における実際の植栽密度は、想定上の植栽密度の2分の1にも満たないものとなっていた。
表2 実際の植栽密度の状況
区分 | 想定上の植栽密度 (本/ha) |
園地数計 | 実際の植栽密度が想定上の植栽密度を下回っている園地数 | 実際の植栽密度が想定上の植栽密度を下回っている園地数の園地数計に占める割合 | (b)のうち実際の植栽密度が想定上の植栽密度の2分の1に満たない園地数 | 実際の植栽密度が想定上の植栽密度の2分の1に満たない園地数の園地数計に占める割合 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
(a) | (b) | (b)/(a) | (c) | (c)/(a) | |||
①かんきつ類への改植 | 1,000 | 6,381 | 2,973 | 46.5% | 545 | 8.5% | |
②主要果樹への改植 | |||||||
りんごへの改植 | 360 | 463 | 379 | 81.8% | 108 | 23.3% | |
ぶどうへの改植 | 250 | 1,275 | 997 | 78.1% | 530 | 41.5% | |
なしへの改植 | 800 | 200 | 178 | 89.0% | 73 | 36.5% | |
ももへの改植 | 400 | 1,001 | 960 | 95.9% | 670 | 66.9% | |
かきへの改植 | 600 | 263 | 190 | 72.2% | 51 | 19.3% | |
③りんごのわい化栽培への改植 | 1,250 | 2,275 | 1,468 | 64.5% | 129 | 5.6% | |
計 | 11,858 | 7,145 | 60.2% | 2,106 | 17.7% |
そして、上記実際の植栽密度が想定上の植栽密度の2分の1に満たない果樹園2,106園地について、想定上の植栽密度に代えて実際の植栽密度を用いて改植に要する経費を積算し、助成金の交付額を当該経費で除した割合(以下「助成割合」という。)を試算したところ、2,106園地全てにおいて、助成割合が2分の1を超えており、これらの中には、助成割合が100%を超えているもの(助成金の交付額が改植に要する経費を上回っているもの)が計1,113園地あった。
また、上記実際の植栽密度を用いた改植に要する経費に基づいて助成金の交付額を試算すると、表3のとおり、2,106園地に係る助成金計4億8672万余円は、計2億3965万余円となり、2億4707万余円の開差が生じていた。
表3 想定上の植栽密度の2分の1に満たない果樹園における実際の植栽密度を用いた改植に要する経費に2分の1を乗じて試算した助成金の交付額等の状況
区分 | 実際の植栽密度が想定上の植栽密度の2分の1に満たない園地数 | (a)に係る助成金の交付額 | (a)に係る改植に要する経費に2分の1を乗じた助成金の交付額(試算額) | 開差額 | |
---|---|---|---|---|---|
(a) | (b) | (c) | (b)-(c) | ||
①かんきつ類への改植 | 545 | 182,287,790 | 98,004,891 | 84,282,899 | |
②主要果樹への改植 | |||||
りんごへの改植 | 108 | 26,065,047 | 13,215,512 | 12,849,535 | |
ぶどうへの改植 | 530 | 97,976,111 | 44,515,677 | 53,460,434 | |
なしへの改植 | 73 | 16,219,720 | 8,460,636 | 7,759,084 | |
ももへの改植 | 670 | 104,135,497 | 48,115,663 | 56,019,834 | |
かきへの改植 | 51 | 8,530,437 | 4,487,374 | 4,043,063 | |
③りんごのわい化栽培への改植 | 129 | 51,510,394 | 22,852,331 | 28,658,063 | |
計 | 2,106 | 486,724,996 | 239,652,084 | 247,072,912 |
このように、定額事業における助成が、前記のとおり密植する必要性等を考慮して一定の水準の植栽密度で改植することを想定して実施されているのに、実際の植栽密度が想定上の植栽密度を大幅に下回っていて、事業の趣旨に沿っていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、農林水産省において、定額事業における実際の植栽密度を十分に把握していなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省は、定額事業について、令和2年4月に要綱等を改正して、想定上の植栽密度の2分の1を助成の対象とする範囲の下限と定めて、それを下回る植栽密度で改植を行った場合は助成の対象としないこととするとともに、実績報告書等において実際の植栽密度の状況を把握することなどにより、定額事業における助成が事業の趣旨に沿った適切なものとなるようにする処置を講じた。