農林水産省は、農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律(平成26年法律第78号。以下「法」という。)等に基づき、農業の持続的発展と農業の有する多面的機能の発揮の促進を図るために、より環境保全に効果の高い営農活動が地域でまとまりをもって取り組まれるよう普及推進を図ることを目的として、環境保全型農業直接支払交付金事業(以下「交付金事業」という。)を実施している。法等によれば、農業の有する多面的機能の発揮の促進に当たっては、共同活動の実施による各種の取組の推進が図られなければならないこととされている。そして、農林水産省では、農業の有する多面的機能の発揮を促進するためには、農業者が個々にではなく連携してまとまりをもって有機農業の取組等の自然環境の保全に資する農業の生産方式を導入した活動(以下「農業生産活動」という。)に取り組むことで環境保全効果が適切に発揮されることから、交付金事業の実施は、農業者の組織する団体(以下「農業者団体」という。)での取組を基本とすることにしている。
環境保全型農業直接支払交付金実施要綱(平成23年22生産第10953号農林水産事務次官依命通知)、環境保全型農業直接支払交付金実施要領(平成23年22生産第10954号農林水産省生産局長通知。以下「要領」という。)等(以下、これらを合わせて「要綱等」という。)によれば、国は、農業生産活動を実施する農業者団体等に対する支援を行うため、農業者団体等の農業生産活動の実施に要する費用を対象として、都道府県及び市町村を通じて、環境保全型農業直接支払交付金(以下「交付金」という。)を交付することとされており、その負担割合は、法等により国が2分の1以内とすることとされている。
そして、要領によれば、交付金の対象となるのは、農業者団体又は一定の条件を満たす農業者(以下「交付金対象農業者」という。)とされていて、農業者団体は、組織の規約及び代表者を定めている複数の農業者等により構成される任意組織とすることとされている。一方、交付金対象農業者は、農業生産活動の実施面積が、自身の耕作する農業集落の耕地面積のおおむね2分の1以上(以下「面積要件」という。)となるなどの者であって、市町村が特に認める場合とされている。なお、農業者団体を支援の対象とする場合は、上記のような面積要件は定められていない。
このように、交付金対象農業者は、面積要件を満たすなどの者であって、市町村が特に認める場合とされており、交付金事業は農業者団体による取組が基本とされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、効率性、有効性等の観点から、農業者団体における農業生産活動に係る取組は、事業の目的に沿って農業者が連携してまとまりをもって行われているかなどに着眼して、平成29、30両年度に869市町村の農業者団体延べ5,395団体が実施した交付金事業(事業費計81億3794万余円、交付金交付額計40億6897万余円)を対象として、農林水産本省及び26道県(注)において、営農活動計画書、営農活動実績報告書等の関係書類により会計実地検査を行うとともに、47都道府県から取組状況等に関する調書等の提出を受けて、その内容を確認するなどして検査した。
(検査の結果)
前記のとおり、交付金事業は、農業者が連携してまとまりをもって農業生産活動に取り組むことで環境保全効果が適切に発揮されるとして、農業者団体による取組が基本とされているが、農業者団体が支援の対象となる要件は、要領において、組織の規約及び代表者を定め、複数の農業者等により構成されていることが定められているのみで、そのうち農業生産活動に取り組む農業者(以下「取組実施者」という。)の数については定められていない。
そこで、前記の農業者団体延べ5,395団体における取組実施者数を確認したところ、延べ459団体(全体の8.5%、事業費計9346万余円、交付金交付額計4673万余円)は、取組実施者が1戸のみとなっていて、複数の農業者による取組が行われていなかった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
熊本県山鹿市の農業者団体Aは、平成29、30両年度に農業生産活動に係る取組を29年度187a、30年度257a実施して、交付金29年度63,003円、30年度102,800円の交付を受けていた。
農業者団体Aは、2戸の農業者で構成されているなど支援の対象となる農業者団体の要件を満たしていたものの、農業者団体の要件に取組実施者数が定められていなかったことから、29、30両年度とも代表者が取組実施者として単独で上記の農業生産活動に係る取組を実施していた。そして、他の構成員は、直ちに農業生産活動に取り組むことを考えていなかったため、代表者と共同による農業生産活動を行っていなかった。
なお、取組実施者が1戸のみとなっている前記の延べ459団体について、実施面積が、仮に交付金対象農業者として交付金事業を実施した場合の面積要件を満たしているかを確認したところ、その大半である延べ443団体が面積要件を満たしていなかった。
このように、交付金事業は、複数の農業者が連携してまとまりをもって取り組むことで環境保全効果が適切に発揮されるとされているのに、前記の延べ459団体が実施した交付金事業において、農業者団体の構成員の中で取組実施者が複数ではなく1戸のみとなっていて、仮に交付金対象農業者として交付金事業を実施したとした場合には、その大半が面積要件を満たしていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。s
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、農林水産省において、交付金事業の実施については農業者が連携してまとまりをもって農業生産活動に取り組むことが重要であるのに、要綱等に農業者団体が交付金事業を実施する場合の取組実施者数について定めていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省は、令和2年3月に要領を改正して2年度から、交付金事業の支援の対象となる農業者団体の要件として、取組実施者を2戸以上含むものとし、取組実施者が1戸のみの農業者団体については、交付金事業の対象としないこととした。また、同年5月に地方農政局等に対して事務連絡を発して、地方農政局等から上記の内容について都道府県及び市町村に対して周知徹底するなどの処置を講じた。