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  • (1) 工事の設計が適切でなかったなどのもの

擁壁の設計が適切でなかったもの[岩手県](151)


(1件 不当と認める国庫補助金 55,177,620円)

 
部局等
補助事業者等
(事業主体)
補助事業等
年度
事業費
国庫補助対象事業費
左に対する国庫補助金等交付額
不当と認める事業費
国庫補助対象事業費
不当と認める国庫補助金等相当額
          千円 千円 千円 千円
(151)
岩手県
岩手県
河川等災害復旧、東日本大震災復興交付金
(道路)
25~28 1,190,777
(1,190,777)
1,115,923 58,715
(58,715)
55,177

この補助事業等は、岩手県が、下閉伊郡田野畑村明戸地内において、平成23年3月の東日本大震災により被災した海岸保全施設を復旧するとともに主要地方道岩泉平井賀普代線を改良するために、防潮堤、ボックスカルバート(以下「カルバート」という。)、擁壁等を築造したものである(参考図1参照)。

このうち擁壁は、防潮堤により遮断される二級河川明戸川の機能を維持するために築造するカルバートの上下流の左右両岸(右岸側の延長計35.8m、左岸側の延長計32.7m)において、防潮堤の土砂が明戸川に崩落するのを防止する土留めとして築造するもので、縦壁及び底版から構成される逆T型の現場打ち鉄筋コンクリート擁壁(以下「逆T型擁壁」という。)となっている(参考図2参照)。

同県は、逆T型擁壁の設計を「道路土工 擁壁工指針」(社団法人日本道路協会編。以下「指針」という。)等に基づき行うこととしている。指針等によれば、鉄筋の許容引張応力度(注)については、水中あるいは地下水位以下に設ける部材の場合は、常時160N/mm2、地震時300N/mm2とするとされている。

そして、同県は、本件工事の設計を設計コンサルタントに委託しており、逆T型擁壁に係る設計計算書において、カルバートの上下流の左右両岸の4か所を第1から第8までの八つのブロックに分けた上で、各ブロックごとに作用する土圧等の荷重を求めて、各ブロックの縦壁及び底版に配置する鉄筋の応力計算を行っていた。設計計算書によれば、各ブロックの底版のかかと版上面側に配置する主鉄筋については、カルバートに接している第2、第3、第6、第7各ブロック(高さ9.4m~10.6m、底版幅6.9m。以下「カルバート接続ブロック」という。)では径32mmの鉄筋を12.5cm間隔に、また、カルバートに接していない第1、第4、第5、第8各ブロック(高さ5.2m~5.9m、底版幅3.1m。以下「端部ブロック」という。)では径16mmの鉄筋を25.0cm間隔にそれぞれ配置すれば、常時及び地震時の主鉄筋に生ずる引張応力度(注)が許容引張応力度を下回ることなどから、応力計算上安全であるとされていた。

(注)
引張応力度・許容引張応力度  「引張応力度」とは、材に外から引張力がかかったとき、そのために材の内部に生ずる力の単位面積当たりの大きさをいう。その数値が設計上許される上限を「許容引張応力度」という。

しかし、本件工事の設計変更の際に、同県が設計コンサルタントに設計図面の修正を指示したところ、設計コンサルタントにおいて、当該設計変更の内容は逆T型擁壁の各ブロックの応力計算に影響を及ぼすものではなく逆T型擁壁の設計図面を修正する必要がなかったのに、誤って、全てのブロックについてかかと版上面側の主鉄筋の径をカルバート接続ブロックでは32mmから16mmへ、端部ブロックでは16mmから13mmへと変更した設計図面を作成し、同県は、これにより施工していた。

そこで、逆T型擁壁の各ブロックについて、実際に配置されたかかと版上面側の主鉄筋を基に改めて応力計算を行ったところ、主鉄筋に生ずる引張応力度は、第5ブロックを除く七つのブロック(延長計59.7m)において、常時では、164.7N/mm2(第8ブロック)から376.0N/mm2(第2ブロック)となり、また、地震時では、316.5N/mm2(第8ブロック)から749.6N/mm2(第2ブロック)となり、許容引張応力度160.0N/mm2(常時)及び300.0N/mm2(地震時)を大幅に上回るなどしていて、いずれも応力計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。

したがって、逆T型擁壁は設計が適切でなかったため、第5ブロックを除く七つのブロック等(工事費相当額58,715,000円)は、所要の安全度が確保されていない状態となっていて、工事の目的を達しておらず、これに係る国庫補助金等相当額55,177,620円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、同県において、設計変更後における設計図面等の確認が十分でなかったことなどによると認められる。

(参考図1)

海岸保全施設の概念図

海岸保全施設の概念図 左岸の延長計32.7m 右岸の延長計35.8m 河川 海側 陸側 河川 カルバート 防潮堤 画像

(参考図2)

逆T型擁壁の断面概念図

逆T型擁壁の断面概念図 縦壁 底版 かかと版防潮堤の土砂 (被覆工) 河川 かかと版上面側の主鉄筋 画像