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地籍調査事業の実施に当たり、市町村等に対して、境界の確認が得られていない場合に筆界未定とする地図を作成することにより作業工程を進めることについて周知徹底するなどするとともに、地籍図等が作成されてから認証請求を行うまでの標準的な期間を定めて、当該期間内に認証請求を行うことについて周知することなどにより、遅滞なく認証請求が行われ、事業の成果が有効に活用されるよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)国土交通本省 (項)国土調査費
(項)社会資本総合整備事業費
部局等
国土交通本省
交付の根拠
国土調査法(昭和26年法律第180号)、予算補助
補助事業者(事業主体)
市76、町56、村18、森林組合連合会1
地籍調査事業の概要
一筆ごとの土地について所有者、地番及び地目の調査並びに境界及び地積に関する測量等を行い、地籍調査の成果としての地籍図及び地籍簿を作成して地籍の明確化を図るもの
検査の対象とした地籍調査事業の事業数及び事業費
522事業 88億4333万余円
(平成6、7、9、10、14各年度、18年度~30年度)
上記に対する負担金等交付額
44億3219万余円
調査実施地区の全ての筆において境界の確認が得られているのに認証請求が行われていない事業数及び負担金等交付額(1)
271事業 21億0903万円
(平成6、7、9、10、14各年度、18年度~30年度)
調査実施地区の多数の筆において境界の確認が得られているにもかかわらず、一部の筆において境界の確認が得られていないことを理由として認証請求が行われていない事業数及び負担金等交付額(2)
233事業 22億2496万円
(平成18、19両年度、21年度~30年度)
(1)及び(2)の計
504事業 43億3399万円

【改善の処置を要求したものの全文】

地籍調査事業の実施により作成された地籍図等に係る認証請求の早期の実施等について

(令和2年10月21日付け国土交通大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 地籍調査事業の概要等

(1) 地籍調査費負担金等の概要

貴省は、国土調査法(昭和26年法律第180号。以下「法」という。)等に基づき、国土の開発及び保全並びにその利用の高度化に資するとともに、地籍の明確化を図るために、昭和26年度から、市町村等が行う地籍調査事業に要する経費を負担する都道府県に対して地籍調査費負担金(以下「負担金」という。)を交付しており、平成30年度までの交付額は計4454億9148万余円となっている。また、貴省は負担金のほか、社会資本整備総合交付金交付要綱(平成22年国官会第2317号国土交通事務次官通知)等に基づき、社会資本整備と連携した効果的な地籍調査を重点的に支援することを目的として、28年度から社会資本整備総合交付金(以下、負担金と合わせて「負担金等」という。)を交付しており、30年度までの交付額は計125億5347万余円となっている。

(2) 地籍調査事業等の工程等

市町村等は、地籍調査事業を実施するに当たり、おおむね字を単位として調査実施地区を設定し、各地区の重要性等を踏まえて調査実施地区の優先順位を決定した上で、当該優先順位に従って地籍調査事業を実施することにしており、地籍調査事業の工程は、次の①から③までのとおりとなっている。

① 一筆ごとに、土地所有者等と現地立会して、地番、地目及び境界の調査(以下「一筆地調査」という。)により境界の確認を行う。

② 国が設置している基準点を基に、調査実施地区を測量するための基礎となる基準点を設置するなどして土地の境界を測量するとともに、一筆ごとの面積を測定する。そして、これら測量等の結果に基づいて地籍図原図及び地籍簿案(以下、これらを合わせて「原図等案」という。)を作成する。

③ 原図等案について、作成した旨を公告し、一般の閲覧に供した上で調査上の誤り等を修正して、地籍図及び地籍簿(以下、これらを合わせて「地籍図等」という。)を作成する。

このうち、③の閲覧については、法によれば、原図等案を作成した場合には、遅滞なくその旨を公告し、公告の日から20日間一般の閲覧に供しなければならないとされている。また、国土調査事業事務取扱要領(昭和47年経企土第28号経済企画庁総合開発局長通達。以下「取扱要領」という。)によれば、市町村等は、公告して閲覧に供するに当たり、土地所有者等に対して、閲覧を行う旨をあらかじめ通知するなど、調査成果の確認を得られるようにするための所要の措置を執ることとされている。

市町村等は、上記の工程により地籍調査事業を実施した後、都道府県知事に地籍図等を送付した上で、認証請求を行っている。このうち、地籍図等の送付については、法によれば、市町村等は、地籍図等を作成した場合、遅滞なく当該地籍図等を都道府県知事に送付しなければならないとされている。また、認証請求については、取扱要領によれば、地籍図等が認証されて初めて権威ある資料として位置付けられ、土地に関する基礎資料としてその効用を発揮することになることに鑑み、市町村等は、閲覧、都道府県知事への送付等の手続終了後は遅滞なく認証請求を行うよう努めることとされている。

そして、都道府県知事は、市町村等から送付された地籍図等を認証した場合には、当該地籍図等の写しを登記所へ送付することとなっている。登記所に送付された地籍図の写しは、原則として登記所において不動産登記法(平成16年法律第123号)第14条第1項に規定する地図として備え付けられることとなり、将来の土地取引や用地取得の円滑化、災害時の復旧活動の迅速化等に資するものとなる。

(3) 地籍調査において境界の確認が得られていない場合等の取扱い

ア 境界の確認が得られていない場合

地籍調査作業規程準則(昭和32年総理府令第71号。以下「準則」という。)によれば、一筆地調査を行う際に、土地所有者等による境界の確認が得られないなどの状態(以下「筆界未定」という。)の筆が生ずる場合には、当該部分を筆界未定とする地図を作成することとされている。また、「地籍調査事業の推進上留意すべき事項について」(昭和54年国土国第27号国土庁土地局国土調査課長指示。以下「留意事項」という。)によれば、土地所有者等の紛争のために境界の確認が得られない場合にも飽くまでも境界の確認に固執することは、他の土地の所有者を始め地籍調査事業に協力した地域住民の期待に反して事業の進捗を遅らせることになるので、相当の努力により得られた資料を基に速やかに処理することに努めることとされている。

イ 調査実施地区に隣接する他の調査実施地区の基準点を使用する場合

地籍調査において設置された基準点は、当該調査実施地区の成果が認証されることにより、他の調査実施地区の測量においても使用できる基準点として認められている。しかし、これによると、認証されていない隣接する他の調査実施地区(以下「未認証隣接地区」という。)の基準点を使用して調査実施地区の基準点を設置して地籍調査を行った場合、当該調査により成果が得られているにもかかわらず、未認証隣接地区の基準点が使用できる基準点として認められるまで認証請求を行うことができないこととなる。そのため、「認証承認書類における補足事項について」(平成22年国土交通省土地・水資源局国土調査課主査事務連絡。以下「事務連絡」という。)等により、遅滞なく認証請求を行うことができるよう、当該調査の成果に、未認証隣接地区の調査で設置した基準点を含めて認証請求を行うことが認められている。

(4) 地籍図等の認証請求等に関する過去の検査状況

本院は、昭和53年及び62年に実施した検査において、市町村が地籍調査事業により作成した地籍図等について、認証請求が行われず1年以上保管されていて、補助事業の効果が発現されていないなどの事態が見受けられたことから、53年11月に筆界が確認できない事態に対する処理方針を設けることなど、また、62年12月に市町村における公告等の遂行状況の確認を十分行うよう都道府県に対し指導することなどの是正改善の処置を会計検査院法第34条の規定に基づき貴省に対して求めた。これを受けて貴省は、53年の処置要求に対しては筆界の確認について具体的に詳細な方法を示してこれにより速やかな処理を図ることについて、また、62年の処置要求に対しては認証請求が遅滞している場合はその理由及び処理計画を市町村から都道府県に提出させることについて、それぞれ都道府県に通達を発するなどして指示し、是正改善の処置を講じている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

前記のとおり、取扱要領等によれば、地籍調査事業により得られた地籍図等については、遅滞なく認証請求を行うよう努めることとされており、認証されて初めて権威ある資料として位置付けられ、効用を発揮することになるとされている。

そこで、本院は、有効性等の観点から、地籍調査事業の実施により作成された地籍図等が、土地に関する基礎資料として効用を発揮することになるよう認証請求が適切に行われているかなどに着眼して、平成26年度から30年度までの間に原図等案又は地籍図等が作成され、かつ、令和2年3月末時点で認証請求が行われていない16県(注1)の151市町村等において実施された地籍調査事業522事業(事業費計88億4333万余円、負担金等交付額計44億3219万余円、調査実施面積計271.38km2)を対象として、貴省本省及び6県(注2)37市町村において、実績報告書、地籍図等を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、10県(注3)114市町村等について、実績報告書、地籍調査事業の実施状況に関する調書等の提出を受けるなどして検査した。

(注1)
16県  福島、神奈川、富山、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、兵庫、山口、徳島、高知、福岡、熊本、大分各県
(注2)
6県  神奈川、山梨、愛知、兵庫、山口、福岡各県
(注3)
10県  福島、富山、長野、岐阜、静岡、三重、徳島、高知、熊本、大分各県

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 調査実施地区の全ての筆において境界の確認が得られているのに認証請求が行われていない事態

16県の104市町村等に係る271事業(事業費計41億9637万余円、負担金等交付額計21億0903万余円)については、調査実施地区の全ての筆において境界の確認が得られているのに認証請求が行われていなかった。これらについて態様別に示すと次のとおりである。

ア 認証請求を行うための事務処理が遅れていることから認証請求が行われていないもの

14県(注4)の66市町村等は、169事業(事業費計25億9471万余円、負担金等交付額計13億0820万余円、調査実施面積計102.44km2)において、地籍調査事業の実施により原図等案又は地籍図等を作成しているにもかかわらず、認証請求を行うための事務処理が遅れていることから、原図等案について公告及び閲覧を行ったり、地籍図等について都道府県知事への送付等を行ったりするなどの手続(以下「所定の手続」という。)を経ておらず、認証請求を行っていなかった。そして、地籍図等を作成してから認証請求を行うまでの期間について、「遅滞なく」とされているのみで、具体的な定めがないことなどから、このうち116事業においては、原図等案又は地籍図等の作成後、認証請求が行われないまま3年以上が経過していた。

そして、上記の認証請求を行っていなかった169事業を実施した66市町村等に対して、事務処理が遅れている理由を確認したところ、業務の引継ぎが不十分であることや地籍調査に関する経験が少ないことを理由としているものが見受けられた。また、認証請求に係る書類の修正に時間を要していることや他の地区の地籍調査を実施していることを理由としているものも見受けられた。そこで、66市町村等に対して、既に作成した原図等案又は地籍図等について、業務の引継ぎを十分に行ったり事務処理の方法を見直したりすることなどにより、認証請求に必要な事務処理を行い認証請求を行うことができないか改めて聴取したところ、66市町村等の全てが可能であるとしていた。したがって、前記の169事業に係る原図等案又は地籍図等については、所定の手続を行い、遅滞なく認証請求を行う必要があると認められる(表1参照)。

(注4)
14県  福島、神奈川、富山、山梨、長野、岐阜、静岡、三重、兵庫、山口、高知、福岡、熊本、大分各県

イ 全ての土地所有者等が閲覧したことを確認できないと認証請求を行うことができないなどとして認証請求が行われていないもの

11県(注5)の30市町村は、59事業(事業費計9億5523万余円、負担金等交付額計4億7761万余円、調査実施面積計29.04km2)において、前記のとおり、原図等案を作成した旨を公告して閲覧に供するに当たり、取扱要領によれば、土地所有者等に対して調査成果の確認を得られるようにするための所要の措置を執ることとされていることなどから、念のために全ての土地所有者等が閲覧したことを確認するためとして、書類への押印を求めるなどしていた。そして、一部の土地所有者等について、閲覧期間中に閲覧したことが確認できず、当該土地所有者等の閲覧を確認した後に認証請求を行うこととしていたことから、閲覧期間である20日間が経過し地籍図等が作成されているにもかかわらず、認証請求を行っていなかった。このうち36事業においては、認証請求が行われないまま3年以上が経過していた。

しかし、貴省によると、取扱要領では、全ての土地所有者等が実際に閲覧したことを確認することまで求めておらず、土地所有者等に対して閲覧できることを周知するよう求めているものであるとしている。したがって、上記の59事業に係る地籍図等については、一部の土地所有者等が閲覧していなかったとしても、取扱要領における上記の考え方に沿い、遅滞なく認証請求を行う必要があると認められる(表1参照)。

(注5)
11県  福島、富山、山梨、長野、岐阜、愛知、三重、兵庫、徳島、高知、福岡各県

ウ 基準点を使用した未認証隣接地区の認証が行われないと認証請求を行うことができないなどとして認証請求が行われていないもの

13県(注6)の23市町村は、43事業(事業費計6億4643万余円、負担金等交付額計3億2321万余円、調査実施面積計20.44km2)において、未認証隣接地区に設置されている基準点を使用して調査実施地区の基準点を設置したが、当該地区の認証請求を行う際に未認証隣接地区の成果が認証されていなかったことから、当該地区の認証請求を行うことができないとして、未認証隣接地区が認証された後に認証請求を行うこととしていた。このため、地籍図等を作成しているにもかかわらず、認証請求を行っていなかった。このうち29事業においては、認証請求が行われないまま3年以上が経過していた。

しかし、前記のとおり、事務連絡によると、未認証隣接地区の成果が認証されていない場合に遅滞なく認証請求を行うことができるように、調査実施地区の成果に未認証隣接地区の調査で設置した基準点を含めて認証請求を行うことが認められている。したがって、上記の43事業に係る地籍図等については、事務連絡の趣旨に沿って、遅滞なく認証請求を行う必要があると認められる(表1参照)。

(注6)
13県  福島、神奈川、富山、山梨、長野、愛知、三重、兵庫、山口、徳島、高知、福岡、大分各県

表1 (1)の事態に係る態様別の県名、市町村等名及び事業数

態様
県名 市町村等名及び事業数
認証請求を行うための事務処理が遅れていることから認証請求が行われていないもの
福島
福島市(2)、いわき市、須賀川市、南会津郡下郷町(3)、大沼郡会津美里町(2)、東白川郡塙町
神奈川
横須賀市、厚木市(8)、海老名市
富山
富山市、氷見市(2)
山梨
富士吉田市(2)、甲斐市(2)、南都留郡富士河口湖町
長野
長野市(10)、松本市(3)、上田市(2)、須坂市、伊那市(4)、中野市(2)、大町市、佐久市(4)、上伊那郡飯島町(2)、木曽郡上松町、同木曽町(4)、埴科郡坂城町(2)、上水内郡信濃町(4)、上伊那郡中川村、下伊那郡天龍村、上高井郡高山村(2)、下水内郡栄村(4)
岐阜
関市(2)、中津川市(3)、瑞浪市(2)、山県市(2)、瑞穂市(2)、加茂郡八百津町(2)
静岡
島田市(2)、富士市(3)、袋井市(5)、静岡県森林組合連合会(4)
三重
名張市、亀山市(2)、いなべ市(2)、桑名郡木曽岬町(4)、度会郡度会町(2)
兵庫
洲本市(2)、丹波篠山市、南あわじ市、加東市、多可郡多可町(2)
山口
下関市(4)
高知
香南市、長岡郡大豊町(4)、吾川郡いの町(2)
福岡
田川郡香春町、同大任町(4)
熊本
上益城郡御船町(3)、同益城町(5)、球磨郡多良木町(3)、阿蘇郡西原村、球磨郡五木村(3)
大分
中津市、臼杵市(2)、竹田市(13)、玖珠郡玖珠町
全ての土地所有者等が閲覧したことを確認できないと認証請求を行うことができないなどとして認証請求が行われていないもの
福島
郡山市(3)、白河市、南会津郡南会津町(2)、岩瀬郡天栄村、河沼郡湯川村(3)
富山
南砺市(2)
山梨
上野原市、南巨摩郡富士川町、南都留郡忍野村
長野
長野市、松本市
岐阜
関市、不破郡垂井町、揖斐郡大野町
愛知
半田市、西尾市(2)、清須市
三重
多気郡大台町(2)、度会郡玉城町(2)
兵庫
姫路市(2)
徳島
海部郡牟岐町
高知
安芸市、宿毛市、安芸郡東洋町(4)、土佐郡土佐町(4)、高岡郡中土佐町(12)、同佐川町、安芸郡北川村(2)、同馬路村(2)
福岡
田川郡香春町
基準点を使用した未認証隣接地区の認証が行われないと認証請求を行うことができないなどとして認証請求が行われていないもの
福島
須賀川市、南会津郡下郷町、岩瀬郡天栄村(2)、耶麻郡北塩原村
神奈川
藤沢市
富山
砺波市、南砺市(3)
山梨
甲州市、南巨摩郡身延町(7)、南都留郡忍野村(2)
長野
木曽郡南木曽町、同木祖村
愛知
北設楽郡設楽町
三重
多気郡大台町(3)、南牟婁郡御浜町
兵庫
洲本市(4)、三田市
山口
下関市
徳島
那賀郡那賀町
高知
吾川郡いの町(4)、高岡郡佐川町
福岡
宮若市(3)
大分
臼杵市

(注) 市町村等名の後の( )内の数字は、態様別の事業が2以上ある場合における事業数であり、( )書きがない市町村等における事業数は1である。

(2) 調査実施地区の多数の筆において境界の確認が得られているにもかかわらず、一部の筆において境界の確認が得られていないことを理由として認証請求が行われていない事態

12県(注7)の73市町村は、233事業(事業費計44億5055万余円、負担金等交付額計22億2496万余円、調査実施面積計116.81km2)において、原図等案又は地籍図等を作成しているにもかかわらず、調査実施地区内の一部に筆界未定の筆があったことから、これらの筆の境界の確認が得られた後に調査実施地区全体について認証請求を行うこととしていた。このため、調査実施地区全体について所定の手続を経ておらず、認証請求を行っていなかった。そして、地籍図等を作成してから認証請求を行うまでの期間について、「遅滞なく」とされているのみで、具体的な定めがないことなどから、このうち162事業においては、原図等案又は地籍図等の作成後、認証請求が行われないまま3年以上が経過していた。この結果、境界の確認が得られている多数の筆(調査実施面積計109.27km2。全体の調査実施面積に対する割合93.5%)について、その成果が活用されていない状況となっていた。

しかし、前記のとおり、準則によれば、土地所有者等による境界の確認が得られない場合には、当該部分を筆界未定とする地図を作成することとされており、また、留意事項によれば、一部の境界の確認が得られない場合にこれに固執することは、事業の進捗を遅らせることになるので、速やかに処理することに努めることとされている。したがって、多数の筆について境界の確認が得られている上記の233事業に係る原図等案又は地籍図等については、準則、留意事項等の趣旨に沿い、地籍図等の作成後、土地所有者の変更等により境界の確認が得られないものが多数発生するなどして認証請求を行うことが困難となっているものなどを除き、境界の確認が得られていない筆を筆界未定とする地図を作成することにより作業工程を進めるなどして、遅滞なく認証請求を行う必要があると認められる(表2参照)。

(注7)
12県  福島、富山、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、兵庫、徳島、高知、福岡各県

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

事例

山梨県山梨市は、平成27年度に地籍調査事業に着手した調査実施地区(131筆、0.60km2)において、28年度中に地籍図等を作成していた(事業費1376万余円、負担金交付額688万余円)。

しかし、同市は、隣接する土地の所有者間で境界についての主張が異なり、境界の確認が得られていない筆(13筆、0.05km2)があったことから、これらの境界の確認が得られるなどした後に認証請求を行うこととしていた。このため、地籍図等を作成してから3年を経過した令和2年3月末時点においても認証請求を行っておらず、その結果、境界の確認が行われた地区(118筆、0.55km2)の成果が活用されていない状況となっていた。

表2 (2)の事態に係る県名、市町村名及び事業数

県名 市町村名及び事業数
福島
郡山市(4)、いわき市(2)、喜多方市(2)、東白川郡塙町(2)、耶麻郡北塩原村
富山
魚津市、南砺市(13)、中新川郡立山町(6)
山梨
富士吉田市、山梨市(5)、大月市、甲州市(2)、南巨摩郡早川町、同身延町(6)、同南部町(3)
長野
長野市、下伊那郡天龍村(2)、木曽郡大桑村(3)、東筑摩郡麻績村(2)
岐阜
高山市、中津川市(3)、羽島市(4)、本巣市(5)、羽島郡笠松町、揖斐郡池田町(3)、加茂郡坂祝町(3)、同東白川村、大野郡白川村
静岡
島田市、富士市、焼津市(3)、藤枝市(2)、袋井市、伊豆の国市(7)、駿東郡長泉町、榛原郡川根本町
愛知
北設楽郡設楽町(2)
三重
伊勢市(7)、桑名市(2)、尾鷲市(2)、熊野市、いなべ市、伊賀市(2)、員弁郡東員町、多気郡多気町(3)、同明和町(2)、同大台町、度会郡玉城町(3)、北牟婁郡紀北町(4)
兵庫
洲本市(3)、高砂市、南あわじ市、淡路市(6)、神崎郡福崎町(4)
徳島
那賀郡那賀町、海部郡牟岐町(3)
高知
高知市(6)、室戸市(3)、安芸市(3)、土佐市(4)、宿毛市、安芸郡東洋町(6)、同奈半利町(5)、同安田町(6)、高岡郡佐川町(5)、同越知町(8)、同四万十町(14)、幡多郡黒潮町(8)、安芸郡北川村(6)
福岡
直方市、宮若市(2)、田川郡大任町(3)、築上郡上毛町(5)

(注) 市町村名の後の( )内の数字は、事業が2以上ある場合における事業数であり、( )書きがない市町村における事業数は1である。

したがって、(1)及び(2)の事態に係る地籍調査事業計504事業(事業費計86億4692万余円、負担金等交付額計43億3399万余円)においては、事業の成果である地籍図等が活用されていないなどの状況になっていた。

(改善を必要とする事態)

市町村等において、地籍調査事業の実施により原図等案又は地籍図等を作成しており、調査実施地区の全ての筆において境界の確認が得られている場合に、認証請求を行うための事務処理が遅れていたり、全ての土地所有者等が閲覧したことの確認や基準点を使用した未認証隣接地区の認証が行われないと認証請求を行うことができないなどとしたりして所定の手続を経ておらず、認証請求が行われていない事態、及び調査実施地区の多数の筆について境界の確認が得られているにもかかわらず、一部の筆において境界の確認が得られていないことを理由として所定の手続を経ておらず、認証請求が行われていない事態は、地籍調査事業の成果である地籍図等が有効に活用されていないことなどから適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

  • ア 貴省において、市町村等に対して、取扱要領では土地所有者等が実際に原図等案を閲覧したことを確認することまで求めていないことについて明確に示していなかったり、調査実施地区の成果に未認証隣接地区の調査で設置した基準点を含めて認証請求を行うことが認められていることや、境界の確認が得られていない場合に筆界未定とする地図を作成することにより作業工程を進めることについて周知徹底していなかったりしていること
  • イ 貴省において、市町村等に対して、筆界未定が生じた場合に境界の確認に固執することで事業の進捗を遅らせることのないよう求めるなどしているものの、地籍図等が作成されてから認証請求を行うまでの標準的な期間を具体的に示していないこと
  • ウ 市町村等において、地籍調査事業の実施により原図等案を作成した場合は遅滞なく公告して閲覧に供することにより地籍図等を作成することや、地籍図等を作成した場合は遅滞なく認証請求を行うことの重要性についての認識が欠けていたり、筆界未定が生じた場合に、準則や留意事項に従い作業工程を進めることに対する理解が十分でなかったりしていること

3 本院が要求する改善の処置

貴省は、地籍の明確化を図るため、今後も引き続き、法に基づき市町村等が行う地籍調査事業に要する経費に対して負担金等の交付を行うこととしている。

ついては、貴省において、地籍調査事業の実施により作成された原図等案又は地籍図等について、所定の手続を経た上で遅滞なく認証請求が行われ、地図として登記所に備え付けられることにより有効に活用されるよう、次のとおり改善の処置を要求する。

  • ア 市町村等に対して、取扱要領では土地所有者等が実際に原図等案を閲覧したことを確認することまでは求めていないことについて明確に示すとともに、調査実施地区の成果に未認証隣接地区の調査で設置した基準点を含めて認証請求を行うことが認められていることや、境界の確認が得られていない場合に筆界未定とする地図を作成することにより作業工程を進めることについて周知徹底すること
  • イ 地籍図等が作成されてから認証請求を行うまでの標準的な期間を定めるとともに、市町村等に対して、地籍調査の目的及び重要性を踏まえて、原図等案を作成した場合は遅滞なく公告して閲覧に供することにより地籍図等を作成するとともに、地籍図等を作成した場合は上記の標準的な期間内に認証請求を行うことについて周知すること
  • ウ 市町村等における認証請求の状況を定期的に把握し、地籍図等が作成されているにもかかわらず認証請求が行われていない地籍調査事業について、市町村等に対して、ア及びイを考慮するなどして認証請求の可否を検討するとともに、ほとんどの筆が筆界未定になるなど認証請求を行うことが困難となっているなどのものを除いた認証請求が可能なものについては遅滞なく認証請求を行うよう技術的助言を行うこととすること