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  • 令和元年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第11 国土交通省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(1) 下水道管渠(きょ)の更生工事に係る更生材料費の積算に当たり、ガイドラインに準拠して施工条件との適合性等に留意した上で更生材料費の見積りなどにより経済的に優位な更生工法を選定したり、基準等に基づいて特別調査を行うなどして適正な市場価格を把握したりすることにより適切に行うよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)国土交通本省 (項) 社会資本総合整備事業費 等
部局等
国土交通本省
事業及び補助の根拠
下水道法(昭和33年法律第79号)等
事業主体
12都府県、112市町村、計124事業主体
更生工事の概要
老朽化対策等のために下水道管渠の内面に新たな下水道管渠を構築するもの
更生工事に係る工事件数、更生材料の品目数及び工事費
880件 延べ3,289品目 1516億2682万余円
(平成30、令和元両年度)
上記のうち交付対象事業費
1086億6018万余円
上記に対する交付金等交付額
541億9175万余円
経済的に優位な更生工法を選定することなく積算していた工事に係る事業主体数、工事件数、品目数及び更生材料費の積算額
8事業主体 31件 延べ 42品目 1億6978万余円
(平成30、令和元両年度)
(交付金相当額 8489万余円)
上記について低減できた積算額(1)
2360万円
(平成30、令和元両年度)
(交付金相当額 1182万円)
特別調査を行って適正な市場価格を把握することなく積算していた工事に係る事業主体数、工事件数、品目数及び更生材料費の積算額
41事業主体 178件 延べ 377品目 53億4302万余円
(平成30、令和元両年度)
(交付金相当額 26億6651万余円)
上記のうち市場価格を推定できた更生材料を使用していた工事に係る事業主体数、工事件数、品目数及び更生材料費の積算額
30事業主体 130件 延べ 238品目 39億2529万余円
(平成30、令和元両年度)
(交付金相当額 19億5962万余円)
上記について低減できた積算額(2)
2億1090万円
(平成30、令和元両年度)
(交付金相当額 1億0543万円)
(1)及び(2)の計
36事業主体 157件 延べ 274品目 2億3450万円
(交付金相当額 1億1725万円)

1 更生工事の概要

(1) 更生工事の設計における更生工法の選定

国土交通省は、下水道法(昭和33年法律第79号)等に基づき、下水道事業を行う地方公共団体等(以下「事業主体」という。)に対して、毎年度多額の社会資本整備総合交付金(以下「交付金」という。)等を交付している。そして、事業主体は、既設の下水道管渠の老朽化対策等のために、下水道管渠の内面に新たな下水道管渠を構築する更生工法による更生工事等を実施している。

同省は、更生工事が「管きょ更生工法における設計・施工管理ガイドライン」(公益社団法人日本下水道協会発行。以下「ガイドライン」という。)に準拠していることなどを交付金の交付対象要件としている。ガイドライン等によれば、令和元年度末現在、性能等が客観的に証明されている更生工法は反転・形成工法(注1)及び製管工法(注2)の36種類あり、更生工法の選定に当たっては、①施工条件との適合性、②耐力の確保、③流下能力の確保、④経済性、⑤他工法の検討等に留意する必要があるとされている。そして、適用可能な更生工法については、上記①から③までの留意事項に関連する対策等を含めた費用に照らして優位な更生工法を選定するとされている。

また、事業主体は、更生工事の工事費の積算に当たり、同省が制定した「下水道用設計標準歩掛表第1巻管路」(以下「下水道標準歩掛」という。)に基づくなどしている。そして、更生工法ごとに使用する更生材料が異なるため更生材料費は異なるものの、施工費は、下水道標準歩掛において適用される数量が同じであるため大きな差は生じない。このため、適用可能な更生工法が複数ある場合、それぞれの更生材料費を比較することなどによって、経済的に優位な更生工法の選定が可能となる。

(注1)
反転・形成工法  熱で硬化する樹脂を含浸させるなどした更生材料を、マンホールから既設の下水道管渠内に反転加圧しながら挿入し、加圧状態のまま樹脂を硬化させるなどして内面に下水道管渠を構築する工法
(注2)
製管工法  既設の下水道管渠内に表面部材となる硬質塩化ビニル樹脂等をかん合して製管し、既設の下水道管渠との間にモルタルなどの充塡剤を注入して内面に下水道管渠を構築する工法

(2) 更生材料費等の材料単価の決定方法

事業主体は、更生工事に係る工事費の積算に当たり、同省制定の土木工事標準積算基準書に準拠して定めた土木積算基準等(以下「基準等」という。)によるなどして材料単価を決定している。基準等によれば、材料単価は市場における実際の取引価格(以下「市場価格」という。)により決定することなどとされ、物価資料(刊行物である積算参考資料をいう。)等に掲載されていない材料について、原則として一材料当たりの材料単価に使用する数量を乗じた金額(以下「調達価格」という。)が基準等に定める価格(以下「基準額」という。)以上の材料は、物価調査機関に市場価格を調査させる特別調査により材料単価を決定することとされている。また、調達価格が基準額未満の材料及び基準額以上であっても市場性がない材料や緊急性が求められる工事等に使用する材料は、特別調査によらず、見積りにより材料単価を決定することも可能とするなどの取扱いとなっている(以下、特別調査により決定した材料単価を「特別調査単価」、見積りにより決定した材料単価を「見積単価」という。)。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

下水道管渠は、平成30年度末現在の全国における整備済みの管路延長が約48万kmと非常に長大なものとなっており、このうち整備後50年を経過したものが約1.9万kmとなっている。そして、令和10年度末には、整備後50年を経過した下水道管渠の延長が上記の3倍を超える約6.9万kmになることが見込まれるなどその老朽化が急速に進んでいくことなどから、今後も多数の更生工事が行われることが見込まれる。

そこで、本院は、経済性等の観点から、更生工事に係る工事費の積算が適切なものとなっているかなどに着眼して、12都府県(注3)の124事業主体が、平成30、令和元両年度に実施した更生工事880件(管路延長242km、更生材料数延べ3,289品目)に係る契約(工事費計1516億2682万余円、交付対象事業費計1086億6018万余円、交付金等交付額計541億9175万余円)を対象として、各事業主体において、基準等、設計図書、見積書等を確認したり、調書の提出を受け、その内容を確認したりするなどして会計実地検査を行った。

(注3)
12都府県  東京都、京都、大阪両府、茨城、神奈川、静岡、愛知、滋賀、奈良、高知、福岡、熊本各県

(検査の結果)

検査したところ、更生工事に係る更生材料費の積算について、次のような事態が見受けられた。

(1) 経済的に優位な更生工法を選定することなく積算していたもの

前記880件の更生工事に係る更生工法の選定についてみると、4県の8事業主体(注4)が実施した31件の更生工事については、適用可能な複数の更生工法に係る材料単価の見積りの平均価格により積算しており、更生材料費を比較することなどによって経済的に優位な更生工法を選定することなく積算していた。そこで、上記31件の更生工事における延べ42品目に係る更生材料費の積算額計1億6978万余円(交付金相当額計8489万余円)について、適用可能な更生工法のうち材料単価の見積りが最も安価である経済的に優位な更生工法を選定し、これにより更生材料費を改めて算出すると計1億4612万余円となり、上記の積算額を約2360万円(交付金相当額1182万余円)低減できたと認められた。

(注4)
8事業主体  浜松、熱海、豊川、豊明、橿原、山鹿各市、生駒郡平群、北葛城郡河合両町

(2) 特別調査を行って適正な市場価格を把握することなく積算していたもの

前記880件の更生工事において、更生材料の調達価格が基準額以上となっていた623件の延べ1,568品目のうち、10府県の41事業主体(注5)が実施した178件の更生工事における延べ377品目の更生材料については、同じ更生工法による施工実績があり、これに係る更生材料の取引実績があるため市場性がない材料ではないこと、また、緊急性が求められる工事等に使用する材料でもないことから、基準等に基づいて特別調査を行って材料単価を決定すべきであったのに、これを行うことなく見積りにより材料単価を決定していた。

一方、上記178件の更生工事以外で見積りの徴取と特別調査の両方を行っていた更生工事について、本院において更生材料ごとに見積りの最低額に対する特別調査単価の割合を算出したところ、88.6%から98.3%までとなっていた。

そこで、前記178件の更生工事における延べ377品目に係る更生材料費((1)の事態にも該当する更生材料については、最も安価な見積りにより算出した場合の更生材料費)の積算額計53億4302万余円(交付金相当額計26億6651万余円)のうち、上記の割合を算出できた更生材料を使用していた8府県の30事業主体(注6)が実施した130件の更生工事における延べ238品目に係る更生材料費(同上)の積算額計39億2529万余円(交付金相当額計19億5962万余円)について、更生材料ごとの見積単価に上記の割合を乗じて特別調査を行った場合の市場価格を推定し更生材料費を改めて算出すると計37億1432万余円となり、上記の積算額を約2億1090万円(交付金相当額1億0543万余円)低減できたと認められた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

事例

大阪府茨木市は、令和元年度に「公共下水道大池排水区第1工区管渠更生工事」を工事費908,600,000円(うち交付対象事業費898,400,000円、交付金交付額449,200,000円)で実施している。同市は、調達価格が基準額以上である7品目の更生材料について、市場性がない材料であるとして、大阪府都市整備部制定の建設工事積算基準に基づく特別調査を行うことなく見積単価により更生材料費を468,117,490円(交付金相当額234,058,745円)と積算していた。

しかし、本件工事の更生工法は、ガイドラインに準拠していて施工実績がある工法であり、これに係る更生材料は過去に取引実績があること、また、本件工事で使用した更生材料について、現に近隣の他の事業主体では特別調査を行っていたことを踏まえると、市場性がないとしていたのは妥当ではなく、特別調査を行うべきであった。

そこで、更生材料ごとの見積単価を基に推定した特別調査を行った場合の市場価格により更生材料費を算出すると452,585,074円となり、前記の更生材料費を15,532,416円(交付金相当額7,766,205円)低減できることになる。

(注5)
41事業主体  京都、大阪両府、厚木、浜松、三島、富士、下田、岡崎、豊川、刈谷、犬山、大府、豊明、八幡、京田辺、大阪、堺、岸和田、豊中、池田、高槻、守口、茨木、富田林、河内長野、箕面、交野、大阪狭山、奈良、天理、橿原、香芝、高知、久留米各市、愛甲郡愛川、田方郡函南、知多郡阿久比、犬上郡豊郷、南河内郡河南、北葛城郡上牧、玉名郡長洲各町
(注6)
30事業主体  京都、大阪両府、三島、富士、下田、岡崎、豊川、刈谷、豊明、八幡、京田辺、大阪、堺、岸和田、豊中、池田、高槻、守口、茨木、河内長野、箕面、交野、大阪狭山、高知、久留米各市、田方郡函南、知多郡阿久比、犬上郡豊郷、南河内郡河南、玉名郡長洲各町

このように、事業主体において、経済的に優位な更生工法を選定することなく積算していたり、特別調査を行って適正な市場価格を把握することなく積算していたりしていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(低減できた下水道管渠の更生工事に係る更生材料費の積算額)

(1)及び(2)の事態について、重複を除いた36事業主体(注7)の計157件の更生工事における延べ274品目に係る更生材料費(積算額計40億9507万余円、交付金相当額計20億4451万余円)について、最も安価な見積りにより経済的に優位な更生工法を選定したり、更生材料ごとの見積単価を基に特別調査を行った場合の市場価格を推定したりして改めて算出すると計38億6045万余円となり、約2億3450万円(交付金相当額1億1725万余円)が低減できたと認められた。

(注7)
36事業主体  京都、大阪両府、浜松、熱海、三島、富士、下田、岡崎、豊川、刈谷、豊明、八幡、京田辺、大阪、堺、岸和田、豊中、池田、高槻、守口、茨木、河内長野、箕面、交野、大阪狭山、橿原、高知、久留米、山鹿各市、田方郡函南、知多郡阿久比、犬上郡豊郷、南河内郡河南、生駒郡平群、北葛城郡河合、玉名郡長洲各町

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、事業主体において更生工事に係る更生材料費の積算に当たり、ガイドラインに準拠して経済的に優位な更生工法を選定する必要があることや、基準等に基づき特別調査を行って適正な市場価格を把握することの理解が十分でなかったこと、国土交通省において事業主体に対するガイドライン及び特別調査を行うなどして適正な市場価格を把握することの周知が十分でなかったことなどによるものと認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省は、2年8月に事業主体に対して事務連絡を発して、更生工事に係る更生材料費の積算に当たっては、ガイドラインに準拠し、施工条件との適合性、流下能力の確保等に留意して工法を選定の上、適用可能な更生工法が複数ある場合には更生材料費が最も安価な見積りなどにより経済的に優位な更生工法を選定したり、基準等に基づいて特別調査を行うなどして適正な市場価格を把握したりすることにより適切に行うよう周知する処置を講じた。