国土交通省は、統計法(平成19年法律第53号)等に基づき、同省が所掌する分野に係る公的統計を、個人又は法人その他の団体に対して事実の報告を求める調査(以下「統計調査」という。)を実施するなどして作成している。
公的統計には、基幹統計(注1)、一般統計(注2)等があり、国土交通省は、公的統計の内容等に応じて、毎年度、数年間隔等で統計調査を同省本省(以下「本省」という。)、地方整備局等で実施している。
国土交通省は、「統計調査における民間事業者の活用に係るガイドライン」(平成17年3月統計企画会議申合せ)等に基づき、統計調査業務における民間事業者の活用に向けた取組を推進することとしており、国の行政機関の中核的な知識・能力を必ずしも要しない業務や、民間事業者の活用の推進を図ることが適当な業務については、民間事業者を活用することとしている。そして、国土交通省は、統計調査を実施するに当たり、調査の企画、調査対象者の選定、調査票等の印刷及び配布、問合せ対応、調査票収集、データ入力、分析等の業務については、一般競争入札等を実施し、民間事業者に請負契約等により請け負わせるなどしている(以下、この請負契約等を「統計調査請負契約等」という。)。
国土交通省は、統計調査については、調査内容、調査対象、調査方法等の性質に応じて求められる業務内容が多岐にわたっているなどとして、積算基準等を定めていない。そのため、統計調査請負契約等に係る予定価格の積算に当たっては、設計業務等の積算に適用する「設計業務等標準積算基準書」(国土交通省監修。以下「積算基準書」という。)等を準用したり、業者から参考見積りを徴したりなどしている。そして、人件費の積算に当たっては、作業従事者の職種ごとに定められた単価に作業従事人日数を乗ずるなどして算定している。
また、積算基準書によると、単価の決定に当たっては、市場単価等を基に実勢の価格を反映することになっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
国土交通省は、建設行政、交通行政等に係る政策を策定するための基礎資料を得ることなどを目的として統計調査を毎年度実施しており、統計調査請負契約等の契約額は多額に上っている。
そこで、本院は、経済性等の観点から、統計調査請負契約等に係る予定価格の積算が業務内容を反映した適切なものとなっているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、平成27年度から令和元年度までの間に国土交通省が人件費を積算していた統計調査請負契約等のうち、港湾調査等16統計に係る129契約(注3)(契約金額計68億1201万余円)を対象として、本省、観光庁及び6地方整備局(注4)において、契約書、仕様書等を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、人件費等の積算に関する調書等の提出を受けて、その内容を確認するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
前記のとおり、国土交通省は、統計調査請負契約等の人件費の積算に当たっては、作業従事者の職種ごとに定められた単価に作業従事人日数を乗ずるなどして算定している。
そして、単価についてみると、前記129契約のうち116契約においては、国土交通省は、業務内容が設計業務等に類似していたり、短期間に相当量の複雑な調査票を処理する必要があり、設計業務等を行う技術者に必要とされている管理業務や複数の業務を行うなどの能力(以下「技術的能力」という。)を有する者が業務を実施する必要があったりするなどと判断して、同省が制定した設計業務委託等技術者単価(以下「技術者単価」という。)のうち設計業務に適用する主任技師(元年度53,800円/人日)や測量業務に適用する測量主任技師の単価(同43,500円/人日)等を適用していた。
しかし、各統計調査請負契約等の仕様書等により業務内容を確認したところ、上記116契約のうち、本省が実施している4統計(注5)に係る統計調査請負契約等12契約、6地方整備局が実施している4統計(注6)に係る統計調査請負契約等32契約、計44契約(統計調査に係る人件費等の積算額計6億0551万余円)において実施された業務のうち、表のとおり、紙で提出された調査票を月別や番号別に整理したり、調査票に記載されている内容を表計算ソフト等に入力したり、調査票をスキャナでPDF形式に電子化したりするなどの作業は、一般的な事務作業であり、技術的能力を必要としないと認められる作業(以下「一般的な事務作業」という。)となっていた。
表 一般的な事務作業に該当する作業
業務の別 | 左の業務のうち一般的な事務作業に該当する作業 | 左の作業が含まれていた契約の件数 |
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調査対象者の選定等 | 発注者である本省又は地方整備局(以下「発注者」という。)から提示されたマニュアル等に基づき、調査対象者を選定するための台帳から機械的に対象者を抽出したり、発注者から支給された対象者のリストから他の統計調査等の調査対象となっている者を除外したりするなどして調査対象者の名簿を作成する。 |
9 |
調査票等の印刷及び配布 | 発注者から貸与される原稿を用いて、発注者から貸与される調査対象者のリストに記載された住所等を入力するなどして、調査票、調査要領、返送用封筒等を特殊な機械や材料を用いない方法により印刷したり、印刷した調査票等を発送用封筒に封入し発送したりする。 |
19 |
問合せ対応 | 発注者から貸与される想定問答集等により、調査対象者等からの調査票の記入方法等に係る問合せに対応し、想定問答集等による対応が困難な場合は、問合せ対応を実施する者の独自の判断ではなく、発注者等の指示により対応する。 |
14 |
調査票収集、データ入力等 | 紙で提出された調査票を月別や番号別に整理したり、調査票に記載されている内容を表計算ソフト等に入力したり、調査票をスキャナでPDF形式に電子化したりする。 |
35 |
そして、前記のとおり、積算基準書によると、単価の決定に当たっては、市場単価等を基に実勢の価格を反映することになっており、一般的な事務作業に係るものについては、刊行物である積算参考資料において、一般事務従事者の単価(元年度14,485円/人日)が示されている。
このように、国土交通省において、統計調査請負契約等に係る人件費の積算に当たり、一般的な事務作業について、参考とする市場単価があるのに内容を十分に考慮することなく技術者単価を適用して人件費を算定していた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(低減できた積算額)
前記44契約に係る人件費等の積算額6億0551万余円のうち、一般的な事務作業に係る人件費の積算額を前記一般事務従事者の単価等を適用するなどして修正計算すると、上記の積算額6億0551万余円は計5億0890万余円となり、約9660万円低減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、本省及び6地方整備局において、統計調査請負契約等に係る人件費の積算に当たり、業務内容を踏まえた単価を適用することの必要性について理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省は、2年8月に、統計調査を実施する部局に対して事務連絡を発して、当該事務連絡の発出以降に入札手続等を開始する統計調査請負契約等における予定価格の積算に当たり、一般的な事務作業については、刊行物である積算参考資料を参考にするなどして、業務内容を踏まえた適正な人件費単価を適用することにより、経済的な積算を行うよう周知する処置を講じた。