防衛医科大学校(以下「防医大」という。)は、防衛省設置法(昭和29年法律第164号)に基づいて、医師である幹部自衛官となるべき者の教育訓練等を実施している。そして、防衛医科大学校の編制等に関する省令(昭和48年総理府令第65号)に基づいて、医学の教育及び研究に資するために、防医大に防衛医科大学校病院(以下「医大病院」という。)が昭和52年に設置されており、医大病院は、厚生労働大臣から保険医療機関の指定を受けるとともに、高度の医療技術を有する特定機能病院としての承認を得て、隊員等のほか一般の患者も対象に診療を行っている。
防医大は、医大病院の外来患者等が利用する駐車場(自動車約280台収容)を整備しており、無断駐車の防止を図るなど駐車場の適切な管理を行うために駐車場の利用料金(以下「駐車整理料」という。)を定めている。そして、平成24年度に医大病院の事務部庶務課長(29年度以降は事務部運営企画課長。以下「庶務課長」という。)が、一般財団法人防衛医学振興会(以下「振興会」という。)との間で「防衛医科大学校病院の駐車場整理業務及び駐車場関連道路等管理業務」の契約(以下「当初契約」という。)を締結しており、防医大は、振興会に当該駐車場における利用車両の整理、駐車整理料の受領等の業務(以下「駐車場整理等業務」という。)を実施させている。当初契約は、競争に付して締結されており、契約期間は24年9月から29年4月まで、契約金額は7882万余円となっている。また、庶務課長が契約期間の延長等を内容とした変更契約を計5回締結したことにより、最終的に契約期間は24年9月から令和2年3月まで、契約金額は1億4600万余円となっている(以下、当初契約及び各変更契約を合わせて「請負契約」という。)。
契約書によると、防医大は、1年分の契約金額に相当する金額及び駐車場整理等業務の実施に際して緊急的に発生した経費(以下、これらを合わせて「支払金額」という。)を四半期に分けて振興会に支払うこととなっており、振興会は、四半期分の支払金額と利用者から受領した四半期分の駐車整理料とを相殺の上、駐車整理料が支払金額を上回った場合は余剰金として防医大に納付することなどとなっている。そして、会計書類が保存されていた平成26年度から令和元年度までにおける駐車整理料の総額は1億8009万余円、支払金額の総額は1億1916万余円(このうち、1億1649万余円は契約金額に相当する金額、266万余円は駐車場整理等業務の実施に際して緊急的に発生した経費である。)、余剰金として納付された総額は6093万余円となっており、いずれの四半期においても駐車整理料が支払金額を上回っていた。
会計法(昭和22年法律第35号)によれば、支出負担行為(国の支出の原因となる契約その他の行為)に関する事務は各省各庁の長が管理することとされている。そして、各省各庁の長は、当該各省各庁所属の職員に、その所掌に係る支出負担行為に関する事務を委任することができることとされており、この委任を受けた職員が支出負担行為担当官とされている。
支出負担行為担当官は、契約を締結する場合においては、会計法第29条の8の規定により、原則として、契約金額、履行期限等を記載した契約書を作成しなければならないことなどとされている。また、次年度以降にも効力が継続する債務を負担する行為である国庫債務負担行為を行う場合には、財政法(昭和22年法律第34号)第15条第1項の規定により、「予め予算を以て、国会の議決を経なければならない」とされている。さらに、国の予算については、同法第14条において、「歳入歳出は、すべて、これを予算に編入しなければならない」として総計予算主義の原則が定められている。そして、予算の執行については、会計法第2条において、「各省各庁の長は、その所掌に属する収入を国庫に納めなければならない。直ちにこれを使用することはできない」として収入支出統一の原則が定められている。
会計法第29条の3の規定によれば、支出負担行為担当官は、契約を締結する場合においては、契約の性質又は目的が競争を許さない場合等を除き、公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならないこととされている。また、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)第79条及び第80条の規定等によれば、支出負担行為担当官は、予定価格を定めなければならないことなどとされている。
防医大における会計機関については、「会計機関等への事務の委任等について(通達)」(平成19年防経会第54号)に基づき、防医大事務局経理部長が支出負担行為担当官に、経理部経理課長が歳入徴収官にそれぞれ委任されている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性等の観点から、駐車場整理等業務について、会計法令等に基づいて契約手続等や会計処理が適正に行われているかなどに着眼して、請負契約を対象として、防医大において、契約書、仕様書等の関係資料を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
請負契約の契約書の内容を確認したところ、防医大は、振興会が提供する役務に対してその代金を支払うものとされていて、請負契約は国の支出の原因となる契約となっていた。しかし、請負契約については、支出負担行為担当官ではない庶務課長が締結していた。また、請負契約の契約期間について、国庫債務負担行為の手続を経ることなく複数年度にわたる契約としていた。
さらに、四半期分の駐車整理料と支払金額とを相殺した場合においても、会計法第2条に基づき、相殺した後の余剰金及び相殺した額のそれぞれについて、収納又は支出のための会計処理を行うことにより、四半期分の駐車整理料及び支払金額の全額を国の歳入及び歳出に計上すべきであった。しかし、防医大は、平成26年度から令和元年度までの間に、駐車整理料の総額1億8009万余円と支払金額の総額1億1916万余円とを相殺した後の余剰金6093万余円を収納するための会計処理しか行っておらず、相殺した駐車整理料1億1916万余円及び支払金額の総額1億1916万余円については、収納又は支出のための会計処理を行っていなかった。
このような契約等を行っていた経緯について防医大に確認したところ、請負契約を締結する以前の契約においては、駐車場整理等業務の実施に際して発生する経費については振興会が駐車整理料による収入をもって支弁することとしていたことから、当該契約は国の支出の原因となる契約に当たらないとして、支出負担行為担当官ではない庶務課長が契約を締結していたとしている。そして、平成24年9月以降は契約金額を定めた請負契約に移行し、余剰金が生じた場合は四半期ごとに国に納付させるよう契約内容を改めたが、引き続き駐車整理料の収入をもって管理に必要な経費を賄わせるとの基本的な考えがあったことから、請負契約についても従来の契約と同様に、直接的には国からの支払を伴わないことが想定されるため国の支出の原因となる契約には当たらず、余剰金だけを国の歳入に計上すればよいと誤解していたとのことであった。
防医大では、庶務課長が契約期間が終了する際に、変更契約を繰り返し、最終的に令和2年3月まで競争に付することなく契約期間の延長を行っていたり、変更契約を行う際に、予定価格を定めることなく、当初契約より月額約35万円から約57万円増額されていた振興会の見積額を、内容の精査を行わずにそのまま契約金額として決定していたりしていた。
上記の事態において、会計法令等に基づき契約手続や国庫債務負担行為の手続が適正に行われていなかったと認められる契約金額は1億4600万余円(平成24年度から令和元年度まで)、また、会計処理が適正に行われていなかったと認められる支払金額の総額は1億1916万余円(平成26年度から令和元年度まで)となっており、これら支出に係る金額の純計は1億4866万余円となっていた(注)。また、会計法令等に基づき会計処理が適正に行われていなかったと認められる収入に係る金額は、駐車整理料の総額1億8009万余円から余剰金として国庫納付に係る会計処理をしていた額6093万余円を除いた1億1916万余円(平成26年度から令和元年度まで)となっていた。
このように、防医大において、駐車場整理等業務の実施に当たり、支出負担行為担当官ではない者が支出の原因となる契約を締結していたり、その契約期間が国庫債務負担行為の手続を経ることなく複数年度にわたっていたり、駐車整理料等に係る会計処理が適正に行われていなかったりしていた事態や、新たな契約として競争に付することなく変更契約により契約期間の延長を行っていたり、変更契約を行う際に予定価格を定めていなかったりしていた事態は適正ではなく、改善の必要があると認められた。
(注) 支払金額の総額1億1916万余円(平成26年度から令和元年度まで)は、平成26年度から令和元年度までの分に係る契約金額に相当する金額1億1649万余円に駐車場整理等業務の実施に際して緊急的に発生した経費266万余円を加えたものであり、上記の1億1649万余円は契約金額(平成24年度から令和元年度まで)1億4600万余円と重複していることから、上記の1億4600万余円に266万余円を加算した1億4866万余円を純計としている。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、防医大において、請負契約の内容を十分に確認することなく国の支出の原因となる契約に当たらないなどと誤解していたこと、このため契約手続等や会計処理が防医大の会計担当部署において行われていなかったこと、また、契約期間が終了した段階で、新たに競争に付する必要性に関する認識が欠けていたり、変更契約においても、予定価格を定める必要性に関する認識が欠けていたりしたことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、防医大は、次のような処置を講じた。
ア 支出負担行為担当官である経理部長が駐車場整理等業務に係る契約を一般競争に付した上で、2年4月に、同月から3年3月までを契約期間として締結した。また、当該契約において、支払金額と駐車整理料とを相殺しないこととして、駐車整理料の全額を国庫に納付させることなどとした。
イ 2年8月に関係部署に対して事務連絡を発して、契約内容を十分に確認し、会計法令等を遵守して適正な契約手続等や会計処理を行うこと、契約期間が終了した場合は新たに競争に付した上で契約を締結すること及び変更契約を行う場合も予定価格を定めることについて周知徹底するなどした。