防衛装備庁(平成27年9月30日以前は装備施設本部。以下「装備庁」という。)は、陸上、海上、航空各自衛隊等(以下「各自衛隊等」という。)の装備品等の調達、補給及び管理並びに役務の調達等を行う機関であり、「装備品等及び役務の調達実施に関する訓令」(昭和49年防衛庁訓令第4号)によれば、各自衛隊等の電子計算機等の調達は、原則として、装備庁が一元的に実施することとされ、各自衛隊等は、調達に必要な仕様書等を添えた調達要求書を作成して装備庁に提出することとされている。
国の会計経理については、財政法(昭和22年法律第34号)、会計法(昭和22年法律第35号)、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)等(以下「会計法令」という。)により、国の会計年度は、毎年4月1日から翌年3月31日までの間と定められており、原則として、各会計年度における経費は当該年度の歳入をもって支弁しなければならないなどとされている。また、歳出の会計年度所属区分が定められており、物件の購入代価等で相手方の行為の完了があった後交付するものはその支払をなすべき日の属する年度とされている。そして、契約が履行された場合は、契約担当官及び支出負担行為担当官は、自ら又は補助者に命じて、履行の完了を確認するため仕様書等に基づき必要な検査をしなければならないこととされており、検査を命ぜられた補助者等は、検査を完了した場合においては、原則として、検査調書を作成しなければならず、当該検査調書に基づかなければ当該契約の代金を支払うことができないなどとされている。
装備庁が調達実施機関として実施している調達のうち、情報システムについては、陸上自衛隊補給統制本部、海上幕僚監部、航空自衛隊補給本部等(以下「要求元」という。)が作成する仕様書等に基づき、賃貸借契約等により装備庁が支出負担行為担当官(分任支出負担行為担当官を含む。以下「支担官」という。)として調達を行っている。
そして、装備庁は、情報システムの賃貸借契約については、「電子計算機の賃貸借複数年度契約特別契約条項(第三者賃貸借用)」等を規定しており、これによれば、情報システムを構成するサーバ、端末等(以下「契約物品」という。)を撤去するのに必要な費用については、原則として国の負担とするとされている。
情報システムの撤去について、装備庁は、要求元からの通知により賃貸借の終了が確定した際に、賃貸借契約の相手方等から契約物品の解体費、サーバ等のハードディスクの破壊又は内容の消去(以下「HDDの破壊等」という。)に係る経費、搬出費等からなる見積りを徴し、これを参考にするなどして予定価格を作成し、契約相手方と協議して合意した金額を撤去費として計上し契約金額を増額する変更契約を締結している。
装備庁は、調達品等に係る検査の実施に当たり、検査を各自衛隊等の駐屯地、基地等(以下「基地等」という。)で実施することが適当であると認める場合には、部隊等の長が基地等の職員の中から指名した者を支担官の補助者として任命し、当該補助者に対して検査の指令を発出している。
検査の実施に関し必要な細部事項については、別途定めることとしており、情報システムの撤去に係る検査については、補助者に任命された者の中から実際に当該システムを運用する部隊等の職員で設置箇所ごとに部隊等の長が指定した使用責任者が、「電子計算機の賃貸借契約(リース以外)に係る借上機器の確認実施要領」等(以下「確認実施要領」という。)に基づき検査を実施している。そして、確認実施要領によれば、使用責任者は、装備庁からの確認指令書に基づき契約物品の撤去の確認を行った後に、撤去確認書を作成することとされている。
装備庁は、撤去確認書を会計法令に規定する検査調書として取り扱っており、支担官に提出された撤去確認書に基づき契約物品の撤去費に係る契約金額の支払を行っている。
また、確認実施要領によれば、撤去に係る日程については使用責任者が契約相手方と調整することとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性等の観点から、情報システムの賃貸借契約について、会計処理が会計法令に従って適正に行われているか、撤去に係る検査が適切に行われているかなどに着眼して、装備庁が22年度から30年度までの間に締結した情報システムの賃貸借契約計298契約(契約金額計978億0783万余円)のうち、26年度から令和元年度までの間に変更契約により撤去費を計上した契約計268契約(契約金額計640億0225万余円。うち変更契約により計上した撤去費計23億1269万余円)を対象に、装備庁、陸上、海上、航空各幕僚監部、陸上自衛隊補給統制本部、海上、航空両自衛隊補給本部及び14基地等(注1)において、契約書、撤去確認書等の書類を確認するなどして会計実地検査を行った。また、装備庁から情報システムの賃貸借契約に関する調書、契約相手方に対する調査結果、統合、海上、航空各幕僚監部、情報本部、海上自衛隊補給本部及び91基地等(注2)の使用責任者に対する調査結果等の提出を受けて、その内容を確認したり、統合幕僚監部及び情報本部から関係書類を徴したりするなどして検査した。
(検査の結果)
上記の268契約について、装備庁は、賃貸人にとって早期に撤去を完了することが経済的利益につながり、履行期限を定めて履行を促す必要性がないことなどを理由として撤去の履行期限を定めていなかった。他方、装備庁は、歳出予算を財源として撤去費を計上する契約変更を行っていたため、少なくとも、変更契約を締結した年度の3月31日までに、撤去の履行を完了するか、履行を完了することができなければ、予算の繰越要件を満たす場合は繰越手続を行ったり、会計年度内に実施されない撤去作業を除外する契約変更を行ったりなどする必要がある。
しかし、表のとおり、268契約のうち計17契約(変更契約により計上した撤去費計5億5750万余円)における計339か所に設置された契約物品の撤去については、契約物品の契約相手方への返還等が会計年度を超えた4月以降に履行されていたにもかかわらず、各設置箇所の使用責任者が作成した撤去確認書には3月31日までの日付が記載されており、装備庁は、これらの事実と異なる撤去確認書を検査調書として、これに基づき実際に撤去の履行が完了した年度の前年度の予算により撤去費を支払っていた。また、上記17契約のうち少なくとも15契約については、全ての設置箇所における撤去の履行が完了していないのに支払が行われていた。
表 会計年度内に撤去の履行が完了していないのに撤去費を支払っていたもの
撤去に係る変更契約を締結した年度 | 要求した各自衛隊等 | 契約件名 | 契約相手方 | 変更契約により計上した撤去費 (千円) |
撤去対象の契約物品の設置箇所数 | 会計年度を超えて撤去の履行が行われていた時期 | 撤去費の支払日 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
撤去の履行が会計年度内に完了していなかった箇所数 | ||||||||
平成26 | 陸上自衛隊 | 陸幕システム構成品借上 | 富士通株式会社 株式会社JECC |
52,812 | 217 | 5 | 平成27.4.30 ~27.6.30 |
平成27.4.24 |
27 | 統合幕僚監部 | 中央指揮システム中央システム大画面表示装置の借上(延長) | 日本電気株式会社 株式会社JECC |
25,345 | 1 | 1 | 28.4.22 | 28.4.22 |
28 | 海上自衛隊 | 基地内基幹伝送路用器材の借上げ(増設) | 富士通株式会社 株式会社JECC |
237 | 6 | 6 | 29.4.12 ~29.5.29 |
29.4.21 |
28 | 海上自衛隊 | 基地内基幹伝送路用器材(借上) | 富士通株式会社 株式会社JECC |
28,080 | 137 | 57 | 29.4.6 ~29.6.28 |
29.4.21 |
28 | 海上自衛隊 | 指揮管理データ交換装置の借上 | 富士通株式会社 株式会社JECC |
3,132 | 5 | 4 | 29.4.24 ~29.6.28 |
29.4.21 |
28 | 海上自衛隊 | 基地内基幹伝送路用器材借上(航空) | 富士通株式会社株式会社JECC | 59 | 5 | 5 | 29.4.14 ~29.10.17 |
29.4.21 |
28 | 海上自衛隊 | 基地内基幹伝送路用器材借上(航空) | 富士通株式会社 株式会社JECC |
20,412 | 85 | 13 | 29.4.5 ~29.10.17 |
29.4.21 |
28 | 航空自衛隊 | 事務共通システム用器材借上(その1) | 富士通株式会社 株式会社JECC |
80,384 | 77 | 3 | 29.4.21 ~29.10.17 |
29.4.21 |
28 | 航空自衛隊 | 事務共通システム用器材借上(その2) | 富士通株式会社 株式会社JECC |
45,759 | 80 | 4 | 29.4.21 ~29.10.17 |
29.4.21 |
28 | 航空自衛隊 | 事務共通システムの借上(本機その3) | 富士通株式会社 株式会社JECC |
6,231 | 47 | 8 | 29.4.21 ~29.10.17 |
29.4.21 |
28 | 航空自衛隊 | 通信電子機器借上指揮管理電子交換装置(継続) | 富士通株式会社 株式会社JECC |
11,988 | 79 | 1 | 29.10.17 | 29.4.21 |
29 | 海上自衛隊 | 飛行管理用印刷電信装置(借上) | 日本電気株式会社 株式会社JECC |
2,808 | 14 | 11 | 30.4.2 ~30.4.24 |
30.4.24 |
29 | 航空自衛隊 | 通信電子機器借上飛行管理情報処理システム(FADP)借上(継続) | 日本電気株式会社 株式会社JECC |
13,824 | 87 | 78 | 30.4.2 ~30.4.25 |
30.4.24 |
29 | 海上自衛隊 | 海自造修整備補給システム(クローズ系)用電子計算機組織(借上) | 富士通株式会社 株式会社JECC |
3,888 | 22 | 22 | 30.4.12 ~30.5.17 |
30.4.24 |
30 | 情報本部 | 気象通信端末の借上(29延長) | 株式会社日立製作所 株式会社JECC |
105 | 1 | 1 | 31.4.25 | 31.4.24 |
30 | 海上自衛隊 | 海自造修整備補給システム(オープン系)用電子計算機組織(借上)(29継続) | 富士通株式会社 株式会社JECC |
51,840 | 38 | 15 | 31.4.3 ~令和元.6.27 |
31.4.24 |
30 | 航空自衛隊 | 通信電子機器借上統合気象システム借上(29年度延長) | 日本電気株式会社 株式会社JECC |
210,600 | 342 | 105 | 平成31.4.8 ~令和元.9.2 |
31.4.24 |
17契約計 | 557,507 | 1,243 | 339 |
そこで、上記の17契約について確認したところ、装備庁は、撤去する契約物品、設置箇所の詳細等が当初契約における設置の仕様書等に示されていることなどから、変更契約の締結に当たっては要求元に撤去に係る作業内容等を示した仕様書の作成を求めていなかった。また、装備庁は、撤去とは契約物品のHDDの破壊等を行った上での契約相手方への返還であるという定義について、要求元との間で共有され、契約相手方との間で合意されていると認識していたことから、装備庁と要求元又は契約相手方との間で撤去に係る作業内容が明確になっているとしていた。しかし、上記のように仕様書が作成されておらず、撤去に係る検査を実施するに当たって従うこととされている確認実施要領においても撤去の定義が示されていなかったことから、設置箇所において支担官の補助者として検査を行う使用責任者においては、撤去に係る作業内容等が明確になっていない状況となっていた。また、確認実施要領には撤去確認書が検査調書であることが示されていなかった。
そして、撤去の履行の完了が会計年度を超えて4月以降となっていた設置箇所の使用責任者に対する調査結果を確認したところ、使用責任者は、撤去の定義が示されていなかったことなどから、装備庁の定義する撤去の履行が完了していないのに、部隊等の運用等に際して指揮を行う上級の部隊(以下「上級部隊」という。)等からの指示等に基づくなどして、3月31日までの日付を記載した撤去確認書を作成したとしていた。
また、前記のとおり、撤去に係る日程調整は、確認実施要領に基づき使用責任者が行うこととされているが、装備庁の支担官が、その結果の報告を受けることとされていなかったため、日程調整の過程で判明した事情等により契約物品の撤去について会計年度内に履行を完了することができない設置箇所があったとしても、これを把握できない状況となっていた。
上記について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
装備庁は、情報システムのうち、効率的な部隊、艦艇及び航空機の運用と安全の確保を目的として平成25年3月から運用されている統合気象システムについて、各自衛隊等からの要望を取りまとめる航空幕僚監部の要求に基づき、日本電気株式会社、株式会社JECCとの間で、30年2月に、同年3月1日から31年2月28日までの間を賃貸借期間とする「通信電子機器借上 統合気象システム借上(29年度延長)」契約(契約金額18億1431万余円)を締結していた。そして、装備庁は、契約物品を31年3月中に撤去するため、撤去費として2億1060万円(撤去対象の契約物品の設置箇所数計342か所)を歳出予算により計上する当該契約の変更契約を同年2月に締結していた。
上記の契約に係る計342か所のうち105か所の使用責任者は、契約相手方等と調整した契約物品の返還日が同年4月以降の予定となり、装備庁の定義する撤去の履行が完了していないのに、上級部隊等からの指示等に基づくなどして、同年3月31日までの日付を記載した撤去確認書を作成していた。上記の指示等について航空自衛隊における一例を示すと、撤去の定義が示されていなかったことから、使用責任者の所属する部隊の上級部隊が、契約物品の契約相手方への返還日が同年4月以降に予定されていた使用責任者に、撤去とは「端末等の電源を落とし、他の情報システムとの回線を断つこと」であると連絡していたものであった。
そして、上記の105か所について、契約物品の契約相手方への返還が同年4月以降となっていて会計年度内に履行が完了していないにもかかわらず、これを把握できていない状況にあった装備庁は、使用責任者が作成した撤去確認書を検査調書としてこれに基づき30年度歳出予算により撤去費の支払を行っていた。
このように、情報システムの賃貸借契約において、会計年度内に撤去の履行が完了していないのに、事実と異なる検査調書に基づき変更契約により計上した撤去費を支払っていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、装備庁は、令和2年8月までに関係機関に対して通知を発するなどして、賃貸借契約により調達した情報システムの撤去に係る会計処理及び会計年度所属区分が適正なものとなるよう、次のような処置を講じた。
ア 撤去に係る契約を原則として賃貸借契約から分離することとし、撤去に係る契約を締結する各自衛隊等に対して、仕様書を作成させたり、撤去の定義を示したりすることなどにより、撤去に係る作業内容等が明確になるよう周知した。
イ 撤去に係る契約を締結する各自衛隊等の支担官等に対して、契約相手方から撤去に係る作業実施計画を提出させるよう仕様書等に規定させるなどして、支担官等において撤去に係る日程を把握できるようにした。
ウ 使用責任者等に対する受領検査業務講習の内容を充実したり、その受講者の対象に上級部隊等を含めたりすることなどにより、各自衛隊等に対して、使用責任者等が担う支担官等の補助者としての責務について周知徹底を図った。