陸上自衛隊は、空中、地上等からの偵察に対して装備品、人員、施設等を秘匿するために、これらを覆うなどして使用する偽装網を装備し、偵察手段に対応した複数の種類の偽装網を使用している。主な偽装網は、対赤外線用の II 型、対レーダー波用の III 型及び積雪地で使用することが想定されている対紫外線用のV型の3種類となっていて、大きさの異なる単品を組み合わせて、それぞれ1号から5号までの大きさのセット品として管理している。
陸上自衛隊は、偽装網の配備について、「陸上自衛隊補給管理規則」(平成19年陸上自衛隊達第71―5号)等に基づき、基準表に示す数量によることとしている。そして、この数量は、陸上幕僚監部(以下「陸幕」という。)が装備品の種類及び数量並びに部隊等の特性を考慮するなどして毎年度算定することとしている。上記の主な偽装網のうち、V型の偽装網について、陸幕は、積雪地で使用することが想定されていることから、原則として、陸幕が定める「陸上自衛隊の教育訓練実施に関する達」(昭和40年陸上自衛隊達第110―1号)にある積雪地教育訓練基準において積雪地における訓練の目標等が定められている部隊等(以下「積雪地部隊」という。)に優先的に配備することにしている。また、火器、車両、誘導武器等の各装備品に対応する偽装網の種類、大きさ、数量等については、陸上自衛隊補給統制本部が作成する補給カタログにより定められている。
そして、「偽装網の管理要領について(通達)」(平成29年陸幕通電第29号)(以下「管理要領」という。)によれば、部隊等は、上記のように配備された偽装網について、関係帳簿を作成し、偽装網の種類、規格、製造年月、当該偽装網に対応する装備品を記載することなどとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、効率性、有効性等の観点から、偽装網は部隊等の特性を考慮した上で効率的に配備されているかなどに着眼して検査した。検査に当たっては、令和2年4月1日時点で21駐屯地等に配備されている偽装網6,044セット(物品管理簿価格計63億4924万余円)を対象として、陸幕及び方面総監部、補給処、部隊等が所在する16駐屯地等(注1)において、管理簿等により偽装網の配備状況等について確認するなどして会計実地検査を行い、また、方面総監部、補給処、部隊等が所在する5駐屯地(注2)について、管理簿等の偽装網の配備状況に係る関係書類等を徴するとともに、陸幕に上記の21駐屯地等における偽装網の配備状況等に関する調書の作成及び提出を求めるなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、V型の偽装網について、次のような事態が見受けられた。
前記のとおり、V型の偽装網について、陸幕は、積雪地で使用することが想定されていることから、原則として、積雪地部隊に優先的に配備することにしている。
そこで、補給カタログでV型の偽装網の対象とされている装備品に対するV型の偽装網の配備状況について確認したところ、2年4月1日時点で21駐屯地等のうち12駐屯地において778セット(物品管理簿価格計3億6111万余円)配備されていた。そして、これらの778セットの配備先についてみると、718セットは積雪地部隊が所在する6駐屯地(注3)における装備品に対して配備されていたが、装備品の数に対して偽装網のセット数が下回る状況となっていた。
一方、残りの60セット(物品管理簿価格計2155万余円)は、表のとおり、積雪地部隊が所在しない6駐屯地(注4)における装備品に対して配備されていた。陸幕は、これらの60セットの偽装網が配備されている6駐屯地に所在する部隊は、積雪地部隊ではないものの、有事の際等において積雪地で行動する可能性も考えられることから、これらの部隊に配備する必要があるとして、2年4月1日まで配備し続けていた。
表 積雪地部隊が所在しない駐屯地におけるV型偽装網の配備状況
駐屯地名 | 所在地 | 偽装網の種類 | 偽装網数(A) | 偽装網の物品
管理簿価格
(単価)(B) |
効率的に配備されていなかった偽装網の物品管理簿価格(A×B) |
---|---|---|---|---|---|
駒門駐屯地 | 静岡県 御殿場市 |
V型2号 | 2 | 304,600 | 609,200 |
伊丹駐屯地 | 兵庫県 伊丹市 |
V型1号 | 2 | 115,600 | 231,200 |
V型2号 | 1 | 304,600 | 304,600 | ||
V型3号 | 10 | 544,300 | 5,443,000 | ||
V型4号 | 2 | 696,000 | 1,392,000 | ||
健軍駐屯地 | 熊本県 熊本市 |
V型3号 | 2 | 544,300 | 1,088,600 |
別府駐屯地 | 大分県 別府市 |
V型2号 | 3 | 304,600 | 913,800 |
川内駐屯地 | 鹿児島県 薩摩川内市 |
V型2号 | 2 | 304,600 | 609,200 |
那覇駐屯地 | 沖縄県 那覇市 |
V型2号 | 36 | 304,600 | 10,965,600 |
計 | 60 | ― | 21,557,200 |
しかし、近年調達されたV型の偽装網の配備状況をみたところ、陸幕は、直近5年間(平成27年度から令和元年度まで)の契約による調達数量290セットのうち、元年度までに納入された223セットを全て積雪地部隊へ配備していて、積雪地部隊ではない部隊等へは配備していなかった。このような配備状況となっている理由は、陸幕によれば、安全保障環境の変化等によるものとしていた。このように、V型の偽装網の配備については、積雪地部隊を優先することにしていて、近年は安全保障環境の変化等を踏まえたものとなっているのに、管理要領には再配分の手続が定められておらず、陸幕は前記の積雪地部隊が所在しない6駐屯地に配備された60セットについて、部隊等の特性を考慮した積雪地部隊への再配分等を行っていなかった。
なお、積雪地部隊が所在しない6駐屯地におけるV型の偽装網の平成29年度から令和元年度までの間の訓練での使用状況をみたところ、駒門駐屯地を除く5駐屯地では使用されていなかった。
以上のように、V型の偽装網を優先的に配備することにしている積雪地部隊においてV型の偽装網が不足している一方、積雪地部隊ではない部隊に配備し続けていて、偽装網(60セット、物品管理簿価格2155万余円)の配備が部隊の特性に対応したものとなっていないのに、積雪地部隊に再配分するなどして偽装網を効率的に配備することができていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、陸幕において、V型の偽装網について、積雪地部隊に再配分するなどして効率的に配備する必要性についての検討が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、陸幕は、2年9月に、V型の偽装網の積雪地部隊への再配分等について管理要領に規定するとともに、配備が部隊等の特性に応じたものとなるよう再配分の計画を作成して積雪地部隊へ速やかに再配分することとし、V型の偽装網が効率的に配備されるよう処置を講じた。