独立行政法人海技教育機構(以下「機構」という。)は、独立行政法人海技教育機構法(平成11年法律第214号)に基づき、船員となろうとする者等に対し、船舶の運航に関する学術及び技能を教授するなどの業務を行っている。
機構は、平成13年4月に、国の有する権利及び義務を承継して独立行政法人海員学校として設立された。独立行政法人海員学校は、18年4月に、法人の名称を「独立行政法人海技教育機構」に変更するとともに、同月に解散した独立行政法人海技大学校の権利及び義務を承継し、28年4月には、同月に解散した独立行政法人航海訓練所(以下「航海訓練所」という。)の権利及び義務を承継している。そして、独立行政法人海技大学校及び航海訓練所は、いずれも国の有する権利及び義務を承継して設立された独立行政法人であり、それぞれ、機構への承継に際し、機構が承継する資産の価額から負債の金額を差し引いた額は、政府から機構に出資されたものとするとされている。
機構は、土地(帳簿価額(令和2年3月31日現在。以下同じ。)計54億4401万余円)及び建物(帳簿価額計30億6952万余円)を保有しており、そのほとんどは、機構の業務を確実に実施するために必要な資産であるとして、国、解散した航海訓練所等から承継した政府出資に係る資産である。
独立行政法人は、平成22年の独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)の改正により、中期目標期間の途中であっても、通則法第8条第3項の規定により、業務の見直し、社会経済情勢の変化その他の事由により、その保有する重要な財産であって主務省令で定めるものが将来にわたり業務を確実に実施する上で必要がなくなったと認められる場合には、当該財産(以下「不要財産」という。)を処分しなければならないこととなっているほか、通則法第46条の2の規定により、不要財産であって、政府からの出資又は支出(金銭の出資に該当するものを除く。)に係るものについては、遅滞なく、主務大臣の認可を受けて、これを国庫に納付することとなっている。
そして、政府は、「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」(平成22年12月閣議決定。以下「基本方針」という。)において、各独立行政法人の保有する施設等について、保有する必要性があるかなどについて厳しく検証して、不要と認められるものについては速やかに国庫に納付することや、各独立行政法人が、幅広い資産を対象に、自主的な見直しを不断に行うことなどを掲げている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
独立行政法人は、上記のとおり、基本方針において、保有する施設等の必要性等について厳しく検証することなどが求められている。
本院は、有効性等の観点から、機構が保有している政府出資に係る土地及び建物は有効に利用されているか、不要財産と認められるものはないか、不要財産と認められるものについて速やかな国庫納付に向けた手続が行われているかなどに着眼して、機構が保有する政府出資に係る土地及び建物を対象として、機構本部等において図面等の関係書類及び現況を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、利用状況等についての調書を徴して分析するなどして検査した。
(検査の結果)
機構は、28年4月に、航海訓練所から政府出資に係る資産として、東京都中央区勝どきに所在する乗船事務室(土地516.25m2、建物延べ396.36m2)を承継していた。この乗船事務室は、乗船実習において乗組員や実習生が港と沖合に停泊した練習船の間を同室の近隣に係留した交通艇により往復する際の集合場所や、1階の一部分を交通艇に係る消耗品等の倉庫として利用するなどのために保有してきたものである。しかし、港の整備が進み、練習船が岸壁に直接着岸できるようになってきたことなどから交通艇による往復の必要がなくなるなどしたため、機構は、29年4月に、同年9月末をもって交通艇を用途廃止することとする事務連絡を関係部署に発していた。
そこで、乗船事務室の利用状況をみたところ、関係資料により確認できた27年度以降では実習生等の集合場所としては利用されていなかった。また、倉庫としての利用については保管している消耗品等が少量であることから他の場所で代替可能であること、他の業務も含めて新たに利用する見込みはないことなどから、乗船事務室は、有効に利用されていない状況になっていると認められた。
しかし、機構は、乗船事務室に係る土地及び建物(土地帳簿価額4億5100万円、建物帳簿価額231万余円、計4億5331万余円)について、国庫納付に向けた手続を行わないまま保有していた。
このように、乗船事務室に係る土地及び建物が有効に利用されないまま、機構が保有していた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、機構において、交通艇に関する業務の見直しなどにより有効に利用されていない乗船事務室に係る土地及び建物について、速やかな国庫納付に向けた手続を行うことの必要性についての理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、乗船事務室に係る土地及び建物について、令和2年6月に国土交通大臣に対して不要財産の国庫納付に係る認可申請書を提出し、国庫納付することとなるよう処置を講じた。