【改善の処置を要求したものの全文】
災害拠点病院における自家発電機等の浸水対策について
(令和2年9月4日付け 独立行政法人国立病院機構理事長宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴機構は、独立行政法人国立病院機構法(平成14年法律第191号)に基づき、医療の提供、医療に関する調査及び研究並びに技術者の研修等の業務を行うことにより、国民の健康に重大な影響のある疾病に関する医療その他の医療であって、国の医療政策として貴機構が担うべきものの向上を図り、もって公衆衛生の向上及び増進に寄与することとなっている。
そして、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)に基づいて厚生労働大臣が定めた貴機構の第3期(平成26事業年度から30事業年度まで)及び第4期(令和元事業年度から5事業年度まで)の中期目標によれば、貴機構は、災害発生時等の国の危機管理に際して求められる医療について、中核的な機関としての機能を充実・強化するとともに必要な医療を確実に提供することとされている。
厚生労働省は、「災害時における医療体制の充実強化について」(平成24年医政発0321第2号。以下「局長通知」という。)において、災害時に多発する重篤救急患者の救命医療を行うための高度の診療機能を有し、被災地からの取りあえずの重症傷病者の受入れ機能を有するなどの災害拠点病院を整備することが必要であるとしている。都道府県は、局長通知に基づき、病室等の病棟、診察室、手術室等の診療棟等の救急診療に必要な部門を設けるなどの一定の要件を満たす病院を災害拠点病院として指定することとなっており、平成30事業年度末現在、貴機構の141病院のうち37病院(注1)が災害拠点病院に指定されている。
そして、上記のとおり、災害拠点病院には災害時に救命医療や重症傷病者の受入れを行うことなどが求められていることから、局長通知によれば、災害拠点病院は、電気については、通常時の6割程度の発電容量のある自家発電機等を保有し、平時より病院の基本的な機能を維持するために必要な設備について、自家発電機等から電源の確保が行われていることなどとされている。
また、自家発電機等の設置場所については、地域のハザードマップ等を参考にして検討することが望ましいとされているが、設置場所以外の浸水対策については、特に示されていない。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
近年、豪雨や台風等による甚大な水害が相次ぎ、27年に水防法(昭和24年法律第193号)が改正されるなどしたことから、地方公共団体においては、従来作成していた水害に係るハザードマップを想定し得る最大規模の水害に対応したものなどに順次改定してきている。そして、水害が発生した地域の中には長時間にわたり商用電源が途絶する事態も生じていることを踏まえると、貴機構の災害拠点病院においては、貴機構が担っている災害時の役割の重要性に鑑みて、水害時においても継続して医療を提供する上で必要な電気を確保するために、保有する自家発電機等について、所在する地方公共団体が公表しているハザードマップに応じた浸水対策を実施する必要がある。
浸水対策を実施するに当たっては、浸水が想定されていない場所や想定されている浸水深よりも高い位置に自家発電機等を設置したり移設したりするなどの設置場所による浸水対策が望ましいが、敷地条件の制約等によりその実施が困難な場合もあることから、その場合は、自家発電機等が設置されている建物内に浸水しないように防水扉や止水板を設置するなど、自家発電機等が設置されている建物等の状況に応じた対策を講ずることが肝要である。
そこで、本院は、効率性、有効性等の観点から、貴機構の災害拠点病院において保有する自家発電機等について、所在する地方公共団体が公表しているハザードマップに応じて、設置場所やそれ以外の浸水対策が適切に検討されているかなどに着眼して、貴機構の37災害拠点病院の建物(自家発電機80台及び無停電電源装置(以下「UPS」という。)66台等の建物附属設備を含む。)及び医療用器械備品(30事業年度末の資産価額(注2)計2030億1341万余円)を対象として、9災害拠点病院(注3)において、関係書類等を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、37災害拠点病院から調書の提出を受けて、その内容を分析するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
貴機構の37災害拠点病院について、各災害拠点病院の所在する地方公共団体が公表している洪水、津波等のハザードマップに基づいて浸水するおそれがあるかを確認したところ、9災害拠点病院が浸水するおそれがある区域に所在していた。
そこで、上記の9災害拠点病院に設置されている自家発電機18台及びUPS17台について、浸水対策の実施状況をみたところ、表のとおり、9災害拠点病院に設置されている自家発電機14台及びUPS15台については、浸水するおそれがない屋上に設置したり、設置に当たって土台をかさ上げしたりするなどの浸水対策を実施していた。
しかし、2災害拠点病院(注4)に災害時に商用電源が途絶した場合に備えて設置されている自家発電機4台及びUPS2台については、浸水対策を全く実施していなかったり、浸水を防ぐための止水板を設置していてもハザードマップで想定されている浸水を防ぐ高さには足りていなかったりしていた。このため、水害により商用電源が途絶した場合に、自家発電機等が浸水して稼働できず、継続して医療を提供する上で必要な電気を確保できないおそれがある状況となっていた(自家発電機等が浸水して電気を確保できなくなるおそれがある2災害拠点病院の建物(自家発電機4台及びUPS2台等の建物附属設備を含む。)及び医療用器械備品の資産価額計110億5606万余円(30事業年度末))。
表 浸水するおそれがある区域に所在する9災害拠点病院における自家発電機等の浸水対策の実施状況
浸水対策の実施状況
区分 |
浸水するおそれがある区域に所在する災害拠点病院 | |||
---|---|---|---|---|
浸水対策を実施している | 浸水対策を実施していない又は対策が不十分 | |||
災害拠点病院 | 9 | 9 | 2 | |
上記の災害拠点病院が保有する機器の台数 | 自家発電機 | 18 | 14 | 4 |
UPS | 17 | 15 | 2 |
(注) 「浸水対策を実施している」自家発電機等と「浸水対策を実施していない又は対策が不十分」な自家発電機等の両者を保有している災害拠点病院があるため、災害拠点病院数を合計しても全体数と一致しない。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
災害拠点病院である岡山医療センターは、自家発電機3台及びUPS2台を保有している。そして、同センターが所在する岡山市の洪水・土砂災害ハザードマップを確認したところ、同センターのエネルギーセンター棟及び西棟は、洪水による浸水深が2.0m以上5.0m未満と想定されている区域に立地している。しかし、自家発電機1台は、上記の想定されている浸水深より高い位置にある西棟の屋上に設置されていたものの、自家発電機2台及びUPS1台については、上記の想定されている浸水深より低い位置にあるエネルギーセンター棟の1階に設置されているのに、浸水を防ぐために設置している止水板の高さが、上記のハザードマップで想定されている浸水を防ぐ高さには足りていなかった。また、残りのUPS1台については上記の想定されている浸水深より低い位置にある西棟の1階に設置されているのに、浸水対策が全く実施されていなかった。このため、上記の自家発電機2台及びUPS2台は、水害により商用電源が途絶した場合に、浸水して稼働できず、継続して医療を提供する上で必要な電気を確保できないおそれがある状況となっていた。
(改善を必要とする事態)
貴機構の2災害拠点病院において、水害により商用電源が途絶した場合に、自家発電機等が浸水して稼働できず、継続して医療を提供する上で必要な電気を確保できないおそれがある状況となっている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴機構本部及び2災害拠点病院において、地方公共団体が公表しているハザードマップに応じた自家発電機等の浸水対策についての検討が十分でないことなどによると認められる。
災害拠点病院は、被災地の傷病者等の受入れ可能な体制を有し、被災地からの傷病者の受入れ拠点にもなるものである。
ついては、貴機構において、自家発電機等を浸水のおそれがある場所に設置している災害拠点病院が水害時に継続して医療を提供できるよう、次のとおり改善の処置を要求する。