独立行政法人都市再生機構(以下「機構」という。)は、独立行政法人都市再生機構法(平成15年法律第100号)に基づき、賃貸住宅等の管理等に関する業務等を行っており、機構が管理等する賃貸住宅は令和2年3月末時点において約72万戸となっている。
機構の賃貸住宅団地の中には平均家賃が月額15万円を超える高額賃貸住宅があり、「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」(平成25年12月閣議決定)において、東京都心部の高額賃貸住宅(約13,000戸)については、平成26年度から順次、サブリース契約により民間事業者に運営を委ねることとされた。機構は、この閣議決定を受けて、民間の創意工夫とノウハウを最大限に活用することで、機構の収益が向上し、サブリース契約の対象となる団地(以下「対象団地」という。)がこれまで以上に良好な居住環境を備えた賃貸住宅として運営されるよう、サブリース契約により、対象団地における賃貸住宅事業の全般を民間事業者に委ねることとしている。
機構が民間事業者と締結したサブリース契約によれば、契約期間は10年間とされ、機構は、対象団地の運営を民間事業者が開始する日に空家となっている住戸を民間事業者に引き渡して貸し付けること、その後は空家となる都度、空家となった住戸を民間事業者に引き渡して貸し付けることとされている(以下、機構が民間事業者に引き渡して貸し付けた住戸を「引渡済住戸」という。)。また、民間事業者は、引渡済住戸だけでなく機構が引き渡していない住戸(以下「機構契約住戸」という。)等も含めた対象団地に係る一切の修繕、維持管理業務等を実施することとされている。そして、機構は、サブリース契約において、引渡済住戸を貸し付ける対価としてリース料収入を得る一方で、機構契約住戸における修繕、維持管理業務等に要する費用として業務費を支払うこととしており、リース料について一般競争入札を実施して契約相手方となる民間事業者を選定している。
サブリース契約は、東日本賃貸住宅本部(以下「本部」という。)が行っており、本部は、26年度から令和元年度までの間に、前記東京都心部の高額賃貸住宅(約13,000戸)のうち9,598戸に係る24団地においてサブリース契約(契約件数12件、リース料に係る契約額計1261億3727万余円)を締結している。
機構がサブリース契約に基づいて民間事業者に支払う業務費は、次のとおり、運営経費相当額と空家修繕工事費相当額の合計額とされている。このうち、運営経費相当額は、民間事業者が機構契約住戸において経常的に行う修繕(以下「経常修繕」という。)、維持管理業務等に要する費用に相当する額となっている。また、空家修繕工事費相当額は、民間事業者が原状有姿で引き渡された空家において行う空家修繕に要する費用に相当する額となっている。
運営経費相当額は、機構本社が平成27年10月に定めた「都心高額賃貸住宅運営事業者募集実施要領」(以下「要領」という。)等に基づき、対象団地ごとに、次のとおり、サブリース契約締結前の直近3年間に要した経常修繕、維持管理業務等の実績額等の年平均(以下「運営経費等平均額」という。)及び契約期間に実施することが見込まれる経常修繕に要する費用の年額(以下「見積修繕費」という。)の合計額を対象団地の全住戸等の収入機会額(注1)で除して経費率を算出し、これに機構契約住戸等の収入機会額を乗じて算定されている。
そして、機構は、経常修繕の内容に応じて経常修繕に要する費用を運営経費等平均額又は見積修繕費のどちらに計上するかを判断している。
空家修繕工事費相当額は、要領等に基づき、対象団地ごとに、次のとおり、サブリース契約締結前の直近3年間の空家修繕工事費(以下「直近空家修繕費」という。)を同期間に空家修繕を行った戸数で除して住戸の専有面積区分に応じた単価(以下「空家修繕単価」という。)を設定し、これに機構契約住戸のうちサブリース契約締結後に初めて空家となり引き渡した戸数(以下「契約後空家戸数」という。)を乗じて算定されている。
イ及びウのうち、経費率及び空家修繕単価については、原則として本部が算出して入札時に民間事業者に示したものが契約期間中にわたって適用されるものとなっている。一方、機構契約住戸等の収入機会額及び契約後空家戸数については、対象団地ごとに空家の実績に応じて決まるものとなっている。そして、本部は、これらに基づき算定した運営経費相当額及び空家修繕工事費相当額を民間事業者に対して支払うこととなっている。
機構は、賃貸住宅の各住戸に、給湯器、給湯暖房機等(以下「給湯器等」という。)を設置しており、給湯器等の故障、劣化等による交換を、原則として機構の負担で経常修繕又は空家修繕として行うこととしている。そして、サブリース契約では、前記のとおり民間事業者が対象団地に係る一切の修繕、維持管理業務等を実施することとなっていることから、機構が支払う業務費には、民間事業者が実施する給湯器等の交換に要する費用に相当する額も含まれている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、民間事業者に支払う業務費の算定は適切に行われているかなどに着眼して、26年度から令和元年度までに締結した24団地に係る12件のサブリース契約(平成27年度から令和元年度までの業務費の支払額計75億0154万余円、うち運営経費相当額46億7587万余円、空家修繕工事費相当額28億2567万余円)を対象に、機構本社及び本部において、対象団地の運営に関する協定書、積算根拠資料等の関係資料を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
前記のとおり、運営経費相当額の算定に当たり、機構は、経常修繕の内容に応じて経常修繕に要する費用を運営経費等平均額又は見積修繕費のどちらかに計上することとしている。そして、各住戸に設置されている給湯器等は、各団地の建設時に一斉に設置され特定の時期に交換が集中する傾向があるため、給湯器等の交換費用を運営経費等平均額に計上する場合、交換実績が皆無となるなどして、契約期間中に必要と見込まれる給湯器等の交換費用との間に過不足が生ずるおそれがある。このことから、本部は、24団地のうち22団地については、給湯器等の製造者が定めた設計上の標準使用期間(注2)を踏まえるなどして、契約期間中に必要と見込まれる給湯器等の交換費用に相当する額の年額を見積修繕費に計上して経費率を算出し、これに基づくなどして算定した運営経費相当額を民間事業者に支払っていた。
しかし、上記22団地のうち17団地については、給湯器等の交換がサブリース契約締結前の直近3年間に空家修繕として行われており、本部の空家修繕を担当する部署はその交換費用を計上した直近空家修繕費を本部のサブリース契約の積算を担当する部署に報告し、当該積算担当部署は、上記の交換費用が含まれた直近空家修繕費をそのまま用いて空家修繕単価を算出していた。そして、本部は、その空家修繕単価に基づくなどして算定した空家修繕工事費相当額を民間事業者に支払っていた。
したがって、上記の17団地については、前記のとおり、契約期間中において必要と見込まれる給湯器等の交換費用に相当する額の年額を見積修繕費に計上して運営経費相当額が算定されているため、更に直近空家修繕費にも給湯器等の交換費用を計上して空家修繕工事費相当額を算定し民間事業者に支払う必要はなかった。
このように、業務費の算定に当たり、給湯器等の交換費用を重複して計上し、これに基づき業務費を支払っていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(過大になっていた空家修繕工事費相当額の支払額)
前記17団地のうち、住戸の専有面積区分の誤りにより空家修繕単価が過小となっていた1団地を除く16団地において平成28年2月から令和2年3月までの間に支払われていた空家修繕工事費相当額計22億2423万余円について、直近空家修繕費に含まれる給湯器等の交換費用を控除するなどして修正計算すると計20億9132万余円となり、計1億3290万余円が過大に支払われていた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、本部において業務費の算定に関する理解が十分でなかったことなどにもよるが、機構本社において業務費の算定に当たり運営経費相当額及び空家修繕工事費相当額における給湯器等の交換費用の具体的な計上方法を定めていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構本社は、業務費の算定において給湯器等の交換費用が重複して計上されないよう、2年8月に要領を改定し、契約期間中に必要と見込まれる給湯器等の交換費用に相当する額の年額を見積修繕費に計上することとして直近空家修繕費には含めないこととする取扱いを明記するとともに、同月以降新たに締結するサブリース契約については改定した要領を適用するよう、本部に対して事務連絡を発して周知するなどの処置を講じた。