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原子力施設の廃止措置に当たって、保管している核燃料物質の移動先等の検討を行い、集約して保管するために必要な第三ウラン貯蔵庫の建設を早期に再開したり、既存施設に集約して保管したりすることを定めることにより、仮置施設の整備が必要になる事態が今後生じないよう改善させたもの


科目
経常費用
部局等
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構本部
L棟の整備のうち令和元、2両年度に実施している整
備の概要
核燃料サイクル工学研究所で廃止に向けた作業を進めていたL棟において、当初第三ウラン貯蔵庫に引き取り保管することとしていた、民間会社に保管を委託しているウランを仮置きするために、棟内保管室の機能復旧、ピット防護蓋の製作等を行うもの
上記に係る契約件数及び契約額
6件 1億4215万余円(令和元、2両年度)
上記のうち締結する必要のなかった契約件数及び契約額
4件 6295万円(令和元、2両年度)

1 第三ウラン貯蔵庫の建設及びL棟の整備の概要等

(1) 機構が管理する核燃料物質の概要

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(以下「機構」という。)は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構法(平成16年法律第155号)等に基づき、高速増殖炉(注1)及びこれに必要な核燃料物質の開発等を行うことなどを目的として、平成17年10月に旧核燃料サイクル開発機構と旧日本原子力研究所を統合して設立された。そして、旧核燃料サイクル開発機構が所管していた高速増殖炉開発のための燃料製造施設等を有している核燃料サイクル工学研究所、同研究所に隣接しており旧日本原子力研究所が所管していた試験研究用の原子炉等を有している原子力科学研究所(以下、これらの研究所を合わせて「両研究所」という。)等において、各種の研究開発等を実施するとともに、これらに必要なウラン等の核燃料物質を管理している。また、原子力施設のうち使命を終えたものについて、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(昭和32年法律第166号。以下「原子炉等規制法」という。)等に基づく廃止措置(注2)等を実施している。

(注1)
高速増殖炉  原子炉の型式の一つであり、主に高速中性子を利用して臨界を維持し、かつ、その過程で、燃料として利用できる核分裂性物質の量が炉心で増殖していく原子炉
(注2)
廃止措置  施設の解体、当該施設で保管している核燃料物質の譲渡、核燃料物質による汚染の除去等の措置

(2) 民間会社に保管を委託しているブランケット燃料及びウランの概要

機構は、民間会社に製造を委託したブランケット燃料(注3)とその材料等となるウランについて、機構内での保管場所が確保できなかったため、毎年度、民間会社と契約を締結して保管を委託しており、21年度以降は、同一の民間会社(以下「保管会社」という。)に委託してきた。

その後、24年6月に原子炉等規制法を改正する法律が公布され、事故を防止するための基準が強化される中で、保管会社において安全対策を講ずる上で機構から受託しているブランケット燃料及びウランの保管が困難となった。このため、機構は、25年12月以降、保管会社からこれらの引取りを要請されており、ブランケット燃料は30年12月までに、ウランは、約15tのうち約8tを同年11月までに、そして、残りの約7tを令和2年9月までにそれぞれ引き取る必要が生じた(以下、これらのうち、ブランケット燃料を「外部保管燃料」といい、ウランを「外部保管ウラン」という。)。

(注3)
ブランケット燃料  高速増殖炉の発電技術を確立するための研究開発用の発電用原子炉である高速増殖原型炉もんじゅで使用する燃料のうち、核分裂性物質の量の増殖を目的とした燃料

(3) 核燃料物質の移動等の概要

機構は、第1期中期計画(平成17年10月から22年3月まで)等において、旧核燃料サイクル開発機構と旧日本原子力研究所とが業務を一体的に遂行するなどしていくために、効果的、効率的な業務運営を図ること、また、原子力施設の廃止措置は原子力の研究等を円滑に進めるために重要な業務であり、計画的、安全かつ合理的に実施することとしている。

そして、機構は、25、26両年度に実施した組織改革の中で、原子力施設の廃止措置等を今後数十年にわたり取り組んでいかなければならない大きな事業として着実に実施する必要があるとされた。そして、その実施に当たっては、安全性の観点から、廃止措置を実施する施設からの核燃料物質の移動等を優先する必要があるとして、26年度に、両研究所で廃止措置を進めていく原子力施設の核燃料物質の保管状況等を整理して、その移動先等を検討した。また、28年6月に、原子力科学研究所の一部の原子力施設で保管しているウラン(以下「原科研ウラン」という。)の移動先がないことなどの課題を把握した上で、同年8月までに両研究所間の移動を含めた両研究所が保管する核燃料物質の集約方針を検討することとしていた。

(4) 第三ウラン貯蔵庫の建設及びL棟の整備の概要

ア 第三ウラン貯蔵庫の概要及び建設状況

機構は、前記の保管会社からの引取りの要請を踏まえて、27年8月に、外部保管燃料及び外部保管ウランを引き取り保管する場所として、核燃料サイクル工学研究所に新たに原子力施設である第三ウラン貯蔵庫の建設を計画するとともに、施設の有効活用を図るために、外部保管燃料及び外部保管ウラン以外の核燃料物質の保管等についても検討することとした。そして、28年9月までに、外部保管燃料及び外部保管ウランに加えて、廃止措置を進めていく核燃料サイクル工学研究所の原子力施設で保管しているウラン(以下「核サ研ウラン」という。)等を第三ウラン貯蔵庫に集約して保管することを決定した。また、外部保管燃料の引取期限である30年12月までのしゅん工を目指して、保管対象となる核燃料物質の種類、量等を踏まえて、29年10月に建設に係る原子炉等規制法に基づく許可を取得するとともに、28、29両年度に建設予定地の整備、施設の設計、基礎杭工事等を進め、30年3月に基礎杭工事を完了した(図1参照)。

一方、機構は、核燃料サイクル工学研究所への外部保管燃料の引取りについて地元自治体の理解を得るための外部保管燃料の利活用計画の作成に時間を要し、29年11月時点で外部保管燃料の引取期限である30年12月までの引取りが見通せなくなった。このため、29年11月に、第三ウラン貯蔵庫のしゅん工時期を外部保管ウラン約7tの引取期限である令和2年9月までとすることを決定して、履行中の基礎杭工事契約を除き、建物本体の建設工事契約等の契約手続を全て中止して、第三ウラン貯蔵庫の建設を中断した。そして、平成30年3月に上記の利活用計画を地元自治体に報告した後、同年5月に、外部保管燃料等に加えて原科研ウランについても第三ウラン貯蔵庫で保管できるかどうか検討する必要が生じたとして、第三ウラン貯蔵庫の令和2年9月までのしゅん工を見送ることとした。

図1 平成28年9月時点において第三ウラン貯蔵庫に保管することとしていた主な核燃料物質の内訳

図1 平成28年9月時点において第三ウラン貯蔵庫に保管することとしていた主な核燃料物質の内訳 既存施設 保管会社 外部保管燃料 外部保管ウラン7t 外部保管ウラン8t 核サ研ウラン 核燃料サイクル工学研究所 画像

イ L棟の概要及び整備状況

機構は、核燃料サイクル工学研究所において、原子力施設であるL棟を昭和50年4月に建設し、平成14年までウラン濃縮技術の研究開発を実施した後、第1期中期計画において「中期目標期間前に使命を終え、廃止措置又は廃止措置準備を進めていた施設」として位置付けて、廃止に向けた作業を実施してきた。

一方、機構は、前記のとおり、第三ウラン貯蔵庫の建設について、29年11月に、そのしゅん工時期を令和2年9月までとしたため、しゅん工までの間、外部保管燃料をL棟に仮置きすることを決定して、L棟の耐震改修工事等を行い、平成30年11月に外部保管燃料をL棟に搬入した。また、外部保管ウラン約8tについては、核燃料サイクル工学研究所の既存施設に仮置きすることとして、同月に当該施設に搬入した。

その後、機構は、前記のとおり、30年5月に第三ウラン貯蔵庫の令和2年9月までのしゅん工を見送ったため、平成30年12月に外部保管ウラン約7tを外部保管燃料と同様にL棟に仮置きすることを決定した(図2参照)。そして、令和元、2両年度に、L棟の棟内保管室の機能復旧、ピット防護蓋の製作等に係る契約計6件(契約額計1億4215万余円)を締結して、外部保管ウランの仮置きのためのL棟の整備を行っている。

図2 平成30年5月時点において第三ウラン貯蔵庫に保管することとしていた主な核燃料物質の移動先の想定

図2 平成30年5月時点において第三ウラン貯蔵庫に保管することとしていた主な核燃料物質の移動先の想定 核燃料サイクル工学研究所 既存施設 既存施設 原子力科学研究所 原科研ウラン 外部保管燃料 画像

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、経済性、効率性等の観点から、L棟の整備が核燃料物質の移動先等について十分に検討した上で適切に進められているかなどに着眼して検査した。検査に当たっては、L棟の整備等に係る契約を対象として、機構本部及び両研究所において、契約関係書類を確認するとともに、担当者から説明を聴取するなどの方法により会計実地検査を行った。

(検査の結果)

機構は、前記のとおり、平成29年11月に第三ウラン貯蔵庫のしゅん工時期を外部保管ウラン約7tの引取期限である令和2年9月までとすることを決定していたが、その後、平成30年5月に原科研ウランを第三ウラン貯蔵庫で保管できるかどうか検討する必要が生じたとして令和2年9月までのしゅん工を見送ったため、平成30年12月に外部保管ウラン約7tをL棟に仮置きすることを決定して、仮置きのための整備を行っていた(表参照)。

表 第三ウラン貯蔵庫、L棟等の動向

表 第三ウラン貯蔵庫、L棟等の動向 時期 外部保管燃料等の動向 第三ウラン貯蔵庫の動向 L棟の動向 画像

しかし、原科研ウランについては、その量が建設中の第三ウラン貯蔵庫の最大保管可能量を超えており、かつ、当初第三ウラン貯蔵庫に保管するとしていた外部保管燃料等だけでも当該最大保管可能量の大部分を占めていたため、当初の設計のままでは第三ウラン貯蔵庫での保管は困難であった。そして、第三ウラン貯蔵庫の建設は、保管対象となる核燃料物質の種類、量等を踏まえて、建設に係る原子炉等規制法に基づく許可を取得して実施していたものであり、30年5月時点においては既に基礎杭工事まで完了していたものであって、そこから大幅な設計変更等を行うことは想定できない状況であった。したがって、原科研ウランを第三ウラン貯蔵庫で保管することが困難であることは明らかであった。

また、L棟は経年劣化が著しく、機構は、令和2年9月以降も外部保管燃料及び外部保管ウランを仮置きする場合、当該経年劣化の対策として新たに約7億円の費用が必要となることなどからL棟での長期の保管は経済的ではないとしており、外部保管燃料及び外部保管ウランをいずれも速やかに第三ウラン貯蔵庫に移動することを前提にL棟での仮置きに係る許可等を取得していた。このため、外部保管燃料及び外部保管ウランの保管場所としての第三ウラン貯蔵庫の必要性に変わりはなく、L棟及び核サ研ウランを保管している各原子力施設の廃止措置を進めていくためにも、第三ウラン貯蔵庫は速やかにしゅん工する必要があった。

したがって、機構が原科研ウランを第三ウラン貯蔵庫で保管できるかどうか検討する必要が生じたとして、平成30年5月に第三ウラン貯蔵庫の建設を中断して令和2年9月までのしゅん工を見送ることとしたことは適切でなく、予定どおり工事を実施していれば、遅くとも同月までに第三ウラン貯蔵庫をしゅん工することが可能であり、L棟の整備のうち、外部保管ウラン約7tの仮置きのための整備は必要なかったと認められた。

このように、機構において、第三ウラン貯蔵庫のしゅん工を見送ったことにより、外部保管ウラン約7tの仮置きのためのL棟の整備に係る契約のうち、第三ウラン貯蔵庫の建設を中断していなければ締結する必要のなかった契約計4件、契約額計6295万余円を締結していた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、機構において、第三ウラン貯蔵庫の建設及びL棟の整備に当たり、両研究所が保管する核燃料物質について、両研究所間での移動も含めた集約方針の検討を十分に行っていなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、機構は、2年8月に、理事会議等を開催するなどして、両研究所が保管する核燃料物質の移動先等について両研究所間での移動を含めて検討を行い、L棟に仮置中の外部保管燃料及び仮置予定の外部保管ウラン、核サ研ウラン等を集約して保管するために必要な第三ウラン貯蔵庫の建設を早期に再開したり、原科研ウランを含めた原子力科学研究所で保管している核燃料物質を同研究所の既存施設に集約して保管したりすることを定めることにより、原子力施設の廃止措置に伴う核燃料物質の移動等を円滑に実施して、核サ研ウラン、原科研ウラン等の仮置施設の整備が必要になる事態が今後生じないようにするための処置を講じた。