ページトップ
  • 令和元年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第16 独立行政法人住宅金融支援機構|
  • 不当事項|
  • 貸付金

独立行政法人住宅金融支援機構が旧住宅金融公庫から承継した賃貸住宅融資において、借受者が礼金を受領しているなど賃貸条件の制限に違反していたもの[独立行政法人住宅金融支援機構本店、3支店](181)―(202)


科目
(住宅資金貸付等勘定)貸付金
(既往債権管理勘定)貸付金
部局等
独立行政法人住宅金融支援機構本店、3支店
貸付けの根拠
住宅金融公庫法(昭和25年法律第156号)
賃貸住宅融資の概要
賃貸住宅を建設して事業を行う者に、住宅の建設等に必要な長期資金の貸付けを行うもの
貸付先
賃貸住宅を建設して事業を行う者
貸付先の件数
22件
貸付金残高の合計
1,665,073,917円(令和元年度末)
不当と認める貸付金残高の合計
1,665,073,917円(令和元年度末)

1 賃貸住宅融資の概要

独立行政法人住宅金融支援機構(以下「機構」という。)は、平成19年4月、独立行政法人住宅金融支援機構法(平成17年法律第82号。以下「機構法」という。)に基づき、住宅金融公庫(以下「旧公庫」という。)の権利及び義務を承継して設立された。旧公庫は、同年3月まで住宅金融公庫法(昭和25年法律第156号。以下「旧公庫法」という。)に基づき、国民が健康で文化的な生活を営むに足る住宅の建設等に必要な資金で一般の金融機関で対応が困難なものを融通することなどを目的として、住宅を建設して賃貸する事業を行う者に対して35年等の長期資金の貸付け(以下「賃貸住宅融資」という。)を行っていた。そして、機構が旧公庫から承継した賃貸住宅融資の残高は、令和元年度末現在265,605,606,245円(3,307件)となっている。

賃貸住宅融資については、賃借人の保護を図ることなどの目的から、旧公庫法及び住宅金融公庫法施行規則(昭和29年大蔵・建設省令第1号。以下「旧施行規則」という。)によれば、借受者は、賃貸住宅融資により建設された賃貸住宅(以下「賃貸住宅」という。)の賃貸に当たって、家賃の3か月分(地域又は融資の種類によっては6か月分又は9か月分)を超えない額の敷金を除き、賃借人から礼金、更新料等の受領を賃貸の条件としてはならないこととされていた。また、借受者は、解約申入れ期限を1か月よりも前とした取決めをするなど、賃借人の不当な負担となることを賃貸の条件としてはならないこととされていた。

機構法の施行に伴い旧公庫法は廃止されたが、機構法によれば、旧公庫法に基づいて行われた賃貸住宅融資に係る賃貸条件の制限は従前どおりとされている。

本院が平成21年次に上記賃貸条件の制限について検査したところ、借受者等において賃貸条件の制限があることについての認識が欠如していたり、機構において、賃貸住宅の実態調査(以下「実態調査」という。)について本店から支店へ明確な指示をしていなかったりなどしたため、借受者が賃借人から礼金を受領しているなど賃貸条件の制限に違反している事態が見受けられた。そこで、機構において、借受者等に賃貸条件の制限が遵守されるよう周知を図り、実態調査を毎年確実に実施するなどの処置を講ずるよう、機構に対して21年10月に、会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求めた。

機構は、上記本院の指摘を受けて、賃貸条件の制限に関する周知については、21年11月以降、機構のホームページに掲載するなどし、毎年の実態調査の実施については、23年3月に実態調査の実施方法等を定めた調査要領を策定の上、同年4月から実態調査を開始し、毎年確実に実施することとした。

2 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

本院は、合規性等の観点から、賃貸住宅融資に係る賃貸条件の制限は、本院の指摘を受けて適切に遵守されているかなどに着眼して、本店首都圏広域事業本部及び3支店(注1)の各管内において賃貸条件が入居募集広告に掲載されていて賃貸条件の制限に違反している可能性のある賃貸住宅融資25件(令和元年度末貸付金残高計1,812,804,855円)を対象として、本店及び2支店(注2)において、賃貸借契約書等の内容を確認するなどして会計実地検査を行った。また、本店を通じて九州支店管内の賃貸住宅融資に係る賃貸借契約書等の提出を受けるなどして検査した。

(注1)
3支店  近畿、中国、九州各支店
(注2)
2支店  近畿、中国両支店

(2) 検査の結果

検査したところ、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。

ア 賃貸条件の制限に違反している事態

本店首都圏広域事業本部及び3支店の各管内の賃貸住宅融資22件(元年度末貸付金残高計1,665,073,917円)において、借受者が賃借人から礼金を受領しているなど賃貸条件の制限に違反している事態が見受けられた。そして、この22件の違反内容についてみると、敷金を過大に受領していたものが1件(同124,724,726円)、礼金を受領していたものが15件(同計1,030,614,110円)、更新料を受領する取決めをしていたものが4件(同計313,188,503円)、敷引き(注3)を設定していたものが3件(同計271,713,855円)、退去月の家賃について、日割計算を行わない取決めをしているなど賃借人の不当な負担となることを賃貸の条件としていたものが13件(同計1,068,986,397円)となっていた(一つの物件で複数の賃貸条件の制限に違反しているものがあるため、件数及び貸付金残高の計は一致しない。)。

(注3)
敷引き  賃貸借契約書において、あらかじめ敷金の一定額を退出時に返還しないと定めること

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

事例

賃貸住宅を建設して事業を行う借受者Aは、九州支店管内に建設した賃貸住宅(総戸数20戸)の建設等に必要な資金として、平成12年4月に賃貸住宅融資235,000,000円(貸付期間35年。令和元年度末貸付金残高124,724,726円)を受けている。調査したところ、2年5月の時点における入居戸数18戸のうち、敷金を家賃の3か月分を超えて受領していたものが2戸、礼金を受領していたものが5戸、敷引きを設定していたものが5戸となっていて、計10戸について賃貸条件の制限に違反していた(1戸で複数の賃貸条件の制限に違反しているものがあるため、戸数の計は一致しない。)。

イ 借受者等に賃貸条件の制限を遵守させるための取組の状況

平成21年10月の本院の指摘を受けて機構が講じた処置のその後の状況についてみると、賃貸条件の制限に関する周知については、ホームページに掲載していたものの、27年度以降は賃借人や借受者等が容易に確認できる状況となっていないなど、賃貸条件の制限が遵守されるように借受者等に対して周知を行うという本院の指摘の趣旨に必ずしも沿ったものとはなっていなかった。また、毎年の実態調査の実施については、賃貸住宅融資に関する事業の担当部署は、本院の指摘を受けて、全ての賃貸住宅融資について賃貸条件の制限違反の有無を調べるために借受者に調査票を送付し、これに返信がなかった者(以下「未返信者」という。)を優先して調査することとして、23年度から開始した。その後、担当部署は、27年度に未返信者を対象とする実態調査が完了したことから、実態調査を同年度をもって終了して、28年度以降は全く実施していなかった。しかし、27年度の実態調査において、その対象とした賃貸住宅融資のうち25件が賃貸条件の制限に違反しているという状況となっていたことから、機構は引き続き、未返信者以外の借受者の賃貸住宅融資についても実態調査を行う必要があったと認められる。そして、担当部署が実態調査を終了したことについて、担当部署から機構内の経営に関する会議等に対して報告されないなど、機構内部において、実態調査に係る統制が十分に機能していなかったことから、本院の指摘を受けて講じた処置の一部が履行されなくなっていた。

このように、本院が是正改善の処置を求め、機構において、これを受けて実態調査を毎年確実に実施することとするなどの処置を講じたにもかかわらず、その一部が履行されなくなるなどしていたため、賃貸住宅融資について賃貸条件の制限に違反していた事態が生じていたことは適切とは認められず、賃貸住宅融資22件に係る貸付金残高1,665,073,917円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、借受者等において旧公庫法及び旧施行規則に規定する賃貸条件の制限に関する認識が欠けていたことにもよるが、機構において借受者等に賃貸条件の制限を遵守させるための取組を継続的に実施することの重要性に対する認識が欠けていたことなどによると認められる。

前記の事態を部局等別・貸付先別に示すと次のとおりである。

 
部局等
貸付先
貸付年月
当初貸付金額
令和元年度末貸付金残高 不当と認める貸付金残高
        千円 千円 千円
(181)
本店
賃貸住宅事業を行う個人
10.10 54,000 28,275 28,275
(182)
賃貸住宅事業を行う法人
14.7 249,300 154,291 154,291
(183) 近畿支店
賃貸住宅事業を行う個人
8.7 198,300 91,859 91,859
(184) 9.8 72,300 34,964 34,964
(185) 11.4 401,100 192,243 192,243
(186)
賃貸住宅事業を行う法人
12.8 105,900 57,177 57,177
(187)
賃貸住宅事業を行う個人
13.6 36,300 17,190 17,190
(188) 15.12 62,100 28,462 28,462
(189) 16.9 176,500 99,114 99,114
(190) 中国支店
賃貸住宅事業を行う法人
13.3 115,900 51,553 51,553
(191) 16.3 126,900 81,128 81,128
(192) 九州支店
賃貸住宅事業を行う個人
10.5 151,500 77,385 77,385
(193) 12.4 235,000 124,724 124,724
(194) 12.6 62,000 33,239 33,239
(195) 12.6 221,000 116,357 116,357
(196) 15.2 185,900 116,622 116,622
(197) 15.12 74,900 25,037 25,037
(198) 16.6 87,100 56,067 56,067
(199) 17.4 100,000 69,603 69,603
(200) 17.5 82,800 37,992 37,992
(201) 18.3 168,000 119,848 119,848
(202) (注4)
19.6
68,800 51,933 51,933
(181)―(202)の計 3,035,600 1,665,073 1,665,073
(注4)
平成18年度以前に申込みがあった賃貸住宅融資については、19年度以降に機構が貸し付けた場合も賃貸条件の制限を受けることとなっている。