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  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 第19 国立大学法人佐賀大学|
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複数の大学と共同して医療情報支援を行うことを目的とした震災医療システムについて、医療データを取り込むために必要なマッピング作業の具体的な実施方法、役割分担等について十分に合意形成が図られていなかったなどのため、全く利用されていなかったもの[国立大学法人佐賀大学](205)


科目
経常費用
部局等
国立大学法人佐賀大学
契約名
震災復興医療体制整備システム 一式
契約の概要
南海トラフ地震等が発生した際に複数の大学と共同して九州地区の被災地に円滑に医療情報支援を行うために、震災復興医療体制整備システムの開発、サーバ等の必要な機器の調達等を行うもの
契約の相手方
富士通株式会社
契約
平成25年11月 一般競争契約
支払額
279,825,000円(平成25年度)
不当と認める支払額
279,825,000円(平成25年度)

1 契約等の概要

(1) 震災医療システムの概要

国立大学法人佐賀大学(以下「佐賀大学」という。)は、南海トラフ地震等が発生した際に複数の大学と共同して九州地区の被災地に円滑に医療情報支援を行うために、平成24年度の運営費交付金を財源として、震災復興医療体制整備システム(以下「震災医療システム」という。)の開発、サーバ等の必要な機器の調達等を総合評価落札方式による一般競争契約により、25年11月に富士通株式会社(以下「会社」という。)に契約額279,825,000円で請け負わせて実施しており、26年3月に納品を受けて、同年4月に契約代金の全額を支払っている。

震災医療システムは、佐賀大学及び九州地区に附属病院を有する6国立大学法人(注)(以下「参加大学」という。)が保有する慢性疾患を抱える患者の診療情報(以下「医療データ」という。)を震災等の被害が比較的少ないと想定されている佐賀大学に集積し、平常時には、佐賀大学において、集積した医療データを分析して薬剤の処方量、診療時の検査量等の需要を予測する研究等(以下「需要予測事業」という。)を行い、災害時には平常時の需要予測事業で得た情報を被災した参加大学に提供して、被災地に効果的な薬剤の配給等ができるように支援を行うことを目的としたものであり、27年4月から本格運用を開始することとされていた。

(注)
6国立大学法人  九州大学、長崎大学、熊本大学、大分大学、宮崎大学、鹿児島大学の各国立大学法人

(2) マッピング作業等の概要

医療データには医療機関ごとに独自のコード(以下「ローカルコード」という。)が付与されていることから、医療データを震災医療システムに取り込んで需要予測事業を行うには、ローカルコードと、医療機関の間で情報交換を可能とするために一般財団法人医療情報システム開発センター等が作成したコード(以下「標準化コード」という。)とを対応させる作業(以下「マッピング作業」という。)が必要となる。

そして、マッピング作業を行うためには、佐賀大学及び参加大学の附属病院における医療に係る知識が必要であり、会社等に請け負わせるのは困難であることから、本件契約書の仕様書に基づき会社が作成した応札技術仕様書において、マッピング作業は佐賀大学及び参加大学において行うこと、佐賀大学が参加大学への作業依頼を行うことなどとなっている。

また、佐賀大学は、マッピング作業を完了した医療データを震災医療システムに取り込んで需要予測事業を行うには、ローカルコードと標準化コードが正確に対応して整合性がとれていることを検証する必要があり、この検証を効率的に行うためとして、佐賀大学及び参加大学のマッピング作業が全て完了した後に、佐賀大学が一括して検証することにしていた。

2 検査の結果

本院は、有効性等の観点から、震災医療システムの開発等が計画的に行われ、震災医療システムが目的に沿って利用されているかなどに着眼して、本件契約を対象として、佐賀大学において契約書、仕様書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、参加大学において震災医療システムに医療データを取り込むために必要なマッピング作業の実施状況等についての調書を徴するなどして検査した。

検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。

佐賀大学は、25年4月に震災医療システムによる需要予測事業を計画して同年12月に参加大学に対して需要予測事業への協力を求め、26年2月までの間に参加大学からの異論がなかったことから需要予測事業への協力が得られたとして、同月以降、参加大学との会議を通じて、参加大学に対してマッピング作業の依頼を行っていたとしていた。

しかし、佐賀大学は、参加大学にマッピング作業を依頼するに当たり、マッピング作業の具体的な実施方法や佐賀大学と参加大学との役割分担等について十分に合意形成を図っておらず、具体的なマッピング作業の実施計画を策定することなどを行っていなかった。

このため、参加大学のうち国立大学法人九州大学を除く5国立大学法人は、マッピング作業は佐賀大学が行うことになっていると認識していたり、佐賀大学からマッピング作業に係る具体的な指示がないなどとしていたりしていて、震災医療システムの本格運用の開始予定である27年4月までにいずれも自らが保有する医療データのマッピング作業を完了していなかった。そして、佐賀大学は、上記の5国立大学法人からローカルコード等の提出を求めるなどして、自らマッピング作業を行うことにしたものの、マッピング作業に係る十分な人材が確保できなかったことなどから、本院が会計実地検査を行った31年1月現在においても、5国立大学法人のマッピング作業は完了していないままとなっていた。

また、佐賀大学及び国立大学法人九州大学は、需要予測事業とは別の事業のために自らが保有する医療データのマッピング作業を完了していたものの、佐賀大学は、前記のとおり佐賀大学及び参加大学のマッピング作業が全て完了した後に一括してローカルコードと標準化コードの検証を行うことにしていたため、検証を実施しておらず、震災医療システムに需要予測事業を行うための医療データを取り込んでいなかった。このため、両大学の医療データを用いた需要予測事業も行われていなかった。

そして、佐賀大学は、本院の検査結果を受けて参加大学と共に検討した結果、今後、震災医療システムを運用するために必要な作業を実施することには困難を来すとして、震災医療システムによる需要予測事業の継続を断念するとしていた。

したがって、震災医療システムは、マッピング作業が完了していなかったなどのため、納品されて以降全く利用されておらず、今後も利用される見込みがないことから、震災医療システムの開発等に係る支払額279,825,000円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、佐賀大学において、需要予測事業を実施する必要性等について参加大学との認識の共有が十分でなく、佐賀大学及び参加大学がそれぞれ行う必要があるマッピング作業の具体的な実施方法、役割分担等について十分に合意形成を図った上で合意に基づく具体的なマッピング作業の実施計画を策定する必要があることや、整備した震災医療システムを適切に運用することについての認識が欠けていたことなどによると認められる。