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  • 令和元年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 第20 北海道旅客鉄道株式会社|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

踏切除雪に係る請負費用の積算に当たり、実施回数の増加に伴う作業の実態の変化に即して1回の踏切除雪で除雪する降雪の深さを設定することなどにより適切に行うよう改善させたもの


科目
(款)鉄道事業営業費 (項)線路保存費
部局等
本社、7保線所
契約名
倶知安保線管理室管内踏切除雪作業1等35契約
契約の概要
踏切道及び踏切道に近接した軌道周辺について除雪作業を行うもの
契約
平成30年11月~31年3月 随意契約
検査の対象とした契約件数及び踏切除雪費の積算額
35件 7億9847万余円(平成30年度)
上記のうち低減できた踏切除雪費の積算額
1億1050万円

1 契約の概要等

(1) 踏切除雪の概要

北海道旅客鉄道株式会社(以下「JR北海道」という。)は、踏切道を通行する自動車、歩行者等の安全を確保するとともに、自動車の往来によりレールの上部等に残る圧雪に列車が乗り上げて脱線することを防止するために、人力による踏切道の除雪(以下「踏切除雪」という。)等を実施している。踏切除雪は、作業員が、ショベル等により踏切道内の積雪を踏切道外に搬出したり、ショベル等で取り除くことができない圧雪を専用の除雪用具で取り除いたりするなどの作業を行うものである。

JR北海道では、線路等の維持管理を行う各保線所が、所掌下の保線管理室ごとに一又は複数の地域単位で、毎年度請負業者と請負契約を締結して、11月から翌年3月までの間(以下「除雪期間」という。)に踏切除雪を実施させている。

(2) 踏切除雪費の積算

各保線所は、踏切除雪に係る請負費用(以下「踏切除雪費」という。)の予定価格について、JR北海道が制定した「軌道関係積算マニュアル(平成27年)」(以下「マニュアル」という。)等に基づき、次のように積算している。

① 設定降雪深の算出

保線管理室所在地において12月1日から翌年3月31日までの期間に計測した降雪深(注1)を基に、過去の実際の除雪頻度を勘案して、1日当たりの降雪深が10cm以下の日についてはその日数の3分の1、1日当たりの降雪深が11cm以上の日についてはその日数を合計し、過去5年間における年平均値を要除雪日数とする。そして、同期間に計測した降雪深の累計値の年平均値である累計降雪深を要除雪日数で除して得た値を、踏切除雪の実施日に除雪する必要がある降雪の深さ(以下「設定降雪深」という。)として保線管理室ごとに設定する(計算式参照)。

(注1)
降雪深  保線管理室が計測する降雪量。保線管理室において、毎日、午前9時、午後1時30分及び同4時に残雪を取り払った状態からの降雪量を計測しており、これら3回の降雪量の合計がその日の降雪深となる。

(計算式)

設定降雪深の算定の式 要除雪日数(日) 累計降雪深(cm) 画像

② 作業ブロック当たりの作業人日数の算出

設定降雪深に各踏切道の除雪面積を乗じて得た除雪量を基に踏切道1か所当たりの作業時間を算出する。

そして、7時間の実作業時間内で収まる工程となるよう複数の踏切道を組み合わせて作業ブロックを編成し、上記により算出した踏切道1か所当たりの作業時間を作業ブロックごとに合計するなどして、作業ブロック当たりの作業人日数を算出する。

③ 予定価格の算出

作業ブロック当たりの作業人日数に労務単価を乗ずるなどして踏切除雪1回当たりの単価を算出し、これに踏切除雪の実施回数の過去5年間における年平均値を予定回数として乗ずるなどして予定価格を算出する。

(3) 踏切除雪の実施の通知及び踏切除雪費の支払

保線所長等は、保線管理室において午後1時30分及び同4時に計測した降雪深、踏切道の積雪状況並びに降雪予報を基に、積雪の見通しを立てて、当日又は翌日に踏切除雪を実施するかを判断し、実施すると判断した場合は、その旨を請負業者に通知している。このため、請負業者は、通知を受けたときに踏切除雪を実施することができるよう、除雪期間中、所要の作業員を確保している。

そして、JR北海道は、契約上の踏切除雪1回当たりの単価に、各月内で実際に踏切除雪を実施した回数を乗ずるなどした1か月分の踏切除雪費を月ごとに請負業者に支払っている。このため、踏切除雪の実施回数が増加すれば、年間の除雪量の合計が同じでも請負業者に対する支払額も増加することになる。

(4) 踏切道の安全確保の取組

JR北海道は、平成29年12月に列車が踏切道のレール上部等に残る圧雪に乗り上げる脱線事故が発生したため、30年1月に通知を発し、踏切道の安全確保の取組を強化することとし、保線所等は、比較的積雪が少ない場合においても踏切除雪を実施している。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、経済性等の観点から、踏切除雪費の積算が作業の実態の変化に即したものとなっているかなどに着眼して、30年度に契約した7保線所(注2)の35契約(除雪の対象とした踏切道635か所。踏切除雪費の積算額計7億9847万余円)を対象として、JR北海道本社及び釧路支社においてマニュアル等、各保線所が作成した積算書、保安要員配置内訳書等の関係資料を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、旭川、函館両支社については、上記と同様の書類の提出を受けてその内容を確認するなどして検査した。

(注2)
7保線所  札幌、岩見沢、追分、旭川、名寄、函館、釧路各保線所

(検査の結果)

前記のとおりJR北海道では30年1月以降踏切道の安全確保の取組を強化しており、毎年度行っている踏切除雪費等の冬期経費に係る実績調査の結果においても、踏切除雪の実施回数は、25年度から28年度までの4か年の平均22,083回に対して、29年度は33,470回、30年度は24,429回となっていた。踏切除雪を実施した日の降雪深の状況をみると、1日当たりの降雪深が10cm以下であった日は、29年度に実際に踏切除雪を実施した延べ1,314日中の延べ863日(65.6%)、30年度同1,004日中の延べ661日(65.8%)となっていて、前記の計算式で求めた積算上の要除雪日数29年度計1,014日中の計477日(47.0%)、30年度計1,022日中の計481日(47.0%)よりもいずれの年度も多くなっていた(図参照)。

図 1日当たりの降雪深10cm以下の日に踏切除雪を実施した延べ日数と積算上の要除雪日数(平成30年度)

図 1日当たりの降雪深10㎝以下の日に踏切除雪を実施した延べ日数と積算上の要除雪日数(平成30年度) 積算上の要除雪日数 踏切除雪を実施した延べ日数 降雪深10cm以下 降雪深11cm以上 画像

そして、前記の35契約で編成されていた185作業ブロック及び同一の踏切道を対象とする29年度(30年1月から3月まで。以下同じ。)の契約で編成されていた170作業ブロックについて、積算上の作業人日数と実際に踏切除雪を実施した際の作業人日数を比較したところ、次のような状況となっていた。すなわち、前記の方法で求めた積算上の作業ブロック当たりの作業人日数は、保線管理室ごとにみると、29年度は3.0人日から44.2人日までで平均17.7人日、30年度は3.1人日から40.9人日までで平均17.6人日となっていた。これに対して、実際に踏切除雪を実施した際の作業人日数は、保安要員配置内訳書等を基に保線管理室ごとに集計すると、29年度は2.1人日から13.6人日まで、30年度は2.2人日から15.0人日までで、両年度とも平均6.8人日となっており、全ての作業ブロックで実際に踏切除雪を実施した際の作業人日数が積算上の作業人日数を大幅に下回っていた。

前記のとおり、踏切除雪の実施回数が増加し、積算上は3分の1を乗じて3日のうち1日のみ除雪を実施することとなっている1日当たりの降雪深が10cm以下の日にも多数実施されており、また、上記のとおり、作業ブロック当たりの実際の作業人日数は積算よりも大幅に少なくなっていた。これらのことから、実際の踏切除雪において除雪する降雪の深さは、設定降雪深よりも小さな値になっていることが想定された。そこで、29、30両年度に踏切除雪を実施した日の1日当たり降雪深の実績値を確認したところ、両年度とも平均10cmとなっており、29、30両年度の設定降雪深の年平均値である22cm及び21cmを大幅に下回っていた。

このように、踏切道の安全確保の取組強化等により踏切除雪の実施回数が増加したことに伴って作業の実態も変化し、1回の踏切除雪で除雪する降雪の深さが小さな値となり、1回の除雪に要する作業人日数が減少しているのに、設定降雪深を作業の実態の変化に即して設定しないまま踏切除雪費の積算が行われていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(低減できた踏切除雪費の積算額)

設定降雪深について、前記の降雪深の実績値を基に安全性を考慮した上で保線管理室単位で10cm又は15cmと設定することとするなどして、前記の35契約に係る踏切除雪費を試算すると、請負業者が除雪期間中所要の作業員を確保していることを踏まえた補償費相当額を新たに考慮したとしても計6億8792万余円となり、踏切除雪費の積算額7億9847万余円は約1億1050万円低減できたと認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、JR北海道において、踏切道の安全確保の取組強化等により踏切除雪の実施回数が増加したことに伴って作業の実態も変化し、1回の踏切除雪で除雪する降雪の深さが小さな値となるなどしていたのに、踏切除雪費の積算がこれらの実態に即したものとなるようマニュアル等の改定を検討するなどしていなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、JR北海道は、踏切除雪費の積算が踏切除雪の実施回数の増加に伴う作業の実態の変化に応じた適切なものとなるよう、令和元年11月にマニュアル等を改定して、設定降雪深として作業の実態の変化に即して1回の踏切除雪で除雪する降雪の深さを設定するなどの処置を講じた。