会計検査院は、平成30年6月18日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月19日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。
一、会計検査及びその結果の報告を求める事項
内閣府、文部科学省、厚生労働省
子ども・子育て支援施策に関する次の各事項
近年、子育て家庭における育児の孤立化や負担感の増大、保育所等の利用の申込みを行っているものの利用できないなどの児童(以下「待機児童」という。)の発生等が深刻な社会問題となっていることから、これらの諸問題に対応するために、24年8月に「子ども・子育て支援法」(平成24年法律第65号。以下「支援法」という。)等のいわゆる「子ども・子育て関連3法」が制定され、27年4月に全面施行された。国及び地方公共団体は、支援法等に基づき、地域の実情に応じた子育て支援や、仕事と子育ての両立支援等を推進していくこととなった。また、貧困の状況にある子どもの増加も社会問題となっていることから、25年6月に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」(平成25年法律第64号。以下「貧困対策法」という。)が制定され、26年1月に施行された。政府は、貧困対策法に基づき、同年8月に「子供の貧困対策に関する大綱」(以下「貧困対策大綱」という。)を閣議決定し、子どもの将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう、貧困の状況にある子どもが健やかに育成される環境を整備するなどとしている。
前記の参議院からの検査要請について、30年6月18日の参議院決算委員会において検査の内容として示された「待機児童解消、子どもの貧困対策等の子ども・子育て支援施策」は多岐にわたっている。そこで、本院において、支援法等に基づく子ども・子育て支援新制度(以下「支援制度」という。)及び子どもの貧困対策に係る主な施策に関して内閣府が公表している30年度の予算関係資料等に基づき、内閣府、文部科学省及び厚生労働省(以下「3府省」という。)が所管する子ども・子育て関係の主な施策のうち、待機児童の解消に係る施策(以下「待機児童解消施策」という。)及び子どもの貧困対策に係る施策について分類して整理した。待機児童解消施策としては、内閣府所管では、支援制度に係る「子どものための教育・保育給付等」「企業主導型保育事業」等、厚生労働省所管では、「保育所等の整備支援」等の保育施設等の整備に関する施策(以下「保育施設等整備施策」という。)や「保育人材確保のための総合的な対策」等の保育士等の確保に関する施策(以下「保育士等確保施策」という。)がある。また、子どもの貧困対策に係る施策について、内閣府等は、子どもの貧困対策のみを目的として実施されている施策は少数であり、様々な施策の一部に子どもの貧困対策に関連する取組等が含まれている場合が多いとしているが、貧困対策大綱に基づくなどして子どもの貧困対策に係る主な施策を分類すると、教育の支援、生活の支援、保護者に対する就労の支援等に大別される。さらに、子ども・子育て関係の主な施策の中には、待機児童解消施策及び子どもの貧困対策に係る施策以外に分類される施策(以下「その他の施策」という。)も多数あり、その他の施策のうち、支援法に基づく施策としては、地域子ども・子育て支援事業における主要な事業である内閣府及び厚生労働省所管の放課後児童健全育成事業、地域子育て支援拠点事業等がある。
以上の整理を踏まえて、3府省が実施する待機児童解消施策及び子どもの貧困対策に係る主な施策を中心としつつ、その他の施策として、支援法に基づく施策であり、その予算額が多額に上っている放課後児童健全育成事業、地域子育て支援拠点事業等を含めて、上記の「待機児童解消、子どもの貧困対策等の子ども・子育て支援施策」として取り扱うこととする。
厚生労働省は、児童福祉法(昭和22年法律第164号)に基づき都道府県知事の認可を受けるなどした保育所(以下「認可保育所」という。)等の利用申込児童数(以下「申込児童数」という。)、認可保育所等の利用児童数(以下「利用児童数」という。)、待機児童数等を把握するために、毎年度、全国の市町村(特別区を含む。以下同じ。)を対象として、「保育所等利用待機児童数調査」を実施している。また、厚生労働省は、毎年度、同調査で把握した待機児童数を公表しており、待機児童数は、直近の31年度には16,772人となるなど、1・2歳児を中心として待機児童の解消には至っていない状況となっている。
政府は、29年度末までに、潜在的な保育需要も含め、40万人分の保育の受け皿を確保することを目標とした待機児童解消加速化プラン(以下「加速化プラン」といい、各年度において待機児童解消加速化計画を策定した市町村が補助率のかさ上げなどを受けて実施した事業を「加速化プラン採択事業」という。)を25年4月に策定し、公表しており、その後、27年11月に、女性の就業率が更に上昇することを念頭に、29年度末までに確保する保育の受け皿の目標を40万人分から50万人分へ上積みしている。さらに、政府は、30年度から34年度(令和4年度)末までの間に32万人分の保育の受け皿を新たに整備することを目標とした「子育て安心プラン」を29年6月に策定し、公表している。その後、同年12月に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」において、上記の目標を前倒しして、32年度(令和2年度)末までに整備することとしている。
(a) 保育士の資格及び登録
児童福祉法によれば、都道府県知事の指定する保育士を養成する学校その他の施設を卒業した者と、保育士試験に合格した者が、保育士となる資格を有することとされており、保育士となる資格を有する者が保育士となるには、保育士登録簿に氏名等の登録を受けなければならないこととされている。
(b) 保育士確保プランの概要
加速化プランの確実な実施のために、厚生労働省は、国全体で必要となる保育士の数を推計して、その推計に基づき必要となる保育士を確保できるように、保育士確保プランを27年1月に策定し、公表している。保育士確保プランによれば、加速化プランによる40万人分の保育の受け皿の拡大に伴って必要となる保育士の確保を図るための取組を推進し、29年度末までに国全体として46.3万人の保育士を確保することを目標として、新たに6.9万人の保育士を確保することとされている。その後、27年11月に、加速化プランによる29年度末までの保育の受け皿の目標が40万人分から50万人分へ上積みされたことに伴い、同省は、新たに確保することが必要となる保育人材の人数を6.9万人から9万人へ上積みして、国全体で48.3万人の保育人材を確保することを目標としている。
(c) 保育士等の処遇改善
厚生労働省の調査によると、保育士の平均給与は全業種の平均給与と比較して低い給与水準となっているなど、給与・賞与等の改善は保育士等確保施策の中でも重要な施策の一つとなっている。そして、保育士等の賃金改善を図るために、施設型給付費等における処遇改善等加算が実施されている。処遇改善等加算には、職員の平均経験年数や賃金改善・キャリアアップの取組に応じた人件費の加算(以下「処遇改善等加算 I 」という。)と技能・経験を積んだ職員に係る追加的な人件費の加算(以下「処遇改善等加算 II 」という。)があり、それぞれ職員の賃金改善に充てることとなっている。
(a) 企業主導型保育事業費補助金等の概要
内閣府は、支援法に基づき、多様な就労形態に対応する保育サービスの拡大を行い、待機児童の解消を図り、仕事と子育ての両立に資することを目的として、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)第82条第1項に規定する事業主等(以下「一般事業主」という。)から徴収する拠出金を財源として、28年度に企業主導型保育事業費補助金を創設するとともに、「平成28年度企業主導型保育事業費補助金の国庫補助について」(平成28年府子本第442号)等に基づき、同年度から企業主導型保育事業に対して助成を行う補助事業者に同補助金を交付している。同事業は、「平成28年度企業主導型保育事業等の実施について」(平成28年府子本第305号、雇児発0502第1号)等(以下「企業主導型実施要綱等」という。)に基づき、一般事業主に雇用されている従業員(以下「従業員」という。)等が監護する児童の保育を行うものである。企業主導型実施要綱等によれば、一般事業主等が同事業を行うために設置する保育施設(以下「企業主導型保育施設」という。)における利用定員について、従業員の監護する児童に係る定員(以下「従業員枠」という。)と、従業員枠以外の児童に係る定員(以下「地域枠」という。)との区分に応じて設定することなどとされている。
(b) 企業主導型保育事業に係る助成
内閣府は、28年度に公益財団法人児童育成協会(以下「児童育成協会」という。)を補助事業者として選定し、さらに、各年度の審査等を経て、29、30両年度も児童育成協会を補助事業者として、企業主導型保育事業費補助金を交付している。児童育成協会は、同補助金を原資として、企業主導型保育事業を実施する一般事業主等に対して企業主導型保育施設の整備に要する費用(以下「整備費」という。)及び企業主導型保育施設における保育の実施に要する経費(以下「運営費」という。)の助成を行う企業主導型保育助成事業を実施している(以下、児童育成協会が同事業により整備費の助成を行うために交付する助成金を「整備費助成金」といい、運営費の助成を行うために交付する助成金を「運営費助成金」という。また、整備費助成金及び運営費助成金の交付を受けて企業主導型保育施設の整備及び保育を実施する一般事業主等を「事業実施者」という。)。
放課後児童健全育成事業は、放課後児童クラブの運営等に関する事業であり、保護者が労働等により昼間家庭にいない、小学校に就学している児童に対して、小学校の余裕教室、児童館等を利用して授業の終了後等に適切な遊び及び生活の場を与えるなどして、その健全な育成を図るものである。
また、地域子育て支援拠点事業は、乳幼児及びその保護者が相互の交流を行う場所(以下「支援拠点」という。)を開設して、子育てについての相談、情報の提供、助言その他の援助を行うものである。
貧困に至った要因は経済的な要因のみならず、子どもが育った家庭環境や社会的要因等が影響しているとされており、貧困対策大綱では、子どもの貧困対策に関する基本的な方針として、①我が国の将来を支える積極的な人材育成策として貧困対策に取り組むこと、②子どもに視点を置いて切れ目のない施策の実施等に配慮すること、③子どもの貧困の実態を適切に把握した上で施策を推進すること、④子どもの貧困に関する指標(以下「大綱指標」という。)を設定してその改善等に向けて取り組むことなどが掲げられている。
そして、都道府県は、貧困対策法に基づき、貧困対策大綱を勘案して、子どもの貧困対策についての計画(以下「貧困対策計画」という。)を定めるよう努めることとなっている。
貧困対策大綱では、基本的な方針のほか、大綱指標及び指標の改善に向けた当面の重点施策を掲げて、子どもの貧困対策を総合的に推進していくこととしている。そして、大綱指標については、関係施策の実施状況やその効果等の検証・評価を行うとともに、必要に応じて子どもの貧困対策の見直しなどを行うため、「子供の貧困率」等の25の指標が定められている。
本院は、子ども・子育て支援施策に係る事業の実施等について毎年検査し、その結果を不当事項、意見を表示し又は処置を要求した事項等として検査報告に掲記している。
本院は、子ども・子育て支援施策の予算の執行状況及び同施策の実施状況並びに同施策に係る主要施策による効果の発現状況について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査した。
(ア) 待機児童解消、子どもの貧困対策等の子ども・子育て支援施策に係る予算の執行状況はどのようになっているか。各施策に係る需要の見込みを適切に把握していないことなどにより、多額の不用額が生じているなどの事態はないか。
(イ) 3府省等が実施している保育施設等整備施策、保育士等確保施策、企業主導型保育事業、放課後児童健全育成事業、子どもの貧困対策に係る各施策等の子ども・子育て支援施策は適切かつ効率的に実施されているか。
(ウ) 各都道府県及び市町村における貧困対策計画の策定及び指標の設定の状況はどのようになっているか。また、貧困対策計画に基づき子どもの貧困対策に係る各施策を実施するに当たり、支援を必要とする者(以下「支援対象者」という。)の把握等が的確に行われているか。
(エ) 子ども・子育て支援施策の実施に当たり、3府省間の連携状況や、各施策の調整状況等はどのようになっているか。
(ア) 保育施設等整備施策、保育士等確保施策、企業主導型保育事業等の待機児童解消施策は、各施策に係る需要や実績等を的確に把握した上で適時適切に実施され、利用定員の拡大等が図られるなどして、待機児童解消等に十分な効果を上げているか。
(イ) 放課後児童健全育成事業について、放課後児童クラブの利用に関する需要等を踏まえて、放課後児童クラブの整備、運営等が適切に行われているか。また、地域子育て支援拠点事業について、子育て親子の交流の促進等を図るための取組等が推進されているか。
(ウ) 子どもの貧困対策に係る施策について、生活困窮世帯等の子どもに対する学習支援、母子家庭の母等に対する就労支援等が効果的に実施され、その効果の把握等が十分に行われているか。
本院は、子ども・子育て支援施策の予算の執行状況については、原則として28年度から30年度までを、同施策の実施状況及び同施策に係る主要施策による効果の発現状況については、原則として25年度から30年度までをそれぞれ対象として、3府省、25都道府県及び同都道府県の205市区町村(14政令指定都市、31中核市並びに政令指定都市及び中核市を除く160市区町村)並びに児童育成協会及び企業主導型保育事業を実施する65事業実施者において、593人日を要して会計実地検査を行った(205市区町村のうち、待機児童解消施策等の会計実地検査を行ったのは166市区町村、子どもの貧困対策に係る施策の会計実地検査を行ったのは109市区町)。
検査に当たっては、3府省、25都道府県及び205市区町村から調書及び関係資料を徴したり、担当者等から説明を聴取したりなどするとともに、公表されている資料を活用して調査・分析を行うなどした。また、子どもの貧困対策に係る施策については、同施策の実施主体となり得る上記の25都道府県及び同都道府県内の全ての市町村(1,066市区町村)から調書を徴するなどして、調書の内容を分析するなどして検査した。
子ども・子育て支援施策の実施に要する主な交付金等である36交付金等が計上されている予算科目について、(目)別に整理して予算の執行状況をみると、支出済歳出額の歳出予算現額に対する割合(以下「執行率」という。)は、12.6%から99.9%までとなっていて、交付金等によって大きな差異がある状況となっている。
さらに、年金特別会計子ども・子育て支援勘定(項)地域子ども・子育て支援及仕事・子育て両立支援事業費(目)仕事・子育て両立支援事業費補助金は、一般事業主から徴収する拠出金を財源としており、その予算の執行状況をみると、執行率及び不用額の歳出予算現額に対する割合は、それぞれ28年度99.5%、0.4%、29年度99.9%、0.0%、30年度99.9%、0.0%となっている。そのうち、企業主導型保育事業費補助金に係る交付額をみると、28年度については交付決定額793億余円の全額が内閣府から児童育成協会に交付されたものの、児童育成協会による執行額が193億余円(執行額の同補助金交付額に対する割合24.4%)、29年度については交付決定額1309億余円の全額が同府から児童育成協会に交付されたものの、児童育成協会による執行額が807億余円(同61.6%)となっていた。その結果、同府による児童育成協会への同補助金交付額と執行額との間に、28年度分599億余円、29年度分501億余円と多額の差額が生じ、それぞれ翌年度にその差額の全額が国庫に返納され、歳入として収納されていた。
また、この(目)を含む年金特別会計子ども・子育て支援勘定における積立金への積立て及び歳入への繰入れの状況をみたところ、28年度229億余円、29年度180億余円、30年度865億余円が同勘定の積立金として積み立てられていた。一方、同勘定の歳入に繰り入れられていたのは28年度3億余円、29年度3億余円、30年度137億余円となっており、30年度末の積立金残高は1315億余円となっている。そして、令和元年度末については、上記のとおり企業主導型保育事業費補助金の平成29年度分の同勘定への返納金が501億余円に上っており、968億余円が同勘定の積立金として積み立てられて積立金残高が更に増加することが見込まれる状況となっている。
保育所等整備交付金による保育施設等整備施策に係る主な事業について、会計実地検査を行った166市区町村における実施状況をみたところ、27年度は42市区の116施設(交付金相当額計85億8380万余円)、28年度は83市区町の250施設(同計228億2919万余円)、29年度は106市区町村の433施設(同計448億7800万余円)を対象として実施されていた。
前記のとおり、処遇改善等加算には、処遇改善等加算 I と処遇改善等加算 II があり、両加算に係る加算額はそれぞれ職員の賃金改善に充てることとなっている。そして、処遇改善等加算 I の賃金改善要件分(以下「処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)」という。)は、賃金改善を実施する計画を策定しているなどの賃金改善要件に適合する保育所等が対象となっており、加算額から賃金改善に要した費用の総額(以下「賃金改善総額」という。)を控除した残余の額(以下「残額」という。)が生じた場合は、翌年度において、その全額を一時金等により職員の賃金改善に充てることとなっている。また、処遇改善等加算 II は、副主任保育士、専門リーダー等の役職を設けることにより、キャリアパスの仕組みを構築し、保育士等の処遇改善に取り組む保育所等が対象となっており、残額が生じた場合は、翌年度において、その全額を当年度の加算対象職員の賃金改善に充てることとなっている。
処遇改善等加算による職員の賃金改善の実施状況について、前記166市区町村の施設型給付費等の支給を受けている保育所等6,089施設のうち、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)及び処遇改善等加算 II の賃金改善実績報告書上の加算額の全部又は一部が、職員の賃金改善に充てられずに残額が生じていたり、職員の賃金改善に充てられていたか市町村において確認できていなかったりしていたものが、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)については28年度で計562施設(処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)の支給を受けている5,334施設に対する割合10.5%)の合計4億3699万円、29年度で計761施設(処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)の支給を受けている5,854施設に対する割合12.9%)の合計9億6186万余円、処遇改善等加算 II については29年度で計1,730施設(処遇改善等加算 II の支給を受けている4,804施設に対する割合36.0%)の合計4億5146万余円となっていて、翌年度において職員の賃金改善に充てるなどする必要がある状況となっていた。しかし、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)に残額が生ずるなどしていたもののうち、28年度で計133施設(残額が生ずるなどしていた562施設に対する割合23.6%)の合計1億5472万余円(国庫負担金相当額合計7736万余円)、29年度で計275施設(残額が生ずるなどしていた761施設に対する割合36.1%)の合計4億4675万余円(国庫負担金相当額合計2億2337万余円)、処遇改善等加算 II に残額が生ずるなどしていたもののうち29年度で計303施設(残額が生ずるなどしていた1,730施設に対する割合17.5%)の合計1億1803万余円(国庫負担金相当額合計5901万余円)が、翌年度においても職員の賃金改善に充てられていなかったなどの状況となっていた。
また、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)の算定状況について、28年度296施設、29年度299施設を抽出して検査したところ、賃金改善総額が適切に算定されておらず、調書等により試算した賃金改善総額が、賃金改善実績報告書に記載されていた賃金改善総額を下回り、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)に係る加算額未満となっていた。そして、残額が生じたり増加したりしたものが28年度で61施設(抽出して検査した296施設に対する割合20.6%)の計8428万余円(国庫負担金相当額計4214万余円)、29年度で62施設(抽出して検査した299施設に対する割合20.7%)の計1億1248万余円(国庫負担金相当額計5624万余円)となっていた。
企業主導型保育事業については、昨今、一部の企業主導型保育施設において、整備費助成金の不適正な受給等が相次いで発覚しており、また、開設後短期間で廃止又は休止となったり、企業主導型保育施設を利用する児童の数が利用定員を大幅に下回ったりするなどの事態が発生している。児童育成協会が令和元年8月までに行った整備費の助成決定の取消しの状況を確認したところ、9事業実施者の13施設について助成決定の取消しを行っており、この13施設に係る整備費の助成決定時点の利用定員は計659人となっていた。上記整備費の助成決定が取り消された9事業実施者(13施設)のほか、平成29年度に整備費又は運営費の助成決定を受けたものの30年度中に企業主導型保育施設の整備又は運営を取りやめていたのは112事業実施者等の117施設となっており、この117施設に係る整備費の助成決定時点の利用定員は計3,019人となっていた。
文部科学省及び厚生労働省が26年7月に策定した「放課後子ども総合プラン」によれば、放課後児童クラブ及び放課後子供教室について、30年度末までに全小学校区で、同一の小学校内等で放課後児童クラブ及び放課後子供教室を実施し、共働き家庭等の児童を含めた全ての児童が放課後子供教室の活動プログラムに参加できる取組(以下、このような取組を「一体型」という。)や、一体型でない場合であっても、近隣の放課後児童クラブと放課後子供教室が連携して活動する取組(以下、このような取組を「連携型」という。)を実施し、うち1万箇所以上について一体型で実施を目指すこととされていた。30年5月1日時点における一体型又は連携型により実施している小学校区及び一体型で実施している箇所数をみたところ、全ての小学校区において一体型又は連携型を実施している状況とはなっておらず、また、一体型による実施についても、4,913か所となっていた。
47都道府県における貧困対策計画の策定状況をみたところ、29年3月までに全都道府県が貧困対策計画を策定していた。
検査した25都道府県内の1,066市区町村における令和元年5月時点の貧困対策計画の策定状況をみると、策定済みであるとしているのは、政令指定都市では14市の全て、中核市では34市のうち7市(20.5%)、特別区では23区のうち9区(39.1%)、政令指定都市及び中核市以外の市では442市のうち55市(12.4%)、町村では553町村のうち12町村(2.1%)、計97市区町村となっていて、1,066市区町村の9.0%にとどまっている状況となっていた。貧困対策計画を策定していない市町村にその理由等を確認したところ、「人的・財政的な問題があるため」としているものが199市町村、「県が一元的に貧困対策を推進しているため」としているものが184市町村などとなっていた。また、上記の25都道府県における子どもの貧困対策に係る施策の評価体制をみると、21都道府県(25都道府県に対する割合84.0%)で何らかの評価を行っていた。貧困対策計画を策定している97市区町村における子どもの貧困対策に係る施策の評価体制をみると、52市区町(97市区町村に対する割合53.6%)で評価を行っていた。
上記25都道府県のうち、大綱指標を基にした指標を設定している22道府県について、貧困対策に係る施策の進捗状況を把握するための指標に係る直近の現状を示す数値等(以下「現状値」という。)の把握の状況等を確認したところ、多くの都道府県が設定している生活保護世帯に係る指標については、毎年度現状値を把握して、指標を設定した時点の状況を示す数値等(以下「当初値」という。)と比較するなどして、子どもの貧困対策に係る施策の実施状況等を検証・評価していた。一方、厚生労働省が実施する「全国ひとり親世帯等調査」等のように数年に1回実施される調査結果に基づき現状値を把握することとしている指標については、毎年度現状値を把握して当初値と比較することは困難な状況となっていた。
そして、22道府県が設定した指標の現状値を把握して子どもの貧困対策に係る施策の実施状況等を検証・評価したことにより得られた効果を確認したところ、「施策の進行管理が可能となった」としているものが21道県、「住民に対する説明責任を果たすことができた」としているものが18道県などとなっていた。また、97市区町村のうち、指標を設定してその現状値を把握していることを確認できた市町村は38市区町村(39.1%)にとどまっていた。
子どもの貧困対策に係る学習支援について、都道府県、市(特別区を含む。)及び福祉事務所を設置する町村が生活困窮世帯の子どもを対象として実施する学習支援事業(以下「生活困窮学習支援事業」といい、この事業による学習支援を「生活困窮学習支援」という。)の実施状況をみたところ、22都道府県、315市区及び1町の計338実施主体が、平成30年度に生活困窮学習支援事業を実施しており、これら338実施主体によって、315市区及び248町村計563市区町村に生活困窮学習支援が提供されていた。
スクールソーシャルワーカー(以下「SSW」という。)への相談件数は、21年度以降一貫して増加傾向にあり、その相談内容をみると、特に「家庭環境」に関する相談が増加傾向となっていて、その件数は20年度3,901件であったものが、27年度16,716件、28年度21,623件、29年度28,711件、30年度33,972件となっていた。また、「貧困」に関する内容が主である相談(以下「貧困相談」という。)は、28年度以降、その重要性に鑑みて「家庭環境」と区分して個別に集計されており、その件数は28年度4,087件、29年度4,691件、30年度5,461件となっていた。
SSWは、子どもの貧困対策において、福祉部門と教育委員会・学校等との連携を図るなどのために重要であり、多くの地方公共団体において子どもの貧困対策に活用されている状況である。文部科学省は、27年度以降、貧困により困難を抱えた子どもの家庭環境等に対する支援等を充実させることができるよう、子どもの貧困対策の必要性が高い地域・学校等へSSWを重点的に配置するため、スクールソーシャルワーカー活用事業(以下「SSW活用事業」という。)において、地方公共団体に対して一定額の補助金を上乗せして交付するなどの措置を講じている(以下、このような重点的なSSWの配置を「SSW加配」という。)。そして、SSW加配の目標人数は、27年度600人、28年度から30年度までは各年度とも1,000人となっている。「スクールソーシャルワーカー活用事業報告書」等を確認したところ、SSW加配を行っているのは、30年度にSSW活用事業を実施している107事業主体のうち16事業主体のみとなっており、SSW加配の実績は、27年度計75人、28年度計75人、29年度計120人、30年度計148人となっていて、目標を大きく下回っていた。
母子家庭等就業・自立支援センター事業(以下「センター事業」という。)について、30年度にセンター事業を実施していた68実施主体のうち29年度に就業支援事業を行っていた57実施主体における同年度の就業相談件数を厚生労働省の資料により確認したところ、就業相談件数は、14実施主体において1,000件以上となっていた一方で、12実施主体において100件未満となっているなどしていた。母子家庭の母等を試行雇用した事業主に対して28年度から30年度までの間に支給されたトライアル雇用助成金(一般トライアルコース)の支給状況をみたところ、支給件数及び支給額は、28年度178件、計2346万余円、29年度160件、計2186万余円、30年度145件、計1915万円となっていた。また、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)も同様に減少傾向となっていた。
168市区町村における「生活保護」「児童扶養手当」及び「就学援助」の支給等に係る情報(以下「給付関連情報」という。)を用いた福祉部局内の連携等の状況をみると、支援対象者に対して学習支援等の各種施策に関係する情報を周知するために、給付関連情報を保有している担当部署に対して協力を依頼するなど、担当部署間で相互に連携等を図っている市町村が複数見受けられた。また、多数の市町村において、母子保健等の事業等を担当する部署と経済的支援等の各種支援を担当する部署等が、母子保健等の事業等により得られた情報を共有するなどして相互に連携を図りながら、必要な支援につないでいる状況が見受けられた。
前記の166市区町村に対してアンケート調査を実施したところ、3府省が現在の体制で子ども・子育て支援施策を実施していることによる国庫補助事業等の実施上のメリットを感じると回答した市町村が17市区町村(166市区町村に対する割合10.2%)、デメリットを感じると回答した市町村が101市区町(同60.8%)となっていた。そして、アンケート調査結果等を踏まえて検査したところ、子ども・子育て支援施策に係るほぼ同趣旨の連絡文書が、二つの府省から市町村等へ別々に送付されている状況や、幼保連携型認定こども園の保育を実施する部分と教育を実施する部分について、施設整備に係る補助事業の実施上の手続や補助対象となる経費に差異があるなどしているため、市町村がそれぞれの補助対象経費の算定等に労力を要している状況等が見受けられた。このように、市町村からは3府省の連携・調整の問題点等に起因するデメリットに関する意見が多く出されたことなどから、必ずしも3府省の連携・調整等が十分に行われ、各施策を実施する上での効率化等が十分に図られている状況にはなっていないと認められた。
28年4月から30年4月までの間に実際に開設している企業主導型保育施設の利用定員をみると、厚生労働省が公表資料において28、29両年度に企業主導型保育事業により確保したとしていた保育の受け皿59,703人分には、30年4月時点で整備費に係る助成決定を受けているものの開設に至っていない企業主導型保育施設の利用定員分約17,000人分、改修等により利用定員を拡大した場合の既存の利用定員分(以下「既存分」という。)約1,000人分が含まれるなどしていて、結果として、確保されていた実際の利用定員よりも約18,000人分過大となっていた。そして、令和元年8月時点において整備費の助成決定が取り消されたり、平成30年度中に企業主導型保育施設の整備又は運営を取りやめたりしていた事業実施者等が存在しているが、これらの事業実施者等のうち、87事業実施者等の90施設に係る利用定員計2,817人分も、上記の過大となっていた約18,000人分に含まれていた。
前記の166市区町村において加速化プラン採択事業により整備された施設のうち、利用定員数より利用児童数が少ないことによる利用定員の空き(以下「空き定員」という。)が生じている年齢区分があった施設について、利用定員数に対する利用児童数の割合をみたところ、おおむね高い状況となっていたが、中には、50%未満となっている施設が30年4月1日時点で135施設、同年10月1日時点で35施設見受けられた。空き定員が生じている年齢区分があった施設について、空き定員が生じた主な理由を市町村に確認したところ、やむを得ないと考えられる理由や、特定の原因に分類し難い理由等を除くと、「保育士が不足しているため」とするものが最も多く、この保育士不足のため所定の利用定員数まで児童を受け入れられなかったことにより生じた空き定員は、4月1日時点では144施設に係る計1,219人分、10月1日時点では222施設に係る計1,502人分となっていた。
また、前記166市区町村のうち25年度から29年度までの間に公立保育所等の民営化の一環として加速化プラン採択事業を実施していた25市区町の69施設について、民営化前後の利用定員数の状況を確認したところ、10市区の15施設において、民営化前と比較して利用定員数が減少していたり、同数であったりしていて、利用定員数が拡大されていない事態が見受けられた。
前記166市区町村のうち25年度から29年度までの全ての年度に待機児童解消加速化計画を策定していた91市区町村について、待機児童解消加速化計画における利用定員数(全年齢区分の合計)の見込みと実績の状況を確認したところ、年度別にみると、実績が見込みを上回っていた又は同数であった市町村はおおむね4割から5割、実績が見込みを下回っていた市町村はおおむね5割から6割の市町村となっていて、各市町村が年度当初に予定していた加速化プラン採択事業等が必ずしも予定どおりに進捗していない状況が見受けられた。
また、上記91市区町村のうち25年度から29年度までのいずれかの年度において利用定員数の実績が見込みを下回っていた86市区町村について、加速化プラン採択事業等が予定どおりに進捗しなかった理由を年度ごとに確認したところ、延べ30市区が「保育士が確保できず、利用定員数が想定より少なくなっているため」と回答していた。
全国の保育士の登録人数は、30年度で1,530,872人となっていて、25年度の1,186,003人よりも344,869人増加しており、全国の保育所等で勤務する保育士の人数は、29年度は549,178人となっていて、25年度の437,325人から111,853人増加していた。
また、潜在保育士の人数を機械的に計算すると、29年度は910,680人となり、各年度の人数は、前年度の人数をおおむね40,000人前後上回っていた。そして、機械的に計算した潜在保育士の人数の中には、実際には認可外保育施設に勤務している保育士等が含まれている状況となっていた。
保育士・保育所支援センター(以下「支援センター」という。)及び人材確保対策コーナーは、保育士の就職支援という点において目的が共通していることから、会計実地検査を行った37実施主体において、支援センターと人材確保対策コーナーとの連携状況及び業務内容の違いについて確認したところ、大半の実施主体において、支援センターと人材確保対策コーナーが就職面接会等を連携して実施したり、支援センターが、その特長をいかして、保育に関する専門性を有する保育士経験者によるマッチング等の再就職支援を行うなどの就職支援等を実施したりしている一方で、支援センターと人材確保対策コーナーとで連携していないとする実施主体や、両者の業務内容に違いはないとする実施主体も複数見受けられた。また、「保育士登録を活用した人材バンク機能の強化」(以下「人材バンク機能強化事業」という。)の実施に当たり、支援センターは、各種行事等において支援センターが管理する名簿(以下「センター名簿」という。)への登録を促しているほか、都道府県等が、保育士登録の仕組みを活用するなどして、センター名簿への登録を促したり、現況を確認したりなどする書類(以下「現況確認等書類」という。)を保育士に送付している。そして、都道府県等が現況確認等書類を郵送等した保育士が、センター名簿に登録されているかなどについて、人材バンク機能強化事業を実施した12実施主体における28年度から30年度までの実施状況をみたところ、センター名簿に登録された保育士は、1実施主体、1年度当たり最少で0人、最多でも477人(現況確認等書類の郵送等数22,592通に対する割合2.1%)と少なく、センター名簿を保育士の就職促進に十分活用できる状況とはなっていなかった。
30年10月時点において、開設されている2,387施設の利用定員51,273人分に対する企業主導型保育施設を利用する児童の数は33,545人となっていて、この2,387施設について、企業主導型保育施設の同月時点の利用定員(既存分を除く。)に対する同月時点の企業主導型保育施設を利用する児童の数(既存分を除く。)の割合(以下「企業主導型定員充足率」という。)の平均は69.4%、このうち従業員枠のみの企業主導型保育施設419施設の平均は59.6%、地域枠の設定がある企業主導型保育施設1,968施設の平均は71.5%となっていた。
そして、待機児童の発生の有無等にかかわらず、いずれも従業員枠のみの企業主導型保育施設の方が企業主導型定員充足率が低くなっており、また、企業主導型定員充足率の分布等にほとんど差異は見受けられず、待機児童が多数発生している市町村の一部においても、企業主導型定員充足率が50%未満となっている企業主導型保育施設が相当数見受けられた。
全国の認可保育所等に係る利用定員数、申込児童数、利用児童数、待機児童数等の推移をみたところ、利用定員数から申込児童数を引いた数(以下「余裕定員数」という。)について27年度の3.4万人分から30年度の8.8万人分まで増加していた。そして、余裕定員数と企業主導型保育施設の空き定員を合わせると、30年4月時点で計10.8万人分の余裕定員等が発生していたことになる。
すなわち、全国の総数としてみると、保育施設等の整備が進捗したことなどにより申込児童数の増加に対応できるだけの利用定員数が確保されているものの、活用されていない利用定員数が余裕定員数となる一方で、一定数の待機児童等が発生している状況となっていると思料される。
30年4月1日時点の認可保育所等の利用定員数、申込児童数、利用児童数、待機児童数等の状況を年齢区分別にみると、0歳児については待機児童数が0.2万人、余裕定員数が7.8万人分、1・2歳児については待機児童数が1.4万人、利用定員の不足が7.2万人分、3歳以上児については待機児童数が0.2万人、余裕定員数が8.2万人分となっているなど、待機児童及び余裕定員の発生状況は年齢区分によって大きく異なっていた。
余裕定員が生じているのに待機児童が発生している市町村のうち、会計実地検査を行った38市区町村における30年4月1日時点の余裕定員数及び待機児童数の状況について、市町村が教育・保育を提供するための施設の整備の状況等を勘案して定める教育・保育提供区域(以下「提供区域」という。)別にみたところ、これらのうち、複数の提供区域を設定していて、かつ、区域別に利用定員数、申込児童数及び待機児童数の状況を把握していた市町村は19市区となっていて、これらの市町村において設定されていた計129の提供区域のうち45区域(34.8%)では、余裕定員が生じていなかった。そして、これらの45区域のうち32区域で計536人の待機児童が発生していた。
上記の129の提供区域における年齢区分別の余裕定員数の状況をみると、3歳以上児の年齢区分で余裕定員が生じている提供区域が90区域(129区域に対する割合69.7%)となっている一方で、1・2歳児の年齢区分で余裕定員が生じている提供区域は48区域(同37.2%)となっていて、3歳以上児の年齢区分の方がより多くの提供区域で余裕定員が生じていた。
さらに、提供区域別と年齢区分別とをそれぞれ組み合わせて一つの区分としてみても、387区分のうち108区分(27.9%)において、余裕定員が生じている一方で待機児童が発生している状況が見受けられた。
このように、待機児童及び余裕定員の発生状況が年齢区分によって大きく異なっていたり、一定数の市町村において余裕定員が生じているのに待機児童が発生したりしている状況となっているのは、保育施設等の整備が地域別・年齢区分別の待機児童の発生状況等を必ずしも十分に踏まえないで実施されていることなどによると思料される。そして、このような保育施設等整備施策の実施状況が、加速化プランにより新たに確保する保育の受け皿の目標値を達成したのに、いまだに待機児童が解消されていない要因の一つとなっていると思料される。
児童福祉法によれば、市町村は、放課後児童健全育成事業に係る条例の制定に当たっては、同事業に従事する者及びその員数以外の事項については「放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準」(平成26年厚生労働省令第63号)を参酌するものとされており、同基準によれば、放課後児童クラブには遊び及び生活の場としての機能並びに静養するための機能を備えた区画(以下「専用区画」という。)を設けることとされ、その面積は児童1人につきおおむね1.65m2以上でなければならないこととされている。前記166市区町村のうち放課後児童クラブがない1町を除く165市区町村の放課後児童クラブ8,439か所について、各放課後児童クラブの30年5月1日時点の専用区画の面積を、30年度の子ども・子育て支援交付金の事業実績報告書に記載されている児童の数で除して児童1人当たりの専用区画の面積を試算したところ、6,690か所では1.65m2以上となっていて児童1人当たりの専用区画の面積に関する基準(以下「面積基準」という。)を満たしていたが、1,749か所では1.65m2未満となっていて面積基準を満たしておらず、このうち、面積基準1.65m2の50%である0.82m2未満となっていたものが49か所見受けられた。このように、面積基準を下回ることになっても利用を希望する児童を受け入れることによって放課後児童クラブの利用の登録ができない児童の減少を図っている状況が見受けられた。
また、余裕教室を活用できる余地がないかなどを確認したところ、余裕教室の活用が必ずしも進んでいない状況等が見受けられた一方、放課後児童健全育成事業を実施する複数の部局を市町村の福祉部局又は教育委員会に一本化するなどして、余裕教室の活用促進に向けて取り組んでいる状況も見受けられた。
29年度の全国の支援拠点における1日当たりの平均利用親子組数(以下「1日当たり親子組数」という。)をみたところ、5組超10組以下が2,218か所と最も多く、次いで5組以下が1,822か所となっていて、これらを合わせた平均利用親子組数が1日当たり10組以下の支援拠点は4,040か所となっていた。
1日当たり親子組数が5組以下であった支援拠点1,822か所について、1日当たり親子組数の内訳をみたところ、1日当たり親子組数が1組超2組以下であった支援拠点が320か所、1組以下であった支援拠点が206か所となっているなど、利用が低調となっている状況が見受けられた。
生活困窮学習支援事業を実施している全国の実施主体の数及び生活困窮学習支援を受けている子ども(以下「支援参加者」という。)の数は、27年度301実施主体及び支援参加者16,817人、28年度417実施主体及び支援参加者22,329人、29年度506実施主体及び支援参加者31,112人と増加傾向となっているものの、29年度時点で実施主体となり得る全ての地方公共団体の数(902地方公共団体)に対する実施主体数の割合は56.0%にとどまっていた。また、30年度に生活困窮学習支援事業を実施していた338実施主体が、どのような子どもを生活困窮学習支援の対象としたかについて確認したところ、生活困窮世帯に属する子どもを対象とするとしているもののその具体的な要件を定めていないなどしている状況となっていたが、生活困窮世帯に属する子どもを支援の対象としている291実施主体において、上記の世帯に属する子どもを網羅的に把握できるとした実施主体は12実施主体と少なくなっており、生活困窮学習支援の対象となる子どもを網羅的に把握することは極めて困難な状況等となっていた。
検査した65事業主体における小中学校に配置等されているSSW計1,393人について、30年度における福祉部門等との情報共有の状況を事業主体を通じて確認したところ、月1回以上会議等で福祉部門等との情報共有を行っているとしたSSW257人のうち生活保護の受給につないだ実績があるとしたSSWは83人(32.2%)となっていて、定期的に会議等で情報共有を行っていないとしたSSW641人のうち生活保護の受給につないだ実績があるとしたSSWの99人(15.4%)と比べるとその割合は2倍以上高くなっているなど、福祉部門等との情報共有の頻度が高いと思料されるSSWほど、貧困家庭の子どもなどを生活保護、児童扶養手当及び生活困窮者自立支援法(平成25年法律第105号)に基づく各種支援につないだ実績の割合が高い傾向が見受けられた。
また、SSWが受けた貧困相談の件数のうち問題が解決した又は支援中であるが好転した件数(以下「解決等件数」という。)の状況をみると、加配されたSSWの方が1人当たり解決等件数が約1.6倍多くなっており、多くの貧困相談を解決等している状況が見受けられた。
母子家庭等就業・自立支援事業の効果の発現状況として、就業相談件数及び就業件数について検査したところ、就業支援事業に係る就業相談件数は、就業相談件数に計上する基準が実施主体ごとに区々となっていた。また、就業支援事業に係る就業件数は、各センター事業を実施する施設等(以下「母子センター」という。)が就業支援事業として就業相談を行った母子家庭の母等のうち就業した母子家庭の母等の延べ人数となっていた。30年度にセンター事業を行っていた68実施主体のうち、29年度に就業支援事業を行っていた57実施主体の同年度の就業件数は、11実施主体において100件以上となっていた一方で、15実施主体において5件未満となっているなどしていた。そして、「母子家庭等就業・自立支援事業の実施について」(平成20年雇児発第0722003号)によると、就業支援事業における就業相談の実施に当たっては、公共職業安定所等と連携を図ることとなっており、母子センターが就業相談を実施した母子家庭の母等を公共職業安定所等につないだ場合、それらの者の中には、その後の就業状況について確認されることを望まない者がいることなどから、就業相談を実施した母子家庭の母等について、就業相談後の就業状況を母子センターが把握することは困難であると思料される。
3府省は、我が国における少子化の進行並びに家庭及び地域を取り巻く環境の変化に鑑み、一人一人の子どもが健やかに成長することができる社会の実現に寄与することなどを目的として、各種の子ども・子育て支援施策を実施している。子ども・子育て支援施策は、待機児童解消施策及び子どもの貧困対策に係る施策を始めとして広範多岐にわたっており、その予算額は多額に上っている。
そして、待機児童解消施策については、3府省等の取組により、待機児童の解消に向けて一定の成果がみられるものの、保育需要の増大等を背景に現在も都市部を中心として多くの待機児童が発生しているなど依然として深刻な社会問題となっている。一方で、今後の少子化の進行状況次第では、将来的な保育需要の見通しは不透明となることなどから、今後の待機児童解消施策の実施に当たっては、これらの状況等を的確に把握して適切に対応していくことが求められている。
また、子どもの貧困対策に係る施策について、政府は、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)において「あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ」ことなどが目標として設定されていることなどから、「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」を踏まえつつ、貧困対策大綱に基づき総合的に推進することとしている。そして、貧困の状況にある子どもが顕在化していない場合があること、各施策の実効性等を短期間で評価・検証することは困難であり、子どもの成長を長期的に見守り、貧困の連鎖が生じていないかなどを確認する必要があることなどから、子どもの貧困対策に係る施策の実施に当たっては、中長期的な視点から各施策の効果等を評価・検証しつつ、着実に実施していくことが求められている。
さらに、令和元年の貧困対策法の改正により、同年9月以降、市町村においても貧困対策計画の策定が努力義務とされるなどの見直しが行われた。また、同年10月からは、消費税率の引上げによる増収分を活用し、一定の条件の下で認定こども園、幼稚園、保育所等の利用料が無償となる「幼児教育・保育の無償化」が実施され、幼児教育・保育に対する公費の負担は更に増加するなど、子ども・子育て支援施策を取り巻く環境は大きく変化している。
ついては、3府省において、このような状況及び今回の本院の検査結果を踏まえて、今後、次の点に留意することなどにより、子ども・子育て支援施策を適切かつ効果的に実施するよう努める必要がある。
3府省において、各府省間の連携等が必ずしも十分でなく、国庫補助事業の実施等に当たり、事務上多大な時間や労力を要するなどしているとの市町村からの意見等を参考とするなどしながら、認定こども園に係る財政支援等の3府省が連携して実施している施策がより円滑に行われ、市町村が一層効率的・効果的に事業を実施できるよう、3府省の連携・調整等の在り方について検討すること
SSW活用事業について、文部科学省において、学校をプラットフォームとした子どもの貧困対策等を効果的に推進していくために、SSW加配の内容や趣旨等をSSW活用事業に係る実施要領等に明記するなどした上で、SSWと福祉部門等との連携の推進やSSW加配の効果的な活用方法等について、事業主体に対して周知、助言等を行うこと
本院としては、我が国における待機児童への対応や子どもの貧困の解消等は極めて重要な課題であることに鑑み、今後とも、待機児童解消、子どもの貧困対策等の子ども・子育て支援施策の実施状況等について、引き続き検査していくこととする。