会計検査院は、3府省、都道府県、市町村等における子ども・子育て支援施策の予算の執行状況及び同施策の実施状況並びに同施策に係る主要施策による効果の発現状況について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、①保育施設等整備施策、保育士等確保施策、企業主導型保育事業、放課後児童健全育成事業、子どもの貧困対策に係る各施策等の子ども・子育て支援施策の予算の執行状況はどのようになっているか、同施策は適切かつ効率的に実施されているか、②保育施設等整備施策、保育士等確保施策、企業主導型保育事業等の待機児童解消施策は、各施策に係る需要や実績等を的確に把握した上で適時適切に実施され、待機児童解消等に十分な効果を上げているか、また、子どもの貧困対策に係る施策について、生活困窮世帯等の子どもに対する学習支援、母子家庭の母等に対する就労支援等が効果的に実施され、その効果の把握等が十分に行われているかなどに着眼して検査を実施した。
検査の結果の概要は、次のとおりである。
子ども・子育て支援施策の実施に要する主な交付金等である36交付金等が計上されている予算科目について、(目)別に整理して予算の執行状況についてみると、交付金等によって執行率に大きな差異がある状況となっている(2032_2_1リンク参照)。
a 保育所等整備交付金の予算の執行状況
(目)保育所等整備交付金の予算の執行状況をみると、執行率、繰越率及び不用率は、それぞれ28年度40.4%、54.6%、4.8%、29年度52.6%、44.8%、2.4%、30年度53.3%、43.4%、3.1%となっている(2032_2_1_1_1_1リンク参照)。
b 子どものための教育・保育給付費補助金の予算の執行状況
(目)子どものための教育・保育給付費補助金の予算の執行状況をみると、執行率及び不用率は、それぞれ28年度44.4%、55.5%、29年度53.4%、46.5%、30年度39.5%、60.4%となっている(2032_2_1_1_1_2リンク参照)。
a 保育対策事業費補助金の予算の執行状況
(目)保育対策事業費補助金の予算の執行状況をみると、執行率、繰越率及び不用率は、それぞれ28年度47.3%、6.9%、45.6%、29年度63.0%、18.8%、18.1%、30年度54.3%、15.7%、29.8%となっている。
そして、保育対策総合支援事業費補助金のうち、見込額と実績額をみたところ、保育士等確保施策に係る各事業の見込額28年度計927億余円、29年度計263億余円に対して、実績額が28年度計421億余円、29年度計141億余円、見込額に対応する翌年度への繰越額が28年度計73億余円、29年度計12億余円となっていて、実績額及び見込額に対応する翌年度への繰越額の合計が見込額を28年度計432億余円、29年度計108億余円下回っていた。このように、保育士等確保施策に係る各事業の実績額等が見込額を下回っていたことが(目)保育対策事業費補助金において28年度に515億余円、29年度に106億余円の不用額が生じた主な要因となっていた(2032_2_1_1_2_1リンク参照)。
b 子ども・子育て支援推進費補助金の予算の執行状況
(目)子ども・子育て支援推進費補助金の予算の執行状況をみると、執行率及び不用率は、それぞれ29年度12.6%、87.3%となっている(2032_2_1_1_2_2リンク参照)。
年金特別会計子ども・子育て支援勘定(項)地域子ども・子育て支援及仕事・子育て両立支援事業費(目)仕事・子育て両立支援事業費補助金は、一般事業主から徴収する拠出金を財源としており、その予算の執行状況をみると、執行率及び不用率は、それぞれ28年度99.5%、0.4%、29年度99.9%、0.0%、30年度99.9%、0.0%となっている。
そのうち、企業主導型保育事業費補助金に係る交付額をみると、28年度については交付決定額793億余円の全額が内閣府から児童育成協会に交付されたものの、児童育成協会による執行額が193億余円(執行額の同補助金交付額に対する割合24.4%)、29年度については交付決定額1309億余円の全額が同府から児童育成協会に交付されたものの、児童育成協会による執行額が807億余円(同61.6%)となっていた。その結果、同府による児童育成協会への同補助金交付額と執行額との間に、28年度分599億余円、29年度分501億余円と多額の差額が生じ、それぞれ翌年度にその差額の全額が国庫に返納され、歳入として収納されていた。
また、この(目)を含む年金特別会計子ども・子育て支援勘定における積立金への積立て及び歳入への繰入れの状況をみたところ、28年度229億余円、29年度180億余円、30年度865億余円が同勘定の積立金として積み立てられていた。一方、同勘定の歳入に繰り入れられていたのは28年度3億余円、29年度3億余円、30年度137億余円となっており、30年度末の積立金残高は1315億余円となっている。そして、令和元年度末については、前記のとおり企業主導型保育事業費補助金の平成29年度分の同勘定への返納金が501億余円に上っており、968億余円が同勘定の積立金として積み立てられて積立金残高が更に増加することが見込まれる状況となっている(2032_2_1_1_3リンク参照)。
a 子ども・子育て支援整備交付金の予算の執行状況
(目)子ども・子育て支援整備交付金の予算の執行状況をみると、執行率、繰越率及び不用率は、それぞれ28年度53.0%、8.0%、38.9%、29年度57.4%、2.8%、39.7%、30年度66.7%、3.9%、29.3%となっている(2032_2_1_1_4_1リンク参照)。
b 子ども・子育て支援対策推進事業費補助金の予算の執行状況
(目)子ども・子育て支援対策推進事業費補助金の予算の執行状況をみると、執行率及び不用率は、それぞれ28年度54.5%、45.4%、29年度50.0%、49.9%、30年度81.7%、18.2%となっている(2032_2_1_1_4_2リンク参照)。
a 地域子供の未来応援交付金の予算の執行状況
(目)地域子供の未来応援交付金の予算の執行状況をみると、執行率、繰越率及び不用率は、それぞれ28年度5.9%、29.4%、64.6%、29年度15.7%、38.0%、46.2%、30年度24.3%、25.0%、50.6%となっている(2032_2_1_1_5_1リンク参照)。
b 雇用安定等給付金の予算の執行状況
(目)雇用安定等給付金の予算の執行状況をみると、執行率及び不用率は、それぞれ28年度94.7%、5.2%、29年度88.1%、11.8%、30年度92.0%、7.9%となっている。
このうち、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)及びトライアル雇用助成金(一般トライアルコース)についてみると、28年度の両助成金の見込額は、それぞれ729億余円、40億余円となっていて、このうち母子家庭の母等に係る分の見込額はそれぞれ138億余円、1億5225万円、実績額はそれぞれ89億余円、2346万余円となっていて、見込額と実績額との差額はそれぞれ48億余円、1億2878万余円となっている。また、29年度の両助成金の見込額は、それぞれ662億余円、37億余円となっていて、このうち母子家庭の母等に係る分の見込額はそれぞれ129億余円、5400万円、実績額はそれぞれ74億余円、2186万余円となっていて、見込額と実績額との差額はそれぞれ55億余円、3213万余円となっている(2032_2_1_1_5_2リンク参照)。
a 保育施設等整備施策に係る計画の策定状況
加速化プランの目標値の設定方法を確認したところ、厚生労働省は、上積み後の目標である50万人分については、29年度末までの加速化プランによる保育の受け皿の拡大量の見込みが45.6万人分となったこと及び28年度から実施する企業主導型保育事業により29年度末までに5万人分程度の保育の受け皿の整備を行うこととなったことを踏まえて算定していた(2032_2_1_2_1_1_1リンク参照)。
また、子育て安心プランの目標値の設定方法を確認したところ、厚生労働省は、25歳から44歳までの女性就業率が34年度(令和4年度)に80%まで上昇すること及びその女性就業率と相関して保育所等利用申込率も毎年一定割合が上昇することを想定するなどして算出した申込児童数295万人から、30年度の利用児童数の見込み263万人を差し引いて算定していた(2032_2_1_2_1_1_2リンク参照)。
b 保育施設等整備施策に係る事業の実施状況
保育所等整備交付金による保育施設等整備施策に係る主な事業について、会計実地検査を行った166市区町村における実施状況をみたところ、27年度は42市区の116施設(交付金相当額計85億8380万余円)、28年度は83市区町の250施設(同計228億2919万余円)、29年度は106市区町村の433施設(同計448億7800万余円)を対象として実施されていた(2032_2_1_2_1_2_1リンク参照)。
保育対策総合支援事業費補助金による保育施設等整備施策に係る事業について、上記の166市区町村における実施状況をみたところ、27年度は35市区の146施設(国庫補助金相当額計14億9951万余円)、28年度は67市区町の383施設(同計65億1116万余円)、29年度は69市区村の575施設(同計101億2048万余円)を対象として実施されていた(2032_2_1_2_1_2_2リンク参照)。
子どものための教育・保育給付費補助金による保育施設等整備施策に係る事業について、前記の166市区町村における実施状況をみたところ、27年度は31市区町の343施設(国庫補助金相当額計29億9182万余円)、28年度は31市区の316施設(同計27億2631万余円)、29年度は25市区の235施設(同計22億0747万余円)を対象として実施されていた(2032_2_1_2_1_2_3リンク参照)。
a 保育士確保プラン等の策定状況
厚生労働省は、保育士確保プランにより46.3万人の保育士を29年度末までに国全体として確保することを目標とするなどしていた。そして、確保することを目標とした保育士等の人数は、利用児童数や加配されている保育士の人数等により大きく変化するものの、それらに関する将来の予測を的確に行うことは困難であることなどから、特定の年度における配置基準や保育士確保の実績値を基にして機械的に計算したり、一定の割合を乗じたりするなどして推計したものとなっていた(2032_2_1_2_2_1リンク参照)。
b 保育士等確保施策に係る事業の実施状況
保育対策総合支援事業費補助金による保育士等確保施策に係る事業について、会計実地検査を行った25都道府県及び166市区町村における実施状況をみると、事業実施率が20%未満となっているものが多く、事業の需要が低調となっている状況が見受けられた。一方、事業実施率は徐々に上昇傾向となっていて、保育士等確保施策に係る事業を実施する実施主体が増加している状況が見受けられた(2032_2_1_2_2_2_1リンク参照)。
保育士・保育所支援センター設置運営事業は、都道府県、政令指定都市及び中核市が実施主体となって、支援センターを設置し、潜在保育士の再就職支援等を行っていて、30年度における支援センターの紹介による就職件数は計4,495件となっていた。一方、一部の支援センターにおいては、保育所等に就職した者を職種別に管理していないなどのため、支援センターの紹介による就職件数に、保育士以外の看護師、調理員等が含まれているか確認できないなどしていて、潜在保育士が就職した件数を正確に把握できない状況となっていた(2032_2_1_2_2_2_1_2リンク参照)。
また、処遇改善等加算による職員の賃金改善の実施状況について、前記166市区町村の6,089施設のうち、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)及び処遇改善等加算 II の賃金改善実績報告書上の加算額の全部又は一部が、職員の賃金改善に充てられずに残額が生じていたり、職員の賃金改善に充てられていたか市町村において確認できていなかったりしていたものが、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)については28年度で計562施設(処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)の支給を受けている5,334施設に対する割合10.5%)の合計4億3699万円、29年度で計761施設(処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)の支給を受けている5,854施設に対する割合12.9%)の合計9億6186万余円、処遇改善等加算 II については29年度で計1,730施設(処遇改善等加算 II の支給を受けている4,804施設に対する割合36.0%)の合計4億5146万余円となっていて、翌年度において職員の賃金改善に充てるなどする必要がある状況となっていた(2032_2_1_2_2_2_2リンク参照)。
処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)に残額が生ずるなどしていたもののうち、28年度で計133施設(残額が生ずるなどしていた562施設に対する割合23.6%)の合計1億5472万余円(国庫負担金相当額合計7736万余円)、29年度で計275施設(残額が生ずるなどしていた761施設に対する割合36.1%)の合計4億4675万余円(国庫負担金相当額合計2億2337万余円)、処遇改善等加算 II に残額が生ずるなどしていたもののうち29年度で計303施設(残額が生ずるなどしていた1,730施設に対する割合 17.5%)の合計1億1803万余円(国庫負担金相当額合計5901万余円)が、翌年度においても職員の賃金改善に充てられていなかったなどの状況となっていた(2032_2_1_2_2_2_2_2_2リンク参照)。
処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)の算定状況について、28年度296施設、29年度299施設を検査したところ、賃金改善総額が適切に算定されておらず、調書等により試算した賃金改善総額が、賃金改善実績報告書に記載されていた賃金改善総額を下回り、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)に係る加算額未満となっていた。そして、残額が生じたり増加したりしたものが28年度で61施設(抽出して検査した296施設に対する割合20.6%)の計8428万余円(国庫負担金相当額計4214万余円)、29年度で62施設(抽出して検査した299施設に対する割合20.7%)の計1億1248万余円(国庫負担金相当額計5624万余円)となっていた(2032_2_1_2_2_2_2_3リンク参照)。
政府は、加速化プランを25年4月に策定し、その後、27年11月に、29年度末までに確保する保育の受け皿の目標を40万人分から50万人分へ上積みしている。この上積みした10万人分の保育の受け皿のうち約5万人分については、企業主導型保育事業により確保し、更に32年度(令和2年度)末までに同事業により計約11万人分の保育の受け皿を確保することとしている(2032_2_1_2_3_1リンク参照)。
そして、内閣府は、企業主導型保育事業の実施によって、28年度は871施設20,284人分、29年度までで2,597施設59,703人分、30年度までで3,817施設86,354人分の助成決定を行っていた(2032_2_1_2_3_2リンク参照)。
また、企業主導型保育事業については、昨今、一部の企業主導型保育施設において、整備費助成金の不適正な受給等が相次いで発覚しており、また、開設後短期間で廃止又は休止となったり、企業主導型利用児童数が利用定員を大幅に下回ったりするなどの事態が発生している(2032_2_1_2_3_2_3リンク参照)。
児童育成協会が令和元年8月までに行った整備費の助成決定の取消しの状況を確認したところ、9事業実施者の13施設について助成決定の取消しを行っており、この13施設に係る整備費の助成決定時点の利用定員は計659人となっていた。
上記整備費の助成決定が取り消された9事業実施者(13施設)のほか、平成29年度に整備費又は運営費の助成決定を受けたものの30年度中に企業主導型保育施設の整備又は運営を取りやめていたのは112事業実施者等の117施設となっており、この117施設に係る整備費の助成決定時点の利用定員は計3,019人となっていた(2032_2_1_2_3_2_4リンク参照)。
a 放課後児童クラブ及び放課後子供教室に係る事業の実施状況
放課後児童クラブの数は30年5月1日時点において25,328か所になっており、放課後子供教室の数は30年度において18,749か所になっていた(2032_2_1_2_4_1_2_1リンク参照)。
放課後プランは、放課後児童クラブについて、30年度末までに約30万人分を新たに整備し、合計で約122万人分を確保することを目標としていた。そして、登録児童数についてみると、30年5月1日時点で約123万4千人となっており、約122万人分を超える児童が放課後児童クラブを利用している状況となっていた(2032_2_1_2_4_1_2_2リンク参照)。
また、放課後プランによれば、放課後児童クラブ及び放課後子供教室について、30年度末までに全小学校区で一体型又は連携型を実施し、うち1万箇所以上について一体型で実施を目指すこととされていた。30年5月1日時点における一体型又は連携型により実施している小学校区及び一体型で実施している箇所数をみたところ、全ての小学校区において一体型又は連携型を実施している状況とはなっておらず、また、一体型による実施についても、4,913か所となっていた(2032_2_1_2_4_1_2_2_2リンク参照)。
そして、放課後プランによれば、30年度末までに新たに開設する放課後児童クラブの約80%を小学校内で実施することを目指すこととされており、27年度から30年度までの小学校内実施率をみると、いずれの年度も80%を下回っており、27年度は68.3%、30年度は59.6%となっていた(2032_2_1_2_4_1_2_2_3リンク参照)。
b 地域子育て支援拠点事業に係る事業の実施状況
地域子育て支援拠点事業については、一般型と拠点連携型に分類されており、30年度の支援拠点数は7,431か所となっている。また、同年度の一般型及び拠点連携型の支援拠点の開設日数別の状況をみると、一般型では1週間当たりの開設日数が5日の支援拠点が4,167か所と最も多くなっている一方、拠点連携型では同日数が6日の支援拠点が357か所と最も多くなっていた(2032_2_1_2_4_2リンク参照)。
a 貧困対策計画の策定状況
47都道府県における貧困対策計画の策定状況をみたところ、29年3月までに全都道府県が貧困対策計画を策定していた。
策定された貧困対策計画の内容をみると、検査した25都道府県のうち23都道府県は、貧困対策計画に記載された施策と貧困対策大綱の重点施策の関連性等について明示していた。
都道府県が貧困対策計画の策定に当たって、貧困対策計画に記載する子どもの貧困対策に係る施策等の内容、指標の設定等について市町村等と連携・調整を行ったとしているのは16道府県であり、その連携・調整先は市町村のほか、都道府県労働局、NPO等多岐にわたっていて、市町村と連携・調整を行ったとしているのは14道府県となっていた(2032_2_1_2_5_1リンク参照)。
令和元年5月時点で市町村については貧困対策計画の策定が努力義務とされていなかったが、政令指定都市は20市全てが貧困対策計画を策定している。
検査した25都道府県内の1,066市区町村における元年5月時点の貧困対策計画の策定状況をみると、策定済みであるとしているのは、政令指定都市では14市の全て、中核市では34市のうち7市(20.5%)、特別区では23区のうち9区(39.1%)、一般市では442市のうち55市(12.4%)、町村では553町村のうち12町村(2 .1%)、計97市区町村となっていて、1,066市区町村の9.0%にとどまっている状況となっていた。貧困対策計画を策定していない市町村にその理由等を確認したところ、「人的・財政的な問題があるため」としているものが199市町村、「県が一元的に貧困対策を推進しているため」としているものが184市町村などとなっていた(2032_2_1_2_5_1_2リンク参照)。
検査した25都道府県における子どもの貧困対策に係る施策の評価体制をみると、21都道府県(25都道府県に対する割合84.0%)で何らかの評価を行っていた。また、貧困対策計画を策定している97市区町村における子どもの貧困対策に係る施策の評価体制をみると、52市区町(97市区町村に対する割合53.6%)で評価を行っていた(2032_2_1_2_5_1_4リンク参照)。
貧困対策計画を策定している25都道府県及び97市区町村に対して、貧困対策計画の策定によりどのような効果を認識しているかを確認したところ、都道府県が認識している効果としては、「庁内関係部局の子どもの貧困対策に対する認識が高まった」としているものが24都道府県で最も多く、次いで「庁内連携組織が設置され子どもの貧困対策に関する情報が共有できた」としているものが18都道府県、「住民の子どもの貧困対策に対する認識が高まるなどした」としているものが18道府県などとなっていた。また、市町村が認識している効果も、都道府県の場合とほぼ同様の傾向となっていた(2032_2_1_2_5_1_5リンク参照)。
b 指標の設定状況とその把握
検査した25都道府県のうち、大綱指標を基にした指標を設定している22道府県が指標設定に際して参考としている都道府県が多い大綱指標は「①生活保護世帯に属する子供の高等学校等進学率」が最も多く18道府県、次いで「③生活保護世帯に属する子供の大学等進学率」が16道府県などとなっていた。一方、参考としている都道府県が少ない大綱指標は「㉔子供の貧困率」及び「㉕子供がいる現役世帯のうち大人が一人の貧困率」で、それぞれ2県などとなっていた。
また、貧困対策計画を策定している97市区町村についても、指標として設定しなかったとしている主なものを確認したところ、都道府県と同様の傾向となっていた(2032_2_1_2_5_2リンク参照)。
22道府県について、設定した指標の現状値の把握状況を確認したところ、多くの都道府県が設定している生活保護世帯に係る指標については、毎年度現状値を把握して、当初値と比較するなどして、子どもの貧困対策に係る施策の実施状況等を検証・評価していた。一方、厚生労働省が実施する「全国ひとり親世帯等調査」等のように数年に1回実施される調査結果に基づき現状値を把握することとしている指標については、毎年度現状値を把握して当初値と比較することは困難な状況となっていた。
そして、22道府県が設定した指標の現状値を把握して子どもの貧困対策に係る施策の実施状況等を検証・評価したことにより得られた効果を確認したところ、「施策の進行管理が可能となった」としているものが21道県、「住民に対する説明責任を果たすことができた」としているものが18道県などとなっていた。
また、97市区町村のうち、指標を設定してその現状値を把握していることを確認できた市町村は38市区町村(39.1%)にとどまっていた。そして、これらの38市区町村が子どもの貧困対策に係る施策の実施状況等を検証・評価したことにより得られた効果についても、都道府県の場合とほぼ同様の傾向となっていた(2032_2_1_2_5_2_1リンク参照)。
都道府県の多くは指標を設定して管内の直近の現状値を把握しているが、一般市及び町村の多くは貧困対策計画をまだ策定しておらず、貧困対策計画を策定している市町村においても指標を設定して現状値を把握している市町村は少ない状況となっており、多数の市町村において子どもの貧困対策に係る施策の実施状況等の検証・評価が十分に行えない状況にあると思料される(2032_2_1_2_5_2_2リンク参照)。
c 子どもの貧困対策に係る事業の実施状況
子どもの貧困対策に係る学習支援について、生活困窮学習支援事業の実施状況をみたところ、22都道府県、315市区及び1町の計338実施主体が、平成30年度に生活困窮学習支援事業を実施しており、これら338実施主体によって、315市区及び248町村計563市区町村に生活困窮学習支援が提供されていた(2032_2_1_2_5_3_1リンク参照)。
また、文部科学省は、各地方公共団体において学校等へのSSWの配置を推進するために、SSW活用事業を実施しており、事業主体である都道府県、政令指定都市等に対して、SSWを配置するための人件費等の費用を補助対象経費として、教育支援体制整備事業費補助金を29年度12億余円、30年度14億余円交付している。貧困対策大綱において、SSWの配置は、子どもの貧困対策における重点施策の一つとして位置付けられており、地方公共団体は、SSWの配置の推進について重点的に取り組むこととなっている(2032_2_1_2_5_3_2リンク参照)。
SSWへの相談件数は、21年度以降一貫して増加傾向にあり、その相談内容をみると、特に「家庭環境」に関する相談が増加傾向となっていて、その件数は20年度3,901件であったものが、27年度16,716件、28年度21,623件、29年度28,711件、30年度33,972件となっていた。また、貧困相談は、28年度以降、その重要性に鑑みて「家庭環境」と区分して個別に集計されており、その件数は28年度4,087件、29年度4,691件、30年度5,461件となっていた(2032_2_1_2_5_3_2_3リンク参照)。
SSWは、子どもの貧困対策において、福祉部門と教育委員会・学校等との連携を図るなどのために重要であり、多くの地方公共団体において子どもの貧困対策に活用されている状況である。文部科学省は、27年度以降、貧困により困難を抱えた子どもの家庭環境等に対する支援等を充実させることができるよう、SSW加配を実施しようとする地方公共団体に対して一定額の補助金を上乗せして交付するなどの措置を講じている。そして、SSW加配の目標人数は、27年度600人、28年度から30年度までは各年度とも1,000人となっている。事業報告書等を確認したところ、SSW加配を行っているのは、30年度にSSW活用事業を実施している107事業主体のうち16事業主体のみとなっており、SSW加配の実績は、27年度計75人、28年度計75人、29年度計120人、30年度計148人となっていて、目標を大きく下回っていた(2032_2_1_2_5_3_2_4リンク参照)。
検査を行った23都道府県及び42市の計65事業主体のうちSSW加配を活用していない53事業主体に、その理由を確認したところ、16事業主体がSSW加配のメリットが分からない、制度をよく知らないと回答するなど、SSW加配の内容・趣旨等を十分に認識していないと思料される状況が見受けられた。そこで、文部科学省における制度の周知等の状況を確認したところ、文部科学省は、SSW加配の内容や趣旨をSSW実施要領等に記載していないなど、制度が十分に周知されているとはいえない状況となっていた(2032_2_1_2_5_3_2_5リンク参照)。
また、30年度にセンター事業を実施していた68実施主体のうち29年度に就業支援事業を行っていた57実施主体における同年度の就業相談件数を厚生労働省の資料により確認したところ、就業相談件数は、14実施主体において1,000件以上となっていた一方で、12実施主体において100件未満となっているなどしていた(2032_2_1_2_5_3_3リンク参照)。
母子家庭の母等を試行雇用した事業主に対して28年度から30年度までの間に支給されたトライアル雇用助成金(一般トライアルコース)の支給状況をみたところ、支給件数及び支給額は、28年度178件、計2346万余円、29年度160件、計2186万余円、30年度145件、計1915万円となっていた。厚生労働省は、景気回復に伴い雇用情勢が改善され一定期間の試行雇用を経ずに長期の雇用を希望する母子家庭の母等が多くなり、同助成金を事業主が利用しなかったことなどから、事業主による同助成金の活用が低調となっているとしている。また、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)も同様に減少傾向となっていた(2032_2_1_2_5_3_3_2リンク参照)。
d 子どもの貧困対策における支援対象者把握のための取組
168市区町村における給付関連情報を用いた福祉部局内の連携等の状況をみると、支援対象者に対して学習支援等の各種施策に関係する情報を周知するために、給付関連情報を保有している担当部署に対して協力を依頼するなど、担当部署間で相互に連携等を図っている市町村が複数見受けられた。
また、多数の市町村において、母子保健等の事業等を担当する部署と経済的支援等の各種支援を担当する部署等が、母子保健等の事業等により得られた情報を共有するなどして相互に連携を図りながら、必要な支援につないでいる状況が見受けられた(2032_2_1_2_5_4リンク参照)。
前記の166市区町村に対してアンケート調査を実施したところ、3府省が現在の体制で子ども・子育て支援施策を実施していることによる国庫補助事業等の実施上のメリットを感じると回答した市町村が17市区町村(166市区町村に対する割合10.2%)、デメリットを感じると回答した市町村が101市区町(同60.8%)となっていた。そして、アンケート調査結果等を踏まえて検査したところ、子ども・子育て支援施策に係るほぼ同趣旨の連絡文書が、二つの府省から市町村等へ別々に送付されている状況や、幼保連携型認定こども園の保育を実施する部分と教育を実施する部分について、施設整備に係る補助事業の実施上の手続や補助対象となる経費に差異があるなどしているため、市町村がそれぞれの補助対象経費の算定等に労力を要している状況等が見受けられた。
このように、市町村からは3府省の連携・調整の問題点等に起因するデメリットに関する意見が多く出されたことなどから、必ずしも3府省の連携・調整等が十分に行われ、各施策を実施する上での効率化等が十分に図られている状況にはなっていないと認められた(2032_2_1_3リンク参照)。
a 加速化プランによる保育の受け皿の拡大量等
28年4月から30年4月までの間に実際に開設している企業主導型保育施設の利用定員をみると、厚生労働省が公表資料において28、29両年度に企業主導型保育事業により確保したとしていた保育の受け皿59,703人分には、30年4月時点で未開設分約17,000人分、既存分約1,000人分が含まれるなどしていて、結果として、確保されていた実際の利用定員よりも約18,000人分過大となっていた。そして、令和元年8月時点において整備費の助成決定が取り消されたり、平成30年度中に企業主導型保育施設の整備又は運営を取りやめたりしていた事業実施者等が存在しているが、これらの事業実施者等のうち、87事業実施者等の90施設に係る利用定員計2,817人分も、上記の過大となっていた約18,000人分に含まれていた(2032_2_2_1_1_2リンク参照)。
b 加速化プラン採択事業により整備された施設の利用状況等
前記の166市区町村において加速化プラン採択事業により整備された施設のうち、空き定員が生じている年齢区分があった施設について、定員充足率をみたところ、おおむね高い状況となっていたが、中には、50%未満となっている施設が30年4月1日時点で135施設(3,231施設に対する割合4.1%)、同年10月1日時点で35施設(2,669施設に対する割合1.3%)見受けられた。空き定員が生じている年齢区分があった施設について、空き定員が生じた主な理由を市町村に確認したところ、やむを得ないと考えられる理由や、特定の原因に分類し難い理由等を除くと、「保育士が不足しているため」とするものが最も多く、この保育士不足のため所定の利用定員数まで児童を受け入れられなかったことにより生じた空き定員は、4月1日時点では144施設に係る計1,219人分、10月1日時点では222施設に係る計1,502人分となっていた(2032_2_2_1_1_3_1リンク参照)。
加速化プラン採択事業の採択等に当たり、必ずしも保育需要の増大を直接示すものではない利用定員数の見込みにより保育需要の増大を判断していたり、複数の提供区域が設定されているのに提供区域別の待機児童の発生状況を考慮していなかったりしていた状況が見受けられた(2032_2_2_1_1_3_2リンク参照)。
また、前記166市区町村のうち25年度から29年度までの間に公立保育所等の民営化の一環として加速化プラン採択事業を実施していた25市区町の69施設について、民営化前後の利用定員数の状況を確認したところ、10市区の15施設において、民営化前と比較して利用定員数が減少していたり、同数であったりしていて、利用定員数が拡大されていない事態が見受けられた(2032_2_2_1_1_3_3リンク参照)。
c 加速化プラン採択事業等が予定どおりに進捗しなかった理由等
前記166市区町村のうち25年度から29年度までの全ての年度に待機児童解消加速化計画を策定していた91市区町村について、待機児童解消加速化計画における利用定員数(全年齢区分の合計)の見込みと実績の状況を確認したところ、年度別にみると、実績が見込みを上回っていた又は同数であった市町村はおおむね4割から5割、実績が見込みを下回っていた市町村はおおむね5割から6割の市町村となっていて、各市町村が年度当初に予定していた加速化プラン採択事業等が必ずしも予定どおりに進捗していない状況が見受けられた(2032_2_2_1_1_4_1リンク参照)。
また、上記91市区町村のうち25年度から29年度までのいずれかの年度において利用定員数の実績が見込みを下回っていた86市区町村について、加速化プラン採択事業等が予定どおりに進捗しなかった理由を年度ごとに確認したところ、延べ30市区が「保育士が確保できず、利用定員数が想定より少なくなっているため」と回答していた(2032_2_2_1_1_4_2リンク参照)。
a 保育士等確保の状況
全国の保育士の登録人数は、30年度で1,530,872人となっていて、25年度の1,186,003人よりも344,869人増加していた(2032_2_2_1_2_1リンク参照)。
全国の指定保育士養成施設の施設数、入学定員数及び入学者数は、 29年度の指定保育士養成施設の施設数は669施設、入学定員数は60,039人となっていて、25年度から29年度まで一貫して増加していた。一方、29年度の入学者数は46,413人となっていて、25年度から29年度まで一貫して減少していた。なお、30年度は、29年度と比較して、施設数は微増しているものの、入学定員数は微減となっており、また、入学者数は微増となっていた。そして、入学者数が入学定員数よりも少なかった都道府県は、25年度で30都道府県、30年度で40都道府県となっていて、入学者数が入学定員数よりも少ないのは全国的な傾向となっていた(2032_2_2_1_2_2リンク参照)。
そして、25年度から30年度までにおける全国の指定保育士養成施設を卒業した保育士資格取得者数のうち、保育所等に就職した人数は半数程度であり、保育所等、児童福祉施設等及び幼稚園以外に就職しているなどの人数の割合は16%前後となっていた(2032_2_2_1_2_1_4リンク参照)。
全国の保育所等で勤務する保育士の人数は、29年度は549,178人となっていて、25年度の437,325人から111,853人増加していた(2032_2_2_1_2_1_6リンク参照)。
また、潜在保育士の人数を機械的に計算すると、29年度は910,680人となり、各年度の人数は、前年度の人数をおおむね40,000人前後上回っていた。そして、機械的に計算した潜在保育士の人数の中には、実際には認可外保育施設に勤務している保育士等が含まれている状況となっていた(2032_2_2_1_2_1_7リンク参照)。
b 潜在保育士の活用状況
支援センター及び人材確保対策コーナーは、保育士の就職支援という点において目的が共通していることから、会計実地検査を行った37実施主体において、支援センターと人材確保対策コーナーとの連携状況及び業務内容の違いについて確認したところ、大半の実施主体において、支援センターと人材確保対策コーナーが就職面接会等を連携して実施したり、支援センターが、その特長をいかして、保育に関する専門性を有する保育士経験者によるマッチング等の再就職支援を行うなどの就職支援等を実施したりしている一方で、支援センターと人材確保対策コーナーとで連携していないとする実施主体や、両者の業務内容に違いはないとする実施主体も複数見受けられた(2032_2_2_1_2_2リンク参照)。
また、都道府県等が現況確認等書類を郵送等した保育士が、センター名簿に登録されているかなどについて、人材バンク機能強化事業を実施した12実施主体における28年度から30年度までの実施状況をみたところ、センター名簿に登録された保育士は、1実施主体、1年度当たり最少で0人、最多でも477人(現況確認等書類の郵送等数22,592通に対する割合2.1%)と少なく、人材バンク機能強化事業によりセンター名簿を保育士の就職促進に十分活用できる状況とはなっていなかった(2032_2_2_1_2_2_2リンク参照)。
a 企業主導型保育施設の利用状況等
30年10月時点において、開設されている2,387施設の利用定員51,273人分に対する企業主導型利用児童数は33,545人となっていて、この2,387施設の企業主導型定員充足率の平均は69.4%、このうち従業員枠のみの企業主導型保育施設419施設の平均は59.6%、地域枠の設定がある企業主導型保育施設1,968施設の平均は71.5%となっていた(2032_2_2_1_3_1リンク参照)。
b 待機児童の発生状況と企業主導型保育施設の利用状況の関連性
厚生労働省の待機児童数調査において、29年4月、同年10月、30年4月及び同年10月のいずれの時点においても待機児童が発生しているとされている38都道府県の351市区町村における企業主導型保育施設の設置状況をみると、30年10月時点で38都道府県の246市区町村に1,454施設(利用定員31,955人分)が設置されていて、この 1,454施設の企業主導型定員充足率の平均は70.4%、このうち従業員枠のみの企業主導型保育施設242施設の平均は60.1%、地域枠の設定がある企業主導型保育施設1,212施設の平均は72.5%となっていた(2032_2_2_1_3_2リンク参照)。
一方、厚生労働省の待機児童数調査において、29年4月、同年10月、30年4月及び同年10月のいずれの時点においても待機児童が発生していないとされている46都道府県の971市区町村における企業主導型保育施設の設置状況をみると、30年10月時点で39都道府県の135市区町村に253施設(利用定員4,938人分)が設置されていて、この 253施設の企業主導型定員充足率の平均は68.9%、このうち従業員枠のみの企業主導型保育施設42施設の平均は63.3%、地域枠の設定がある企業主導型保育施設211施設の平均は70.0%となっていた(2032_2_2_1_3_2_1_1リンク参照)。
そして、前記166市区町村のうち、厚生労働省の待機児童数調査において、29年4月、同年10月、30年4月及び同年10月のいずれの時点においても待機児童が50人以上発生しているとされていて、かつ、企業主導型保育施設が20施設以上設置されている大阪、仙台、神戸各市及び世田谷区における企業主導型保育施設計237施設の企業主導型定員充足率をみたところ、前記の30年10月までに開設している全ての企業主導型保育施設における企業主導型定員充足率の平均69.4%と比べて、神戸市以外の3市区についてはほとんど差異は見受けられなかった。そして、同年10月時点における企業主導型定員充足率が50%未満となっている企業主導型保育施設が大阪市で22施設、仙台市で12施設、神戸市で4施設、世田谷区で7施設、計45施設見受けられた(2032_2_2_1_3_2_2リンク参照)。
このように、待機児童の発生の有無等にかかわらず、いずれも従業員枠のみの企業主導型保育施設の方が企業主導型定員充足率が低くなっており、また、企業主導型定員充足率の分布等にほとんど差異は見受けられず、待機児童が多数発生している上記の4市区においても、企業主導型定員充足率が50%未満となっている企業主導型保育施設が相当数見受けられた(2032_2_2_1_3_2_2_1リンク参照)。
a 保育施設等整備施策に係る待機児童解消のための目標値による評価の有効性
前記の166市区町村が待機児童解消加速化計画等における利用定員数の見込みとしてどのような数値を記載したのかアンケート調査を実施したところ、加速化プランの目標値の算定根拠の一つとなっている待機児童解消加速化計画等に記載されていた利用定員数の見込みについては、申込児童数の見込みに対して必要な利用定員数を記載していた市町村は約2割にとどまっていた。そのため、加速化プランの目標値は、必ずしも待機児童を解消するために必要となる申込児童数の見込みに応じた数値を積み上げたものとはなっておらず、この目標値が達成されたとしても、待機児童が解消されるとは限らないものとなっていたと思料される(2032_2_2_1_4_1リンク参照)。
b 待機児童の発生状況等
全国の認可保育所等に係る利用定員数、申込児童数、利用児童数、待機児童数等の推移をみたところ、余裕定員数について27年度の3.4万人分から30年度の8.8万人分まで増加していた。そして、上記の余裕定員数と企業主導型保育施設の空き定員を合わせると、30年4月時点で計10.8万人分の余裕定員等が発生していたことになる。
すなわち、全国の総数としてみると、保育施設等の整備が進捗したことなどにより申込児童数の増加に対応できるだけの利用定員数が確保されているものの、活用されていない利用定員数が余裕定員数となる一方で、一定数の待機児童、潜在的待機児童等が発生している状況となっていると思料される(2032_2_2_1_4_3リンク参照)。
30年4月1日時点の認可保育所等の利用定員数、申込児童数、利用児童数、待機児童数等の状況を年齢区分別にみると、 0歳児については待機児童数が0.2万人、余裕定員数が7.8万人分、1・2歳児については待機児童数が1.4万人、利用定員の不足が7.2万人分、3歳以上児については待機児童数が0.2万人、余裕定員数が8.2万人分となっているなど、待機児童及び余裕定員の発生状況は年齢区分によって大きく異なっていた(2032_2_2_1_4_3_2リンク参照)。
余裕定員が生じているのに待機児童が発生している市町村のうち、会計実地検査を行った38市区町村における30年4月1日時点の余裕定員数及び待機児童数の状況を提供区域別にみたところ、これらのうち、複数の提供区域を設定していて、かつ、区域別に利用定員数、申込児童数及び待機児童数の状況を把握していた市町村は19市区となっていて、これらの市町村において設定されていた計129の提供区域のうち45区域(34.8%)では、余裕定員が生じていなかった。そして、これらの45区域のうち32区域で計536人の待機児童が発生していた。
上記の129の提供区域における年齢区分別の余裕定員数の状況をみると、3歳以上児の年齢区分で余裕定員が生じている提供区域が90区域(129区域に対する割合69.7%)となっている一方で、1・2歳児の年齢区分で余裕定員が生じている提供区域は48区域(同37.2%)となっていて、3歳以上児の年齢区分の方がより多くの提供区域で余裕定員が生じていた。
さらに、提供区域別と年齢区分別とをそれぞれ組み合わせて一つの区分としてみても、387区分のうち108区分(27.9%)において、余裕定員が生じている一方で待機児童が発生している状況が見受けられた(2032_2_2_1_4_3_4リンク参照)。
このように、待機児童及び余裕定員の発生状況が年齢区分によって大きく異なっていたり、一定数の市町村において余裕定員が生じているのに待機児童が発生したりしている状況となっているのは、保育施設等の整備が地域別・年齢区分別の待機児童の発生状況等を必ずしも十分に踏まえないで実施されていることなどによると思料される。そして、このような保育施設等整備施策の実施状況が、加速化プランにより新たに確保する保育の受け皿の目標値を達成したのに、いまだに待機児童が解消されていない要因の一つとなっていると思料される(2032_2_2_1_4_3_4_1リンク参照)。
a 放課後児童クラブにおける放課後待機児童数等の状況
30年5月1日時点の全国の都道府県別・学年別の放課後待機児童数をみたところ、福井県を除く全ての都道府県で放課後待機児童が発生していて、放課後待機児童数が最も多いのは東京都(3,821人)、次いで埼玉県(1,657人)、千葉県(1,602人)となっていた。また、各都道府県における最も放課後待機児童が多い学年をみたところ、4学年である都道府県が28道府県と最も多い一方で、1学年である都道府県が11県見受けられた(2032_2_2_2_1_1リンク参照)。
b 放課後児童クラブの質の確保等に関する取組
児童福祉法によれば、市町村は、放課後児童健全育成事業に係る条例の制定に当たっては、同事業に従事する者及びその員数以外の事項については児童クラブ設備運営基準を参酌するものとされており、児童クラブ設備運営基準によれば、専用区画を設けることとされ、その面積は児童1人につきおおむね1.65m2以上でなければならないこととされている。
前記165市区町村の放課後児童クラブ8,439か所について、各放課後児童クラブの30年5月1日時点の専用区画の面積を、30年度の子ども・子育て支援交付金の事業実績報告書に記載されている児童の数で除して児童1人当たりの専用区画の面積を試算したところ、6,690か所では1.65m2以上となっていて面積基準を満たしていたが、1,749か所では1.65m2未満となっていて面積基準を満たしておらず、このうち、面積基準1.65m2の50%である0.82m2未満となっていたものが49か所見受けられた。このように、一部の市町村においては、条例において経過措置を設けるなどして、面積基準を下回ることになっても利用を希望する児童を受け入れることによって放課後待機児童の減少を図っている状況が見受けられた。
また、余裕教室を活用できる余地がないかなどを確認したところ、余裕教室の活用が必ずしも進んでいない状況等が見受けられた一方、放課後児童健全育成事業を実施する複数の部局を市町村の福祉部局又は教育委員会に一本化したり、福祉部局と教育委員会との間で小学校内の設備の利用に関する協定を締結したりするなどして、余裕教室の活用促進に向けて取り組んでいる状況も見受けられた(2032_2_2_2_1_2リンク参照)。
a 支援拠点における利用状況
29年度の全国の支援拠点における1日当たり親子組数をみたところ、5組超10組以下が2,218か所と最も多く、次いで5組以下が1,822か所となっていて、これらを合わせた平均利用親子組数が1日当たり10組以下の支援拠点は4,040か所となっていた(2032_2_2_2_2_1リンク参照)。
そして、29年度における地域子育て支援拠点事業の実施場所別に1日当たり親子組数をみたところ、1日当たり親子組数が多い支援拠点においては公共施設・公民館の割合が高い状況が見受けられた(2032_2_2_2_2_1_2リンク参照)。
b 1日当たり親子組数が5組以下の支援拠点の状況等
1日当たり親子組数が5組以下であった支援拠点1,822か所について、1日当たり親子組数の内訳をみたところ、1日当たり親子組数が1組超2組以下であった支援拠点が320か所、1組以下であった支援拠点が206か所となっているなど、利用が低調となっている状況が見受けられた(2032_2_2_2_2_2リンク参照)。
生活困窮学習支援事業を実施している全国の実施主体の数及び支援参加者の数は、27年度301実施主体及び支援参加者16,817人、28年度417実施主体及び支援参加者22,329人、29年度506実施主体及び支援参加者31,112人と増加傾向となっているものの、29年度時点で実施主体となり得る全ての地方公共団体の数(902地方公共団体)に対する実施主体数の割合は56.0%にとどまっていた。また、30年度に生活困窮学習支援事業を実施していた338実施主体がどのような子どもを生活困窮学習支援の対象としたかについて確認したところ、生活困窮世帯に属する子どもを対象とするとしているもののその具体的な要件を定めていないなどしている状況となっていたが、生活困窮世帯に属する子どもを支援の対象としている291実施主体において、上記の世帯に属する子どもを網羅的に把握できるとした実施主体は12実施主体と少なくなっており、生活困窮学習支援の対象となる子どもを網羅的に把握することは極めて困難な状況等となっていた(2032_2_2_3_1_1リンク参照)。
また、上記の338実施主体に対してアンケート調査を実施したところ、205実施主体から回答があり、不特定多数の者に対して周知しているものが57実施主体、生活困窮学習支援事業の対象とした世帯に限定して周知しているものが183実施主体、生活困窮学習支援が必要と思われる子ども及びその保護者に対して周知しているものが71実施主体となっていた。
生活困窮学習支援を必要としている全ての子ども及びその保護者に対して周知することが可能となるよう、各実施主体において適切な周知の在り方について検討することが重要である(2032_2_2_3_1_2リンク参照)。
a SSW活用事業により配置されたSSWと福祉部門等との連携の効果
検査した65事業主体における小中学校に配置等されているSSW計1,393人について、30年度における福祉部門等との情報共有の状況を事業主体を通じて確認したところ、月1回以上会議等で福祉部門等との情報共有を行っているとしたSSW257人のうち生活保護の受給につないだ実績があるとしたSSWは83人(32.2%)となっていて、定期的に会議等で情報共有を行っていないとしたSSW641人のうち生活保護の受給につないだ実績があるとしたSSWの99人(15.4%)と比べるとその割合は2倍以上高くなっているなど、福祉部門等との情報共有の頻度が高いと思料されるSSWほど、貧困家庭の子どもなどを福祉支援につないだ実績の割合が高い傾向が見受けられた(2032_2_2_3_2_1リンク参照)。
b SSW加配の効果
30年度にSSW加配を活用した12事業主体にSSW加配の効果を確認したところ、全ての事業主体が、SSWの配置拡充が図られたことにより、各SSWが支援を必要とする子どもの家庭環境の状況等をより的確に把握できるようになったり、支援が必要な子どもに一層関与できるようになったりしたとしていた。
また、65事業主体における30年度の活動記録等を分析したところ、加配されたSSWは87人となっており、SSW1人当たり貧困相談件数は6.8件となっていて、加配されたSSW以外のSSWの1人当たり貧困相談件数2.0件と比べて3倍以上多くなっていた。そして、解決等件数の状況をみると、加配されたSSWの方が1人当たり解決等件数が約1.6倍多くなっており、多くの貧困相談を解決等している状況が見受けられた。これは、SSW加配を申請している事業主体においては、加配されたSSWの役割を子どもの貧困対策に特化していたり、加配されたSSWを貧困相談が多いと想定される中学校区に重点的に配置していたりなどしていて、加配されたSSWが貧困相談に積極的・集中的に対応していることが要因であると思料される(2032_2_2_3_2_2リンク参照)。
母子家庭等就業・自立支援事業の効果の発現状況として、就業相談件数及び就業件数について検査したところ、就業支援事業に係る就業相談件数は、就業相談件数に計上する基準が実施主体ごとに区々となっていた。
また、就業支援事業に係る就業件数は各母子センターが就業支援事業として就業相談を行った母子家庭の母等のうち就業した母子家庭の母等の延べ人数となっていた。30年度にセンター事業を行っていた68実施主体のうち、29年度に就業支援事業を行っていた57実施主体の同年度の就業件数は、11実施主体において100件以上となっていた一方で、15実施主体において5件未満となっているなどしていた。そして、母子センターが就業相談を実施した母子家庭の母等を公共職業安定所等につないだ場合、それらの者の中には、その後の就業状況について確認されることを望まない者がいることなどから、就業相談を実施した母子家庭の母等について、就業相談後の就業状況を母子センターが把握することは困難であると思料される(2032_2_2_3_3リンク参照)。
また、母子センターの存在が母子家庭の母等にどの程度認知されているかをみたところ、厚生労働省の資料によると、センター事業等を利用したことがないと回答した母子世帯の母(回答者に対する割合89.1%)のうち「制度を知らなかった」と回答した者が35.8%いるなど、母子センターの存在が母子家庭の母等に十分に認知されているとはいえない状況も見受けられた。そして、母子家庭の母等への周知がどの程度行われているかについて、母子センターにおける「広報啓発・広聴、ニーズ把握活動等事業」の実施状況をみたところ、28年度から30年度までの3年間で同事業により広報啓発活動等を実施したことのある実施主体は、68実施主体のうち15実施主体となっていた。
母子家庭の母等が、母子センターの存在を十分に認知していることや、その存在を認知していない場合はそれらの者を母子センターにつなぐことが重要になることから、各実施主体が母子センターの存在等を周知したり、母子・父子自立支援員等に母子センターが提供している支援の内容を伝えたりすることにより、支援を必要としている母子家庭の母等が適切な支援を受けられるようにすることが重要である(2032_2_2_3_3_2リンク参照)。
3府省は、我が国における少子化の進行並びに家庭及び地域を取り巻く環境の変化に鑑み、一人一人の子どもが健やかに成長することができる社会の実現に寄与することなどを目的として、各種の子ども・子育て支援施策を実施している。子ども・子育て支援施策は、待機児童解消施策及び子どもの貧困対策に係る施策を始めとして広範多岐にわたっており、その予算額は多額に上っている。
そして、待機児童解消施策については、3府省等の取組により、待機児童の解消に向けて一定の成果がみられるものの、保育需要の増大等を背景に現在も都市部を中心として多くの待機児童が発生しているなど依然として深刻な社会問題となっている。一方で、今後の少子化の進行状況次第では、将来的な保育需要の見通しは不透明となることなどから、今後の待機児童解消施策の実施に当たっては、これらの状況等を的確に把握して適切に対応していくことが求められている。
また、子どもの貧困対策に係る施策について、政府は、SDGsにおいて「あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ」ことなどが目標として設定されていることなどから、SDGs実施指針を踏まえつつ、貧困対策大綱に基づき総合的に推進することとしている。そして、貧困の状況にある子どもが顕在化していない場合があること、各施策の実効性等を短期間で評価・検証することは困難であり、子どもの成長を長期的に見守り、貧困の連鎖が生じていないかなどを確認する必要があることなどから、子どもの貧困対策に係る施策の実施に当たっては、中長期的な視点から各施策の効果等を評価・検証しつつ、着実に実施していくことが求められている。
さらに、令和元年の貧困対策法改正により、同年9月以降、市町村においても貧困対策計画の策定が努力義務とされるなどの見直しが行われた。また、同年10月からは、消費税率の引上げによる増収分を活用し、一定の条件の下で認定こども園、幼稚園、保育所等の利用料が無償となる「幼児教育・保育の無償化」が実施され、幼児教育・保育に対する公費の負担は更に増加するなど、子ども・子育て支援施策を取り巻く環境は大きく変化している。
ついては、3府省において、このような状況及び今回の会計検査院の検査結果を踏まえて、今後、次の点に留意することなどにより、子ども・子育て支援施策を適切かつ効果的に実施するよう努める必要がある。
3府省において、各府省間の連携等が必ずしも十分でなく、国庫補助事業の実施等に当たり、事務上多大な時間や労力を要するなどしているとの市町村からの意見等を参考とするなどしながら、認定こども園に係る財政支援等の3府省が連携して実施している施策がより円滑に行われ、市町村が一層効率的・効果的に事業を実施できるよう、3府省の連携・調整等の在り方について検討すること
SSW活用事業について、文部科学省において、学校をプラットフォームとした子どもの貧困対策等を効果的に推進していくために、SSW加配の内容や趣旨等をSSW実施要領等に明記するなどした上で、SSWと福祉部門等との連携の推進やSSW加配の効果的な活用方法等について、事業主体に対して周知、助言等を行うこと
以上のとおり報告する。
会計検査院としては、我が国における待機児童への対応や子どもの貧困の解消等は極めて重要な課題であることに鑑み、今後とも、待機児童解消、子どもの貧困対策等の子ども・子育て支援施策の実施状況等について、引き続き検査していくこととする。