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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
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  • 令和元年12月|

待機児童解消、子どもの貧困対策等の子ども・子育て支援施策に関する会計検査の結果について


第2 検査の結果

1 子ども・子育て支援施策の予算の執行状況及び同施策の実施状況

子ども・子育て支援施策は、第1の2(2)のとおり多岐にわたっているが、各施策の実施に要する主な交付金等を整理すると3府省が所管する36交付金等となる。そして、36交付金等が計上されている予算科目について(目)別に整理して、28年度から30年度までの予算の執行状況(歳出予算現額、支出済歳出額、翌年度繰越額、不用額等)等についてみると、図表1-1-1のとおりとなっている。

なお、子ども・子育て支援施策の中には、様々な施策の一部に子ども・子育て支援に関連する取組等が含まれている場合があることから、36交付金等が計上されている予算科目における(目)の歳出予算現額等の金額は、その全額が子ども・子育て支援施策に係るものではない場合がある。

各交付金等に係る各(目)の29年度の予算の執行状況についてみると、支出済歳出額の歳出予算現額に対する割合(以下「執行率」という。)が最も高いものは子どものための教育・保育給付費負担金(30年度は子どものための教育・保育給付交付金)の99.9%、最も低いものは子ども・子育て支援推進費補助金の12.6%であって、交付金等によって執行率に大きな差異がある状況となっている。そして、翌年度繰越額の歳出予算現額に対する割合(以下「繰越率」という。)、不用額の歳出予算現額に対する割合(以下「不用率」という。)についても交付金等によって大きな差異がある状況となっている。

図表1-1-1 子ども・子育て支援施策の予算の執行状況等

(単位:百万円、%)
区分
(施策分類)
予算科目(目)名
(主な交付金等名)
予算の所管府省名 主な施策等 年度 歳出予算現額 支出済歳出額 執行率 翌年度繰越額 繰越率 不用額 不用率
待機児童解消施策(保育施設等整備施策)
保育所等整備交付金 厚生労働省 保育所等の整備支援 平成
28
137,972 55,844 40.4 75,458 54.6 6,669 4.8
29 186,697 98,365 52.6 83,789 44.8 4,542 2.4
30 190,355 101,635 53.3 82,716 43.4 6,002 3.1
保育対策事業費補助金
(保育対策総合支援事業費補助金)
厚生労働省 改修による保育所等の設置支援、保育人材確保のための総合的な対策、安心かつ安全な保育の実施への支援等 28 112,837 53,410 47.3 7,870 6.9 51,556 45.6
29 58,429 36,837 63.0 10,988 18.8 10,603 18.1
30 60,188 32,731 54.3 9,496 15.7 17,959 29.8
子育て支援対策臨時特例交付金 厚生労働省 安心こども基金 28 25,320 25,320 100
29              
30              
子どものための教育・保育給付費補助金 内閣府
注(3)
認可保育所等への移行を希望する認可外保育施設に対する財政支援等 28 7,200 3,199 44.4 4,000 55.5
29 4,875 2,605 53.4 2,270 46.5
30 5,390 2,131 39.5 3,259 60.4
子ども・子育て支援交付金 内閣府及び厚生労働省 地域子ども・子育て支援事業(一時預かり事業、放課後児童健全育成事業、地域子育て支援拠点事業、乳児家庭全戸訪問事業等) 28 98,175 87,509 89.1 10,665 10.8
29 107,617 102,478 95.2 5,139 4.7
30 118,766 110,617 93.1 8,148 6.8
私立高等学校等経常費助成費補助金 注(4) 文部科学省 長期休業中等の預かり保育を実施する幼稚園に対する支援等 28 100,983 100,677 99.6 306 0.3
29 99,772 99,407 99.6 364 0.3
30 99,631 99,236 99.6 395 0.3
子ども・子育て支援対策推進事業費補助金
(子ども・子育て支援体制整備総合推進事業費国庫補助金)
(子ども・子育て支援推進調査研究事業費補助金)
厚生労働省 子育て支援員研修、子ども・子育て支援の充実のための研修・調査研究事業の推進等 28 2,430 1,326 54.5 1,103 45.4
29 3,541 1,774 50.0 1,767 49.9
30 3,018 2,467 81.7 551 18.2
待機児童解消施策
(保育士等確保施策)
【再掲】
保育対策事業費補助金
(保育対策総合支援事業費補助金)
厚生労働省 改修による保育所等の設置支援、保育人材確保のための総合的な対策、安心かつ安全な保育の実施への支援等 28 112,837 53,410 47.3 7,870 6.9 51,556 45.6
29 58,429 36,837 63.0 10,988 18.8 10,603 18.1
30 60,188 32,731 54.3 9,496 15.7 17,959 29.8
子ども・子育て支援推進費補助金 内閣府 保育士等の処遇改善導入円滑化特別対策事業 28              
29 6,204 787 12.6 5,417 87.3
30              
子どものための教育・保育給付費負担金 注(5)
(子どものための教育・保育給付費国庫負担金)
内閣府
注(3)
施設型給付及び委託費(保育所等に係る運営費)、地域型保育給付(小規模保育等に係る運営費)等 28 664,550 664,503 99.9 47 0.0
29 835,581 835,581 99.9 0 0.0
30 905,542 905,137 99.9 405 0.0
【再掲】
子ども・子育て支援対策推進事業費補助金
(子ども・子育て支援体制整備総合推進事業費国庫補助金)
(子ども・子育て支援推進調査研究事業費補助金)
厚生労働省 子育て支援員研修、子ども・子育て支援の充実のための研修・調査研究事業の推進等 28 2,430 1,326 54.5 1,103 45.4
29 3,541 1,774 50.0 1,767 49.9
30 3,018 2,467 81.7 551 18.2
待機児童解消施策(企業主導型保育事業)
仕事・子育て両立支援事業費補助金
(企業主導型保育事業費補助金)
内閣府及び厚生労働省 企業主導型保育事業 28 80,033 79,644 99.5 388 0.4
29 131,327 131,264 99.9 62 0.0
30 170,113 170,055 99.9 58 0.0
その他の施策(放課後児童健全育成事業及び地域子育て支援拠点事業)
【再掲】
子ども・子育て支援交付金
内閣府及び厚生労働省 地域子ども・子育て支援事業(一時預かり事業、放課後児童健全育成事業、地域子育て支援拠点事業、乳児家庭全戸訪問事業等) 28 98,175 87,509 89.1 10,665 10.8
29 107,617 102,478 95.2 5,139 4.7
30 118,766 110,617 93.1 8,148 6.8
子ども・子育て支援整備交付金 内閣府及び厚生労働省 放課後児童健全育成事業等の施設整備等 28 15,623 8,286 53.0 1,252 8.0 6,084 38.9
29 17,492 10,050 57.4 497 2.8 6,944 39.7
30 17,314 11,555 66.7 675 3.9 5,083 29.3
学校・家庭・地域連携協力推進事業費補助金 文部科学省 放課後子供教室における学習支援の実施、地域未来塾による学習支援の充実等 28 8,057 7,152 88.7 665 8.2 239 2.9
29 7,539 7,315 97.0 223 2.9
30 6,403 6,358 99.2 45 0.7
【再掲】
子ども・子育て支援対策推進事業費補助金
(子ども・子育て支援体制整備総合推進事業費国庫補助金)
(子ども・子育て支援推進調査研究事業費補助金)
厚生労働省 子育て支援員研修、子ども・子育て支援の充実のための研修・調査研究事業の推進等 28 2,430 1,326 54.5 1,103 45.4
29 3,541 1,774 50.0 1,767 49.9
30 3,018 2,467 81.7 551 18.2
【再掲】
子ども・子育て支援推進費補助金
内閣府 保育士等の処遇改善導入円滑化特別対策事業 28              
29 6,204 787 12.6 5,417 87.3
30              
子どもの貧困対策に係る施策
生活困窮者就労準備支援事業費等補助金 厚生労働省 生活困窮世帯等の子どもへの学習支援 28 42,274 40,109 94.8 2,164 5.1
29 30,670 30,261 98.6 408 1.3
30 40,456 35,960 88.8 1,152 2.8 3,343 8.2
教育支援体制整備事業費補助金 文部科学省 スクールソーシャルワーカー・スクールカウンセラーの配置拡充 28 11,643 11,247 96.6 395 3.3
29 12,394 11,914 96.1 200 1.6 279 2.2
30 12,841 12,756 99.3 85 0.6
母子家庭等対策費補助金
(母子家庭等対策総合支援事業費国庫補助金)
厚生労働省 母子家庭等就業・自立支援事業、子どもの生活・学習支援事業等 28 18,276 14,140 77.3 4,136 22.6
29 11,437 8,212 71.7 3,225 28.2
30 16,704 9,810 58.7 3,578 21.4 3,315 19.8
雇用安定等給付金 注(6)
(特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース))
(トライアル雇用助成金(一般トライアルコース))
厚生労働省 ひとり親家庭の親に対する就業支援 28 111,353 105,538 94.7 5,814 5.2
29 140,251 123,694 88.1 16,557 11.8
30 151,756 139,700 92.0 12,055 7.9
地域子供の未来応援交付金 内閣府 子供の未来応援地域ネットワーク形成支援事業 28 3,396 201 5.9 999 29.4 2,195 64.6
29 1,612 253 15.7 613 38.0 746 46.2
30 1,018 248 24.3 254 25.0 515 50.6
沖縄子供の貧困緊急対策事業費補助金 内閣府 沖縄子供の貧困緊急対策事業 28 1,000 757 75.7 242 24.2
29 1,102 1,046 94.9 55 5.0
30 1,202 1,155 96.0 47 3.9
【再掲】
学校・家庭・地域連携協力推進事業費補助金
文部科学省 放課後子供教室における学習支援の実施、地域未来塾による学習支援の充実等 28 8,057 7,152 88.7 665 8.2 239 2.9
29 7,539 7,315 97.0 223 2.9
30 6,403 6,358 99.2 45 0.7
生活扶助費等負担金 厚生労働省 生活保護制度による教育扶助 28 1,443,523 1,391,061 96.3 52,462 3.6
29 1,416,795 1,378,690 97.3 38,105 2.6
30 1,372,951 1,326,084 96.5 46,867 3.4
児童扶養手当給付費負担金 厚生労働省 児童扶養手当の支給 28 174,541 164,338 94.1 10,202 5.8
29 178,374 164,163 92.0 14,211 7.9
30 171,075 159,983 93.5 11,091 6.4
要保護児童生徒援助費補助金 文部科学省 要保護児童生徒に対する就学援助 28 783 641 81.9 141 18.0
29 713 594 83.2 119 16.7
30 647 550 85.0 96 14.9
諸謝金 注(7) 内閣府 官公民の連携プロジェクト・国民運動展開 28 1,112 903 81.1 209 18.8
29 1,005 874 86.9 130 13.0
30 1,023 908 88.7 115 11.2
【再掲】
子どものための教育・保育給付費負担金 注(5)
(子どものための教育・保育給付費国庫負担金)
内閣府
注(3)
施設型給付及び委託費(保育所等に係る運営費)、地域型保育給付(小規模保育等に係る運営費)等 28 664,550 664,503 99.9 47 0.0
29 835,581 835,581 99.9 0 0.0
30 905,542 905,137 99.9 405 0.0
【再掲】
子ども・子育て支援交付金
内閣府及び厚生労働省 地域子ども・子育て支援事業(一時預かり事業、放課後児童健全育成事業、地域子育て支援拠点事業、乳児家庭全戸訪問事業等) 28 98,175 87,509 89.1 10,665 10.8
29 107,617 102,478 95.2 5,139 4.7
30 118,766 110,617 93.1 8,148 6.8
初等中等教育等振興事業委託費 注(8) 文部科学省 幼児教育の質向上推進プラン 28 11,787 9,924 84.1 1,862 15.8
29 9,956 8,799 88.3 1,156 11.6
30 8,922 8,237 92.3 685 7.6
幼稚園就園奨励費補助金 文部科学省 幼稚園就園奨励費補助 28 32,271 32,218 99.8 53 0.1
29 30,899 30,854 99.8 44 0.1
30 30,024 29,564 98.4 459 1.5
児童福祉事業対策費等補助金 厚生労働省 児童相談所の相談機能強化等 28 12,200 9,547 78.2 2,652 21.7
29 15,786 6,341 40.1 322 2.0 9,123 57.7
30 18,977 8,420 44.3 1,934 10.1 8,622 45.4
児童保護費負担金 注(9) 厚生労働省 児童養護施設等の体制整備 28 111,673 106,215 95.1 5,458 4.8
29 120,099 110,600 92.0 9,499 7.9
30 123,026 113,793 92.4 9,232 7.5
母子父子寡婦福祉貸付金 厚生労働省 母子父子寡婦福祉資金の貸付 28 3,809 1,449 38.0 2,360 61.9
29 3,601 984 27.3 2,617 72.6
30 3,195 1,223 38.2 1,972 61.7
生活困窮者自立相談支援事業費等負担金 厚生労働省 生活困窮者自立相談支援事業 28 21,771 17,596 80.8 4,175 19.1
29 21,771 17,392 79.8 4,378 20.1
30 21,771 17,433 80.0 4,338 19.9
その他の施策(上記の各施策以外のもの)
児童手当交付金 内閣府及び厚生労働省 児童手当 28 1,363,264 1,317,680 96.6 45,584 3.3
29 1,345,918 1,297,358 96.3 48,559 3.6
30 1,322,817 1,274,698 96.3 48,118 3.6
特例給付等交付金 内閣府及び厚生労働省 28 52,205 52,205 99.9 0 0.0
29 54,759 54,759 99.9 0 0.0
30 56,729 56,729 99.9 0 0.0
教育支援体制整備事業費交付金 文部科学省 認定こども園等への財政支援 28 2,132 2,014 94.4 117 5.5
29 1,144 1,119 97.8 24 2.1
30 1,100 1,062 96.6 37 3.3
認定こども園施設整備交付金 文部科学省 28 17,967 7,485 41.6 9,673 53.8 808 4.4
29 29,214 10,875 37.2 17,864 61.1 474 1.6
30 30,941 13,029 42.1 13,489 43.5 4,422 14.2
私立学校施設整備費補助金 注(10) 文部科学省 私立幼稚園の施設整備の充実 28 41,429 19,702 47.5 21,517 51.9 208 0.5
29 37,479 19,698 52.5 14,369 38.3 3,411 9.1
30 33,951 22,234 65.4 11,051 32.5 665 1.9
雇用安定等給付金 注(11)
(両立支援等助成金)
厚生労働省 事業所内保育施設への支援 28 26,335 24,589 93.3 1,745 6.6
29 11,296 5,856 51.8 5,440 48.1
30 24,025 5,913 24.6 18,112 75.3
  • 注(1) 本図表は、36交付金等について予算科目の(目)別に整理し、各(目)の平成28年度から30年度までの予算の執行状況等を示したものであって、歳出予算現額等の金額には、子ども・子育て支援施策以外の施策等に係るものが含まれている場合があり、各(目)の全額が子ども・子育て支援施策に係るものではない場合がある。
  • 注(2) 施策分類ごとの「予算科目(目)名」欄は、「第2 検査の結果」に個別に掲記している主な交付金、施策等を上位にするなどして並べており、「予算科目(目)名」と交付金等名とが同じものは括弧書きを省略している。
  • 注(3) 平成30年度の所管は、内閣府及び厚生労働省である。
  • 注(4) 私立高等学校等経常費助成費補助金は、文部科学省所管一般会計(組織)文部科学本省(項)私立学校振興費の中の(目)の金額である。
  • 注(5) 子どものための教育・保育給付費負担金は、平成28、29両年度の「予算科目(目)名」であり、30年度の「予算科目(目)名」は、子どものための教育・保育給付交付金である。
  • 注(6) 雇用安定等給付金は、厚生労働省所管労働保険特別会計雇用勘定(項)高齢者等雇用安定・促進費の中の(目)の金額である。
  • 注(7) 諸謝金は、内閣府所管一般会計(組織)内閣本府(項)共生社会政策費の中の(目)の金額である。
  • 注(8) 初等中等教育等振興事業委託費は、文部科学省所管一般会計(組織)文部科学本省(項)初等中等教育等振興費の中の(目)の金額である。
  • 注(9) 児童保護費負担金は、厚生労働省所管一般会計(組織)厚生労働本省(項)児童虐待等防止対策費の中の(目)の金額である。
  • 注(10)私立学校施設整備費補助金は、文部科学省所管一般会計(組織)文部科学本省(項)私立学校振興費の中の(目)の金額である。
  • 注(11)雇用安定等給付金は、厚生労働省所管労働保険特別会計雇用勘定(項)男女均等雇用対策費の中の(目)の金額である。

本項では、子ども・子育て支援施策のうち主な施策等について横断的に予算の執行状況及び同施策の実施状況を示して、次のとおり、待機児童解消施策及び子どもの貧困対策に係る施策を中心に分析等を行うこととする。

予算の執行状況について、(1)において、翌年度繰越額及び不用額の発生状況等を考慮して対象とする予算科目を選定して分析等を行う。

施策の実施状況について、(2)において、予算額や事業の目的・性質等を踏まえて、①待機児童解消施策では、待機児童の解消を図るための主な施策であり、毎年度の予算額も多額に上っている保育施設等整備施策及び保育士等確保施策を中心に分析等を行うとともに、昨今様々な問題が取り上げられ国民の関心が高い企業主導型保育事業についても分析等を行う。また、②その他の施策では、支援法等に基づき実施されている地域子ども・子育て支援事業のうち、予算額が多額に上っている放課後児童健全育成事業及び地域子育て支援拠点事業について分析等を行う。さらに、③子どもの貧困対策に係る施策では、教育の支援に関する施策として生活困窮世帯等の子どもに対する学習支援等を、保護者に対する就労の支援に関する施策として母子家庭の母等に対する就労支援等を、地域における施策推進への支援として地域子供の未来応援交付金(以下「未来応援交付金」という。)等を、それぞれ対象として分析等を行う(図表1-1-2参照)。

図表1-1-2 子ども・子育て支援施策の予算の執行状況及び同施策の実施状況における検査対象(概念図)

図表1-1-2 子ども・子育て支援施策の予算の執行状況及び同施策の実施状況における検査対象(概念図) 画像

(1) 子ども・子育て支援施策の予算の執行状況

ア 保育施設等整備施策の予算の執行状況
(ア) 保育所等整備交付金の予算の執行状況

厚生労働省所管一般会計(組織)厚生労働本省(項)保育対策費(目)保育所等整備交付金の予算の執行状況をみると、図表1-1-3のとおり、28年度歳出予算現額1379億余円に対して、支出済歳出額558億余円、翌年度繰越額754億余円、不用額66億余円、29年度歳出予算現額1866億余円に対して、支出済歳出額983億余円、翌年度繰越額837億余円、不用額45億余円、30年度歳出予算現額1903億余円に対して、支出済歳出額1016億余円、翌年度繰越額827億余円、不用額60億余円となっている。

そして、執行率、繰越率及び不用率は、それぞれ28年度40.4%、54.6%、4.8%、29年度52.6%、44.8%、2.4%、30年度53.3%、43.4%、3.1%となっている。

図表1-1-3 保育所等整備交付金の歳出決算額等

(単位:千円)
年度
区分
当初予算額 予算補正追加額 前年度繰越額 歳出予算現額 支出済歳出額 翌年度繰越額 不用額
平成28年度 53,421,369 42,691,247 41,859,817 137,972,433 55,844,340 75,458,429 6,669,663
        (40.4%) (54.6%) (4.8%)
29年度 56,403,240 54,835,758 75,458,429 186,697,427 98,365,943 83,789,420 4,542,064
        (52.6%) (44.8%) (2.4%)
30年度 66,370,975 40,194,715 83,789,420 190,355,110 101,635,948 82,716,316 6,002,846
        (53.3%) (43.4%) (3.1%)

(注) 「支出済歳出額」「翌年度繰越額」及び「不用額」欄の括弧内は、それぞれ執行率、繰越率及び不用率を示している。

 (目)保育所等整備交付金については、支出済歳出額の全額が、保育所等施設整備事業、小規模保育事業所施設整備事業等を実施するための交付金である保育所等整備交付金として交付されている。

図表1-1-3のとおり、各年度の執行率は、おおむね4割から5割程度となっているが、28年度から30年度までの3年間における予算額の累計を算出するなどして当該期間全体における予算の執行状況をみたところ、図表1-1-4のとおり、予算額の累計は3557億余円、支出済歳出額の累計は2558億余円となり、予算額の累計に対する支出済歳出額の累計の割合は71.9%となっていた。

図表1-1-4 保育所等整備交付金の平成28年度から30年度までの3年間における予算の執行状況

(単位:千円)
区分
年度
当初予算額の累計(A) 予算補正追加額の累計(B) 28年度における前年度繰越額(C) 予算額の累計(A)+(B)+(C) 支出済歳出額の累計 30年度における翌年度繰越額 不用額の累計
平成28年度~30年度 176,195,584 137,721,720 41,859,817 355,777,121 255,846,232 82,716,316 17,214,573
        (71.9%) (23.2%) (4.8%)
  • 注(1) 3年間の期間全体としてみた場合、平成28年度から29年度への繰越し及び29年度から30年度への繰越しは期中における処理となることから、前年度繰越額については28年度における前年度繰越額のみを計上し、翌年度繰越額については30年度における翌年度繰越額のみを計上している。
  • 注(2) 「支出済歳出額の累計」「30年度における翌年度繰越額」及び「不用額の累計」欄の括弧内は、それぞれの額の「予算額の累計」に対する割合を示している。

また、(目)保育所等整備交付金については、各年度とも、多額の翌年度繰越額が生じ、翌年度において前年度繰越額として歳出予算現額に算入される一方で、補正予算により多額の追加額が計上されている。厚生労働省は、多額の翌年度繰越額が生じている状況であるにもかかわらず予算を追加している理由について、加速化プランにより確保する保育の受け皿の目標が40万人分から50万人分へ上積みされたことを踏まえて、28年度については2万人分、29年度については3万人分の整備量に相当する予算を追加する必要があったなどのためとしている。

翌年度繰越の手続等を、市町村への交付決定前に厚生労働省において行う繰越し(以下「本省繰越」という。)と、市町村への交付決定後に繰越しの手続に関する事務の委任を受けた都道府県において行う繰越し(以下「地方繰越」という。)とに分類して、28年度から30年度までの翌年度繰越額の状況をみると、図表1-1-5のとおり、本省繰越額及び地方繰越額の翌年度繰越額に対する割合は、それぞれ28年度83.2%、16.7%、29年度82.0%、17.9%、30年度86.2%、13.7%となっており、翌年度繰越額の多くを本省繰越額が占めている。

図表1-1-5 保育所等整備交付金に係る翌年度繰越額の状況

(単位:千円)
区分
年度
翌年度繰越額
(A)
 
本省繰越額
(B)
翌年度繰越額に対する割合
(B)/(A)
地方繰越額
(C)
翌年度繰越額に対する割合
(C)/(A)
平成28年度 75,458,429 62,827,971 83.2% 12,630,458 16.7%
29年度 83,789,420 68,721,425 82.0% 15,067,995 17.9%
30年度 82,716,316 71,309,373 86.2% 11,406,943 13.7%

厚生労働省は、28、29両年度に本省繰越が生じた理由について、保育所等の施設整備は市町村が策定する整備計画に基づき行うものであるが、計画段階における地元との調整に不測の日数を要したことなどにより、整備計画の策定が遅れて、年度内に支出を完了することが困難となったなどのためとしている。

一方、厚生労働省は、地方繰越が生じた理由については、都道府県から資料を徴していないとしている。そこで、会計実地検査を行った一部の市町村において、地方繰越が生じた理由を確認したところ、工事単価の高騰等により入札が不調となり仕様等の見直しを行い再入札を実施する必要が生じたり、近隣住民からの要望等に対応するために設計の一部見直しや変更申請をする必要が生じたり、工事の施工に伴い発生する騒音の問題等について地元との調整に不測の日数を要したりしたことなどにより工期が遅延したことなどのためとなっていた。

このように、保育所等整備交付金については、交付決定前の整備計画の策定段階や、交付決定後の事業実施段階における地元との調整等に係る理由により執行が遅れ、多額の翌年度繰越額が生じている状況となっていた。

(イ) 子どものための教育・保育給付費補助金の予算の執行状況

内閣府及び厚生労働省所管年金特別会計子ども・子育て支援勘定(項)子ども・子育て支援推進費(28年度は内閣府所管一般会計(組織)子ども・子育て本部(項)子どものための教育・保育給付、29年度は内閣府所管一般会計(組織)子ども・子育て本部(項)子ども・子育て支援推進費)(目)子どものための教育・保育給付費補助金の予算の執行状況をみると、図表1-1-6のとおり、28年度歳出予算現額72億余円に対して、支出済歳出額31億余円、不用額40億余円、29年度歳出予算現額48億余円に対して、支出済歳出額26億余円、不用額22億余円、30年度歳出予算現額53億余円に対して、支出済歳出額21億余円、不用額32億余円となっている。

そして、執行率及び不用率は、それぞれ28年度44.4%、55.5%、29年度53.4%、46.5%、30年度39.5%、60.4%となっている。

図表1-1-6 子どものための教育・保育給付費補助金の歳出決算額等

(単位:千円)
区分
年度
当初予算額 予算補正追加額 前年度繰越額 歳出予算現額 支出済歳出額 翌年度繰越額 不用額
平成28年度 7,200,120 7,200,120 3,199,937 4,000,183
        (44.4%)   (55.5%)
29年度 4,875,702 4,875,702 2,605,545 2,270,157
        (53.4%)   (46.5%)
30年度 5,390,825 5,390,825 2,131,248 3,259,577
        (39.5%)   (60.4%)

(注) 「支出済歳出額」及び「不用額」欄の括弧内は、それぞれ執行率及び不用率を示している。

 (目)子どものための教育・保育給付費補助金については、支出済歳出額の全額が、認可化移行運営費支援事業及び幼稚園における長時間預かり保育運営費支援事業を実施するための補助金である子どものための教育・保育給付費補助金として交付されている。

内閣府は、28、29両年度に不用額が生じた理由について、同補助金による支援を希望する施設が少なく、市町村からの交付申請が少なかったことなどにより、支給対象児童数が想定を下回ったことなどのためとしている。

内閣府は、27年度に不用額が121億余円生じたことを受けて、29年度の予算額を削減したとしているが、それでもなお不用率は46.5%となっている。また、同府は、30年度の予算額については、補助金の算定に用いる基準額の変更に伴い増額したとしているが、不用率は29年度より上昇して60.4%となっている。

イ 保育士等確保施策の予算の執行状況
(ア) 保育対策事業費補助金の予算の執行状況

厚生労働省所管一般会計(組織)厚生労働本省(項)保育対策費(目)保育対策事業費補助金の予算の執行状況をみると、図表1-1-7のとおり、28年度歳出予算現額1128億余円に対して、支出済歳出額534億余円、翌年度繰越額78億余円、不用額515億余円、29年度歳出予算現額584億余円に対して、支出済歳出額368億余円、翌年度繰越額109億余円、不用額106億余円、30年度歳出予算現額601億余円に対して、支出済歳出額327億余円、翌年度繰越額94億余円、不用額179億余円となっている。

そして、執行率、繰越率及び不用率は、それぞれ28年度47.3%、6.9%、45.6%、29年度63.0%、18.8%、18.1%、30年度54.3%、15.7%、29.8%となっている。

図表1-1-7 保育対策事業費補助金の歳出決算額等

(単位:千円)
区分
年度
当初予算額 予算補正追加額 前年度繰越額 歳出予算現額 支出済歳出額 翌年度繰越額 不用額
平成28年度 38,961,933 11,709,688 62,165,582 112,837,203 53,410,522 7,870,471 51,556,210
        (47.3%) (6.9%) (45.6%)
29年度 39,483,394 11,075,784 7,870,471 58,429,649 36,837,380 10,988,889 10,603,380
        (63.0%) (18.8%) (18.1%)
30年度 38,144,358 11,055,102 10,988,889 60,188,349 32,731,880 9,496,678 17,959,791
        (54.3%) (15.7%) (29.8%)

(注) 「支出済歳出額」「翌年度繰越額」及び「不用額」欄の括弧内は、それぞれ執行率、繰越率及び不用率を示している。

 (目)保育対策事業費補助金については、支出済歳出額の全額が、保育所等改修費等支援事業等による保育の受け皿の確保や保育補助者雇上強化事業等の保育の担い手となる保育人材の確保に必要な措置を総合的に講ずる事業等を実施するための補助金である保育対策総合支援事業費補助金として交付されている。

厚生労働省は、28、29両年度に不用額が生じた理由について、保育補助者雇上強化事業において、実施要件として補助対象となる保育補助者に子育て支援員研修等の必要な研修等の受講を求めているが、研修の実施体制が不十分な地方公共団体があったことなどにより、補助対象となる保育補助者の人数が当初想定していた人数を大きく下回ったことなどのためとしている。

また、30年度に不用額が生じた理由については、保育所等改修費等支援事業において、事業者選定に時間を要したことなどに伴う工事着工の遅れにより、改修等の実施件数が、市町村の計画等を基に積算した当初の想定を大きく下回ったことなどのためとしている。

そして、保育対策総合支援事業費補助金の交付対象となる事業は保育士等確保施策に係る事業が多数を占めていることから、同補助金のうち、各事業分の予算として見込んでいた額(以下「見込額」という。)と見込額に対応する実際に執行された額(以下「実績額」という。)をみたところ、保育士等確保施策に係る各事業の見込額28年度計927億余円、29年度計263億余円に対して、実績額が28年度計421億余円、29年度計141億余円、見込額に対応する翌年度への繰越額が28年度計73億余円、29年度計12億余円となっていて、実績額及び見込額に対応する翌年度への繰越額の合計が見込額を28年度計432億余円、29年度計108億余円下回っている状況となっていた。このように、保育士等確保施策に係る各事業の実績額等が見込額を下回っていたことが(目)保育対策事業費補助金において28年度に515億余円、29年度に106億余円の不用額が生じた主な要因となっていた。

一方、30年度については、保育士等確保施策に係る各事業の見込額計129億余円に対して、実績額が計135億余円、見込額に対応する翌年度への繰越額が計4億余円となっていて、実績額及び見込額に対応する翌年度への繰越額の合計が見込額を計10億余円上回っている状況となっていた。

(イ) 子ども・子育て支援推進費補助金の予算の執行状況

内閣府所管一般会計(組織)子ども・子育て本部(項)子ども・子育て支援推進費(目)子ども・子育て支援推進費補助金の予算の執行状況をみると、図表1-1-8のとおり、29年度歳出予算現額62億余円に対して、支出済歳出額7億余円、不用額54億余円となっている。そして、執行率及び不用率は、それぞれ29年度12.6%、87.3%となっている。

図表1-1-8 子ども・子育て支援推進費補助金の歳出決算額等

(単位:千円)
区分
年度
当初予算額 予算補正追加額 前年度繰越額 歳出予算現額 支出済歳出額 翌年度繰越額 不用額
平成29年度 6,204,866 6,204,866 787,508 5,417,358
        (12.6%)   (87.3%)

(注) 「支出済歳出額」及び「不用額」欄の括弧内は、それぞれ執行率及び不用率を示している。

 (目)子ども・子育て支援推進費補助金については、支出済歳出額の全額が、保育士等の処遇改善導入円滑化特別対策事業を実施するための補助金である子ども・子育て支援推進費補助金として交付されている。同事業は、保育士等の賃金改善を図るために、制度の内容及び趣旨の周知や、必要なシステムの改修等の新たな処遇改善の仕組みの円滑な施行等を支援することを目的とするものである。そして、同事業は、29年度から実施される処遇改善等加算 II の制度の趣旨が広く理解されて実際に保育士等の賃金の改善が図られるようにするとともに、処遇改善等加算 II の開始年度に大量に発生する事務に対応するために創設されたものであるため、29年度限りとなっていた。

内閣府は、不用額が生じた理由について、処遇改善等加算 II の制度が長期的に継続されるかなどの点が明らかにされておらず、地方公共団体が事業の実施を控えていたり、交付申請が間に合わなかったりしたことにより、交付申請額が予定を下回ったことなどのためとしている。

ウ 企業主導型保育事業の予算の執行状況

内閣府及び厚生労働省所管年金特別会計子ども・子育て支援勘定(項)地域子ども・子育て支援及仕事・子育て両立支援事業費(目)仕事・子育て両立支援事業費補助金は、一般事業主から徴収する拠出金を財源としており、その予算の執行状況をみると、図表1-1-9のとおり、28年度歳出予算現額800億余円に対して、支出済歳出額796億余円、不用額3億余円、29年度歳出予算現額1313億余円に対して、支出済歳出額1312億余円、不用額6280万余円、30年度歳出予算現額1701億余円に対して、支出済歳出額1700億余円、不用額5840万余円となっている。

そして、執行率及び不用率は、それぞれ28年度99.5%、0.4%、29年度99.9%、0.0%、30年度99.9%、0.0%となっている。

図表1-1-9 仕事・子育て両立支援事業費補助金の歳出決算額等

(単位:千円)
区分
年度
当初予算額 予算補正追加額 前年度繰越額 歳出予算現額 支出済歳出額 翌年度繰越額 不用額
平成28年度 80,033,320 80,033,320 79,644,834 388,486
        (99.5%)   (0.4%)
29年度 131,327,517 131,327,517 131,264,712 62,805
        (99.9%)   (0.0%)
30年度 170,113,413 170,113,413 170,055,006 58,407
        (99.9%)   (0.0%)

(注) 「支出済歳出額」及び「不用額」欄の括弧内は、それぞれ執行率及び不用率を示している。

 (目)仕事・子育て両立支援事業費補助金については、支出済歳出額のほとんどが、企業主導型保育事業を実施するための補助金である企業主導型保育事業費補助金として交付されている。

また、前記のとおり、(目)仕事・子育て両立支援事業費補助金は一般事業主から徴収する拠出金を財源としており、支援法第70条の規定によれば、拠出金の額は、厚生年金保険法に基づく保険料の計算の基礎となる標準報酬月額及び標準賞与額に拠出金率を乗じて得た額の総額とすることなどとされている。その拠出金率は、仕事・子育て両立支援事業等に要する費用の額等を踏まえて、おおむね5年を通じ財政の均衡を保つことができるものでなければならないものとされていて、28年度は1000分の2.0、29年度は1000分の2.3、30年度は1000分の2.9、31年度は1000分の3.4と毎年度引き上げられている。

そして、(目)仕事・子育て両立支援事業費補助金の執行率は高くなっており、支出済歳出額のうち、企業主導型保育事業費補助金に係る交付額をみると、28年度793億余円(整備費助成金分487億余円、運営費助成金等分305億余円)、29年度1309億余円(整備費助成金分557億余円、運営費助成金等分751億余円)、30年度1697億余円(整備費助成金分366億余円、運営費助成金等分1331億余円)となっていて、同補助金の交付額がほとんどを占めていた。そこで、同補助金の執行状況について、28、29両年度に児童育成協会から内閣府に提出された企業主導型保育事業実績報告書等を基に確認したところ、28年度については交付決定額793億余円の全額が同府から児童育成協会に交付されたものの、児童育成協会による執行額が193億余円(執行額の同補助金交付額に対する割合24.4%)となっており、29年度については交付決定額1309億余円の全額が同府から児童育成協会に交付されたものの、児童育成協会による執行額が807億余円(同61.6%)となっていた。その結果、同府による児童育成協会への同補助金交付額と執行額との間に、28年度分599億余円、29年度分501億余円と多額の差額が生じ、それぞれ翌年度にその差額の全額が国庫に返納され、歳入として収納されていた。児童育成協会による執行額の内訳をみると、図表1-1-10のとおり、28年度については整備費助成金170億余円、運営費助成金等計23億余円、29年度については整備費助成金548億余円、運営費助成金等計259億余円となっており、整備費助成金よりも運営費助成金等の執行が特に低調となっていた。

図表1-1-10 児童育成協会による企業主導型保育事業費補助金の執行状況

(単位:千円)
区分
年度
企業主導型保育事業費補助金交付決定額 企業主導型保育事業費補助金交付額
(A)
執行額
(B)
返納額
(A)-(B)
平成28年度 79,304,813 79,304,813 19,379,765 59,925,047
    (24.4%)  
  整備費助成金 48,782,618 48,782,618 17,044,624 31,737,993
    (34.9%)  
運営費助成金等 30,522,195 30,522,195 2,335,141 28,187,053
    (7.6%)  
29年度 130,946,871 130,946,871 80,774,397 50,172,474
    (61.6%)  
  整備費助成金 55,783,422 55,783,422 54,846,956 936,466
    (98.3%)  
運営費助成金等 75,163,449 75,163,449 25,927,441 49,236,008
    (34.4%)  
30年度 169,732,596 169,732,596
       
  整備費助成金 36,602,920 36,602,920
       
運営費助成金等 133,129,676 133,129,676
       
  • 注(1) 「執行額」は、児童育成協会から内閣府に提出された企業主導型保育事業実績報告書に記載されている国庫補助所要額である。
  • 注(2) 「執行額」欄の括弧内は、執行額の企業主導型保育事業費補助金交付額(整備費助成金・運営費助成金等別)に対する割合を示している。
  • 注(3) 「返納額」は、企業主導型保育事業費補助金が交付された年度の翌年度に国庫に返納された額である。
  • 注(4) 平成30年度の「執行額」及び「返納額」については、令和元年8月末時点において、児童育成協会から内閣府に対して、平成30年度の企業主導型保育事業実績報告書が提出されていないため、「-」としている。
  • 注(5) 「運営費助成金等」には、運営費助成金のほか、児童育成協会が企業主導型保育助成事業を実施するための事務費及び指導監査費を含んでいる。

上記のとおり、多額の返納金が生じた主な要因は、内閣府が28、29両年度に整備目標としていた企業主導型保育施設の利用定員の全てが充足すると想定して運営費助成金等の予算を計上して、児童育成協会に対して企業主導型保育事業費補助金を交付したものの、開設・運営がなされていなかったり、利用が低調となっていたりなどする企業主導型保育施設が多数に上っていたことなどにより、運営費助成金の執行が低調となっていたことなどによると認められる(後掲(2)ウ及び2(1)ウ参照)。

このように、各年度とも(目)仕事・子育て両立支援事業費補助金の支出済歳出額のほとんどが企業主導型保育事業費補助金として児童育成協会に交付され、予算の執行率は高くなっているものの、実際には児童育成協会における同補助金の執行が低調となっており、年金特別会計子ども・子育て支援勘定に毎年度多額の返納金が生ずるなどしていた。

また、特別会計に関する法律(平成19年法律第23号)第118条第1項の規定によれば、年金特別会計子ども・子育て支援勘定において毎会計年度の歳入歳出の決算上剰余金を生じた場合には、当該剰余金のうち、児童手当交付金、子どものための教育・保育給付交付金並びに子ども・子育て支援交付金及び仕事・子育て両立支援事業費の財源に充てるために必要な金額を積立金として積み立てることとされており、同条第3項の規定によれば、上記の積立金は、仕事・子育て両立支援事業費等の財源に充てるために必要がある場合には、予算で定める金額を限り、同勘定の歳入に繰り入れることができることとされている。

そこで、同勘定における積立金への積立て及び歳入への繰入れの状況をみたところ、図表1-1-11のとおり、28年度229億余円、29年度180億余円、30年度865億余円が同勘定の積立金として積み立てられていた。一方、同勘定の歳入に繰り入れられていたのは28年度3億余円、29年度3億余円、30年度137億余円となっており、繰入額を除いた積立金積立額は毎年度多額に上っていて、30年度末の積立金残高は1315億余円となっている。そして、30年度の積立金積立額が28、29両年度よりも大幅に増加しているのは、前記の企業主導型保育事業費補助金に係る28年度の返納金599億余円が主な要因であると認められる。さらに、令和元年度末については、前記のとおり同補助金の平成29年度分の同勘定への返納金が501億余円に上っており、968億余円が同勘定の積立金として積み立てられて積立金残高が更に増加することが見込まれる状況となっている。

図表1-1-11 年金特別会計子ども・子育て支援勘定の積立金残高等

(単位:千円)
区分
年度
期首積立金残高
(A)
積立金から歳入へ繰入れ(B) 積立金積立額
(C)
期末積立金残高
(A)-(B)+(C)
(参考)
事業主拠出金収入
平成28年度 18,466,039 341,181 22,970,032 41,094,891 335,573,455
29年度 41,094,891 379,355 18,037,837 58,753,374 403,158,186
30年度 58,753,374 13,758,465 86,542,025 131,536,934 518,593,818
31年度
(令和元年度)
131,536,934 20,928,429 96,828,124 207,436,629 595,611,127
  • 注(1) 平成31年度(令和元年度)の「積立金から歳入へ繰入れ」及び「事業主拠出金収入」の額は当初予算額を記載しており、「期末積立金残高」の額は当初予算に計上された積立金から歳入へ繰り入れられる額を基に計算した予定額である。
  • 注(2) 平成28年度から30年度までの「事業主拠出金収入」の額は収納済歳入額の決算額である。
エ 放課後児童健全育成事業及び地域子育て支援拠点事業の予算の執行状況
(ア) 子ども・子育て支援整備交付金の予算の執行状況

内閣府及び厚生労働省所管年金特別会計の子ども・子育て支援勘定(項)地域子ども・子育て支援及仕事・子育て両立支援事業費(目)子ども・子育て支援整備交付金の予算の執行状況をみると、図表1-1-12のとおり、28年度歳出予算現額156億余円に対して、支出済歳出額82億余円、翌年度繰越額12億余円、不用額60億余円、29年度歳出予算現額174億余円に対して、支出済歳出額100億余円、翌年度繰越額4億余円、不用額69億余円、30年度歳出予算現額173億余円に対して、支出済歳出額115億余円、翌年度繰越額6億余円、不用額50億余円となっている。

そして、執行率、繰越率及び不用率は、それぞれ28年度53.0%、8.0%、38.9%、29年度57.4%、2.8%、39.7%、30年度66.7%、3.9%、29.3%となっている。

図表1-1-12 子ども・子育て支援整備交付金の歳出決算額等

(単位:千円)
区分
年度
当初予算額 流用等増△減額 前年度繰越額 歳出予算現額 支出済歳出額 翌年度繰越額 不用額
平成28年度 15,377,727 245,458 15,623,185 8,286,682 1,252,325 6,084,177
        (53.0%) (8.0%) (38.9%)
29年度 16,252,592 △12,123 1,252,325 17,492,794 10,050,217 497,754 6,944,823
        (57.4%) (2.8%) (39.7%)
30年度 16,829,933 △12,855 497,754 17,314,832 11,555,735 675,629 5,083,468
        (66.7%) (3.9%) (29.3%)
  • 注(1) 「支出済歳出額」「翌年度繰越額」及び「不用額」欄の括弧内は、それぞれ執行率、繰越率及び不用率を示している。
  • 注(2) 「流用等増△減額」については、平成29、30両年度において、(項)諸支出金(目)賠償償還及払戻金に移用されている。

 (目)子ども・子育て支援整備交付金については、支出済歳出額の全額が、放課後児童クラブ等の新設等の整備事業を実施するための交付金である子ども・子育て支援整備交付金として交付されている。

内閣府は、28、29両年度に不用額が生じた理由について、放課後児童健全育成事業の実施に当たり、多数の実施主体が、放課後児童クラブを実施する施設の新たな整備ではなく、既存の施設の改修等を行ったことなどから、子ども・子育て支援整備交付金を活用した放課後児童クラブの整備に係る申請件数が、当初の見込みを下回ったためとしている。

(イ) 子ども・子育て支援対策推進事業費補助金の予算の執行状況

厚生労働省所管一般会計(項)子ども・子育て支援対策費(目)子ども・子育て支援対策推進事業費補助金の予算の執行状況をみると、図表1-1-13のとおり、28年度歳出予算現額24億余円に対して、支出済歳出額13億余円、不用額11億余円、29年度歳出予算現額35億余円に対して、支出済歳出額17億余円、不用額17億余円、30年度歳出予算現額30億余円に対して、支出済歳出額24億余円、不用額5億余円となっている。

そして、執行率及び不用率は、それぞれ28年度54.5%、45.4%、29年度50.0%、49.9%、30年度81.7%、18.2%となっている。

図表1-1-13 子ども・子育て支援対策推進事業費補助金の歳出決算額等

(単位:千円)
区分
年度
当初予算額 予算補正追加額 前年度繰越額 歳出予算現額 支出済歳出額 翌年度繰越額 不用額
平成28年度 2,430,103 2,430,103 1,326,648 1,103,455
        (54.5%)   (45.4%)
29年度 3,541,852 3,541,852 1,774,320 1,767,532
        (50.0%)   (49.9%)
30年度 3,018,029 3,018,029 2,467,015 551,014
        (81.7%)   (18.2%)

(注) 「支出済歳出額」及び「不用額」欄の括弧内は、それぞれ執行率及び不用率を示している。

 (目)子ども・子育て支援対策推進事業費補助金については、支出済歳出額の全額が子ども・子育て支援体制整備総合推進事業費国庫補助金又は子ども・子育て支援推進調査研究事業費補助金として交付されており、両補助金により都道府県及び市町村が事業主体となるなどして各種事業が実施されている。これらの事業は、家庭的保育事業、放課後児童健全育成事業等に関わる職員の質の向上を図る研修を行うとともに、新たな事業の創設や既存事業の拡充に伴い、更なる人材の確保を図ることなどを目的とするものである。

厚生労働省は、28年度に不用額が生じた理由について、両補助金は27年度に創設されたものであり、実施主体である都道府県及び市町村において、研修ニーズの把握ができていなかったり、研修の実施体制が整っていなかったりなどしていたためとしている。また、29年度に不用額が生じた理由について、29年度から保育現場におけるリーダー的職員に対する研修である「保育士等キャリアアップ研修」が創設されたが、実施主体である都道府県及び市町村において、研修の実施体制が整っていなかったためとしている。

一方、30年度における(目)子ども・子育て支援対策推進事業費補助金の執行率は、81.7%に改善されており、これについて厚生労働省は、実施主体に対して積極的に研修を実施するように周知したことなどのためであるとしている。

オ 子どもの貧困対策に係る施策の予算の執行状況
(ア) 地域子供の未来応援交付金の予算の執行状況

内閣府所管一般会計(組織)内閣本府(項)共生社会政策費(目)地域子供の未来応援交付金の予算の執行状況をみると、図表1-1-14のとおり、28年度歳出予算現額33億余円に対して、支出済歳出額2億余円、翌年度繰越額9億余円、不用額21億余円、29年度歳出予算現額16億余円に対して、支出済歳出額2億余円、翌年度繰越額6億余円、不用額7億余円、30年度歳出予算現額10億余円に対して、支出済歳出額2億余円、翌年度繰越額2億余円、不用額5億余円となっている。

そして、執行率、繰越率及び不用率は、それぞれ28年度5.9%、29.4%、64.6%、29年度15.7%、38.0%、46.2%、30年度24.3%、25.0%、50.6%となっている。

図表1-1-14 地域子供の未来応援交付金の歳出決算額等

(単位:千円)
区分
年度
当初予算額 予算補正追加額 前年度繰越額 歳出予算現額 支出済歳出額 翌年度繰越額 不用額
平成28年度 999,496 2,397,137 3,396,633 201,274 999,496 2,195,863
        (5.9%) (29.4%) (64.6%)
29年度 613,094 999,496 1,612,590 253,309 613,094 746,187
        (15.7%) (38.0%) (46.2%)
30年度 150,750 254,775 613,094 1,018,619 248,382 254,775 515,462
        (24.3%) (25.0%) (50.6%)
  • 注(1) 「支出済歳出額」「翌年度繰越額」及び「不用額」欄の括弧内は、それぞれ執行率、繰越率及び不用率を示している。
  • 注(2) 平成28年度の「前年度繰越額」は、27年度の予算補正追加額の全額を繰り越したものである。

 (目)地域子供の未来応援交付金については、支出済歳出額の全額が、貧困対策大綱に記載された「地域における施策推進への支援」に関する事業を実施するための交付金である未来応援交付金として交付されている。

内閣府は、28、29両年度に翌年度繰越額が生じた理由について、全額が補正予算による追加額であって、地方公共団体において、未来応援交付金に係る事業を実施するために必要な議会の承認手続を行うことや同事業を年度内に終えることが困難であるとして、年度内に交付申請を行わなかった地方公共団体が多かったためとしている。

また、内閣府は、28、29両年度に不用額が生じた理由について、27年度に創設された未来応援交付金では、実態調査と計画策定等を同一年度内に実施することが交付要件となっており、地方公共団体において、これらを同一年度内に実施する余裕がなく、交付申請を行った地方公共団体数が当初の内閣府の想定したものより少なかったこと、契約価格が予定を下回ったことなどのためとしている。

内閣府は、上記の地方公共団体の状況を考慮するなどして、28年9月に上記の交付要件の緩和を行ったり、地方公共団体に対して事業を実施するに当たっての参考事例を紹介したりなどしている。

そして、内閣府等は、貧困対策法改正により、市町村についても貧困対策計画の策定が努力義務とされたことから、貧困対策計画の策定に当たり未来応援交付金を活用できる旨を記載した事務連絡を令和元年6月に地方公共団体に対して発出し、改めて制度の周知等を行っている。

(イ) 雇用安定等給付金の予算の執行状況

厚生労働省所管労働保険特別会計雇用勘定(項)高齢者等雇用安定・促進費(目)雇用安定等給付金の予算の執行状況をみると、図表1-1-15のとおり、平成28年度歳出予算現額1113億余円に対して、支出済歳出額1055億余円、不用額58億余円、29年度歳出予算現額1402億余円に対して、支出済歳出額1236億余円、不用額165億余円、30年度歳出予算現額1517億余円に対して、支出済歳出額1397億余円、不用額120億余円となっている。

そして、執行率及び不用率は、それぞれ28年度94.7%、5.2%、29年度88.1%、11.8%、30年度92.0%、7.9%となっている。

図表1-1-15 雇用安定等給付金の歳出決算額等

(単位:千円)
区分
年度
当初予算額 流用等増△減額 前年度繰越額 歳出予算現額 支出済歳出額 翌年度繰越額 不用額
平成28年度 128,722,929 △17,369,718 111,353,211 105,538,559 5,814,651
        (94.7%)   (5.2%)
29年度 151,155,159 △10,903,264 140,251,895 123,694,274 16,557,620
        (88.1%)   (11.8%)
30年度 151,756,191 151,756,191 139,700,342 12,055,848
        (92.0%)   (7.9%)
  • 注(1) 「支出済歳出額」及び「不用額」欄の括弧内は、それぞれ執行率及び不用率を示している。
  • 注(2) 「流用等増△減額」については、平成28年度は(項)男女均等雇用対策費(目)雇用安定等給付金に移用されており、29年度は(項)高齢者等雇用安定・促進費(目)高齢・障害者雇用開発支援事業費補助金に流用されている。

 (目)雇用安定等給付金については、支出済歳出額の一部が特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)(28年度は特定就職困難者雇用開発助成金)及びトライアル雇用助成金(一般トライアルコース)(28年度はトライアル雇用奨励金)として交付されている。両助成金は公共職業安定所等の紹介により、事業主が対象労働者を雇い入れるなどした場合に受給することができるものであるが、対象労働者として母子家庭の母等が含まれていることから、保護者に対する就労の支援として子どもの貧困対策に係る主な施策に分類されている。

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)及びトライアル雇用助成金(一般トライアルコース)の執行状況をみたところ、28年度の両助成金の見込額は、それぞれ729億余円、40億余円となっていて、このうち母子家庭の母等に係る分の見込額はそれぞれ138億余円、1億5225万円、実績額はそれぞれ89億余円(母子家庭の母等に係る分の見込額に対する割合64.8%)、2346万余円(同15.4%)となっていて、見込額と実績額との差額はそれぞれ48億余円、1億2878万余円となっている。また、29年度の両助成金の見込額は、それぞれ662億余円、37億余円となっていて、このうち母子家庭の母等に係る分の見込額はそれぞれ129億余円、5400万円、実績額はそれぞれ74億余円(同57.4%)、2186万余円(同40.4%)となっていて、見込額と実績額との差額はそれぞれ55億余円、3213万余円となっている。

厚生労働省は、このように多くの差額が生じた理由について、景気回復に伴い雇用情勢が改善されていることにより、トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)については、一定期間の試行雇用を経ずに長期の雇用を希望する母子家庭の母等が多くなり、同助成金を事業主が利用しなかったことなどのためとしている。

一方、30年度における母子家庭の母等に対する特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)及びトライアル雇用助成金(一般トライアルコース)の実績額の見込額に対する割合は、厚生労働省が需要等を勘案して見込額を見直すなどしたことにより、それぞれ70.3%、80.2%になっている。

このように、子ども・子育て支援施策の各交付金等に係る一部の(目)において、多額の不用額が生じていたり、当該(目)の支出に係る返納金が生じていたりしている状況が見受けられた。返納金等が生ずる要因等は多様であり、多額の返納金等が生じたことなどをもって、直ちに予算の執行が適切でないとすることは適当ではないものの、多額の返納金等が生じている補助金等については、財政状況が厳しい現状においては、予算の執行をより的確に行っていくことが重要であることなどを踏まえて、事業の需要等を適切に把握するなどして、予算の執行等が適時適切なものとなっているかなどについて十分に検討することが必要であると認められる。

また、年金特別会計子ども・子育て支援勘定に毎年度多額の返納金が生じ、同勘定における30年度末の積立金残高が多額に上っていて、令和元年度末には積立金残高が更に増加することが見込まれることから、企業主導型保育事業等を実施していく上で必要となる歳入について適時適切に検討していくことが必要であると認められる。

(2) 子ども・子育て支援施策の実施状況

ア 保育施設等整備施策の実施状況
(ア) 保育施設等整備施策に係る計画の策定状況

前記のとおり、政府は、保育施設等整備施策に係る計画として、平成25年4月に25年度から29年度までの5年間を実施期間とする加速化プランを、29年6月に30年度から34年度(令和4年度)までの5年間(その後、32年度(令和2年度)までの3年間に変更)を実施期間とする子育て安心プランをそれぞれ策定し公表している。

加速化プランは、当初、29年度末までに40万人分の保育の受け皿を確保することを目標としていたが、27年11月には、女性の就業率が更に上昇することを念頭に目標を上積みして、29年度末までに50万人分の保育の受け皿を確保することを目標とすることとなった。

厚生労働省は、「「待機児童解消加速化プラン」の実施方針に基づく「待機児童解消加速化計画」について(依頼)」(平成25年雇児保発0606第1号)等における「待機児童解消加速化プランの実施方針」等に基づき、原則として各年度4月1日において待機児童が1人以上存在している状況又は待機児童がいない場合であっても、今後、潜在的な需要も含めて保育需要の増大が見込まれる状況である市町村が、待機児童解消加速化計画を策定し、同実施方針等に定められている事業を実施する場合に、同事業の補助率のかさ上げを行うなどして保育施設の整備等を推進することとしている(以下、各年度において待機児童解消加速化計画を策定した市町村を「加速化プラン参加市町村」といい、加速化プラン参加市町村が補助率のかさ上げなどを受けて実施した事業を「加速化プラン採択事業」という。)。そして、同実施方針等によれば、この補助率のかさ上げなどの対象となる事業は、支援制度の施行に伴い交付されている保育所等整備交付金及び保育対策総合支援事業費補助金や、「平成20年度子育て支援対策臨時特例交付金(安心こども基金)の交付について」(平成21年20文科初第1278号・厚生労働省発雇児第0305005号)等に基づき交付された「子育て支援対策臨時特例交付金」を原資として都道府県が造成した「安心こども基金」による施設整備に係る事業等とされている。

加速化プランの目標値の設定方法を確認したところ、厚生労働省は、当初の29年度末までの目標である40万人分については、国立社会保障・人口問題研究所の29年10月時点の年齢別の推計人口(24年推計(中位))に、市町村の保育需要に係る調査を基に推計した29年度末の小学校就学前子ども数に対する利用児童数の割合(以下「保育所等利用率」という。)(3歳未満児44%、3歳以上児48%)を乗じて算出した利用児童数265万人から、24年度の保育所運営費等に係る予算の積算上の児童数225万人を差し引いて算定していた。また、上積み後の目標である50万人分については、27年9月に公表した29年度末までの加速化プランによる保育の受け皿の拡大量の見込みが45.6万人分となったこと及び28年度から実施する企業主導型保育事業により29年度末までに5万人分程度の保育の受け皿の整備を行うこととなったことを踏まえて算定していた。

子育て安心プランは、前記のとおり、32年度(令和2年度)末までの間に、32万人分の保育の受け皿を整備することを目標としている。

厚生労働省は、子育て安心プランを推進するために、加速化プランと同様に、対象事業の補助率のかさ上げなどの財政支援を行っている。その対象となる市町村は、30年度以降の各年度4月1日時点において待機児童が1人以上見込まれている市町村又は待機児童がいない見込みであってもその後潜在的な需要も含めて保育需要の増大が見込まれる市町村であり、33年度(令和3年度)までの各年度4月1日時点の申込児童数(保育需要)、利用定員数及び待機児童数について、市町村全域及び教育・保育提供区域(市町村が、教育・保育を提供するための施設の整備の状況等を勘案して定める区域。以下「提供区域」という。)ごとに見込んだ上で、遅くとも32年度(令和2年度)末までに待機児童がゼロとなる子育て安心プラン実施計画を策定する市町村となっている。そして、上記財政支援の対象となる事業は、保育所等整備交付金、保育対策総合支援事業費補助金及び安心こども基金による施設整備に係る事業等となっている。

子育て安心プランの目標値の設定方法を確認したところ、厚生労働省は、国立社会保障・人口問題研究所の34年(令和4年)10月時点の年齢別の推計人口(29年推計(中位))に、25歳から44歳までの女性就業率が34年度(令和4年度)に80%まで上昇すること及びその女性就業率と相関して保育所等利用申込率も毎年一定割合が上昇することを想定して推計した35年度(令和5年度)の保育所等利用申込率(1・2歳児63.6%、3歳以上児57.1%)を乗ずるなどして算出した申込児童数295万人から、28年4月1日時点の利用児童数に28、29両年度の保育の受け皿の 拡大量の見込みを加えるなどして算出した30年度の利用児童数の見込み263万人を差し引いて算定していた。

市町村は、保育施設等整備施策に係る計画として、加速化プランによる補助率のかさ上げなどを希望する場合には待機児童解消加速化計画を、希望しない場合には保育拡大計画を、それぞれ毎年度策定して、施設等の種類ごとの利用定員数や翌年度以降の利用定員数の拡大量の見込みなどを定めることとなっている。また、子育て安心プランによる補助率のかさ上げなどを希望する場合には市町村全域及び提供区域ごとの子育て安心プラン実施計画を、希望しない場合には市町村全域の子育て安心プラン実施計画を、それぞれ毎年度策定して、申込児童数(保育需要)、利用定員数等を定めることとなっている。

(イ) 保育施設等整備施策に係る事業の実施状況

保育施設等整備施策に係る予算には、加速化プラン及び子育て安心プランによる補助率のかさ上げなどの対象となる保育所等整備交付金、保育対策事業費補助金、子育て支援対策臨時特例交付金(安心こども基金)等や、支援法に基づき保育所等以外の場で行う保育に係る事業に対して交付される子どものための教育・保育給付費補助金等がある。なお、子育て支援対策臨時特例交付金は、29年度以降は予算に計上されていない。

保育所等整備交付金、保育対策事業費補助金及び子どものための教育・保育給付費補助金による事業の実施状況をみたところ、次のとおりとなっていた。

a 保育所等整備交付金による事業の実施状況

 「保育所等整備交付金の交付について」(平成30年厚生労働省発子0508第1号)等によれば、保育所等整備交付金は、保育所、小規模保育事業所等の新設、修理、改造又は整備に要する経費等の一部に充てるために国が交付するものであり、待機児童の解消を図ることを目的とするものとされている。同交付金による保育施設等整備施策に係る主な事業の概要は、図表1-2-1のとおりとなっている。

図表1-2-1 保育所等整備交付金による保育施設等整備施策に係る主な事業の概要

事業名 事業の内容 補助率
保育所等施設整備事業 保育所、幼保連携型認定こども園の保育を実施する部分等の創設、増改築、大規模修繕等の施設整備を行うもの 2分の1(加速化プラン参加市町村であることなどの条件を満たす場合は3分の2)
小規模保育事業所施設整備事業 小規模保育事業所の創設、増改築、大規模修繕等の施設整備を行うもの

保育所等整備交付金による保育施設等整備施策に係る主な事業について、会計実地検査を行った166市区町村における実施状況をみたところ、27年度は42市区の116施設(交付金相当額計85億8380万余円)、28年度は83市区町の250施設(同計228億2919万余円)、29年度は106市区町村の433施設(同計448億7800万余円)を対象として実施されていた。

b 保育対策事業費補助金による事業の実施状況

 (目)保育対策事業費補助金から支出される保育対策総合支援事業費補助金は、地域の実情に応じた多様な保育需要に対応するため、小規模保育の設置等による保育の受け皿の確保や保育の担い手となる保育人材の確保に必要な措置を総合的に講ずることにより、待機児童の解消を図るとともに、子どもを安心して育てることができる環境整備を行うことを目的とするものである。同補助金による保育施設等整備施策に係る事業の概要は、図表1-2-2のとおりとなっている。

図表1-2-2 保育対策総合支援事業費補助金による保育施設等整備施策に係る事業の概要

事業名 区分 事業の内容 補助率
保育所等改修費等支援事業 賃貸物件による保育所改修費等 賃貸物件による保育所について、新設、定員拡大又は老朽 化に伴い必要となる経費(改修費等)の一部を補助するもの 2分の1(加速化プラン参加市町村であることなどの条件を満たす場合は3分の2)
小規模保育改修費等 賃貸物件等を活用した小規模保育事業所について、新設、 定員拡大又は老朽化に伴い必要となる経費(改修費等)の一部を補助するもの
認可化移行改修費等 認可保育所、認定こども園等への移行を希望する認可外保 育施設について、設備運営基準等に規定された基準を満たすために必要な経費(改修費等)の一部を補助するもの
家庭的保育改修費等 家庭的保育事業を行う者が家庭的保育事業を実施する上で 保育環境を整えるために必要な経費(改修費等)の一部を補助するもの
幼稚園における長時間預かり保育改修費等 長時間預かり保育等を実施する幼稚園であって、認定こど も園等への移行を希望する幼稚園について、事業の開設に必要な経費(改修費等)の一部を補助するもの

保育対策総合支援事業費補助金による保育施設等整備施策に係る事業について、前記の166市区町村における実施状況をみたところ、27年度は35市区の146施設(国庫補助金相当額計14億9951万余円)、28年度は67市区町の383施設(同計65億1116万余円)、29年度は69市区村の575施設(同計101億2048万余円)を対象として実施されていた。

c 子どものための教育・保育給付費補助金による事業の実施状況

子どものための教育・保育給付費補助金は、支援法に基づき、認可化移行運営費支援事業及び幼稚園における長時間預かり保育運営費支援事業の実施に要する経費に対して補助金を交付し、待機児童の解消を図るとともに、子どもを安心して育てることができるような体制整備を行うことを目的とするものである。同補助金による保育施設等整備施策に係る事業の概要は、図表1-2-3のとおりとなっている。

図表1-2-3 子どものための教育・保育給付費補助金による保育施設等整備施策に係る事業の概要

事業名 事業の内容 補助率
認可化移行運営費支援事業 認可保育所、認定こども園等への移行を希望する認可外保育施設に対して、移行に当たって必要となる経費を補助するなどのもの 原則として2分の1
幼稚園における長時間預かり保育運営費支援事業 長時間預かり保育等を実施する幼稚園であって、認定こども園等への移行を希望する幼稚園に対して、運営に要する費用の一部を補助するもの

子どものための教育・保育給付費補助金による保育施設等整備施策に係る事業について、前記の166市区町村における実施状況をみたところ、27年度は31市区町の343施設(国庫補助金相当額計29億9182万余円)、28年度は31市区の316施設(同計27億2631万余円)、29年度は25市区の235施設(同計22億0747万余円)を対象として実施されていた(「保育施設等整備施策等による効果の発現状況」については、後掲2(1)ア参照)。

イ 保育士等確保施策の実施状況
(ア) 保育士確保プラン等の策定状況

保育士確保プランにより新たに確保するとしている6.9万人の保育士について、その算定方法を確認したところ、厚生労働省は、29年度末までに国全体として確保することを目標とした46.3万人から、25年度の保育所勤務保育士数37.8万人及び29年度末までの自然増分2万人を差し引くなどして算出していた。そこで、29年度末までに国全体として確保することを目標とした保育士46.3万人及び29年度末までの自然増分2万人の算定根拠を確認したところ、次のとおりとなっていた。

① 29年度末までに国全体として確保することを目標とした保育士の人数46.3万人については、常勤換算方法(注5)により必要な保育士の人数を推計していて、各都道府県における利用児童数の増加見込みに対して、加速化プランに基づく保育施設等の増加数を都道府県ごとに推計し、この増加数に対して配置基準上必要となる保育士の人数を算出していた。そして、この配置基準上必要となる保育士の人数に、実態として加配されている保育士の人数を基に算出した割合を乗ずるなどした上で、各都道府県における保育士の需要の状況等を考慮し、目標とした保育士の人数を算定していた。

(注5)
常勤換算方法  従業者の勤務延べ時間数を、保育所等において常勤の従業者が勤務すべき時間数で除することにより、当該保育所等の従業者の員数を常勤の従業者の員数に換算する方法

② 29年度末までの自然増分2万人については、厚生労働省「平成24年社会福祉施設等調査」(平成26年3月公表)等における保育士の人数の推計から今後の入職・離職状況を勘案した変化率を算出して、この変化率を25年度における保育士の人数に乗ずるなどして算定していた。

そして、厚生労働省は、新たに必要となる6.9万人の保育士については、既に加速化プランにより取り組んでいる保育士確保施策や保育士確保プランの新たな取組により確保することとしており、既に加速化プランにより取り組んでいる保育士確保施策のうち、新たな人材輩出により2.5万人、離職防止施策の推進により1.5万人及び潜在保育士の掘り起こしにより0.9万人の計4.9万人を確保し、保育士確保プランの新たな取組のうち、保育士試験の年2回実施により0.8万人及び保育士に対する処遇改善等により1.2万人の計2.0万人を確保することとしていた。そして、これらの人数は、それぞれの項目に対応する事業における保育士確保の実績値や平均値等を基に推計したものとなっていた。

また、厚生労働省は、前記のとおり、加速化プランによる保育の受け皿の目標が40万人分から50万人分へ上積みされたことに伴って新たに確保することが必要となる保育人材を6.9万人から9万人へ上積みしているが、この9万人については、 40万人分から50万人分への増加割合を保育士確保プランにより新たに確保するとしている6.9万人に乗ずるなどして算定していた。

さらに、子育て安心プランにおいて、32年度(令和2年度)末までに女性の就業率80%に対応できる32万人分の受け皿を整備するとしていることから、保育士等の必要数について見直しが行われているか確認したところ、厚生労働省は、新たに7.7万人の保育人材を確保する必要があると見込んでいた。そして、この7.7万人については、32万人分の利用児童を保育するために必要な保育人材の人数を、設備運営基準に基づくなどして機械的に算出した人数約4.9万人に、27年度における上記の算出方法に基づき算出した25年度からの増加人数に対する実際の保育人材の増加人数の割合を乗ずるなどして算定していた。

このように、厚生労働省が確保することを目標とした保育士等の人数は、利用児童数や加配されている保育士の人数等により大きく変化するものの、それらに関する将来の予測を的確に行うことは困難であることなどから、特定の年度における配置基準や保育士確保の実績値を基にして機械的に計算したり、一定の割合を乗じたりするなどして推計したものとなっていた。

(イ) 保育士等確保施策に係る事業の実施状況

a 保育対策総合支援事業費補助金による事業の実施状況

前記のとおり、46.3万人の保育士を確保するために保育士確保プランに掲げられている保育士確保のための事業のうち、主なものは、保育対策総合支援事業費補助金による事業が挙げられる。この事業は、「平成27年度保育対策総合支援事業費補助金の国庫補助について」(平成28年厚生労働省発雇児0114第2号。以下「保育対策総合支援事業費補助金交付要綱」という。)等に基づき保育対策総合支援事業費補助金の交付を受けて都道府県、市町村等が実施する事業であり、保育士等確保に関しても多くの事業の種類が設けられている。

(a) 保育士資格取得支援事業等の実施状況

前記のとおり、28、29両年度の保育対策総合支援事業費補助金による保育士等確保施策に係る実績額及び見込額に対応する翌年度への繰越額の合計が見込額を下回っている状況となっていた。そして、保育士等確保施策に係る事業の種類別にみると、保育士資格取得支援事業、保育人材就職支援事業、保育補助者雇上強化事業、若手保育士や保育事業者への巡回支援事業及び保育士等のキャリアアップ構築のための人材交流等支援事業の5事業において、見込額と実績額の開差が比較的大きくなっているなどの状況が見受けられた。そこで、会計実地検査を行った25都道府県及び166市区町村における27年度から30年度までの上記5事業の実施状況をみると、図表1-3-1のとおり、保育対策総合支援事業費補助金交付要綱等において事業の実施が可能とされている実施主体の数に対する事業を実施した実施主体の数の割合(以下「事業実施率」という。)は、最も高い年度でみても、保育士資格取得支援事業が56.7%(30年度)、保育人材就職支援事業が12.6%(30年度)、保育補助者雇上強化事業が16.8%(30年度)、若手保育士や保育事業者への巡回支援事業が10.9%(30年度)、保育士等のキャリアアップ構築のための人材交流等支援事業が1.2%(29年度)となっていて、事業実施率が20%未満となっているものが多く、事業の需要が低調となっている状況が見受けられた。そして、これらの事業を実施していない理由を確認したところ、多数の実施主体が、他の事業を優先的に実施していたこと、保育所等の運営主体からの要望等がなかったことなどのためとしていた。一方、上記5事業のうち、保育士等のキャリアアップ構築のための人材交流等支援事業を除いた4事業の事業実施率は徐々に上昇傾向となっていて、保育士等確保施策に係る事業を実施する実施主体が増加している状況が見受けられた。

図表1-3-1 25都道府県及び166市区町村における事業の実施状況

(単位:実施主体)
年度
事業名
区分
平成27年度 28年度 29年度 30年度
保育対策総合支援事業費補助金交付要綱等において事業の実施が可能とされている実施主体の数 事業を実施した実施主体の数 保育対策総合支援事業費補助金交付要綱等において事業の実施が可能とされている実施主体の数 事業を実施した実施主体の数 保育対策総合支援事業費補助金交付要綱等において事業の実施が可能とされている実施主体の数 事業を実施した実施主体の数 保育対策総合支援事業費補助金交付要綱等において事業の実施が可能とされている実施主体の数 事業を実施した実施主体の数
保育士資格取得支援事業 67 25 67 33 67 36 67 38
  (37.3%)   (49.2%)   (53.7%)   (56.7%)
保育人材就職支援事業     166 13 166 21
  (7.8%)   (12.6%)
保育補助者雇上強化事業   166 11 166 24 166 28
  (6.6%)   (14.4%)   (16.8%)
若手保育士や保育事業者への巡回支援事業   191 7 191 12 191 21
  (3.6%)   (6.2%)   (10.9%)
保育士等のキャリアアップ構築のための人材交流等支援事業   166 1 166 2 166 1
  (0.6%)   (1.2%)   (0.6%)
  • 注(1) 「保育補助者雇上強化事業」「若手保育士や保育事業者への巡回支援事業」及び「保育士等のキャリアアップ構築のための人材交流等支援事業」は平成28年度に、「保育人材就職支援事業」は29年度に、それぞれ創設されている。
  • 注(2) 括弧内は事業実施率を示している。

(b) 保育士・保育所支援センター設置運営事業の実施状況

保育士・保育所支援センター設置運営事業は、保育士の専門性向上と質の高い人材を安定的に確保するという観点から、潜在保育士の就職や保育所等の潜在保育士活用支援等を行う保育士・保育所支援センター(以下「支援センター」という。)の設置及び運営に要する費用の一部を国が補助することにより、必要な体制整備を行うことを目的としている。

保育士・保育所支援センター設置運営事業の補助対象は、「支援センターの設置及び運営」「保育士再就職支援コーディネーターの配置」「保育士登録を活用した人材バンク機能の強化」(以下「人材バンク機能強化事業」という。)等の取組となっている。このうち、「支援センターの設置及び運営」は、都道府県、政令指定都市及び中核市が実施主体となって、支援センターを設置し、潜在保育士の再就職支援等に係る潜在保育士への就職あっせん、求人情報の提供等の業務を行うものであり、「保育士再就職支援コーディネーターの配置」は、支援センターの設置及び運営に係る業務を円滑に実施するための保育所等に関する採用募集状況の把握、求職者のニーズに合った就職先の提案等の業務を行うものである。また、人材バンク機能強化事業は、支援センターが、保育士登録後の就職促進に活用するために、支援センターが管理する名簿(以下「センター名簿」という。)に登録されている保育士について、就業状況、就業していない場合の再就職希望の有無等を把握するとともに、再就職に向けた連絡調整に関して、求人情報や就職相談会、研修等に関する情報の提供等の業務を行うものである。

そして、保育士・保育所支援センター設置運営事業により支援センターの設置及び運営を実施している実施主体数等を調書等で確認したところ、図表1-3-2のとおり、実施主体数は27年度は31都府県及び12市の計43実施主体、30年度は39都府県及び21市の計60実施主体となっていて、27年度から30年度まで一貫して増加していた。また、30年度におけるセンター名簿へ登録した件数は計19,394件、支援センターが受け付けた求職の件数は計13,897件、支援センターの紹介により、就職を希望していた保育士の就職につながった件数(以下「就職件数」という。)は計4,495件となっていた。

一方、一部の支援センターにおいては、保育所等に就職した者を職種別に管理していないなどのため、支援センターの紹介による就職件数に、保育士以外の看護師、調理員等が含まれているか確認できないなどしていて、潜在保育士が就職した件数を正確に把握できない状況となっていた。

図表1-3-2 全国の支援センターの紹介による就職件数等

(単位:実施主体、件)
年度
区分
実施主体
平成27年度 28年度 29年度 30年度
実施主体数 センター名簿へ登録した件数 支援センターが受け付けた求職の件数 支援センターの紹介による就職件数 実施主体数 センター名簿へ登録した件数 支援センターが受け付けた求職の件数 支援センターの紹介による就職件数 実施主体数 センター名簿へ登録した件数 支援センターが受け付けた求職の件数 支援センターの紹介による就職件数 実施主体数 センター名簿へ登録した件数 支援センターが受け付けた求職の件数 支援センターの紹介による就職件数
都道府県 31 8,122 8,690 1,827 36 14,263 12,494 2,352 39 14,810 11,381 2,482 39 16,202 11,394 2,990
政令指定都市及び中核市 12 1,493 1,344 657 15 2,464 2,819 1,009 18 3,041 2,889 1,227 21 3,192 2,503 1,505
43 9,615 10,034 2,484 51 16,727 15,313 3,361 57 17,851 14,270 3,709 60 19,394 13,897 4,495

(注) 「支援センターの紹介による就職件数」には、保育士以外の看護師、調理員等が含まれているものがある。

b 保育士等の処遇改善の実施状況

前記のとおり、保育士の平均給与は全業種の平均給与と比較して低い給与水準となっていて、東京都保育士実態調査報告書では、保育士による現在の職場への改善希望のうち給与・賞与等の改善を希望する保育士の割合が最も高い結果となっており、給与・賞与等の改善は、保育士等確保施策の中でも重要な施策の一つとなっている。そして、保育士確保プランの新たな取組の一つとして、保育士の処遇改善の実施が掲げられており、同プランによる保育士の賃金改善は、施設型給付費等の処遇改善等加算により実施されている。

(a) 処遇改善等加算の加算額等

前記のとおり、処遇改善等加算には、処遇改善等加算 I と処遇改善等加算 II があり、両加算に係る加算額はそれぞれ職員の賃金改善に充てることとなっている。処遇改善通知等によれば、両加算の内容、加算額の算定方法等は次のとおりとされている。

i 処遇改善等加算 I

処遇改善等加算 I には、図表1-3-3のとおり、基礎分と賃金改善要件分があり、基礎分は、施設型給付費等の支給を受ける全ての保育所等が対象となっており、賃金改善要件分は、賃金改善を実施する計画を策定しているなどの賃金改善要件に適合する保育所等が対象とされている。そして、処遇改善等加算 I の加算額は、告示に定められた地域区分等に応じた単価に加算率を乗じて得た額とすることとされており、加算率は、職員1人当たり平均経験年数の区分に応じ、基礎分及び賃金改善要件分の値を合計して得た値によるものとすることとされている。

図表1-3-3 処遇改善等加算 I の加算率区分表(平成29年度)

職員1人当たりの平均経験年数
加算率
基礎分
賃金改善要件分(注)
 
キャリアパス要件分
11年以上 12% 6% 2%
10年以上11年未満 12% 5%
9年以上10年未満 11%
8年以上9年未満 10%
7年以上8年未満 9%
6年以上7年未満 8%
5年以上6年未満 7%
4年以上5年未満 6%
3年以上4年未満 5%
2年以上3年未満 4%
1年以上2年未満 3%
1年未満 2%

(注) 賃金改善要件分は、職員の職務内容等に応じた勤務条件等の要件を定めているなどのキャリアパス要件に適合しない保育所等については、キャリアパス要件分を減じた値とする。

処遇改善等加算 I の賃金改善要件分(以下「処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)」という。)は、基準年度(注6)の職員の賃金水準に対して改善を行うためのものであり、当該改善の起点となる賃金は、基準年度における賃金水準を適用した場合の賃金の総額(以下「基準年度賃金総額」という。)に、公定価格における国家公務員の給与改定に伴う人件費の改定状況を踏まえた部分(以下「人件費の改定状況部分」という。)を加えた水準とすることとされている。そして、基準年度賃金総額は、当年度における職員を基準年度の賃金水準に当てはめた場合の賃金の総額とされていて、具体的には、当年度において勤続年数10年の職員がいる場合、基準年度当時の職員自身の賃金ではなく、基準年度当時の勤続年数10年目の職員の賃金を基にして、その給与水準に当てはめて算定するなどとされている。

(注6)
基準年度  市町村が行う支援法に基づく確認の効力が発生する年度の前年度又は平成27年3月31日以前において既に保育所として運営していた施設については24年度のいずれかの年度

そして、保育所等は、年度終了後速やかに市区町村長に対して、加算額、賃金改善に要した費用の総額(以下「賃金改善総額」という。)、加算額から賃金改善総額を控除した残余の額(以下「残額」という。)等を記載した賃金改善実績報告書を提出することとされており、基準年度賃金総額については、人件費の改定状況部分を加えて報告を行い、賃金改善総額については、図表1-3-4のとおり、当年度に賃金改善を行った場合の賃金の総額(以下「当年度賃金総額」という。)から基準年度賃金総額に人件費の改定状況部分を加えた額を控除した額を報告することなどとされている。

図表1-3-4 賃金改善総額の考え方(概念図)

図表1-3-4 賃金改善総額の考え方(概念図) 画像

そして、賃金改善総額は、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)に係る加算額以上であることが必要とされており、残額が生じた場合は、翌年度において、その全額を一時金等により職員の賃金改善に充てることとされている。

また、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)による賃金改善の対象となる賃金項目については、教育・保育に携わる人材に係る全体の賃金水準の底上げを行い、人材の確保や質の向上を図ることが必要であることから、手当や一時金等ではなく、基本給とすることが望ましいとされている。そして、賃金改善の方法は、全職員について、同じ賃金改善方法、同額の賃金引上げを必ずしも行う必要はなく、若年層に重点的に改善を行うなど、一部の職員のみを対象とすることや勤続年数等により改善額に差を設けて実施することも可能であるとされている。

ii 処遇改善等加算 II

処遇改善等加算 II は、副主任保育士、専門リーダー、中核リーダー、職務分野別リーダー、若手リーダー等の役職を設けることにより、キャリアパスの仕組みを構築し、保育士等の処遇改善に取り組む保育所等に対して、キャリアアップによる処遇改善に要する費用に係る加算として29年度に創設されたものである。そして、処遇改善等加算 II による賃金改善は、経験年数がおおむね7年以上の職員であって、副主任保育士、専門リーダー、中核リーダー及びこれらに相当する職位の発令等を受けた者については原則として月額4万円の賃金引上げ、経験年数がおおむね3年以上の職員であって職務分野別リーダー、若手リーダー及びこれらに相当する職位の発令等を受けた者については月額5千円の賃金引上げをそれぞれ行うことなどとされている。

処遇改善等加算 II の加算額は、告示に定められた単価に児童の年齢区分ごとに配置が必要な保育士等の人数を乗ずるなどして算定された額とすることとされており、その単価には法定福利費等の事業主負担分も含まれている。そして、保育所等は、年度終了後速やかに市区町村長に対して、加算額、賃金改善総額、残額等を記載した賃金改善実績報告書を提出することとされている。

そして、残額が生じた場合は、翌年度において、その全額を当年度の加算対象職員の賃金改善に充てることとされている。

また、処遇改善等加算 II による賃金改善は、一定の技能・経験を有する職員について相応の賃金改善を行うことで、職場への定着等を図るものであることから、賃金改善の対象となる賃金項目は、基本給又は役職手当や職務手当など職責又は職務に応じて、決まって毎月支払われる手当により行うものであることとされている。

そして、29年度における全国の処遇改善等加算の実施状況をみると、図表1-3-5のとおり、処遇改善等加算 I は、24,710施設のうち99.5%の24,596施設、処遇改善等加算 II は、24,687施設のうち74.1%の18,302施設を対象として実施されていた。

図表1-3-5 処遇改善等加算 I 及び処遇改善等加算 II の実施状況

(単位:施設)
区分 平成27年度 28年度 29年度
施設数 実施施設数   施設数 実施施設数   施設数 実施施設数  
割合 割合 割合
処遇改善等加算 I 18,193 17,930 98.5% 22,431 22,361 99.6% 24,710 24,596 99.5%
処遇改善等加算 II             24,687 18,302 74.1%

(b) 処遇改善等加算による職員の賃金改善の実施状況

処遇改善通知等によれば、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)及び処遇改善等加算 II に係る加算額は、確実に職員の賃金改善に充てることとされていることから、会計実地検査を行った166市区町村の6,089施設における処遇改善等加算による職員の賃金改善の実施状況等について賃金改善実績報告書等により検査したところ、次のような状況となっていた。

i 処遇改善等加算の加算額及び残額等の状況

施設型給付費等の支給を受けている保育所等6,089施設の28、29両年度における処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)及び29年度における処遇改善等加算 II の賃金改善実績報告書上の加算額等について確認したところ、図表1-3-6のとおり、28年度における処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)の加算額は5,334施設で計156億4604万余円、29年度における同加算額は5,854施設で計270億7290万余円、29年度における処遇改善等加算 II の加算額は4,804施設で計161億0398万余円となっていた。このうち、加算額の全部又は一部が、職員の賃金改善に充てられずに残額が生じていたものが、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)については28年度で556施設(処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)の支給を受けている5,334施設に対する割合10.4%)の計4億2072万余円、29年度で753施設(処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)の支給を受けている5,854施設に対する割合12.8%)の計9億2444万円、処遇改善等加算 II については29年度で1,724施設(処遇改善等加算 II の支給を受けている4,804施設に対する割合35.8%)の計4億2881万余円となっていた。また、賃金改善実績報告書が未提出等のため職員の賃金改善に充てられていたか市町村において確認できていなかったものが、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)については28年度で6施設(処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)の支給を受けている5,334施設に対する割合0.1%)の計1626万余円、29年度で8施設(処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)の支給を受けている5,854施設に対する割合0.1%)の計3742万余円、処遇改善等加算 II については29年度で6施設(処遇改善等加算 II の支給を受けている4,804施設に対する割合0.1%)の計2265万余円となっていた。

このように、加算額の全部又は一部が、職員の賃金改善に充てられずに残額が生ずるなどしていたものが、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)については28年度で計562施設(処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)の支給を受けている5,334施設に対する割合10.5%)の合計4億3699万円、29年度で計761施設(処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)の支給を受けている5,854施設に対する割合12.9%)の合計9億6186万余円、処遇改善等加算 II については29年度で計1,730施設(処遇改善等加算 II の支給を受けている4,804施設に対する割合36.0%)の合計4億5146万余円となっていて、翌年度において職員の賃金改善に充てるなどする必要がある状況となっていた。

図表1-3-6 166市区町村の保育所等における処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)及び処遇改善等加算 II の加算額、賃金改善総額及び残額等の状況

(単位:施設、千円)
区分 年度 加算額及び賃金改善総額の状況 残額等の状況
施設数 加算額 賃金改善総額 職員の賃金改善に充てられずに残額が生じていた保育所等 職員の賃金改善に充てられていたか市町村において確認できていなかった保育所等
施設数 残額 施設数 職員の賃金改善に充てられていたか市町村において確認できていなかった金額 施設数 残額等
処遇改善等加算 I
(賃金改善要件分)
平成28年度 5,334 15,646,047 15,209,057 556 420,727 6 16,263 562 436,990
        (10.4%)   (0.1%)   (10.5%)  
29年度 5,854 27,072,909 26,111,041 753 924,440 8 37,428 761 961,868
        (12.8%)   (0.1%)   (12.9%)  
処遇改善等加算 II 29年度 4,804 16,103,985 15,652,518 1,724 428,816 6 22,651 1,730 451,467
        (35.8%)   (0.1%)   (36.0%)  
  • 注(1) 「加算額及び賃金改善総額の状況」欄の施設数には、保育所以外に保育所型認定こども園(特別区及び政令指定都市は除く。)等を含んでいる。
  • 注(2) 賃金改善総額は、各保育所等の処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)と処遇改善等加算 II の加算額を上限として計算している。

前記加算額の全部又は一部が職員の賃金改善に充てられずに残額が生じていた理由をみると、図表1-3-7のとおり、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)については、加算見込額等を基に算定しているが年度途中の処遇改善等加算の単価改定等が反映されておらず、加算額の実績が加算見込額を上回ったなどのためとした保育所等が28年度で330施設、29年度で373施設と多くなっていた。また、処遇改善等加算 II については、賃金改善に伴う法定福利費等の事業主負担分が、加算額に含まれている法定福利費等の事業主負担分を下回ったなどのためとした保育所等が29年度で886施設と多くなっていた。

図表1-3-7 残額が生じていた理由

(単位:施設)
区分 年度 残額が生じていた保育所等の施設数 残額が生じていた理由
加算見込額等を基に算定しているが年度途中の処遇改善等加算の単価改定等が反映されておらず、加算額の実績が加算見込額を上回ったなどのため 年度途中で退職等、職員の人事異動があったため 賃金改善総額の算定方法等に関する考え方を誤っていたため 賃金改善に伴う法定福利費等の事業主負担分 が、加算額に含まれている法定福利費等の事業主負担分を下回ったなどのため その他
  割合   割合   割合   割合   割合
処遇改善等加算 I
(賃金改善要件分)
平成28年度 556 330 59.3% 33 5.9% 139 25.0% 6 1.0% 48 8.6%
29年度 753 373 49.5% 37 4.9% 250 33.2% 11 1.4% 82 10.8%
処遇改善等加算 II 29年度 1,724 370 21.4% 271 15.7% 130 7.5% 886 51.3% 67 3.8%

ii 残額が生ずるなどしていた保育所等の翌年度における職員の賃金改善の実施状況

前記のとおり、残額が生じた場合は、翌年度においてその全額を職員の賃金改善に充てることとされている。そこで、残額が生ずるなどしていた保育所等の翌年度における職員の賃金改善の実施状況について確認したところ、一部の保育所等において、その残額が職員の賃金改善に充てられていないなどの状況が見受けられた。

そして、賃金改善実績報告書に記載されていた賃金改善総額等を基にするなど一定の条件の下で機械的に計算すると、図表1-3-8のとおり、残額が生ずるなどしていたもののうち、残額の全部又は一部が翌年度においても職員の賃金改善に充てられていなかったものが、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)については28年度で88施設(残額が生ずるなどしていた562施設に対する割合15.6%)の計1億0157万余円(国庫負担金相当額計5078万余円)、29年度で134施設(残額が生ずるなどしていた761施設に対する割合17.6%)の計2億8523万余円(国庫負担金相当額計1億4261万余円)、処遇改善等加算 II については29年度で253施設(残額が生ずるなどしていた1,730施設に対する割合14.6%)の計8159万余円(国庫負担金相当額計4079万余円)となっていた。また、賃金改善実績報告書が未提出等のため残額の全部又は一部が翌年度に職員の賃金改善に充てられていたか市町村において確認できていなかったものが、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)については28年度で45施設(残額が生ずるなどしていた562施設に対する割合8.0%)の計5315万余円(国庫負担金相当額計2657万余円)、29年度で141施設(残額が生ずるなどしていた761施設に対する割合18.5%)の計1億6152万円(国庫負担金相当額計8076万円)、処遇改善等加算 II については29年度で50施設(残額が生ずるなどしていた1,730施設に対する割合2.8%)の計3643万余円(国庫負担金相当額計1821万余円)となっていた。

このように、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)については28年度で計133施設(残額が生ずるなどしていた562施設に対する割合23.6%)の合計1億5472万余円(国庫負担金相当額合計7736万余円)、29年度で計275施設(残額が生ずるなどしていた761施設に対する割合36.1%)の合計4億4675万余円(国庫負担金相当額合計2億2337万余円)、処遇改善等加算 II については29年度で計303施設(残額が生ずるなどしていた1,730施設に対する割合17.5%)の合計1億1803万余円(国庫負担金相当額合計5901万余円)が、翌年度においても職員の賃金改善に充てられていなかったなどの状況となっていた。

そして、残額の全部又は一部が翌年度においても職員の賃金改善に充てられていなかった理由をみると、残額を支払うことを失念していたとした保育所等が、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)については、28年度で52施設、29年度で84施設、処遇改善等加算 II については、29年度で138施設等となっていた。

図表1-3-8 残額の全部又は一部が翌年度においても職員の賃金改善に充てられていなかったなどした施設数及び残額等

(単位:施設、千円)
区分 年度 残額の全部又は一部が翌年度においても職員の賃金改善に充てられていなかった保育所等 残額の全部又は一部が翌年度に職員の賃金改善に充てられていたか市町村において確認できていなかった保育所等
施設数 職員の賃金改善に充てられていなかった残額 施設数 職員の賃金改善に充てられていたか市町村において確認できていなかった金額 施設数 残額等
処遇改善等加算 I
(賃金改善要件分)
平成28年度 88 101,571 45 53,151 133 154,722
(15.6%) (50,785) (8.0%) (26,575) (23.6%) (77,361)
29年度 134 285,232 141 161,520 275 446,752
(17.6%) (142,616) (18.5%) (80,760) (36.1%) (223,376)
28、29両年度計 199 386,803 160 214,671 357 601,474
(18.2%) (193,401) (14.6%) (107,335) (32.7%) (300,737)
処遇改善等加算 II 29年度 253 81,595 50 36,438 303 118,033
(14.6%) (40,797) (2.8%) (18,219) (17.5%) (59,016)
  • 注(1) 「施設数」欄の括弧内は残額が生ずるなどしていた施設に対する割合を、「職員の賃金改善に充てられていなかった残額」「職員の賃金改善に充てられていたか市町村において確認できていなかった金額」及び「残額等」欄の括弧内は国庫負担金相当額を、それぞれ示している。
  • 注(2) 「28、29両年度計」欄の施設数は、両年度に該当がある施設を1施設として集計している。

前記のとおり、保育士等確保施策の中でも給与・賞与等の改善は重要な施策の一つとなっており、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)及び処遇改善等加算 II に係る加算額については確実に職員の賃金改善に充てることが必要となる。したがって、内閣府において、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)及び処遇改善等加算 II に残額が生ずるなどした場合に、保育所等がその全額を翌年度に職員の賃金改善に充てているかについて確認等を行うとともに、残額を確実に職員の賃金改善に充てるよう保育所等に対して指導等を行うよう市町村に対して周知することが必要であると認められる。

iii 賃金改善の対象とした賃金項目

前記のとおり、賃金改善の対象となる賃金項目は、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)については、手当や一時金等ではなく基本給とすることが望ましいとされている。また、処遇改善等加算 II については、基本給又は役職手当や職務手当など職責又は職務に応じて、決まって毎月支払われる手当により行われるものであることとされている。

前記保育所等の28、29両年度における処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)に係る賃金改善の対象とした賃金項目をみると、図表1-3-9のとおり、基本給以外の手当や一時金等により賃金改善を行った保育所等が28年度3,327施設(5,334施設に対する割合62.3%)、29年度3,314施設(5,854施設に対する割合56.6%)となっていた。

そして、基本給による賃金改善を行っていなかった理由をみると、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)に係る加算額が未確定の年度当初から賃金として支払う額を算定することが困難であるためとした保育所等が28年度で2,149施設、29年度で2,112施設と最も多くなっていた。

一方、処遇改善等加算 II に係る賃金改善の対象とした賃金項目をみると、基本給又は決まって毎月支払われる手当により賃金改善を行った保育所等が29年度3,590施設(4,804施設に対する割合74.7%)となっていた。

なお、処遇改善等加算 II について、基本給又は決まって毎月支払われる手当による賃金改善ではなく、一時金等により賃金改善を行っていた29年度の1,214施設における理由をみると、処遇改善等加算 II に係る加算額が未確定の年度当初から賃金として支払う額を算定することが困難であるためとした保育所等が606施設と最も多くなっていた。

図表1-3-9 賃金改善の対象とした賃金項目

(単位:施設)
区分
年度
処遇改善等加算 I (賃金改善要件分) 処遇改善等加算 II
施設数   施設数  
基本給等
基本給以外の手当等
基本給又は毎月支払われる手当等 基本給又は毎月支払われる手当以外の手当等
  割合   割合   割合   割合
平成28年度 5,334 2,007 37.6% 3,327 62.3%          
29年度 5,854 2,540 43.3% 3,314 56.6% 4,804 3,590 74.7% 1,214 25.2%

(c) 処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)の算定状況

前記のとおり、処遇改善通知等によれば、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)については、当年度賃金総額から基準年度賃金総額に人件費の改定状況部分を加えた額を控除して賃金改善総額を算定した上で、賃金改善を行うこととされており、賃金改善総額は、賃金改善要件分に係る加算額以上であることが必要とされている。

そして、賃金改善実績報告書には、賃金改善総額や、常勤職員や非常勤職員等の区分ごとに合計した賃金改善実績等を記載することとなっているが、賃金改善総額の算出過程が確認できる職員ごとの賃金の内訳を記載することとはなっていない。

そこで、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)の賃金改善総額が適切に算定されているかなどについて、前記166市区町村の保育所等のうち、支援制度の施行前から既に保育所として運営していた保育所等であって平均的な規模と考えられるなどの一定の基準に該当する保育所等の中から、市及び特別区においては2施設、町村においては1施設を抽出するなどし、28年度296施設、29年度299施設を対象として検査した。そして、各保育所等における賃金改善の状況について確認したところ、次のとおりとなっていた。

i 調書等により試算して算出した賃金改善総額等の状況

上記の抽出して検査した保育所等において、調書等により職員ごとの基準年度における賃金水準を適用した場合の賃金を試算するなどして賃金改善総額を改めて算出したところ、賃金改善総額が適切に算定されておらず、図表1-3-10のとおり、試算した賃金改善総額が、賃金改善実績報告書に記載されていた賃金改善総額を下回り、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)に係る加算額未満となっていた。そして、残額が生じたり増加したりしたものが28年度で61施設(抽出して検査した296施設に対する割合20.6%)の計8428万余円(国庫負担金相当額計4214万余円)、29年度で62施設(抽出して検査した299施設に対する割合20.7%)の計1億1248万余円(国庫負担金相当額計5624万余円)となっていた。

図表1-3-10 残額が生じたり増加したりした保育所等

(単位:施設、千円)
区分
年度
抽出して検査した保育所等の施設数 残額が生じたり増加したりした保育所等の施設数 生じたり増加したりした残額
平成28年度 296 61 84,281
  (20.6%) (42,140)
29年度 299 62 112,481
  (20.7%) (56,240)
301 81 196,762
  (26.9%) (98,380)
  • 注(1) 「残額が生じたり増加したりした保育所等の施設数」欄の括弧内は「抽出して検査した保育所等の施設数」に対する割合を、「生じたり増加したりした残額」欄の括弧内は国庫負担金相当額を、それぞれ示している。
  • 注(2) 「計」欄の施設数は、両年度に該当がある施設を1施設として集計している。

ii 賃金改善総額が適切に算定されていなかった要因等

上記の保育所等において、賃金改善総額が適切に算定されていなかった主な要因をみると、図表1-3-11のとおり、基準年度賃金総額に人件費の改定状況部分を加えていなかったなどのためとしていたものが28年度で44施設、29年度で44施設と最も多くなっていた。また、基準年度賃金総額の算定に当たり、当年度における職員を基準年度の賃金水準に当てはめた場合の賃金ではなく、基準年度当時の職員自身の賃金とするなどしていたためとしていたものが28年度で13施設、29年度で15施設となっていた。

また、市区町の担当者等が賃金改善総額が適切に算定されていなかったことを確認等できなかった理由をみると、賃金改善総額の算定方法が複雑であり理解が十分でなかったためとした市区町が28年度で42市区町のうち11市区町、29年度で39市区町のうち15市区町と多くなっており、保育所等に対する算定方法等の周知が十分でなかったためとした市区町が28年度で9市区町、29年度で8市区町となっていた。

図表1-3-11 賃金改善総額が適切に算定されていなかった要因等

(単位:施設、市区町)
区分
年度
施設数 賃金改善総額が適切に算定されていなかった要因 市区町数
賃金改善総額が適切に算定されていなかったことを確認等できなかった理由
基準年度賃金総額に人件費の改定状況部分を加えていなかったなどのため 基準年度賃金総額を基準年度当時の職員自身の賃金とするなどしていたため 基準年度と当年度の各種手当等の取扱いが区々となっていたため その他 賃金改善総額の算定方法が複雑であり理解が十分でなかったため 施設数が多いことなどから保育所等の算定が適切か確認していなかったなどのため 保育所等に対する算定方法等の周知が十分でなかったため その他
平成28年度 61 44 13 12 11 42 11 15 9 7
29年度 62 44 15 11 7 39 15 11 8 5

(注) 「賃金改善総額が適切に算定されていなかった要因」欄は複数回答可能なため、合計しても「施設数」欄と一致しない。

上記について、事例を示すと次のとおりである。

<事例1> 賃金改善総額が適切に算定されていなかったため加算額の一部が職員の賃金改善に充てられていなかったもの

大分県大分市に所在するA法人の運営するB保育所は、平成29年度の処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)の加算額について、給与や一時金等により職員の賃金改善を行ったとして、賃金改善実績報告書において、加算額は673万余円、賃金改善総額は672万余円、残額は1万円であったとしていた。

しかし、職員ごとの基準年度における賃金水準を適用した場合の賃金を試算するなどして賃金改善総額を算出したところ、B保育所は、賃金改善総額の算定方法が複雑であり、給与事務担当者等が算定方法を十分に理解しておらず、基準年度賃金総額に人件費の改定状況部分を加えていなかったなどのため、賃金改善総額を適切に算定していなかった。そこで、基準年度賃金総額に人件費の改定状況部分を加えるなどして改めて算出すると、賃金改善総額は315万余円となり、加算額と賃金改善総額との差額358万余円が職員の賃金改善に充てられていない状況となっていた。

前記のとおり、賃金改善総額の算定方法等については、処遇改善通知等により示されているものの、賃金改善総額の算定方法が複雑であり理解が十分でなかったことなどのため、一部の保育所等において賃金改善総額が適切に算定されておらず、試算すると、処遇改善等加算 I (賃金改善要件分)に係る加算額のうち、職員の賃金改善に充てられていない額が生じたり増加したりすることとなる状況となっていた。したがって、内閣府において、保育所等が賃金改善総額を適切に算定して確実に職員の賃金改善を行うことができるよう、賃金改善総額の算定方法等について留意点等を具体的に示すなどして、市町村に対して改めて周知することが必要であると認められる(「保育士等確保施策による効果の発現状況」については、後掲2(1)イ参照)。

ウ 企業主導型保育事業の実施状況等
(ア) 企業主導型保育事業の整備計画の概要

前記のとおり、政府は、25年度から29年度末までの間に40万人分の保育の受け皿を確保することを目標とした加速化プランを25年4月に策定して、その後、27年11月に、29年度末までに確保する保育の受け皿の目標を40万人分から50万人分へ上積みしている。

政府は、この上積みした10万人分の保育の受け皿のうち約5万人分については、企業主導型保育事業により確保し、更に32年度(令和2年度)末までに同事業により計約11万人分の保育の受け皿を確保することとしている。

(イ) 企業主導型保育事業の実施状況

企業主導型保育事業の実施状況については、次のとおりとなっている。

a 企業主導型保育事業の実施

前記のとおり、内閣府は、28年度から30年度まで、児童育成協会を補助事業者として選定して、児童育成協会は、企業主導型実施要綱等に基づき、企業主導型保育事業費補助金を原資として、事業実施者に対して整備費及び運営費の助成を行う企業主導型保育助成事業を実施している。

企業主導型実施要綱等によれば、児童育成協会は、内閣府と協議するなどした上で、企業主導型保育助成事業を実施するために必要な要領を別に定めることとされており、これを受けて児童育成協会は、同事業の適切かつ円滑な実施を図るために、「平成28年度企業主導型保育事業助成要領」(平成28年5月制定)等(以下「企業主導型助成要領等」という。)を制定している。

そして、企業主導型助成要領等によれば、企業主導型保育施設を利用する児童は、1月当たりの利用日数が16日以上となるなどの条件を満たしている児童(以下「定期利用児童」という。)と、1月当たりの利用日数が15日以下となる児童(以下「不定期利用児童」という。)に区分され、児童育成協会は、それぞれの企業主導型利用児童数(注7)等に基づき算定された運営費助成金の交付を行うこととされている。

(注7)
企業主導型利用児童数  企業主導型保育施設を利用した定期利用児童、不定期利用児童及び各月の途中で利用を開始したり利用をやめたりした児童の合計

b 企業主導型保育事業による保育の受け皿拡大等

内閣府は、企業主導型保育事業の実施によって、図表1-4-1のとおり、28年度は871施設20,284人分、29年度までで2,597施設59,703人分、30年度までで3,817施設86,354人分の助成決定を行っていた。

図表1-4-1 助成決定が行われた企業主導型保育施設の施設数及び利用定員

(単位:施設、人)
区分
年度
企業主導型保育施設数 利用定員
平成28年度 871 20,284
29年度までの累計 2,597 59,703
30年度までの累計 3,817 86,354

(注) 「企業主導型保育施設数」及び「利用定員」欄は、各年度における助成決定が行われた企業主導型保育施設に係る施設数及び利用定員であることなどから、当該年度に開設されていない企業主導型保育施設に係るものなどが含まれている。

また、28年度から30年度までの間に企業主導型保育事業に係る助成決定を受けて整備等が行われ、28年4月から31年4月までの間に開設した企業主導型保育施設について、年齢別の利用定員をみると、31年4月時点で0歳児13,172人、1・2歳児33,678人、3歳児6,222人、4歳以上児7,784人、計60,856人となっていて、1・2歳児の利用定員が最も多く確保されていた。

c 企業主導型保育事業について指摘されている課題等

企業主導型保育事業については、昨今、一部の企業主導型保育施設において、整備費助成金の不適正な受給等が相次いで発覚しており、また、開設後短期間で廃止又は休止となったり、企業主導型利用児童数が利用定員を大幅に下回ったりするなどの事態が発生している。

このような状況を受けて、内閣府は、同事業における地方自治体との連携等に関して見直しなどを行っている。その結果、28、29両年度については、同事業の実施に当たり、地域の保育事情等を把握している都道府県や市町村の関与を受けることなく、事業実施者の判断により同事業の利用定員を設定することが制度上可能となっていたが、30年度の同事業の募集時からは、地域枠を設定する場合、当該地域の保育需要を踏まえた設定とする観点から地方公共団体に相談を行っていることなどを助成申請の前提とすることにしている。

そして、内閣府は、同事業の実施状況等を検証し、より円滑な同事業の実施に向けた改善策を検討するために、30年12月、有識者で構成する「企業主導型保育事業の円滑な実施に向けた検討委員会」(以下「検討委員会」という。)を設置するなどしている。検討委員会は、31年3月に、検討結果等についての報告を取りまとめており、同事業における保育の質の確保、継続性・安定性の確保、地方公共団体との適切な連携等について提言を行っている。

前記のとおり、会計検査院は、31年4月に、企業主導型保育施設の利用が低調となっている事態及び企業主導型保育施設の開設が遅延して児童を受け入れられていないなどの事態について、内閣総理大臣に対して会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求している。そして、上記事態の発生原因は、内閣府において、補助事業者に対して、助成の申込みに対する審査に当たり、利用定員の妥当性等について審査等を行わせていないことなどによると記述している。

d 整備費助成金の不適正な受給等

前記のとおり、昨今、整備費助成金の不適正な受給等が相次いで発覚するなどしており、児童育成協会は、事業実施者において整備費の助成申込みに当たり不正を行っていたり、合理的な理由なく企業主導型保育施設の運営が開始されなかったりしていた場合には、整備費の助成決定の取消しなどを行っている。そこで、児童育成協会が令和元年8月までに行った整備費の助成決定の取消しの状況を確認したところ、図表1-4-2のとおり、9事業実施者の13施設(整備費助成金交付額計8億9453万余円)について助成決定の取消しを行っており、この13施設に係る整備費の助成決定時点の利用定員は計659人となっていた。

図表1-4-2 図表1-4-2 児童育成協会が令和元年8月までに行った整備費の助成決定取消の状況

(単位:人、千円)
助成決定
取消年月日
設置場所 企業主導型保育施設名 事業実施者名 整備費に係る助成決定取消対象年度 利用定員 整備費助成金交付額 取消事由
平成30年
4月17日
秋田県
秋田市
笑咲保育園 有限会社心理教育相談室クローバー 平成28
注(2)
19 30,492 利用児童及び職員配置の水増しなどにより、助成金の虚偽申請、不正受給を行っていた事実が判明したため
30年
4月17日
沖縄県
沖縄市
あいらんど保育園沖縄園 株式会社CFO 28、29 19 7,706 施設整備完了後、運営が開始されなかったため
令和元年
7月5日
福岡県
福岡市
KIDSLAND柳瀬(仮称) J-Alive株式会社 30 71 整備費の完了報告において、事実とは異なる報告をしたため
元年
7月5日
福岡県
福岡市
KIDSLAND天神 株式会社ジャングルフードサービス 29、30 101 130,409 整備費の完了報告において、事実とは異なる報告をし、助成金の不正受給を行っていた事実が判明したため
元年
7月9日
東京都
杉並区
注(1) 合同会社ANELA 28 18 74,590 整備費の助成申込みにおいて不正を行っていたことが判明したため
元年
7月9日
東京都
目黒区
注(1) 合同会社ANELA 28 18 66,911 整備費の助成申込みにおいて不正を行っていたことが判明したため
元年
7月9日
東京都
世田谷区
注(1) 合同会社ANELA 28 22 69,508 整備費の助成申込みにおいて不正を行っていたことが判明したため
元年
7月31日
東京都
中野区
注(1) 合同会社ANELA 29 18 66,714 整備費の助成申込みにおいて不正を行っていたことが判明したため
元年
7月31日
東京都
世田谷区
注(1) 合同会社ANELA 29 29 72,789 整備費の助成申込みにおいて不正を行っていたことが判明したため
元年
7月31日
大阪府
大阪市
キッズランド真田山舟橋店 株式会社Rafio 28~30 71 101,872 合理的な理由なく、施設の運営が開始されないため
元年
8月9日
大阪府
大阪市
KIDSLAND美章園 株式会社東京キッズランド 29、30 71 72,753 ・整備費の完了報告において、事実とは異なる報告をし、助成金の不正受給を行っていた事実が判明したため
・合理的な理由なく、施設の運営が開始されないため
元年
8月9日
愛知県
名古屋市
KIDSLAND栄 株式会社GS 29、30 101 94,830 ・整備費の完了報告において、事実とは異なる報告をし、助成金の不正受給を行っていた事実が判明したため
・合理的な理由なく、施設の運営が開始されないため
元年
8月9日
愛知県
名古屋市
KIDSLAND守山 株式会社デザインワークス 29、30 101 105,960 ・整備費の完了報告において、事実とは異なる報告をし、助成金の不正受給を行っていた事実が判明したため
・合理的な理由なく、施設の運営が開始されないため
計(9事業実施者13施設) 659 894,534  
  • 注(1) 新たな事業実施者に譲渡され現在も運営されている企業主導型保育施設については、施設名を公表することにより、施設運営に影響を与えるおそれがあるとして内閣府が公表していないことなどから、施設名を記載していない。
  • 注(2) 平成28、29両年度の運営費の助成決定も取り消されている。
  • 注(3) 「整備費助成金交付額」欄は、整備費助成金の交付額(概算払を含む。)を記載しており、整備費の助成決定を受けたが、整備費助成金の交付を受けていない企業主導型保育施設については「-」としている。

会計検査院が検査したところ、上記9事業実施者の13施設以外においても、児童育成協会における事業完了報告書等の審査及び確認が十分でなかったことなどにより、事業実施者が整備費助成金を過大に精算するなどしていた事態が見受けられた。この事態については、不当事項として、平成30年度決算検査報告に掲記したところである。

また、前記整備費の助成決定が取り消された9事業実施者(13施設)のほか、助成決定後に、利用児童を十分に確保できないことなどを理由として、自ら企業主導型保育施設の整備又は運営を取りやめた事業実施者等も存在していることから、その状況を確認したところ、平成29年度に整備費又は運営費の助成決定を受けたものの30年度中に整備又は運営を取りやめていたのは112事業実施者等の117施設(29年度の整備費助成金交付額計6億3198万余円)となっており、この117施設に係る整備費の助成決定時点の利用定員は計3,019人となっていた。

内閣府は、現在、検討委員会の報告や会計検査院の指摘等を踏まえて、企業主導型保育事業の在り方等について見直しなどを行っているとしている。したがって、内閣府において、企業主導型保育事業の今後の見直しに当たっては、会計検査院が31年4月に内閣総理大臣に対して要求した改善の処置を適切に講じていくとともに、整備費助成金の不適正な受給や、開設後短期間で廃止等される企業主導型保育施設の発生等を未然に防止するために、整備費助成金を過大に精算するなどしていた事態等に係る会計検査院の検査結果も踏まえながら、企業主導型保育助成事業における審査機能の充実・強化等を適切に実施していくことが必要であると認められる(「企業主導型保育事業による効果の発現状況」については、後掲2(1)ウ参照)。

エ 放課後児童健全育成事業及び地域子育て支援拠点事業の実施状況
(ア) 放課後児童健全育成事業の実施状況

a 放課後児童健全育成事業等に係る計画の策定状況

前記のとおり、文部科学省及び厚生労働省は、放課後児童健全育成事業等に係る計画として、放課後プランを策定しており、放課後プランでは、文部科学省が所管する放課後子供教室と厚生労働省が所管する放課後児童クラブとの連携等について定められていた。放課後子供教室は、19年度から放課後子ども教室推進事業として開始され、29年度以降は地域学校協働活動推進事業により実施されているものである。「学校・家庭・地域連携協力推進事業費補助金実施要領」(平成27年3月文部科学省生涯学習政策局長・初等中等教育局長裁定)等によれば、放課後や週末等において、学校の余裕教室を活用するなどして全ての子どもたちの安全・安心な活動場所を確保し、学習や様々な体験・交流活動の機会を定期的・継続的に提供するものであるとされている。そして、放課後プランにおいては、全ての児童の安全・安心な居場所を確保するために、同一の小学校内等で放課後児童クラブ及び放課後子供教室を実施し、共働き家庭等の児童を含めた全ての児童が放課後子供教室の活動プログラムに参加できる取組(以下、このような取組を「一体型」という。)や、一体型でない場合であっても、近隣の放課後児童クラブと放課後子供教室が連携して活動する取組(以下、このような取組を「連携型」という。)を実施することとしている。

また、放課後プランにおいて定められている放課後児童クラブの整備目標等は、図表1-5-1のとおりとなっており、①約30万人分の放課後児童クラブを新たに整備(合計で約122万人分)すること、②新たに開設する放課後児童クラブの約80%を小学校内で実施すること、③放課後児童クラブ及び放課後子供教室について、全小学校区で一体型又は連携型を実施し、うち1万箇所以上について一体型で実施することとなっていた。上記①、②及び③の目標年度については、いずれも31年度(令和元年度)となっていたが、政府は、29年12月に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」等において、①、②及び③の全てについて、目標年度を30年度に前倒ししている。

図表1-5-1 放課後プランにおける整備目標等

対象 放課後プランにおける整備目標等
放課後児童クラブ 平成30年度末までに約30万人分を新たに整備(合計で約122万人分)
30年度末までに新たに開設するものの約80%を小学校内で実施
放課後児童クラブ及び放課後子供教室 30年度末までに全小学校区で一体型又は連携型を実施し、うち1万箇所以上について一体型で実施

上記約30万人分の算定根拠を確認したところ、厚生労働省は、各市町村が算出した31年度(令和元年度)の量の見込み(需要量)の合計である約122万人から26年5月1日時点に放課後児童クラブを利用するための登録を行っている児童(以下「登録児童」という。)の数約93万人を差し引いた人数により算定していた。

そして、文部科学省及び厚生労働省は、放課後プランの進捗状況や、児童福祉や教育分野における施策の動向も踏まえ、これまでの放課後児童対策の取組を更に推進するために、放課後児童クラブの利用を希望しているものの利用の登録ができない児童(以下「放課後待機児童」という。)の早期解消、一体型の推進等による全ての児童の安全・安心な居場所の確保を図ることなどを内容とした、令和元年度から5年間を対象とする「新・放課後子ども総合プラン」(以下「新放課後プラン」という。)を平成30年9月に策定し、公表している。新放課後プランによれば、放課後児童クラブについて、令和3年度末までに約25万人分を整備して放課後待機児童の解消を目指し、女性就業率の上昇を踏まえ5年度末までに更に約5万人分を整備し、5年間で約30万人分を整備することとされている。

b 放課後児童クラブ及び放課後子供教室に係る事業等の実施状況

(a) 放課後児童クラブ及び放課後子供教室に係る事業の実施状況

放課後児童クラブに係る事業の実施状況をみると、図表1-5-2のとおり、放課後児童クラブの数は平成27年度から30年度まで毎年度増加してきており、30年5月1日時点において25,328か所になっていた。また、放課後児童健全育成事業に係る子ども・子育て支援交付金及び子ども・子育て支援整備交付金の交付決定額も放課後児童クラブの数とともに増加しており、30年度はそれぞれ609億1511万余円及び113億8596万余円となっていた。

図表1-5-2 放課後児童クラブに係る事業の実施状況

(単位:か所、千円)
区分 平成27年度 28年度 29年度 30年度
放課後児童クラブの数 22,608 23,619 24,573 25,328
放課後児童健全育成事業に係る子ども・子育て支援交付金の交付決定額 40,792,232 46,070,989 56,365,215 60,915,110
放課後児童健全育成事業に係る子ども・子育て支援整備交付金の交付決定額 3,267,260 9,133,975 9,095,441 11,385,963

(注) 厚生労働省「放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」(平成30年12月公表)等に基づき作成。「放課後児童クラブの数」欄は、各年度5月1日時点のものである。

また、放課後子供教室に係る事業の実施状況をみると、図表1-5-3のとおり、放課後子供教室の数は27年度から30年度まで毎年度増加してきており、30年度における全国の放課後子供教室の数は18,749か所になっていた。

図表1-5-3 放課後子供教室に係る事業の実施状況

(単位:か所、千円)
区分 平成27年度 28年度 29年度 30年度
放課後子供教室の数 14,392 16,027 17,615 18,749
放課後子供教室に係る学校・家庭・地域連携協力推進事業費補助金の支出済歳出額 3,537,279 3,991,675 4,784,514 3,661,315

(注) 文部科学省「「地域学校協働活動推進事業」実施状況、「学校運営協議会」設置状況」(平成30年11月公表)等に基づき作成

(b) 放課後プランの実施状況

i 放課後児童クラブの整備状況

前記のとおり、放課後プランが26年7月に策定され、30年度末までに約30万人分の放課後児童クラブを新たに整備(合計で約122万人分)することを目標としていた。

そこで、登録児童数及び放課後待機児童数について、26年5月1日以降の状況をみると、図表1-5-4のとおり、登録児童数は27年5月1日以降毎年度増加して、30年5月1日時点で約123万4千人となっていて、既存の放課後児童クラブの登録児童数に放課後プランにおいて目標としていた約30万人分を加えた計約122万人分を超える児童が放課後児童クラブを利用している状況となっていた。

一方、放課後待機児童数は27年5月1日以降微増していて、30年5月1日時点における放課後待機児童数は約1万7千人となっているものの、登録児童数及び放課後待機児童数の合計数に対する放課後待機児童数の割合は減少傾向となっていた。

なお、27年5月1日時点において放課後待機児童数が大幅に増加していたのは、児童福祉法が改正され、同年度から放課後児童健全育成事業の対象となる児童が、原則として「小学校に就学しているおおむね10歳未満の児童」から「小学校に就学している児童」に変更され、放課後児童クラブの利用対象者が拡大されたことなどによると思料される。

そして、厚生労働省は、放課後待機児童が解消されない理由について、保育所等の保育の受け皿確保が進み、保育所等の利用者の増加に伴い、小学校入学後に放課後児童クラブの利用者が想定以上に増加しており、目標値を上回る利用希望があるなどのためとしている。

図表1-5-4 登録児童数及び放課後待機児童数の状況

図表1-5-4 登録児童数及び放課後待機児童数の状況 画像

ii 一体型又は連携型の状況

放課後プランによれば、全ての児童の放課後等の多様な活動の場を確保することなどを目的として、放課後児童クラブ及び放課後子供教室について、30年度末までに全小学校区で一体型又は連携型を実施し、うち1万箇所以上について一体型で実施を目指すこととされていた。

そして、30年5月1日時点における一体型又は連携型により実施している小学校区及び一体型で実施している箇所数をみたところ、文部科学省及び厚生労働省によると、全19,428小学校区のうち放課後児童クラブについては同日時点で16,551小学校区、放課後子供教室については30年度で11,087小学校区において実施しているものの、一体型又は連携型により実施している小学校区数の合計については把握していないとしている。なお、一体型の実施箇所数は4,913か所となっていた。

このように、同日時点においては、放課後児童クラブ及び放課後子供教室が実施されていない小学校区が存在していることから、全ての小学校区において一体型又は連携型を実施している状況とはなっておらず、また、一体型による実施についても、4,913か所となっていた。

上記のように全小学校区で一体型又は連携型による実施が低調となっている理由について、文部科学省及び厚生労働省は、余裕教室がなく、放課後児童クラブ及び放課後子供教室を同一小学校内で行うことが困難なこと、放課後児童クラブ及び放課後子供教室の運営等を行う職員等の確保が困難なことなどのためとしている。

iii 27年度から30年度までに新たに開設された放課後児童クラブ

放課後プランによれば、30年度末までに新たに開設する放課後児童クラブの約80%を小学校内で実施することを目指すこととされていた。この約80%という割合について、厚生労働省は、26年5月1日時点の放課後児童クラブの数を基準として、27年度以降の各年度の5月1日時点までの間に新たに開設された放課後児童クラブの数に対して、このうち各年度の同日時点における小学校内で実施されている放課後児童クラブの数の累計の割合(以下、この割合を「小学校内実施率」という。)により算出している。

そこで、 27年度から30年度までの小学校内実施率をみると、図表1-5-5のとおり、いずれの年度も80%を下回っており、27年度は68.3%、30年度は59.6%となっていた。

図表1-5-5 小学校内及び小学校外に新たに開設された放課後児童クラブの数と小学校内実施率

(単位:か所)
区分 平成27年度 28年度 29年度 30年度
放課後児童クラブの数 小学校内実施率 放課後児童クラブの数 小学校内実施率 放課後児童クラブの数 小学校内実施率 放課後児童クラブの数 小学校内実施率
小学校内 単年度 358   668   592   317  
当年度までの累計 358 68.3% 1,026 66.8% 1,618 65.0% 1,935 59.6%
小学校外 単年度 166   343   362   438  
当年度までの累計 166 509 871 1,309
単年度 524 1,011 954 755
当年度までの累計 524 1,535 2,489 3,244

(注) 厚生労働省「放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」(平成30年12月公表)等に基づき作成。本図表は、各年度5月1日時点のものである。

会計実地検査を行った166市区町村のうち、27年度から30年度までに小学校外に新たに施設を整備した67市町村268か所について、放課後児童クラブを小学校内に開設できない理由を確認したところ、図表1-5-6のとおり、「小学校内に活用できる余裕教室等がない」としているものが176か所と最も多く、「小学校内に専用施設を開設できる敷地等がない」としているものが104か所となっていた。

図表1-5-6 新たに開設された放課後児童クラブを小学校内に開設できない理由

小学校内に開設できない理由 箇所数
小学校内に活用できる余裕教室等がない 176
小学校内に専用施設を開設できる敷地等がない 104
その他 80

(注) 「小学校内に開設できない理由」欄について、複数回答を可能としているため、類型別の「箇所数」欄の計と上記の268か所は一致しない。

以上のとおり、放課後児童クラブについては、26年5月から30年5月までの間に登録児童数が約30万人増加して、30年5月1日時点で約123万4千人となり、既存の放課後児童クラブの登録児童数に放課後プランにおいて目標としていた約30万人分を加えた計約122万人分を超える児童が利用している状況となっていて、上記の目標を策定した当時の想定を上回るペースで利用者が増加していた。一方、放課後プランにおける目標のうち、30年度末までに新たに開設する放課後児童クラブの約80%を小学校内で実施するという目標の進捗状況は、30年5月1日時点で59.6%となっており、また、30年度末までに放課後児童クラブ及び放課後子供教室について、全小学校区で一体型又は連携型を実施するなどの目標の進捗状況は、同日時点で、全ての小学校区において一体型又は連携型を実施されている状況とはなっておらず、一体型による実施についても4,913か所となっていた(「放課後児童健全育成事業による効果の発現状況」については、後掲2(2)ア参照)。

(イ) 地域子育て支援拠点事業の実施状況

a 地域子育て支援拠点事業に係る計画の策定状況

27年3月に閣議決定された現在の少子化社会対策大綱では、全ての子育て家庭への子育て支援に関する施設・事業の計画的な整備を図るとする重点課題に対処するために、令和元年度末までに支援拠点8,000か所を整備するという目標が掲げられている。

b 地域子育て支援拠点事業に係る事業の実施状況

拠点要綱によれば、地域子育て支援拠点事業は、常設の支援拠点において、原則として週3日以上、かつ1日5時間以上開設して基本事業を行うもの(以下「一般型」という。)と、児童館等の児童福祉施設等の支援拠点において、原則として週3日以上、かつ1日3時間以上開設して基本事業を行うもの(以下「拠点連携型」という。)に分類されている。厚生労働省によると、図表1-6-1のとおり、平成25年度から30年度までの支援拠点数は毎年度増加していて、30年度は7,431か所となっていた。そして、これに合わせて一般型及び拠点連携型の支援拠点数もそれぞれ増加しており、30年度では一般型が6,555か所、拠点連携型が876か所となっていて、一般型が大部分を占めていた。

図表1-6-1 支援拠点数の推移(平成25年度~30年度)

(単位:か所)
区分 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度 30年度
一般型 5,031 5,941 6,134 6,320 6,441 6,555
地域機能強化型 694          
拠点連携型 508 597 684 743 818 876
6,233 6,538 6,818 7,063 7,259 7,431
  • 注(1) 厚生労働省「平成30年度地域子育て支援拠点事業実施状況」(令和元年6月公表)に基づき作成(本資料は、各年度の子ども・子育て支援交付金の交付決定ベースで作成されている。)
  • 注(2) 平成25年度の「地域機能強化型」欄は、基本事業のほか、地域の身近な立場から情報の集約・提供を行う利用者支援及び親子の育ちを支援する世代間交流、訪問支援、地域ボランティアとの協働による支援等の地域支援を実施するものである。なお、地域機能強化型の支援拠点は、26年度以降は一般型に移行するなどしている。

(a) 都道府県別の支援拠点数

30年度における都道府県別の支援拠点数は、東京都で最も多く509か所(支援拠点数7,431か所に対する割合6.8%)となっていた。30年度における地域子育て支援拠点事業の交付決定額をみると、157億6545万余円となっていて、都道府県別では東京都が最も多く10億9581万余円となっていた(詳細については、別図表4参照)。

(b) 開設日数別の支援拠点数

 「子ども・子育て支援交付金の交付について」(平成28年府子本第474号)によれば、一般型は、1週間当たりの開設日数に応じて、「3~4日型」「5日型」及び「6~7日型」に区分され、拠点連携型は、1週間当たりの開設日数に応じて、「3~4日型」及び「5~7日型」に区分されている。30年度における一般型及び拠点連携型の支援拠点の開設日数別の状況をみると、図表1-6-2のとおり、一般型では1週間当たりの開設日数が5日の支援拠点が4,167か所(一般型6,555か所に対する割合63.5%)と最も多くなっていた。一方、拠点連携型では1週間当たりの開設日数が6日の支援拠点が357か所(拠点連携型876か所に対する割合40.7%)と最も多くなっていた(「地域子育て支援拠点事業による効果の発現状況」については、後掲2(2)イ参照)。

図表1-6-2 1週間当たりの開設日数別の支援拠点数(平成30年度)

(単位:か所)
区分 1日 2日 3日 4日 5日 6日 7日
支援拠点数 割合 支援拠点数 割合 支援拠点数 割合 支援拠点数 割合 支援拠点数 割合 支援拠点数 割合 支援拠点数 割合 支援拠点数 割合
一般型 174 2.6% 39 0.5% 709 10.8% 221 3.3% 4,167 63.5% 1,036 15.8% 209 3.1% 6,555 100%
拠点連携型 249 28.4% 47 5.3% 182 20.7% 357 40.7% 41 4.6% 876 100%
174 2.3% 39 0.5% 958 12.8% 268 3.6% 4,349 58.5% 1,393 18.7% 250 3.3% 7,431 100%
  • 注(1) 厚生労働省「平成30年度地域子育て支援拠点事業実施状況」(令和元年6月公表)に基づき作成(本資料は、各年度の子ども・子育て支援交付金の交付決定ベースで作成されている。)
  • 注(2) 1週間当たりの開設日数が1日又は2日である支援拠点は、地域の実情や利用親子のニーズにより、親子が集う場を常設することが困難な地域において実施することができるものである。
オ 子どもの貧困対策に係る施策の実施状況
(ア) 貧困対策計画の策定状況

貧困対策大綱によれば、国は、地方公共団体に対して、子どもの貧困対策についての検討の場が設けられるよう、また、地域の実情を踏まえた貧困対策計画が策定されるよう働きかけるとともに、情報提供等の適切な支援を行うこととされており、都道府県は、貧困対策法に基づき貧困対策計画を定めるよう努めることとされている。また、前記のとおり、貧困対策法改正により、今後、市町村においても貧困対策計画を策定するよう努めることとなっている。そして、地方公共団体が子どもの貧困対策に係る施策を適切に実施していくためには、各施策を実施する上での基本的な方針等を定めた貧困対策計画を策定することが重要となる。

そこで、都道府県及び市町村における貧困対策計画の策定状況等について検査したところ、次のとおりとなっていた。

a 都道府県の貧困対策計画の策定状況

47都道府県における貧困対策計画の策定状況をみたところ、29年3月までに全都道府県が貧困対策計画を策定していた。なお、一部の県では、当初計画の計画期間が終了し第2期の貧困対策計画を策定していた(各都道府県の貧困対策計画については、別図表5参照)。

そして、会計実地検査を行った25都道府県における貧困対策計画の策定に当たっての実態調査の実施状況等を確認したところ、図表1-7-1のとおり、貧困対策計画の策定に当たり、子どもの貧困対策に係る支援ニーズ、資源量等に関する調査等を行っていたのは 19都府県となっていて、このうち、新規に調査を行ったものが9都府県、既存の調査を活用したものが6府県、その他、貧困対策計画を検討する会議において外部有識者等から子どもの貧困の実態等について聴取するなどしたものが4県となっていた。一方、6道県は、子どもの貧困対策に係る個別の事業を実施する際に、必要に応じてニーズ調査等を行うこととしているなどのため、実態調査を実施していないとしていた。

策定された貧困対策計画の内容をみると、上記25都道府県のうち23都道府県は、貧困対策計画に記載された施策と貧困対策大綱の重点施策の関連性等について明示していたが、2県は、策定した計画の内容及び位置付けが子どもの貧困対策のみに限定されたものではないことなどから、貧困対策大綱の重点施策を勘案していないとしていた。

なお、現在、貧困対策計画の計画期間の最終年度を迎えている都道府県が多く、これらの都道府県は、今後、貧困対策計画の改定等を行う予定であるとしている。

図表1-7-1 都道府県における貧困対策計画の策定に当たっての実態調査の実施状況等

区分 実態調査(ニーズ調査、資源量把握等)実施の有無 貧困対策大綱の重点施策との関連性の有無 計画期間
新規調査 既存調査の活用 その他の方法により実施
北海道       平成27年度~令和元年度
宮城県       平成28年度~令和元年度
山形県     平成28年度~令和2年度
栃木県       平成27年度~令和元年度
埼玉県       平成27年度~令和元年度
千葉県     平成27年度~令和元年度
東京都     平成27年度~令和元年度
神奈川県     平成27年度~令和元年度
富山県         平成27年度~令和元年度
石川県     平成27年度~令和元年度
長野県       平成30年度~令和4年度
愛知県     平成27年度~令和元年度
三重県     平成28年度~令和元年度
滋賀県     平成27年度~令和元年度
京都府     平成27年度~令和元年度
大阪府     平成27年度~令和元年度
兵庫県       平成27年度~令和元年度
奈良県     平成28年度~令和2年度
山口県     平成27年度~令和元年度
愛媛県     平成27年度~令和元年度
高知県     平成28年度~令和元年度
福岡県     平成28年度~令和2年度
大分県     平成28年度~令和2年度
宮崎県     平成28年度~令和元年度
沖縄県     平成28年度~令和3年度
都道府県数計 9 6 4 23  
19
  • 注(1) 「実態調査(ニーズ調査、資源量把握等)実施の有無」欄及び「貧困対策大綱の重点施策との関連性の有無」欄は、該当がある都道府県に「○」を付している。
  • 注(2) 長野県の「計画期間」については、当初の貧困対策計画の計画期間が終了しているため、第2期計画の計画期間を記載している。

そして、貧困対策計画の策定に当たって、貧困対策計画に記載する内容等に係る都道府県と市町村及び関係機関との連携・調整状況をみたところ、図表1-7-2のとおり、貧困対策計画に記載する子どもの貧困対策に係る施策等の内容、指標の設定等について市町村等と連携・調整を行ったとしているのは16道府県であり、その連携・調整先は市町村のほか、都道府県労働局、NPO等多岐にわたっていて、市町村と連携・調整を行ったとしているのは14道府県となっていた。また、連携・調整を行った内容としては、いずれの連携・調整先との間でも、子どもの貧困対策として実施している「施策等の内容」に関するものが最も多くなっていた。

都道府県が子どもの貧困対策として実施する施策の中には、地域の実情に応じて都道府県が市町村に対して支援、助成等を行うものなど、市町村が行う施策と密接に関連するものが多く、また、都道府県が貧困対策計画の指標として設定するものの中には、各市町村における取組等が当該都道府県の取組として取り扱われ、指標の達成状況に影響するものがあることから、都道府県と市町村との連携・調整は、子どもの貧困対策に係る施策を実施する上で重要であると思料される。

図表1-7-2 都道府県と市町村及び関係機関との連携・調整状況

市町村等と連携・調整を行っていた都道府県数 連携・調整先及び連携・調整の内容
市町村
 
都道府県労働局
 
NPO
 
児童相談所
 
施策等の内容
指標の設定
その他
施策等の内容
指標の設定
その他
施策等の内容
指標の設定
その他
施策等の内容
指標の設定
その他
16 14 14 4 1 7 7 2 0 9 7 1 2 8 8 5 0

(注) 複数回答となっているため、「連携・調整先及び連携・調整の内容」の各欄の都道府県数を合計しても「市町村等と連携・調整を行っていた都道府県数」欄とは一致しない。

b 市町村の貧困対策計画の策定状況

前記のとおり、令和元年5月時点で市町村については貧困対策計画の策定が努力義務とされていなかったが、政令指定都市は20市全てが貧困対策計画を策定している(各政令指定都市の貧困対策計画については、別図表6参照)。

そして、前記25都道府県内の1,066市区町村における元年5月時点の貧困対策計画の策定状況をみると、計画の内容等に関する基準等はないため、その内容等は市町村によって区々となっているが、図表1-7-3のとおり、策定済みであるとしているのは、政令指定都市では14市の全て、中核市では34市のうち7市(20.5 %)、特別区では23区のうち9区(39.1 %)、政令指定都市及び中核市以外の市(以下「一般市」という。)では442市のうち55市(12.4%)、町村では553町村のうち12町村(2.1%)、計97市区町村となっていて、1,066市区町村の9.0%にとどまっている状況となっていた。特に、一般市及び町村における貧困対策計画の策定状況は低調となっていた。

図表1-7-3 貧困対策計画を策定している市町村数(都道府県別)(令和元年5月時点)

(単位:市区町村)
都道府県名
区分
北海道 宮城県 山形県 栃木県 埼玉県 千葉県 東京都 神奈川県 富山県 石川県 長野県 愛知県 三重県 滋賀県 京都府 大阪府 兵庫県 奈良県 山口県 愛媛県 高知県 福岡県 大分県 宮崎県 沖縄県
政令指定都市
(14市)
1 1     1 1   3       1     1 2 1         2       14
中核市
(34市)
0     0 0 1 0 0 0 1 0 0   0   3 1 1 0 0 0 0 0 0 0 7
特別区
(23区)
            9                                     9
一般市
(442市)
0 0 0 4 4 2 6 1 8 0 1 2 2 2 0 4 0 0 1 0 0 6 2 8 2 55
町村
(553町村)
3 1 0 0 2 0 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 2 1 12
計(1,066市区町村) 4 2 0 4 7 4 16 5 8 1 1 3 2 2 1 9 2 2 1 0 0 8 2 10 3 97

(注) 平成31年4月1日から中核市に移行した山形県山形市及び大阪府寝屋川市は一般市に区分している。

貧困対策計画を策定していない市町村にその理由等を確認したところ、「人的・財政的な問題があるため」としているものが199市町村、「県が一元的に貧困対策を推進しているため」としているものが184市町村などとなっていた。なお、元年5月時点で貧困対策計画を策定していない969市区町村のうち129市区町村が今後策定する予定であるとしていた。

一方、一部の県は、各市に対して実態調査の実施方法等について助言等を行うとともに、未来応援交付金を活用して実態調査及び貧困対策計画の策定を行うことを促すなどの取組を行っていた。

上記の取組について、事例を示すと次のとおりである。

<参考事例1> 実態調査の方法等について助言等を行うとともに、実態調査及び貧困対策計画の策定を行うことを促すなどの取組を行っていたもの

富山県は、平成28年度に高岡、黒部、砺波、南砺各市、29年度に魚津、氷見、小矢部、射水各市の計8市が貧困対策計画を策定するための実態調査を実施するに当たり、各市における未来応援交付金を活用した実態調査の取組を推進するため、調査対象とする子どもの対象学年やアンケートの調査項目等を示して調査票の統一化を図ったり、調査結果の分析方法等について他県の先進事例の収集や学識経験者の意見聴取等を行い各市に助言・情報共有を行ったりして、各市における実態調査及び貧困対策計画の策定を行うことを促すなどしていた。

その結果、上記の8市全てが未来応援交付金を活用した実態調査を実施し、30年3月までに調査結果を踏まえて貧困対策計画を策定していた。

c 貧困対策計画の内容

貧困対策計画を策定している前記の25都道府県及び97市区町村における貧困対策計画の内容を主な項目別に示すと、図表1-7-4のとおり、項目として最も多かったのは「子どもの貧困対策に係る施策」で、これを記載していたのは都道府県が25都道府県の全て、市町村が89市区町村(97市区町村に対する割合91.7%)となっていた。これに次いで多かったのは、都道府県では24都道府県(25都道府県に対する割合96.0%)が記載していた「指標又は目標」、市町村では72市区町村(97市区町村に対する割合74.2%)が記載していた「子どもの貧困の実態」となっていた。そして、市町村で「指標又は目標」を記載していたのは68市区町村(同70.1%)となっていた。

図表1-7-4 貧困対策計画の記載項目別都道府県及び市町村数

項目(内容) 都道府県数 割合 市町村数 割合
子どもの貧困対策に係る施策(子どもの貧困対策として取り組むこととしている具体的な施策) 25 100% 89 91.7%
指標又は目標(子どもの貧困対策の施策の指標又は目標として設定されたもの) 24 96.0% 68 70.1%
貧困対策の評価(子どもの貧困対策に係る施策の評価体制等) 22 88.0% 59 60.8%
子どもの貧困の実態(実態調査等を踏まえた管内の子どもの貧困の現状等) 18 72.0% 72 74.2%
貧困対策計画の見直し規定(計画期間中の見直しなど) 18 72.0% 65 67.0%
子どもの貧困対策に係る支援ニーズ(必要としている支援の内容等) 15 60.0% 68 70.1%
資源量(子どもの支援ニーズに対する支援提供体制等) 5 20.0% 44 45.3%

(注) 貧困対策計画を策定している25都道府県及び97市区町村を対象としており、貧困対策計画に記載している「項目(内容)」欄は複数回答となっている。

d 子どもの貧困対策に係る施策の評価体制

前記の25都道府県における子どもの貧困対策に係る施策の評価体制をみると、図表1-7-5のとおり、21都道府県(25都道府県に対する割合84.0%)で何らかの評価を行っており、このうち貧困対策計画の進捗管理を行う会議等において毎年度評価を実施しているのは13都府県(同52.0%)、個別の施策ごとに都道府県が定めた評価シート等を活用して評価を実施しているのは4県(同16.0%)、その他、毎年度行動計画を策定し、各施策の目標と実績の比較を行うなどの方法により評価を実施するなどしているのは4県(同16.0%)となっていた。一方、評価を実施していないのは4県(同16.0%)となっていた。

図表1-7-5 都道府県の子どもの貧困対策に係る施策の評価体制

評価を実施している都道府県数
評価を実施していない都道府県数 都道府県数計
  貧困対策計画の進捗管理を行う会議等において毎年度評価を実施 都道府県が定めた評価シート等を活用して評価を実施 その他の方法により評価等を実施
21 13 4 4 4 25

また、前記の貧困対策計画を策定している97市区町村における子どもの貧困対策に係る施策の評価体制をみると、図表1-7-6のとおり、52市区町(97市区町村に対する割合53.6%)で評価を行っており、このうち貧困対策計画の進捗管理を行う会議等において毎年度評価を実施しているのは23市区町(同23.7%)、個別の施策ごとに市町村が定めた評価シート等を活用して評価を実施しているのは13市区(同13.4%)、その他、貧困対策計画が包含されている計画の評価時に合わせて、貧困対策計画の評価を実施するなどしているのは16市区町(同16.4%)となっていた。一方、評価を実施していないのは45市区町村(同46.3%)となっていた。

図表1-7-6 市町村の子どもの貧困対策に係る施策の評価体制

評価を実施している市町村数
評価を実施していない市町村数 市町村数計
  貧困対策計画の進捗管理を行う会議等において毎年度評価を実施 市町村が定めた評価シート等を活用して評価を実施 その他の方法により評価等を実施 小計
政令指定都市 3 2 4 9 5 14
中核市 2 3 1 6 1 7
特別区 3 1 2 6 3 9
一般市 11 7 8 26 29 55
町村 4 0 1 5 7 12
23 13 16 52 45 97

e 貧困対策計画の策定による効果

貧困対策計画を策定している前記25都道府県及び97市区町村に対して、貧困対策計画の策定によりどのような効果を認識しているかを確認したところ、図表1-7-7のとおり、都道府県が認識している効果としては、「庁内関係部局の子どもの貧困対策に対する認識が高まった」としているものが24都道府県で最も多く、次いで「庁内連携組織が設置され子どもの貧困対策に関する情報が共有できた」としているものが18都道府県、「住民の子どもの貧困対策に対する認識が高まるなどした」としているものが18道府県などとなっていた。また、市町村が認識している効果も、都道府県の場合とほぼ同様の傾向となっていた。

図表1-7-7 都道府県及び市町村が認識している貧困対策計画の策定による効果

区分 認識している効果 都道府県数 市町村数
1 庁内関係部局の子どもの貧困対策に対する認識が高まった。 24 89
2 庁内連携組織が設置され子どもの貧困対策に関する情報が共有できた。 18 71
3 住民の子どもの貧困対策に対する認識が高まるなどした。 18 58
4 庁内の評価体制が整備され次年度以降の予算への反映が適切に行われるよ うになった。 17 48

(注) 貧困対策計画を策定している25都道府県及び97市区町村を対象としており、「認識している効果」欄は複数回答となっている。

このように、貧困対策計画を策定した都道府県及び市町村は、子どもの貧困対策に係る施策を担当する関係部局における貧困対策に対する意識を高めたり、各施策に係る情報の共有を図ることができたりするなどの効果を認識していることから、貧困対策計画を策定していない市町村は、このような計画の策定による効果を踏まえつつ、貧困対策計画の策定について検討することが重要である。

(イ) 指標の設定状況とその把握

前記のとおり、貧困対策大綱では、子どもの貧困対策を総合的に推進するに当たり、関係施策の実施状況やその効果等を検証・評価するため、25指標が設定されている。そして、貧困対策法によれば、都道府県は貧困対策大綱を勘案して貧困対策計画を定めることに努めることとされており、各都道府県は大綱指標を参考にしながら指標の設定を行い、設定した指標を貧困対策計画に記載している。そして、貧困対策法改正により、市町村においても貧困対策計画の策定が努力義務とされたことなどから、子どもの貧困対策に係る施策の進捗状況を把握して評価する取組や施策の評価における大綱指標の活用等について検討していくことが重要である。

また、政府は、持続可能な開発目標(SDGs)推進本部において、平成28年12月にSDGs実施指針を決定し、その中で、貧困対策大綱に基づき、総合的に子どもの貧困対策を推進することとしている。

このような状況を踏まえて、前記25都道府県のうち、大綱指標を基にした指標を設定している22道府県について、貧困対策に係る施策の進捗状況を把握するための指標の設定状況、当該指標の大綱指標との関連性、当該指標に係る直近の現状を示す数値等(以下「現状値」という。)の把握の状況等を確認したところ、図表1-7-8及び図表1-7-9のとおり、指標設定に際して参考としている都道府県が多い大綱指標は「①生活保護世帯に属する子供の高等学校等進学率」が最も多く18道府県、次いで「③生活保護世帯に属する子供の大学等進学率」が16道府県などとなっていた。一方、参考としている都道府県が少ない大綱指標は「㉔子供の貧困率」及び「㉕子供がいる現役世帯のうち大人が一人の貧困率」で、それぞれ2県などとなっていた。

また、貧困対策計画を策定している前記の97市区町村についても、指標として設定しなかったとしている主なものを確認したところ、都道府県と同様の傾向となっていた。

そして、厚生労働省は、上記のような大綱指標の活用状況について、これらの大綱指標を算出する基礎となっている国民生活基礎調査は、都道府県別又は市町村別にその結果を明らかにするものとはなっていないため、地方公共団体別に管内の現状値を把握することは困難であるとしている。

このように、大綱指標の中には調査対象数等の関係から国全体の現状値を表すにとどまり、都道府県及び市町村において現状値を容易かつ的確に把握することができないものが含まれている状況となっていた。

図表1-7-8 指標設定に際して参考としている都道府県が多い大綱指標

番号 指標設定に際して参考としている大綱指標 都道府県数
生活保護世帯に属する子供の高等学校等進学率 18
生活保護世帯に属する子供の大学等進学率 16
生活保護世帯に属する子供の高等学校等中退率 15
児童養護施設の子供の進学率(高等学校等卒業後) 15
児童養護施設の子供の進学率(中学校卒業後) 13
  • 注(1) 参考としている都道府県数が多い順に掲げている。
  • 注(2) 「番号」は、内閣府「子供の貧困の状況及び子供の貧困対策の実施状況」(令和元年7月公表)に記載されている番号を用いている。

図表1-7-9 指標設定に際して参考としている都道府県が少ない大綱指標

番号 指標設定に際して参考としている大綱指標 都道府県数
子供の貧困率 2
子供がいる現役世帯のうち大人が一人の貧困率 2
ひとり親家庭の子供の進学率(中学校卒業後) 4
ひとり親家庭の子供の就職率(中学校卒業後) 4
ひとり親家庭の子供の進学率(高等学校卒業後) 4
ひとり親家庭の子供の就職率(高等学校卒業後) 4
日本学生支援機構の奨学金の貸与基準を満たす希望者のうち、奨学金の貸与を認められた者の割合(無利子) 4
日本学生支援機構の奨学金の貸与基準を満たす希望者のうち、奨学金の貸与を認められた者の割合(有利子) 4
  • 注(1) 参考としている都道府県数が少ない順に掲げている。
  • 注(2) 「番号」は、内閣府「子供の貧困の状況及び子供の貧困対策の実施状況」(令和元年7月公表)に記載されている番号を用いている。

また、前記の22道府県について、設定した指標の現状値の把握状況を確認したところ、多くの都道府県が設定している生活保護世帯に係る指標については、毎年度現状値を把握して、指標を設定した時点の状況を示す数値等(以下「当初値」という。)と比較するなどして、子どもの貧困対策に係る施策の実施状況等を検証・評価していた。一方、厚生労働省が実施する「全国ひとり親世帯等調査」等のように数年に1回実施される調査結果に基づき現状値を把握することとしている指標については、毎年度現状値を把握して当初値と比較することは困難な状況となっていた。

そして、22道府県が設定した指標の現状値を把握して子どもの貧困対策に係る施策の実施状況等を検証・評価したことにより得られた効果を確認したところ、図表1-7-10のとおり、「施策の進行管理が可能となった」としているものが21道県、「住民に対する説明責任を果たすことができた」としているものが18道県などとなっていた。

また、前記97市区町村のうち、指標を設定してその現状値を把握していることを確認できた市町村は38市区町村(39.1%)にとどまっていた。そして、これらの38市区町村が子どもの貧困対策に係る施策の実施状況等を検証・評価したことにより得られた効果についても、都道府県の場合とほぼ同様の傾向となっていた。

図表1-7-10 指標の現状値を把握して施策の実施状況等を検証・評価したことにより得られた効果

区分 得られた効果 都道府県数 市町村数
1 施策の進行管理が可能になった。 21 30
2 住民に対する説明責任を果たすことができた。 18 24
3 次年度以降の施策の予算に反映できるようになった。 14 20

(注) 22道府県及び38市区町村を対象としており、「得られた効果」については複数回答となっている。

上記のとおり、貧困対策計画において指標を設定して、管内の指標の現状値を把握して施策の実施状況等を検証・評価することにより、子どもの貧困対策に係る施策の進行管理が可能になったり、住民に対する説明責任を果たすことができたりするなどの効果が得られたとしている地方公共団体が一定数見受けられた。

前記のとおり、都道府県の多くは指標を設定して管内の直近の現状値を把握しているが、一般市及び町村の多くは貧困対策計画をまだ策定しておらず、貧困対策計画を策定している市町村においても指標を設定して現状値を把握している市町村は少ない状況となっており、多数の市町村において子どもの貧困対策に係る施策の実施状況等の検証・評価が十分に行えない状況にあると思料される。そして、貧困対策法改正により、令和元年9月以降、市町村においても貧困対策計画の策定が努力義務とされたことなどから、今後、都道府県及び市町村において子どもの貧困対策を推進していく上で、貧困対策計画における現状値を把握するための指標の設定等の重要性は一層高まることが見込まれる。

したがって、内閣府において、今後、貧困対策計画を策定する市町村等が指標を設定するに当たり、容易かつ適時的確に現状値を把握し、施策に反映することが可能となるような指標について検討するとともに、その検討結果等を踏まえて、市町村等に対して適時適切に助言、情報提供等を行うことが必要であると認められる。

(ウ) 子どもの貧困対策に係る事業の実施状況

a 生活困窮世帯等への学習支援事業

子どもの貧困対策に係る学習支援については、貧困対策大綱によれば、生活保護世帯の子どもを含む生活困窮世帯の子どもを対象に、生活困窮者自立支援法に基づき、平成27年度から、学習支援事業を実施することとされている。この学習支援事業は、厚生労働省が、生活困窮者自立支援法や「生活困窮世帯の子どもに対する学習支援事業実施要領」(平成27年7月厚生労働省社会・援護局長通知)等に基づき、貧困の連鎖を防止するために、生活困窮世帯の子どもに対する学習支援を推進することを目的として、都道府県、市(特別区を含む。)及び福祉事務所を設置する町村が同世帯の子どもを対象として実施する学習支援事業(以下「生活困窮学習支援事業」といい、この事業による学習支援を「生活困窮学習支援」という。)に対して、その費用の一部を補助する事業である。そして、生活困窮者自立支援法によれば、生活困窮者とは、就労の状況、心身の状況、地域社会との関係性その他の事情により、現に経済的に困窮し、最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者であるとされている。一方、子どもの貧困対策等として実施されている学習支援事業の中には、事業の対象がひとり親家庭の子どもとなっていて、必ずしも貧困状態にないひとり親家庭の子どもが対象に含まれている事業や、事業の対象が学習の遅れがちな中学生、高校生等となっている事業もあり、その対象等が子どもの貧困対策としての支援を必要とする子どもに限定されたものとはなっていない。

そこで、これらのうち、事業の対象等が子どもの貧困対策としての支援を必要とする子どもに限定されているなどの生活困窮学習支援事業の実施状況について検査した。

検査を行った25都道府県のうち、緊急対策事業により学習支援等が行われている沖縄県を除く24都道府県及び1,025市区町村のうち、22都道府県、315市区及び1町の計338実施主体が、30年度に生活困窮学習支援事業を実施しており、これら338実施主体によって、315市区及び248町村計563市区町村に生活困窮学習支援が提供されていた。このうち247町村は、原則として福祉事務所を設置していない町村であることから、都道府県が同町村において生活困窮学習支援を提供していた。そこで、上記の563市区町村において、30年度に生活困窮学習支援事業が実施されている地域ごとの指導方法をみたところ、図表1-7-11のとおり、公民館等の場所に指導員等を配置し、その場所に対象となる子どもを集めて生活困窮学習支援を行うなどの集合型による生活困窮学習支援が提供されていたものは492市区町村、指導員等が対象となる子どもの自宅を訪問し生活困窮学習支援を行うなどの方法により実施する訪問型による生活困窮学習支援が提供されていたものは138市区町村、指導員等が、郵送やファクシミリを使って子どもに対する指導を行うなどの方法により実施する通信教育型による生活困窮学習支援が提供されていたものは27市町村となっていた。

図表1-7-11 各市町村における指導方法(平成30年度)

区分 提供されている生活困窮学習支援の指導方法別の市町村数
集合型 訪問型 通信教育型
政令指定都市 14 2 0
中核市 31 8 0
一般市及び特別区 245 65 1
町村 202 63 26
492 138 27
  • 注(1) 複数の指導方法により生活困窮学習支援が提供されている市町村があるため、市町村数を合計しても563市区町村とは一致しない。
  • 注(2) 生活困窮学習支援の募集等は行っているが、平成30年度において対象者がいなかった市町村は、本図表の集計に含めていない。

そして、指導方法別の生活困窮学習支援事業を実施するための場は、集合型が1,539か所、訪問型が1,412世帯となっていた。

また、これらの生活困窮学習支援事業の実施頻度についてみたところ、図表1-7-12のとおり、437市区町村において毎週実施されており、一部の市町村では、長期休暇中のみに実施されたり、不定期に実施されたりしていた。

図表1-7-12 生活困窮学習支援事業の実施頻度(平成30年度)

生活困窮学習支援の実施頻度 左欄の実施頻度で生活困窮学習支援が提供されている市町村数
毎週実施 437
月1~3回実施 130
長期休暇中のみ実施 12
不定期に実施 37

(注) 同一の市町村において複数箇所で生活困窮学習支援事業を実施しており、各実施箇所で実施頻度が異なる場合があるなどのため、市町村数を合計しても563市区町村とは一致しない。

また、生活困窮学習支援事業の対象者についてみたところ、図表1-7-13のとおり、小学生を対象にしていたものが195実施主体、中学生を対象にしていたものが328実施主体、高校生を対象にしていたものが167実施主体となっていた(「生活困窮学習支援事業による効果の発現状況」については、後掲2(3)ア参照)。

図表1-7-13 生活困窮学習支援事業の対象者(平成30年度)

区分 対象者
小学生 中学生 高校生
各区分を対象としている実施主体数 195 328 167
  • 注(1) 同一の実施主体において複数の区分の対象者を生活困窮学習支援事業の対象者としている場合があるため、実施主体数を合計しても338実施主体とは一致しない。
  • 注(2) 同一の実施主体内においても、生活困窮学習支援の対象者が異なる場合がある。

b 子どもの貧困対策におけるスクールソーシャルワーカーの活用

(a) スクールソーシャルワーカーの概要

スクールソーシャルワーカー(以下「SSW」という。)は、学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)第65条の3の規定等によれば、貧困・虐待等の課題を抱える児童生徒等に働きかけたり、福祉関係機関等とのネットワークを活用したりするなど、多様な支援方法を用いて課題解決への対応を図るために、教育と福祉の両面に関して専門的な知識・技術を有する者であるとされている。

文部科学省は、各地方公共団体において学校等へのSSWの配置を推進するために、スクールソーシャルワーカー活用事業(以下「SSW活用事業」という。)を実施しており、事業主体である都道府県、政令指定都市等に対して、SSWを配置するための人件費等の費用を補助対象経費として、教育支援体制整備事業費補助金を29年度12億余円、30年度14億余円交付している。貧困対策大綱において、SSWの配置は、子どもの貧困対策における重点施策の一つとして位置付けられており、学校を窓口として貧困家庭の子どもを早期の段階で生活支援や福祉制度につなげていくことなどができるよう、地方公共団体へのSSWの配置の推進について重点的に取り組むこととなっている。

SSWの配置に関する目標については、26年8月に開催された第2回子どもの貧困対策会議等において、31年度(令和元年度)までに、全ての中学校区に配置するとの方針が示され、その後28年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」においても同様の内容が目標として掲げられている。文部科学省によると、各公立中学校区内における公立中学校及び公立小学校のうち、少なくとも1件以上SSWの対応実績がある場合、その中学校区を上記の目標におけるSSWが配置された中学校区(以下「SSW配置校区」という。)として取り扱うとしている。そして、図表1-7-14のとおり、29年度における配置目標は全中学校区9,479校区のうち5,000校区であるのに対して、SSW配置校区は5,738校区となっている。

図表1-7-14 SSWの配置目標と実績比較

年度
区分
平成27年度 28年度 29年度 30年度 31年度
(令和元年度)
配置目標(中学校区数) 2,200 3,000 5,000 7,500 10,000
実人数 1,399人 1,780人 2,041人 2,377人  
SSW配置校区数     5,738    
  • 注(1) 1人のSSWが複数の中学校区を担当することがあるため、平成29年度は「実人数」よりも「SSW配置校区数」の方が多くなっている。
  • 注(2) 文部科学省は、平成28年度までは「SSW配置校区数」を集計していなかったため、空欄としている。また、30年度の「SSW配置校区数」並びに31年度(令和元年度)の「実人数」及び「SSW配置校区数」は、令和元年9月末時点で同省が集計中又は未集計であるため、空欄としている。

(b) 各都道府県におけるSSWの配置状況

文部科学省において、SSW活用事業の実施状況等について検査したところ、SSW活用事業は、30年度に44都道府県及び63市の計107事業主体が実施していて、同年度にSSW活用事業により配置されたSSWは計2,377人となっていた。また、各都道府県における29年度のSSW配置校区数の全中学校区数に対する割合をみると、図表1-7-15のとおり、最大が栃木県の97.4%、最小が鹿児島県の13.2%となっていて、都道府県によってその配置状況に大きな差異がある状況となっていた。

図表1-7-15 各都道府県における全中学校区数に対するSSW配置校区数の割合(平成29年度)

図表1-7-15 各都道府県における全中学校区数に対するSSW配置校区数の割合(平成29年度) 画像

そして、SSW活用事業を実施している前記107事業主体のうち、調書を徴するなどして検査を行った23都道府県及び42市の計65事業主体に対して今後のSSWの増員予定等を確認したところ、図表1-7-16のとおり、全体の8割に当たる52事業主体がSSWの増員(予算及び人材の確保を前提とした増員予定を含む。)を予定している状況となっていた。

図表1-7-16 各事業主体における今後のSSWの増員予定

区分 増員予定   増員予定はない 事業主体数計
(A)のうち、予算が認められれば増員予定  
(B)のうち、人材が確保できれば増員予定
(A) (B) (C) (D) (A)+(D)
事業主体数 52 46 18 13 65
事業主体数計に対する割合 80.0% 70.7% 27.6% 20.0% 100%

(注) 「増員予定はない」欄の13事業主体には、「未定」と回答した2事業主体を含んでいる。

(c) 相談内容別の状況

文部科学省は、毎年度、SSW活用事業を実施している前記の107事業主体に対して、相談件数、相談内容、相談を受けた問題への対応状況等を記載した活動記録(以下「活動記録」という。)の報告を求めており、同省において活動記録の集計等を行っている。活動記録によると、SSWへの相談件数は、図表1-7-17のとおり、21年度以降一貫して増加傾向にあり、その相談内容をみると、特に「家庭環境」に関する相談が増加傾向となっていて、その件数は20年度3,901件であったものが、27年度16,716件、28年度21,623件、29年度28,711件、30年度33,972件となっていた。また、上記の「家庭環境」に関する相談の中には27年度までは「貧困」に関する内容が主である相談(以下「貧困相談」という。)も含まれていたが、貧困相談は、28年度以降、その重要性に鑑みて「家庭環境」と区分して個別に集計されており、その件数は28年度4,087件、29年度4,691件、30年度5,461件となっていた。

図表1-7-17 平成20年度から30年度までのSSWへの相談件数の推移

図表1-7-17 平成20年度から30年度までのSSWへの相談件数の推移 画像

(d) 子どもの貧困対策におけるSSWの取組等

貧困対策大綱では、子どもの貧困対策に関する当面の重点施策として、教育の支援において、「「学校」をプラットフォームとした総合的な子供の貧困対策の展開」を掲げており、学校を窓口として貧困家庭の子どもなどを早期の段階で生活支援や福祉制度につなげていくことができるよう地方公共団体へのSSWの配置を推進すること、また、福祉部門と教育委員会・学校等との連携強化を図ることとしている。これを踏まえて、文部科学省は、各地方公共団体に対して、「生活困窮者自立支援制度に関する学校や教育委員会等と福祉関係機関との連携について(通知)」(平成27年26文科生第724号)を発出するなどして、SSWを活用して教育委員会等と福祉関係機関等との連携を図るための取組を推進している。そして、会計検査院が確認したところ、多数の地方公共団体が、子どもの貧困対策に当たり、SSWを活用している状況となっていた。

そこで、前記の65事業主体に対して、貧困対策法が施行された26年度以降SSWの取組に変化が見受けられるかを確認したところ、家庭環境等の問題についてより留意するようになったとしているものが42事業主体、SSWと福祉部門等との連携が緊密になったとしているものが41事業主体、SSWに対して福祉や子どもの貧困に関する研修等を行う機会が増えたとしているものが18事業主体となっているなど、多くの事業主体においてSSWの取組に具体的な変化が見受けられていて、子どもの貧困対策においてSSWが果たす役割への期待が高まっている状況がうかがえた。

(e) 子どもの貧困対策のための重点加配の概要

SSWは、子どもの貧困対策において、福祉部門と教育委員会・学校等との連携を図るなどのために重要であり、多くの地方公共団体において子どもの貧困対策に活用されている状況である。文部科学省は、27年度以降、貧困により困難を抱えた子どもの家庭環境等に対する支援等を充実させることができるよう、子どもの貧困対策の必要性が高い地域・学校等へSSWを重点的に配置するため、SSW活用事業において、子どもの貧困対策のためのSSWの重点的な配置(28年度以降は虐待対策としての目的を含む。)を実施しようとする地方公共団体に対して、一定額の補助金を上乗せして交付するなどの措置を講じている(以下、このような重点的なSSWの配置を「SSW加配」という。)。そして、SSW加配の目標人数は、27年度600人、28年度から30年度までは各年度とも1,000人となっている。

また、文部科学省は、SSW活用事業を実施する地方公共団体に対して「スクールソーシャルワーカー活用事業報告書」の作成を求めており、SSW加配を申請した地方公共団体については、当該事業報告書の添付書類として、任意の様式によりSSW加配の活用事例や成果等について報告を行うこととなっている。

各地方公共団体から文部科学省に提出されている各年度の上記の事業報告書等を確認したところ、SSW加配を行っているのは、30年度にSSW活用事業を実施している前記107事業主体のうち、16事業主体のみとなっていた。また、SSW加配の実績は、27年度計75人、28年度計75人、29年度計120人、30年度計148人となっていて、前記の目標を大きく下回っていた。

(f) SSW加配についての各事業主体に対する周知状況及び効果の把握状況

前記65事業主体のうちSSW加配を活用していない53事業主体に、その理由を確認したところ、15事業主体は、現在配置されているSSWによって貧困等に関する問題にも対応しているためとしていたが、16事業主体がSSW加配のメリットが分からない、制度をよく知らないと回答するなど、SSW加配の内容・趣旨等を十分に認識していないと思料される状況が見受けられた。そこで、文部科学省における制度の周知等の状況を確認したところ、文部科学省は、SSW加配の内容や趣旨をスクールソーシャルワーカー活用事業実施要領(平成25年4月文部科学省初等中等教育局長決定)(以下「SSW実施要領」という。)等に記載していないなど、制度が十分に周知されているとはいえない状況となっていた。

SSW活用事業は、貧困対策大綱においてもSSWの配置の推進が重点施策とされているなど、子どもの貧困対策にとって重要な事業であり、SSW加配は、SSWの配置を推進するために予算を拡充して実施されている。したがって、文部科学省において、SSW加配の内容や趣旨をSSW実施要領等に記載するなどして、SSW活用事業の事業主体等に対して十分に周知することが重要である(「SSW活用事業による効果の発現状況」については、後掲2(3)イ参照」)。

c 母子家庭の母等に対する就労支援事業

前記のとおり、保護者に対する就労の支援については、貧困対策大綱によれば、子育てと就業の両立等、ひとり親家庭が抱える様々な課題に対応し、生活支援や就業支援を組み合わせた支援メニューをワンストップで提供することができるよう必要な支援を行うことなどとされており、保護者に対する就労の支援に係る施策の多くは、母子家庭の母等に対する就労支援に関する施策となっている。そして、厚生労働省は、母子家庭の母等の就労支援に資するものとして、母子家庭の母等への総合的な支援を行う母子家庭等就業・自立支援事業を実施するほか、貧困対策大綱において保護者に対する就労の支援に係る施策の一つとして掲げられているトライアル雇用助成金等の雇用関係助成金による助成を行うなどしている。

そこで、これら母子家庭の母等に対する就労支援に係る施策の実施状況について検査したところ、次のとおりとなっていた。

(a) 母子家庭等就業・自立支援事業の実施状況

母子家庭等就業・自立支援事業は、母子家庭等対策総合支援事業費国庫補助金の交付対象事業の一つであり、同補助金は、「母子家庭等対策総合支援事業費の国庫補助について」(平成20年厚生労働省発雇児第1014001号)等に基づき、地域における母子家庭等対策の一層の普及促進を図ることを目的として、都道府県等が実施する母子家庭等に対する事業の実施に要する経費に対して交付されることとなっている。

そして、「母子家庭等就業・自立支援事業の実施について」(平成20年雇児発第0722003号。以下「母子家庭等就業・自立支援事業実施要綱」という。)等によると、母子家庭等就業・自立支援事業には、図表1-7-18のとおり、母子家庭の母等を対象とした、就業支援事業、就業支援講習会等事業、就業情報提供事業、在宅就業推進事業、養育費等支援事業及び面会交流支援事業(以下、これらの6事業を「母子家庭等支援事業」という。)、相談関係職員研修支援事業及び「広報啓発・広聴、ニーズ把握活動等事業」がある。

図表1-7-18 母子家庭等就業・自立支援事業の主な支援内容

事業名 主な支援内容
就業支援事業 就業相談、職業の適性等に対する適切な助言や支援の実施、企業の意識啓発、求人開拓の実施等
就業支援講習会等事業 就業準備等に関するセミナーや資格等を取得するための就業支援講習会の開催
就業情報提供事業 求人情報の提供
在宅就業推進事業 在宅就業に関するセミナーの開催や在宅就業コーディネーターによる支援
養育費等支援事業 養育費の確保のための弁護士等による相談の実施、生活支援の実施
面会交流支援事業 別居親と子どもの面会交流援助の実施
相談関係職員研修支援事業 母子・父子自立支援員等の相談関係職員の資質向上のための研修会の開催や研修受講支援
広報啓発・広聴、ニーズ把握活動等事業 支援施策に係るニーズ調査及び広報啓発活動の実施

(注) 厚生労働省「平成29年度母子家庭の母及び父子家庭の父の自立支援施策の実施状況」(平成30年12月公表)等に基づき作成

母子家庭等就業・自立支援事業には、都道府県、政令指定都市及び中核市が実施主体となって実施する母子家庭等就業・自立支援センター事業(以下「センター事業」という。)と一般市、特別区及び福祉事務所を設置している町村が実施主体となって実施する一般市等就業・自立支援事業とがある。

検査を実施した25都道府県のうち沖縄県を除く24都道府県、14政令指定都市及び33中核市におけるセンター事業の実施状況をみたところ、30年度にセンター事業を実施していたのは、24都道府県、14政令指定都市及び30中核市の計68実施主体となっており、センター事業を県と共同で実施するなどしている2実施主体を除いた66実施主体に対して同年度に母子家庭等対策総合支援事業費国庫補助金が計4億1712万余円交付されていた。

そこで、多数の実施主体において実施されているセンター事業についてみたところ、次のとおりとなっていた。

i 母子家庭等支援事業別の実施状況

前記68実施主体のセンター事業を実施する施設等(以下「母子センター」という。)が実施している30年度のセンター事業の母子家庭等支援事業別の実施状況をみたところ、図表1-7-19のとおり、最も多く実施しているのは養育費等支援事業で61実施主体、次に就業支援講習会等事業で60実施主体、その次に就業支援事業で58実施主体となっていた。

図表1-7-19 センター事業の実施主体が実施している母子家庭等支援事業(平成30年度)

区分 母子家庭等支援事業 左の組合せで支援事業を実施している実施主体数
就業支援事業 就業支援講習会等事業 就業情報提供事業 在宅就業推進事業 養育費等支援事業 面会交流支援事業
各実施主体が実施している事業の組合せ 3
  2
  3
    31
    1
    1
      6
      8
      2
        1
        5
        1
          4
事業ごとの実施主体数及び全実施主体数に対する割合 58 60 48 6 61 8 68
(85.2%) (88.2%) (70.5%) (8.8%) (89.7%) (11.7%)

(注) 「母子家庭等支援事業」欄の「○」はその事業を実施していたことを示している。

ii 就業支援事業の就業相談件数及び連携状況

厚生労働省は、母子家庭等就業・自立支援事業について、同事業による就業相談件数を、事業の実績量等を評価するための活動指標としていて、就業支援事業に係る就業相談件数を公表している。

そこで、母子センターが実施する母子家庭等支援事業のうち、母子家庭の母等の就業に直接的に関係があると思料される就業支援事業の実施状況について、前記68実施主体のうち29年度に就業支援事業を行っていた57実施主体における同年度の就業相談件数を厚生労働省の資料により確認したところ、就業相談件数は、図表1-7-20のとおり、14実施主体において1,000件以上となっていた一方で、12実施主体において100件未満となっているなどしていた。

図表1-7-20 就業支援事業に係る就業相談件数(平成29年度)

就業相談件数の実績 100件未満 100件以上
300件未満
300件以上
1,000件未満
1,000件以上
実施主体数 12 11 17 14 54
  • 注(1) 就業相談件数は延べ数である。
  • 注(2) 57実施主体のうち3実施主体については、その実績が、共同で事業を実施している他の実施主体の実績に含まれているため、集計対象から除外している。

また、母子家庭等就業・自立支援事業実施要綱によると、就業支援事業の実施に当たっては公共職業安定所等と連携を図ることとなっていることから、30年度における母子センターと公共職業安定所等との連携状況をみたところ、センター事業を実施していた68実施主体のうち、公共職業安定所から母子家庭の母等向けの求人の提出を受けているものが16実施主体となっていた。また、都道府県労働局に申請して求人情報の提供をオンラインにより受けているものが22実施主体となっていた。

iii 「広報啓発・広聴、ニーズ把握活動等事業」の実施状況

 「広報啓発・広聴、ニーズ把握活動等事業」は、母子家庭等就業・自立支援事業実施要綱によると、支援を必要とする母子家庭の母等に必要な支援が届くよう支援施策について周知することが必要であるとなっている。そこで、母子家庭等就業・自立支援事業実施要綱において、ニーズ調査等や広報啓発活動を行うものとされている同事業について、母子センターにおける実施状況をみたところ、28年度から30年度までの3年間で同事業により広報啓発等を実施したことのある実施主体は、前記68実施主体のうち15実施主体となっていた。

(b) トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)等

トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)等の各種雇用関係助成金は、貧困対策大綱において保護者に対する就労の支援に係る施策の一つとして掲げられていて、この各種雇用関係助成金の活用を推進し、親の就労機会の確保に努めることとなっている。

トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)は、雇用保険法(昭和49年法律第116号)等に基づき、職業経験、技能及び知識の不足等から安定した職業に就くことが困難な求職者について、常用雇用へ移行することを目的として、公共職業安定所等の紹介により、これらの者を一定期間の試行雇用する事業主に対して支給されるものであり、母子家庭の母等が同助成金の対象労働者となっている。

そこで、母子家庭の母等を試行雇用した事業主に対して28年度から30年度までの間に支給されたトライアル雇用助成金(一般トライアルコース)の支給状況をみたところ、支給件数及び支給額は、28年度178件、計2346万余円、29年度160件、計2186万余円、30年度145件、計1915万円となっていた。

このように、トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)の支給件数及び支給額が減少傾向にある状況について、前記のとおり、厚生労働省は、景気回復に伴い雇用情勢が改善され一定期間の試行雇用を経ずに長期の雇用を希望する母子家庭の母等が多くなり、同助成金を事業主が利用しなかったことなどから、事業主による同助成金の活用が低調となっているとしている。

また、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)は、雇用保険法等に基づき、就職が特に困難な者の雇用機会の増大を図るために、これらの者を公共職業安定所等の紹介により継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対する助成を行うものであり、母子家庭の母等が同助成金の対象労働者となっている。そこで、母子家庭の母等を雇用した事業主に対して、28年度から30年度までの間に支給された特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)の支給状況をみたところ、支給件数及び支給額は、28年度30,951件、計89億5749万余円、29年度28,323件、計74億2871万余円、30年度24,591件、計65億1601万余円となっていた。このように、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)の支給件数及び支給額が減少傾向にある状況について、厚生労働省は、上記のトライアル雇用助成金(一般トライアルコース)と同様に、雇用情勢が改善されていることなどによるとしている(「母子家庭の母等に対する就労支援による効果の発現状況」については、後掲2(3)ウ参照)。

d 地域における子どもの貧困対策推進のための支援

前記のとおり、地域における施策推進への支援について、貧困対策大綱によれば、子どもの貧困対策を総合的に推進するためには、教育分野、福祉分野等の地域における多様な関係者の連携・協力を得つつ、地域の実情に即した効果的な施策に取り組むことが重要であるとされ、教育の支援、生活の支援等の四つの支援施策に加えて、地域を基盤とした支援ネットワークの整備・活用を視野に入れて地方公共団体の取組を支援することなどとされている。

そして、内閣府は、「地域子供の未来応援交付金交付要綱」(平成28年2月内閣総理大臣決定)、「子供の未来応援地域ネットワーク形成支援事業実施要領」(平成28年府政共生第1087号)等に基づき、都道府県及び市町村が、子どもと支援を実際に結びつける事業を実施する過程を通じて、関係機関等による連携を深化し、地域における総合的な支援体制を確立する取組を支援することを目的として、未来応援交付金を交付している。

都道府県及び市町村が地域ネットワーク形成を行うために実施する事業(以下「ネットワーク事業」という。)は、 30年2月の上記要綱の改正の前後で一部異なるものの、主に、①実態調査・分析及び支援ニーズに応える資源量把握並びに支援体制の整備計画策定、②子どもと支援を結びつける事業・連携体制の整備及び③地域ネットワーク形成のための市町村関係職員その他の支援活動従事者等を対象とする研修事業(以下、②と③の事業を合わせて「支援事業・体制整備等」という。)から構成されている。

検査を実施した25都道府県のうち沖縄県を除く24都道府県及び1,025市区町村の27年度から30年度までの未来応援交付金の活用状況についてみたところ、12道府県、152市区町村の計164実施主体が未来応援交付金の交付を受けてネットワーク事業を実施していた。このうち、157実施主体が実態調査・分析及び支援ニーズに応える資源量把握並びに支援体制の整備計画策定を、33実施主体が支援事業・体制整備等を、それぞれ行っていた。

そして、実態調査・分析及び支援ニーズに応える資源量把握並びに支援体制の整備計画策定を行っていた157実施主体のうち、157実施主体が実態調査・分析又は資源量把握を、53実施主体が支援体制の整備計画策定を、それぞれ行っていた。

また、支援事業・体制整備等を行っていた 33実施主体について、各実施主体において具体的に実施した取組をみたところ、図表1-7-21のとおり、25実施主体が協議会等の会議開催に関する取組を、19実施主体が子どもの居場所づくりに関する取組を、20実施主体が子どもを支援につなぐための人材に関する取組を、それぞれ行っていた。

図表1-7-21 支援事業・体制整備等を行っていた33実施主体が具体的に実施した取組(平成27年度~30年度)

区分 協議会等の会議開催に関する取組 子どもの居場所づくりに関する取組 子どもを支援につなぐための人材に関する取組 その他
実施主体数 25 19 20 3

(注) 複数の取組を実施している実施主体があるため、各取組を実施している実施主体数を合計しても33実施主体とは一致しない。

そこで、これらの取組のうち、子どもの貧困対策として子どもに直接的に関係があると思料される子どもの居場所づくりに関する取組及び子どもを支援につなぐための人材に関する取組の実施状況について検査するとともに、沖縄県では、上記の両取組は、同県に特化した子どもの貧困対策を推進するための事業である緊急対策事業を活用するなどして実施されていることから、同県における両取組の実施状況も検査したところ、次のとおりとなっていた。

(a) 子どもの居場所づくりに関する取組

未来応援交付金を活用して子どもの居場所づくりに関する取組を行っていた19実施主体の取組内容をみたところ、図表1-7-22のとおり、27年度から30年度までの間に行政機関自らが子どもの居場所の設置運営を行っていたものが11実施主体(自ら設置運営を行っている子どもの居場所39か所)となっていた。また、民間団体等が運営する子どもの居場所の設置運営の支援を行っていたものが13実施主体となっていて、その全てが子どもの居場所の設置運営のための情報提供等を行っていた。さらに、上記13実施主体のうち11実施主体が子ども食堂に係る取組の支援を行っていて、このうち子ども食堂に係る手引の作成を行っていたものが8実施主体、子ども食堂で使用する食材を確保するための仕組みの構築を行っていたものが4実施主体となっていた。そして、この13実施主体のうち、民間団体等が設置運営を行う子どもの居場所数を把握している9実施主体においては、民間団体等が設置運営を行う子どもの居場所は619か所(うち子ども食堂228か所)となっていて、28年2月時点の436か所(うち子ども食堂65か所)から増加していた。

図表1-7-22 子どもの居場所に関する取組内容(平成27年度~30年度)

区分 子どもの居場所づくりに関する取組
  行政機関自らが子どもの居場所の設置運営を実施 民間団体等が運営する子どもの居場所の設置運営の支援
  子どもの居場所の設置運営のための情報提供等 子ども食堂に係る取組の支援
  子ども食堂に係る手引の作成 子ども食堂で使用する食材を確保するための仕組みの構築
実施主体数 19 11 13 13 11 8 4

(注) 複数の区分を実施している実施主体があるため、各区分を実施している実施主体数を合計しても、その上位区分を実施している実施主体数とは一致しない。

上記のとおり、行政機関自らが子どもの居場所の設置運営を行っているものが11実施主体あり、民間団体等が行う子どもの居場所の設置運営の支援を行っているものが13実施主体あるが、これらの取組や支援を行うことにより、地域のNPO、民間企業等との連携が図られ、さらに、その連携の下で子どもに対して支援が行われることなどにより、地域を基盤とした地域ネットワーク形成が推進されていくものと思料される。

また、沖縄県では、前記のとおり、子どもの居場所づくりは緊急対策事業により実施されている。緊急対策事業は、沖縄県における子どもの貧困率が高く、子どもを取り巻く環境が厳しい状況にあることを踏まえて、沖縄の子どもの貧困に関する状況に緊急に対応するために、内閣府沖縄振興局が、28年度から令和3年度までを集中対策期間として実施している事業である。そして、同局が毎年度公表している「沖縄子供の貧困緊急対策事業の実施状況について」によると、平成30年度に緊急対策事業を活用して運営されている子どもの居場所は、26市町村の144か所となっていて、地域の実情に応じて、食事の提供や共同での調理、生活指導、学習支援等が実施されており、30年度の延べ利用者数は298,760人となっていた。

(b) 子どもを支援につなぐための人材に関する取組

未来応援交付金を活用して子どもを支援につなぐための人材に関する取組を行っていた20実施主体の取組内容をみたところ、30年度末までに、子どもを支援につなぐための人材を雇用していたものは14実施主体(雇用者数計83人)となっていた。また、子どもを支援につなぐための人材を養成するため、研修を行っていたものは7実施主体(養成した人材数計720人)となっていたが、このうち4実施主体は、養成した人材の研修終了後の活動状況が把握できていない状況となっていた。また、沖縄県では、28年度以降、緊急対策事業を活用し、子どもを支援につなぐための人材等として、子供の貧困対策支援員の配置を推進している。子供の貧困対策支援員は、子どもの貧困に関する各地域の現状を把握し、学校や学習支援施設、NPO等の関係機関との情報共有や、子どもを各種支援につなげるための調整を行う者であり、前記の「沖縄子供の貧困緊急対策事業の実施状況について」によると、30年度は、県内の29市町村に計117人が配置されていて、同年度に子供の貧困対策支援員が子どもの居場所、市町村役場、学校・教育委員会等につないだ延べ人数は4,484人となっていた。

(エ) 子どもの貧困対策における支援対象者把握のための取組

貧困対策大綱においては、教育を受ける機会の均等を図り、生活の支援、保護者に対する就労の支援等と合わせて、子どもの貧困対策を総合的に推進することにより、いわゆる「貧困の連鎖」を防ぐことが重要であるとされている。そして、これらの子どもの貧困対策に係る各施策は、各地方公共団体において、新規に事業等が創設される場合もあるものの、その大半は既存の事業を活用するなどして実施されている。

一方、子どもの貧困対策に係る支援対象者は、これら各施策の存在や当該施策に係る制度の利用に関する手続等を十分に理解していない状況等も見受けられる。そのため、支援対象者に対して必要な支援が的確に実施されるためには、各施策の実施主体である地方公共団体が支援対象者を適切に把握することが重要となる。

また、子供の貧困対策に関する有識者会議において令和元年8月に取りまとめられた「今後の子供の貧困対策の在り方について」では、次期貧困対策大綱の策定に向けた施策の方向性等が示されていて、その中で、貧困対策を講ずるに当たって踏まえるべき視点として「①親の妊娠・出産期から子供の社会的自立までの切れ目のない支援」「②地方公共団体による取組の充実」及び「③支援が届かない、又は届きにくい子供・家族への支援」の三つが掲げられている。このうち、②については、生まれた地域によって子どもの将来が異なることのないよう、地方公共団体による計画策定や取組の充実促進が求められており、特に、子ども一人一人について様々な情報を保有している基礎自治体である市町村において、福祉や教育等の取組の過程で得られた個別の子どもの状況に関する情報を活用することにより、支援を要する子どもを広く把握し、効果的に支援へつなげていくことが可能となるとの見解が示されている。

そこで、支援対象者を子どもの貧困対策に関する各種支援につなぐための市町村における取組等について検査したところ、次のような状況となっていた。

a 金銭給付に関する支給対象者の状況

貧困対策大綱によれば、子どもの貧困対策を進めるに当たっては、生活保護や各種手当等の金銭の給付や貸付け、現物給付等を組み合わせた形で世帯の生活の基礎を下支えしていく必要があるとされており、これらの経済的支援は子どもの貧困対策における基本的な方針として位置付けられている。

そして、経済的支援のうち、生活保護、児童扶養手当及び就学援助の金銭給付は、一定の所得要件等を満たした世帯全体に対して支給されるものであり、その支給対象者は多数に上っている(図表1-7-23参照)。

図表1-7-23 金銭給付の支給対象者等に関する状況

金銭給付の種類 支給対象者等数 支給対象者等数の基となっている統計データ
生活保護 221,753人(平成29年度)
(生活保護受給世帯における0歳から17歳までの者の人数)
「平成29年度被保護者調査」
(厚生労働省)
児童扶養手当 973,188人(29年度)
(児童扶養手当受給世帯における0歳 から18歳までの者等を監護する者等の人数)
「平成29年度福祉行政報告例」
(厚生労働省)
就学援助 1,432,018人(28年度)
(就学援助受給世帯における6歳から15歳までの者の人数)
「平成29年度就学援助実施状況等調査」(文部科学省)

(注) 1人の支給対象者等に対して複数の金銭給付が重複して支給されることがある。

b 支援対象者を各種支援につなぐための福祉部局内の連携等の取組

生活保護及び児童扶養手当の支給業務は、福祉事務所を設置している市町村が行うこととなっており、福祉事務所を設置していない町村については都道府県が行うこととなっている。また、就学援助に係る金銭の支給業務は市町村が行うこととなっている。そして、前記のとおり、生活保護等の金銭給付は、一定の所得要件等を満たした世帯に対して市町村等が支給しているものであり、市町村等は、当該世帯等に係る情報を保有している。

そこで、会計実地検査を行った25都道府県内の市町村のうち、14政令指定都市、34中核市のほか、平成30年度までに子どもの貧困対策推進のために交付される未来応援交付金を活用した実績のある120市区町村、計168市区町村において、「生活保護」「児童扶養手当」及び「就学援助」の支給等に係る情報(以下「給付関連情報」という。)を用いて、支援対象者を各種支援につなぐために、どのように福祉部局における担当部署間の連携等を図っているか確認したところ、図表1-7-24のとおり、支援対象者に対して学習支援等の各種施策に関係する情報を周知するために、給付関連情報を保有している担当部署に対して協力を依頼するなど、担当部署間で相互に連携等を図っている市町村が複数見受けられた。

図表1-7-24 支援対象者を各種支援につなぐための取組

給付関連情報 上段:対象者
下段:市町村数
主な取組
生活保護給付情報 就学援助の支援対象者 ・就学援助の対象者への周知
・受給すべき対象者の申請漏れを防ぐための確認
93(55.3%)  
学習支援事業の支援対象者 ・学習支援事業の対象者へのケースワーカーを通じた周知
・学習支援事業の対象者への案内等の送付
114(67.8%)  
児童扶養手当給付情報 学習支援事業の支援対象者 ・学習支援事業の周知・募集
67(39.8%)  
就労支援事業の支援対象者 ・就労支援事業の周知・募集
・支援対象者の家庭環境等に関する関係部署との情報共有
55(32.7%)  
就学援助給付情報 学習支援事業の支援対象者 ・学習支援事業の周知・募集
・支援対象者の家庭環境等に関する関係部署との情報共有
40(23.8%)  
  • 注(1) 同一の市町村において給付関連情報を複数の目的に利用していることがある。
  • 注(2) 「市町村数」欄の括弧書きは、168市区町村に対する割合である。

c 母子保健等の事業等を用いて各種支援につなぐための取組

貧困対策大綱によれば、妊娠期からの切れ目のない支援等が重点施策の一つとして位置付けられており、家庭の経済状況等にかかわらず、安心して妊娠・出産し、子どもが健やかに育成されるよう、身近な地域で、妊産婦等の支援ニーズに応じて、妊娠期から子育て期にかけて切れ目のない支援を行える体制づくりを図ることとされている。また、保護者の生活支援も重点施策の一つとして位置付けられており、全ての乳児のいる家庭を訪問することにより、子育てに関する情報の提供並びに乳児及びその保護者の心身の状態及び養育環境の把握を行うこととされている。

市町村は、妊娠の届出、乳児健康診査等の母子保健等の各事業等を実施しており、これらの事業では、市町村の担当者等が妊産婦、乳幼児、その保護者等と直接対面する機会があるなど、市町村が妊産婦、乳幼児、その保護者等の状況を把握し得るものとなっている。

そこで、前記の168市区町村において、支援対象者を各種支援につなぐために、母子保健等の事業を実施する部署が、他の部署とどのように連携を図っているか確認したところ、図表1-7-25のとおり、多数の市町村において、母子保健等の事業等を担当する部署と経済的支援等の各種支援を担当する部署等が、母子保健等の事業等により得られた情報を共有するなどして相互に連携を図りながら、必要な支援につないでいる状況が見受けられた。

図表1-7-25 母子保健等の事業等における担当部署間の連携状況

事業等名 事業等の内容 各事業等で得られた情報を用いて関係部署につないでいる市町村数 主な内容
妊娠の届出 妊娠した者は、速やかに妊娠の届出を行う。 128
(76.1%)
妊娠届に家庭の経済面について記載欄を設けており、当該記載を基に必要があれば関係部署の支援につなぐ。
母子健康手帳の交付 妊産婦、乳児及び幼児に係る健康診査及び保健指導の内容等を記録するための手帳を交付する。 140
(83.3%)
母子健康手帳の交付時等に全妊婦に対して面接を実施することとしており、その際に経済面等の家庭環境を確認し、必要があれば関係部署の支援につなぐ。
妊婦健康診査 妊産婦、乳児及び幼児に係る健康診査及び保健指導を行う。 35
(20.8%)
各妊婦健診時に、アンケート調査等を利用して家庭の状況等を把握し、必要があれば追加で面談をして関係部署につなぐ。
出生の届出 出生の日から14日以内に子の出生地・本籍地又は届出人の所在地の市役所、区役所又は町村役場に提出する。 17
(10.1%)
届出時に、アンケート調査等を利用し家庭の状況等を把握し、必要があれば追加で面談をして関係部署につなぐ。
乳児家庭全戸訪問 生後4か月を迎えるまでの乳児のいる全ての家庭を訪問することにより、子育てに関する情報の提供、乳児及びその保護者の心身の状況、養育環境の把握等を行うほか、養育についての相談に応じ、助言その他の援助を行う。 157
(93.4%)
乳児家庭全戸訪問の実施時に家庭環境についても把握に努め、配慮すべき状況がある場合、関係部署につなぐ。
各種健康診査 子どもの病気の予防と病気の早期発見、健康保持と増進を目的として実施する健診等であり、1歳6か月健診及び3歳健診は法定義務として全市町村が実施し、その他の健診は市町村が任意で実施している。 48
(28.5%)
各種健診事業における調査票やアンケート調査において経済的項目についての記載を設けており、当該記載がある場合は面談等を行っており、配慮すべき児童がいる場合、関係部署につなぐ。
居所不明児童調査 乳幼児健診未受診や、未就園、不就学等で福祉サービス等を利用していないなど関係機関が安全を確認できていないなどの子どもの情報について把握する。 138
(82.1%)
居所不明児の調査の過程で、配慮すべき児童がいる場合、関係部署につなぐ。

(注) 「各事業等で得られた情報を用いて関係部署につないでいる市町村数」欄の括弧書きは168市区町村に対する割合である。

このように、給付関連情報や母子保健等の事業により得られた情報を共有するなど福祉部局内で相互に連携を図ることなどにより、支援対象者を各種支援につないでいる市町村が見受けられた。そして、前記のとおり、子どもの貧困対策においては支援対象者の把握が重要であり、「今後の子供の貧困対策の在り方について」においても、市町村において、福祉や教育等の取組の過程で得られた個別の子どもの状況に関する情報を活用することにより、支援を要する子どもを広く把握し、効果的に支援へつなげていくことが可能となるとの見解が示されている。

したがって、内閣府及び厚生労働省において、市町村等が支援対象者を子どもの貧困対策に係る各種支援につなげるために、福祉部局内の情報共有等の連携の在り方等について検討するとともに、その検討結果等を踏まえて、市町村等に対して必要な技術的助言、情報提供等を行うことが必要であると認められる。

(3) 3府省における子ども・子育て支援施策に関する連携状況

子ども・子育て支援施策については、前記のとおり、支援法に基づく事務は内閣府が、児童福祉法に基づく事務は厚生労働省が、学校教育法等に基づく事務は文部科学省がそれぞれ実施し、認定こども園法に基づく事務は3府省が連携しながら実施するなど、複数の府省が担当することとなっている。

3府省は、認定こども園に対する財政支援や施設整備に関する補助等については、それぞれの府省において補助金の交付事務等を実施しているが、相互に連携するなどして子ども・子育て支援施策を実施しているとしている。そして、3府省において3府省間の連携状況や各施策の調整状況等について検査したところ、府省間の人事交流の実施や複数の府省共同での定期的な会議の開催等を通じて、3府省間の連携や施策の調整等を図っているなどの状況が見受けられた。

一方、子ども・子育て支援施策が市町村にとって利用しやすいものとなっているかなどについて検査するために、会計実地検査を行った166市区町村に対して、 3府省が現在の体制で子ども・子育て支援施策を実施していることによる国庫補助事業等の実施上のメリット(事業等を実施しやすい点)、デメリット(事業等の実施に当たり支障等がある点)等についてアンケート調査を実施したところ、メリットを感じると回答した市町村が17市区町村(166市区町村に対する割合10.2%)、デメリットを感じると回答した市町村が101市区町(同60.8%)となっていた(メリットを感じる点とデメリットを感じる点の両方を回答したり、無回答であったりなどした市町村があるため、合計は166市区町村とならない。)。

そして、メリットを感じる点とデメリットを感じる点のそれぞれの内容をみると、メリットを感じる点については、「各府省の多種多様な補助メニューの活用が期待できる」「子ども・子育て支援施策の大きな枠組みについての連絡(計画策定等)は内閣府から一本化された指示があり、市町村での取りまとめがしやすい」などの回答が見受けられた。

また、デメリットを感じる点については、図表1-8-1のとおり、「市町村において業務の重複等が生ずること」「制度が複雑であり理解等が困難であること」などの回答が多くなっていた。このうち、最も回答数が多い「市町村において業務の重複等が生ずること」の具体的な内容は、①複数の府省から類似した通知、調査、照会等があり、市町村側では、その都度の対応や整理が必要となり、事務を煩雑にしているなどといったものや、②幼保連携型認定こども園に係る施設整備について、保育を実施する部分は厚生労働省に、教育を実施する部分は文部科学省に、それぞれ申請等を行う必要があることから、多大な事務負担が生じているなどといったものが多くなっていた。

図表1-8-1 市町村がデメリットを感じる点

回答の種別 回答数 割合
市町村において業務の重複等が生ずること
47 46.5%
制度が複雑であり理解等が困難であること
40 39.6%
制度における手続等が煩雑であること
15 14.8%
所管府省ごとの調整等に労力等を要すること
8 7.9%
所管府省の対応が遅いこと
7 6.9%
その他
7 6.9%
【回答の具体例】
〔市町村において業務の重複等が生ずること〕
・類似の通知が発出元を変えて多数届くため、都度の確認と情報更新にエネルギーを要し、また、混乱もしている。
・同じような調査・照会が、調査元や対象制度を変えて別々に届くため非効率である。
・幼保連携型認定こども園に係る施設整備について、厚生労働省と文部科学省双方への申請が必要となり、補助対象経費の案分や一方のみ補助対象となる対象経費の算定等、多大な事務負担が生じている。
〔制度が複雑であり理解等が困難であること〕
・3府省で認定基準や補助率など制度の細部に差があり、事業者等への説明に当たっての情報整理が困難である。
・細かい事務の内容になると厚生労働省及び文部科学省からそれぞれ指示があるが、同様の指示が別々の省から出されることもあり、対応に困ることがある。
  • 注(1) 自由記述形式による回答を会計検査院が分類して集計したものであるが、複数の回答があり二つ以上の種別に分類したものなどがあるため、「回答数」を合計しても市町村数とは一致しない。
  • 注(2) 「割合」は、デメリットを感じると回答した市町村数(101市区町)に対する各種別の回答数の割合である。

上記のアンケート調査結果等を踏まえて検査したところ、①に関連して、子ども・子育て支援施策に係るほぼ同趣旨の連絡文書が、二つの府省から市町村等へ別々に送付されている状況や、②に関連して、幼保連携型認定こども園の保育を実施する部分と教育を実施する部分について、補助事業の実施上の手続や補助対象となる経費に差異があったり、共用部分の補助対象経費を案分計算するなどして両者に割り振り、別々に申請する必要があったりするため、市町村がそれぞれの補助対象経費の算定、関係書類の作成等に労力を要している状況等が見受けられた。

このように、3府省は連携するなどして施策を実施しているとしているものの、子ども・子育て支援施策に係る主要な実施主体である市町村からは3府省の連携・調整の問題点等に起因するデメリットに関する意見が多く出されたことなどから、必ずしも3府省の連携・調整等が十分に行われ、各施策を実施する上での効率化等が十分に図られている状況にはなっていないと認められた。

前記の①については、3府省が連携・調整を図り、同趣旨の通知等を発出する際には特定の府省が取りまとめを行うことなどにより、府省間の事務の重複が生じないようにすることが望まれる。また、②については、厚生労働省と文部科学省が連携・調整を図り、幼保連携型認定こども園に係る施設整備の手続や補助対象経費を可能な限り共通化することなどにより、市町村等の事務負担を軽減することが望まれる。

また、会計検査院は、令和元年6月に、認定こども園において教育を実施する部分と保育を実施する部分の二つの事業を同時に行う場合の1施設当たりの特殊附帯工事に係る補助等基準額の算定方法が適切なものとなっていないなどの事態について、文部科学大臣及び厚生労働大臣に対して会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求するなどしている。そして、上記事態の発生原因は、文部科学省及び厚生労働省において、上記基準額の算定方法についての検討が十分でないことなどによると記述している。

前記の3府省の連携・調整等が必ずしも十分でない状況や、上記の文部科学省及び厚生労働省において検討が十分でない状況を改善するためには、3府省が連携・調整を一層推進することが重要であり、それにより、市町村がより効率的・効果的に子ども・子育て支援施策に係る事業を実施することが可能となると思料される。

したがって、 3府省において、各府省間の連携等が必ずしも十分でなく、国庫補助事業の実施等に当たり、事務上多大な時間や労力を要するなどしているとの市町村からの意見等を参考とするなどしながら、認定こども園に係る財政支援等の3府省が連携して実施している施策がより円滑に行われ、市町村が一層効率的・効果的に事業を実施できるよう、3府省の連携・調整等の在り方について検討することが必要であると認められる。

2 子ども・子育て支援施策に係る主要施策による効果の発現状況

(1) 待機児童解消施策による効果の発現状況等

ア 保育施設等整備施策等による効果の発現状況

待機児童解消施策のうち保育施設等整備施策は、主に加速化プラン及び子育て安心プランに基づき、保育所等整備交付金等により認可保育所等の施設整備事業等が実施されている。加速化プランについては、平成25年度から29年度までの5年間の実施期間が終了しているが、子育て安心プランについては、30年度から32年度(令和2年度)までの3年間の実施期間の途中である。そのため、保育施設等整備施策に係る主要施策として、実施期間全体の効果を検証することが可能である加速化プランを取り上げることとし、加速化プランの効果として保育施設等の整備がどのように進捗したか、整備された保育施設等は有効に活用されているかなどについて検査したところ、次のとおりとなっていた。

(ア) 保育の受け皿に該当する施設等の概要等

a 保育の受け皿に該当する施設等の概要

国が加速化プランにおいて確保するとしている保育の受け皿に該当する施設等の概要は、図表2-1-1のとおりとなっており、認可保育所、認定こども園等の保育に係る利用定員を有する特定教育・保育施設や特定地域型保育事業だけでなく、認可化移行運営費支援に係る補助金を受給する認可外保育施設、幼稚園における長時間預かり保育事業、地方公共団体が一定の施設等の基準に基づき運営費支援等を行っている単独保育施策(保育所、小規模保育事業等に類するもの)等も含まれている。厚生労働省は、特定教育・保育施設や特定地域型保育事業以外の施設等を保育の受け皿に含めている理由について、認可化移行運営費支援に係る補助金を受給する認可外保育施設や幼稚園における長時間預かり保育事業については、国庫補助事業により特定教育・保育等の代替となる保育施策が実施されていると考えているためとしている。また、地方公共団体の単独保育施策については、市町村等における待機児童対策の取組を尊重する観点から、市町村等が一定の施設基準の下で運営費支援等の関与を行っている施策は保育の受け皿に該当すると考えているためなどとしている。

また、厚生労働省等は、企業主導型保育事業が開始された28年度以降、同事業により整備された企業主導型保育施設についても、同事業が待機児童解消等を目的として創設された事業であること、認可保育所等と同様に国庫補助による助成が行われていることなどに鑑み、保育の受け皿に含めている。

図表2-1-1 保育の受け皿に該当する施設等の概要(平成29年度)

施設等の種類 施設等 概要
特定教育・保育施設 認可保育所 保育を必要とする乳児・幼児を日々保護者の下から通わせて保育を行うことを目的とする施設(利用定員が20人以上であるものに限り、幼保連携型認定こども園を除く。)であって、都道府県の認可を受けるなどしたもの
保育所型認定こども園
(保育所部分)
小学校就学前の子どもに対する教育、保育及び保護者に対する子育て支援を総合的に提供する機能を備える施設である認定こども園のうち、保育所に幼稚園の機能を加えたもの(保育の受け皿に該当するのは、保育所部分のみ)
幼保連携型認定こども園
(保育を実施する部分)
認定こども園のうち、幼稚園と保育所の両方の機能を併せ持つもの(保育の受け皿に該当するのは、保育を実施する部分のみ)
幼稚園型認定こども園
(保育所機能部分)
認定こども園のうち、幼稚園に保育所の機能を加えたもの(保育の受け皿に該当するのは、保育所機能部分のみ)
地方裁量型認定こども園
(保育所機能部分)
認定こども園のうち、保育所と幼稚園のいずれの認可もないもの(保育の受け皿に該当するのは、保育所機能部分のみ)
特定地域型保育事業 小規模保育事業 保育を必要とする乳児・幼児であって満3歳未満のものについて、当該保育を必要とする乳児・幼児を保育することを目的とする施設(利用定員が6人以上19人以下であるものに限る。)において、保育を行うなどの事業
家庭的保育事業 家庭において必要な保育を受けることが困難である乳児又は幼児であって満3歳未満のものについて、家庭的保育者の居宅その他の場所において、家庭的保育者による保育を行うなどの事業(利用定員が5人以下であるものに限る。)
事業所内保育事業 事業主がその雇用する労働者の監護する児童等を保育するために設置する施設等において、保育を必要とする乳児・幼児であって満3歳未満のものについて保育を行うなどの事業
居宅訪問型保育事業 保育を必要とする乳児・幼児であって満3歳未満のものについて、当該保育を必要とする乳児・幼児の居宅において家庭的保育者による保育を行うなどの事業
上記以外の国庫補助事業等に係る施設等 認可化移行運営費支援に係る補助金を受給する認可外保育施設 子どものための教育・保育給付費補助金による認可化移行運営費支援事業の補助を受けている認可外保育施設
幼稚園における長時間預かり保育事業 子どものための教育・保育給付費補助金による幼稚園における長時間預かり保育運営費支援事業の補助を受けて実施される長時間預かり保育事業
企業主導型保育事業 企業主導型保育施設において、従業員等が監護する児童の保育を行う事業
その他の施設等 地方単独保育施策 地方公共団体が一定の施設等の基準に基づき運営費支援等を行っている単独保育施策(保育所、小規模保育事業等に類するもの)。例えば、東京都が独自の基準を設定して認証している施設である「認証保育所」がある。
その他 厚生労働省は、市町村等における待機児童対策の取組を尊重する観点から、上記のほか、地域の実情により市町村が保育の受け皿と認めたものを保育の受け皿として計上している。

b 認可保育所等の利用定員数等の推移

保育の受け皿のうち、認可保育所等について、厚生労働省が公表している元年度から31年度までの各年度4月1日時点の箇所数、利用定員(26年度以前は認可定員。以下同じ。)数及び利用児童数の推移をみると、図表2-1-2のとおりとなっており、利用児童数は、6年度までは減少していたが、7年度以降は増加に転じ、31年度には2,679,651人となっている。また、利用定員数も、10年度までは減少していたが、保育需要の増大等を受けて11年度以降は増加に転じ、31年度には2,888,159人分となっている。

図表2-1-2 認可保育所等の箇所数、利用定員数及び利用児童数の推移(平成元年度~31年度)

図表2-1-2 認可保育所等の箇所数、利用定員数及び利用児童数の推移(平成元年度~31年度) 画像

(イ) 加速化プランによる保育の受け皿の拡大量等

a 加速化プラン実施期間中の企業主導型保育事業を含めた保育の受け皿の拡大量

厚生労働省は、30年9月に「「待機児童解消加速化プラン」及び「子育て安心プラン」集計結果」を公表している。この公表資料によると、加速化プランの実施期間である25年度から29年度までの間の市町村における保育の受け皿の拡大量は、図表2-1-3のとおり、計475,726人分となっている。この拡大量は、厚生労働省が、全国の市町村から提出された待機児童解消加速化計画、保育拡大計画等を基に算出した各年度の保育の受け皿の拡大量を合計したものである。そして、待機児童解消加速化計画及び保育拡大計画における保育の受け皿の拡大量は、各市町村において、加速化プラン採択事業、加速化プラン採択事業以外の国庫補助事業、市町村の単独事業、施設整備を伴わない利用定員の増加等による拡大量から、施設の廃止、利用定員の減少等による減少量を差し引くなどして、実際に開設している施設等を基に算定したものである。

厚生労働省は、加速化プランにおける保育の受け皿の確保に関する目標50万人分に対して、上記の市町村における拡大量475,726人分と、内閣府から提供のあった情報に基づき算出した企業主導型保育事業による拡大量59,703人分との合計が535,429人分となることから、上記の公表資料において、「企業主導型保育事業による保育の受け皿拡大とあわせて、約53.5万人の保育の受け皿を確保し、政府目標を達成」したとしている。

図表2-1-3 加速化プラン実施期間中の保育の受け皿の拡大量

(単位:人)
年度
区分
平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度 5か年計
市町村における拡大量 72,430 147,233 94,585 93,055 68,423 475,726
企業主導型保育事業による拡大量       20,284 39,419 59,703
219,663 315,766 535,429

(注) 厚生労働省「「待機児童解消加速化プラン」及び「子育て安心プラン」集計結果」(平成30年9月公表)に基づき作成

しかし、この企業主導型保育事業による保育の受け皿の拡大量の内訳をみると、上記の59,703人分には、整備費の助成決定を受けているものの30年4月時点で開設に至っていない企業主導型保育施設の利用定員分(以下「未開設分」という。)等が含まれていた。

また、企業主導型助成要領等によれば、企業主導型保育事業が創設された28年4月1日以降において、「新たに企業主導型保育事業を開始するもの」「企業主導型保育事業の実施以前から事業所内保育施設の運営等を行っている者が、一定の要件を満たした上で28年4月1日以降に利用定員を増加させるために、同事業により既存の施設の改修等を行い、同事業を実施するもの」などを整備費の助成対象にすることとされている。そして、上記の59,703人分には、改修等により利用定員を拡大した場合の既存の利用定員分(以下「既存分」という。)も含まれていた。

そこで、28年4月から30年4月までの間に実際に開設している企業主導型保育施設の利用定員(既存分を除く。)をみると、図表2-1-4のとおり、29年4月時点では9,923人分(517施設)、30年4月時点では41,432人分(1,968施設)となっていて、厚生労働省が前記の公表資料において28、29両年度に企業主導型保育事業により確保したとしていた保育の受け皿59,703人分には、30年4月時点で未開設分約17,000人分、既存分約1,000人分が含まれるなどしていて、結果として、確保されていた実際の利用定員よりも約18,000人分過大となっていた。そして、1(2)ウ(イ)dのとおり、令和元年8月時点において整備費の助成決定が取り消されたり、平成29年度に整備費又は運営費の助成決定を受けたものの30年度中に整備又は運営を取りやめたりしていた事業実施者等が存在しているが、これらの事業実施者等のうち、87事業実施者等の90施設に係る利用定員計2,817人分も、上記の過大となっていた約18,000人分に含まれていた。

前記のとおり、加速化プランでは、25年度から29年度までの5年間で確保する保育の受け皿等に関する目標が設定されているため、その目標に対する達成状況等を検証するためには、29年度末における保育の受け皿の確保量等を正確に把握することが重要となる。しかし、上記のとおり、29年度末時点における企業主導型保育施設による確保量が実態を反映していないことなどから、29年度末における正確な保育の受け皿の確保量が示されていない状況となっていた。

したがって、厚生労働省において、上記の状況を踏まえて、今後、子育て安心プラン等における保育の受け皿の確保に関する目標の達成状況等の検証等を十分に行うためにも、企業主導型保育事業により確保する保育の受け皿等について、実態に即した確保量等の把握に努める必要があると認められる。

図表2-1-4 厚生労働省の公表資料において企業主導型保育事業により確保したとしていた確保量と実際の確保量(実績)との差異

(単位:人)
区分 企業主導型保育事業により確保したとしていた確保量
(A)
実際の確保量
(実績)
(B)
差異
(B)-(A)
平成29年4月 20,284 9,923 10,361
30年4月 59,703 41,432 18,271

(注) 「実際の確保量(実績)」は既存分を含めずに集計している。

b 加速化プラン実施期間中の市町村における保育の受け皿の拡大量

前記の市町村における拡大量475,726人分について、施設等の種類別の内訳を確認したところ、図表2-1-5のとおり、26年度から29年度までに拡大していたのは、「幼保連携型認定こども園」の394,194人分、「小規模保育事業」の67,510人分、「幼稚園型認定こども園」の27,820人分等となっていた。一方、26年度から29年度までに減少していたのは、「認可保育所(保育所型認定こども園を含む。)」の42,895人分、「幼稚園における長時間預かり保育事業」の33,525人分、「認可化移行運営費支援に係る補助金を受給する認可外保育施設」の9,962人分等となっていた。

前記のとおり、政府は、支援制度に基づき、認定こども園、保育所等に対する共通の財政支援を実施するなどして、認定こども園制度の改善を図ったり、加速化プラン等において、認可保育施設への移行を希望する認可外保育施設への支援を実施したりしている。上記施設等の種類別の拡大量・減少量は、これらの政府の取組等を受けて、「認可保育所(保育所型認定こども園を含む。)」や「幼稚園における長時間預かり保育事業」を実施する幼稚園が「幼保連携型認定こども園」等に、「認可化移行運営費支援に係る補助金を受給する認可外保育施設」が認可保育施設に、それぞれ移行している状況等を示していると考えられる。

図表2-1-5 保育の受け皿の拡大量の施設等の種類別内訳

(単位:人)
年度
施設等の種類
平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度 26年度から29年度までの計 合計
認可保育所(保育所型認定こども園を含む。)   11,394 13,929 10,376 7,196 42,895  
幼保連携型認定こども園 140,349 87,152 85,969 80,724 394,194
幼稚園型認定こども園 9,298 5,528 5,420 7,574 27,820
地方裁量型認定こども園 620 299 13 4 936
小規模保育事業 21,848 16,101 15,673 13,888 67,510
家庭的保育事業 1,452 124 148 305 1,781
事業所内保育事業 1,278 2,039 2,464 2,501 8,282
居宅訪問型保育事業 16 17 130 34 197
認可化移行運営費支援に係る補助金を受給する認可外保育施設 2,346 2,391 3,501 1,724 9,962
幼稚園における長時間預かり保育事業 2,004 3,552 18,323 16,750 33,525
地方単独保育施策 5,351 3,114 2,925 7,879 3,511
その他 3,629 793 18,659 18,206 3,969
72,430 147,233 94,585 93,055 68,423 403,296 475,726
  • 注(1) 平成25年度については、26年度以降と施設等の種類が異なることなどから、施設等の種類別の拡大量を記載していない。
  • 注(2) 幼保連携型認定こども園等の認定こども園については、保育を実施する部分等に係る拡大量を示している。

前記のとおり、市町村は、加速化プランによる補助率のかさ上げなどを希望する場合には待機児童解消加速化計画を策定して加速化プランに参加し、希望しない場合には保育拡大計画を策定することとなっている。25年度から29年度までの加速化プラン参加市町村数とその他の市町村数をみると、図表2-1-6のとおり、加速化プラン参加市町村数は増加傾向にあり、29年度には1,741市区町村のうち498市区町村が加速化プランに参加していた。また、前記の市町村における拡大量475,726人分について、加速化プラン参加市町村における拡大量とその他の市町村における拡大量をみると、25年度から29年度までの合計で、加速化プラン参加市町村における拡大量が412,156人分(全体の拡大量475,726人分に対する割合86.6%)となっていた。

図表2-1-6 加速化プラン参加市町村とその他の市町村における拡大量等

(単位:市区町村、人)
年度
区分
平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
加速化プラン参加市町村 市町村数 416 473 421 483 498  
拡大量 63,566 111,616 82,682 86,432 67,860 412,156
その他の市町村 市町村数 1,326 1,268 1,320 1,258 1,243  
拡大量 8,864 35,617 11,903 6,623 563 63,570
市町村数 1,742 1,741 1,741 1,741 1,741  
拡大量 72,430 147,233 94,585 93,055 68,423 475,726

c 加速化プラン採択事業による保育の受け皿の拡大量

前記のとおり、加速化プラン実施期間中の保育の受け皿の拡大量には、加速化プラン採択事業以外の事業による拡大量等が含まれているが、厚生労働省は、加速化プラン採択事業に限定した保育の受け皿の拡大量は把握していないとしている。そこで、会計実地検査を行った166市区町村における加速化プラン採択事業による拡大量を確認したところ、図表2-1-7のとおり、26年度から29年度までの間の国庫補助事業による拡大量158,418人分のうち、149,137人分(94.1%)となっていた。そして、加速化プラン採択事業による拡大量の交付金等別の内訳をみると、保育所等整備交付金に係るものが34,168人分(上記の149,137人分に対する割合22.9%)、保育対策総合支援事業費補助金に係るものが33,384人分(同22.3%)となっていた。また、市町村は、安心こども基金を活用して、保育所等整備交付金及び保育対策総合支援事業費補助金による各事業と同様の事業を実施しており、当該事業に係る拡大量が81,585人分(同54.7%)となっていた。

図表2-1-7 166市区町村における加速化プラン採択事業による保育の受け皿の拡大量等

(単位:人)
区分 交付金等名 事業等名 平成
26年度
27年度 28年度 29年度 事業等ごとの計 交付金等ごとの計
加速化プラン参加市町村数:120 加速化プラン参加市町村数:110 加速化プラン参加市町村数:124 加速化プラン参加市町村数:127
保育施設等整備施策に係る国庫補助事業
加速化プラン採択事業による拡大量 保育所等整備交付金 保育所等施設整備事業   4,812 10,041 18,482 33,335 34,168
小規模保育事業所施設整備事業   303 530 833
保育対策総合支援事業費補助金 賃貸物件による保育所改修費等   1,295 8,140 13,398 22,833 33,384
小規模保育改修費等 1,613 3,072 4,808 9,493
認可化移行改修費等 57 69 451 577
家庭的保育改修費等 23 105 55 183
幼稚園における長時間預かり保育改修費等 200 0 98 298
安心こども基金 保育所緊急整備事業 23,284 13,589 6,848 4,464 48,185 81,585
小規模保育整備事業   0 393 19 412
賃貸物件による保育所整備事業 9,736 6,592 3,297 1,893 21,518
小規模保育設置促進事業 4,372 3,231 911 315 8,829
認可化移行総合支援事業 1,268 572 437 235 2,512
家庭的保育改修等事業 107 5 5 12 129
幼稚園長時間預かり保育改修事業 0 0 0 0 0
加速化プラン採択事業による拡大量計 38,767 31,989 33,621 44,760 149,137
加速化プラン採択事業以外の国庫補助事業による拡大量 1,850 1,429 3,926 2,076 9,281
合計 40,617 33,418 37,547 46,836 158,418

(注) 平成25年度については、26年度以降と拡大量の算出方法が異なることなどから、本図表に含めていない。

このように、加速化プラン実施期間中の市町村における保育の受け皿の拡大量の大部分は加速化プラン参加市町村におけるものであることなどから、加速化プランによる補助率のかさ上げなどの施策は、加速化プラン参加市町村を支援し、保育施設等の整備を進捗させるために一定の効果があったと思料される。

(ウ) 加速化プラン採択事業により整備された施設の利用状況等

a 加速化プラン採択事業により整備された施設の利用状況

加速化プランの効果が十分に発現するためには、加速化プラン採択事業により整備された施設が有効に利用される必要がある。そこで、前記の166市区町村において加速化プラン採択事業により整備された施設について、30年4月1日時点及び同年10月1日時点で、利用定員数より利用児童数が少ないことによる利用定員の空き(以下「空き定員」という。)が生じていた年齢区分があったかを確認したところ、4月1日時点で3,231施設(利用定員数計194,751人分)において空き定員数(注8)計28,115人分、10月1日時点で2,669施設(利用定員数計168,833人分)において空き定員数(注8)計21,380人分の空き定員が生じていた。そして、これらの空き定員が生じている年齢区分があった施設について、30年4月1日時点及び同年10月1日時点での利用定員数に対する利用児童数の割合(以下「定員充足率」という。)をみたところ、図表2-1-8のとおり、定員充足率が90%以上となっている施設が4月1日時点で1,633施設(3,231施設に対する割合50.5%)、10月1日時点で1,621施設(2,669施設に対する割合60.7%)見受けられるなど、定員充足率はおおむね高い状況となっていたが、中には、定員充足率が50%未満となっている施設が4月1日時点で135施設(3,231施設に対する割合4.1%)、10月1日時点で35施設(2,669施設に対する割合1.3%)見受けられた。

(注8)
年齢区分ごとの空き定員数の合計であり、他の年齢区分において利用定員数以上に利用児童を受け入れる場合があるため、施設全体の空き定員数とは一致しない。

図表2-1-8 空き定員が生じている年齢区分があった施設の定員充足率の状況

(単位:施設)
定員充足率
時点
10%未満 10%以上
20%未満
20%以上
30%未満
30%以上
40%未満
40%以上
50%未満
50%以上
60%未満
60%以上
70%未満
70%以上
80%未満
80%以上
90%未満
90%以上
平成30年4月1日 4 6 17 41 67 134 302 407 620 1,633 3,231
135施設4.1% 4.1% 9.3% 12.5% 19.1% 50.5% 100%
30年10月1日 0 0 3 14 18 66 175 287 485 1,621 2,669
35施設1.3% 2.4% 6.5% 10.7% 18.1% 60.7% 100%

上記の空き定員が生じている年齢区分があった施設について、空き定員が生じた主な理由を市町村に確認したところ、図表2-1-9のとおり、空き定員数でみると、②の「新設(開設後3年以内)であることから空きが生じているため」とするものが最も多く、4月1日時点では790施設に係る計11,652人分、10月1日時点では741施設に係る計10,661人分となっていた。これについては、一般的に、新しく整備された施設に新規に入所する3歳以上児は必ずしも多くないため、開設後数年は空き定員が生ずる傾向があることを示していると考えられる。

また、⑦の「申込みが少ないため(④、⑤及び⑥以外の理由によるもの)」や「その他」とするものも多く、それぞれ、4月1日時点では880施設に係る計4,542人分、760施設に係る計4,139人分、10月1日時点では779施設に係る計3,917人分、628施設に係る計3,063人分となっていた。「その他」の具体的な内容としては、「利用定員数以上の利用児童数を受け入れた年齢区分があったことにより他の年齢区分に空き定員が生じたため」という理由や、「入所直前の内定辞退により空き定員が生じたため」という理由が見受けられた。

そして、⑤の「0歳児なので4月1日は申込みが少ないため」又は「0歳児なので10月時点でもなお申込みが少ないため」とするものが、4月1日時点では1,206施設に係る計4,235人分、10月1日時点では342施設に係る計905人分となっていた。これについては、一般的に、0歳児は年度途中の入所となることが多いため、やむを得ない理由であると考えられ、現に、この理由により生じた空き定員は、4月1日時点よりも10月1日時点の方が大幅に少なくなっていた。

上記のようなやむを得ないと考えられる理由や、特定の原因に分類し難い理由等を除くと、①の「保育士が不足しているため」とするものが最も多く、この保育士不足のため所定の利用定員数まで児童を受け入れられなかったことにより生じた空き定員は、4月1日時点では144施設に係る計1,219人分、10月1日時点では222施設に係る計1,502人分となっていた。これは、各施設において、設備運営基準を満たす保育士は確保されているものの、保育士の勤務状況や個別の児童の状況等を踏まえた安定的な運営を実施していく上で必要な保育士が十分に確保できていない状況を示していると考えられる。また、上記の144施設及び222施設は、それぞれ17道府県の46市町村、19都道府県の53市区町村に所在していることから、こうした状況は、特定の地域に限られたものではなく、全国的に見受けられるものとなっていた。

また、⑥の「立地的な要因により申込みが少ないため」とするものが、4月1日時点で198施設に係る計1,144人分、10月1日時点で112施設に係る計689人分となっていた。前記のとおり、加速化プラン採択事業により施設を整備する場合には、原則として、各年度4月1日における待機児童が1人以上存在しているか、待機児童がいない場合であっても、潜在的な需要も含めて保育需要の増大が見込まれる場合であることなどが条件となっているため、基本的には利用定員数が不足している地域又は不足することが見込まれる地域に整備されることとなる。それにもかかわらず、立地的な要因により申込みが少ないことを理由として空き定員が生じていた施設については、整備する地域に係る待機児童の発生状況や保育需要の増加状況の把握等が十分でなかった可能性があると思料される。

図表2-1-9 空き定員が生じた主な理由

(単位:施設、人)
区分
理由
平成30年4月1日時点
3歳以上児 1・2歳児 0歳児
施設数 空き定員数 施設数 空き定員数 施設数 空き定員数 施設数(注) 空き定員数
①保育士が不足しているため
37 315 81 459 86 445 144 1,219
②新設(開設後3年以内)であることから空きが生じているため(3歳以上の場合)
790 11,652         790 11,652
③年度途中入所のために空けているため(入所予約等)
31 139 100 309 89 411 185 859
④3歳以降の連携先がないことから申込みが少ないため
    77 313 4 12 77 325
⑤0歳児なので4月1日は申込みが少ないため(0歳の場合)
        1,206 4,235 1,206 4,235
⑥立地的な要因により申込みが少ないため
63 496 109 337 101 311 198 1,144
⑦申込みが少ないため(④、⑤及び⑥以外の理由によるもの)
315 2,285 580 1,974 128 283 880 4,542
その他 330 2,345 311 931 312 863 760 4,139
1,566 17,232 1,258 4,323 1,926 6,560 3,231 28,115
区分
理由
30年10月1日時点
3歳以上児 1・2歳児 0歳児
施設数 空き定員数 施設数 空き定員数 施設数 空き定員数 施設数(注) 空き定員数
①保育士が不足しているため
66 544 86 398 134 560 222 1,502
②新設(開設後3年以内)であることから空きが生じているため(3歳以上の場合)
741 10,661         741 10,661
③年度途中入所のために空けているため(入所予約等)
24 152 69 164 47 173 131 489
④3歳以降の連携先がないことから申込みが少ないため
    54 154 0 0 54 154
⑤0歳児なので10月時点でもなお申込みが少ないため(0歳の場合)
        342 905 342 905
⑥立地的な要因により申込みが少ないため
55 432 58 189 27 68 112 689
⑦申込みが少ないため(④、⑤及び⑥以外の理由によるもの)
326 2,315 418 1,239 150 363 779 3,917
その他 311 2,150 229 560 167 353 628 3,063
1,523 16,254 914 2,704 867 2,422 2,669 21,380

(注) 理由別の「計」の「施設数」欄は、各年齢区分について同一の理由を選択した場合の重複を控除した純計である。

上記のうち保育士不足のため所定の利用定員数まで児童を受け入れられなかったことにより空き定員が生じていた事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例2> 保育士不足のため所定の利用定員数まで児童を受け入れられなかったことにより空き定員が生じていたもの

福岡県久留米市は、平成25年度から29年度までの全ての年度に加速化プランに参加して、その間に、加速化プラン採択事業により認可保育所等17施設(交付金相当額計15億2401万余円)の整備を実施した。

上記の17施設について、30年4月1日時点及び同年10月1日時点の利用児童数等の状況を確認したところ、4月1日時点では15施設(利用定員数計1,745人分)に係る計171人分、10月1日時点では9施設(利用定員数計1,270人分)に係る計110人分が空き定員となっていた。同市は、このうち4月1日時点の24人分及び10月1日時点の66人分の空き定員については、主に、保育士不足のため所定の利用定員数まで児童を受け入れられなかったことにより生じたものであるとしている。

なお、久留米市では、30年4月1日時点で44人、同年10月1日時点で179人の待機児童が発生していた。

このように、施設が整備されているのに、保育士不足のため所定の利用定員数まで児童を受け入れられない認可保育所等が全国的に一定数存在している状況等が見受けられた。したがって、厚生労働省において、上記の状況等を踏まえて、保育施設等整備施策と保育士等確保施策の実施に当たり、同省、都道府県、市町村等の関係機関が十分な連携を図りながら一体的な取組を推進していくように努めることが必要であると認められる。

b 加速化プラン採択事業の採択等に当たっての確認の状況

前記のとおり、市町村が加速化プランに参加し、加速化プラン採択事業により施設を整備するためには、原則として、各年度4月1日における待機児童が1人以上存在しているか、待機児童がいない場合であっても、潜在的な需要も含めて保育需要の増大が見込まれる場合であることなどが条件となっている。厚生労働省は、待機児童がいない市町村が加速化プランへの参加を希望した場合には、当該市町村から提出された待機児童解消加速化計画に記載された翌年度以降の利用定員数の見込みが当該年度の利用定員数より増加していることを確認することなどにより、保育需要の増大が見込まれる場合に該当するかどうかを判断しているとしている。

しかし、待機児童解消加速化計画の利用定員数の見込みについては、必ずしも保育需要の増大を直接示すものではなく、保育需要の増大が見込まれる場合に該当するかどうかを判断するためには、申込児童数の見込みを確認することが有効であると考えられるのに、待機児童解消加速化計画の様式は、申込児童数の見込みを記載するものとなっていなかった。そこで、26年度から29年度までの間に、待機児童がいない場合であっても保育需要の増大が見込まれるとして加速化プランに参加した年度がある373市区町村について、各年度の申込児童数(全年齢区分の合計)の状況を確認したところ、37市町村において、加速化プランに参加した年度から30年度までの間に、当該年度の前年度と比べて申込児童数が増加したことが一度もない状況となっていて、そのうち一部の市町村においては、30年4月1日時点で加速化プラン採択事業により整備された施設に空き定員が生じている状況が見受けられた。

また、待機児童が存在している加速化プラン参加市町村であっても、個別の加速化プラン採択事業を効果的に実施するためには、提供区域ごとの申込児童数、利用定員数、待機児童の発生状況等を的確に把握した上で実施することが必要であると考えられるのに、待機児童解消加速化計画の様式は、提供区域が定められた27年度以降も、提供区域ごとの待機児童の発生状況等を記載するものとなっていなかった。そこで、前記166市区町村のうち、複数の提供区域を設定していた88市区町について、提供区域別に待機児童の発生状況を把握していたか確認したところ、21市区町において、待機児童が発生しているのにその状況を提供区域別に把握していなかった。また、それ以外の67市区町のうち、待機児童が存在していて加速化プランに参加していたなどの条件を満たす27市区町について、個別の加速化プラン採択事業により整備された施設の立地する提供区域及び同提供区域の待機児童の発生状況を確認したところ、3市の30施設は、27年度から30年度までの各年度の4月1日時点で一度も待機児童が発生していない提供区域に整備されていて、そのうち一部の施設においては、30年4月1日時点で空き定員が生じている状況が見受けられた。

このように、加速化プラン採択事業の採択等に当たり、必ずしも保育需要の増大を直接示すものではない利用定員数の見込みにより保育需要の増大を判断していたり、複数の提供区域が設定されているのに提供区域別の待機児童の発生状況を考慮していなかったりしていた状況が見受けられた。結果的に、全年齢区分の申込児童数の合計が増加していなかったり、待機児童が発生していない提供区域に施設が整備されたりしていた市町村が見受けられたことを踏まえれば、加速化プラン採択事業の採択等に当たっては、利用定員数の見込みではなく申込児童数の見込みにより保育需要の増大を判断し、また、市町村全域の待機児童数ではなく提供区域別の待機児童数の状況等を確認した上で個別の事業の採択を判断する必要があったと思料される。

なお、子育て安心プランにおいては、補助率のかさ上げなどの財政支援を希望する市町村は、提供区域ごとに申込児童数、待機児童数等を把握して、子育て安心プラン実施計画を策定することとなった。また、個別の事業についても、上記の財政支援を受けるためには、原則として、施設整備を行う認可保育所等が所在する提供区域において、整備を行う年度の4月1日時点の利用定員数を超える申込児童数が見込まれる年齢区分の利用定員総数が増加する事業であることが要件となった。

c 公立保育所等の民営化の一環として実施された加速化プラン採択事業の状況

公立保育所の運営に要する費用については、15年度までは「児童福祉法による保育所運営費国庫負担金について」(昭和51年厚生省発児第59号の2)に基づき保育所運営費国庫負担金が交付されていたが、16年度からは一般財源化され、その運営に要する費用は地方交付税等により措置されることとなった。また、保育所等整備交付金等による施設整備については、原則として公立施設は国庫補助の対象となっていない(小規模保育事業を除く。)。このような状況や市町村における厳しい財政状況等を背景として、保育施設の整備及び運営に係る公立保育所等の民営化を進める市町村も見受けられ、一部の市町村では、既存の公立保育所等を廃止するとともに、当該保育所等の利用児童を引き継ぐことなどを条件として公募等により保育事業者を選定し、当該保育事業者が認可保育所等の施設を整備するなどしている。

一方、加速化プラン採択事業として施設整備を実施するためには、保育所等整備交付金の場合、施設の創設、増築又は増改築に該当する事業であること、すなわち、当該施設の利用定員数の拡大を伴う事業であることなどが要件となっている。上記のような公立保育所等の民営化の一環として実施される施設整備についても、形式的には保育事業者が認可保育所等を新たに創設する事業として上記の要件を満たすことになるが、民営化前後の利用定員数を比較して利用定員数の拡大を伴う事業であることを確認することとはされていない。そこで、前記166市区町村のうち25年度から29年度までの間に公立保育所等の民営化の一環として加速化プラン採択事業を実施していた25市区町の69施設について、民営化前後の利用定員数の状況を確認したところ、図表2-1-10のとおり、10市区の15施設(交付金相当額計17億9238万余円)において、民営化前と比較して利用定員数が減少していたり、同数であったりしていて、利用定員数が拡大されていない事態が見受けられた。

図表2-1-10 公立保育所等の民営化の一環として実施された加速化プラン採択事業に係る民営化前後の利用定員数の状況

(単位:人)
市町村名 民営化後の施設の種類 年度 民営化前の利用定員数
(A)
民営化後の利用定員数
(B)
実質的な利用定員数の拡大量
(B)-(A)
0歳児 1・2 歳児 3歳以上児 0歳児 1・2 歳児 3歳以上児 0歳児 1・2 歳児 3歳以上児
北海道苫小牧市 幼保連携型認定こども園 平成27 0 18 42 60 0 18 32 50 0 0 10 10
幼保連携型認定こども園 28 6 30 54 90 6 30 54 90 0 0 0 0
仙台市 認可保育所 26、27 5 22 63 90 12 30 48 90 7 8 15 0
認可保育所 27、28 5 29 56 90 6 24 60 90 1 5 4 0
認可保育所 28、29 6 26 58 90 6 24 60 90 0 2 2 0
認可保育所 28、29 6 28 56 90 6 30 54 90 0 2 2 0
山形県東根市 保育所型認定こども園 29 0 0 120 120 12 33 60 105 12 33 60 15
栃木県小山市 認可保育所 26、27 6 24 60 90 6 27 57 90 0 3 3 0
認可保育所 29 3 30 57 90 9 26 45 80 6 4 12 10
埼玉県和光市 認可保育所 28、29 15 36 57 108 15 36 57 108 0 0 0 0
東京都文京区 認可保育所 25 12 31 17 60 12 31 17 60 0 0 0 0
東京都目黒区 認可保育所 28 9 22 39 70 9 22 39 70 0 0 0 0
名古屋市 認可保育所 28 8 32 80 120 8 32 80 120 0 0 0 0
大阪市 認可保育所 28 3 24 64 91 6 24 40 70 3 0 24 21
山口県下松市 認可保育所 28、29 9 36 75 120 9 36 75 120 0 0 0 0
計(10市区15施設) 93 388 898 1,379 122 423 778 1,323 29 35 120 56

このように、上記の15施設に係る加速化プラン採択事業については、事業の実施によって利用定員数が実質的に拡大されておらず、加速化プランによる補助率のかさ上げなどの施策の効果が十分に発現しているとは認められない。

上記の事態について、厚生労働省は、公立保育所等の民営化の一環として実施された施設整備であっても、制度上は施設の創設として扱われるため、交付金等の交付要綱等に反するなどの問題はないものの、結果として、利用定員数の拡大という制度の趣旨と異なる事業に加速化プランによる補助率のかさ上げが適用されたものであるとしている。

なお、子育て安心プランにおいても、公立保育所等の民営化前後の利用定員数の比較等に関する取扱いについては、特段の定めがない状況となっている。

前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例3> 民営化前と比較して利用定員数が拡大されていなかったもの

仙台市は、平成25年度から29年度までの全ての年度に加速化プランに参加して、その間に、老朽化した公立保育所の民営化の一環として加速化プラン採択事業により認可保育所9施設(交付金相当額計14億4749万余円)の整備を実施した。同市は、各事業の実施に当たっては、既存の公立保育所を廃止するとともに、当該保育所の利用児童を引き継ぐことなどを条件として公募により保育事業者を選定していた。そして、当該保育事業者が認可保育所を新たに創設する事業として加速化プランによる補助率のかさ上げの適用を受けて、宮城県の安心こども基金から補助金の交付を受けていた。

上記の9施設について、民営化前後の利用定員数の状況を確認したところ、4施設(交付金相当額計6億0522万余円)においては、民営化前後の利用定員数がともに90人分となっており、民営化前と比較して利用定員数が拡大されていなかった。その理由について同市は、当該4施設については、周辺における待機児童の発生状況や保育需要を考慮して、民営化前と同数である利用定員数90人分規模の保育所について公募したためとしている。

なお、仙台市では、29年4月1日時点で232人、30年4月1日時点で138人の待機児童が発生していた。

したがって、厚生労働省において、保育施設等整備施策の実施に当たり、公立保育所等の民営化の一環として実施される施設整備に対して補助率のかさ上げなどを行う場合には、待機児童の解消等を図るという制度の目的等を踏まえて、民営化後の利用定員数が拡大されることを要件とするなど、利用定員数の拡大に確実につながる制度の在り方を検討することが必要であると認められる。

(エ) 加速化プラン採択事業等が予定どおりに進捗しなかった理由等

a 待機児童解消加速化計画における利用定員数の見込みと実績の状況

前記のとおり、市町村は、加速化プランによる補助率のかさ上げなどを希望する場合には、待機児童解消加速化計画を毎年度策定して、施設等の種類ごとの利用定員数や翌年度以降の利用定員数の拡大量の見込みなどを定めている。市町村は、当該年度に予定されている加速化プラン採択事業やその他の事業による施設整備等を踏まえて翌年度4月1日時点の利用定員数の見込みを算出し、それから当該年度4月1日時点の利用定員数を差し引くなどして当該年度における利用定員数の拡大量の見込みを算定している。そして、待機児童解消加速化計画の様式(25、26両年度の様式を除く。)は、加速化プラン終了後の30年度までの各年度4月1日時点の利用定員数の見込み又は実績を記載するものとなっているため、市町村は、1年経過するごとに、当該年度の利用定員数の見込みを実績に更新して翌年度の待機児童解消加速化計画を策定することとなる。すなわち、加速化プラン採択事業等が予定どおりに進捗しなかった場合には、その影響が各年度の待機児童解消加速化計画における利用定員数の見込みと実績の差として現れることになる。

そこで、前記166市区町村のうち25年度から29年度までの全ての年度に待機児童解消加速化計画を策定していた91市区町村について、待機児童解消加速化計画における利用定員数(全年齢区分の合計)の見込みと実績の状況を確認したところ、図表2-1-11のとおり、25年度から29年度までの5か年度のうち実績が見込みを上回っていた又は同数であった年度数が5か年度であったのは5市区、4か年度であったのは9市区、3か年度であったのは23市区町となっていた。一方、過半の年度で実績が見込みを下回っていたのは54市区町村となっていて、このうち、10市区は、全ての年度で実績が見込みを下回っていた。

また、年度別にみても、実績が見込みを上回っていた又は同数であった市町村はおおむね4割から5割、実績が見込みを下回っていた市町村はおおむね5割から6割の市町村となっていて、各市町村が年度当初に予定していた加速化プラン採択事業等が必ずしも予定どおりに進捗していない状況が見受けられた。

図表2-1-11 91市区町村の待機児童解消加速化計画における利用定員数の見込みと実績の状況

区分 平成25年度から29年度までのうち、実績が見込みを上回っていた又は同数であった年度数
5か年度 4か年度 3か年度 2か年度 1か年度 なし
市町村数 5 9 23 23 21 10 91
37 54 91
(年度別)
区分 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
実績が見込みを上回っていた又は同数であった市町村数 44 49 35 35 34
実績が見込みを下回っていた市町村数 47 42 56 56 57
91 91 91 91 91

b 加速化プラン採択事業等が予定どおりに進捗しなかった理由

上記91市区町村のうち25年度から29年度までのいずれかの年度において利用定員数の実績が見込みを下回っていた86市区町村について、加速化プラン採択事業等が予定どおりに進捗しなかった理由を年度ごとに確認したところ、図表2-1-12のとおりとなっていて、①の「公募等により事業者を募ったが、参加事業者がいなかったため」は、延べ70市区が理由として回答していた。また、②の「事業者の判断による計画変更があったため」は、延べ49市区町が理由として回答していた。これらの理由により計画が延期されたり、変更されたりすることが、1(1)ア(ア)において示した保育所等整備交付金で多額の翌年度繰越額が生じている状況の一因となっていると思料される。

③の「認可保育所等に適した広さの土地が確保できないため」は、延べ38市区が理由として回答していた。また、⑤の「認可保育所等開設に係る地代や賃料が高額で、場所の確保が困難であるため」は、延べ21市区が理由として回答していた。これらの理由により事業の進捗が遅れる例があることなどから、厚生労働省は、保育対策総合支援事業費補助金における民有地マッチング事業、都市部における保育所等への賃借料支援事業等や、保育所等整備交付金における土地借料加算により市町村への支援を実施している。

④の「保育士が確保できず、利用定員数が想定より少なくなっているため」は、延べ30市区が理由として回答していた。これは、保育士不足により計画が遅れるなどして保育施設が開設に至らなかったり、開設に至っても予定した利用定員数よりも少ない利用定員数を設定せざるを得なかったりしたことを示していると思料される。④の理由からみても、保育施設等整備施策と保育士等確保施策の実施に当たり、関係機関が十分な連携を図りながら一体的な取組を推進していくことが重要である。

図表2-1-12 加速化プラン採択事業等が予定どおりに進捗しなかった理由

(単位:市区町村)
年度
実績が見込みを下回っている理由
平成
25年度
26年度 27年度 28年度 29年度 延べ
回答数
① 公募等により事業者を募ったが、参加事業者がいなかったため
10 7 18 16 19 70
② 事業者の判断による計画変更があったため
3 9 12 12 13 49
③ 認可保育所等に適した広さの土地が確保できないため
4 4 10 10 10 38
④ 保育士が確保できず、利用定員数が想定より少なくなっているため
5 2 7 9 7 30
⑤ 認可保育所等開設に係る地代や賃料が高額で、場所の確保が困難であるため
3 2 4 5 7 21
⑥ 定員数の増加ではなく、一時預かりや弾力受入れにより対応するなど方針を変更したため
2 1 1 3 4 11
⑦ 資材不足や人材不足により施設整備工事が遅延したため
2 3 2 3 2 12
⑧ 地域住民の反対(住民の反対理由:騒音)のため
1 2 1 1 2 7
⑨ 地域住民の反対(住民の反対理由:道路の混雑)のため
1 1 1 2 2 7
⑩ 許認可の手続や隣接地権者等との協議が長期化したため
1 1 1 0 0 3
⑪ 施設整備工事の入札が不調となったため
1 1 0 0 1 3
⑫ その他
20 21 18 16 13 88

(注) 複数回答や不明とした回答があるため、回答数を合計しても市町村数とは一致しない。

(オ) 定員の弾力化の状況等

a 定員の弾力化の状況

前記のとおり、設備運営基準によれば、保育士の数は、乳児おおむね3人につき1人以上、満1歳以上満3歳未満の幼児おおむね6人につき1人以上、満3歳の幼児おおむね20人につき1人以上、満4歳以上の幼児おおむね30人につき1人以上を置くことなどとされている。また、乳児又は満2歳に満たない幼児を入所させる保育所には、乳児室又はほふく室等を設けることとされており、乳児室の面積は、乳児又は満2歳に満たない幼児1人につき1.65m2以上、ほふく室の面積は、乳児又は満2歳に満たない幼児1人につき3.3m2以上とされている。さらに、満2歳以上の幼児を入所させる保育所には保育室又は遊戯室等を設けることとされており、保育室又は遊戯室の面積は、満2歳以上の幼児1人につき1.98m2以上等とされている。

認可保育所については、かつては定員を超えて入所させることは禁止されていたが、「保育所への年度途中における入所について」(昭和57年児発第714号)に基づき、昭和57年度から、保育所が不足気味の地域において、年度の途中に緊急に入所が必要となったとき、一定の条件の下に定員を超えて入所させることができるなどの特別措置が講じられている(以下、定員を超えて入所させることを「定員の弾力化」という。)。そして、平成15年度からは、会計検査院が14年11月に、保育所における定員を超えた保育の実施の在り方について、厚生労働大臣に対して会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求したことなどを踏まえて、保育所において定員内での保育の実施が原則であることが周知徹底されるとともに、定員の見直しなどに係る基準が明確化されている。その後、地域の実情に応じた取扱いを可能にするために、「保育所への入所の円滑化について」(平成10年児保第3号)が改正され、22年度からは、設備運営基準を満たす範囲内であれば、年度当初から定員超過制限なく児童を入所させることができることとなっている。

そして、支援制度においては、連続する過去の2か年度間常に利用定員を超えていて、かつ、各年度の年間平均定員充足率(当該年度内における各月の初日の利用児童数の合計を各月の初日の利用定員数の合計で除したもの)が120%以上の状態にある認可保育所等については、施設型給付費等に係る費用の額の減額調整を行うこととなっているが、「「待機児童解消に向けて緊急的に対応する施策について」の対応方針について」(平成28年雇児発0407第2号)等を受けて、減額調整を開始するまでの猶予期間は、2か年度間から5か年度間に延長されている。

このように、待機児童解消のための取組として、保育施設等の整備のほか、既存の保育施設等について定員の弾力化が行われているが、厚生労働省は、定員の弾力化により保育の提供を受けている児童数については把握していないとしている。そこで、前記の166市区町村における定員の弾力化の実施状況をみたところ、図表2-1-13のとおり、全年齢区分の合計でみた場合、30年4月1日時点では、146市区町村の4,308施設(利用定員数計376,896人分)において実施されており、計36,081人の児童が定員の弾力化により保育の提供を受けていた。また、同年10月1日時点では、158市区町村の5,395施設(利用定員数計462,183人分)において実施されており、計48,600人の児童が定員の弾力化により保育の提供を受けていた。 4月1日時点よりも10月1日時点の方が定員の弾力化により保育の提供を受けている児童の数が増加しているのは、一般的に、施設整備は年度当初の開設を目指して実施されることが多く、年度途中に認可保育所等が整備されて利用定員数が増加することは比較的少ないため、年度途中における申込児童を定員の弾力化により受け入れていることを示していると思料される。

そして、定員の弾力化を実施していた理由を市町村に確認したところ、30年4月1日時点で定員の弾力化を実施していた4,308施設のうち、待機児童等対策のためとした施設が3,916施設(定員の弾力化を実施していた施設に対する割合90.9%)、施設設置者の希望等によるとした施設が368施設(同8.5%)となっていて、9割以上の施設において、待機児童等対策のための取組の一環として定員の弾力化が実施されている状況となっていた。

定員の弾力化により保育の提供を受けている児童については、定員の弾力化が実施されず当該施設に入所できなかった場合には、他の保育施設と利用調整が行われることとなり、その結果、待機児童となる可能性がある。上記の状況を踏まえると、定員の弾力化は、待機児童解消のための取組としては一定の効果があったと思料される。

図表2-1-13 166市区町村における定員の弾力化の実施状況

区分 平成30年4月1日 30年10月1日
都道府県数 市町村数 施設数 児童数(注) 都道府県数 市町村数 施設数 児童数(注)
定員の弾力化を実施している施設数、児童数等 全年齢区分の合計でみた場合 24 146 4,308 36,081 25 158 5,395 48,600
(参考)
各年齢区分別にみた場合
0歳児 24 99 927 2,030 25 139 2,109 6,083
1・2歳児 24 143 3,460 20,308 25 157 4,290 24,684
3歳以上児 24 142 3,202 23,102 25 150 3,580 25,502

(注) 「全年齢区分の合計でみた場合」の児童数は、施設ごとに全年齢区分の利用定員数を合算した利用定員総数を超過して受け入れている児童数を算出して集計したものであり、各年齢区分の利用定員数を超過して受け入れているだけの児童数は含めていない。また、「各年齢区分別にみた場合」の児童数は、上記の施設について、施設ごとに各年齢区分の利用定員数を超過して受け入れている児童数を算出して集計したものである。

b 定員の弾力化に係る定員充足率の状況

厚生労働省は、設備運営基準について、認可保育所等に入所している者が、明るく、衛生的かつ安全な環境において育成されることなどを目的として定められているものであるとしている。このため、子ども1人当たりの施設面積や保育士数という保育の質や安全性等に影響を与える事項に係る基準を緩和する措置である定員の弾力化については、その実施方法、実施期間等について留意する必要がある。

そこで、30年4月1日時点で定員の弾力化を実施していた前記の4,308施設について、定員充足率の状況をみたところ、120%以上となっていた施設が452施設(定員の弾力化を実施していた4,308施設に対する割合10.4%)見受けられた。さらに、当該452施設について、定員充足率が120%以上となっていた状態の継続期間をみたところ、図表2-1-14のとおり、支援制度施行後の全期間に当たる36か月の間、定員充足率が120%以上となっていた施設が55施設(定員充足率が120%以上となっていた452施設に対する割合12.1%)見受けられ、長期間にわたり継続して定員の弾力化を実施している施設が一定数見受けられた。

図表2-1-14 定員充足率が120%以上となっていた状態の継続期間(平成30年4月1日時点)

図表2-1-14 定員充足率が120%以上となっていた状態の継続期間(平成30年4月1日時点) 画像

定員の弾力化については、前記のとおり、待機児童対策として、施設型給付費等に係る費用の額の減額調整を開始するまでの猶予期間が2か年度間から5か年度間に延長されているが、上記のように長期間にわたり継続して実施している施設が一定数見受けられたことなどから、今後、その実施が必要以上に長期化することがないようにすることなどが重要である。

イ 保育士等確保施策による効果の発現状況

待機児童の解消等に向けて保育サービスの提供等を増加させるためには、保育施設等の整備量に応じた保育士を確保する必要がある。そして、前記のとおり、子ども・子育て支援施策の実施に当たり、施設整備により保育の受け皿が確保されたとしても、必要な保育士が十分に確保できずに、利用定員数より利用児童数が少なくなっているなどの状況も見受けられたことなどから、保育施設等整備施策と保育士等確保施策を一体的に推進していくことが重要である。一方、保育士確保プラン等による保育士等確保施策は多岐にわたっていて、施策ごとにどの程度の保育士を確保できたかを正確に把握することは困難である。

そこで、保育士等確保施策全体による効果として保育士等確保の状況について分析等を行うとともに、厚生労働省において、保育士不足を解消するためには、保育士養成の充実だけではなく、潜在保育士の活用が必要となるとしていることから、個別の施策として支援センターにおける潜在保育士の再就職支援等の保育士等確保施策による効果の発現状況について検査したところ、次のとおりとなっていた。

(ア) 保育士等確保の状況

厚生労働省は、人材育成、就業継続支援、再就職支援、働く職場の環境改善等の保育士確保プラン等における保育士等確保施策について、施策ごとにどの程度の保育士等を確保できたかを算出・把握することは困難であるが、保育所等で勤務する保育士の人数を把握している社会福祉施設等調査によれば、常勤換算方法による全国の保育所等で勤務する保育士の人数は、図表2-2-1のとおり、29年10月1日時点で46.4万人となっていることから、29年度末までに国全体として確保することを目標とした保育士の人数46.3万人は29年10月1日時点で確保できたと考えているとしている。

図表2-2-1 常勤換算方法による全国の保育所等で勤務する保育士の人数

(単位:人)
年度
区分
平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
常勤換算方法による全国の保育所等で勤務する保育士の人数 380,998 394,291 412,067 439,167 464,269
  • 注(1) 厚生労働省「平成29年社会福祉施設等調査」(平成30年9月公表)等を基に同省が推計したデータに基づき作成
  • 注(2) 常勤換算方法による全国の保育所等で勤務する保育士の人数は、各年度10月1日時点における兼務している常勤者(当該保育所等が定めた勤務時間数の全てを勤務している者)及び非常勤者について、その職務に従事した1週間の勤務時間を当該保育所等の通常の1週間の勤務時間で除するなどした数と、専従している常勤者の人数の合計を計上している。
  • 注(3) 平成27年度以降は、保育所に加えて、幼保連携型認定こども園及び小規模保育事業所を含んだものである。
  • 注(4) 平成27年度以降は、保育教諭のうち保育士資格保有者、小規模保育事業所における保育従事者のうち保育士資格保有者及び家庭的保育者のうち保育士資格保有者の人数を含んだものである。

また、厚生労働省は、前記のとおり、加速化プランによる保育の受け皿の目標が40万人分から50万人分へ上積みされたことに伴い、29年度末までに国全体として48.3万人の保育人材を確保することを目標としていたが、常勤換算方法による全国の保育所等で勤務する保育士、保育教諭等の保育人材の人数は、図表2-2-2のとおり、29年度で507,676人となっていることから、目標としていた保育人材を確保できたと考えているとしている。

図表2-2-2 全国の保育所等で勤務する保育人材の人数

(単位:人)
年度
区分
平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
全国の保育所等で勤務する保育人材の人数 410,847 424,564 449,688 480,072 507,676
  • 注(1) 厚生労働省「平成29年社会福祉施設等調査」(平成30年9月公表)等を基に同省が推計したデータに基づき作成
  • 注(2) 全国の保育所等で勤務する保育人材の人数は、常勤換算方法により算出した保育士の人数(各年度10月1日時点)等を合計したものである。

そこで、保育士等確保施策全体による効果を把握するために、保育士の登録人数、保育所等で勤務する保育士の人数、潜在保育士の状況等について検査したところ、次のとおりとなっていた。

a 保育士の登録人数

25年度から30年度までにおける全国の保育士の登録人数は、図表2-2-3のとおり、30年度で1,530,872人となっていて、25年度の1,186,003人よりも344,869人増加していた。また、各年度の増加した登録人数は、29年度で最大の74,181人となっていて、29年度まで一貫して増加していたが、30年度に増加した登録人数は71,014人となっていて、28年度よりも減少していた。

図表2-2-3 全国の保育士の登録人数

(単位:人)
年度
区分
平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度 30年度
全国の保育士の登録人数 1,186,003 1,246,352 1,312,241 1,385,677 1,459,858 1,530,872
  (60,349) (65,889) (73,436) (74,181) (71,014)
  • 注(1) 各年度の全国の保育士の登録人数は4月1日時点のものである。
  • 注(2) 括弧内は各年度における前年度から増加した登録人数を示している。

b 指定保育士養成施設の施設数、入学定員数及び入学者数

25年度から30年度までにおける全国の指定保育士養成施設の施設数、入学定員数及び入学者数をみると、図表2-2-4のとおり、29年度の指定保育士養成施設の施設数は669施設となっていて、25年度の施設数602施設よりも67施設増加するとともに、29年度の入学定員数は60,039人となっていて、25年度の入学定員数54,596人よりも5,443人増加していた。そして、施設数及び入学定員数は25年度から29年度まで一貫して増加していた。一方、29年度の入学者数は46,413人となっていて、25年度の入学者数50,943人よりも4,530人減少していて、25年度から29年度まで一貫して減少していた。なお、30年度は、29年度と比較して、施設数は微増しているものの、入学定員数は微減となっており、また、入学者数は微増となっていた。

図表2-2-4 全国の指定保育士養成施設の施設数、入学定員数及び入学者数

(単位:施設、人)
年度
区分
平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度 30年度
施設数 602 622 641 653 669 684
入学定員数 54,596 56,596 57,714 58,961 60,039 59,988
入学者数 50,943 50,901 48,787 47,692 46,413 46,521

(注) 各年度の施設数、入学定員数及び入学者数は、原則として4月1日時点のものである。

そして、25年度から29年度まで、入学定員数が一貫して増加していた一方、入学者数は一貫して減少していて、入学定員数と入学者数の開差が拡大していたことなどから、25年度から30年度までにおける指定保育士養成施設の入学定員数と入学者数を47都道府県別にみたところ、入学者数が入学定員数よりも少なかった都道府県は、25年度で30都道府県、26年度で32都道府県、27年度で41都道府県、28年度で40都道府県、29年度で45都道府県、30年度で40都道府県となっていて、入学者数が入学定員数よりも少ないのは全国的な傾向となっていた(別図表7参照)。

このように、入学定員数に多くの学生を受け入れる余裕がある状況となっていたことから、保育士の確保に当たり、施設数及び入学定員数に不足が生じている状況ではないと思料される。一方、指定保育士養成施設への入学者数は近年減少していて、保育士を目指す学生の確保が困難な状況がうかがえる。

c 指定保育士養成施設の卒業者数等

25年度から30年度までにおける全国の指定保育士養成施設の卒業者数をみると、図表2-2-5のとおり、指定保育士養成施設の卒業者数は、最小で45,150人、最大で47,952人となっていた。また、指定保育士養成施設の卒業者のうち、保育士資格取得者数は、最小で39,456人、最大で42,597人(卒業者数に対する割合86.3%から88.8%)となっていた。そして、保育士資格取得者のうち、保育士資格と幼稚園教諭免許を同時に取得した者の人数(以下「幼稚園教諭免許同時取得者数」という。)は、最小で34,810人、最大で37,755人(保育士資格取得者数に対する割合88.1%から89.5%)となっていた。

このように、卒業者数、保育士資格取得者数及び幼稚園教諭免許同時取得者数は、おおむね横ばいで推移している状況となっていた。

図表2-2-5 全国の指定保育士養成施設の卒業者数、保育士資格取得者数及び幼稚園教諭免許同時取得者数

(単位:人)
年度
区分
平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度 30年度
卒業者数 45,150 47,566 47,141 47,952 47,614 46,129
保育士資格取得者数 39,456 41,851 41,712 42,597 41,106 39,909
(87.3%) (87.9%) (88.4%) (88.8%) (86.3%) (86.5%)
幼稚園教諭免許同時取得者数 34,810 37,278 37,365 37,755 36,255 35,539
(88.2%) (89.0%) (89.5%) (88.6%) (88.1%) (89.0%)
  • 注(1) 卒業者数は各年度3月の卒業者数である。
  • 注(2) 「保育士資格取得者数」欄の括弧内は、「卒業者数」に対する「保育士資格取得者数」の割合を示している。
  • 注(3) 「幼稚園教諭免許同時取得者数」欄の括弧内は、「保育士資格取得者数」に対する「幼稚園教諭免許同時取得者数」の割合を示している。

d 指定保育士養成施設の保育士資格取得者の就職状況

前記の25年度から30年度までにおける全国の指定保育士養成施設を卒業した保育士資格取得者の就職状況をみると、図表2-2-6のとおり、30年度は保育所等に23,777人就職していて、25年度の20,491人から3,286人増加していた。また、各年度における保育士資格取得者数のうち、保育所等に就職した人数の割合は25年度51.9%、27年度55.7%、30年度59.5%となっていて、増加傾向で推移していた。そして、指定保育士養成施設を卒業した保育士資格取得者のうち、大学進学等により就職しなかったり、保育所等、児童福祉施設等及び幼稚園以外に就職したりなどした「その他」の人数は、最大が26年度の7,034人、最小が30年度の6,154人となっていて、6,000人から7,000人程度で推移していた。また、各年度における保育士資格取得者数のうち、「その他」の人数の割合は25年度以降16%前後の横ばいで推移していた。

このように、前記の各年度における指定保育士養成施設を卒業した保育士資格取得者数のうち、保育所等に就職した人数は半数程度であり、保育所等、児童福祉施設等及び幼稚園以外に就職しているなどの人数の割合は16%前後となっていた。

図表2-2-6 全国の指定保育士養成施設を卒業した保育士資格取得者の就職状況

(単位:人)
年度
区分
平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度 30年度
保育士資格取得者数 39,456 41,851 41,712 42,597 41,106 39,909
  保育所等 20,491 21,688 23,238 24,214 23,976 23,777
(51.9%) (51.8%) (55.7%) (56.8%) (58.3%) (59.5%)
児童福祉施設等 3,970 4,260 4,042 3,892 3,947 3,816
(10.0%) (10.1%) (9.6%) (9.1%) (9.6%) (9.5%)
幼稚園 8,326 8,869 7,766 7,470 6,809 6,162
(21.1%) (21.1%) (18.6%) (17.5%) (16.5%) (15.4%)
その他 6,669 7,034 6,666 7,021 6,374 6,154
(16.9%) (16.8%) (15.9%) (16.4%) (15.5%) (15.4%)
  • 注(1) 「保育所等」欄の人数は、平成25、26両年度は保育所、27年度から30年度までは保育所、幼保連携型認定こども園及び地域型保育事業に就職した人数である。
  • 注(2) 「児童福祉施設等」欄の人数は、平成25、26両年度は保育所以外の児童福祉施設、児童福祉事業、知的障害者援護施設、身体障害者援護施設及び老人福祉施設、27年度から30年度までは保育所及び幼保連携型認定こども園以外の児童福祉施設、児童福祉事業、知的障害者援護施設、身体障害者援護施設及び老人福祉施設に就職した人数である。
  • 注(3) 括弧内は「保育士資格取得者数」に対する割合を示している。

e 保育士試験の実施状況

25年度から30年度までにおける全国の保育士試験の実施状況について確認したところ、図表2-2-7のとおり、都道府県は、保育士確保プラン等を踏まえて、28年度から保育士試験の実施回数を1回から2回にしたり、地域限定保育士(注9)に係る試験を実施したりなどしている。

そして、保育士試験の受験申請者数は30年度で68,388人となっていて、25年度の51,055人から17,333人増加していた。また、合格者数は30年度で13,500人となっていて、25年度の8,905人から4,595人増加していて、受験申請者数及び合格者数は増加傾向で推移していた。

一方、幼稚園教諭免許を有する者に対する特例制度に基づき試験が全科目免除された者(以下「全科目免除者」という。)の受験申請者数をみると、27年度の10,203人が最も多い人数となっていて、27年度から30年度まで減少傾向で推移していて、26年度から30年度までの受験申請者数は計33,004人となっていた。

このように、全国で試験の実施回数を増やすなど保育士試験を受けやすい環境が整備されつつあり、保育士試験の受験申請者数及び合格者数は増加傾向となっていた。また、幼稚園教諭免許を有する者に対する特例制度については、幼稚園教諭免許を有する者の同制度の利用が一定程度進んだため、27年度以降の受験申請者数が減少傾向となっていると考えられる。そして、保育士試験の合格者数と全科目免除者の合格者数を合わせた人数は、28年度以降減少傾向となっていた。

(注9)
地域限定保育士  国家戦略特別区域法(平成25年法律第107号)第12条の5の規定に基づき、都道府県知事が行う試験に合格して3年間当該区域内のみで保育士として通用する資格を付与され、3年経過後は、地域を限定せずに働くことが可能となる保育士

図表2-2-7 全国の保育士試験の実施状況

(単位:回、人)
年度
区分
平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度 30年度
保育士試験の実施回数 1 1 1 2 2 2
保育士試験の受験申請者数 51,055 51,257 57,301 70,710 62,555 68,388
保育士試験の合格者数(A) 8,905 9,894 12,962 18,229 13,511 13,500
保育士試験の合格率 17.4% 19.3% 22.6% 25.7% 21.5% 19.7%
全科目免除者の受験申請者数 3,880 10,203 5,461 7,477 5,983
全科目免除者の合格者数(B) 3,880 10,203 5,461 7,477 5,983
(A)及び(B)の計 8,905 13,774 23,165 23,690 20,988 19,483
  • 注(1) 「保育士試験の実施回数」について、一部の府県では、2回目の保育士試験を地域限定保育士に係る試験として実施するなどしている。
  • 注(2) 平成27年度の受験申請者数及び合格者数は、大阪府、千葉(成田市)、神奈川、沖縄各県の地域限定保育士に係る試験の結果を含めたものとなっている。
  • 注(3) 平成28年度の受験申請者数及び合格者数は、大阪府、宮城県(仙台市)の地域限定保育士に係る試験の結果を含めたものとなっている。
  • 注(4) 平成29、30両年度の受験申請者数及び合格者数は、大阪府、神奈川県の地域限定保育士に係る試験の結果を含めたものとなっている。

f 全国の保育所等で勤務する保育士の人数

25年度から29年度までにおける全国の保育所等で勤務する保育士の人数をみると、図表2-2-8のとおり、29年度は549,178人となっていて、25年度の437,325人から111,853人増加していた。また、保育所等で勤務する保育士の人数は、ほぼ全ての都道府県において25年度から29年度まで一貫して増加している状況となっていた(別図表8参照)。

図表2-2-8 全国の保育所等で勤務する保育士の人数

(単位:人)
年度
区分
平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
全国の保育所等で勤務する保育士の人数 437,325 454,494 480,308 517,881 549,178
  • 注(1) 厚生労働省「平成29年社会福祉施設等調査」(平成30年9月公表)等を基に同省が推計したデータに基づき作成
  • 注(2) 全国の保育所等で勤務する保育士の人数には、常勤保育士のほか、常勤でない短時間勤務の保育士も1人として計上している。
  • 注(3) 各年度の全国の保育所等で勤務する保育士の人数は10月1日時点のものである。
  • 注(4) 平成27年度以降は、保育所に加えて、幼保連携型認定こども園及び小規模保育事業所を含んだものである。
  • 注(5) 平成27年度以降は、保育教諭のうち保育士資格保有者、小規模保育事業所における保育従事者のうち保育士資格保有者及び家庭的保育者のうち保育士資格保有者の人数を含んだものである。

g 潜在保育士の人数

前記のとおり、保育士確保プランでは、潜在保育士の掘り起こしを強化することにより新たに保育士を0.9万人確保することとなっていた。厚生労働省は、潜在保育士の人数等について定期的な公表を行っていないが、前記保育士等確保対策検討会の資料において、潜在保育士は、保育士資格を持ち登録されているが社会福祉施設等で勤務していない者としていて、潜在保育士の人数は、25年度における保育士登録者数の約119万人から、厚生労働省「平成25年社会福祉施設等調査」(平成27年2月公表)によって把握できる社会福祉施設等で勤務している保育士の人数の約43万人を差し引いた約76万人であるとしていた。同省は、これらの潜在保育士には、認可外保育施設に勤務する者、幼稚園に勤務する者、保育士本人が死亡するなどした場合に都道府県知事に届け出ることとなっている保育士資格の喪失に係る届出を行っていない者等が含まれていて、おおよその人数として機械的に計算したものであるとしている。

そして、上記保育士等確保対策検討会の資料と同様の計算方法により、25年度から29年度までにおける潜在保育士の人数を機械的に計算すると、図表2-2-9のとおり、29年度は910,680人となり、25年度の748,678人を162,002人上回っていた。また、各年度の人数は、前年度の人数をおおむね40,000人前後上回っていた。

図表2-2-9 機械的に計算した潜在保育士の人数

(単位:人)
年度
区分
平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
全国の保育士の登録人数(A) 1,186,003 1,246,352 1,312,241 1,385,677 1,459,858
  (60,349) (65,889) (73,436) (74,181)
全国の保育所等で勤務する保育士の人数 (B) 437,325 454,494 480,308 517,881 549,178
  (17,169) (25,814) (37,573) (31,297)
機械的に計算した潜在保育士の人数 (A)-(B) 748,678 791,858 831,933 867,796 910,680
  (43,180) (40,075) (35,863) (42,884)
  • 注(1) 厚生労働省「平成29年社会福祉施設等調査」(平成30年9月公表)等を基に同省が推計したデータに基づき作成
  • 注(2) 括弧内は各年度の人数のうち前年度の人数を上回った分を示している。

一方、厚生労働省「平成27年地域児童福祉事業等調査」によると、27年10月1日時点における全国の都道府県知事に届出のあった認可外保育施設に勤務する保育士の人数は23,739人となっていた。また、文部科学省の「平成28年度幼児教育実態調査」によると、28年5月1日時点における全国の幼稚園に勤務する幼稚園教員のうち、保育士資格を併有している人数は74,475人となっていた。そして、厚生労働省の調査によると、保育士として勤務している70歳以上の労働者はほとんどいないこととなっているのに、会計実地検査を行った25都道府県の29年度末時点における70歳以上の保育士の登録人数をみると計24,541人となっていた。また、31年4月1日時点における全国の保育士資格の喪失人数は15年以降の累計で98人となっていて極めて少なく、保育士資格の喪失に係る届出が行われていない保育士が相当数いることが想定される状況となっていた。

このように、前記の機械的に計算した潜在保育士の人数の中には、実際には認可外保育施設に勤務している保育士23,739人、保育士資格を併有して幼稚園に勤務している幼稚園教員74,475人等が含まれている状況となっていた。

(イ) 潜在保育士の活用状況

前記のとおり、厚生労働省は、保育士不足を解消するためには、保育士養成の充実だけではなく、潜在保育士の活用が必要となるとしている。

保育士としての勤務が見込まれる潜在保育士の人数は、前記のように機械的に計算した潜在保育士の人数を下回ると想定されるものの、潜在保育士は相当数存在していることから、潜在保育士の活用等を図るために支援センターや公共職業安定所が実施する就職支援等における連携状況等について検査したところ、次のとおりとなっていた。

a 支援センターと公共職業安定所との連携状況等

保育士・保育所支援センター設置運営事業により設置された支援センターでは、前記のとおり、求職者のニーズに合った就職先の提案等の業務を行うなどのために、保育士と保育所等のマッチングを実施している。そして、厚生労働省は、このマッチングについては、求人情報以外に、保育所等の保育理念や実際に行われている保育内容等の様々な情報を加味した上で行う必要があるとしている。

また、厚生労働省は、保育士・保育所支援センター設置運営事業のほかに、人材確保対策推進事業(30年3月31日以前は福祉人材確保重点対策事業)として、全国の主要な公共職業安定所に人材確保対策コーナー(30年3月31日以前は福祉人材コーナー)を設置している。そして、介護、医療及び保育の福祉分野等に特化することで効果的なマッチング支援を図ることとして、支援センター等の関係団体と連携したセミナー、就職面接会の開催等を行っている。

厚生労働省は、支援センターと人材確保対策コーナーとの連携について、人材確保対策コーナーにおいて離職期間の長い潜在保育士の登録があった場合に潜在保育士を支援センターに誘導したり、セミナー、就職面接会等の各種行事を支援センター、人材確保対策コーナー等が連携して実施したりしているとしている。また、業務内容の違いについて、人材確保対策コーナーは、福祉分野等の幅広い分野における求職者・求人者のマッチング支援をしているのに対して、支援センターは、潜在保育士に対するマッチング支援、保育所等に対する潜在保育士の活用方法に関する助言等を実施していて、潜在保育士の就職支援に特化している点が大きな違いであるとしている。

しかし、支援センター及び人材確保対策コーナーは、保育士の就職支援という点において目的が共通していることから、会計実地検査を行った都道府県、政令指定都市及び中核市のうち30年度に保育士・保育所支援センター設置運営事業を実施した37実施主体において、支援センターと人材確保対策コーナーとの連携状況及び業務内容の違いについて確認したところ、次のとおりとなっていた。

(a) 支援センターと人材確保対策コーナーとの連携状況

支援センターと人材確保対策コーナーとの連携状況について、32実施主体(37実施主体に対する割合86.4%)は、人材確保対策コーナーに対して支援センターの利用促進に関する印刷物の配布等を求めたり、セミナー、就職面接会等の各種行事を支援センターと人材確保対策コーナーが連携して実施したりしているとしていた。一方、5実施主体(同13.5%)は、支援センターと人材確保対策コーナーとの連携は特に実施していないとしていた。

(b) 支援センターと人材確保対策コーナーとの業務内容の違い

支援センターと人材確保対策コーナーとの業務内容について、26実施主体(37実施主体に対する割合70.2%)は、支援センターにおいては、保育に関する専門性を有する保育士経験者がマッチング等の再就職支援や、求職者の需要に応じた見学先や実習先のあっせんなど、人材確保対策コーナーと比較して、保育士の再就職支援についてより重点的な取組等を行っているとしていた。一方、11実施主体(同29.7%)は、支援センターと人材確保対策コーナーとの業務内容の違いはないとしていた。

また、27年度から30年度までにおける全国の支援センターを活用した就職件数と全国の人材確保対策コーナーの保育士の分野に係る就職件数を確認したところ、図表2-2-10のとおり、支援センターを活用した就職件数は、いずれの年度も人材確保対策コーナーを活用した就職件数よりも少なくなっていた。一方、支援センターを活用した1実施主体当たりの就職件数は、27年度から30年度にかけて増加傾向にあり、30年度においては、人材確保対策コーナーを活用した1設置箇所当たりの就職件数より多くなっていた。

図表2-2-10 全国の支援センターを活用した就職件数及び人材確保対策コーナーを活用した就職件数

(単位:実施主体、設置箇所、件)
区分 平成27年度 28年度 29年度 30年度
実施主体等数 就職件数 実施主体等数 就職件数 実施主体等数 就職件数 実施主体等数 就職件数
支援センター 43 2,484
(57.7)
51 3,361
(65.9)
57 3,709
(65.0)
60 4,495
(74.9)
人材確保対策コーナー 64 4,480
(70.0)
74 5,372
(72.5)
79 6,185
(78.2)
84 5,407
(64.3)

(注) 括弧内は1実施主体又は1設置箇所当たりの就職件数を示している。

このように、大半の実施主体において、支援センターと人材確保対策コーナーが就職面接会等を連携して実施したり、支援センターが、その特長をいかして、保育に関する専門性を有する保育士経験者によるマッチング等の再就職支援を行うなどの就職支援等を実施したりしている一方で、支援センターと人材確保対策コーナーとで連携していないとする実施主体や、両者の業務内容に違いはないとする実施主体も複数見受けられた。

したがって、厚生労働省において、支援センターを活用した潜在保育士の就職支援等の効果を一層発現させるために、保育士・保育所支援センター設置運営事業の目的を踏まえて支援センターの役割を明確にして、支援センターの特長をいかすなどして業務を実施することができるよう、実施主体に対して適時適切に助言等を行うことが必要であると認められる。

b センター名簿の登録及び活用状況

前記のとおり、人材バンク機能強化事業は、支援センターが、保育士登録後の就職促進に活用するために、センター名簿による管理を行い、保育士の就業状況等を把握するなどの業務を行うものである。人材バンク機能強化事業の実施に当たっては、支援センターが各種行事等においてセンター名簿への登録を促しているほか、都道府県等が、保育士登録の仕組みを活用するなどして、センター名簿への登録を促したり、現況を確認したりなどする書類(以下「現況確認等書類」という。)を保育士に送付している。そして、その送付に当たっては、保育士の登録を受けようとする者が申請書に保育士登録証の受取用住所を記載していることから、当該住所に郵送するなどの方法により実施している。

そこで、都道府県等が現況確認等書類を郵送等した保育士が、センター名簿に登録されているかなどについて、人材バンク機能強化事業を実施した12実施主体における28年度から30年度までの上記業務の実施状況をみたところ、図表2-2-11のとおり、保育士登録簿に登録されている保育士に対して1実施主体、1年度当たり最少で645通、最多で37,640通の現況確認等書類を郵送等したものの、転居先不明等により届いていない場合も多くなっていて、転居先不明等による返還等数が最も多かった実施主体では、28年度に29,455通を郵送等したものの5,691通(現況確認等書類の郵送等数29,455通に対する割合19.3%)が返還等されていた。このように多数の返還等が発生しているのは、上記の申請書に記載する住所は保育士登録証の受取用住所であり、転居等をした際の住所変更の申請は必要とされていないことなどによると思料される。

そして、郵送等された現況確認等書類に回答するなどして最終的にセンター名簿に登録された保育士は、最少で0人、最多でも477人(現況確認等書類の郵送等数22,592通に対する割合2.1%)と少なく、人材バンク機能強化事業によりセンター名簿を保育士の就職促進に十分活用できる状況とはなっていなかった。

図表2-2-11 保育士に対する現況確認等書類の郵送等の状況及びセンター名簿に登録された保育士の人数

(単位:通、人)
年度
区分
実施主体
平成28年度 29年度 30年度
実施 保育士登録簿に登録されている保育士に対して現況確認等書類を郵送等した数 転居先不明等による返還等数 センター名簿に登録された保育士数 実施 保育士登録簿に登録されている保育士に対して現況確認等書類を郵送等した数 転居先不明等による返還等数 センター名簿に登録された保育士数 実施 保育士登録簿に登録されている保育士に対して現況確認等書類を郵送等した数 転居先不明等による返還等数 センター名簿に登録された保育士数
千葉県 4,956 不明 不明 3,000 不明 不明 7,661 304
(3.9%)
不明
富山県 ×       ×       3,737 757
(20.2%)
19
(0.5%)
長野県 ×       ×       6,890 95
(1.3%)
175
(2.5%)
滋賀県 5,430 698
(12.8%)
81
(1.4%)
×       ×      
京都府 ×       21,736 4,727
(21.7%)
160
(0.7%)
×      
大阪府 22,592 4,195
(18.5%)
477
(2.1%)
15,834 3,955
(24.9%)
410
(2.5%)
21,360 1,721
(8.0%)
230
(1.0%)
兵庫県 29,455 5,691
(19.3%)
16
(0.0%)
37,640 2,281
(6.0%)
8
(0.0%)
27,187 2,583
(9.5%)
11
(0.0%)
神戸市 7,229 不明 不明 11,995 834
(6.9%)
不明 ×      
山口県 10,892 不明 72
(0.6%)
901 不明 18
(1.9%)
645 不明 11
(1.7%)
北九州市 6,168 1,020
(16.5%)

(-)
×       ×      
福岡県
久留米市
×       2,956 79
(2.6%)
不明 ×      
大分県 ×       6,334 1,898
(29.9%)
15
(0.2%)
14,012 692
(4.9%)
21
(0.1%)
  • 注(1) 「実施」欄の「○」は、各年度に人材バンク機能強化事業を実施した実施主体である。
  • 注(2) 「実施」欄の「×」は、各年度に人材バンク機能強化事業を実施していない実施主体である。
  • 注(3) 括弧内は「保育士登録簿に登録されている保育士に対して現況確認等書類を郵送等した数」に対する割合を示している。
  • 注(4) 「センター名簿に登録された保育士数」欄の「-」は、皆無を示している。

このように、人材バンク機能強化事業については、現況確認等書類を郵送等しても転居先不明等により届かなかったり、郵送等された現況確認等書類に回答するなどしてセンター名簿に登録された保育士の人数が少なかったりなどしている状況が見受けられた。

したがって、厚生労働省において、潜在保育士の就職支援等のために、センター名簿を適切に管理して就職促進に十分活用できるような仕組みを検討することが必要であると認められる。

ウ 企業主導型保育事業による効果の発現状況
(ア) 企業主導型保育施設の利用状況等

前記のとおり、会計検査院は、 31年4月に、企業主導型保育施設の利用が低調となっている事態等について、内閣総理大臣に対して会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求しているが、その検査の結果で、利用定員、企業主導型利用児童数、運営費助成金の交付状況等を勘案して抽出した41都道府県に所在する150事業実施者の173施設(開設後1年以上が経過しているもの)の利用状況等について分析を行っている。

本報告では、上記の分析に引き続き、30年10月までに開設している企業主導型保育施設(同月までに廃止されたものなどを除く。)2,387施設の利用状況等を明らかにするため、これらの企業主導型保育施設の同月時点の利用定員(既存分を除く。以下同じ。)に対する同月時点の企業主導型利用児童数(既存分を除く。以下同じ。)の割合(以下「企業主導型定員充足率」という。)等について分析を行った。

30年10月時点において、開設されている2,387施設の利用定員51,273人分に対する企業主導型利用児童数は33,545人となっており、これらの企業主導型保育施設の利用定員の合計に対する実際の企業主導型利用児童数の合計の割合は65.4%(既存分を含めた場合の割合は66.4%)となっていた(都道府県別の企業主導型保育施設の利用定員、企業主導型利用児童数等については別図表9参照)。

また、上記2,387施設の企業主導型定員充足率の平均は69.4%、このうち従業員枠のみの企業主導型保育施設419施設の平均は59.6%、地域枠の設定がある企業主導型保育施設1,968施設の平均は71.5%となっていた。

なお、30年9月に厚生労働省が公表した「保育所等関連状況取りまとめ(平成30年4月1日)」によると、同年4月1日時点の全国の認可保育所等の定員充足率の平均は93.4%であり、上記の企業主導型定員充足率は、これに比べて大幅に低くなっている。

そして、前記2,387施設の企業主導型定員充足率の分布をみると、図表2-3-1のとおり、75%以上が1,194 施設(2,387施設に対する割合50.0%)となっている一方で、50%未満が549施設(同22.9%)見受けられた。

また、従業員枠のみの企業主導型保育施設419施設(利用定員8,525人分)と、地域枠の設定がある企業主導型保育施設1,968施設(同42,748人分)の企業主導型定員充足率の分布をみると、従業員枠のみの企業主導型保育施設では、75%以上が146施設(上記419施設に対する割合34.8%)となっている一方で、50%未満が160施設(同38.1%)となっていたが、地域枠の設定がある企業主導型保育施設では、75%以上が1,048施設(上記1,968施設に対する割合53.2%)となっている一方で、50%未満が389施設(同19.7%)となっていた。

図表2-3-1 企業主導型定員充足率の分布(平成30年10月時点)

図表2-3-1 企業主導型定員充足率の分布(平成30年10月時点) 画像

(イ) 待機児童の発生状況と企業主導型保育施設の利用状況の関連性

待機児童が発生している市町村における企業主導型保育施設の企業主導型定員充足率等は、待機児童が発生していない市町村と比較してどのような傾向となっているかなどについて検査したところ、次のとおりとなっていた。

a 待機児童が発生している市町村と発生していない市町村における企業主導型保育施設の利用状況等の比較

厚生労働省の待機児童数調査において、29年4月、同年10月、30年4月及び同年10月のいずれの時点においても待機児童が発生しているとされている38都道府県の351市区町村における企業主導型保育施設の設置状況をみると、30年10月時点で38都道府県の246市区町村に1,454施設(利用定員31,955人分)が設置されていた。

そして、従業員枠のみの企業主導型保育施設と地域枠の設定がある企業主導型保育施設の施設数及び利用定員をみると、従業員枠のみの企業主導型保育施設は242施設(利用定員5,138人分)、地域枠の設定がある企業主導型保育施設は1,212施設(同26,817人分)となっていた。

また、前記1,454施設の企業主導型定員充足率の平均は70.4%、このうち従業員枠のみの企業主導型保育施設242施設の平均は60.1%、地域枠の設定がある企業主導型保育施設1,212施設の平均は72.5%となっていた。

そして、上記1,454施設の企業主導型定員充足率の分布をみると、図表2-3-2のとおり、75%以上が748施設(1,454施設に対する割合51.4%)となっている一方で、50%未満が320施設(同22.0%)見受けられた。

図表2-3-2 待機児童が発生している市町村における企業主導型保育施設の企業主導型定員充足率の分布(平成30年10月時点)

図表2-3-2 待機児童が発生している市町村における企業主導型保育施設の企業主導型定員充足率の分布(平成30年10月時点) 画像

一方、厚生労働省の待機児童数調査において、29年4月、同年10月、30年4月及び同年10月のいずれの時点においても待機児童が発生していないとされている46都道府県の971市区町村における企業主導型保育施設の設置状況をみると、30年10月時点で39都道府県の135市区町村に253施設(利用定員4,938人分)が設置されていた。

そして、従業員枠のみの企業主導型保育施設と地域枠の設定がある企業主導型保育施設の施設数及び利用定員をみると、従業員枠のみの企業主導型保育施設は42施設(利用定員672人分)、地域枠の設定がある企業主導型保育施設は211施設(同4,266人分)となっていた。

また、前記253施設の企業主導型定員充足率の平均は68.9%、このうち従業員枠のみの企業主導型保育施設42施設の平均は63.3%、地域枠の設定がある企業主導型保育施設211施設の平均は70.0%となっていた。

そして、上記253施設の企業主導型定員充足率の分布をみると、図表2-3-3のとおり、 75%以上が124施設(253施設に対する割合49.0%)となっている一方で、50%未満が58施設(同22.9%)見受けられた。

図表2-3-3 待機児童が発生していない市町村における企業主導型保育施設の企業主導型定員充足率の分布(平成30年10月時点)

図表2-3-3 待機児童が発生していない市町村における企業主導型保育施設の企業主導型定員充足率の分布(平成30年10月時点) 画像

b 待機児童が多数発生している市町村における企業主導型保育施設の利用状況

会計実地検査を行った166市区町村のうち、厚生労働省の待機児童数調査において、29年4月、同年10月、30年4月及び同年10月のいずれの時点においても待機児童が50人以上発生しているとされていて、かつ、企業主導型保育施設が20施設以上設置されている大阪、仙台、神戸各市及び世田谷区における企業主導型保育施設計237施設の企業主導型定員充足率をみたところ、図表2-3-4のとおり、前記の30年10月までに開設している全ての企業主導型保育施設における企業主導型定員充足率の平均69.4%と比べて、神戸市はやや高くなっているものの、その他の3市区についてはほとんど差異は見受けられなかった。そして、同年10月時点における企業主導型定員充足率が50%未満となっている企業主導型保育施設が大阪市で22施設、仙台市で12施設、神戸市で4施設、世田谷区で7施設、計45施設(237施設に対する割合18.9%)見受けられた。

図表2-3-4 待機児童が50人以上発生しているとされていて、かつ、企業主導型保育施設が20施設以上設置されている4市区の状況(平成30年10月時点)

(単位:施設、人)
区分 企業主導型保育施設数 企業主導型定員充足率50%未満の企業主導型保育施設の割合 企業主導型定員充足率の平均 企業主導型保育施設の利用定員に対する企業主導型利用児童数の割合 待機児童
  うち企業主導型定員充足率50%未満の企業主導型保育施設数   従業員枠のみの企業主導型保育施設の企業主導型定員充足率の平均 地域枠の設定がある企業主導型保育施設の企業主導型定員充足率の平均   企業主導型利用児童数 利用定員 平成29年
4月1日
29年
10月1日
30年
4月1日
30年
10月1日
大阪市 130 22 16.9% 72.8% 67.7% 73.9% 69.7% 1,602 2,297 325 1,335 65 390
仙台市 49 12 24.4% 69.5% 53.6% 71.3% 64.6% 641 992 232 594 138 584
神戸市 37 4 10.8% 77.2% 74.2% 77.6% 73.2% 546 745 93 583 332 670
世田谷区 21 7 33.3% 69.2% 52.3% 70.9% 68.0% 288 423 861 910 486 851
237 45 18.9% 72.5% 65.4% 73.6% 69.0% 3,077 4,457        
(参考)
全国 2,387 549 22.9% 69.4% 59.6% 71.5% 65.4% 33,545 51,273 26,081 55,433 19,895 47,198

このように、待機児童が発生している市町村における企業主導型保育施設と発生していない市町村における企業主導型保育施設を比較したところ、待機児童の発生の有無等にかかわらず、いずれも従業員枠のみの企業主導型保育施設の方が企業主導型定員充足率が低くなっており、また、企業主導型定員充足率の分布等にほとんど差異は見受けられなかった。そして、待機児童が多数発生している上記の4市区においても、企業主導型定員充足率が50%未満となっている企業主導型保育施設が相当数見受けられた。

また、前記のとおり、会計検査院は、31年4月に企業主導型保育施設の整備における利用定員の設定等について、内閣総理大臣に対して会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求しており、その検査の結果で、利用が低調となっている企業主導型保育施設において、従業員の意向等の保育需要に係る調査等を行わずに利用定員を設定していた事態等について記述している。

企業主導型保育事業については、上記の会計検査院の検査結果や、前記分析の結果等を踏まえると、待機児童の発生の有無等にかかわらず、企業主導型保育施設が有効に利用されるためには、内閣府において、補助事業者に対して、従業員の意向等を十分に把握するなど利用定員の具体的な設定方法等について定め、適切に利用定員の設定を行うことの必要性等について事業実施者に周知させるとともに、助成の申込みに対する審査に当たり、利用定員の妥当性等について適切に審査等を行わせることなどが重要である。

エ 待機児童解消施策による効果の発現状況

保育の受け皿数、保育士数及び待機児童数の推移をみると、図表2-4-1のとおり、保育の受け皿数や保育士数は、保育施設等整備施策や保育士等確保施策が実施されたことにより増加していて、加速化プラン等の目標値がおおむね達成されたこととなっているのに、全国の待機児童数は31年4月1日時点で16,772人となっていて、依然として待機児童の解消には至っていない状況である。

図表2-4-1 保育の受け皿数、保育士数及び待機児童数の推移(平成25年度~31年度)

図表2-4-1 保育の受け皿数、保育士数及び待機児童数の推移(平成25年度~31年度) 画像

そこで、待機児童の解消に至っていない原因について分析等を行うために、待機児童解消のために設定された目標値による評価の有効性、待機児童の発生状況等について検査したところ、次のとおりとなっていた。

(ア) 保育施設等整備施策に係る待機児童解消のための目標値による評価の有効性

加速化プランにより新たに確保する受け皿の目標値50万人分は、前記のとおり、29年度末までの加速化プランによる保育の受け皿の拡大量の見込みなどを踏まえたものであり、市町村が策定した待機児童解消加速化計画等における30年4月1日時点の利用定員数の見込みなどを基に算定したものである。

そこで、会計実地検査を行った166市区町村が待機児童解消加速化計画等における利用定員数の見込みとしてどのような数値を記載したのかアンケート調査を実施したところ、当該年度の整備予定施設が完成した場合の総利用定員数を記載していた市町村が90市区町(166市区町村に対する割合54.2%)、子ども・子育て支援事業計画に記載した保育サービス量と同値を記載していた市町村が43市区町村(同25.9%)、申込児童数の見込みに対して保育サービスの提供を確保できる利用定員数を記載していた市町村が36市町村(同21.6%)等となっていた(複数回答可としたため、複数の選択肢に計上されている市町村がある。)。

このように、加速化プランの目標値の算定根拠の一つとなっている待機児童解消加速化計画等に記載されていた利用定員数の見込みについては、申込児童数の見込みに対して必要な利用定員数を記載していた市町村は約2割にとどまっていた。そのため、前記の加速化プランの目標値は、必ずしも待機児童を解消するために必要となる申込児童数の見込みに応じた数値を積み上げたものとはなっておらず、この目標値が達成されたとしても、待機児童が解消されるとは限らないものとなっていたと思料される。

(イ) 保育士等確保施策に係る待機児童解消のための目標値による評価の有効性

保育士の確保については、前記のとおり、厚生労働省は、常勤換算方法による保育所等で勤務する保育士が29年10月1日時点で46.4万人となっていることから、29年度末までに国全体として確保する目標となる保育士の人数46.3万人は確保できたと考えているなどとしている。

一方、独立行政法人福祉医療機構が31年1月に公表した「平成30年度「保育人材」に関するアンケート調査の結果について」によれば、有効回答が得られた保育所等のうち約3割が保育士等の要員が不足していると回答したとされている。そして、前記のとおり、会計検査院が166市区町村を検査したところ、保育士不足により所定の利用定員数まで児童を受け入れられなかったと市町村が回答した施設が222施設(30年10月1日時点)あったり、保育士不足により加速化プラン採択事業等が予定どおりに進捗しなかった市町村が延べ30市区あったりしている状況が見受けられた。

上記のように保育士不足により所定の利用定員数まで児童を受け入れられない施設があるなどの状況は、待機児童の解消を図る上での重要な課題の一つである。そして、このような深刻な保育士不足については、必ずしも多数の市町村において同様の傾向が見受けられているわけではないことから、保育士不足の状況は地域によっても差異が生じていると思料される。そのため、国全体として確保する保育人材の目標値は、達成されたとしても、全ての市町村において待機児童が解消されるとは限らないものとなっていたと思料される。

(ウ) 待機児童の発生状況等

a 利用定員数、申込児童数、待機児童数等の推移

待機児童の発生状況等を分析するために、全国の認可保育所等に係る利用定員数、申込児童数、利用児童数、待機児童数等の推移をみたところ、図表2-4-2のとおり、申込児童数は27年度の247.2万人から30年度の271.2万人まで、利用児童数は27年度の237.3万人から30年度の261.4万人まで、それぞれ増加していた。また、前記のとおり、申込児童数から利用児童数を除き、さらに、潜在的待機児童数及びその他施設等利用児童数を除くなどした児童数が待機児童数となるが、潜在的待機児童数は27年度の4.2万人から30年度の5.3万人まで、その他施設等利用児童等数は27年度の3.3万人から30年度の2.4万人まで、待機児童数は27年度の2.3万人から30年度の1.9万人まで、それぞれ増減しながら推移していた。

一方、利用定員数は、保育施設等の整備が進捗したことなどにより、27年度の250.6万人分から30年度の280.0万人分まで増加していて、利用定員数から申込児童数を引いた数(注10)(以下「余裕定員数」という。)も27年度の3.4万人分から30年度の8.8万人分まで増加していた。

また、上記の余裕定員数に企業主導型保育事業に係るものは含まれていないが、30年4月時点の企業主導型保育施設の利用定員41,432人分に対する企業主導型利用児童数は21,120人であり、20,312人分の空き定員が発生していたことから、上記の余裕定員数と企業主導型保育施設の空き定員を合わせると、30年4月時点で計10.8万人分の余裕定員等が発生していたことになる。

すなわち、全国の総数としてみると、保育施設等の整備が進捗したことなどにより申込児童数の増加に対応できるだけの利用定員数が確保されているものの、活用されていない利用定員数が余裕定員数となる一方で、一定数の待機児童、潜在的待機児童等が発生している状況となっていると思料される。

(注10)
会計検査院が利用定員数から申込児童数を差し引いて機械的に算出したものである。また、算出に当たっては、全体を積み上げた上で差し引いたものであり、個別の施設ごとの余裕定員数を積み上げたものではない。

図表2-4-2 利用定員数、申込児童数、待機児童数等の推移(平成27年4月1日~30年4月1日)

図表2-4-2 利用定員数、申込児童数、待機児童数等の推移(平成27年4月1日~30年4月1日) 画像

b 年齢区分別の利用定員数、申込児童数、待機児童数等の状況

30年4月1日時点の認可保育所等の利用定員数、申込児童数、利用児童数、待機児童数等の状況を年齢区分別にみると、図表2-4-3のとおり、 0歳児については、利用定員数は24.3万人分、申込児童数は16.5万人、利用児童数は14.9万人、潜在的待機児童数は0.9万人、その他施設等利用児童等数は0.2万人、待機児童数は0.2万人となっていた。そして、一般的に、0歳児は年度途中の入所となることが多く、年度当初は空き定員が生ずる傾向があるため、余裕定員数も7.8万人分となっていた。

また、1・2歳児については、利用定員数は91.2万人分、申込児童数は98.5万人、利用児童数は92.1万人、潜在的待機児童数は3.5万人、その他施設等利用児童等数は1.3万人、待機児童数は1.4万人となっていた。1・2歳児については、申込児童数が利用定員数を上回っているため余裕定員は生じておらず、逆に、7.2万人分の利用定員の不足が生じていた。

さらに、3歳以上児については、利用定員数は164.4万人分、申込児童数は156.1万人、利用児童数は154.3万人、潜在的待機児童数は0.7万人、その他施設等利用児童等数は0.8万人、待機児童数は0.2万人、余裕定員数は8.2万人分となっていた。

上記のように、待機児童及び余裕定員の発生状況は年齢区分によって大きく異なっている。 30年9月に厚生労働省が公表した「保育所等関連状況取りまとめ(平成30年4月1日)」によると、1・2歳児の保育所等利用率は、23年度には31.0%となっていて、全体の保育所等利用率33.1%を下回っていたが、その後、27年度には38.1%となって全体の保育所等利用率37.9%を上回り、30年度には47.0%となって全体の保育所等利用率44.1%を約3ポイント上回っている。このように1・2歳児の保育需要の増大が顕著となっていることが、前記のように1・2歳児の年齢区分において利用定員が不足し、多くの待機児童が発生している一因となっていると思料される。

図表2-4-3 年齢区分別の利用定員数、申込児童数、待機児童数等の状況(平成30年4月1日時点)

図表2-4-3 年齢区分別の利用定員数、申込児童数、待機児童数等の状況(平成30年4月1日時点) 画像

c 都道府県別の利用定員数、申込児童数、待機児童数等の状況

30年4月1日時点の認可保育所等の利用定員数、申込児童数、利用児童数、待機児童数等の状況を都道府県別にみると、図表2-4-4のとおり、待機児童が1人以上発生している都道府県は41都道府県(47都道府県に対する割合87.2%)、待機児童が発生していない都道府県は6県(同12.7%)となっていた。また、余裕定員については、最も多い都道府県は愛知県で25,063人分、次いで長野県で10,565人分、岐阜県で6,884人分となっている一方、最も少ない、すなわち、最も利用定員が不足している都道府県は東京都で△10,668人分、次いで神奈川県で△7,273人分、兵庫県で△5,450人分、大阪府で△4,762人分となっていて、余裕定員の発生状況は都道府県により大きく異なっていた。

図表2-4-4 都道府県別の利用定員数、申込児童数、待機児童数等の状況(平成30年4月1日時点)

(単位:人)
都道府県名 利用定員数 申込児童数 認可保育所等
利用児童数
その他施設等
利用児童等数
潜在的
待機児童数
待機児童数 余裕定員数
北海道 83,163 81,954 77,160 2,450 2,215 129 1,209
青森県 35,652 32,776 32,355 140 281 0 2,876
岩手県 31,380 30,171 29,404 109 513 145 1,209
宮城県 42,738 42,964 41,315 251 785 613 226
秋田県 26,008 23,376 23,088 192 59 37 2,632
山形県 27,289 25,952 25,528 115 263 46 1,337
福島県 32,600 32,380 31,061 351 597 371 220
茨城県 60,518 57,142 55,173 278 1,305 386 3,376
栃木県 41,826 39,932 39,006 34 851 41 1,894
群馬県 47,601 45,056 44,376 121 531 28 2,545
埼玉県 123,075 126,582 119,231 629 5,170 1,552 3,507
千葉県 112,584 109,647 105,299 605 2,351 1,392 2,937
東京都 283,042 293,710 270,225 10,208 7,863 5,414 10,668
神奈川県 154,006 161,279 152,166 2,650 5,599 864 7,273
新潟県 68,539 61,778 61,424 209 144 1 6,761
富山県 32,908 28,854 28,635 29 190 0 4,054
石川県 38,690 34,522 34,513 0 9 0 4,168
福井県 27,879 25,115 25,026 2 69 18 2,764
山梨県 24,134 20,768 20,648 68 52 0 3,366
長野県 61,291 50,726 50,397 48 231 50 10,565
岐阜県 45,253 38,369 38,283 17 69 0 6,884
静岡県 70,266 66,035 63,742 606 1,362 325 4,231
愛知県 181,850 156,787 154,108 296 2,145 238 25,063
三重県 44,881 39,868 39,340 41 407 80 5,013
滋賀県 34,039 34,052 33,108 27 478 439 13
京都府 59,541 58,630 57,686 148 721 75 911
大阪府 171,955 176,717 168,985 799 6,256 677 4,762
兵庫県 103,261 108,711 103,316 428 2,979 1,988 5,450
奈良県 27,349 25,523 24,623 196 503 201 1,826
和歌山県 23,270 20,349 20,088 215 30 16 2,921
鳥取県 19,636 17,488 17,442 17 29 0 2,148
島根県 23,302 22,739 22,388 19 302 30 563
岡山県 46,583 46,923 44,828 364 1,033 698 340
広島県 70,130 64,406 63,088 222 889 207 5,724
山口県 28,125 26,383 25,865 193 289 36 1,742
徳島県 17,972 16,240 16,001 34 172 33 1,732
香川県 24,536 22,592 22,223 48 213 108 1,944
愛媛県 28,496 25,602 25,262 79 212 49 2,894
高知県 24,532 21,086 20,913 67 55 51 3,446
福岡県 121,735 121,884 117,759 285 2,845 995 149
佐賀県 25,635 24,058 23,760 33 232 33 1,577
長崎県 37,957 37,384 36,698 230 299 157 573
熊本県 57,068 56,588 55,555 181 670 182 480
大分県 27,563 26,595 25,866 95 621 13 968
宮崎県 34,329 32,941 32,675 75 128 63 1,388
鹿児島県 41,050 42,301 41,024 405 628 244 1,251
沖縄県 55,342 57,424 53,749 708 1,097 1,870 2,082
2,800,579 2,712,359 2,614,405 24,317 53,742 19,895 88,220
  • 注(1) 厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ(平成30年4月1日)」(平成30年9月公表)等に基づき作成
  • 注(2) 「利用定員数」は、特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業に係る利用定員数の合計である。なお、「利用定員数」には、特例保育に係る定員数は含めていない。
  • 注(3) 「認可保育所等利用児童数」は、特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業を利用する児童数の合計である。
  • 注(4) 「その他施設等利用児童等数」は、その他施設等利用児童数及び特例保育を利用する児童数の合計である。
  • 注(5) 網掛けをしている6県は、平成30年4月1日において、待機児童が発生していない。

d 市町村における利用定員数、申込児童数、待機児童数等の状況

全国の1,741市区町村における30年4月1日時点の利用定員数、申込児童数及び待機児童数の状況をみたところ、図表2-4-5のとおり、申込児童数が利用定員数を上回っている市町村が496市区町村(1,741市区町村に対する割合28.4%)、申込児童数が利用定員数以下となっている市町村が1,245市区町村(同71.5%)となっていた。そして、申込児童数が利用定員数を上回っている市町村のうち待機児童が発生している市町村は258市区町村(同14.8%)、申込児童数が利用定員数以下となっている市町村のうち待機児童が発生している市町村は177市区町村(同10.1%)となっていた。

図表2-4-5 市町村における利用定員数、申込児童数及び待機児童数の状況(平成30年4月1日時点)

区分 申込児童数が利用定員数を上回っている市町村数 申込児童数が利用定員数以下となっている市町村数
待機児童が発生している市町村数 258 177 435
(14.8%) (10.1%) (24.9%)
待機児童が発生していない市町村数 238 1,068 1,306
(13.6%) (61.3%) (75.0%)
496 1,245 1,741
(28.4%) (71.5%) (100%)

(注) 括弧内は、全国の1,741市区町村に対する各区分の市町村数の割合を示している。

上記177市区町村のうち、申込児童数と利用定員数が同数である2市を除く175市区町村では、余裕定員が生じているのに、待機児童が発生している状況となっていた。その要因について分析するために、これらの市町村のうち、会計実地検査を行った38市区町村における30年4月1日時点の余裕定員数及び待機児童数の状況を更に提供区域別にみたところ、これらのうち、複数の提供区域を設定していて、かつ、区域別に利用定員数、申込児童数及び待機児童数の状況を把握していた市町村は19市区となっていて、これらの市町村において設定されていた計129の提供区域のうち45区域(34.8%)では、余裕定員が生じていなかった。そして、これらの45区域のうち32区域で計536人の待機児童が発生していた。

上記の129の提供区域における年齢区分別の余裕定員数の状況をみると、3歳以上児の年齢区分で余裕定員が生じている提供区域が90区域(129区域に対する割合69.7%)となっている一方で、1・2歳児の年齢区分で余裕定員が生じている提供区域は48区域(同37.2%)となっていて、3歳以上児の年齢区分の方がより多くの提供区域で余裕定員が生じていた。

さらに、提供区域別と年齢区分別とをそれぞれ組み合わせて一つの区分(例えば、市町村内の特定の提供区域の1・2歳児の年齢区分)としてみても、387区分(前記の129区域における0歳児、1・2歳児、3歳以上児の三つの年齢区分)のうち108区分(27.9%)において、余裕定員が生じている一方で待機児童が発生している状況が見受けられた。そこで、余裕定員数及び待機児童数が一定数以上となっている区分が見受けられた市町村に対して、当該区分において余裕定員が生じているのに待機児童が発生している理由を確認したところ、同じ提供区域内であっても、余裕定員が生じている地域と待機児童が発生している地域とが離れているため通園が困難であること、保育士不足のため所定の利用定員数まで児童を受け入れられない施設があることなどとのことであった。

また、厚生労働省が30年4月1日時点の全待機児童数の7割を占めるとして都市部に区分している371市区町村(注11))と、その他の1,370市町村とに分けて余裕定員の状況を確認したところ、利用定員の不足が生じている市町村を含めた全市町村についてみた場合、余裕定員数は、都市部の371市区町村において計△11,508人分、その他の1,370市町村において計99,728人分となっていた。そして、利用定員の不足が生じている市町村を除いて余裕定員が生じている市町村のみについてみた場合、余裕定員数は、都市部では188市区町村(371市区町村に対する割合50.6%)において計41,893人分、その他の市町村では1,027市町村(1,370市町村に対する割合74.9%)において計119,149人分となっていた。すなわち、余裕定員が生じている市町村の割合は都市部の方が低いものの、全待機児童数の7割を占める都市部においても、その過半となる188市区町村で余裕定員が生じている状況となっていた。

(注11)
371市区町村  首都圏(東京都、埼玉、千葉、神奈川各県)、近畿圏(京都、大阪両府、兵庫県)の7都府県の297市区町村(政令指定都市及び中核市を除く。)、20政令指定都市、54中核市

このように、待機児童及び余裕定員の発生状況が年齢区分によって大きく異なっていたり、一定数の市町村において余裕定員が生じているのに待機児童が発生したりしている状況となっているのは、保育施設等の整備が地域別・年齢区分別の待機児童の発生状況等を必ずしも十分に踏まえないで実施されていることなどによると思料される。そして、このような保育施設等整備施策の実施状況が、加速化プランにより新たに確保する保育の受け皿の目標値を達成したのに、いまだに待機児童が解消されていない要因の一つとなっていると思料される。

したがって、厚生労働省において、今後、子育て安心プラン等に基づいて保育施設等の整備を進めるに当たっては、保育士の確保等にも留意しつつ、地域別・年齢区分別の待機児童の発生状況、保育需要の増加状況等をきめ細かく適切に把握して、待機児童が発生している地域・年齢区分に重点化を図るなどして、待機児童解消に向けた取組を着実に推進することが必要であると認められる。

(2) 放課後児童健全育成事業及び地域子育て支援拠点事業による効果の発現状況

ア 放課後児童健全育成事業による効果の発現状況

放課後児童健全育成事業による効果の発現状況として、同事業により整備された放課後児童クラブにおける放課後待機児童の発生状況やその対応状況等について検査したところ、次のとおりとなっていた。

(ア) 放課後児童クラブにおける放課後待機児童数等の状況

a 学年別の放課後待機児童数等の状況

前記のとおり、30年5月1日時点で既存の放課後児童クラブの登録児童数に放課後プランにおいて目標としていた約30万人分を加えた計約122万人分を超える児童が放課後児童クラブを利用していたが、同日時点で放課後待機児童が17,279人発生している状況となっていた。そこで、30年5月1日における全国の学年別の登録児童数をみたところ、図表2-5-1のとおり、全登録児童数1,234,366人に対する1学年から3学年までの登録児童数の割合は81.0%、4学年から6学年までの登録児童数の割合は18.8%となっていた。

一方、同日における学年別の放課後待機児童数をみたところ、全放課後待機児童数17,279人に対する1学年から3学年までの放課後待機児童数の割合は50.9%、4学年から6学年までの放課後待機児童数の割合は49.0%となっていた。

図表2-5-1 学年別の登録児童数と放課後待機児童数の状況(平成30年5月1日時点)

(単位:人)
区分 1学年 2学年 3学年 4学年 5学年 6学年 その他
登録児童数 387,335
(31.3%)
345,455
(27.9%)
268,001
(21.7%)
137,875
(11.1%)
63,517
(5.1%)
31,690
(2.5%)
493
(0.0%)
1,234,366
(100%)
1,000,791 (81.0%) 233,082 (18.8%)
放課後待機児童数 2,667
(15.4%)
2,113
(12.2%)
4,016
(23.2%)
5,312
(30.7%)
2,304
(13.3%)
867
(5.0%)
17,279
(100%)
8,796 (50.9%) 8,483 (49.0%)
  • 注(1) 厚生労働省「放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」(平成30年12月公表)に基づき作成
  • 注(2) 「その他」欄は、市町村が地域の実情に応じて登録を認めている小学生以外の児童である。
  • 注(3) 括弧内は「計」欄に対する割合を示している。

b 都道府県別の放課後待機児童の発生状況

30年5月1日時点の全国の都道府県別・学年別の放課後待機児童数をみたところ、福井県を除く全ての都道府県で放課後待機児童が発生していて、放課後待機児童数が最も多いのは東京都(3,821人)、次いで埼玉県(1,657人)、千葉県(1,602人)となっていた。

また、各都道府県における最も放課後待機児童が多い学年をみたところ、4学年である都道府県が28道府県と最も多い一方で、1学年である都道府県が11県見受けられた(都道府県別の放課後待機児童の状況については、別図表10参照)。このように4学年の放課後待機児童が多くなっているのは、前記のとおり、児童福祉法が改正され、27年度から放課後児童健全育成事業の対象となる児童が、原則として「小学校に就学しているおおむね10歳未満の児童」から「小学校に就学している児童」に変更されたことにより、4学年以上の児童の利用が可能となったことなどによると思料される。

c 市町村における放課後待機児童の発生状況

30年5月1日時点の全国の市町村別放課後待機児童数をみたところ、1,152市区町村(全国で放課後児童健全育成事業を実施している1,619市区町村に対する割合71.1%)では放課後待機児童が発生しておらず、放課後待機児童数が最も多いのは千葉市(595人)、次いで兵庫県尼崎市(403人)、さいたま市(375人)となっていた(別図表11参照)。

このように、放課後待機児童数は30年5月1日時点で約1万7千人に上っており、保育所等における待機児童と同様に、その早期解消が求められている。一般的にはいわゆる「小1の壁」と呼ばれる問題により1学年の放課後待機児童が注目されているが、前記のとおり、最も放課後待機児童数が多い学年は4学年となっていて、4学年以降も放課後児童クラブを利用したいという保護者の意向がうかがえる状況となっていた。

(イ) 放課後児童クラブの質の確保等に関する取組

前記のとおり、放課後児童クラブについては、26年5月から30年5月までの間に登録児童数が約30万人増加して約123万4千人となり、既存の放課後児童クラブの登録児童数に放課後プランにおいて目標としていた約30万人分を加えた計約122万人分を超える児童が利用している状況となっていて、上記の目標を策定した当時の想定を上回るペースで利用者が増加していた。このような状況においては、放課後児童クラブについて、育成支援の内容や施設面での質の確保等を図りつつ、放課後待機児童の発生を抑制するなどの取組が重要となる。

放課後児童クラブについては、児童福祉法第34条の8の2の規定によれば、市町村は、放課後児童健全育成事業の設備及び運営について条例で基準を定めなければならないこととされており、この条例の制定に当たっては、同事業に従事する者及びその員数以外の事項については児童クラブ設備運営基準を参酌するものとされている。そして、児童クラブ設備運営基準によれば、放課後児童クラブの運営に当たっては、運営規程を定め、運営規程において定員を定めるとともに、放課後児童クラブには遊び及び生活の場としての機能並びに静養するための機能を備えた区画(以下「専用区画」という。)を設けることとされている。専用区画は、衛生及び安全が確保されたものでなければならないとされており、その面積は児童1人につきおおむね1.65m2以上でなければならないこととされている。

そして、前記の「「放課後児童健全育成事業」の実施について」においても、児童クラブ設備運営基準と同様に、放課後児童クラブの専用区画の面積は、児童1人につきおおむね1.65m2以上でなければならないこととなっている。なお、上記専用区画の面積に関する基準を満たしていない場合であっても、条例において、当該基準に適合しているものとみなす経過措置を設けるなどしていれば、放課後児童健全育成事業の対象とすることができることとなっている。

厚生労働省は、児童クラブ設備運営基準等において専用区画の面積を児童1人当たりおおむね1.65m2としたのは、小学校の一般的な広さの教室(約64m2)において、最大40人が学習する場合に児童1人当たりの面積が約1.6m2となることなどから、これを超える面積が必要であること、安全面を考慮した環境整備が必要であることなどによるとしている。

したがって、市町村は、放課後待機児童の発生を抑制するために、上記の児童1人当たりの専用区画の面積について、条例において経過措置を設けることなどにより、より多くの児童を放課後児童クラブに受け入れることが可能となる。

そこで、会計実地検査を行った166市区町村において、児童1人当たりの専用区画の面積に関する基準(以下「面積基準」という。)をどのように設定するなどして放課後児童クラブの運営等を実施しているかなどを確認したところ、放課後児童クラブがない1町を除く165市区町村全てが原則として1.65m2以上を面積基準としていて、このうち条例において経過措置を設けるなどしていたのは81市区町村となっていた。

上記165市区町村の放課後児童クラブ8,439か所について、各放課後児童クラブの30年5月1日時点の専用区画の面積を、30年度の子ども・子育て支援交付金の事業実績報告書に記載されている児童の数(30年度の各月1日時点における利用児童等の数の平均)で除して児童1人当たりの専用区画の面積を試算したところ、図表2-5-2のとおり、6,690か所では1.65m2以上となっていて面積基準を満たしていたが、1,749か所では1.65m2未満となっていて面積基準を満たしておらず、このうち、面積基準1.65m2の50%である0.82m2未満となっていたものが49か所見受けられた。

図表2-5-2 放課後児童クラブにおける児童1人当たりの専用区画の面積の状況(平成30年度)

(単位:か所)
区分 1.65m2/人未満 1.65m2/人
以上
  0.82m2/人
(1.65m2/人の50%)未満
0.82m2/人
(1.65m2/人の50%)以上
1.23m2/人(1.65m2/人の75%)未満
1.23m2/人
(1.65m2/人の75%)以上
1.65m2/人 未満
放課後児童クラブの数 1,749 49 357 1,343 6,690 8,439
  割合 100% 2.8% 20.4% 76.7%    

(注) 「割合」欄は、放課後児童クラブの数1,749か所に対する各項目の放課後児童クラブの数の割合である。

このように、面積基準である1.65m2を下回る放課後児童クラブが一定数生ずる状況となっている背景には、放課後待機児童の増加等があり、一部の市町村においては、条例において経過措置を設けるなどして、面積基準を下回ることになっても利用を希望する児童を受け入れることによって放課後待機児童の減少を図っている状況が見受けられた。

また、近年、少子化に伴う児童数の減少等により、全国の小学校等において一定数の余裕教室が生じている状況となっており、新たに開設された放課後児童クラブの中には、このような余裕教室を活用するなどして小学校内で放課後児童クラブを実施している市町村がある。一方、前記のとおり、「小学校内に活用できる余裕教室等がない」とする市町村が多数見受けられたことから、これらの市町村において、余裕教室を活用できる余地がないかなどを確認したところ、一部の市町村において、余裕教室はあるものの当該教室が児童クラブ設備運営基準を満たしていないため利用できない状況や、市町村の教育委員会と放課後児童健全育成事業を所管する福祉部局等の間で、放課後児童クラブにおいて事故が発生した場合等の責任の所在や公共料金の費用負担の割合等が明確になっていないため、余裕教室の活用が必ずしも進んでいない状況等が見受けられた。

一方で、放課後児童健全育成事業を実施する複数の部局を市町村の福祉部局又は教育委員会に一本化したり、福祉部局と教育委員会との間で小学校内の設備の利用に関する協定を締結したりするなどして、余裕教室の活用推進に向けて取り組んでいる市も見受けられた。

上記の取組について、事例を示すと次のとおりである。

<参考事例2> 協定を締結して余裕教室の活用を推進するなどしていたもの

さいたま市では、放課後児童クラブの利用希望者の増加に伴い、近年、放課後児童クラブの整備等を推進しており、令和元年5月1日時点でさいたま市内に計266か所の放課後児童クラブが設置されている。

同市は、放課後児童健全育成事業を所管する子ども未来局が放課後児童クラブを整備するに当たり、教育委員会が所管する市立小学校の余裕教室を活用できるようにするなどのために、平成30年3月に市長と教育委員会教育長との間で「学校施設を活用した放課後児童クラブ施設の整備に関する協定」を締結して、放課後児童クラブを利用する児童による小学校内の設備の利用や、小学校内で事故が生じた場合の責任の所在等について取決めを行っている。

29年度は市立小学校内に新たに設置された放課後児童クラブは0か所であったが、上記の協定を締結し、余裕教室の活用を推進したことなどにより、30年度は2か所、令和元年度は3か所が新たに設置された。

なお、さいたま市における放課後待機児童は、平成29年5月1日時点で483人であったが、令和元年5月1日時点では379人に減少している。

なお、文部科学省及び厚生労働省は、令和元年7月に「放課後児童クラブの実施における学校施設の管理運営上の取決めについて(通知)」(令和元年元教地推第12号、子子発0704第1号)を発出し、学校施設の管理運営上の責任の所在等について取決めを行うための協定書の様式を例示するなどして、責任の所在の明確化等を図るための助言等を行い、余裕教室の活用の推進等に取り組んでいる。

イ 地域子育て支援拠点事業による効果の発現状況
(ア) 支援拠点における利用状況

前記のとおり、支援拠点については、平成27年3月に閣議決定された現在の少子化社会対策大綱において令和元年度末までに8,000か所を整備することが目標とされていて、その達成に向けて整備が進められている。前記のとおり、拠点要綱では、地域子育て支援拠点事業の目的の一つとして、「子育て親子の交流の場の提供と交流の促進」が掲げられており、親子の交流の促進を図るためには、乳幼児及びその保護者が整備された支援拠点を訪問し、実際に利用することが重要となる。

そこで、地域子育て支援拠点事業の効果の発現状況として、整備された支援拠点がどの程度利用されているかなどについて検査したところ、次のとおりとなっていた。

a 地域子育て支援拠点事業の1週間当たりの開設日数別の利用親子組数

平成29年度の全国の支援拠点における1日当たりの平均利用親子組数(以下「1日当たり親子組数」という。)をみたところ、図表2-6-1のとおり、5組超10組以下が2,218か所(7,229か所に対する割合30.6%)と最も多く、次いで5組以下が1,822か所(同25.2%)となっていて、これらを合わせた平均利用親子組数が1日当たり10組以下の支援拠点は4,040か所(同55.8%)となっていた。

また、1週間当たりの開設日数別に1日当たり親子組数をみると、開設日数が1日から6日までの支援拠点については、5組超10組以下である1日当たり親子組数の割合が最も多い状況となっていたが、開設日数が7日の支援拠点については、30組超の割合が最も多い状況となっていた。そこで、一部の市町村において開設日数が7日の支援拠点の状況等を確認したところ、このような支援拠点については、地域ごとに差異はあるものの地域の中核となる比較的大規模な支援拠点が多く、交流スペースの面積も大きく、比較的多数の職員が配置されているなど、多くの親子が同時に利用・交流できる環境が整備されていることなどが利用親子組数の増加につながっているものと思料される。

図表2-6-1 地域子育て支援拠点事業の1週間当たりの開設日数別の1日当たり親子組数(平成29年度)

(単位:か所)
1週間当たりの開設日数 1日当たり親子組数
0組超
5組以下
5組超
10組以下
10組超
15組以下
15組超
20組以下
20組超
25組以下
25組超
30組以下
30組超
1日 38
(22.6%)
65
(38.6%)
42
(25.0%)
9
(5.3%)
6
(3.5%)
5
(2.9%)
3
(1.7%)
168
(100%)
2日 6
(20.6%)
11
(37.9%)
4
(13.7%)
3
(10.3%)
2
(6.8%)
2
(6.8%)
1
(3.4%)
29
(100%)
3日 270
(25.6%)
343
(32.6%)
184
(17.5%)
148
(14.0%)
43
(4.0%)
28
(2.6%)
35
(3.3%)
1,051
(100%)
4日 52
(17.8%)
101
(34.5%)
51
(17.4%)
32
(10.9%)
22
(7.5%)
12
(4.1%)
22
(7.5%)
292
(100%)
5日 1,188
(28.2%)
1,356
(32.2%)
726
(17.2%)
397
(9.4%)
193
(4.5%)
110
(2.6%)
234
(5.5%)
4,204
(100%)
6日 252
(20.0%)
321
(25.5%)
189
(15.0%)
117
(9.3%)
71
(5.6%)
75
(5.9%)
230
(18.3%)
1,255
(100%)
7日 16
(6.9%)
21
(9.1%)
25
(10.8%)
21
(9.1%)
24
(10.4%)
25
(10.8%)
98
(42.6%)
230
(100%)
1,822
(25.2%)
2,218
(30.6%)
1,221
(16.8%)
727
(10.0%)
361
(4.9%)
257
(3.5%)
623
(8.6%)
7,229
(100%)
4,040(55.8%) 3,189(44.1%)
  • 注(1) 平成29年度の子ども・子育て支援交付金の事業実績報告書に基づき作成
  • 注(2) 1週間当たりの開設日数が1日又は2日である支援拠点は、地域の実情や利用親子のニーズにより、親子が集う場を常設することが困難な地域において実施することができるものである。
  • 注(3) 括弧内は1週間当たりの開設日数別の1日当たり親子組数の「計」欄に対する割合を示している。

b 地域子育て支援拠点事業の実施場所別の1日当たり親子組数

29年度における地域子育て支援拠点事業の実施場所をみたところ、図表2-6-2のとおり、最も多い実施場所は保育所(2,684か所)、次いで公共施設・公民館(1,512か所)となっていた。

図表2-6-2 地域子育て支援拠点事業の実施場所(平成29年度)

図表2-6-2 地域子育て支援拠点事業の実施場所(平成29年度) 画像

そして、29年度における地域子育て支援拠点事業の実施場所別に1日当たり親子組数をみたところ、図表2-6-3のとおり、1日当たり親子組数が多い支援拠点においては公共施設・公民館の割合が高い状況が見受けられた。これは、公共施設・公民館に整備された支援拠点は面積が大きいものが比較的多いこと、公共施設・公民館の場合、保育所等に比べて、全ての者に開かれたスペースとなっており、支援拠点の利用経験の少ない親子等も比較的利用しやすいことなどによると思料される。

図表2-6-3 地域子育て支援拠点事業の実施場所別の1日当たり親子組数(平成29年度)

図表2-6-3 地域子育て支援拠点事業の実施場所別の1日当たり親子組数(平成29年度) 画像

(イ) 1日当たり親子組数が5組以下の支援拠点の状況等

(ア)のとおり、29年度において1日当たり親子組数が10組以下であった支援拠点は全支援拠点の約半数となっていて、そのうち1日当たり親子組数が5組以下であった支援拠点が1,822か所となっている状況が見受けられた。そこで、この支援拠点1,822か所について、1日当たり親子組数の内訳をみたところ、図表2-6-4のとおり、1日当たり親子組数が1組超2組以下であった支援拠点が320か所、1組以下であった支援拠点が206か所となっているなど、利用が低調となっている状況が見受けられた。特に、子育て親子の交流の促進という地域子育て支援拠点事業の目的が達成されるためには、複数の子育て親子が支援拠点を同時に利用することが必要となるが、1日当たり親子組数が1組以下であった支援拠点は、2組以上の子育て親子が利用していなかった日がある可能性が高いことなどから、上記の目的がほとんど達成されていない状況となっていた。各市町村において、利用が低調となっている支援拠点の利用促進等を図るとともに、今後の支援拠点の整備に当たっては、子育て親子のニーズの把握等を十分に行っていくことが重要である。

図表2-6-4 1日当たり親子組数が5組以下であった支援拠点の1日当たり親子組数の内訳(平成29年度)

(単位:か所、千円)
区分 0組超
1組以下
1組超
2組以下
2組超
3組以下
3組超
4組以下
4組超
5組以下
(参考)
全支援拠点
支援拠点数 206
(11.3%)
320
(17.5%)
406
(22.2%)
413
(22.6%)
477
(26.1%)
1,822
(100%)
7,229
(参考)対象経費の実支出額 1,070,865
(9.9%)
1,843,605
(17.0%)
2,531,549
(23.4%)
2,557,672
(23.6%)
2,812,043
(25.9%)
10,815,736
(100%)
52,742,777
  • 注(1) 平成29年度の子ども・子育て支援交付金の事業実績報告書に基づき作成
  • 注(2) 子ども・子育て支援交付金の交付金額については、市町村ごとに開設日数等の区分により定められた基準額と対象経費の実支出額等とを比較して少ない方の額に3分の1を乗ずるなどして算定されるものである。このため、支援拠点ごとの対象経費の実支出額における交付金相当額は算定できない。
  • 注(3) 括弧内は「計」欄に対する割合を示している。
(ウ) 支援拠点において行われている利用促進のための取組の内容

(ア)及び(イ)のとおり、支援拠点によって、1日当たり親子組数に大きな差異があり、利用が低調となっている状況も見受けられたことから、前記の166市区町村に所在する1日当たり親子組数が10組超であった支援拠点1,254か所について、30年度に行われている利用促進のための取組の状況をみたところ、図表2-6-5のとおり、支援拠点についての広報・周知等を積極的に行ったり、アンケート調査により利用親子のニーズの把握を行ったり、土曜日、日曜日等に地域子育て支援拠点事業を行ったりなどしている状況が見受けられた。

図表2-6-5 1日当たり親子組数が10組超であった支援拠点において行われている利用促進のための取組(平成30年度)

(単位:か所)
区分 10組超
15組以下
15組超
20組以下
20組超
25組以下
25組超
30組以下
30組超
支援拠点数 割合 支援拠点数 割合 支援拠点数 割合 支援拠点数 割合 支援拠点数 割合
ホームページ等による周知のほかに、役所での各種手続等の機会に広報等を実施 295 58.8% 143 60.8% 97 67.3% 65 73.0% 208 72.9%
アンケート調査により利用親子のニーズの把握 178 35.5% 87 37.0% 57 39.5% 34 38.2% 144 50.5%
土日祝日の開所 160 31.9% 80 34.0% 65 45.1% 51 57.3% 206 72.2%
交流イベント等の特徴的な取組を実施 174 34.7% 88 37.4% 42 29.1% 36 40.4% 88 30.8%
その他の取組 236 47.1% 111 47.2% 54 37.5% 40 44.9% 152 53.3%
特になし 32 6.3% 14 5.9% 5 3.4% 1 1.1% 3 1.0%
支援拠点数計 501 100% 235 100% 144 100% 89 100% 285 100%

(注) 利用促進のための取組について、複数回答を可能としているため、1日当たり親子組数別の支援拠点数の合計と「支援拠点数計」欄は一致しない。

(3) 子どもの貧困対策に係る主要施策による効果の発現状況

前記のとおり、子どもの貧困対策としては、教育の支援、生活の支援、保護者に対する就労の支援等の各施策が実施されているが、これらの施策により子どもの貧困対策が所期の効果を上げているかなどを評価・検証するためには、子どもの成長を長期的に見守り、貧困の連鎖が生じていないことを確認する必要があることなどから、子どもの貧困対策に係る施策全体の成果について短期的に評価・検証を行うことは適当ではないと思料される。そこで、子どもの貧困対策に係る主要施策による支援の提供状況等に着目し、子どもの貧困対策として実施された各種支援が生活困窮世帯の子どもなど支援を必要とする者に対して適切に提供されているか、各種支援の実施による効果の把握等が十分に行われているかなどについてみたところ、次のアからウまでの状況となっていた。

ア 生活困窮学習支援事業による効果の発現状況
(ア) 生活困窮学習支援事業の効果

貧困対策大綱においては、大綱指標として、前記のとおり、「生活保護世帯に属する子供の高等学校等進学率」等の25指標が定められており、高等学校等進学に関する指標が複数掲げられている。これらの指標は関係施策の実施状況やその効果等を検証・評価するために設定されていることから、生活困窮学習支援事業の効果を、生活困窮学習支援を受けた子どもの高等学校等進学率で評価することについて厚生労働省の見解を聴取したところ、同省は、学習面における効果としては、高等学校等進学率を一つの指標として表すことはできるが、学習面だけでなく、子どもの意欲、協調性、忍耐力といった非認知能力を身に付け又は引き上げることも事業の効果と考えることができるとしている。そして、生活困窮学習支援事業を実施するに当たり、生活困窮学習支援を必要としている子どもに支援が行き届くようにするためには、生活困窮学習支援事業を実施するための場が十分に提供できているかが重要であり、このような場の増加が図られるように取り組んでいるとしている。

そこで、生活困窮学習支援事業の効果の発現状況として、生活困窮学習支援事業を行っている実施主体の数及び生活困窮学習支援を受けている子ども(以下「支援参加者」という。)の数はどのように推移しているか、実施主体は支援を実施するための場を十分に提供できるようにするために支援を必要としている子どもを適切に把握しているかなどについて検査したところ、次のとおりとなっていた。

a 生活困窮学習支援事業の実施主体数及び支援参加者数の推移等

生活困窮学習支援事業を実施している全国の実施主体の数及び支援参加者の数を厚生労働省の資料により確認したところ、27年度は301実施主体が実施して支援参加者は16,817人、28年度は417 実施主体が実施して支援参加者は22,329人、29年度は506実施主体が実施して支援参加者は31, 112人となっていた。このように、生活困窮学習支援事業を実施している実施主体数及び支援参加者数はともに増加傾向となっているものの、29年度時点で実施主体となり得る全ての地方公共団体の数(902地方公共団体)に対する実施主体数の割合は、56.0%にとどまっていた。

b 生活困窮学習支援を必要としている子どもの把握状況

上記のとおり、支援参加者数は増加傾向にあるが、生活困窮学習支援事業を実施している実施主体は、どのような子どもを生活困窮学習支援の対象としているかについて確認したところ、次のような状況となっていた。

 「生活困窮世帯の子どもに対する学習支援事業実施要領」によれば、生活困窮学習支援事業の対象は、「生活保護受給世帯を含む生活困窮世帯の子ども」とされており、前記のとおり、生活困窮者自立支援法によれば、生活困窮者とは、就労の状況、心身の状況、地域社会との関係性その他の事情により、現に経済的に困窮し、最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者であるとされていて、生活困窮者についての具体的な要件等は定められていない。また、生活困窮学習支援事業の対象者については、想定される世帯としては、生活保護受給世帯のほか、就学援助受給世帯、児童扶養手当受給世帯、市町村民税非課税世帯等があるが、所得基準等についての特段の定めはなく、地域の実情に応じて対象者を設定できることとなっている。そのため、実施主体は、生活困窮学習支援事業の実施に当たり、生活困窮学習支援を受ける子どもを募集する際に、支援を必要としている「生活保護受給世帯を含む生活困窮世帯の子ども」として、どのような子どもを生活困窮学習支援の対象とするかを独自に判断している状況となっていた。

そこで、30年度に生活困窮学習支援事業を実施していた前記の338実施主体が、どのような子どもを生活困窮学習支援の対象としたかについて確認したところ、生活困窮世帯に属する子どもを対象とするとしているもののその具体的な要件を定めていなかったり、生活困窮世帯として、就学援助受給世帯や児童扶養手当受給世帯等の特定の世帯に属する子どもを対象に含めて、それらを組み合わせて対象としたりしている状況となっていた。

さらに、各実施主体におけるこれらの対象者の把握状況をみたところ、図表2-7-1のとおり、生活困窮者についての具体的な要件等は定められていないため、生活困窮世帯に属する子どもを支援の対象としている291実施主体において、上記の世帯に属する子どもを網羅的に把握できるとした実施主体は12実施主体と少なくなっており、生活困窮学習支援の対象となる子どもを網羅的に把握することは極めて困難な状況となっていた。また、就学援助受給世帯や児童扶養手当受給世帯等の特定の世帯に属する子どもを支援の対象としている実施主体においても、上記の特定の世帯に属する子どもを網羅的に把握できないとした実施主体が半数以上見受けられるなど、生活困窮学習支援が必要と考えられる子どもを網羅的に把握するのは、実施主体にとって困難な状況となっていた。

図表2-7-1 各実施主体が考える生活困窮学習支援事業に係る生活困窮学習支援を必要としている子どもとその把握状況

(単位:実施主体)
区分 実施主体が生活困窮学習支援が必要と考える子どものうち主なもの
生活保護受給世帯に属する子ども 生活困窮世帯に属する子ども ひとり親世帯に属する子ども 児童扶養手当受給世帯に属する子ども 就学援助受給世帯に属する子ども その他
生活困窮学習支援が必要と考える実施主体(A) 337 291 150 183 202 118
  (A)のうち、該当する子どもを網羅的に把握できるとした実施主体 305 12 25 84 58 6
(A)のうち、該当する子どもを網羅的に把握できないとした実施主体 32 279 125 99 144 112
  • 注(1) 複数の区分を対象としている実施主体があるため、各区分を対象としている実施主体数を合計しても338実施主体とは一致しない。
  • 注(2) 同一の実施主体内においても、生活困窮学習支援事業が必要と考える区分及びその把握状況が異なる場合がある。
  • 注(3) 「生活保護受給世帯に属する子ども」について、「生活困窮学習支援が必要と考える実施主体」に含まれていない実施主体があるのは、一部の実施主体が独自に実施している生活困窮学習支援事業以外の事業において「生活保護受給世帯に属する子ども」を対象としていることによるものである。
(イ) 生活困窮学習支援事業の周知状況

上記のとおり、生活困窮学習支援が必要と考えられる子どもを網羅的に把握するのは、実施主体にとって困難な状況となっていることから、生活困窮学習支援を必要としている子どもに対して支援が行き届くようにするためには、子ども又はその保護者から生活困窮学習支援事業を実施している実施主体に対して、支援を受けることを申し出ることが可能となるように、当該実施主体が必要な情報を当該子ども及びその保護者に提供することが重要となる。

そこで、前記の338実施主体に対して、各実施主体において実施している生活困窮学習支援事業の周知及び支援を受ける子どもの募集方法等についてアンケート調査を実施したところ、 205実施主体から回答があり、図表2-7-2のとおり、様々な方法により周知しており、「学校において支援対象ではない子どもを含む全員に周知する」などの方法により不特定多数の者に対して周知しているものが57実施主体、「生活保護受給世帯に対して担当ケースワーカーが直接周知する」などの方法により生活困窮学習支援事業の対象とした世帯に限定して周知しているものが183実施主体、「教師が生活困窮学習支援が必要と考えられる子どもに対して参加を促す」などの方法により生活困窮学習支援が必要と思われる子ども及びその保護者に対して周知しているものが71実施主体となっていた。

図表2-7-2 各実施主体における生活困窮学習支援事業の主な周知方法

周知方法(対象別) 実施
主体数
左の具体的な周知方法 実施
主体数
不特定多数の者に対する周知 57 地方公共団体の広報誌やウェブサイトに募集を掲載して周知する。 31
市役所等の窓口に案内を設置して周知する。 13
学校において支援対象ではない子どもを含む全員に周知する。 34
生活困窮学習支援事業の対象とした世帯に限定して行う周知 183 生活保護受給世帯に対して担当ケースワーカーが直接周知する。 139
生活保護受給世帯に対して案内を送付して周知する。 35
児童扶養手当受給世帯への通知に案内を同封するなどして周知する。 34
生活困窮世帯やひとり親世帯を対象とする福祉の支援を受けに来た者に対して周知する。 41
就学援助受給世帯に対して案内を送付又は同世帯への通知等に同封して周知する。 61
生活困窮学習支援が必要と思われる子ども及びその保護者に対する周知 71 SSWが生活困窮学習支援が必要と考えられる子どもに対して参加を促す。 42
教師が生活困窮学習支援が必要と考えられる子どもに対して参加を促す。 60

(注) 自由記述形式による実施主体からの回答を会計検査院で分類し集計したものであるが、複数の回答があり、二つ以上の区分に分類したものがあるため、合計数は一致しない。

貧困対策大綱によれば、教育の支援では、「学校」を貧困対策のプラットフォームと位置付けて総合的に対策を推進することとされており、厚生労働省及び文部科学省は、26年度に「生活困窮者自立支援制度と教育施策との連携について(通知)」(平成27年社援地発0327第7号)及び「生活困窮者自立支援制度に関する学校や教育委員会等と福祉関係機関との連携について(通知)」を同日付けでそれぞれ発出するなどして、各地方公共団体等に対して、生活困窮自立支援制度担当の部局と学校等や家庭教育支援等の取組を通じて子どもの状況を把握している教育委員会や都道府県私立学校主管部局等が日常的に必要な情報交換等の連携を行うことが重要であることなどを周知している。そして、図表2-7-2の周知方法のうち、③、⑧、⑨及び⑩は、生活困窮学習支援事業を実施している福祉関係部局と学校関係者とが連携する周知方法となっており、125実施主体においていずれかの周知方法が実施されていた。また、24実施主体において、両者の連携のために、生活困窮学習支援事業を実施している福祉関係部局が校長会等の学校関係者が集まる会議等の機会に生活困窮学習支援事業について周知していた。

前記のように、貧困対策大綱において、家庭の経済状況にかかわらず、学ぶ意欲と能力のある全ての子どもが質の高い教育を受け、能力・可能性を最大限伸ばしてそれぞれの夢に挑戦できるようにすることが、一人一人の豊かな人生の実現等につながるなどとしていることから、生活困窮学習支援を必要としている全ての子ども及びその保護者に対して周知することが可能となるよう、各実施主体において適切な周知の在り方について検討することが重要である。

イ SSW活用事業による効果の発現状況

前記のとおり、SSWが受ける相談件数は年々増加しているが、特に子どもの貧困と密接に関係があると思料される貧困相談の件数が近年増加傾向となっている。貧困対策大綱では、SSWの配置は、子どもの貧困対策における重点施策の一つとして位置付けられており、学校を窓口として貧困家庭の子どもなどを早期の段階で生活支援や福祉制度につなげていくことができるよう、地方公共団体へのSSWの配置の推進について重点的に取り組むこと、また、福祉部門と教育委員会・学校等との連携強化を図ることとなっている。そして、27年度以降は、地方公共団体が子どもの貧困対策のためにSSWを重点的に配置することができるようにするなどのためSSW加配の措置が講じられている。

そこで、SSW活用事業による効果の発現状況として、SSW活用事業により配置されたSSWと福祉部門等との連携の効果、SSW加配の効果等について検査したところ、次のような状況となっていた。

(ア) SSW活用事業により配置されたSSWと福祉部門等との連携の効果

前記のとおり、貧困対策大綱では、福祉部門と教育委員会・学校等との連携強化を図ることとなっていて、SSW活用事業により配置されたSSWは、貧困家庭の子どもなどを早期の段階で生活保護、児童扶養手当、生活困窮者自立支援法に基づく各種支援(以下、これらを合わせて「福祉支援」という。)等につなげていくことなどができるよう、定期的な会議等により福祉部門等と情報共有を行うことが重要である。そこで、前記のSSW活用事業を実施している107事業主体のうち、検査した65事業主体における小中学校に配置等されているSSW計1,393人について、30年度における福祉部門等との情報共有の状況を事業主体を通じて確認したところ、図表2-7-3のとおり、定期的に会議等で情報共有を行っていないとしたSSWが641人と最も多く、次いで年1回以上3回未満会議等で情報共有を行っているとしたSSWが269人となっていて、月1回以上会議等で情報共有を行っているとしたSSWは257人となっていた。そして、このような情報共有の状況とSSWが福祉支援につないだ実績との間にどのような関係があるかを分析したところ、月1回以上会議等で福祉部門等との情報共有を行っているとしたSSW257人のうち生活保護の受給につないだ実績があるとしたSSWは83人(32.2%)となっていて、定期的に会議等で情報共有を行っていないとしたSSW641人のうち生活保護の受給につないだ実績があるとしたSSWの99人(15.4%)と比べるとその割合は2倍以上高くなっているなど、福祉部門等との情報共有の頻度が高いと思料されるSSWほど、貧困家庭の子どもなどを福祉支援につないだ実績の割合が高い傾向が見受けられた。

図表2-7-3 福祉部門等との情報共有の状況(平成30年度)

区分 該当するSSW 生活保護につないだSSW 児童扶養手当につないだSSW 生活困窮者自立支援法に基づく各種支援につないだSSW
人数 人数 割合 人数 割合 人数 割合
月1回以上会議等で情報共有 257 83 32.2% 84 32.6% 105 40.8%
年3回以上12回未満会議等で情報共有 226 42 18.5% 35 15.4% 44 19.4%
年1回以上3回未満会議等で情報共有 269 48 17.8% 38 14.1% 53 19.7%
定期的に会議等で情報共有を行っていない 641 99 15.4% 65 10.1% 68 10.6%
1,393  
  • 注(1) 1人のSSWが複数の支援につないでいる場合は、複数回答となっている。
  • 注(2) 各欄の「割合」は、各欄の「人数」の値を「該当するSSW」の値で除したものである。
(イ) SSW加配の効果

前記のとおり、文部科学省は、SSW加配の内容や趣旨についてSSW実施要領等に記載しておらず、原則として、SSW加配の活用方針等は各事業主体に委ねられている。そして、前記65事業主体のうち、30年度にSSW加配を活用した12事業主体にSSW加配の効果を確認したところ、全ての事業主体が、SSWの配置拡充が図られたことにより、各SSWが支援を必要とする子どもの家庭環境の状況等をより的確に把握できるようになったり、支援が必要な子どもに一層関与できるようになったりしたとしていた。

前記の65事業主体が文部科学省に報告した30年度の活動記録等を分析したところ、図表2-7-4のとおり、SSW加配により配置されたSSW(以下「加配されたSSW」という。)は87人、SSW1人当たり貧困相談件数は6.8件となっていて、加配されたSSW以外のSSWの1人当たり貧困相談件数2.0件と比べて3倍以上多くなっていた。そして、SSWが受けた貧困相談の件数のうち問題が解決した又は支援中であるが好転した件数(以下「解決等件数」という。)の状況をみると、加配されたSSWの方が1人当たり解決等件数が約1.6倍多くなっており、多くの貧困相談を解決等している状況が見受けられた。

これは、SSW加配を申請している事業主体においては、加配されたSSWの役割を子どもの貧困対策に特化していたり、加配されたSSWを貧困相談が多いと想定される中学校区に重点的に配置していたりなどしていて、加配されたSSWが貧困相談に積極的・集中的に対応していることが要因であると思料される。

一方、SSWが受けた貧困相談件数のうち解決等件数の占める割合をみると、加配されたSSWの方が低くなっていた。これは、貧困相談は家庭環境の問題等が密接に関係しているなど解決に時間を要する場合が多いが、一部の事業主体において、加配されたSSWの方がより解決が困難と考えられる複雑な貧困相談に優先的に対応するなどの取組が行われていることが要因の一つであると思料される。

図表2-7-4 加配されたSSWとそれ以外のSSWの貧困相談件数及び解決等件数の状況(平成30年度)

区分 人数 貧困相談件数   解決等件数  
SSW1人当たり貧困相談件数 貧困相談のうち解決等したものの割合 SSW1人当たり解決等件数
(A) (B) (C)=(B)/(A) (D) (E)=(D)/(B) (F)=(D)/(A)
加配されたSSW 87 594 6.8 81 13.6% 0.9
加配されたSSW以外のSSW 1,361 2,750 2.0 812 29.5% 0.5

(注) 活動記録におけるSSWの人数には、平成30年度の途中で退職した者等が含まれていることなどから、図表2-7-3のSSWの人数(1,393人)とは一致しない。

SSWは、福祉部門と教育委員会・学校等との連携強化を図るために重要な役割を果たしていて、多数の地方公共団体において子どもの貧困対策に活用されている。また、検査した地方公共団体の多くが今後SSWの増員を予定しているとしている。したがって、文部科学省において、(ア)及び(イ)のとおり、福祉部門等との情報共有の頻度が高いと思料されるSSWほど貧困家庭の子どもなどを福祉支援につないだ実績の割合が高い傾向が見受けられたり、貧困相談に関して、加配されたSSWの方が1人当たり解決等件数が多くなっている状況が見受けられたりしていることなどを踏まえて、学校をプラットフォームとした子どもの貧困対策等を効果的に推進していくために、SSW加配の内容や趣旨等をSSW実施要領等に明記するなどした上で、SSWと福祉部門等との連携の推進やSSW加配の効果的な活用方法等について、事業主体に対して周知、助言等を行うことが必要であると認められる。

ウ 母子家庭の母等に対する就労支援による効果の発現状況
(ア) 就業相談件数及び就業件数

厚生労働省は、母子家庭等就業・自立支援事業について、同事業による就業相談件数を活動指標として、また、同事業による母子家庭の母等の就業を成果目標、その就業件数を同事業の成果指標としてそれぞれ公表している。母子センターは、前記のとおり、公共職業安定所等と連携を図るなどしていて、必ずしも直接的に職業紹介を実施しているとは限らないため、同事業の効果の発現状況として、就業件数に加えて、就業相談件数についても検査したところ、次のとおりとなっていた。

a 就業相談件数

就業相談件数は、前記のとおり、14実施主体において1,000件以上となっていた一方で、12実施主体において100件未満となっているなどしていた。そこで、一部の母子センターにおいて、就業支援事業に係る就業相談件数の計上方法を確認したところ、母子センターの開所時間に関する問合せなどの軽微なものも含めて件数として計上している母子センターがある一方で、このような軽微なものを件数として計上していない母子センターも見受けられるなど、就業相談件数に計上する基準が実施主体ごとに区々となっていた。

b 就業件数

前記のとおり、29年度に就業支援事業を行っていた57実施主体における同年度の就業件数等について厚生労働省の資料により確認するなどしたところ、就業支援事業に係る就業件数は、各母子センターが就業支援事業として就業相談を行った母子家庭の母等のうち就業した母子家庭の母等の延べ人数となっていた。そして、上記57実施主体の母子センターが29年度に実施した就業支援事業に係る就業件数は、図表2-7-5のとおり、11実施主体において100件以上となっていた一方で、15実施主体において5件未満となっているなどしていた。

図表2-7-5 就業支援事業に係る就業件数(平成29年度)

就業件数の実績 5件未満 5件以上
50件未満
50件以上
100件未満
100件以上
実施主体数 15 21 7 11 54
  • 注(1) 就業件数は延べ数である。
  • 注(2) 57実施主体のうち3実施主体については、その実績が、共同で事業を実施している他の実施主体の実績に含まれているため、集計対象から除外している。

母子家庭等就業・自立支援事業実施要綱によると、就業支援事業における就業相談の実施に当たっては、留意する事項として、母子家庭の母等を公共職業安定所につなげるなど、公共職業安定所等と連携を図ることとなっている。そして、母子センターが就業相談を実施した母子家庭の母等を公共職業安定所等につないだ場合、それらの者の中には、その後の就業状況について確認されることを望まない者がいることなどから、就業相談を実施した母子家庭の母等について、就業相談後の就業状況を母子センターが把握することは困難であると思料される。

このように、前記の就業相談件数は母子センターごとに異なる基準で計上されていたこと、就業件数は実際の就業件数の一部にすぎない可能性があることなどから、現在母子センターが把握している就業相談件数及び就業件数をもってセンター事業の効果の発現状況を的確に評価するのは困難である状況となっていた。しかし、就業相談件数については、母子センターごとに区々となっている就業相談件数を扱う基準を統一的なものにすることにより正確な件数を把握することは可能であることから、同事業の効果を正確に把握するためには、就業相談件数に計上する基準を統一的なものにすることが重要である。

(イ) 母子センターの周知等について

上記のとおり、現在把握されているセンター事業の就業支援事業に係る就業件数は、実際の就業件数の一部にすぎない可能性があるものの、母子センターの就業支援事業により一定数の母子家庭の母等が就業できていることから、支援を必要としている母子家庭の母等が母子センターの存在を知り得て、必要なときに母子センターを利用できる状態になっていることがセンター事業の効果を把握する上で重要であると思料される。

そこで、母子センターの存在が母子家庭の母等にどの程度認知されているかをみたところ、厚生労働省が公表している「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告(平成28年11月1日現在)」によると、センター事業等を利用したことがないと回答した母子世帯の母(回答者に対する割合89.1%)のうち「制度を知らなかった」と回答した者が35.8%いるなど、母子センターの存在が母子家庭の母等に十分に認知されているとはいえない状況も見受けられた。

このような状況であることから、支援を必要としている母子家庭の母等が母子センターを利用できるようになるためには、母子センターの存在や提供されている支援の内容等について周知することが重要となる。また、周知が行き届かない場合も想定されることから、支援を必要としている母子家庭の母等を母子センターに適切につなぐことも重要となる。

前記のとおり、「広報啓発・広聴、ニーズ把握活動等事業」は、支援を必要とする母子家庭の母等に必要な支援が届くよう支援施策について周知することが必要であるとして、広報啓発活動等を行うものとなっていることから、同事業の実施状況をみたところ、28年度から30年度までの3年間で同事業により広報啓発活動等を実施したことのある実施主体は、前記68実施主体のうち15実施主体となっていた。

また、母子家庭等就業・自立支援事業実施要綱によれば、実施主体は、センター事業の実施に当たり、母子・父子自立支援員等との連携に努めるものとされている。母子・父子自立支援員は、母子及び父子並びに寡婦福祉法(昭和39年法律第129号)等に基づき、各地方公共団体の福祉事務所等に配置されており、主として、母子家庭の母等からの相談に応じてその自立に必要な情報提供及び指導を行うことや、職業能力の向上及び求職活動に関する支援を行うこととされている。そして、母子・父子自立支援員が配置されている福祉事務所等は市役所内等にあり、母子家庭の母等が児童扶養手当等の各種届出の提出のために市役所等に来訪した際等に、母子家庭の母等の相談に応じやすい状況にあることから、母子センターが、母子・父子自立支援員に対して、母子家庭の母等に対して提供している支援の内容について説明を行うなどの働きかけを行うことにより、母子・父子自立支援員がその母子家庭の母等をより適切に母子センターにつなぐことができるようになると思料される。

このように、母子家庭の母等が、母子センターの存在を十分に認知していることや、その存在を認知していない場合はそれらの者を母子センターにつなぐことが重要になることから、各実施主体が母子センターの存在等を周知したり、母子・父子自立支援員等に母子センターが提供している支援の内容を伝えたりすることにより、支援を必要としている母子家庭の母等が適切な支援を受けられるようにすることが重要である。