会計検査院は、近年の低金利の状況下における政府出資法人の業務及び財務の状況について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、政府出資法人における資金調達及び資金運用の状況はどのようになっているか、低金利により政府出資法人の業務及び財務にどのような影響が生じているか、政府出資法人の資金調達及び資金運用に対する国の財政支援の状況はどのようになっているか、将来の金利の変動に対する政府出資法人の対応等の状況はどのようになっているかに着眼して検査した。
多くの検査対象法人は、長期借入金の借入れ等をすることができることとなっている。そして、長期借入金の借入れ等により調達した資金の使途をみると、インフラ整備、貸付け又は出資となっているものが大半となっている。
また、銀行への預金、国債等の取得等のいわゆる安全資産による資金運用は、法人が行う業務の内容を問わず、全ての検査対象法人ができることとなっている。一方、一部の法人は、法人の本来の業務として株式や外国債券等による資金運用をしていたり、法人の業務として資金を貸し付けたりなどしている。
そして、検査対象法人が行う業務は法人によって様々であるが、各法人が行う業務内容と各法人の資金調達及び資金運用の権限の範囲を照らし合わせると、おおむね融資法人、長期運用法人、インフラ法人及びその他法人の四つの業務類型により分類することができる(3012_3_1_1リンク参照)。
検査対象法人のうち、25年度から30年度までの間に借入金等による資金調達をしているのは22法人(複数の業務類型に該当する法人を業務類型ごとに別法人として数えると延べ24法人)であり、残る4法人(同延べ9法人)はこの間に借入金等による資金調達をしていない。そして、上記22法人の借入金等残高は、 2 5年度末の計148兆3160億余円から30年度末の計135兆8813億余円へと年々減少している。
融資法人は、いずれも、原則として、公益性が高いものの民間金融機関のみでは適切な対応を行うことが困難な分野について、民間金融機関を補完する位置付けで、各法人の設置根拠法に基づく法人の業務として、民間企業や個人等に対して資金を貸し付けており、当該貸付けなどの財源に充てるために、多額の資金調達をしている。そして、融資法人のうち国際協力銀行及び中小企業基盤整備機構(一般勘定等)を除いた12法人の資金調達利回りは、いずれも25年度から30年度までにかけて低下傾向で推移している。
長期運用法人は、いずれも、被保険者等から納付された保険料等を財源とした資金について、将来の保険給付等の支払に備えるために、長期的な観点から運用しており、25年度から30年度までの間に借入金等による資金調達をしていない。
インフラ法人は、いずれも、インフラ整備等の財源に充てるために、多額の資金調達をしている。インフラ法人の資金調達利回りは、いずれも25年度から30年度にかけて年々低下している。
その他法人は、法人によって多様な業務を行っている。その他法人のうち、全ての年度末において借入金等残高のある4法人の資金調達利回りは、いずれも低下傾向で推移している(3012_3_1_2リンク参照)。
検査対象法人は、いずれも、その保有する資金を銀行へ預金するなどして運用している。
検査対象法人26法人の有価証券等残高は、25年度末の計304兆2923億余円から30年度末の計317兆2821億余円へと増加している。
融資法人の資金運用利回りは、3法人においては25年度から30年度にかけて上昇傾向となっているが、それ以外の11法人においては低下傾向で推移している。
長期運用法人の資金運用利回りは、いずれも年度によって大きく変動している。
インフラ法人の資金運用利回りは、いずれも25年度から28年度までにかけて低下し、その後横ばいで推移している。そして、その水準は、25年度においても0.03%から0.22%までと融資法人及び長期運用法人に比べておおむね低い水準となっていた。28年度以降はいずれの法人においても0.10%以下と更に低くなっている。
その他法人については、資金運用利回りの動向は法人によって差違があるものの、25年度から30年度までの間の推移をみると、ほとんどの法人で低下傾向にあり、また、その水準も融資法人に比べて低水準となっている法人が多くなっている(3012_3_1_3リンク参照)。
融資法人のうち、新規の貸付けをしている26勘定に係る13法人の資金の貸付けについて、 25年度から30年度までの間における各年度末の貸付金残高の推移をみると、減少している法人もあれば、増加している法人もある。このように、新規の貸付けをしている融資法人の中には、近年の低金利の状況下において、融資法人に対する民間企業や個人等の資金需要が変化し、法人が行う貸付金残高に変化が生じているものが見受けられた。
また、上記の13法人のうち、比較可能な経費率を把握できない4法人を除いた9法人について、銀行における預金債券等利回りに代えて融資法人に係る資金調達利回りに、法人の経費率を加えて預金債券等原価を算出し、これにより法人の預貸金利ざやを算定すると、5法人の預貸金利ざやはおおむね縮小傾向で推移したり、ゼロに近い水準でおおむね横ばいで推移したりしている。一方、国際協力機構、福祉医療機構及び日本学生支援機構の3法人の預貸金利ざやは、25年度から30年度までの間を通じていずれもマイナスの水準となっていて、貸付金利回りが、資金調達利回りに経費率を加えた預金債券等原価を恒常的に下回っている。そして、このうち2法人は、法人の業務を実施するのに必要な経費をおおむね国の補助金等によって賄っており、その貸付金利回りは、おおむね資金調達利回りの水準と等しくなるなどしている(3012_3_2_1リンク参照)。
長期運用法人に係る25年度から30年度までの間における基本ポートフォリオの期待収益率のばらつき具合である標準偏差は、日本私立学校振興・共済事業団(厚生年金勘定等)及び年金積立金管理運用が国内債券の構成割合を減らして国内外の株式の構成割合を増やすように基本ポートフォリオを変更した中で、日本私立学校振興・共済事業団(厚生年金勘定等)においては25年度の3.97%から30年度の9.29%へ、年金積立金管理運用においては同5.55%から同12.52%へと、それぞれ大きくなっている。
長期運用法人の実際の利回りは、25年度から30年度までの間においては、単年度でみると、各法人とも目標利回りを上回った年度もあれば目標利回りを下回りマイナスとなった年度もあるなど、ばらつきのある状況となっている。また、複数年度でみると、いずれも目標利回りを上回っている(3012_3_2_2リンク参照)。
インフラ法人のうち、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(建設勘定等)は、28年度以降、事業量が増加傾向にある。また、インフラ法人のうち、インフラの整備に加え、債務残高等を削減することが法人として求められている都市再生機構及び日本高速道路保有・債務返済機構の債務残高等の推移をみると、いずれも減少傾向となっている(3012_3_2_3リンク参照)。
その他法人は、法人によって多様な業務を行っている。
その他法人が行う資金運用の中には、運用益型基金等が3法人において4基金等ある。25年度から30年度までの間における当該4基金等の資金運用収益額は、いずれも年々減少していた。そして、上記の3法人は、基金等に係る資金運用収益額の減少分について、法人内部の積立金を取り崩したり、資金運用収益額を確保するために従前は購入していなかった社債等を新たに購入したり、事業の重点化・効率化を図るなどして事業内容を見直したりなどしていた(3012_3_2_4リンク参照)。
国は、特定の事業の実施等のために必要があると認めるときは、検査対象法人に対して追加出資を行っている。25年度から30年度までの間における検査対象法人に対する国の追加出資の額は、16法人に対する計3兆5694億余円であり、このうち2兆8954億余円が金銭による追加出資となっている。そして、この中には、国からの追加出資について、無利子の資金調達と捉えることができる法人が見受けられた。
また、25年度から30年度までの間の各年度末とも、借入先が国であったり、借入金等に国の債務保証が付されたりしていて、国に関係する借入金等残高が、法人全体の借入金等残高の3分の2を占めている。
そして、マイナス金利政策が導入決定された28年1月以降に公募により発行された政府保証債の中には、公募入札の結果を受けて、発行差金が償還までの支払利息の合計額を上回り、発行時の利回りがマイナスとなるものが生じている(3012_3_3_1リンク参照)。
融資法人が行う資金の貸付けの中には、国の政策的配慮から国から無利子貸付補給金の交付を受けて、個人等に対して無利子で資金を貸し付けているものがある。そして、近年の低金利の状況下において、法人の資金調達に係る費用が減少していることなどから、当該費用を補う無利子貸付補給金の交付額は、全体では年々減少している。
また、運用益型基金等を設置している法人の中には、近年の低金利の状況下において、運用益型基金等から生ずる資金運用収益額だけでは事業を実施するのに必要な財源を確保することが困難となったことから、事業を実施するための財源として、新たに国から補助金等の交付を受けることとしていたものがあった(3012_3_3_2リンク参照)。
資金運用と資金調達の条件等のかい離等に起因する金利リスクについて、融資法人における30年度の対応状況をみると、12法人は、いずれも金利リスクを負っており、リスク管理規程等に基づき、金利リスクを何らかの対応を執る必要のあるリスクであるなどとして管理しており、金利の変動による法人の損失を低減するなどのために、ALMにおいて計測する指標等を定め、計測した指標を定期的に分析するなどしていた。
ALMにおいて計測する指標は、法人により様々となっているが、8法人はデュレーション・ギャップを計測する指標の一つとしていた。
このうち、沖縄振興開発金融公庫の30年度末のデュレーション・ギャップは1.6年となっていた。同公庫は、これまで、財政融資資金からの借入金について借入期間を貸付期間の構成に合わせる取組を行ってきたとしているものの、現在の資産と負債の構成にはデュレーション・ギャップが存在すると認識していて、縮小を図る必要があるとしている。
また、ALMを行っている法人のうち4法人は、金利リスクへの対応として金利スワップ取引を行っている。このうち、住宅金融支援機構は、パイプラインリスクに対応するために金利スワップ取引を行っている。そして、同機構には、その運用益で金利スワップ取引に係る異常損失に対応するための金利変動準備基金344億円が、政府出資金を財源として設置されている。同機構は、金利水準が低位安定している中で今後急激に金利が変動する可能性は低いと見込まれるなどとして、26年度以降は金利スワップ取引を休止することとしていた。そして、実際の26年度以降の金利水準は低位安定して推移しており、同機構に新たに異常損失が計上されていない。このため、異常損失に対応するための金利変動準備基金を同機構に設置する必要性は、従前に比べて低下していた(3012_3_4_1リンク参照)。
長期運用法人は、いずれも、VaR、推定トラッキングエラー等の指標を計測したり、ストレステストを実施したりなどして市場リスクを管理している。このうち、年金積立金管理運用のVaRは、国内外の株式の構成割合を増やすなどの基本ポートフォリオの変更を行うなどする中、25年度から28年度まで年々増加している(3012_3_4_2リンク参照)。
インフラ法人のうち2法人は、金利リスクを低減するために、借換えを含む新たな資金調達をするに当たり、償還までの期間が相対的に長い長期借入金の借入れ等を増やすなどの対応を執っていた。なお、金利リスクを負っていないとしている1法人も、同様に償還までの期間が相対的に長い長期借入金の借入れ等を増やすなどしていた(3012_3_4_3リンク参照)。
その他法人のうち、25年度から30年度までの間の全ての年度末において借入金等残高のある4法人における資金調達に係る金利リスクへの対応状況をみると、各法人は、借入金等の償還年限を平準化するなどしていた。
また、資金運用に係る金利リスクについては、11法人が保有する債券の時価を定期的にモニタリングするなどしていた(3012_3_4_4リンク参照)。
25年4月の量的・質的金融緩和の導入以降、10年国債の市場金利は0.4%台まで低下し、さらに、28年1月のマイナス金利政策の導入決定後の同年2月にはマイナスの水準となるなど、近年、低金利の状況が続いている。
このような状況下において、多くの検査対象法人における資金調達利回りは低下し、長期運用法人を除く多くの検査対象法人における資金運用利回りも低下している。
そして、検査対象法人の中には、近年の低金利の状況下において資金運用収益額が減少して、新たに国の財政支援を受けることになったものなどが見受けられている。また、検査対象法人の実施する業務に対する民間企業や個人等の資金需要が変化しているなどの状況も見受けられている。さらに、今般の「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」を踏まえた資金繰り対策に係る貸付け等に必要な資金として、法人に対して計49兆余円の財政投融資計画の追加が行われている。
このような中にあって、検査対象法人は、設置根拠法等に基づく法人の目的を達成するために業務を行っていく必要がある。
したがって、検査対象法人において、将来にわたって持続的かつ安定的に業務を行っていけるよう、次の点に留意する必要がある。また、国土交通省においても、次のイの点に留意する必要がある。
会計検査院としては、今後の金利の動向等も踏まえつつ、政府出資法人の業務及び財務の状況について、今後とも多角的な観点から引き続き注視していくこととする。