【改善の処置を要求したものの全文】
原子力発電施設等緊急時安全対策交付金のうち緊急事態応急対策等拠点施設整備事業に係る交付金の算定について
(令和3年10月27日付け 内閣総理大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴府は、原子力発電施設等緊急時安全対策交付金交付規則(昭和55年科学技術庁・通商産業省告示第3号)に基づき、原子力発電施設等による災害が発生するおそれがあり、又は発生した場合の緊急時における当該原子力発電施設等の周辺地域の住民の安全確保のためにあらかじめ講じられる措置に要する費用に充てるため、原子力発電施設等の設置がその区域内で行われるなどしている都道府県等に対して、緊急時連絡網整備等事業、防災活動資機材等整備事業、緊急事態応急対策等拠点施設整備事業等の実施に要する費用の全部又は一部について、原子力発電施設等緊急時安全対策交付金(以下「交付金」という。)を交付している。このうち緊急事態応急対策等拠点施設整備事業は、原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号)に基づき内閣総理大臣(平成24年9月以前は文部科学大臣又は経済産業大臣)が指定する緊急事態応急対策等拠点施設(以下「オフサイトセンター」という。)の整備又は維持に係る事業を行うものとされている。
オフサイトセンターは、上記のとおり、原子力災害対策特別措置法に基づき内閣総理大臣が指定することとなっており、原子力緊急事態(注1)発生時に、国、地方公共団体、原子力事業者等の原子力防災に係る関係者が集合して現地の応急対策等を講ずるための拠点となる施設であり、原子力事業者が原子炉の運転を行う施設や核燃料物質の加工等を行う事業所等(以下「原子力事業所」という。)が所在する道府県内に設置されている。そして、令和元年度末時点におけるオフサイトセンターの数は、16道府県内に所在する23か所となっている。
原子力規制委員会は、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(昭和32年法律第166号)及び原子力災害対策特別措置法の施行に関する事務を処理するなどのために、原子力事業所が所在する16道府県内に25か所の原子力規制事務所(同事務所の分室を含む。以下同じ。)を設置して、原子力発電施設等の保安検査、原子力防災のための取組、環境中の放射線監視等に関する業務を行っている。
そして、原子力規制委員会によると、原子力規制事務所の職員は、原子力緊急事態発生時にオフサイトセンターに緊急参集して初動対応に当たる必要があることなどから、可能な限りオフサイトセンター内に原子力規制事務所を設置することが合理的であるとしている。このため、上記25か所のうち20か所の原子力規制事務所については、13道府県(注2)及び2町村(注3)が地方自治法(昭和22年法律第67号)に定める行政財産として管理している20か所のオフサイトセンター内に設置されている。
上記の13道府県及び2町村は、当該地方公共団体以外の者に行政財産であるオフサイトセンターを使用させることになるため、原子力規制委員会に対して地方自治法に基づく行政財産の使用の許可(以下「使用許可」という。)を行って、各オフサイトセンターの一部を原子力規制事務所の事務室等として使用させている。
地方自治法によれば、普通地方公共団体は、使用許可を受けた者から使用料を徴収することができるとされており、使用料等に関する事項については条例で定めなければならないとされている。そして、行政財産の使用料(以下「行政財産使用料」という。)については、その行政財産の維持管理費等に充てられるべきものと解されている。また、地方財政法(昭和23年法律第109号)によれば、国が地方公共団体の財産等を使用するときは、当該地方公共団体の定めるところにより、国においてその使用料を負担しなければならないとされている。このため、各地方公共団体は、原子力規制委員会に対する使用許可に当たっては、オフサイトセンター内に設置された原子力規制事務所の使用に係る行政財産使用料(以下「事務所使用料」という。)について、徴収の要否を決定している。
また、各地方公共団体は、オフサイトセンターに係る光熱水費等のうち、原子力規制事務所が使用している分に相当する額について、実費負担として原子力規制委員会から徴収する場合がある。
前記のとおり、緊急事態応急対策等拠点施設整備事業は、オフサイトセンターの整備又は維持に係る事業を行うものとされている。
そして、平成30年4月に内閣府政策統括官(原子力防災担当)が定めた「原子力発電施設等緊急時安全対策交付金運用の手引き」(以下「手引」という。)によれば、緊急事態応急対策等拠点施設整備事業に係る交付金(以下「オフサイトセンターに係る交付金」という。)の交付の対象となる経費(以下「交付対象経費」という。)は、オフサイトセンターの電気設備、空調設備等の保守点検、建物清掃、修繕等の維持管理費、光熱水費、設備費等(以下、これらを合わせて「維持管理等経費」という。)とされている。また、オフサイトセンター内に原子力規制事務所が設置されていて、緊急事態応急対策等拠点施設整備事業に係る経費について、原子力規制委員会から前記光熱水費等の実費負担に相当する額を徴収している場合(以下、原子力規制委員会から徴収している光熱水費等の実費負担に相当する額を「分担金」という。)は、分担金とオフサイトセンターに係る交付金が重複して維持管理等経費に充当されることにならないように、維持管理等経費から分担金の徴収額を差し引いた額を交付対象経費とすることとなっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、オフサイトセンターに係る交付金の算定が適切なものとなっているかなどに着眼して、貴府が平成30、令和元両年度に、前記の13道府県及び2町村に交付(2町村分は県を介して間接交付)したオフサイトセンターに係る交付金計13億0788万余円を対象として、貴府及び6県(注4)において実績報告書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、13道府県及び2町村から調書等の提出を受けるなどして検査した。
(検査の結果)
前記のとおり、手引によれば、緊急事態応急対策等拠点施設整備事業に係る経費について原子力規制委員会から分担金を徴収している場合は、維持管理等経費から分担金の徴収額を差し引いた額を交付対象経費とすることとされている。このことを受けて、オフサイトセンター内に原子力規制事務所が設置されている前記の13道府県及び2町村は、オフサイトセンターに係る交付金の算定に当たり、分担金を維持管理等経費から差し引いて交付対象経費を算定していた。
また、10府県及び1村(注5)(年度別にみると、平成30年度は10府県及び1村、令和元年度は9県及び1村)は、分担金とは別に、当該地方公共団体の条例を適用して原子力規制委員会から事務所使用料を徴収していた。
そして、これら10府県及び1村のオフサイトセンターに係る交付金の算定における事務所使用料の取扱いの状況についてみたところ、5府県及び1村(年度別にみると、平成30年度は2府県及び1村、令和元年度は4県及び1村)では、事務所使用料に相当する額を維持管理等経費から差し引いて交付対象経費を算定している一方で、8県(注6)(同平成30年度8県、令和元年度5県)では、事務所使用料に相当する額を維持管理等経費から差し引くことなく交付対象経費を算定しており、その取扱いが区々となっていた(表参照)。
表 オフサイトセンターに係る交付金の算定における事務所使用料の取扱いの状況
区分 | 年度 | 事業主体数 | オフサイトセンター数 | 事務所使用料の徴収額(円) | 維持管理等経費から差し引いていた額(円) |
---|---|---|---|---|---|
維持管理等経費から事務所使用料を差し引いていたもの | 平成30 | 2府県、1村 | 4 | 3,515,667 | 3,515,667 |
令和元 | 4県、1村 | 5 | 3,841,111 | 3,841,111 | |
計 | 5府県、1村 | 7 | 7,356,778 | 7,356,778 | |
維持管理等経費から事務所使用料を差し引いていなかったもの | 平成30 | 8県 | 9 | 19,260,4278 | ― |
令和元 | 5県 | 6 | 16,524,279 | ― | |
計 | 8県 | 9 | 35,784,706 | ― | |
合計 | 10府県、1村 | 13 | 43,141,484 | 7,356,778 |
このように事務所使用料の取扱いが区々となっていたのは、上記の事務所使用料も分担金と同じように原子力規制委員会から徴収するものであり、地方公共団体の収入となるものであるのに、貴府が、手引において、オフサイトセンターに係る交付金を算定する際の事務所使用料の取扱い及び分担金との違いについて示していなかったことなどによると認められる。
しかし、行政財産使用料は、前記のとおり、その行政財産の維持管理費等に充てられるべきものと解されていることから、前記の10府県及び1村が原子力規制委員会から徴収した事務所使用料についても、使用許可の対象となったオフサイトセンターの維持管理等に要する経費の財源に充てるべき性格のものであり、オフサイトセンターに係る交付金の算定に当たっては、これを考慮する必要があると認められる。
そこで、原子力規制委員会から徴収した事務所使用料に相当する額を維持管理等経費から差し引くことなく交付対象経費を算定していた前記8県の平成30、令和元両年度におけるオフサイトセンターに係る交付金計4億1818万余円について、原子力規制委員会から徴収した事務所使用料に相当する額計3578万余円を維持管理等経費から差し引いたものとして算定すると、計3億8240万余円となり、3578万余円の開差を生ずることとなる。
なお、貴府は、前記のとおり、事務所使用料の取扱いについて手引では示していなかったが、2年1月に、15道府県、2町村及び1公益財団法人の全事業主体に対して、原子力規制委員会から事務所使用料を徴収した場合はこれを維持管理等経費から差し引くこととする旨の指示を行っていた。その結果、神奈川、愛媛、佐賀各県においては、元年度のオフサイトセンターに係る交付金の算定に当たり、原子力規制委員会から徴収した事務所使用料に相当する額を維持管理等経費から差し引いて交付対象経費を算定している状況となっていた。一方、貴府は、3年4月に手引を改正して、3年度のオフサイトセンターに係る交付金の算定における事務所使用料の取扱いに関して、原子力規制委員会から徴収している分担金に事務所使用料は含まないものとするとともに、上記手引の改正に先立ち同年2月に開催した原子力事業所が所在する道府県等を対象とした会議において、原子力規制委員会から徴収している事務所使用料については、これを維持管理等経費から差し引く必要がない旨を周知していた。
(改善を必要とする事態)
オフサイトセンターに係る交付金の算定に当たり、オフサイトセンターの一部について使用許可を行って原子力規制委員会から事務所使用料を徴収している場合に、事務所使用料に相当する額を維持管理等経費から差し引くことなく交付対象経費が算定されている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、一部の事業主体において、オフサイトセンターに係る交付金の算定に当たり、事務所使用料を徴収する場合の事務所使用料の取扱いについての理解が十分でないことにもよるが、貴府において、行政財産使用料の性格についての理解が十分でなく、原子力規制委員会から徴収した事務所使用料に相当する額については、その性格を考慮して、オフサイトセンターに係る交付金の算定において、これを維持管理等経費から差し引いて交付対象経費を算定する必要があることについて検討が十分に行われていないことなどによると認められる。
貴府は、原子力緊急事態が発生した際に現地の応急対策等を講ずるための拠点となるオフサイトセンターの整備又は維持に係る事業を実施する道府県等の事業主体に対して、今後も引き続きオフサイトセンターに係る交付金を交付することとしている。
ついては、貴府において、オフサイトセンターに係る交付金の算定が適切なものとなるよう、オフサイトセンターに係る交付金の算定に当たり、オフサイトセンターの一部について使用許可を行って原子力規制委員会から事務所使用料を徴収している場合には、事務所使用料に相当する額を維持管理等経費から差し引いて交付対象経費を算定する必要があることを手引に明示するなどして事業主体に周知するよう改善の処置を要求する。