総務省所管の補助事業は、地方公共団体等が事業主体となって実施するもので、同省は、この事業に要する経費について、直接又は間接に事業主体に対して補助金等を交付している。
同省は、電波法(昭和25年法律第131号)、無線システム普及支援事業費等補助金交付要綱(平成17年総基移第380号。以下「要綱」という。)等に基づき、公衆無線LAN環境の整備等を推進するために、地方公共団体等に対して無線システム普及支援事業費等補助金(公衆無線LAN環境整備支援事業)を交付している。
同補助金(公衆無線LAN環境整備支援事業)は、要綱等に基づき、防災の観点から、防災拠点(避難所・避難場所、官公署)での公衆無線LAN環境の整備を行うとともに、災害発生時の情報伝達手段確保のため、被災場所として想定され、災害対応の強化が望まれる公的な拠点(博物館、文化財、自然公園等)における公衆無線LAN環境の整備を行う地方公共団体等に対して、その費用の一部を国が補助するものである。
島根県益田市は、平成30、令和元両年度に、上記補助金の交付対象である公衆無線LAN環境整備支援事業として、公衆無線LANに係る無線アクセス装置、送受信機等(以下「無線アクセス装置等」という。)の購入、設置等を事業費13,431,908円(補助対象事業費7,686,021円、国庫補助金交付額5,124,000円)で実施している。
同市は、本件補助事業の実施に当たり、既存の光ファイバー網を活用して公衆無線LAN環境のネットワークを構築するために、無線アクセス装置等の親機等(以下「親機等」という。)を市役所本庁舎分館情報管理棟(以下「情報管理棟」という。)の既設の収容架(以下「既設収容架」という。)の中に設置し、同市内の指定避難場所等となっている総合支所等の7か所の施設にそれぞれ無線アクセス装置等の子機等(以下「子機等」という。)を設置している。
要綱等によれば、本件補助事業の実施に当たっては、事業主体の実情に応じ、「建築設備耐震設計・施工指針」(独立行政法人建築研究所監修。以下「耐震設計指針」という。)等を参照し、設備機器等の設置に当たって活用可能な基準等を用いて、所定の方法に基づく耐震設計の実施等により、災害時に必要な設備機器等が利用できるよう対応する必要があるとされている。そして、地方公共団体等が実施する設備機器の設置工事における技術上の指針として広く使用されている耐震設計指針によれば、設備機器の耐震施工については、アンカーボルトを用いて鉄筋コンクリートの床等に固定することを原則とするとされている。
本院は、有効性等の観点から、無線アクセス装置等が災害時に所要の機能を発揮できるよう、適切に設置されているかなどに着眼して、同市において、実績報告書等の書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
同市は、本件補助事業の実施に当たり、前記のとおり、情報管理棟内にある既設収容架に親機等を設置することにしていた。そして、同市は、既設収容架は実際には床に固定されていなかったのに、アンカーボルトにより床に固定され、また、これにより耐震性が確保されていると誤認していたため、親機等を既設収容架に設置するなどの業務の発注に当たって、請負業者に対して耐震対策に関する特段の指示を行わなかった。このため、請負業者は、既設収容架に親機等を収容するに当たって既設収容架をアンカーボルトを用いて鉄筋コンクリートの床に固定するなどの耐震対策を行っていなかった。その結果、親機等は、地震時に既設収容架が転倒するなどして損傷するおそれがあり、地震時において情報を伝達する機能が確保されず、親機等を経由してインターネット通信を行う子機等についても同様の機能が確保されない状態となっていた。
したがって、本件補助事業により整備された無線アクセス装置等(補助対象事業費7,686,021円)については、親機等を設置する既設収容架の耐震対策が行われていなかったため、地震時において情報を伝達する機能が確保されていない状態となっていて、補助の目的を達しておらず、これらに係る国庫補助金5,124,000円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、同市において、本件補助事業の実施に当たり、既設収容架の耐震対策の確認が十分でなかったことなどによると認められる。