源泉所得税、申告所得税、法人税、相続税・贈与税、消費税等の国税については、法律により、納税者の定義、納税義務の成立の時期、課税する所得の範囲、税額の計算方法、申告の手続、納付の手続等が定められている。
納税者は、納付すべき税額を税務署に申告して納付することなどとなっている。国税局等又は税務署は、納税者が申告した内容が適正であるかについて申告審理を行い、必要があると認める場合には調査等を行っている。そして、確定した税額は、税務署が徴収決定を行っている。
令和2年度国税収納金整理資金の各税受入金の徴収決定済額は82兆4540億余円となっている。このうち源泉所得税及復興特別所得税(注1)は18兆9725億余円、申告所得税及復興特別所得税(以下「申告所得税」という。)は3兆5569億余円、法人税は13兆4712億余円、相続税・贈与税は2兆4978億余円、消費税及地方消費税(以下「消費税等」という。)は34兆7720億余円となっていて、これら各税の合計額は73兆2706億余円となり、全体の88.8%を占めている。
本院は、上記の各税に重点をおいて、合規性等の観点から、課税が法令等に基づき適正に行われているかに着眼して、全国の12国税局等及び524税務署のうち3国税局等及び38税務署において、申告書等の書類により会計実地検査を行うとともに、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)に基づき、上記の524税務署から提出された証拠書類等により検査した。そして、適正でないと思われる事態があった場合には、国税局等及び税務署に調査等を求めて、その調査等の結果の内容を確認するなどの方法により検査した。
検査の結果、42税務署において、納税者52人から租税を徴収するに当たり、徴収額が、52事項計154,923,900円(平成25年度から令和2年度まで)不足していて、不当と認められる。
これを、税目別に示すと表のとおりである。
表 税目別の徴収不足額等
税目 |
事項数 | 徴収不足額 |
---|---|---|
円 | ||
申告所得税 |
14 | 43,811,200 |
法人税 |
21 | 50,855,900 |
相続税・贈与税 | 3 | 13,893,100 |
消費税 |
14 | 46,363,700 |
計 | 52 | 154,923,900 |
なお、これらの徴収不足額については、本院の指摘により、全て徴収決定の処置が執られた。
このような事態が生じていたのは、前記の42税務署において、納税者が申告書等において所得金額や税額等を誤っているのに、これを見過ごしたり、法令等の適用の検討が十分でなかったり、課税資料の収集及び活用が的確でなかったりしたため、誤ったままにしていたことによると認められる。
この52事項について、申告所得税、法人税、相続税・贈与税及び消費税の別に、その主な態様を示すと次のとおりである。
申告所得税に関して徴収不足になっていた事態が14事項あった。この内訳は、譲渡所得に関する事態が6事項、不動産所得に関する事態が6事項及びその他に関する事態が2事項である。
個人が資産を譲渡した場合には、その総収入金額から譲渡した資産の取得費や譲渡に要した費用の額等を差し引いた金額を譲渡所得として、他の各種所得と総合して課税することとなっている。ただし、土地建物等の譲渡による所得については、他の所得と分離して課税すること(以下「分離課税」という。)となっている。そして、譲渡した土地建物等の所有期間が、譲渡した年の1月1日において5年を超えていたかどうかによって長期譲渡所得と短期譲渡所得に区分し、長期譲渡所得の金額に100分の15の税率を又は短期譲渡所得の金額に100分の30の税率を乗ずるなどして税額を計算することとなっている。
この譲渡所得に関して、徴収不足になっていた事態が6事項計19,940,900円あった。その主な内容は、分離課税の長期譲渡所得と短期譲渡所得の区分を誤っているのに、これを見過ごしたため、譲渡所得の税額を過小のままとしていたものである。
個人が不動産を貸し付けた場合には、その総収入金額から必要経費等を差し引いた金額を不動産所得として、他の各種所得と総合して課税することとなっている。そして、個人が、不動産所得について、収入、経費の各項目の金額に消費税等を含めた経理を行っている場合には、不動産所得の計算上、経費に係る消費税等の額が収入に係る消費税等の額を上回るときに生ずる消費税等の還付金を総収入金額に算入することとなっている。
この不動産所得に関して、徴収不足になっていた事態が6事項計19,174,800円あった。その主な内容は、収入、経費の各項目の金額に消費税等を含めた経理を行っている場合の消費税等の還付金を総収入金額に算入していないのに、税務署において課税資料の収集及び活用が的確でなかったため、不動産所得の金額を過小のままとしていたものである。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1> 消費税等の還付金を総収入金額に算入していなかった事態
納税者Aは、平成28年分の申告に当たり、不動産所得の総収入金額を24,292,163円とし、この金額の中に消費税等の還付金はないとしていた。そして、この金額から必要経費等を差し引き不動産所得の金額を2,996,012円としていた。
しかし、納税者Aは不動産所得に係る収入、経費の各項目の金額に消費税等を含めた経理を行っており、また、28年4月及び同年7月に納税者Aに対して消費税等の還付金計14,268,407円が支払われていた。したがって、この消費税等の還付金を不動産所得の総収入金額に算入するなどすると、不動産所得の金額は16,166,777円となり、13,170,765円過小となっているのに、税務署において課税資料の収集及び活用が的確でなかったなどのため、申告所得税額3,817,000円が徴収不足になっていた。
(ア)及び(イ)のほか、所得控除等に関して、徴収不足になっていた事態が2事項計4,695,500円あった。
法人税に関して徴収不足になっていた事態が21事項あった。この内訳は、交際費等の損金不算入に関する事態が8事項、受取配当等の益金不算入に関する事態が6事項及びその他に関する事態が7事項である。
法人が支出する交際費等の額のうち接待飲食費の額の100分の50に相当する金額を超える部分の金額は、所得の金額の計算上、損金の額に算入しないこととなっている。ただし、法人(投資法人及び特定目的会社を除く。)のうち事業年度終了の日における資本金の額又は出資金の額(資本又は出資を有しない法人その他特定の法人にあっては所定の方法で計算した金額(以下「資本相当額」という。))が1億円以下であるもの(大法人との間にその大法人による完全支配関係があるなどの法人を除く。)については、上記の計算に代えて、交際費等の額のうち800万円に事業年度の月数を乗じてこれを12で除して計算した金額(以下「定額控除限度額」という。)を超える部分の金額を損金不算入額とし、交際費等の額が定額控除限度額以下である場合は損金不算入額を0円とすることができることとなっている。そして、資本又は出資を有しない法人の資本相当額は、事業年度終了の日における貸借対照表に計上されている総資産の帳簿価額から総負債の帳簿価額を控除するなどした金額の100分の60に相当する金額等とすることとなっている。
この交際費等の損金不算入に関して、徴収不足になっていた事態が8事項計12,754,900円あった。その内容は、資本又は出資を有しない医療法人が、資本相当額が1億円以下である場合の規定を適用して、交際費等の額が定額控除限度額以下であることから損金不算入額はないとしていたが、資本相当額を計算すると1億円を超えるため、交際費等の額のうち接待飲食費の額の100分の50に相当する金額を超える部分の金額が損金不算入額となるのに、これを見過ごしたため、所得の金額を過小のままとしていたものである。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2> 交際費等の損金不算入額の計算を誤っていた事態
医療法人Bは、平成28年6月から令和元年5月までの3事業年度分の申告に当たり、支出する交際費等の額平成29年5月期分7,955,769円、30年5月期分7,983,438円及び令和元年5月期分7,975,189円が各期とも定額控除限度額以下であるとして交際費等の損金不算入額はないとしていた。
しかし、医療法人Bは、資本又は出資を有しない法人に該当し、医療法人Bの貸借対照表等に基づいて資本相当額を計算すると各期とも1億円を超えるため、上記各期の交際費等の額のうち接待飲食費の額の100分の50に相当する金額平成29年5月期分972,419円、30年5月期分1,702,224円及び令和元年5月期分2,114,855円を超える部分の金額平成29年5月期分6,983,350円、30年5月期分6,281,214円及び令和元年5月期分5,860,334円が交際費等の損金不算入額となるのに、これを見過ごしたため、法人税額平成29年5月期分1,634,300円、30年5月期分1,470,000円及び令和元年5月期分1,359,500円、計4,463,800円が徴収不足になっていた。
法人が他の内国法人から受ける配当等の金額等については、原則として、その全額を基に所定の方法により計算した金額を所得の金額の計算上、益金の額に算入しないこととなっている。ただし、法人が有する当該他の内国法人の株式等が、非支配目的株式等等(注2)に該当する場合においては、配当等の額の100分の20相当額を、その他株式等(注3)に該当する場合においては、配当等の額の100分の50相当額をそれぞれ益金不算入の対象とすることとなっている。
また、法人が他の内国法人から受ける特定株式投資信託以外の証券投資信託の収益の分配金等については、その全額が受取配当等の益金不算入の対象とならないこととなっている。
この受取配当等の益金不算入に関して、徴収不足になっていた事態が6事項計24,966,100円あった。その内容は、次のとおりである。
a 非支配目的株式等に係る配当等の額をその他株式等に係る配当等の額としていて受取配当等の益金不算入額を過大に計上しているのに、これを見過ごしたため、所得の金額を過小のままとしていた。
b 受取配当等の益金不算入の対象とならない証券投資信託の収益の分配金を受取配当等の益金不算入の対象としているのに、これを見過ごしたため、所得の金額を過小のままとしていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例3> 受取配当等の益金不算入の対象とならない証券投資信託の収益の分配金を受取配当等の益金不算入の対象としていた事態
C信用金庫は、平成28年4月から31年3月までの3事業年度分の申告に当たり、その他株式等に係る受取配当等の額の100分の50相当額と非支配目的株式等に係る受取配当等の額の100分の20相当額との合計額29年3月期分94,356,003円、30年3月期分145,692,893円及び31年3月期分165,584,648円を受取配当等の益金不算入額としていた。
しかし、C信用金庫の法人税の申告書の受取配当等に関する資料等によれば、上記非支配目的株式等に係る受取配当等の額には、受取配当等の益金不算入の対象とならない証券投資信託の収益の分配金が含まれていたことから、当該事業年度分の所得の金額が過小となっているのに、これを見過ごしたため、法人税額29年3月期分1,659,400円、30年3月期分3,504,900円及び31年3月期分4,536,200円、計9,700,500円が徴収不足になっていた。
(ア)及び(イ)のほか、法人税額の特別控除等に関して、徴収不足になっていた事態が7事項計13,134,900円あった。
相続税・贈与税に関して徴収不足になっていた事態が3事項あった。この内訳は、相続税については、相続税額の加算に関する事態が1事項及びその他に関する事態が1事項、贈与税については、有価証券の価額に関する事態が1事項である。
個人が相続又は遺贈により財産を取得した場合には、その取得した財産に対して相続税を課することとなっている。そして、財産を取得した者が被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の者である場合には、所定の方法により計算した金額にその100分の20に相当する金額を加算するなどした金額をその者の相続税額とすることとなっている。
この相続税額の加算に関して、徴収不足になっていた事態が1事項3,263,900円あった。その内容は、相続により財産を取得した者が被相続人の兄であり、一親等の血族及び配偶者以外の者であるため、相続税額を加算する必要があるにもかかわらず上記の加算をしていないのに、これを見過ごしたため、相続税額を過小のままとしていたものである。
aのほか、土地建物等の価額に関して、徴収不足になっていた事態が1事項1,000,700円あった。
個人が贈与により有価証券を取得した場合には、その取得した有価証券に対して贈与税を課することとなっており、取得した有価証券の価額は、贈与により取得した時の時価とすることとなっている。そして、取得した有価証券のうち取引相場のない株式の価額については、評価しようとするその株式の発行会社(以下「評価会社」という。)の総資産価額、従業員数等によって評価会社を大会社、中会社又は小会社に区分し、この区分に応じて定められた方式により計算した金額によって評価することとなっている。このうち、大会社に該当する評価会社の株式については、類似業種比準価額(注4)を用いた算式により計算した金額によって評価することとなっている。ただし、納税者の選択により、評価会社の各資産の相続税評価額の合計額から各負債の相続税評価額の合計額を差し引いた純資産価額(以下「相続税評価額による純資産価額」という。)を基にして計算した金額によって評価することができることとなっている。
この有価証券の価額に関して、徴収不足になっていた事態が1事項9,628,500円あった。その内容は、取引相場のない株式の価額について、大会社に該当する評価会社の株式の評価に当たり、負債を過大に計算していたため相続税評価額による純資産価額が過小となっているなどしているのに、税務署において法令等の適用の検討が十分でなかったため、株式の価額を過小のままとしていたものである。
消費税に関して徴収不足になっていた事態が14事項あった。これらは、課税仕入れに係る消費税額の控除に関する事態である。
事業者は、課税期間(注5)における課税売上高に対する消費税額から課税仕入れに係る消費税額を控除した額を消費税として納付することとなっている。そして、課税売上高に対する消費税額から控除する課税仕入れに係る消費税額は、一定の要件に該当して全額控除できる場合を除き、課税仕入れに係る消費税額等の合計額に課税売上割合(非課税売上高等を含めた総売上高に占める課税売上高の割合。以下同じ。)を乗ずるなどして計算することとなっている。
この課税仕入れに係る消費税額の控除に関して、徴収不足になっていた事態が14事項計46,363,700円あった。その主な内容は、非課税売上高である土地の譲渡収入等を総売上高に含めないで課税売上割合を計算しているのに、これを見過ごしたため、課税仕入れに係る消費税額の控除額を過大のままとしていたものである。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例4> 課税仕入れに係る消費税額の控除額の計算を誤っていた事態
D会社は、平成29年5月から30年4月までの課税期間分の申告に当たり、課税売上割合を99.32%としていた。
しかし、D会社の法人税の申告書に添付された書類等によれば、非課税売上高である土地の譲渡収入があり、これを総売上高に含めて適正な課税売上割合を計算すると83.24%となり、課税仕入れに係る消費税額の控除額は、同割合に基づくなどして計算すべきであるのに、これを見過ごしたため、消費税額12,532,400円が徴収不足になっていた。
これらの徴収不足額を国税局等別に示すと次のとおりである。
国税局等 | 税務署数 | 申告所得税 | 法人税 |
相続税
贈与税 |
消費税 |
計 | |||||||||
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事項数 |
徴収不足
|
事項数 |
徴収不足
|
事項数 |
徴収不足
|
事項数 |
徴収不足
|
事項数 |
徴収不足
|
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千円 | 千円 | 千円 | 千円 | 千円 | |||||||||||
札幌国税局 | 2 | 1 | 1,553 | 2 | 2,744 | 3 | 4,297 | ||||||||
仙台国税局 | 2 | 2 | 7,641 | 2 | 7,641 | ||||||||||
関東信越国税局 | 5 | 2 | 3,338 | 2 | 3,443 | 1 | 9,628 | 2 | 9,958 | 7 | 26,368 | ||||
東京国税局 | 17 | 8 | 31,009 | 9 | 15,044 | 2 | 4,264 | 4 | 20,542 | 23 | 70,861 | ||||
名古屋国税局 | 4 | 2 | 4,767 | 1 | 9,700 | 2 | 3,372 | 5 | 17,840 | ||||||
大阪国税局 | 5 | 4 | 8,456 | 1 | 1,860 | 5 | 10,316 | ||||||||
高松国税局 | 1 | 1 | 552 | 1 | 552 | ||||||||||
福岡国税局 | 2 | 2 | 4,695 | 2 | 4,695 | ||||||||||
熊本国税局 | 3 | 3 | 7,886 | 3 | 7,886 | ||||||||||
沖縄国税事務所 | 1 | 1 | 4,463 | 1 | 4,463 | ||||||||||
計 | 42 | 14 | 43,811 | 21 | 50,855 | 3 | 13,893 | 14 | 46,363 | 52 | 154,923 |