貨幣回収準備資金(以下「資金」という。)は、貨幣回収準備資金に関する法律(平成14年法律第42号。以下「資金法」という。)に基づき、政府による貨幣の発行、引換え及び回収(注)(以下、引換え及び回収を「回収」という。)の円滑な実施を図り、もって貨幣に対する信頼の維持に資することを目的として設置されている。
資金法によれば、資金は、一般会計の所属とし、財務大臣が管理することとされ、その受払いは歳入歳出外とすることとされている。また、回収した貨幣は、地金の時価で資金に編入して保有することとされている。そして、資金の増減及び現在額計算書によると、令和元年度末の資金に属する地金(以下「資金地金」という。)の額は2791億9464万余円となっている。
資金法等によれば、資金地金は、財務大臣の定めるところにより、貨幣の製造に要する地金として独立行政法人造幣局に交付することができることとされている。また、資金に属する現金に不足が生じた場合やその他必要がある場合には、資金地金を売り払うことができることとされ、資金地金を売り払った場合、売払代金を資金に受け入れるなどすることとされている。そして、その他必要がある場合とは、財務省によれば、資金地金の効率的な管理の観点から、貨幣の製造材料として使用する見込みがないなど資金地金を売り払うことが適当な場合としている。
また、資金法によれば、毎会計年度末における資金の額が貨幣回収準備資金に関する法律施行令(平成15年政令第19号。以下「政令」という。)で定める額を超えるときは、その超える額に相当する金額を一般会計に繰り入れることとされている。そして、政令で定める額は、毎会計年度末における、貨幣の流通額の100分の5に相当する金額、日本銀行の保管に係る貨幣の額面額に相当する金額及び資金地金の価額に相当する金額の合計額とすることとされている。
したがって、資金地金を売り払った結果、年度末における資金の額が政令で定める額を超えるときは、その超える額に相当する金額が一般会計へ繰り入れられることとなる。
資金において保有している金地金は、通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律(昭和62年法律第42号)等に基づき、国家的な記念事業として発行される貨幣(以下「記念貨幣」という。)の製造材料として使用されている。
そして、物品管理簿等には、資金地金の種類ごとに、回収量、交付量及び保有量並びにそれぞれの価格(以下、物品管理簿等に記録された価格を「帳簿価額」という。)等が計上されていて、元年度末の資金における金地金の保有量は129.49t、帳簿価額は2567億0889万余円となっている。
また、財務省によれば、貨幣の製造材料として使用する資金地金のうち、アルミニウム、青銅等の地金は、貨幣の製造材料として使用する見込みがないなど資金地金を売り払うことが適当な場合において市中に売り払っているものの、金地金は、売り払った実績は確認できないとしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
前記のとおり、元年度末の資金における金地金の保有量は129.49t、帳簿価額は2567億0889万余円となっており、資金地金の額2791億9464万余円の約92%と大部分を占めている。
そこで、本院は、効率性、有効性等の観点から、金地金の保有量が、回収量、交付量等に照らして過大なものとなっていないかなどに着眼して、元年度末時点の資金における金地金の保有量129.49t、帳簿価額2567億0889万余円を対象に検査した。検査に当たっては、財務本省において、物品管理簿等の関係資料を確認したり、金地金の保有量等について見解を徴したりするなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
財務省では、これまでの金地金の保有量等について、過去の記念貨幣の発行状況等から勘案して、極端に過大なものであるとは考えていないとしていた。
また、財務省によると、これまでに金地金の売払いの可否について検討した結果、①市中への売払いについては、市場関係者にヒアリングした結果に基づいて、市場における金取引価格に影響を与えるおそれがあること、②市中以外への売払いについては、外貨準備として金地金を保有している外国為替資金特別会計(以下「外為特会」という。)への売払いの可否を外為特会を管理する財務省国際局に問い合わせた結果、外為特会が政府短期証券の発行を通じて調達する円資金は外国為替平衡操作等を行うためのものであり、金地金の購入といった平時の運用を目的とした円資金の調達のために政府短期証券を発行することはできないなどとしていることなどから売払いは困難であるとしていた。
しかし、金地金の回収量、交付量及び保有量について、物品管理簿等で把握可能な平成26年度から令和元年度までの6年間の状況を確認したところ、表1のとおり、回収量は最小で1.25t(元年度)、最大で1.95t(平成26年度)となっていて毎年度回収しているのに対して、交付量は0.70t(26年度)、1.78t(30年度)及び1.62t(令和元年度)となっていて交付していない年度もあり、その結果、元年度末の保有量は、平成26年度当初の124.95tから4.54t増加し、129.49tとなっていた。そして、交付量は6年間のうち30年度の1.78tが最多となっていて、令和元年度末保有量129.49tは、同交付量の72.7倍と相当程度多くなっていた。
表1 平成26年度から令和元年度までの間の金地金の回収量、交付量及び保有量 (単位:t)
区分 | 平成26年度 | 27年度 | 28年度 | 29年度 | 30年度 | 令和元年度 |
---|---|---|---|---|---|---|
年度当初保有量 | 124.95 | 126.20 | 127.67 | 129.08 | 130.37 | 129.87 |
回収量 | 1.95 | 1.46 | 1.41 | 1.29 | 1.28 | 1.25 |
交付量 | 0.70 | ― | ― | ― | 1.78 | 1.62 |
年度末保有量 | 126.20 | 127.67 | 129.08 | 130.37 | 129.87 | 129.49 |
また、金地金を製造材料として使用する記念貨幣が初めて発行された昭和61年から令和2年までの間の金地金の使用量等について、財務省のウェブサイト等で確認したところ、表2のとおりとなっていて、金地金の使用量(計算値)は、昭和61年に200tを使用した以降平成5年までに年間数十tを超える年もあったものの、9年以降の記念貨幣の発行は、額面価格と同額で引換えを行う方法から、額面価格を超える価格で販売される方法に変更されているなどしていて、5年以前と比べて少なくなっていた。
表2 記念貨幣における金地金の使用量等
年 | 記念貨幣名 | 額面価格 | 引換価格 及び 販売価格 注(2) |
発行枚数 (A) |
記念貨幣1 枚当たりの 量目 (B) |
金地金の使用 量(計算値) (A×B) 注 (3) |
昭和61 | 天皇陛下御在位60年 | 100,000円 | 100,000円 | 1,000万枚 | 20.0g | 200.00t |
62 | 天皇陛下御在位60年 | 100,000円 | 100,000円 | 100万枚 | 20.0g | 20.00t |
平成2 | 天皇陛下御即位 | 100,000円 | 100,000円 | 200万枚 | 30.0g | 60.00t |
5 | 皇太子殿下御成婚 | 50,000円 | 50,000円 | 200万枚 | 18.0g | 36.00t |
9、10 | 長野オリンピック冬季競技大会(第1次~第3次) | 10,000円 | 38,737円 | 16.5万枚 | 15.6g | 2.57t |
11 | 天皇陛下御在位10年 | 10,000円 | 41,000円 | 20万枚 | 20.0g | 4.00t |
14 | 2002FIFAワールドカップ | 10,000円 | 40,000円 | 10万枚 | 15.6g | 1.56t |
16 | 2005年日本国際博覧会 | 10,000円 | 40,000円 | 7万枚 | 15.6g | 1.09t |
21 | 天皇陛下御在位20年 | 10,000円 | 80,000円 | 10万枚 | 20.0g | 2.00t |
27 | 東日本大震災復興事業(第1次~第4次) | 10,000円 | 95,000円 | 4.5万枚 | 15.6g | 0.70t |
平成30 令和元、2 |
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(第1次、第3次及び第4次) | 10,000円 | 111,112円 | 12.3万枚 | 15.6g | 1.91t |
平成31 | 天皇陛下御在位30年 | 10,000円 | 127,778円 | 5万枚 | 20.0g | 1.00t |
31 | ラグビーワールドカップ2019日本大会 | 10,000円 | 111,112円 | 1万枚 | 15.6g | 0.15t |
令和元 | 天皇陛下御即位 | 10,000円 | 127,778円 | 5万枚 | 20.0g | 1.00t |
以上のように、資金における金地金の令和元年度末保有量129.49tは、6年間の回収量、交付量等と比べると相当程度多くなっていること、金地金の使用量(計算値)は、平成9年以降は5年以前と比べて少なくなっていたことなどから、令和元年度末保有量の中には記念貨幣の製造材料として使用する見込みがない金地金が含まれると認められるのに、このような金地金を保有し続けていた事態は適切ではなく、引き続き売払いなどの活用の検討に努めるなど、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、財務省において、資金が保有している金地金の保有量が極端に過大なものとは認識していない中、2年7月の会計実施検査時点までの検討において金地金を売り払うなどの活用手段を見い出せないまま保有し続けていたことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、財務省は、資金における金地金の元年度末保有量129.49tについて、売り払う余地があるとして、2年7月以降、市場関係者、財務省国際局等へ問い合わせるなどして改めて活用を検討した。そして、財務省は、市中の金取引価格に不測の影響を与えず、政府が保有する金を海外に流出させないとの考え方の下、外為特会において円資金の手当てが可能な状況となったことを確認し、今後の記念貨幣の製造に必要となる金地金の保有量を見極めた上で次のような処置を講じた。
ア 記念貨幣の製造材料として使用する見込みがなく売り払うことが適当と認めるなどした金地金の数量80.76t、帳簿価額1601億9776万余円について、3年3月に、外為特会に売り払って売払代金5420億3148万余円を資金に受け入れ、同額を一般会計に繰り入れた。
イ 資金における金地金の保有量については、これまでの経緯を踏まえ、必要量の随時見直しを図り、記念貨幣の製造材料として使用する見込みがない金地金が生ずると判断した場合には、改めて、売払いを検討するなどして活用を図ることとした。