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  • 令和2年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第5 文部科学省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

国立大学法人における国費外国人留学生の教育費に係る会計処理について統一的な取扱いを明らかにしてその旨を周知することにより、国立大学法人間における会計情報の比較可能性の確保が図られるよう改善させたもの


科目
損益計算書
経常費用
業務費
教育経費
経常収益
授業料収益
部局等
文部科学本省
検査の対象
文部科学本省、13国立大学法人
国立大学法人における国費外国人留学生の教育費の概要
国費外国人留学生の授業料、入学料、検定料等で、国立大学に入学する場合には徴収しないとされているもの
会計情報の比較可能性が損なわれていた13国立大学法人における国費外国人留学生の授業料相当額
44億9243万円(背景金額)(平成30、令和元両年度)

1 国費外国人留学生制度等の概要

(1)国費外国人留学生の教育費の概要

文部科学省は、我が国において研究を行うことを通じて、我が国と自国との架け橋となり、両国ひいては世界の発展に貢献するような人材を育成することなどを目的として、国費外国人留学生制度を昭和29年に創設している。そして、日本の国費による外国人留学生(以下「国費外国人留学生」という。)の受入れに必要な事項を定めた国費外国人留学生制度実施要項(昭和29年文部大臣裁定。以下「要項」という。)を制定している。要項によれば、国費外国人留学生が、国立大学に入学する場合には授業料、入学料、検定料等(以下、これらを合わせて「教育費」という。)を徴収しないとされている。

(2)国立大学法人における損益計算書等の作成と会計基準等の概要

国立大学法人等は、国立大学法人法(平成15年法律第112号)によれば、毎事業年度、貸借対照表、損益計算書、利益の処分又は損失の処理に関する書類その他文部科学省令で定める書類及びこれらの附属明細書を作成して、当該事業年度の終了後3月以内に文部科学大臣に提出し、その承認を受けなければならないとされている。国立大学法人法施行規則(平成15年文部科学省令第57号)によれば、国立大学法人等の会計については、国立大学法人会計基準(平成16年文部科学省告示第37号。以下「会計基準」という。)に従うこととされている。また、国立大学法人の会計に関する認識、測定、表示及び開示の基準を定める「「国立大学法人会計基準」及び「国立大学法人会計基準注解」報告書」(平成15年3月国立大学法人会計基準等検討会議。以下「会計基準注解」という。)によれば、国立大学法人等は教育研究に係る国の業務の実施に関して負託された経済資源に関する情報を負託主体である国民に開示する責任を負っており、説明責任の観点から、その財政状態及び運営状況を明らかにして、適切に情報開示を行うことが要請されるなどとされている。

また、会計基準注解によれば、国立大学法人等は、多数の法人が同種の業務を行うため、国立大学法人等の間における会計情報の比較可能性の確保を強く要請されることから、その会計処理の原則及び手続に関する選択性は原則として排除されるとされている。そして、会計基準注解に関して、実務上の留意点を質疑応答形式で記述した「「国立大学法人会計基準」及び「国立大学法人会計基準注解」に関する実務指針」(平成15年7月国立大学法人会計基準等検討会議。以下「実務指針」という。)によれば、上記の「会計処理の原則及び手続に関する選択性は原則として排除される」ことに関する具体的な説明として、教育・研究の基礎を形成する事項を含めた国立大学法人等の「基本構造に関する原則」については選択適用は認められないとされており、また、「教育・研究の基礎を形成する事項」として、授業料債務(注1)や図書の計上等が挙げられている。

(注1)
授業料債務  国立大学法人等が当該年度に係る授業料を受領したときは、相当額を授業料債務として整理することとされ、中期目標の期間中は原則として業務の進行が期間の進行に対応するものとして収益化を行うものなどとされている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

会計基準等によれば、国立大学法人等の会計情報については、その比較可能性の確保が強く要請されることから、授業料債務等に係る会計処理に関しては選択適用は認められないとされている。

そこで、本院は、正確性等の観点から、各国立大学法人における国費外国人留学生の教育費に係る会計処理は適切に行われているか、会計情報の比較可能性は確保されているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、13国立大学法人(注2)の平成30年度及び令和元年度の損益計算書等を対象として、文部科学本省及び13国立大学法人において、国費外国人留学生の教育費に係る会計処理を関係書類等により確認するなどして会計実地検査を行った。

(注2)
13国立大学法人  北海道大学、東北大学、東京大学、東京工業大学、横浜国立大学、名古屋大学(令和2年4月1日以降は東海国立大学機構)、京都大学、大阪大学、岡山大学、山口大学、愛媛大学、九州大学、熊本大学の各国立大学法人

(検査の結果)

検査したところ、国費外国人留学生の教育費のうち授業料を除く入学料、検定料等に係る会計処理については13国立大学法人全てで収益及び費用のどちらにも計上しないこととしていたが、授業料に係る会計処理については、次のとおりとなっていた。

10国立大学法人(注3)の国費外国人留学生の在籍者数(各年の5月1日現在。以下同じ。)は、平成30年度3,849人、令和元年度3,819人となっていた。そして、10国立大学法人は、要項において、国費外国人留学生の授業料は徴収しないとなっていることから、授業料に係る債権は発生しないとして、国費外国人留学生の授業料相当額を損益計算書の収益及び費用のどちらにも計上しないこととしていた。すなわち、国費外国人留学生の授業料相当額、平成30年度は19億3728万余円、令和元年度は19億4632万余円、計38億8361万余円を、それぞれ平成30年度及び令和元年度の損益計算書の収益及び費用に計上していなかった。

一方、3国立大学法人(注4)の国費外国人留学生の在籍者数は、平成30年度597人、令和元年度597人となっていた。そして、3国立大学法人は、国費外国人留学生の授業料は徴収する必要はないものの、国費外国人留学生に対しても一般の学生と同様に教育サービスを提供する義務を負うことから授業料債務等を計上する必要があるなどとして、実務指針に記載されている一般の学生の授業料免除に係る会計処理に準じて、損益計算書の収益及び費用の両方に授業料相当額を計上することとしていた。すなわち、国費外国人留学生の授業料相当額、平成30年度は3億0902万余円、令和元年度は2億9979万余円、計6億0882万余円を、それぞれ平成30年度及び令和元年度の損益計算書の収益に授業料収益として、同額を奨学費として費用に計上していた。

したがって、実務指針において「基本構造に関する原則」について選択適用は認められないとされているのに、前記の10国立大学法人と上記の3国立大学法人とでは、「基本構造に関する原則」に含まれる「教育・研究の基礎を形成する事項」に該当する授業料に係る会計処理が異なっていて統一的に取り扱われていなかった。

このように、13国立大学法人における国費外国人留学生の授業料相当額、平成30年度は22億4630万余円、令和元年度は22億4612万余円、計44億9243万余円について、国立大学法人間における会計情報の比較可能性が損なわれている状況となっている事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(注3)
10国立大学法人  北海道大学、東北大学、東京大学、東京工業大学、横浜国立大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、山口大学、愛媛大学の各国立大学法人
(注4)
3国立大学法人  岡山大学、九州大学、熊本大学の各国立大学法人

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、文部科学省において、各国立大学法人に対して国費外国人留学生の授業料に係る会計処理について統一的な取扱いを明らかにしていなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、文部科学省は、各国立大学法人に対して、国立大学法人間における会計情報の比較可能性の確保が図られるよう、国費外国人留学生の教育費に係る会計処理について3年9月に事務連絡を発し、国費外国人留学生の教育費については、債権が発生しないと考えられるため、収益と費用のどちらにも計上しない統一的な取扱いとすることを明らかにしてその旨を周知する処置を講じた。