厚生労働本省(以下「本省」という。)は、平成27年度から令和元年度までの各年度に女性就業支援全国展開事業及び母性健康管理推進支援事業を、また、平成29年度から令和元年度までの各年度に中小企業のための女性活躍推進事業を、それぞれ総合評価落札方式による一般競争契約により、一般財団法人女性労働協会(以下「協会」という。)に委託して実施している。
女性就業支援全国展開事業は、女性の就業促進と健康保持増進のための支援施策の全国的な充実を図ることなどを目的として、女性関連施設や労使団体へ講師を派遣したり、働く女性の健康保持や女性が働く上で役に立つ情報を発信したりなどするものである。母性健康管理推進支援事業は、働く女性の妊娠中及び出産後の母性健康管理の推進を図ることを目的として、母性健康管理専用サイトを運営することなどにより事業主等に対して情報提供を行ったり、研修を行ったりするものである。
また、中小企業のための女性活躍推進事業は、中小企業における女性の活躍推進の取組の加速化を図ることを目的として、女性の活躍推進に係る説明会を開催したり、個別企業訪問による中小企業の女性活躍の取組の支援を行ったりなどするものである。
各委託事業の委託契約によれば、本省は、委託事業が終了して、協会から精算報告書の提出を受けたときは、遅滞なくその内容を審査することとされている。そして、その内容を適正と認めたときは、委託事業に要した経費の実支出額と委託契約に規定する委託費の限度額とのいずれか低い額をもって委託費の額として確定することとされている。
そして、本省は、協会との間で、これらの委託事業に係る計13件の委託契約(委託契約に規定する委託費の限度額計1,180,685,750円)を締結して、委託費として計960,116,576円を協会に支払っている。
本院は、合規性等の観点から、委託事業の実施に要した経費が適正に精算されているかなどに着眼して、上記の13契約を対象として、協会において、委託契約書、精算報告書等の関係書類を確認するなどの方法により会計実地検査を行うとともに、本省から関係書類の提出を受けるなどして検査した。
協会が精算報告書を作成するに当たり、委託事業に要した経費の実支出額を計上しているかについて確認したところ、協会は、委託事業に従事した職員のうち一部の職員に係る人件費について、これらの職員に対して実際に支給した給与等の額に基づくことなく算定した額を委託事業に要した経費の実支出額に含めて精算報告書に計上していた。具体的には、協会は、平成23年度に協会が定めた「受託事業における当協会職員の「業務従事者謝金」の基準について」に基づき毎年度、職種ごとに1日当たりの単価(以下「日額単価」という。)を決定していたが、日額単価は、協会が職員に対して実際に支給した給与等の額に基づくものとはなっていなかった。そして、協会は、日額単価にそれぞれの職員が委託事業に従事した日数を乗じた額をこれらの職員に係る人件費として精算報告書に計上していた(以下、委託事業に従事した職員のうち協会が定めた基準に基づき人件費が算定されていた職員を「従事者」という。)。
そこで、協会が従事者に対して実際に支給した給与等の額に基づいて、改めて従事者が委託事業に従事した日数に係る人件費を算定したところ、計246,606,800円となり、前記13契約の精算報告書に計上されていた従事者に係る人件費計289,171,433円は、協会が従事者に対して実際に支給した給与等の額に基づいて算定した額を計42,564,633円上回っていた。
したがって、上記の実際に支給した給与等の額に基づき算定した人件費により前記の13契約に係る委託事業に要した経費の実支出額を算定すると、適正な委託費の額は計915,102,219円となり、前記委託費の支払額960,116,576円との差額45,014,357円が過大に支払われていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、協会において委託契約に定められた委託費の算定方法についての理解が十分でなかったこと、本省において精算報告書の内容の審査が十分でなかったことなどによると認められる。