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雇用保険のキャリアアップ助成金の支給が適正でなかったもの[神奈川労働局](36)


会計名及び科目
労働保険特別会計(雇用勘定)(項)高齢者等雇用安定・促進費
部局等
神奈川労働局
支給の相手方
2事業主
キャリアアップ助成金の支給額の合計
5,591,200円(平成28、29両年度)
不当と認める支給額
4,770,400円(平成28、29両年度)

1 保険給付の概要

(1)キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金(以下「助成金」という。)は、雇用保険で行う事業である雇用安定事業及び能力開発事業の一環として、雇用保険法(昭和49年法律第116号)等に基づき、期間の定めがある労働契約を締結する者等の企業内でのキャリアアップ(注)を支援するために、キャリアアップに向けた取組を実施した事業主に対して国が経費等を助成するものである。助成金の対象となる取組には、人材育成コース(同コースは、平成30年度に人材開発支援助成金に統合された。)、正社員化コース等がある。

(注)
キャリアアップ  職務経験又は職業訓練等(職業訓練又は教育訓練をいう。)の職業能力の開発の機会を通じて、職業能力の向上並びにこれによる将来の職務上の地位及び賃金をはじめとする処遇の改善が図られること

(2)助成金の支給

助成金の支給を受けようとする事業主は、対象者、目標、計画期間等が記載されたキャリアアップ計画書を管轄の都道府県労働局(以下「労働局」という。)に提出して受給資格の認定を受けることとなっている。また、助成金の対象となる取組のうち、人材育成コースについては、上記キャリアアップ計画書のほか、実施する職業訓練(以下「訓練」という。)の内容等が記載された訓練計画届を労働局に提出して受給資格の認定を受けることとなっている。

人材育成コースの支給要件は、事業主が、受給資格認定に係る訓練計画に基づき訓練を実施することなどとなっており、同コースの支給対象経費は、訓練に係る経費のうち支給申請日までに支払が終了しているものに限られている。

助成金の支給を受けようとする事業主は、人材育成コースについては、訓練計画実施期間の終了した日の翌日から起算して2か月以内に、支給申請書に、出勤簿、訓練に係る経費の領収書等の関係書類のほか、訓練の実施内容等を記載した実施状況報告書を添えて、労働局に提出することとなっている。

支給申請書等の提出を受けた労働局は、関係書類等に基づいて事業主やその申請内容が助成金の支給要件を満たしているかなどについて審査した上で支給決定を行い、これに基づいて厚生労働本省又は労働局は、助成金の支給を行うこととなっている。

また、労働局は、支給すべき額を超えて助成金の支給を受けた事業主に対して、支給すべき額を超えて支払われた部分の額の支給決定を取り消して返還の手続を行うこととなっている。

2 検査の結果

(1)検査の観点、着眼点、対象及び方法

本院は、合規性等の観点から、事業主に対する助成金の支給決定が適正に行われているかに着眼して、27年度から令和元年度までの間に助成金の支給を受けた事業主から13事業主を選定して、助成金の支給の適否について、13事業主に対する助成金の支給決定を行った神奈川労働局において会計実地検査を行った。

検査に当たっては、事業主から提出された支給申請書等の書類により会計実地検査を行い、適正でないと思われる事態があった場合には、更に同労働局に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。

(2)検査の結果

検査の結果、平成28、29両年度に助成金の支給を受けた2事業主は、人材育成コースにおいて、訓練に係る経費を支給申請日までに支払っていなかったり、訓練の実施状況を適切に管理していなかったため訓練受講者が不在である時間帯に訓練計画に基づく訓練を実施したとしていたりして、助成金の支給を申請しており、これら2事業主に対する助成金の支給額計5,591,200円のうち計4,770,400円は支給の要件を満たしていなかったもので支給が適正でなく、不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、事業主が支給申請書等の内容を自ら確認する必要性を認識していなかったり、制度を十分に理解していなかったりしていたため、支給申請書等の記載内容が事実と相違していたのに、神奈川労働局において、これに対する審査が十分でないまま支給決定を行っていたことなどによると認められる。

前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

事例

神奈川労働局は、事業主Aから、平成27年9月1日から32年8月31日までを計画期間とするキャリアアップ計画書について27年7月に、また、人材育成コースに係る訓練計画届について同年8月にそれぞれ提出を受けて、助成金の受給資格を認定していた。そして、事業主Aから、当該訓練計画に基づき27年9月から同年11月までの間に訓練受講者4人に対して訓練を実施したとして、28年1月に支給申請書、訓練に係る経費の領収書、実施状況報告書等の添付書類の提出を受けて、同労働局は、これらの書類に基づき、同年7月に助成金2,008,000円の支給決定を行っていた。

しかし、事業主Aが支給申請日までに訓練に係る経費を支払った事実はなく、事業主Aは、支給申請に当たって事実と異なる領収書を提出していた。また、提出された実施状況報告書には、訓練受講者が不在である時間帯に訓練計画に基づく訓練を実施したとする内容が含まれていた。これらのことから、事業主Aに対する助成金の支給額2,008,000円のうち1,187,200円は支給の要件を満たしておらず、支給すべき額を超えて支払われていた。

なお、これらの点について事業主Aは、支給申請手続を第三者に委ねていたので、自らは提出書類を確認しておらず、その内容を承知していなかったとしている。

なお、これらの適正でなかった支給額については、本院の指摘により、全て返還の処置が執られた。