(1件 不当と認める国庫補助金 17,182,621円)
部局等
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補助事業者等
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間接補助事業者等
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補助事業等
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年度
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事業費
国庫補助対象事業費
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左に対する国庫補助金等交付額 | 不当と認める事業費
国庫補助対象事業費
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不当と認める国庫補助金等相当額 | |
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千円 | 千円 | 千円 | 千円 | ||||||
(93) |
近畿農政局
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兵庫県
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養父市 (事業主体) |
農業用施設災害復旧
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30 | 19,330 (17,695) |
17,182 | 19,330 (17,695) |
17,182 |
この補助事業は、養父市が、養父市大屋町中地内において、平成29年9月の台風第18号により被ぜき災した頭首工(注)の固定堰(ぜき)のエプロンと護床工として設置されていた護床ブロック(延長47.0ⅿ。以下「ブロック」という。)の一部等を復旧する工事を実施したものである。上記の工事は、被災により、エプロンとブロックの一部(延長37.6ⅿ、幅6.0ⅿ)が破壊されたり、エプロンとブロックが設置されていた河床が洗掘されたりして、これらが流失したため、河床の洗掘された箇所(深さ0ⅿ~2.6ⅿ。以下「被災後の河床」という。)を割栗石(粒径15cm~20cm)を用いて被災前の河床高さまで埋め戻して新たに河床を築造し、この河床の上に、エプロンを築造したり、ブロック57個を製作して鉄筋等で連結して設置したりなどしたものである(参考図1参照)。
同市は、本件工事の設計を「農地・農業用施設・海岸等災害復旧事業の復旧工法2014年版」(農林水産省農村振興局防災課監修。以下「標準工法」という。)に基づくなどして行っている。標準工法は、全国で多用されている工法を標準的な条件において取りまとめたものであり、標準工法によれば、各事業主体は現場状況、諸条件の変化等を調査し、標準工法の適用の可否を総合的に判断して、技術的に妥当な工法で実施することとされている。そして、標準工法に示された工法を用いることが不適当と判断される場合は、土地改良事業計画設計基準(農林水産省農村振興局整備部設計課監修。以下「設計基準」といい、標準工法及び設計基準を合わせて「標準工法等」という。)等に基づき、詳細な検討が必要であるとされている。
また、標準工法によれば、護床工の設計については、河床の洗掘を防止するために河床の状況を考慮して必要な箇所に設けること、流水の作用に対して移動や転倒等の不安定な状態とならないこと、護床工としてブロックを設置する場合には、流水による河床土砂の吸出しを防止するために適切な工法(以下「吸出し防止策」という。)を選択することなどとされていて、吸出し防止策としては、ブロックとブロックの間に栗石等の中詰めを行ったり、ブロック設置面に吸出し防止用のマットを設けたりするなどの工法が考えられるとされている(参考図2参照)。そして、設計基準においても、標準工法で示された内容と同様の内容が示されており、現場の状況を的確に把握した上で適切な護床工の吸出し防止策を選択することとなっている。
同市は、本件護床工の設計に当たり、被災前の護床工は吸出し防止策が未施工ではあるものの、供用開始から今回の被災までの約40年間にわたり河床土砂の吸出し防止の機能を有していたと考えていたこと、被災後の河床を目視により確認したところ玉石や玉砂利を中心に構成されていて、土砂が流水により吸い出されることはないと認識していたことなどから、標準工法で示された吸出し防止策を講じなくても、河床にブロックを設置すれば被災前における機能の回復ができると判断して、これにより設計し、施工していた。
しかし、前記のとおり、ブロックを設置する河床は、被災前のブロックが設置されていた河床が最大2.6ⅿ洗掘されて流失した後に、本件工事で被災後の河床の高さから被災前の河床の高さまでを割栗石を用いて新たに築造したものである。このため、被災後の河床に割栗石の隙間よりも粒径の小さい土砂が存在する場合には、この隙間から土砂が吸い出されることとなり、被災前における機能は回復できないものとなっている。そして、前記のとおり、標準工法等において、護床工の設計に当たっては、現場の状況を的確に把握した上で適切な吸出し防止策を選択することとなっているのに、同市は、被災後の河床の状況を目視により確認したのみであって、被災後の河床に流水の作用により吸い出されることになる土砂が存在するかについての調査を十分に行っておらず、被災後の河床の状況を的確に把握しないまま、単に河床にブロックを設置するにとどまっており、吸出し防止策を講じていなかった。
このため、本件護床工は、流水の作用により埋め戻した割栗石の隙間を通って被災後の河床から土砂が吸い出されることによって、被災後の河床に洗掘が生ずるおそれのある構造となっていた。現に、本件工事のしゅん工から9か月が経過した令和2年1月の会計実地検査時点で、本件現場を確認したところ、被災後の河床からの土砂の吸出しにより、本件工事で設置したブロック57個のうち26個のブロックの設置面の河床が沈下しており、沈下が最も進んでいる箇所では、しゅん工時から22.0cm沈下している状況となっていた(参考図3参照)。
したがって、本件工事(工事費19,330,920円)は、護床工の設計が適切でなかったため、被災後の河床から土砂が吸い出されて被災後の河床の洗掘が進行することなどにより固定堰に損傷が生ずるおそれがあり、工事の目的を達しておらず、これに係る国庫補助金17,182,621円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、同市において、河床の洗掘を防止するための護床工の設計に対する理解が十分でなかったことなどによると認められる。
(参考図1)
固定堰及び護床工の断面の概念図
(参考図2)
標準工法等における吸出し防止策の工法例
(参考図3)
会計実地検査時点の河床の概念図