【改善の処置を要求したものの全文】
丸太のトラック運搬に係る経費の積算について
(令和3年10月20日付け林野庁長官宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴庁は、森林管理署等に、国有林野の産物売払規程(昭和25年農林省告示第132号)等に基づき、国有林野の林産物等の売払いを行わせている。林産物のうち木材の販売については、立木の状態で販売する立木販売と、立木を伐倒等して丸太にして販売する製品販売を行っている。このうち、立木販売は、森林管理署等が立木の買受者と売買契約を締結して、買受者が立木の伐倒、造材、集材、丸太のトラック運搬等の作業を行うこととして販売するものである。そして、製品販売には委託販売とシステム販売がある。委託販売は、森林組合、業者等の林業事業体が森林管理署等との請負契約により立木の伐倒、造材、集材、生産現場等から木材市場等までの丸太のトラック運搬の作業を行うなどの丸太を生産する事業等(以下、この事業を「製品生産事業等」という。)を行った後、森林管理署等が木材市場等と契約を締結して、丸太の販売を行うことを委託するものである。また、システム販売は、製品生産事業等により生産され、生産現場等から山元土場等まで運搬された丸太について、製材工場等の買受けを希望する者と国有林材の販売に関する相互協定に基づく売買契約を締結し、買受者が山元土場等から買受先までの丸太のトラック運搬を実施することとして、木材市場等を介さずに販売するものなどである(図1参照)。
図1 販売方法ごとの丸太のトラック運搬の概要図
各森林管理局は、貴庁が制定した「立木販売予定価格評定公式の改訂について」(昭和34年34林野業第5328号。以下「評定公式」という。)に基づき、各森林管理局の実情を加味した立木等の販売予定価格評定要領等(以下「積算基準」という。)をそれぞれ制定して、積算基準に基づき各森林管理署等は立木販売の売買契約に係る予定価格を算定している。各局の積算基準によれば、立木販売の売買契約における販売の予定価格は、各森林管理局が木材市況調査の結果等を踏まえて地域ごとに定めた丸太の材積1m3当たりの基準単価に基づき算出した丸太の価格から、買受者が実施する立木の伐倒、造材、集材、丸太のトラック運搬等に係る経費を差し引くなどして算定することとされている。また、製品生産事業等の請負契約における経費の予定価格や、システム販売における販売の予定価格は、各森林管理局が定めた製品生産事業等又はシステム販売の取扱いに係る要領等において積算基準に準ずるなどして算定することとされている。
そして、製品生産事業等の請負契約については、立木の伐倒、造材、集材、丸太のトラック運搬等に係る経費により、また、システム販売における販売については、売買契約における丸太の価格から買受者が実施する丸太のトラック運搬等に係る経費を差し引くなどしてそれぞれ予定価格が算定されている。
このように、丸太のトラック運搬に係る経費については、立木販売の場合は売買契約において、委託販売の場合は製品生産事業等の請負契約において、システム販売の場合は製品生産事業等の請負契約及び売買契約においてそれぞれ積算されている(図2参照)。
図2 丸太のトラック運搬に係る経費の概要図
各地方運輸局が公示している一般貨物自動車運送事業の貸切運賃料金表には、運搬距離ごとに1回当たりの運賃が掲載された表(以下「距離制運賃表」という。)と8時間又は4時間を基準とする基準時間当たりの運賃が掲載された表(以下「時間制運賃表」という。)があり(以下、距離制運賃表に基づいて算定した運賃を「距離制運賃」、時間制運賃表に基づいて算定した運賃を「時間制運賃」という。)、「一般貨物自動車運送事業貸切運賃料金適用方の解説」(運輸省自動車交通局監修)によると、原則として距離制運賃を用いるが、短距離を反復して運搬する場合は距離制運賃が過大となるなどのため時間制運賃を適用することとされている。
一方、評定公式によれば、丸太のトラック運搬に係る経費については、原則として距離制運賃表を適用するなどして定めることとされており、各森林管理局は評定公式に基づきそれぞれ積算基準を作成している。そして、評定公式においては、時間制運賃については定められていない。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、立木の販売等における丸太のトラック運搬に係る経費の積算が経済的なものとなっているかなどに着眼して、令和元、2両年度の5森林管理局(注1)管内の30森林管理署等(注2)における製品生産事業等の請負契約295件、立木販売の売買契約341件及びシステム販売等の売買契約1,359件のうち、各森林管理署等における丸太の生産数量が多いものから抽出するなどして、請負契約98件、契約金額計87億6420万余円及び売買契約195件、契約金額計23億7187万余円(立木販売の売買契約79件、契約金額計12億5746万余円、システム販売の売買契約116件、契約金額計11億1440万余円)を対象として検査した。
検査に当たっては、5森林管理局及び30森林管理署等のうち3森林管理局(注3)及び21森林管理署等(注4)において、積算書等の書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、上記の30森林管理署等については、貴庁から調書の提出を受けて、その内容を分析するなどして検査した。
(検査の結果)
関東森林管理局は、立木販売の売買契約における丸太のトラック運搬に係る経費について、距離制運賃と時間制運賃を比較して安価な方を適用することとして積算基準を定め、製品生産事業等の請負契約及びシステム販売の売買契約における丸太のトラック運搬に係る経費についても同様の作業内容であることから、積算基準に準ずるものとして要領等を定めていた。
そして、距離制運賃については、積算基準等に基づき、距離制運賃表の運賃に冬期の割増料金を加算して算出した運賃をトラック1台当たりの運搬量で割り戻した1m3当たりの単価を算出して、これに運搬する材積を乗ずるなどして算定していた。また、時間制運賃については、トラックの速度、生産現場等における丸太の積込時間、積込みの付帯時間、木材市場等における丸太の積卸時間、積卸しの付帯時間(以下、これらを合わせて「サイクルタイム」という。)を設定して、サイクルタイムと運搬距離を用いるなどして算出した1日当たりの運搬量で時間制運賃表の運賃を割り戻して1m3当たりの単価を算出して、これに運搬する材積を乗ずるなどして算定していた。そして、丸太のトラック運搬に係る経費については、距離制運賃と時間制運賃を比較して安価な方を適用していた。
一方、中部、近畿中国、四国、九州各森林管理局(以下「4森林管理局」という。)は、評定公式において、時間制運賃表の適用については定められていないことなどから、立木販売の売買契約における丸太のトラック運搬に係る経費について原則として距離制運賃表を適用するなどの積算基準を定めていた。また、4森林管理局は、製品生産事業等の請負契約及びシステム販売の売買契約における丸太のトラック運搬に係る経費についても同様の作業内容であることから、積算基準に準ずるものとして、それぞれ、原則として距離制運賃表を適用するなどの要領等を定めていた。そして、4森林管理局管内の森林管理署等は、積算基準等に基づき、いずれも、丸太のトラック運搬に係る経費については、距離制運賃を適用していた。
しかし、中部、近畿中国両森林管理局において、丸太のトラック運搬の作業の状況を請負契約における運搬作業を実施した日付や発送地等が記載された伝票等の書類により確認したところ、製品生産事業等の請負契約については、運搬する距離が短いことから、生産現場等と木材市場等との間を1日に複数回反復して運搬している状況が見受けられた。また、立木販売の売買契約についても同様に、生産現場等と買受先との間を1日に複数回反復して運搬している状況が見受けられた。そして、貴庁によれば、4森林管理局において、製品生産事業等の請負契約並びに立木販売及びシステム販売の売買契約における丸太のトラック運搬に係る作業は、同様の作業内容であることから、いずれも運搬する距離が短い場合には1日に複数回反復して運搬することが可能であるとしている。また、丸太のトラック運搬に係る経費についてみると、近畿運輸局の距離制運賃表及び時間制運賃表において、10t車の最小区分である20kmまでの運賃が14,830円となっており、10t車の8時間の運賃が31,500円となっていた。
そこで、近畿中国森林管理局において、生産現場等から木材市場等までの距離が短い場合には、10t車を用いて1日に3回以上反復して運搬を行っている状況も見受けられたことに基づき、8時間において3回反復して運搬できたと仮定して比較したところ、上記の14,830円に運搬回数(3回)を乗じた距離制運賃44,490円よりも、1日に3回運搬する時間制運賃31,500円の方が安価となることが確認できた。上記のことから、丸太のトラック運搬に係る経費の積算に当たり、短距離を反復して運搬できる場合は、丸太のトラック運搬に係る安全性や林道の特殊性等の各森林管理局の実情を加味した上で距離制運賃に加え時間制運賃の適用も考慮する必要があると認められる。
貴庁は、上記についての本院の指摘を踏まえて、3年4月に評定公式を一部改正し、丸太のトラック運搬に係る経費の算定の方法について、複数回反復して運搬することが可能な場合には距離制運賃又は時間制運賃のうち安価な運賃を適用することとし、各森林管理局に対して、同年度中に各森林管理局が積算基準等を改正して時間制運賃の算定方法を定めるために、サイクルタイムの実態調査を実施するよう指示した。
そして、4森林管理局における実態調査の結果(暫定値)(注5)を基に算出したサイクルタイムは表1のとおりとなっている。実態調査は引き続き継続中であるものの、当該サイクルタイムを基に算定した運搬1回当たりに要する時間は、現に時間制運賃の適用を考慮している関東森林管理局と同程度となっており、実態を相応に反映していると考えられる。
表1 4森林管理局における実態調査の結果(暫定値)を基に算出したサイクルタイム等
森林管理局名 |
トラックの速度
(km/h)
|
丸太の積込時間
(分/m3)
|
積込みの付帯時間
(分/回)
|
丸太の積卸時間
(分/m3)
|
積卸しの付帯時間
(分/回)
|
---|---|---|---|---|---|
中部
|
27 | 2.4 | 7.6 | 1.4 | 5.9 |
近畿中国
|
22 | 2.6 | 2.7 | 1.8 | 4.5 |
四国
|
30 | 2.9 | 3.5 | 1.2 | 4.6 |
九州
|
27 | 2.3 | 2.1 | 1.2 | 2.9 |
(参考)関東
|
25 | 2.3 | 3.3 | 2.3 | 3.3 |
そこで、時間制運賃の適用を考慮していた関東森林管理局を除いた4森林管理局において、製品生産事業等の請負契約並びに立木販売及びシステム販売の売買契約について、距離制運賃表を適用した積算額と、表1の4森林管理局のサイクルタイムを用いて時間制運賃表を適用して試算した積算額とを比較すると、次のとおりとなっていた。
① 製品生産事業等の請負契約における時間制運賃の適用を考慮した試算
製品生産事業等の請負契約において、4森林管理局管内の23森林管理署等(注6)の請負契約81件(契約金額計67億7181万余円、予定価格計70億7011万余円、丸太のトラック運搬に係る経費の積算額計5億4421万余円)について、運搬距離が短く1日に複数回の運搬が可能な場合に、距離制運賃と時間制運賃を比較して安価な方を丸太のトラック運搬に係る経費に適用して試算した。
その結果、表2のとおり、19森林管理署等(注7)の製品生産事業等の請負契約42件の積算額は計1億9742万余円となり、19森林管理署等が積算していた積算額計2億6376万余円と比べて計約6630万円低減できたと認められた。
表2 19森林管理署等における製品生産事業等の請負契約の積算の試算結果
森林管理局名 | 森林管理署等数 | 契約件数 |
当局の積算
(A)
|
修正計算
(B)
|
低減できた積算額
((A)-(B))
|
---|---|---|---|---|---|
中部
|
6 | 13 | 138,437 | 122,501 | 15,935 |
近畿中国
|
6 | 12 | 57,560 | 38,957 | 18,603 |
四国
|
2 | 3 | 19,103 | 15,481 | 3,621 |
九州
|
5 | 14 | 48,661 | 20,487 | 28,173 |
計
|
19 | 42 | 263,762 | 197,428 | 66,334 |
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
中部森林管理局東信森林管理署は、令和元、2両年度に、製品生産事業等の請負契約として、「森林環境保全整備事業(保育間伐活用型 浅間山)」(契約金額94,116,000円、予定価格97,408,139円)を実施していた。そして、丸太のトラック運搬に係る経費の積算については、実績数量であるカラマツ等計3,994.778m3、使用車両10t車、生産現場から木材市場等までの間の積算上の距離12.1kmを基に、距離制運賃表に基づくなどして中部森林管理局が設定した運賃表の20km以下の区分の運賃(運搬1回当たり24,010円)を適用して積算額を839万余円と算定していた。
しかし、中部森林管理局が実施した実態調査(暫定値)を基に算出したサイクルタイムを用いるなどして算出すると、1日当たりの運搬回数が3回となり複数回反復して運搬することが可能となっており、現に伝票等を確認したところ、1日に複数回運搬していた。そして、時間制運賃表の運賃(運搬8時間当たり48,950円)を適用して試算すると、積算額は570万余円となり、前記の運賃表により算定していた積算額839万余円は、約260万円低減できたと認められた。
② 立木販売及びシステム販売の売買契約における時間制運賃の適用を考慮した試算
23森林管理署等(注8)の立木販売及びシステム販売の売買契約150件(契約金額計20億0305万余円、予定価格計11億9018万余円、丸太の価格から差し引かれることとなる丸太のトラック運搬に係る経費の積算額計4億6088万余円)について、製品生産事業等の請負契約における試算方法と同様に、運搬距離が短く1日に複数回の運搬が可能な場合に、距離制運賃と時間制運賃を比較して安価な方を丸太のトラック運搬に係る経費に適用することとして試算した。
その結果、22森林管理署等(注9)の売買契約104件については、表3のとおり、丸太のトラック運搬に係る経費の積算額計2億0391万余円について、それぞれの売買契約における丸太の価格から差し引くなどすると、立木販売及びシステム販売の販売予定価格の積算額は計6億1012万余円となり、22森林管理署等が積算していた販売予定価格の積算額計5億4727万余円(丸太のトラック運搬に係る経費計2億7593万余円)と比べて計約6280万円低額になっていたと認められた。
表3 22森林管理署等における立木販売及びシステム販売の売買契約の積算の試算結果
森林管理局名 | 森林管理署等数 | 契約件数 | 当局の積算 | 修正計算 |
低額となっていた積算額
((B)-(A))
(注(1))
|
||
---|---|---|---|---|---|---|---|
丸太のトラック運搬に係る経費の積算額
|
販売予定価格
(A)
|
丸太のトラック運搬に係る経費の積算額
|
販売予定価格
(B)
|
||||
中部
|
5 | 24 | 69,355 | 8,609 | 52,086 | 17,823 | 9,213 |
近畿中国
|
8 | 22 | 38,888 | 84,755 | 28,466 | 95,578 | 10,823 |
四国
|
3 | 8 | 34,266 | 34,406 | 25,447 | 43,109 | 8,703 |
九州
|
6 | 50 | 133,427 | 419,499 | 97,918 | 453,609 | 34,110 |
計
|
22 | 104 | 275,937 | 547,270 | 203,919 | 610,121 | 62,850 |
(改善を必要とする事態)
丸太のトラック運搬に係る経費の積算に当たり、複数回反復して運搬することが可能な場合において、森林管理局が定めた積算基準等が必ずしも時間制運賃表の適用を考慮することになっておらず、距離制運賃と時間制運賃を比較して安価な方を適用していない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴庁において、評定公式に時間制運賃の算定方法を規定していなかったこと、森林管理局に対して、丸太のトラック運搬に係る実態を把握した上で、複数回反復して運搬することが可能な場合には時間制運賃の適用を考慮するなどして経済的な積算を行うことについての指示が十分でなかったこと、森林管理局において丸太のトラック運搬に係る経費の積算について、複数回反復して運搬することが可能な場合には時間制運賃の適用を考慮して、これを積算基準等に反映させて経済的な積算を行うことの必要性についての理解が十分でなかったことなどによると認められる。
貴庁において、今後、森林管理局が時間制運賃の適用を考慮して丸太のトラック運搬に係る経費の積算を適切に行うためには、前記の評定公式の一部改正だけでなく、サイクルタイムの実態調査の最終的な結果を踏まえて、貴庁の指導等に基づいた森林管理局における積算基準等の改正が必要となる。
ついては、貴庁において、森林管理局に対して、丸太のトラック運搬に係る経費の積算について、評定公式の考え方及びサイクルタイムの実態調査の結果等が森林管理局の積算基準等に確実に反映されるよう指導することなどにより、複数回反復して運搬することが可能な場合に、時間制運賃の適用も考慮して適切な積算を行うこととするよう改善の処置を要求する。