【改善の処置を要求したものの全文】
(令和3年10月22日付け 農林水産大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(平成6年法律第113号)等に基づき、国内産米穀(以下「国内米」という。)の生産量の減少によりその供給が不足する事態に備えるために、100万t程度の国内米を備蓄することとしており、原則として、毎年20万t程度の国内米の買入れを行って、5年間程度備蓄した後、飼料用として販売している。また、貴省は、平成5年のガット・ウルグアイ・ラウンド農業合意を受けて、毎年度一定量(約77万t)の外国産米穀(以下「MA米(注)」という。)を輸入して、一部のMA米を除き、保管した後、加工用や飼料用として販売している(以下、これらの国内米及びMA米を合わせて「政府所有米穀」という。)。
ア 政府所有米穀の販売等業務に係る委託契約の概要
貴省は、政府所有米穀の販売、保管等の業務の大幅な効率化等を目的として、22年10月以降、包括的に民間の事業体に政府所有米穀の販売等業務を委託している(以下、民間の事業体に委託している販売等業務を「委託業務」といい、委託先である民間の事業体を「受託事業体」という。)。そして、貴省は、委託業務について、政府所有米穀の安定供給を図ったり、備蓄中に生じ得る変質等による損失リスクを分散させたりするために、複数者を受託事業体として選定する必要があるとして、23年度以降は一般競争入札により、各年度、それぞれ3受託事業体と原則として契約期間を5年半程度とする政府所有米穀の販売等業務委託契約(以下「委託契約」という。)を締結している。
イ カビ確認に係る業務の概要
貴省と受託事業体との政府所有米穀の販売等業務委託契約書及びその仕様書(以下「契約書等」という。)によれば、委託業務の内容は、政府所有米穀の販売、保管、運送、販売等に伴うカビ確認等の業務とされている。このうち販売等に伴うカビ確認に係る業務は、食品衛生法(昭和22年法律第233号)又は飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律(昭和28年法律第35号)の規定等により、販売等をしてはならないとされる流通不適米を選別するために実施するものである。そして、貴省が定めた政府所有米穀の販売等業務委託における民間競争入札実施要項等に基づき、政府所有米穀の販売前に、販売予定の政府所有米穀が包装されているフレキシブルコンテナ(以下「フレコン」という。)等を全て解袋し、カビ監視担当者が1袋ごとにカビ状異物がないことを目視等で確認するなどとなっている。
カビ確認の方法は、専門家の科学的助言を受けた方法で行うことが求められており、契約書等によれば、解袋した米穀を、二重の網(1枚目の網と2枚目の網をできるだけ密着させた状態でおおむね45度にクロス(交差)させたもの)に通し、網の上で解袋した袋等単位でカビ状異物を確認すること(以下、この方法によるカビ確認を「メッシュチェック荷役」という。)などによるものとされている。
そして、受託事業体は、これらのカビ確認に係る業務を複数の倉庫業者に再委託して実施させている。なお、これらのカビ確認は従来MA米について実施されていたが、貴省は、主要食糧である米穀の備蓄運営に万全を期し、消費者利益の保護を最優先する観点から、国内米のうち備蓄用精米及び販売用玄米の一部についても、それぞれ30年4月及び31年4月以降実施している。
ウ メッシュチェック荷役経費の概要
受託事業体への委託費のうち、メッシュチェック荷役経費については、契約書等によれば、貴省が、包装別(フレコン(容量1t)、袋詰め)、地域別(五大港地域、五大港地域以外)及び用途別(加工用、飼料用)に設定されたメッシュチェック荷役経費の単価にメッシュチェック荷役を行った政府所有米穀の数量を乗じた額を支払うこととされている(表1参照)。
表1 メッシュチェック荷役経費(フレコンの場合)の単価(1t当たり)
五大港地域 | 五大港地域以外 | |
---|---|---|
加工用として販売する場合 | 4,501円 | 3,995円 |
飼料用として販売する場合 | 4,464円 | 3,958円 |
貴省は、令和元年度のメッシュチェック荷役経費の単価設定に当たり、受託事業体からカビ確認に係る業務について再委託を受けた延べ150倉庫業者が平成30年7月から11月までに実施したメッシュチェック荷役について調査を行っている。具体的には、包装形態(フレコン、袋詰め)、米穀の種類(MA米(中粒種、長粒種)等)、カビ確認作業台(以下「作業台」という。)の形状(落下式、滑り台式等)、作業人員、使用フォークリフトの状況、作業時間等を確認し、その結果に基づいて単価を設定している。なお、国内米については、カビ確認に係る業務を開始したのが30年4月でありMA米に比べ調査対象が限られることなどから、単価の設定に当たっては、上記調査のうちMA米に係る調査(以下「30年調査」という。)によりMA米の単価と同一に設定している。
そして、30年度以前に契約した分についても、30年調査に基づいて設定した単価を用いてメッシュチェック荷役経費の支払を行っている。
また、27年度から令和2年度までに貴省が委託契約を締結した5受託事業体への委託費の支払額は元年度181億8478万余円、2年度223億7361万余円、計405億5840万余円となっており、このうち上記の調査結果に基づき設定した単価によるメッシュチェック荷役経費の支払額は元年度29億7704万余円、2年度38億5787万余円、計68億3492万余円となっている。そして、メッシュチェック荷役の多くはMA米に係るものとなっており、上記メッシュチェック荷役経費の支払額のうちMA米に係る支払額は元年度23億1733万余円、2年度28億2304万余円、計51億4038万余円となっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、メッシュチェック荷役経費の単価は適切かなどに着眼して、平成27年度から令和2年度までに貴省が5受託事業体と締結した委託契約に基づき委託費として元、2両年度に支払ったメッシュチェック荷役経費のうち多くを占めているMA米に係るメッシュチェック荷役経費51億4038万余円を対象として、貴省本省、2地方農政局等において、契約書等、30年調査に係る調査結果等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、メッシュチェック荷役経費の単価について次のような事態が見受けられた。
政府所有米穀の包装形態は倉庫業者によって異なっているが、30年調査の対象であるMA米に係るメッシュチェック荷役を行った倉庫業者のうち、延べ123倉庫業者の包装形態はフレコンとなっていた。そこで、包装形態がフレコンとなっている場合に適用されるMA米に係るメッシュチェック荷役経費の単価(1t当たり)の設定についてみたところ、貴省は、30年調査で確認した延べ123倉庫業者の作業人員、1t当たりの処理時間(以下「処理時間/t」という。)等の合計をそれぞれ倉庫業者総数(123)で除して単純平均することにより、作業人員の平均を4.39人、処理時間/tの平均を10.18分等と算出し、この作業人員の平均に人件費単価を乗ずるなどして算出した1日当たりの経費を、1日当たりの処理数量(処理時間/tの平均から算出)で除するなどして単価を算定していた(次式参照)。
そして、その単価のうち、その大部分を占める人件費部分は、次式のとおり、作業人員の平均に処理時間/tの平均を乗じた値に応じて算出されるものとなっている。
貴省は、前記のとおり、人件費部分について、延べ123倉庫業者の作業人員と処理時間/tを、それぞれの要素ごとに合計して平均値を算出し、算出された作業人員の平均に処理時間/tの平均を乗ずるなどして算定している(以下、この算定方法を「要素ごとの算定方法」という。)。
しかし、本来、各倉庫業者の1t当たりの人件費部分は、作業人員に処理時間/tを乗じた1t当たりの処理に要する作業人員・時間(以下「作業人・分/t」という。)に応じて算出されるものであり、人数と時間が連動しているものであることから、要素ごとの算定方法より、倉庫業者ごとの作業人・分/tを算出し、それを平均するなどして算定する方法(以下、この算定方法を「倉庫業者ごとの算定方法」という。)により単価を算定する方が実態に見合ったものになっている。そして、多くの作業人員により処理していて処理時間/tが短い倉庫業者や少ない作業人員により処理していて処理時間/tが長い倉庫業者がいる場合、倉庫業者ごとの算定方法は、多い作業人員には短い処理時間/tが、長い処理時間/tには少ない作業人員が乗じられることから、それらの平均値により算定しても、人件費単価を大きく引き上げるようなことはない。一方で、要素ごとの算定方法では、多くの作業人員や長い処理時間/tの値は、単にそれぞれの合計を大きく引き上げ、その平均値も大きく引き上げることとなるため、倉庫業者ごとの算定方法による人件費単価よりも、計算上割高になる(概念図参照)。
(概念図)
【倉庫業者ごとの算定方法】
倉庫業者ごとに作業人員に処理時間/tを乗じてその合計を倉庫業者数で除して算定
【要素ごとの算定方法(貴省の算定方法)】
作業人員や処理時間/tを要素ごとに合計して、倉庫業者数で除して算定
そして、30年調査によると、作業人員は2人から10人まで、処理時間/tは2.4分から43.5分までとなっているなど、作業人員と処理時間/tについて、倉庫業者間において大きな開差が生じており、また、多くの作業人員(最大10人)により処理していて処理時間/tが短い(2.4分)倉庫業者や、少ない作業人員(最小2人)により処理していて処理時間/tが長い(43.5分)倉庫業者が見受けられた。
そこで、30年調査結果に基づき、要素ごとの算定方法で算出した延べ123倉庫業者の作業人・分/tの平均は44.7人・分/tとなっていた一方で、より作業実態に見合った倉庫業者ごとの算定方法で算出した延べ123倉庫業者の作業人・分/tの平均は40.8人・分/tとなっており、前者の方法で算出した値の方が大きく、計算上割高になっている。
メッシュチェック荷役を行う米穀の種類や作業台の形状によって作業効率が異なることが考えられることから、本院において、前記延べ123倉庫業者のうち、作業台の形状が落下式及び滑り台式以外となっていた延べ5倉庫業者を除く延べ118倉庫業者について、米穀の種類(中粒種、長粒種)及び作業台の形状(落下式、滑り台式)ごとに、作業人員及び処理時間/tを用いて作業人・分/tの平均値を算出した。その結果、表2のとおり、米穀の種類及びカビ確認作業台の形状別ごとにみて、作業人員に差はみられないが、処理時間/tについて、米穀の種類別では中粒種より長粒種の方が、作業台の形状では滑り台式より落下式の方が処理時間数が多くなっていた。このため、作業人・分/tについても同様の差が生じており、米穀の種類及び作業台の形状ごとに作業効率が大きく異なっている状況となっていた。
表2 米穀の種類及び作業台の形状別の作業人・分/t
米穀の種類 | 作業台の形状 | 作業人員 | 処理時間/t | 作業人・分/t |
---|---|---|---|---|
中粒種 | 落下式 | 4.4人(2人~10人) | 10.0分(2.4分~34.0分) | 41.0(14.9~93.0) |
滑り台式 | 4.7人(2人~7人) | 5.7分(3.0分~15.7分) | 25.3(10.3~63.0) | |
長粒種 | 落下式 | 4.4人(2人~7人) | 12.6分(3.2分~43.5分) | 51.1(18.7~135.1) |
滑り台式 | 4.2人(2人~8人) | 8.4分(3.4分~21.4分) | 31.9(9.9~63.6) |
そして、30年調査を実施した上記の延べ118倉庫業者について、表2と同様に米穀の種類及び作業台の形状別に倉庫業者数をみたところ、表3のとおり、作業人・分/tが小さく作業効率が高い中粒種・滑り台式は7倉庫業者(延べ118倉庫業者に占める割合5.9%)となっており、また、作業人・分/tが大きく作業効率が低い長粒種・落下式は38倉庫業者(同32.2%)となっていた。
一方、作業台の種類が落下式又は滑り台式と判明している倉庫業者の令和元、2両年度に実施したメッシュチェック荷役の処理数量についてみたところ、作業人・分/tが小さく作業効率の高い中粒種・滑り台式は112,165t(全体の処理数量に占める割合20.5%)となっていて、上記の倉庫業者数に占める割合(5.9%)より大きな割合となっていた。逆に、作業人・分/tが大きく作業効率の低い長粒種・落下式は155,551t(全体の処理数量に占める割合28.5%)となっていて、倉庫業者数に占める割合(32.2%)より小さな割合となっていた。
表3 米穀の種類及び作業台の形状別の30年調査における倉庫業者数及び令和元、2両年度メッシュチェック荷役処理数量
米穀の種類 | 作業台の形状 | 30年調査における倉庫業者数 (延べ118倉庫業者に占める割合) |
令和元、2両年度 メッシュチェック荷役処理数量 (全体の処理数量に占める割合) |
---|---|---|---|
中粒種 | 落下式 | 42(35.5%) | 192,556t(35.2%) |
中粒種 | 滑り台式 | 7(5.9%) | 112,165t(20.5%) |
長粒種 | 落下式 | 38(32.2%) | 155,551t(28.5%) |
長粒種 | 滑り台式 | 31(26.2%) | 85,473t(15.6%) |
計 | 118 | 545,747t |
以上のことから、米穀の種類及び作業台の形状別に区分した場合、30年調査の各区分の倉庫業者数の割合は、各区分ごとの処理数量の割合とは異なっていたため、作業効率が低い区分(長粒種・落下式)が、単価を処理数量の割合以上に引き上げているなどの状況が見受けられた。
(1)及び(2)の事態を踏まえて、本院において、以下の方法により、作業実態に見合ったメッシュチェック荷役の単価を試算することとした。
① 前記延べ118倉庫業者の倉庫業者ごとの作業人員に処理時間/tを乗じて当該倉庫業者の作業人・分/tを算出する。
② ①で算出した作業人・分/tを用いて、米穀の種類(中粒種、長粒種)、作業台の形状別(落下式、滑り台式)に、4区分ごとの作業人・分/tをそれぞれ平均して算出する。
③ ②で算出した作業人・分/tを元、2両年度における4区分ごとの各倉庫業者の処理量に応じて加重平均するなどして地域別(五大港地域、五大港地域以外)、用途別(加工用、飼料用)に単価を算定する。
以上の方法によりメッシュチェック荷役経費の単価を試算したところ、表4のとおり、いずれも貴省が設定した単価よりも低くなった。
表4 本院において試算した単価(1t当たり)
貴省設定単価(A) | 本院試算単価(B) | 差額(A)-(B) | ||||
五大港地域 | 五大港地域以外 | 五大港地域 | 五大港地域以外 | 五大港地域 | 五大港地域以外 | |
加工用 | 4,501円 | 3,995円 | 4,167円 | 3,719円 | 334円 | 276円 |
飼料用 | 4,464円 | 3,958円 | 4,130円 | 3,682円 | 334円 | 276円 |
そして、元、2両年度のMA米に係るメッシュチェック荷役経費51億4038万余円のうち、作業台の形状が落下式又は滑り台式と判明している倉庫業者に係るメッシュチェック荷役経費22億2621万余円について、表4の単価を用いて試算すると計20億7018万余円となり、1億5603万余円の開差が生じていた。
(改善を必要とする事態)
貴省において、委託費のうちMA米に係るメッシュチェック荷役経費の単価について、多くの作業人員により処理していて処理時間/tが短い倉庫業者や少ない作業人員により処理していて処理時間/tが長い倉庫業者が見受けられるのに、要素ごとの算定方法により設定していたり、米穀の種類及び作業台の形状により作業効率が大きく異なっているのに、米穀の種類等ごとの処理数量を考慮せずに算定したものとなっていたりしていて、単価が作業実態に見合ったものとなっていない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、貴省において、メッシュチェック荷役経費の単価の設定に当たって、作業実態に見合った単価を算定する方法を明確に定め、それに基づいて単価を設定することについての理解が十分でなかったことなどによると認められる。
政府所有米穀の販売等業務委託に係る委託費の支払は多額に上っており、委託費のうちメッシュチェック荷役経費に係る支払額の割合は年々高くなっている。そして、貴省は、平成30年4月以降、安全性確保に万全を期すため、国内米のうち備蓄用精米及び販売用玄米の一部についてもカビ確認等の業務を追加して受託事業体に実施させている。このような中、令和3年4月から6月までに倉庫業者が実施するカビ確認等の業務を対象として、作業状況(作業台等)、作業内容(作業従事者の実人員等)、作業時間等の調査を改めて実施している。
ついては、貴省において、政府所有米穀の品質及び作業安全性の確保に配慮しつつ、メッシュチェック荷役経費の単価について、貴省が実施した最新の調査結果の値を用いて算定する際に、要素ごとの算定方法によるのではなく、倉庫業者ごとの算定方法等を用いて米穀の種類等ごとの処理数量により加重平均した上で、必要な調整を行うなどしてメッシュチェック荷役の作業実態に見合った単価を算定する方法を明確に定めるとともに、それに基づいて単価を設定することにより委託費の節減を図るよう改善の処置を要求する。