農林水産省は、農林水産省設置法(平成11年法律第98号)に基づき、農林水産本省、植物防疫所、動物検疫所、地方農政局、北海道農政事務所、森林管理局、漁業調整事務所等(以下、これらを合わせて「各機関」という。)を設置し、各機関において、食料の安定供給の確保、農林水産業の発展、農林漁業者の福祉の増進、農山漁村及び中山間地域等の振興、農業の多面にわたる機能の発揮、森林の保続培養及び森林生産力の増進並びに水産資源の適切な保存及び管理を図るための業務を行っている。
各機関では、所轄区域が県境を越えるなど広範囲であり、公用車を使用した方が効率的であるなどのため、職員等が、公用車を使用して、業務連絡、調査等により用務先に赴く際に、高速自動車国道等(注1)を利用するなどしている。
そして、各機関は、あらかじめETCカードを取得し、ETC車載器が取り付けられている公用車にETCカードを装着して高速自動車国道等を利用しており、毎月、ETCカードの発行会社からの請求書に基づき、高速自動車国道等の利用料金(以下「高速道路利用料」という。)を支払っており、支払額は、平成30年度2億3010万余円、令和元年度2億1747万余円、計4億4758万余円となっている。
そして、高速自動車国道等の利用に当たっては、各種の割引制度があるが、そのうちETCにより高速道路利用料を支払えば自動的に適用される割引(深夜割引、休日割引等)や、期間や地域が限定された割引を除き、広く適用できる主な割引制度としては、高速自動車国道等の大口・多頻度利用者を対象とした割引制度(以下「大口・多頻度割引制度」という。)及びETCカードで高速自動車国道等を利用するとポイントが付され、高速道路利用料の支払に還元できるサービス(以下「ETCマイレージサービス」という。)がある。
このうち、大口・多頻度割引制度は、東日本、中日本、西日本各高速道路株式会社(以下「3会社」という。)、本州四国連絡、首都、阪神各高速道路株式会社、名古屋、広島、福岡北九州各高速道路公社、愛知県、神戸市両道路公社が実施している制度で、3会社が発行するETCコーポレートカードの利用を承認された個人、法人及び事業協同組合が、3会社のいずれかに対してETCコーポレートカード1枚につき取扱手数料617円(年額。令和元年10月1日以降は629円)を支払い、コーポレート契約を締結することで割引の適用を受けることができる制度である。そして、大口・多頻度割引制度には、車両単位割引と契約単位割引の2種類の割引があり、このうち車両単位割引は契約者が使用する自動車1台ごとの1か月の高速道路利用料に応じて割引率を適用するものである(表1参照)。
表1 車両単位割引の割引率(3会社及び首都、阪神両高速道路株式会社の例)
車両1台ごとの1か月の高速道路利用料 | 割引率 |
|
---|---|---|
3会社 |
首都、阪神両高速道路株式会社 | |
5,000円を超え10,000円までの部分 | 10% (20%) | 10% |
10,000円を超え30,000円までの部分 | 20% (30%) | 15% |
30,000円を超える部分 | 30% (40%) | 20% |
一方、ETCマイレージサービスは、3会社、本州四国連絡、阪神両高速道路株式会社、名古屋、広島、福岡北九州各高速道路公社、宮城県、愛知県、神戸市各道路公社(阪神高速道路株式会社は、令和2年度をもってETCマイレージサービスを終了している。)が実施しているサービスで、マイレージ登録(登録料は無料)をすると、1か月の高速道路利用料に応じたポイントが加算され、貯まったポイントは交換単位に応じて還元額に交換の上、高速道路利用料の支払に利用することができるものである(表2参照)。そして、自動還元サービスにより5,000ポイント貯まると自動的に5,000円分に交換され、高速道路利用料に充当される。
表2 ポイントの付き方及び交換単位等(3会社の例)
ポイントの付き方 | ポイントの交換単位 | 還元率(注) |
---|---|---|
高速道路利用料10円につき1ポイント | 1,000ポイントにつき 500円分 3,000ポイントにつき2,500円分 5,000ポイントにつき5,000円分 |
4.76% 7.69% 9.09% |
また、大口・多頻度割引制度とETCマイレージサービスは重複して受けることはできないこととなっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
公用車の高速道路利用料は、毎年度多額に上っていることから、本院は、経済性等の観点から、公用車による高速自動車国道等の利用に当たって、高速道路利用料の割引制度のうち広く適用できる大口・多頻度割引制度やETCマイレージサービスを利用して高速道路利用料の節減が図られているかなどに着眼して、農林水産省全113機関が、平成30、令和元両年度に支払った前記の高速道路利用料4億4758万余円を対象に、農林水産本省、横浜、神戸両植物防疫所、近畿農政局、北海道農政事務所において、契約書、請求書、利用明細書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、108機関については、農林水産本省から関係書類及び調書の提出を受けて、その内容を確認するなどして検査した。
平成30、令和元両年度末において、農林水産省全113機関が所有する公用車延べ9,713台のうち、ETC車載器が装着されている公用車延べ5,743台について、広く適用できる大口・多頻度割引制度及びETCマイレージサービスの利用状況について確認したところ、次のように、大口・多頻度割引制度等を利用していなかった事態が見受けられた。
高速自動車国道等の利用に当たっては、前記のとおり、大口・多頻度割引制度又はETCマイレージサービスのいずれか一方を利用できるが、自動車1台当たりの高速道路利用料が多額となる場合は、大口・多頻度割引制度を利用した方が経済的となる。そして、自動車1台当たりの高速道路利用料が、月額13,800円(注2)(この場合の年額165,600円)の場合に、大口・多頻度割引制度を利用することによる割引率とETCマイレージサービスを利用することによる還元率がおおむね同じとなる。
前記延べ5,743台のうち、平成30年度の高速道路利用料がETCマイレージサービスを利用するより経済的となると思料される年額165,600円以上となっているなどの公用車(注3)について、大口・多頻度割引制度の利用状況についてみたところ、農林水産本省等12機関(注4)が保有する延べ232台は、3会社のいずれかとコーポレート契約を締結することによる大口・多頻度割引制度を利用していなかった。
前記延べ5,743台のうち、大口・多頻度割引制度の適用を受けておらず、30年度の高速道路利用料が大口・多頻度割引制度を利用するより経済的になると思料される年額165,600円未満となっているなどの公用車について、ETCマイレージサービスの利用状況についてみたところ、名古屋植物防疫所等10機関(注5)が保有する延べ474台(注6)は、30、令和元両年度の高速道路利用料の合計が自動還元サービスによる高速道路利用料の還元が生ずる55,000円を超えているのに、上記の10機関はETCマイレージサービスを利用していなかった。
このように、多額の高速道路利用料を支払っている農林水産本省等16機関(注7)の公用車について、利用実態を踏まえて、大口・多頻度割引制度等の割引制度を利用しておらず、高速道路利用料の節減が図られていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
大口・多頻度割引制度を利用していなかった農林水産本省等12機関が保有する公用車延べ232台の平成30、令和元両年度に支払った高速道路利用料計5193万余円について、平成30年度にコーポレート契約を締結して大口・多頻度割引制度を利用し、令和元年度も引き続き大口・多頻度割引制度を利用したとして、高速道路利用料を前記表1の割引率を乗ずるなどして試算(注8)したところ、高速道路利用料は計4705万余円となり、コーポレート契約に係る取扱手数料計14万余円を考慮したとしても、計473万余円節減できたと認められた。
また、ETCマイレージサービスを利用していなかった名古屋植物防疫所等10機関が保有する公用車延べ474台の平成30、令和元両年度に支払った高速道路利用料計2804万余円について、ETCマイレージポイントを算出し、それをポイントの交換単位に応じて還元したとして、高速道路利用料を前記表2の還元率を用いるなどして試算(注8)したところ、高速道路利用料は計2549万余円となり、計254万余円節減できたと認められた。
したがって、公用車による高速自動車国道等の利用に当たり、利用実態等を踏まえた大口・多頻度割引制度等を利用することとすれば、平成30、令和元両年度の公用車による高速道路利用料の支払額を合計728万余円節減できたと認められた。
このような事態が生じていたのは、農林水産本省等16機関において、高速道路利用料の割引制度を適切に利用することによる経費の節減を図ることについての認識が欠けていたことにより経済性についての検討が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、農林水産本省は、3年9月、各機関に対して事務連絡を発出して、公用車による高速自動車国道等の利用について、利用実態等を踏まえて、より経済的な割引制度を利用して、経費削減を徹底するよう周知するなどの処置を講じた。