林野庁は、「総合的なTPP関連政策大綱」(平成27年11月TPP総合対策本部決定)に即し、地域材の競争力強化に向け、生産性向上等の体質強化を図るための合板・製材工場等の整備とそれらに向けて原木を安定的に供給するための間伐材の生産及び路網整備等を一体的に推進するための取組を支援することを目的として、合板・製材生産性強化対策事業実施要綱(平成28年27林整計第236号農林水産事務次官依命通知)等に基づき、合板・製材生産性強化対策事業(以下「強化事業」という。)を実施している。そして、強化事業により間伐材の生産(以下「間伐材生産事業」という。)等を実施する事業主体を補助するために、平成27年度予算により公益社団法人国土緑化推進機構(以下「機構」という。)に対して国庫補助金を交付して基金を造成させるとともに、28年度予算により都道府県に対して交付金を交付(以下、これらを合わせて「国庫補助金等」という。)している。都道府県は、28年度から30年度まで、機構が上記の国庫補助金により造成した基金を用いて交付する補助金及び上記の交付金により、自らが事業主体として間伐材生産事業を実施したり、間伐材生産事業を実施する市町村、森林所有者、森林組合等の事業主体に対して補助金を交付したりしている(以下、事業主体が強化事業により実施する間伐材生産事業に対する補助金等を「強化補助金」という。図参照。)。
図 間伐材生産事業の概念図
合板・製材生産性強化対策事業実施要領(平成28年27林整計第237号林野庁長官通知。以下「実施要領」という。)等によれば、強化補助金の額は、都道府県知事が定める間伐材生産事業を実施するための定額の単価(以下「定額単価」という。)に間伐面積を乗ずるなどして算出した経費(以下「定額経費」という。)と事業の実行に要した経費を比較して、いずれか低い金額とすることとされている(計算式参照)。
(計算式)
上記のうち、定額単価については、次のとおりとなっている。
実施要領等によれば、定額単価は、都道府県知事が算定した標準単価(以下「標準単価」という。)に国費充当率(2分の1)を乗じて定めることなどとされており、国の助成額は、都道府県ごとの間伐材生産事業の実施面積に1ha当たり平均35万円(間接費相当分を除く。)を乗じた金額を上限とすることとされている。そして、標準単価は、森林環境保全整備事業実施要領(平成14年13林整整第885号林野庁長官通知)等に準じて、国が提示した選木、伐倒、造材及び集材の各作業工程により、間伐面積1ha当たりの伐採木の搬出材積(以下、標準単価の算定に用いられる間伐面積1ha当たりの伐採木の搬出材積を「標準搬出材積」という。)に応じて算定することなどとなっている。ただし、定額単価の設定に当たっての標準搬出材積の具体的な算定方法は、実施要領等に示されていない。
また、林野庁は、「総合的なTPP等関連政策大綱」(平成29年11月TPP等総合対策本部決定)に即し、強化事業を合板・製材・集成材生産性向上・品目転換促進対策事業等として引き続き実施しており、これらの事業においても、間伐材生産事業の概要は強化事業と同様となっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、強化事業における間伐材生産事業の実施に当たって、定額単価の設定の基となっている標準搬出材積が、事業の実態を反映した適切なものとなっているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、28年度から30年度までの間(機構が基金を用いて交付した補助金によるものは28、29両年度、林野庁が交付した交付金によるものは29、30両年度)に18道県(注1)の499事業主体(事業主体としての6道県を含む。)が強化事業により実施した間伐材生産事業1,441事業(間伐面積計29,511.8ha、事業費計121億1080万余円、定額経費計109億5709万余円、強化補助金交付額計100億8766万余円(国庫補助金等相当額同額))を対象として、林野庁及び18道県において、実績報告書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、間伐材生産事業の実施状況等に関する調書を徴するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
18道県における定額単価とその設定の際の標準搬出材積の算定方法についてみたところ、18道県のうち10道県(注2)は、近年の間伐における搬出材積の実績を把握する方法ではなく、各道県における森林状況に応じて、樹種、林齢、1ha当たりの平均成立本数、伐採率等の一定の諸条件による推計等から標準搬出材積を決定していた。そして、これら10道県のうち8道県は単一の標準搬出材積により定額単価を設定し、2県は搬出材積量によって区分した複数の標準搬出材積により定額単価を設定していて、10道県の標準搬出材積及び定額単価はそれぞれ10.0m3/ha以上20.0m3/ha未満から93.0m3/haまで及び86,537円/haから397,000円/haまでとなっていた。
一方、上記10道県の344事業主体が実施した間伐材生産事業における10道県ごとの事業全体の実際の間伐面積1ha当たりの伐採木の平均搬出材積(以下「実際搬出材積」という。)についてみると、表のとおり34.2m3/haから95.9m3/haまでとなっていて、3県は実際搬出材積が標準搬出材積を上回るなどしていたが、7道県(注3)は実際搬出材積が標準搬出材積を下回っていた。このうち、下回っていた7道県における実際搬出材積と標準搬出材積の差についてみると、17.2m3/haから41.7m3/haまでとなっていた。
表 実際搬出材積と標準搬出材積の比較
道県名 | 事業数 | 施行地数 | 間伐面積 (ha)a |
搬出材積(m3) b |
実際搬出材積 (m3/ha)A=b/a |
標準搬出材積 (m3/ha)B |
AがBを上回るなどしていた県
注(2) |
AがBを下回っていた道県 |
AがBを下回っていた道県における実際搬出材積と標準搬出材積の差 (m3/ha)B-A |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
北海道 | 337 | 2,719 | 9,614.6 | 328,869.5 | 34.2 | 71.8 | 〇 | 37.6 | |
岩手県 | 70 | 124 | 1,508.9 | 90,720.4 | 60.1 | 93.0 | 〇 | 32.9 | |
秋田県 | 54 | 1,018 | 3,657.3 | 222,744.7 | 60.9 | 80.0 | 〇 | 19.1 | |
茨城県 | 2 | 3 | 15.0 | 1,439.4 | 95.9 | 10.0以上20.0未満から40.0以上まで四つ | 〇 | ― | |
埼玉県 | 4 | 5 | 56.2 | 4,698.0 | 83.4 | 10.0以上20.0未満から80.0以上まで最大八つ | 〇 | ― | |
富山県 | 27 | 116 | 699.3 | 30,291.2 | 43.3 | 85.0 | 〇 | 41.7 | |
長野県 | 103 | 123 | 1,072.9 | 60,293.3 | 56.1 | 75.0 | 〇 | 18.9 | |
静岡県 | 436 | 436 | 2,591.7 | 187,102.1 | 72.1 | 60.0 | 〇 | ― | |
佐賀県 注(1) |
19 | 65 | 303.9 | 19,210.0 | 57.8 67.2 |
75.0 90.0 |
〇 | 17.2 22.8 |
|
熊本県 | 69 | 1,479 | 2,512.5 | 142,015.6 | 56.5 | 81.0 | 〇 | 24.5 | |
10道県計 | 1,121 | 6,088 | 22,032.8 | 1,087,384.5 | ― | ― | 3県 | 7道県 | ― |
そこで、実際搬出材積に基づくなどして10道県の定額単価を試算すると198,000円/haから353,675円/haまでとなる。そして、10道県の344事業主体(このうち実際搬出材積が標準搬出材積を下回っていた7道県に係る事業主体は267事業主体)が実施した1,121事業(間伐面積計22,032.8ha、事業費計86億3716万余円、定額経費計77億5723万余円、強化補助金交付額計72億2287万余円(国庫補助金等相当額同額))について、試算した上記の定額単価を適用するなどして定額経費を算出すると計64億8524万余円となる。さらに、試算した上記の定額経費と事業の実行に要した経費をそれぞれ比較して強化補助金の額を算出すると、実際搬出材積が標準搬出材積を上回るなどしていた3県における強化補助金の額を考慮しても、計63億4174万余円(国庫補助金等相当額同額)となり、上記の1,121事業に係る強化補助金交付額72億2287万余円との間に8億8112万余円(国庫補助金等相当額同額)の開差が生ずることになる。
このように、間伐材生産事業の実施に当たり、定額単価について、その設定の際の標準単価は標準搬出材積に応じて算定することなどとなっているのみで、標準搬出材積の具体的な算定方法が実施要領等に示されておらず、近年の間伐における搬出材積の実績を把握せずに標準搬出材積を決定していて、事業の実態を反映していない標準搬出材積により定額単価が設定されていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、林野庁において、間伐材生産事業の実施に当たり、都道府県に対して、搬出材積の実績を把握するなどして、事業の実態を反映した標準搬出材積により定額単価を設定させることについての検討が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、林野庁は、令和3年1月に実施要領を改正するなどして、間伐材生産事業の実施に当たり、搬出材積の実績を把握できるよう所定の様式を改正し、また、事業の実態を反映した標準搬出材積により定額単価を設定することについて明記するとともに、同年2月に都道府県に対して通知を発して、過去2年度分の平均及び前年度の実際搬出材積がいずれも定額単価の設定の際の標準搬出材積を一定以上下回っている場合には定額単価を見直すなど適時適切に対応することについて周知徹底を図る処置を講じた。