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  • 令和2年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(4) 競争力強化型機器等導入緊急対策事業の実施に当たり、事業主体等に対して漁業所得の金額の適切な算出方法等を指導したり、KPI 等を達成していない事業主体に対して達成に向けて必要な取組方針を実施状況報告書に記載させるなどしたりして、KPI 等の達成状況の把握やKPI の達成に向けた改善指導が適切に行われるよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)水産庁 (項)漁業経営安定対策費
部局等
水産庁
補助の根拠
予算補助
補助事業者
特定非営利活動法人水産業・漁村活性化推進機構
間接補助事業者
(事業主体)
1,041事業主体
補助事業
競争力強化型機器等導入緊急対策事業
補助事業の概要
将来の漁村地域を担う意欲ある漁業者がコスト競争に耐え得る操業体制を確立するための漁業用機器等の導入に要する経費に対して助成金を交付するもの
KPI等の達成状況が適切に把握されていなかったなどの事業主体数及び交付額(1)
577事業主体 21億9999万円(平成28年度~30年度)
実績年の漁業所得の金額がKPI等を下回っていたにもかかわらず、改善指導が適切に行われていなかった事業主体数及び交付額(2)
583事業主体 22億5976万円(平成28年度~30年度)
(1)及び(2)の純計
854事業主体 33億0971万円(背景金額)

1 事業の概要

(1)競争力強化型機器等導入緊急対策事業の概要

水産庁は、水産業の競争力強化を図ることなどを目的として、「水産関係民間団体事業実施要領」(平成10年10水漁第944号農林水産事務次官依命通知)等に基づき、特定非営利活動法人水産業・漁村活性化推進機構(以下「機構」という。)に対して基金を造成させるために漁業経営安定対策事業費補助金を交付している。そして、機構は、生産の効率化や漁船漁業の構造改革等に取り組むための「浜の活力再生広域プラン」等(以下「広域浜プラン」という。)に基づいて、競争力強化型機器等導入緊急対策事業(以下「機器等導入事業」という。)を実施する事業主体に対して、造成した基金を取り崩して競争力強化型機器等導入緊急対策事業費助成金(以下「助成金」という。)を交付している。

「水産関係民間団体事業実施要領の運用について」(平成22年21水港第2597号水産庁長官通知)、同通知に基づき機構が水産庁長官の承認を得て定めた「水産業競争力強化緊急事業業務要領」(平成28年3月施行)等(以下、これらを合わせて「運用通知等」という。)によれば、機器等導入事業の事業主体は、広域浜プラン等の実現のために競争力の強化に取り組む漁業を営む個人又は法人とされており、機構は、事業主体がコスト競争に耐え得る操業体制を確立するための漁船用エンジンその他の漁業用機器等の導入に要する経費のうち当該機器等の本体価格の2分の1以内の金額を助成することとされている。そして、助成の対象となる漁業用機器等は、事業開始年度を含め5年以内に漁業所得(個人経営の場合)又は償却前利益(法人経営の場合)(以下、これらを合わせて「漁業所得」という。)を10%以上向上する目標の達成に資するものとされている。

また、機構は、助成金の交付等の事業を円滑に実施するために必要がある場合には、助成金の交付等の事業の一部を第三者に委託して実施することができるとされており、水産庁長官と協議した上で、一般社団法人漁業経営安定化推進協会(以下「漁安協」という。)に助成金の交付等の事業を委託して実施している。

(2)実施計画の策定及びKPI等の達成状況等の報告

水産庁は、事業主体が5年以内に漁業所得を10%向上することを機器等導入事業における評価の指標(以下、指標となる漁業所得の金額を「KPI」という。)としている。

運用通知等によれば、事業主体は、機器事業実施計画(以下「実施計画」という。)を策定して機構の承認を受けることとされており、実施計画において、5年以内に漁業所得を10%以上向上する目標を定めることとされている。そして、機器等導入事業の開始前年等を基準年として、基準年の漁業所得の金額、事業開始年度から5年間の各年度(以下「実績年」という。)において目標とする漁業所得の金額(以下「年度目標」といい、KPI及び年度目標を合わせて「KPI等」という。)等を設定することとされている。

また、運用通知等によれば、事業主体は、機器等導入事業の実施後、KPI等の達成状況等について、毎年度、競争力強化型機器等導入緊急対策事業実施状況報告書(以下「実施状況報告書」という。)を機構に提出し、年度目標を達成していない場合には、その理由を記載することとされている。一方、事業開始年度を含めて5年以内のいずれかの年度において、KPI等を達成した場合でも、事業開始年度を含めて5年間は、毎年度、実施状況報告書を提出してその達成状況等を報告することとされている。

(3)機器等導入事業の実施に関する指導及び監督並びに改善指導

運用通知等によれば、水産庁長官は、機器等導入事業の実施に関して必要な指導及び監督を行うこととされている。

そして、機構は、前記のとおり毎年度提出される実施状況報告書におけるKPI等の達成状況を確認するとともに、KPI等の達成状況に応じて、事業主体に対する改善指導を行うこととされている。

また、機構が定めた前記の水産業競争力強化緊急事業業務要領によれば、広域水産業再生委員会(以下「広域再生委員会」という。)又は地域水産業再生委員会(以下「地域再生委員会」という。)は、機器等導入事業の実施に関して、事業主体に対する指導及び監督を行うこととされている。なお、広域再生委員会は都道府県、都道府県の漁業協同組合連合会、各地域の地域再生委員会の構成員等で構成されており、地域再生委員会は、各地域の市町村、漁業協同組合、漁業者等で構成されている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性、有効性等の観点から、基準年及び実績年の漁業所得の金額は適切に算出され、KPI等の達成状況は適切に把握されているか、KPI等の達成状況に応じた機構の事業主体に対する改善指導は適切に行われているかなどに着眼して、1,041事業主体が平成28年度から30年度までに実施した機器等導入事業(事業費計88億2126万余円、助成金計40億7577万余円(国庫補助金額同額。以下同じ。))を対象として検査を実施した。

検査に当たっては、水産庁、機構及び各事業主体において、実施計画、実施状況報告書等を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、各事業主体から資料の提出を受けてその内容を分析するなどの方法により検査した。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)KPI等の達成状況が適切に把握されていなかったなどの事態

基準年及び実績年の漁業所得の金額を確認したところ、1,041事業主体のうち577事業主体(事業費計47億6590万余円、助成金計21億9999万余円)について、次のアからウまでの事態が見受けられ、基準年又は実績年の漁業所得の金額が適切に算出されていないなどのため、機構においてKPI等の達成状況が適切に把握されていなかったり、適切に把握されているか確認できなかったりしていた。

  • ア 計算誤りなどにより、漁業所得の金額を誤って算出していたもの
    256事業主体(事業費計23億5975万余円、助成金計10億9085万余円)
  • イ 実績年の漁業所得の金額の算出に当たり、収入又は支出に計上する項目が基準年と異なっていて、基準年と同一の方法により算出していなかったため、基準年と実績年の漁業所得の金額を比較することができないもの
    229事業主体(事業費計16億3469万余円、助成金計7億5631万円)
  • ウ 事業主体が所属している漁業協同組合の職員が根拠資料の提出を受けることなく事業主体からの聞き取りにより算出した漁業所得の金額が報告されるなどしていたため、漁業所得の金額が適切に算出されているか確認できないもの
    212事業主体(事業費計15億8923万余円、助成金計7億3086万円)

そして、前記577事業主体のうち、漁業所得の金額を試算するために必要な所得税青色申告決算書等の書類が保存されていた494事業主体について、当該書類の収入及び支出の各項目の金額が漁業に係るもののみであると仮定して漁業所得の金額を試算した。その結果、試算することができた当該494事業主体に係る基準年及び実績年の漁業所得計898件のうち、実施状況報告書に記載されていた金額と試算額との開差が1割以上となったり、実施状況報告書において黒字とされていたものが試算結果では赤字となったりなどしたものが計662件(73.7%)見受けられた。

なお、上記の494事業主体に係る試算額によりKPIの達成状況をみたところ、KPIを達成したとされていた332事業主体に係る実績年の漁業所得計568件のうち、107事業主体に係る計127件についてはKPIが達成されていなかった。

イの事態について、事例を示すと次のとおりである。

事例

事業主体Aは、平成28年度に、生産性の向上を目的として、漁船用エンジンの導入を事業費225万余円、助成金104万余円で実施していた。

Aは、実施計画において基準年の漁業所得の金額を122万円、30年度の年度目標を131万円、上記の導入から5年目となる32年度の年度目標を137万円(基準年の漁業所得の金額の112.3%)と設定していた。そして、実施状況報告書により30年度の漁業所得の金額を219万円と報告しており、これによれば、上記30年度の年度目標及びKPI(135万円)は達成されたものとなっていた。

しかし、漁業所得の金額の算出方法を確認したところ、基準年においては所得税青色申告決算書の売上金額から経費及び経費以外の支出項目の金額を差し引いた金額を用いていたが、30年度(実績年)においては経費のみを差し引いた金額を用いていて、同一の方法により算出されていなかった。このため、基準年と実績年の漁業所得の金額を比較することができないものとなっていた。そして、基準年と同様の方法により試算すると、30年度の漁業所得の金額は119万円となり、基準年より減少していて、KPI等を達成していなかったことになる。

(2)実績年の漁業所得の金額がKPI等を下回っていたにもかかわらず、改善指導が適切に行われていなかった事態

機構による事業主体に対する改善指導の実施状況についてみたところ、1,041事業主体のうち583事業主体(事業費計48億9662万余円、助成金計22億5976万余円)では、30年度までに提出された実施状況報告書において実績年の漁業所得の金額がKPI及び年度目標をいずれも下回っていた年度が生じていた。これらのうち、303事業主体では、全ての実績年において漁業所得の金額がKPI及び年度目標をいずれも下回っていたが、機構は、これらの583事業主体に対して、KPIの達成に向けた取組方針を示させるなどしておらず、改善指導が適切に行われていなかった。このことについて、機構は、事業主体に対する改善指導は、助成金の交付等の事業を委託している漁安協から広域再生委員会等を通して行っているとしている。

しかし、上記改善指導の内容についてみると、実施状況報告書において実績年の漁業所得の金額が年度目標を下回っている場合に、事業主体にその理由及び現状を認識させるよう広域再生委員会等を通して指導していただけのものとなっていて、KPIの達成に向けた取組方針を示させるなどの具体的な改善指導は行われていなかった。また、水産庁においても、機構等に対して上記について指導等を行っていなかった。

(1)及び(2)の事態について、重複分を除くと、854事業主体(事業費計71億6531万余円、助成金計33億0971万余円)となる。

このように、機器等導入事業の実施に当たり、漁業所得の金額が適切に算出されていないなどのためKPI等の達成状況が適切に把握されていなかったなどの事態及びKPIの達成に向けた事業主体に対する改善指導が適切に行われていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、機構等において漁業所得の金額を適切に算出することなどの必要性に対する理解が十分でなかったこと、機構及び漁安協においてKPIの達成に向けて必要な改善指導を行うことの重要性に対する認識が欠けていたことなどにもよるが、水産庁において、次のことなどによると認められた。

ア KPI等の達成状況を把握するための漁業所得の金額の算出に当たっては、根拠資料に基づき、基準年と実績年とで同一の方法により算出し、その算出が適切であるかを確認するよう事業主体等を指導することについて、機構に対する指導が十分でなかったこと

イ KPIの達成に向けて必要な改善指導を行うことについて、機構に対する指導が十分でなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、水産庁は、KPI等の達成状況が適切に把握され、KPIの達成に向けた改善指導が適切に行われるよう、令和3年3月に、機構及び漁安協に対して事務連絡を発して、次のような処置を講じた。

ア 広域再生委員会及び地域再生委員会と連携・協力して、事業主体において、過年度事業を含めた全ての機器等導入事業について、基準年及び実績年の漁業所得の金額が適切に算出されているか確認し、適切に算出されていない場合には適切な金額に修正して機構へ報告させるよう指導した。

イ 漁業所得の金額の算出に当たっては、基準年と実績年とで同一の根拠資料に基づき、同一の方法により適切に算出するとともに、その算出が適切であるかを確認することを事業主体、広域再生委員会及び地域再生委員会に対して指導するよう指導した。

ウ 広域再生委員会及び地域再生委員会と連携・協力して、KPI等を達成していない事業主体に対して、達成していない理由等に加え、KPIの達成に向けて必要な取組方針を実施状況報告書に記載させ、その内容についての指導や取組状況の確認を行うなどして、適切な改善指導を行うよう指導した。